Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「うん、分かった……大丈夫? なんか様子が……そう?」
王者の資格―――ジュウオウチェンジャー。
通話機能を有するそれを開いて耳に当て、困惑しながら声を漏らす。
それを横目に見ながら、オルガマリーは信号に従って車を発進させた。
アムというレーダーを乗せて適当に回っていたのだ。
その内街中で爆発が起き、感知するまでもなく場所は分かったが。
通話を終えた彼女に問いかける。
「どうだったの?」
「……バングレイ、っていうデスガリアンとは違う宇宙人の仕業だって」
「また増えたの……」
溜め息を噛み殺して、苦い顔を浮かべる。
運転中でなければ天井を見上げていただろう。
敵性がまた増えたと言うなら、情報の共有も密にしておかねば。
とりあえず天を仰ぐのは後回し。
浮かない顔をしているアムに、続けて質問を飛ばす。
「それで?」
「―――なんか大和くん、様子がおかしかったなって」
どこか心配そうに、彼女はそう言って視線を伏せた。
ジュウオウチェンジャーを折り畳む。
バングレイが荒らした場所からは離れ、既に近場のベンチまで移動している。
タケルとソウゴは対面に座っていて―――
そうして横に視線を送れば、確かに母の顔がある。
目を向けられ、彼女は困ったように微笑んだ。
「その人、大和先生のお母さんなの?」
通話が終わるのを待っていたのか、ソウゴに問われる。
「そんなはず……」
横にいる女性から視線を逸らして、小さな声で否定する。
母は亡くなった。とっくの昔に。
あんな場所から出てくる筈がないのだ。
だというのに、彼女はやはり困ったように微笑んだ。
「大和のお友達?
先生、ってことはもしかして……大和も医者に―――」
「そんなわけないだろ!!」
ベンチから思い切り立ち上がり、母の言葉を否定する。
目の前で二人が驚いたように目を見開いていた。
けれど、それを気にする余裕もなくて。
死んだ母が目の前にいることも。
自分が医者になる、だなんて思われたことも。
全部がありえなくて、声を振り絞っていた。
「っ、……母さんは死んだんだ。こんなとこにいるわけない……!
俺はもう、二度と母さんには会えないんだ……!」
タケルとソウゴが顔を見合わせてから、女性を見る。
死人、と言われてもあまりにも普通の人間に見えた。
声を震わせている彼に対し、大和の母―――風切和歌子が、大和の手を握る。
「―――――」
「そんなことはないのよ。言ったでしょう?
この星の生き物は全部繋がってる……私と大和も、ずっと繋がってたのよ。
二度と会えないだなんて―――そんなこと言わないで?」
握られた手を振り払おうとして、しかしそれが出来ずに大和が歯を食い縛る。
いつか失った母の温もりが、確かにそこにある気がして。
「……まさかあのバングレイって奴が、死んだ人間を生き返らせた……?」
眼魂を揃えた時に願いを叶えてくれる、大いなる存在のように。
そうして考え込むように、タケルが俯く。
宇宙にはそんなことを可能にする未知の存在がいてもおかしくない。
確かに彼らの目の前に、大和の母だという女性はいる。
それを見ながら、ソウゴが僅かに目を細めた。
PCとテレビでそれぞれ状況を確認しつつ、シブヤとナリタが首を傾げる。
連絡を受け、バングレイとかいうのが次に出る場所を捜索しているのだ。
それだけではなく、姿を消したアランの事も。
「手が足りないからさ、手伝ってくれない?」
ナリタがそう言うも、部屋の隅で体育座りしている操は動かない。
隣で待機しているジャベルもそうだろう。
やれやれ、と。溜め息を吐きつつ彼は作業に戻った。
「こういう時にさ、あのディープ・コネクト社の何たら、って新ネットワークがあったら違うもんなのかなぁ」
バングレイの出現位置をいち早く察知する手段。
それは何ら特別なものではなく、それらしい情報をSNSから引っ張り出すこと。
そんな作業もなく、すぐに情報の共有ができれば。
そう愚痴るように呟いた彼に、シブヤが眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ないものねだりしても仕方ないじゃないですか」
「そりゃその通りだけどさー」
ぶつぶつ言いながら目を皿にしていた彼ら。
―――そんな中で、テレビの画面が緊急速報に切り替わった。
『番組の途中ですが、緊急速報です』
お決まりの文句から始まったニュース。
それに対して二人揃って顔を向ける。
映し出される画面は、空中。
―――空中に浮かぶ、巨大なサーカスのテントのようなものであった。
見た限り、そのテントの全高は20メートル近いのではないか。
そんなものが空中に浮いている事に唖然とする。
その光景を見て、デスガリアンか、いやバングレイか、と。
皆に連絡を取ろうとして、それ以前に窓の外に気づく。
今、正に、この街の上に。
あの空中テントは存在していたのだ。
「多分、みんなもう気付いてるよな……」
「そりゃあれなら……」
空中にある巨大テント。
となれば恐らく最終的には巨大戦になるだろう。
ジュウオウジャーたちによる、ワイルドジュウオウキングの決戦。
二人揃って隅の操を見る。
ちょっと立て直したかと思えば、また折れてしまった彼。
彼もまた、ザワールドとして持っていたキューブアニマルを有している。
可能ならば協力して欲しいのだが―――
操はぼんやりとしたままテレビの速報を眺めている。
共闘自体彼の意思に任せる、という方針だ。
シブヤとナリタも戦ってくれとは言えない。
そうして悩んでいるうちに、テレビにノイズが走った。
途切れるように消えるニュースの画面。
代わりにそこへ浮かぶのは、ドアップにされた青い怪物の顔。
『ごきげんよう、下等生物の皆様! 私の名前はドミドル!
