Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「―――――」
受けた傷は間違いなく致命傷。
自分がもはや助からないことは理解していた。
だからこそ彼は、息子に戦友の遺品を託したのだ。
いつの日か、息子が自分を超えて英雄たちの心を繋いでくれると信じて。
自分を助けるため、息子は駆け出して行った。
あの子が誰かを伴って戻ってきたとしても―――
その頃には恐らく、自分は既に息絶えているだろう。
けれど既に言うべきことは全て伝えてある。
今生の別れの言葉は、既に送ってある。
だからこそ、彼は薄れる意識の中でゆっくりと目を瞑り―――
「―――そんな貴様に良い報せと、悪い報せがある」
紫衣を翻し、そんな言葉と共にその男は現れた。
彼の手の中には、黒いストップウォッチのようなものがある。
それを手の中で遊びつつ、見下ろす視線。
「まずは良い報せだ、天空寺龍よ。
これを使い、アナザーゴーストになれば……お前は生き返ることができる」
「―――断る。貴様のような邪悪な者に従い、永らえる心算はない」
断言する。
この霞んだ眼であっても、目の前に立つ相手が邪悪な念の持ち主だと察したが故に。
そんな態度を突き付けられて、しかし男は楽しげに笑ってみせた。
「ふ、ふははははははは!
即答とはな。初対面で邪悪とは随分と言ってくれるものだが、まあいい。
では貴様の心変わりを願い、悪い報せも見せてやろう」
男―――スウォルツが腕を上げる。
その瞬間、彼と龍が纏めて光の球体に包まれた。
流星のように舞い上がる紫色の光の球体が移動し始める。
それが高速で飛翔して、洞窟の外の高台まで彼らを運んだ。
瀕死の体を地面に転がされ、龍が痛みに小さく呻いた。
咳き込みながら彼は薄く目を開き、遠くに見える光景に息を呑む。
白い眼魔が、タケルを蹴り飛ばす瞬間を見た。
彼が送り出した息子は、倒れ伏して痙攣している。
そんなタケルに対し、白い眼魔は無慈悲に腕を突き出す。
掌に集う光に、人間の命を奪う威力があることなど言うまでもない。
「さて……俺も貴様ほどの相手となれば、その意見に耳を傾ける事も吝かではない。
どうする? ここで自分も死に息子もまた見捨てるか。あるいはアナザーゴーストとなり、命を永らえ息子の運命を変えるか……もちろん貴様の存在は、俺の邪悪なる目的に使わせてもらう。
拒否してもらっても一向に構わんぞ?」
差し迫った息子への命の危機。
それを笑いながら見ている男の、邪悪な誘い。
死にかけた体で拳を握り、天空寺龍は声を震わせながら答えを返した。
「ッく、の……!」
「足掻くねぇ、だが逃がさねえ。
連中がお前を見捨てて攻撃を始めるまでは、しっかり生きててもらわねえとな」
より確実に拘束しつつ、バングレイは立香の顔を覗く。
立香の視線の先には、倒れ伏すマコトとアラン。
そして再び攻撃の予兆を見せるガンマイザー。
このままではタケルだけではなく、あの二人までもが―――
「俺のせいだ……また俺のせいで……!」
その戦場を両面見ながら、ふらつくジュウオウザワールド。
それを後ろから押さえつけ、ザワールドが再び地面に叩き付ける。
「みっちゃん!」
踏み付けられた操に大和は視線を向け―――
その瞬間、バングレイが僅かに腕を動かした。
動くな、ではない。
お前が動いたことが切っ掛けで一人死ぬぞ、というメッセージだ。
「ッ……!」
「―――大和、キューブモグラがすぐ下まで届いた」
そんな彼の後ろから、小声で。
地面の掘削音を聞き分けていたセラが、そう呟く。
後は彼に巨大化してもらい、バングレイに隙を作るだけ。
隙を作った瞬間、イーグルと武蔵で立香を奪い返す。
そうしてそのままイーグルは離脱し、ザワールドの方へと回る。
操の調子が戻れば、本当はバングレイとでも正面からやりあえるはずなのだ。
武蔵とダ・ヴィンチちゃんがバングレイの相手。
マシュ含め他の皆にはガンマイザーへの抑えに回ってもらい、こっちを四人でひっくり返す。
そのためのタイミングを計る。
だがマコトたちの方にもう一切の猶予がない。
待っていられる時間は数秒が精々だ。
だからこそもうすぐに決行する覚悟で腰を沈め―――
「……絶体絶命の割に、何か逆転の作戦がありますって雰囲気出すじゃん?