この宇宙大大大大大サーカスの団長をしています!!』
「え?」
映像をジャックし、姿を現すのはドミドルと名乗った怪物。
青い怪物というのは共通しているが、バングレイとは違うようだ。
シブヤとナリタは顔を見合わせ、すぐに他のメンバーに連絡を取ろうとする。
『この度、私はこの宇宙に大大大大大空中ブランコを造るつもりでして!
ブランコの軌道上にあるこの星に、立ち退きを要求しにきたのです!』
「何だ、こいつ……星の立ち退きって何する気だよ」
余りのスケールに何の実感もなく、呆然と呟くナリタ。
そんな彼の疑問に答えるように、画面の中のドミドルは指を立てた。
ちょいちょいとその指先で示すのは、彼の足元。
『私の宇宙船、フライングテント号にはですね。
星一つ丸ごと木端微塵に出来る兵器が搭載されているのです!
おっと、ご安心ください。そうするにはまだまだエネルギーが足りません!
その動力源はな・な・な・なんと!
皆様方、下等生物の“悲しみ”の感情なのでぇーすッ!!』
大仰な手ぶりでそう宣言し、くるりと回るドミドル。
彼はそのまま自分を映しているカメラらしきものに手をかける。
そうしてぐるりと。
180°方向を変え、反対側を映し始めた。
「あ、れって……!」
映し出されるのは檻だ。
巨大な檻の中に、人が無数に閉じ込められている。
パッと見て感じる違和感、その正体にはすぐ気づく。
横並びの身長の低さからして、入れられているのは全て子供だ。
それが見えた直後、回転しながらドミドルが画面内に再び入ってきた。
『つい先程、この星のご同業―――サーカス一座を発見致しました!
なんと見事な公演! なんと素晴らしきサーカスの魅力!
なのでその場から全ての子供をこうして集めさせて頂きました!
何故か? それは子供こそ、より強い感情を抽出できる存在だからなのです!』
ドミドルがそのまま檻に近づき、鉄格子を殴り飛ばす。
多くの子供がそれに悲鳴を上げて、檻の中で泣き始めた。
『というわけで。
先程までこの星のサーカスを楽しんでいた子供たちに、今からは私のサーカスを味わっていただきます! この辺り一面を焼け野原に変え、それを見た子供が生み出す悲しみのエネルギーを回収! それをもってこの星は大大大大大爆発! 子供たちは私のサーカスの入場料代わりに、死ぬまで雑用として使って差し上げますのでご安心あれ!』
響く泣き声。
それを聞いていた彼が、何度か頷くように首を縦に振る。
数秒の間そのままにして、突然振るわれる鞭。
盛大な破裂音を立てて床を弾く鞭に、恐怖で喉を引き攣らせる子供たち。
『開幕を祝する下等生物によるファンファーレはここまで!
では、ここからは私のサーカスを始めるとしましょう!』
テレビに映っていたドミドルが消える。
戻ってくるのは、放送事故用の“しばらくお待ちください”なんて画面。
―――窓の外に見えるテント号が動き出す。
各所が発光して、今にも光線でも放ちそうな―――
「ど、どうするんだよあれ……!」
「どうするって……まずは子供たちを助けないと……!」
携帯電話を持ちながら、二人が顔を引き攣らせる。
今にも破壊行為を働きそうな敵宇宙船。
だというのに、あの中には捕まった子供たちが乗っているという。
下手にこちらから攻撃することもできないのだ。
二人揃って電話をかけつつ、後ろを振り向く。
こうなっては気を使っている場合じゃない。
どう考えたって、トウサイジュウオーは必要になるはずだ。
そう思って振り向いた二人の視線の先、そこには既に操の姿はなかった。
『そんでどうするの?』
『どうするも何も、助けに行くべきだろ』
『お前なんかが役に立つのかぁ?』
走る背中にかけられる、三人のジューマンの声。
なぜ走り出したのか。
それはきっとテレビに映った画面に子供がいたから。
―――より正確に言うならば、ジューマンの子供がいたから。
鳥のジューマンだったように見えた、その子供。
彼は―――彼女かもしれないが―――人間の子供と一緒に震えていた。
その目的は、彼らを悲しませてエネルギーを得るためだという。
自分と一緒に捕まって、力を奪われたジューマンと重ねているのだろうか。
多分そうだろう。だから反射的に、操は走り出していたのだ。
「そうだ……俺なんかが役に立つかどうかなんて、分からない。
もしかしたら、俺のせいで足を引っ張ってしまうかも……」
『引っ張るだろうなぁ』
『実際いまんとこ、かなり迷惑かけてるよな』
走り出した足が、背中からの声で少しずつ減速していく。
ここで止まるから自分は駄目なんだ、と分かっていても。
足がとんでもなく重くなり。
ゆるゆると足取りが遅くなっていく。
「やっぱり……俺に、戦う資格なんて……」
『資格がないから戦わないのか?』
ついに止まった操の前に、犀男が歩み出してくる。
彼は操の懐に手を入れると、ザライトを引っ張り出した。
―――ザライト。
ジニスが作りだした、犀、狼、鰐のジューマンパワーを使うためのアイテム。
ジュウオウジャーの王者の資格のデータから再現した、疑似王者の資格。
それを彼の前に突きつけて、問いかける言葉。
狼男が操の左肩に手を乗せて、呆れたように口にする。
『どうせ俺たちの力を使うためのこれも、偽王者の資格だし。
お前に資格なんて、最初からなんにもないんだよ』
「…………俺は…………」
『けど、言ってたじゃん? 生きるのに資格なんて要らないって。
じゃあ生きるために戦う事にも、誰かが生きることを守るために戦う事にも。
資格なんて要らないんじゃない?』
鰐男が右肩に手を乗せる。
正面に立った犀男が、二人にそれぞれチラリと視線を送りつつ。
ずい、と。手にしたザライトを操に向かって突き出した。
『俺たちはお前の妄想だから。
お前がこんなこと言わせるってことは、もう答えなんて決まってるだろ。
お前が感じている本当の心の声、そろそろちゃんと聞こえるんじゃないか?』
―――止まっていた操が手を伸ばす。
伸ばした手が、犀男の手からザライトを受け取った。
その瞬間、消えている三人の影。
ザライトを握り締めながら、操が空を仰ぐ。
空に座すフライングテント号。
その中には、多くの子供とそれに混じったジューマンがいる。
それを利用して、多くの人間を殺そうとしている怪物がいる。
「俺は……! 俺は――――ッ!!」
〈ザワールド!〉
ザライトの底面を掌で叩き、キューブを回す。
そのまま振り上げた左脚の膝に叩き付け、思い切り天に掲げた。
「本能覚醒―――ッ!!」
〈ウォーウォー! ライノス!〉
操の体が変わっていく。
纏うスーツは黒、金、銀のトリコロール。
犀の角を生やした黒いマスクで顔を覆い、全身にジューマンパワーを漲らせる。
そうして彼は、即座にザライトを再び二度叩いた。
〈ジャンボ!〉
〈キューブライノス!〉
〈キューブクロコダイル!〉
〈キューブウルフ!〉
「来い、キューブライノス! キューブクロコダイル! キューブウルフ!」
掲げたザライトに反応し、大地を震撼させる巨体が姿を現す。
黒い車体が障害を粉砕しつつザワールドの元へ駆けつけた。
〈9! 7! 8!〉
〈トウサイジュウオー!〉
『完成! トウサイジュウオー!!』
空を行くテントに対し、巨体が立ちはだかる。
ライノス、クロコダイル、ウルフ。
三体のジュウオウキューブが合体した存在。
ワイルドジュウオウキングをも凌駕する戦闘能力を有する、黒い巨神。
「あれは、ザワールドの……!」
―――仮に彼女が本当に生き返った母だったとして。
そればかりに構って、あの侵略者を見過ごせるわけがない。
キューブアニマルを解放しようとしていた大和が動きを止める。
声からしても、あれは間違いなくザワールド―――操だ。
だがそのまま戦闘を行うわけにはいかない。
あの中にはまだ子供たちが捕まっているのだ。
まずはどにかして、時間を稼がなければ―――
『おい、サーカス野郎! お前はサーカスをすると言ったな!』
トウサイジュウオーが腕を上げる。
クロコダイルの腕を向けられ、テント号からドミドルが反応を示した。
『ええ、それが何か?』
『だったら俺と勝負だ! お前のサーカスと、俺が―――いつか友達が出来た時用に、その友達を飽きさせないように密かに猛練習していた一発芸! どちらが面白いかをな!!』
「え」
一体何を、と言いたくなるような勝負を自信満々に持ちかける操。
それを地上から見ていた大和が、思わず声を漏らした。
一瞬黙ったドミドルがしかし。
見世物勝負と言われては黙ってられないのか、すぐに言い返してくる。
『いいでしょう! 私のサーカスに及ぶとはまぁったく思いませんが?