なんかバリ怖~! んじゃまあ、もう一人追加行っとく?」
残りたった数秒の猶予。
それをただ見過ごせば、更に二人三人と仲間が死ぬ。
だというのに、現状への焦りが小さい。
そう判断したバングレイが、すぐにその右腕を立香の頭に押し付けた。
バングレイのその所作が何を示すかなど、分かり切っている。
「やべぇ! 今すぐだ!」
レオが即座に走り出す。
その声に従い、キューブモグラが巨大化して頭を出した。
ドリルが地上を粉砕して出てくる、が。
それから大きく跳び退り、バングレイは嘲笑する。
「テメェらと俺で、どっちが裏をかくのが上手いかなんて比べるべくもねえ!
いい子ちゃんらしい素直な作戦で嫌いじゃねえぜ?
そういう作戦を、俺のやり方で踏み躙るところまで含めてなァッ!!」
「そんなっ……! どうすれば―――!?」
まず立香を奪い返せなければ、大前提すらクリアできない。
その焦燥を楽しみながら、バングレイが流れてくる立香の記憶を読み解く。
流れてくる立香の記憶の中から、面白そうなものを―――
「ああ?」
大きなバックステップから着地をしつつ。
彼は立香の頭に手を添えたまま、困惑の色を浮かべた。
流れてこない。彼女の記憶が。
本来ならば読み取った記憶が映像のようにバングレイの思考に流れてくるはず。
そしてそこから何を再生するか選べるというのに。
今回ばかりは何も読み取れず―――
「―――牢獄から抜けたと思えば人質か。
余程囚われの身に縁があるのか」
「……あ?」
―――
いつの間に? 何処から?
バングレイがその疑問を口にする前に、彼の背後で黒き炎が膨れ上がった。
向けられた疑問を察したかのように、返答と共に送られる哄笑。
「クハハハハ! 我こそは恩讐の彼方より来るもの。
貴様が何処ぞの誰かの記憶から再現した、地獄の残り火!」
瞬間、バングレイの目前に黒いコートの男が炎と共に現れる。
その姿が目の前に現れて、彼自身も理解する。
どうやってかこれは―――自身の能力を利用して立香の中から表に出てきた怪人だと。
「チィ……ッ! んなことが出来るとはな!」
頭を潰さない程度の力で、立香にゆるりとかけられたバングレイの腕。
頭を掴む右腕、首を絞める左腕。
突然現れることで虚を突き、そこに力を籠めることを許さない。
黒い炎が腕を伸ばし、一気呵成にバングレイの両腕を引き剥がす。
拘束が解かれた瞬間、軽く蹴り飛ばされて立香は宙を舞った。
すぐさま受け止めに滑り込む武蔵。
「立香!」
「エド、モン……!?」
受け止められた彼女が咳き込みながら、目前のアヴェンジャーに視線を送る。
その視線を背中で受け止めて、エドモンは恩讐の炎を更に滾らせた。
「その女が辿るのは、この身を焦がす復讐の勝敗も懸けた旅路だ。
こうして―――亡霊が迷い出ることもあるだろうさ!」
「ハッ……! 迷い出たってなら道案内してやるよ、テメェの古巣……地獄まで直行でな!」
バングレイの腹部が発光し、そこから砲弾を解き放った。
掴んでいた腕を放し、彼は距離を開けつつ燃える拳で砲弾を迎撃する。
目の前で繰り広げられる砲弾と拳の激突。
激突の度に爆発し、青と黒の光を撒き散らす攻防。
そこからすぐに視線を逸らし、立香はすぐに叫んでいた。
「ッ、マシュ……ッ!」
「――――っ、はい!」