挑戦されたからには、正面から粉砕してさしあげましょう!』
『よし、行くぞトウサイジュウオー! 俺たちが見せるのは―――ダンスだ!!』
自信に満ち溢れた操の声。
それに応えるように、構えに入るトウサイジュウオー。
―――だがそこで停止して、何故か動き出さない。
そのままの姿勢で、一転して絶望的な声を吐き出す操。
『し、しまった……音源を用意していなかった……!
やっぱり俺は何も出来ない……こんな俺に、戦う資格なんて……』
「ああ……」
今の声で完全に体育座りに入ったと分かった。
それどころか、トウサイジュウオーまでもが体育座りを始める。
そんな様子を前にして、すぐにタケルが動き出した。
「ベートーベン……!」
今のセリフからして、足りないのは音楽なのだろう。
それを理解して、ゴーストが黒いトランジェントに白いパーカーを纏う。
姿を現すのはゴースト・ベートーベン魂。
彼が幽霊そのままにふわりと浮かび上がった。
全力で飛んで、コックピットに滑り込むゴースト。
彼が見つけるのは、操縦席で体育座りしているザワールド。
『俺はなんて駄目な奴なんだ……せっかく皆の助けになれると……』
『ねえ! ちょっと!? なんて曲!? 曲名!』
肩に手をかけ引っ張って、強引にこちらを振り向かせる。
そこまでされてやっと、ちらりとタケルを見た操。
彼の口がぽつりと、練習していた楽曲の名前を呟いた。
『【レッツ!ジュウオウダンス】……』
それを聞き出し、すぐさまスマホを取り出すタケル。
『ええと……あった!』
検索して出てくる楽曲を見て、バサリと鍵盤のようなパーカーを翻す。
演奏するべき譜面を理解し、指揮棒を揮うように指先を走らせた。
―――奏でられ始めるメロディー。
当然、それは操が聞き慣れたものに相違なくて―――
『おお……おおお……! ありがとう! これで見せてやれる!
これが! もし友達が出来た時のために、俺が磨き上げてきたダンスだ!
行くぞ、トウサイジュウオー!!』
演奏者を隣に置いたまま、ザワールドはステアリングを握る。
立ち上がるトウサイジュウオー。
その黒い巨体が、リズムに乗って動き出した。
唖然としながらそれを見上げつつ―――
しかし、操のお陰で逆転の手段が現れた。
見世物勝負からはけして逃げる気はないのだろう。
ドミドルは破壊を始めることなく、確かに船の動きを止めていた。
忍び込み、子供を助けるのであれば今しかない。
「―――ソウゴくん、飛べる俺たちで忍び込もう!」
「分かった」
ジュウオウキューブでの接近ではすぐに気づかれるだろう。
ならば、騎乗せずに飛行できる彼らの出番だ。
あとはフーディーニを持つマコトが―――
「おっと、その前にもっかいこっちと遊んでくれよ」
剣が地面を抉る破砕音。
すぐさま振り向けば、そこには青い怪物―――バングレイ。
彼は楽しげに笑いながら、その場に立っていた。
「バングレイ……!?」
「逃げたんじゃないの?」
和歌子を自分の背後に庇う大和。
そうしながら変身準備を整える二人に、バングレイが微かに笑う。
「まぁな、さっさと目的に戻ろうかと思ったんだが……
あのサーカス野郎が地球ごと壊すっていうじゃねえか。
困るんだよなぁ、巨獣ちゃんを狩るまではこの星壊されちゃ」
「だったら、いま俺たちの足止めする理由なくない?」
「ああ、まったくねえな。
……けどまぁ、さっきやられた分はキッチリ返しとかなきゃな。
さっきも話してたが、繋がりが大事なんだろ?」
ソウゴの問いを肯定しつつ、しかし一切退く気は見せない。
それどころか、先程までの大和と和歌子を見ていたかのように彼は語る。
「サーカス野郎の話、聞いてたか? ガキどもがいなきゃ、地球は壊せないんだとよ。
つまり、あいつらを皆殺しにすりゃこの星は守れるってこった。
地球が壊されそうになったら、俺の船でガキども吹っ飛ばしてやるぜ。
――――こんな風にな!!」
―――空に姿を現す青い船。バングレイの愛船、ヤバングレイト号。
それに搭載された砲門が一斉に、テント号とトウサイジュウオーを向いた。
走る火線が両機に直撃し、滝のような火花を散らした。
ダンスをしていたトウサイジュウオーが転倒。
テント号もまた大きく揺れ、傾いた。
「操くん!? ―――バングレイ、お前ッ!!」
「ヒャハハハハッ! 潜入しっぱぁーい!