マシュが即座に反応し、走り出そうとする。
向かう先は当然、ガンマイザーの前。
―――だがもはや遅い。
既に攻撃態勢にあるガンマイザーの前に割り込む暇はない。
それが分かっていても。だが何もせずなんて、と。
そうして拳を握り締めた立香が、目を見開いた。
「エドモン、向こうへ!! 武蔵はこっちで!」
「了解……ッ!」
「――――フン。仕方あるまい、
立香を手放し、体勢を立て直した武蔵の前でエドモンが消える。
未だに吐き出され続ける弾幕。
それを撃ち落とすのは、ダ・ヴィンチちゃんの放つ光線の雨。
「なるほどね、組み込んでおいて正解だったわけか……!」
片目を瞑り、砲撃の迎撃に全力を傾けるダ・ヴィンチちゃん。
光の雨と爆発を擦り抜けながら、武蔵が双剣と共に疾駆した。
「好きだねぇ、悪足掻き!」
「言ってろ、外道―――!」
その次の瞬間。
そこからは離れたもう一つの戦場。
ガンマイザーを前に倒れ伏すマコトとアランの前に、黒い炎が噴き上がる。
空間にさえ囚われぬ復讐者は、距離を無視して瞬時にその場に現れた。
だが敵が増えた、などと考えるまでもない。
ガンマイザー14基による攻撃は滞りなく放たれる。
エドモン・ダンテスとはいえ、エドモン・ダンテスだからこそ。
同じ方法で、誰かと一緒にその場から離脱するようなことはできない。
故に彼はこの攻撃からマコトとアランを守る方法など持ち合わせておらず―――
立香が魔力を回す。
励起した礼装が、組み込まれた術式を実行する。
立香と繋がったサーヴァントは此処に二騎。
ならば、この機能を使うための条件は揃っている。
「――――オーダーチェンジ!!」
エドモンが居た場所に、ラウンドシールドが突き立つ。
マシュが駆けていた位置に、黒い炎が噴き上がる。
二騎のサーヴァントの座標置換は正しく実行された。
彼女は守るべき者たちの前。侵略者たちの前へと運ばれた。
それを理解して立てられた盾が、満ちる魔力に激しくスパークする。
「顕現せよ―――! “
白亜の城塞が聳え立ち、全てのガンマイザーが放つ衝撃を受け止める。
雪崩れ込む力の渦を、その場で塞き止める無敵の壁。
その強度に対して、ガンマイザーの思考が回る。
動くのはタイムウィンド。
強度を無視し、発動前に戻さんとタイムの力を発揮せんとし―――
動きを止めたその瞬間、背後から黒炎を纏う拳が突き立てられた。
「チィ、硬いな―――」
体を砕きつつも、拳のみでは完全に粉砕するには至らず。
タイムウィンドに突き刺さったエドモンの拳が、途中で止まった。
二基の融合ガンマイザーは先にそちらを処分するために力を行使しようとする。
―――だがその前に。恩讐の炎が内部から焼き尽くす。
爆発するように内部から溢れ出す黒い炎。
それに焼かれて、タイムウィンドが崩れ落ちた。
「本能覚醒―――ッ!!」
「野性解放―――ッ!!」
ゴリラが拳を、エレファントが足を。
それぞれ地面に叩き付けて、そこから溢れ出すエネルギーをバングレイに差し向ける。
キューブモグラが穴を開けた地盤が、それが原因で一気に崩れ出す。
退いた自分を追うように広がってくる地割れ。
一つ舌打ちした彼が、その範囲から出るように更に大きく後ろに跳ぶ。
「まさかあそこから持ち直されるとはなぁ!