どうなるかねぇ、ガキどもが無事で済めばいいなぁ!!」
おかしそうに腹を抱えて笑うバングレイ。
けたけたと笑っていた彼が、不自然なほどいきなり停止。
そのまま六つの目を大和が庇う、彼の母親に向けた。
「さぁーて。んじゃあ、次はその女をお前の目の前で消してやるよ。
どうする? こうなったらガキもすぐに助けに行かなきゃ危ねぇよなぁ? けど俺みたいなバリ危険なヤツの前に、せっかく生き返った大事なママを放っていけるかねぇ?」
嗤笑混じりの言葉。
それに対して、母親を庇いながら大和が強く歯を食い縛る。
「ふざけるな……ッ!」
「生き物は全部繋がってる、ずっと繋がってる、だろ?
ほらほら、頑張らねえとお前の言う繋がりが今にも切れちまうぞ!」
両手を掲げて、空にあるテント号を示すバングレイ。
揺すられたその巨体が体勢を立て直しつつある。
そうなれば最早攻撃したバングレイの船だけではない。
無差別に街が破壊され始めるだろう。
「―――上には俺が行く!」
「させねぇよ! そっちの赤い鳥野郎の次はテメェで遊ぶんだからなァ!」
ウォッチを構えるソウゴに、バングレイが腹の砲口を向ける。
青く輝いたそこから、光が砲弾となってソウゴに向け発射され―――
「させねぇってのはこっちのセリフだ!!」
〈ジュウオウスラッシュ!〉
―――る、その前に。
四本爪の獣が、バングレイを強襲した。
彼の背後から叩き付けらる四色の刃が、その足に蹈鞴を踏ませる。
「チィ……ッ!?」
〈アーマータイム! 3! 2! 1! フォーゼ!〉
更にその横合いから突っ込んでくる白いロケット。
バランスを崩した状態でそれに轢かれ、バングレイは吹き飛ばされる。
白いロケットが分解し、ジオウの各部に合体。
両腕で掴んだブースターモジュール。
その噴射口から炎が噴いて、彼を一気に空へ運んでいく。
起き上がりつつそれを見上げ、舌打ちするバングレイ。
彼が下で戦う以上、細かい操舵が出来ないヤバングレイトは撤退だ。
流石に不意打ちでもなければ戦えない。
となれば、あっちを止める手段はないだろう。
鼻を鳴らして、合流して五人になった連中の方を見る。
「大丈夫か、大和!」
「ああ……!」
「あんたね! バングレイって奴は!」
仲間が集まり、大和もまた王者の資格を手にする。
彼は一歩前に踏み出しながら、視線を後ろに庇った母に向けた。
「母さんは下がってて」
「大和……」
心配そうに彼を見つめる女性。
それを母さん、と呼んだ大和に驚愕を見せる四人。
女性と大和の間を行き来する視線。
「え! 大和くんのお母さん!?」
「初めて見んぞ?」
「―――バングレイ……!
お前にこれ以上好き勝手はさせない! 本能覚醒!!」
だが大和はただバングレイを見据え、赤い翼を纏う。
驚いていた四人も、今はそれどころではない、と。
すぐにイーグルに並び、ジュウオウバスターを構え直した。
左腕のフックで肩を掻きながら、バングレイが微かに笑う。
和歌子に向けた視線を大和に戻し、彼もまた剣を構え直してみせる。
「これ以上好き勝手させない、ね。ま、精々足掻いてみるんだな」
「んん~ッ! 私のサーカスを邪魔しようとは、どこの誰ですか!
……まあ、いいでしょう。目的は果たせそうですし」
大きく地団駄を踏み、しかしすぐに牢屋の方へ視線を向ける。
その中で大きく揺れたテント号に恐怖し、泣き喚く子供たちがいた。
大爆音、そして振動。
そう続けざまにこの船が揺れれば、嫌でも死の恐怖は覚えるだろう。
目の前で街を壊すのに比べれば溜まりが遅い。
が、悲しみのパワー回収が始まっているので問題はない。
「あらら、残念。あなたたち、見捨てられてしまったのかも?
私と一緒に殺されてしまうのかも!