ハハ、次からは記憶を読み取るにも気をつける事にするぜ!」
剣を握り直したバングレイが首を捻り、立香へと視線を送る。
まさかその能力に干渉されるなどとは、一切考えていなかった。
なるほど、注意と警戒が足りなかったということだろう。
「ただ悲しい事にもうとっくに、ひとり犠牲になっちまってるんだけど。
あぁーあぁ……そうなる前にこう出来りゃ良かったなぁ?」
担いだ刃で肩を叩き、笑いながら視線を巡らせるバングレイ。
自身に相対するのはゴリラ、エレファント、武蔵、ダ・ヴィンチちゃん。
ザワールドの方にはシャーク、ライオン、タイガーが回った。
ジュウオウザワールドの弱点は分かり易かった。
自分の記憶をぶつけてやれば、いとも簡単に崩れてくれる。
だが他の三人と共闘となれば流石に持ち直されるか。
とはいえ、簡単には攻略できないだろう。
もう少しでも時間を稼いでくれるなら、まあ問題ない。
非戦闘員たちは全員がマシュの方へと駆けていった。
戦闘不能に追い詰められたマコト、アラン。
ガンマイザーを14体足止めした状態で彼らを助けるならそうなるだろう。
戦闘が出来るものを浮かせる余裕はない。
彼らを助けるだけなら、いるだけの非戦闘員が引っ張ってくるのが一番いい。
まあ結果は変わらないだろう。
どう見たってガンマイザー相手に磨り潰されるのは時間の問題だ。
エドモンが粉砕したタイムウィンドもまた復活した。
分身、瞬間移動とひたすらガンマイザーを翻弄するエドモン。
だがもう彼一人では大した事はできまい。
マシュの盾の突破を遅らせる時間稼ぎが精々だ。
「……まだよ」
ガンマイザーの戦線に辿り着き、キャメロットの城壁に守られながら。
アカリはマコトとアランの目の前に落ちた眼魂の欠片を拾う。
砕け散ったオレゴースト眼魂、その破片。
「アカリ殿……?」
「マコトや、アランみたいに……タケルもどっかに体があるのかもしれない……!
その端末であるこの眼魂が壊れて、ただ、ここから消えてしまっただけかも……!
この眼魂を解析すれば、きっとタケルの本当の居場所が……わかる、かも……!」
破片を握り締め、声を震わせる。
タケルが助かる、生きている見込みはないかもしれない。
けれど彼が最初に眼魔に殺された時、その体は消えてしまった。
眼魂の仕様を知った今、もしかしたらそうかもしれないとは思える。
エドモンが舞い、ガンマイザーの注意を引き付け。
更にマシュの盾によって一応の身の安全が保障されているだけ。
そんな場合でしかないのだから、すぐに二人を連れて下がるべき。
そんなこと、分かり切っているのに。
だがこれを放置して下がる事は、できなかった。
アランが這いつくばりながら手を伸ばし、同じように眼魂の欠片を一つ手にした。
「―――可能性はある。だからこそ、私たちはこんなところで死ねない……!
繋いでいくんだ、命を……心を! そのために……死ねない……!」
「アラン様……はい。
―――きっと、タケルくんだって同じ想いのはずです!」
カノンもまた一つ、その眼魂の欠片を握る。
マコトの肩に手をかけていたナリタとシブヤも、落ちている欠片に手を伸ばした。
「タケルはこんな事くらいじゃ負けない!
俺がそう信じてる限り、タケルの負けなんかじゃないっての!」
「信じてます。僕は、僕たちはタケルさんを!」
二人の間から伸ばしたマコトの手もまた。
タケルの眼魂の欠片を手に取り、強く握りしめる。
「いま、此処にある想いを……未来に繋ぐ!
そのために俺たちはタケルと共に戦ってきた……!