お父さんもお母さんも、もうあなたたちなんて要らないのかも!?」
一際声が大きくなる。
悲しみの力の回収は更に加速し、十分もあればこの星にはサヨナラできそうだ。
機嫌を直して、攻撃してきた船の方を確認する。
どうやら撃ってきた船は早々に撤退した様子であった。
更にその船が現れた付近の地上では、何者かが戦闘を行っている。
「はて……どこかで見たような?」
青い怪物の方には、どこか見覚えがある。
確か―――巨獣ハンター・バングレイ。
捕まえてサーカス用の猛獣にしようとした巨獣が、既に彼に狩られてた。
というケースを何度か経験したことがあったはずだ。
それを思い出して、微妙に顔を歪めるドミドル。
「ま、奴も地球ごと……いえ、奴がいるということはもしかして……
サーカスの大大大大大目玉に出来そうな、巨獣がいるということなのでは……?」
そうなってくると、少し迷う。
大大大大大空中ブランコに邪魔なこの星は消去決定。
だが巨獣を確保してからでもいいかもしれない。
問題はバングレイと違い、ドミドルには巨獣の情報がないことだ。
仮に捕まえるとするならば、まずはバングレイをどうにかせねばなるまい。
いや。バングレイが巨獣を捕まえてから、それを奪うという方法も―――
そうして悩んでいた彼の目前で、テント号の壁が弾け飛んだ。
「む……?」
〈デッドゴー! 激怒! ギ・リ・ギ・リ! ゴースト!〉
燃える銀の翼を背に、深淵からの使者が怒りと共に訪れる。
銀色の戦士は崩れていく外壁を更に微塵に砕きながら、中へと踏み込んできた。
はぁ、と軽く溜め息を吐くドミドル。
どうやら悩みすぎて、敵の存在から目を放しすぎたらしい。
だがすぐさま彼は凶悪な笑顔を浮かべ、スペクターに向き直る。
「これはこれは! 宇宙大大大大大サーカスへようこそ!
ですがお客様。我が一座の見世物は、これから外で上がる下等生物の悲鳴でございます!
ここにいても面白いものは見れませんよ?」
「黙れ―――!」
ディープスペクターが加速した。
銀の炎を噴き上げ舞って、彼は深淵の炎を纏う拳を振り上げる。
ドミドルが即座に愛鞭、シルクドウィップを振るう。
電撃を纏って走る鞭は稲妻そのもの。
それが空翔けるスペクターを打ち落とさんと唸りを上げ―――
当然のように、手刀がそれを切り払う。
視認などできるはずもなかろう鞭の撓りを、スペクターは完璧に迎撃した。
その上で更に加速する銀色の戦士。
「なんと!?」
「オォオオオオ―――ッ!!」
反応が遅れ、そのまま拳がドミドルに炸裂する。
おおよそ拳での殴打によって発生するとは思えない重い轟音。
余裕をもって下等生物を嘲弄するつもりでいた。
が、突き抜けていく衝撃は体を尋常ではなく軋ませる。
「ぐ、え……ッ!?」
「ハァア―――ッ!!」
足が浮いた相手に対し、更なる追撃の拳。
頭を横から殴りつける拳に、命の危機すら予感する。
まさかのまさかだ。こんな星に、これほどの存在がいるなどと。
それを理解したことで、ドミドルは素直に考えを改めた。
手首をスナップさせ、鞭を操る。
蛇のようにのたうち跳ね回るそれを、スペクターは容易に潜り抜け―――
「!?」
バァン、と。
鉄格子を打ち付けた鞭が、雷電で弾けた。
爆発したように撒き散らされる火花。
同じくらい盛大に、中にいる子供たちの悲鳴が爆発する。
スペクターが握っていた拳を開き、鞭を捕まえるために手を伸ばす。
避けることは出来る。打ち払うことも出来る。
だが自在に伸長し、周囲を叩き続ける鞭を制することはそう簡単には叶わない。
「せっかくここまでご来場されたお客様!
もてなさねば宇宙大大大大大サーカスの名が廃るというもの!
さささ、どうか存分に最高のショーをお楽しみあれ―――っ!」
「貴様……ッ!」
スペクターの手を潜り抜け、鞭が何度となく牢屋を揺する。
その腕前こそが、子供たちを直接狙う事だって出来るという宣言に等しい。
だというのに狙わない意図は明白だ。
ここで怒りのままに拳を振るえば、子供を殺すと言っている。
引き戻されるシルクドウィップ。
それがディープスペクターを大きく打ち据えた。
銀色のトランジェントの上を弾ける雷電。
全身を襲う連撃、炸裂する衝撃に、マコトが片膝を落として歯を食い縛る。
「ぐ……っ!?」
「捕まった子供たちを助けに、颯爽と現れたヒーロー!