それは、これからだって同じことだ―――!!」
転がっていた最後の欠片を、御成が拾い上げる。
それをぎゅうと握り締め、彼は涙ぐんだ目を袖で拭って声を上げた。
「そのためにこそ、我ら……命、燃やしますぞォ――――ッ!!」
ふと気付いた瞬間、かつての記憶の中にいた。
『俺の、昔の記憶……?』
白い眼魔が腕を上げ、今にも子供の頃の自分を殺そうとしている。
それを見ていると、白い眼魔の傍の時空に歪みが現れた。
―――父だ。
天空寺龍は、微笑みさえしながらこの場に現れた。
時空の歪みを超えてきた彼は、ウルティマの放つ光の前に立ちはだかる。
生身の人間に耐えられる筈のない力の奔流。
その直中に飛び込みながら、彼は印を結んだ手を突き出した。
「破ァ―――ッ!!」
「なに……ッ、貴様、何故ここに……!?」
霊力が壁となり、ウルティマの放つ暗い光を押し返す。
自身の放った攻撃が逆流し、自らを傷つけていく。
ウルティマ自身の攻撃を跳ね返され、白い体がダメージを負ったように焼け付いた。
その状況に舌打ちして、眼魔が忌々しげに一歩だけ後退する。
―――子を守り、命を懸ける父親。
説明されずともその二人の関係を理解したのであろう。
眼魔が苛立たしげに、地面を踏み荒らす。
が、すぐに思い直したように彼は鼻を鳴らした。
割り込んできた親は、最早どう見ても致命傷なのだ。
あと数分と保たず、屍を晒すことだろう。
ガンマホールを開き、彼は踵を返す。
割り込んできた父親。
あの男は何度となく、眼魔による人間界への侵攻を邪魔してきた相手だ。
奴をこの場で仕留められたのは、嬉しい誤算とさえ言える。
超人的な戦闘力を持つ彼がいなくなった以上、もう眼魔の侵攻は止められない。
いずれ奴が命を懸けて救った子供も、眼魔世界のための資源として活用されることだろう。
その事実に暗く笑い、無駄死にする龍に背を向けて彼は眼魔世界に帰還した。
『父さん……』
眼魔が消えるのを見届けた龍が、膝を落とす。
彼はそのまま必死に倒れ伏したタケルに近づいていく。
その腕でゆっくりと意識を失った子を、強く抱きしめた。
倒れながらもタケルは、必死に自分が渡したムサシの刀の鍔を握っていた。
その事実に小さく微笑み―――
龍もまた、その手の中にムサシの刀の鍔を取り出した。
タケルが手にしていた刀の鍔が光になって消えていく。
代わりに龍はその手に持っていたものを握らせた。
小さな手に握らせた鍔を、彼は手の上から強く握りしめる。
「タケル……私は信じている。
お前の中にある―――無限の可能性を……」
徐々にその力が抜けていく。
ゆっくりと息子を横たえた男は、そのまま自分も倒れ込んだ。
それに合わせて、光景が変わっていく。
父の最期の場所が消えて、周囲の風景は白く染まった。
立ち尽くすタケルが、ゆっくりと振り向く。
―――そこに立つのは、アナザーゴースト。
いつか、同じように死の淵に立った時。
父はタケルに力を与えに来てくれた。
闘魂ブースト眼魂は、そうして手に入れた力だった。
アナザーゴーストは静かにタケルを見ている。
『……父さん、俺……』
何も言わずに佇むその姿に声をかけようとして、気付く。
どこからのものか分からない。どうやって届いているのか―――
しかし確かに、彼の耳に届くのは仲間の声。
『聞こえる……みんなの声。みんなが、俺を呼んでる』
その声の方へと進もうとして、しかしもう一度足を止める。
再び向き合うのは、アナザーゴースト。
やはり微動だにせず静かにタケルを見つめるその幽鬼。
それと向き合ったタケルが、小さく笑う。
『……ありがとう、父さん。やっぱり、父さんは俺の一番の英雄だ。
いつだって父さんが、俺の命を繋いでくれた……』
アナザーゴーストは答えない。
ただ虚のような目で、ただ彼を見守っていた。
『俺も……誰かの命を繋ぎたい。今まで俺を支えてくれたたくさんの想いを、未来に届けたい。