だが悲しいかな、彼はその子供たちを人質に取られてしまった!
憐れなことに、子供たちの目の前で命を落とすことになるのです!」
備え付けられたエネルギーゲージを見つつ、鞭を操る手に淀みはなく。
わざわざ大仰に宣言してやれば、子供たちはある程度状況を理解する。
目の前でやられているのが、自分たちを助けにきたものなのだと。
だが、彼は膝を落として成すがまま鞭に打たれている。
絶望の分だけ、悲しみの感情の蒐集は加速していく。
もう2、3分もこうして鞭を振っていればエネルギーは臨界だろう。
あとは折角の巨獣をどうするか、だが―――
ディープスペクターが遂に膝だけでなく手まで床に落とす。
それでも倒れ切ることはせず、四つん這いになった彼。
だからと言って、ドミドルの鞭捌きは緩まない。
「―――例え……!」
「ん?」
そうして俯いている彼が、全身から火花を散らしながら口を開く。
「例えここで俺が命を落とすことになったとしても……
その子供たちの命は、俺が必ず未来に繋いでみせる……!」
「―――――」
少しイラっと。
ドミドルの振るう鞭が加速し、ディープスペクターへの攻撃が激化する。
雷電を受けて痺れる四肢からは、少しずつ力が抜けていく。
これならエネルギーがちょうど溜まる頃に、始末できるのではないだろうか。
だが、
「―――少し気が変わりました!
あなたより先に、2、3人くらいは子供を始末してあげましょう!
せっかく自分から私の船に乗り込んできてくれたお客様!
冥土の土産に、守れなかった子供の断末魔を聞かせてから逝かせてあげますよ!!」
ぐるり、と。鞭の先端が弧を描いて牢屋の中に向かう。
誰でもいい、と考えながらしかし。
明らかに目立つ奴が一人だけいたので、そいつを選んで鞭を向かわせる。
「ひ……っ!」
その子供は人間ではなかった。
コンドルの頭を持った、人間とは別種の生物。
彼はその種族特有の圧倒的な認識能力で、自分に鞭が向かってくることを理解した。
回避できるわけがない。
視えるからと言って、反応できるというわけではない。
咄嗟に彼を庇おうと、懐から飛び立つ彼の友―――キューブコンドル。
だが明らかにその動きは遅い。
本来のそれとはかけ離れたノロマさ。
サーカス団長であり猛獣使いであるドミドルの鞭。
それは動物種に対して、強烈な行動強制能力を有している。
あるいは、持ち主が王者の資格に選ばれた戦士だったならば、キューブコンドルもその強制力を完全に跳ねのけることもできたかもしれない。
だが、現実としてそうではなく。しかし友人を守るために、必死に動かない体で飛び出したその紫色の翼。
その有様をドミドルは嘲笑し―――
「―――言い直してやる。この子達の命は、俺たちが、絶対に未来に繋ぐ―――!」
「―――――!?」
マコトが震える体で確かに、強くそう宣告する。
―――次の瞬間。
ディープスペクターが開いた大穴から、高速で釣り糸が飛び込んでくる。
ドミドルの操る鞭に伍するしなやかなうねり。
変幻自在の鞭にぴたりと合わせ、強引に絡み付いていくその釣り糸。
鞭を捕まえた瞬間、それは一気に巻き取られ始めた。
「チィ……重っ!?」
鞭と、恐らく釣り竿での綱引き。
その姿勢に入った瞬間、有り得ない荷重にドミドルが鞭を両腕で抱えた。
そんな状態でなお、釣り糸はギリギリと音を立て、しかしどんどん巻き取られていく。
圧倒的なパワー。
ドミドルを凌駕する純粋な膂力。
それは鞭を封じるに留まらず、彼を壁面の方まで一気に引き寄せていく。
「待ってろ、いま助ける……ッ!」
相手が動けなくなった瞬間、スペクターが震えながら立ち上がる。
無防備にどれだけ殴打されたか。
軋む体をおして、死に物狂いで牢屋に向かって進みだす。
ドミドルが未だに溜まっていないエネルギーゲージを見て一つ舌打ち。
だがもうすぐチャージ完了。あと一押しさえすれば―――
「仕方ありません、こうなれば!」
明らかに負けている力比べ。その起点である鞭を放り捨てる。
思い切り引っ張られ、外に消えていく鞭と釣り糸。
次の瞬間には、ドミドルの手の中には無数の短剣が握られていた。
鉄格子の隙間を通して子供を串刺しにするなどわけもない。
半分も殺せば、残りの半分の子供の悲しみでエネルギーが追加され満タンだ。
巨獣は惜しいが、この状況で拘っても仕方ない。
エネルギーチャージが完了した瞬間、地球にはなくなってもらおう。
「ッ……!」
何十、何百と打ち据えられたばかりのスペクターは動きが遅い。
多少は防げても、全部防ぐなど不可能。
下手に広範囲の攻撃をしようとすれば、子供を巻き込む可能性もある。
そう考えながら放つ短剣の雨。
最早結果は決まった、と。
主砲起動のため、エネルギーゲージを眺める。
子供たちを守るために走り出すディープスペクター。
そうして、これからどうなるかも分かっていない子供たち。
一人その攻撃を視認できても何もできないコンドルのジューマン。
多少調子を取り戻そうが、まだまだ動きが鈍いジュウオウキューブ。
「イッツ―――ショータイム!!」
一秒先、子供たちが死ぬことで地球を消す兵器が起動する。
その事実に吊り上がるドミドルの凶悪な口端。
彼はとても喜ばしい、と両腕を大きく広げて目の前の光景に哄笑し―――
―――その結末を迎える十分の一秒前。
爆音と共に突っ込んでくる白いロケットから切り離されたかのように。
牢屋の前に黒・金・銀のトリコロールが着弾した。
短剣の雨は銀狼の感覚を抜けることなどできず。
振るわれる金鰐の尾の暴風の前には力を失い。
そして僅かに撃ち漏らした数本も、黒犀の皮膚に傷をつけることは不可能で。
「なんと――――っ!?」
―――そこに。
トウサイジュウオーから飛び出し、ジオウに掴まりここまで来た。
門藤操―――ザワールドが立ちはだかった。
その犀のマスクの下で息をこれでもかと荒げ。
体を震わせながらも、彼は確かにそこに立つ。
「俺は、俺の罪を背負って戦う……! もう屈したりしない……!
俺が奪ってしまったものを、もう二度と理不尽に奪わせないために……!」
子供たちが閉じ込められた牢屋の前。
現れたのは、全身から満ち溢れるジューマンパワーの戦士。
そこには確かに、彼らを救ったヒーローの背中があった。
コンドルのジューマンの子供が、その光景に思わず呟く。
話には聞いていた、ジューマンの中に現れたという伝説の戦士の名を。
「ジュウオウジャー……?」
「―――――」
背中にかけられた声に、ザワールドが肩を揺らす。
迸るジューマンパワーは、きっとその証明に違いない。
だからこそ少年はそのまま、彼に対して歓声を上げる。
「ジュウオウジャーだ……ジュウオウジャーが助けてくれた!」
少年の声を皮切りに、牢屋の中の子供たちがその背を見上げる。
その多くの目が見上げるのは、黒と金と銀の背中。
子供たちが、今までニュースの中でしか知らなかった存在。
デスガリアンという異形の侵略者から、今まで彼らを守ってくれていたヒーロー。
「ジュウオウジャー……?」
「ジュウオウジャー!」
絶望から掬い上げられた、子供たちの希望の声が背中にぶつかる。
そのまま背中を打たれた衝撃で、前のめりに倒れて転がってしまいたい。
ザワールドとはそんな存在ではなく、むしろデスガリアンと同一の―――
―――背中を。
声だけでなく、手で叩かれる感触が伝わってくる。
幻で、妄想だ。
彼がそうあって欲しいと願い、創り出した虚像に過ぎない。
ごつごつとした三つの手に叩かれ、押し出される。
―――そうだとも。
彼らは妄想で、幻想で、門藤操が勝手に生み出した存在だ。
門藤操がこうであって欲しい、と思った心の声がカタチになったものだ。
だから、その三つの手が押し出してくれると言うのなら。
「もう……あんな想いは誰にもさせたくない! 玩具みたいに弄ばれて死ぬ命を、絶対に見逃したくない! 犀のジューマン……! 鰐のジューマン……! 狼のジューマン……! お前たちを犠牲にして生き延びてしまった俺だけど……! もう二度と、お前たちのような犠牲者を出さないため、お前たちの力と一緒に、俺を戦わせてくれ!!」
ザワールドの中から力が吹き荒れた。
彼の中に宿った三つのジューマンパワーが嵐を起こす。
力を込めて顔を上げ、正面に立つドミドルを睨み付ける。
「――――今日から、俺は……!!」
トリコロールの体を覆うほど吹き荒れる砂塵。
その中で金の腕と銀の腕が、大きくぐるりと円を描く。
手で示したその円こそがこの星を示し、それを掌中で包み込むように拳を握る。
この罪を贖うために。もう二度とこんな悲劇が繰り返されないように。
―――世界を丸ごと守り抜くために。
「世界の王者! ジュウオウザワールド――――ッ!!」
六人目の地球の戦士が、そこで初めて咆哮した。
コンドルワイルドは流石に出番なし。