俺に無限の可能性があるとするなら、それはきっと……俺を信じてくれた多くの人の想いが、俺の中に創り出してくれたものだから』
白い世界が薄れていく。
アナザーゴーストの姿が薄れていき、変わりに聞こえてくる皆の声が近くなる。
『―――だから、行くよ。みんなのところに』
やがて世界が全て薄れて消えて、彼の意識は現世に覚醒した。
握っていた眼魂の欠片が熱を帯び、飛び立っていく。
驚く皆の前で、集まっていくオレゴースト眼魂の破片。
それが確かな姿を取り戻し―――光と共に、タケルが帰還した。
「タ、タケル殿……?」
「タケル――――!」
かけられた皆からの声。
それに振り向き、彼は少しだけ嬉しそうに。
しかし困ったように、微笑んだ。
「―――みんなの声、俺に届いてた。心配かけちゃってごめん」
「……すみませんっ、先に撤退を……! もう……長くは……!」
そんな彼らの前で、マシュが歯を食い縛りながら声を上げる。
ガンマイザーの攻勢は緩まない。
グラビティの影響に囚われず、マグネティックに捕まらず。
黒炎を光線のように撃ち放ちながら巡るエドモン。
しかしダメージなど受けたところで大したことはない、と。
ガンマイザーの攻撃は更なる加速をしていく。
「チィ……ッ!」
クライメットの放つ弾丸を潜り抜ける復讐者。
その目の前に再びタイムウィンドが立ちはだかる。
手にしたガンマイザー・アローにより張られる弾幕。
それを黒い炎で相殺しながら、彼は少しずつ後退を余儀なくされていく。
残るガンマイザーは全てマシュの盾に攻撃を加え続ける。
プラネットオシレーションが揺るがす大地。
それを城壁で無理矢理に押し留めながら、彼女は力を注ぎ続けた。
「ごめんっ……! すぐに下がるから!」
アカリがそう言って、アランに手を貸す。
そうして下がろうとする皆の前で、タケルがゆっくりと目を瞑った。
彼の胸の中に灯る、一つの光。
―――それが飛び出して、カタチを成していく。
「タケル……?」
「大丈夫、俺も戦える。生きるために、守るために。
俺が信じる俺の無限の可能性は、きっと―――そのためにあるものだから!」
光に手を伸ばしたタケルがそれを掴み取る。
―――∞という形状の造形が、眼魂の上から伸びている新たな眼魂。
彼はそれを掴み取ると同時、リベレイターを押し込み起動した。
そのままゴーストドライバーへと装填し、カバーを閉じる。
〈ムゲンシンカ!! アーイ!〉
ドライバーから放たれる純白のパーカーゴースト。
それが周囲を飛び回る中で、タケルの手が印を切る。
〈バッチリミナァー! バッチリミナァーッ!〉
「変身―――ッ!!」
そうして、彼の手がドライバーのトリガーを引く。
瞬間、虹色の光に包まれたタケルの姿が変わっていく。
身を包むトランジェントの色は白銀。
煌めく全身の各所に“∞”の文字が刻まれた、ゴーストの新たな姿。
〈チョーカイガン! ムゲン!!〉
その上に、純白のパーカーが舞い降りる。
飛行する軌跡に光を羽と変えて散らしながら、ムゲンパーカーがゴーストを覆った。
纏うは光のような純白の衣。
膝まで覆うその長い裾を揺らしながら、トランジェントの頭部に顔が浮かぶ。
頭部の上半分を覆う、半透明のフェイスシールド。虹色に染まった角。
―――そして黒くなった顔面に、オレンジに輝く瞳が強く輝いた。
〈キープ・オン・ゴーイング! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴッドゴースト!!〉
―――光が羽となり、周囲に撒き散らされる。
彼は―――仮面ライダーゴースト・ムゲン魂は。
全身を輝かせながら、頭に乗ったフードを取り払った。
「新しい、ゴースト……」
それを前にして、ガンマイザーが一瞬止まる。
羽として撒き散らされるエネルギーの数値を計測し、一気に警戒レベルを上昇。
エドモンを見ていたガンマイザーたちさえ、意識をそちらの方に戻す。
『新たな脅威対象を確認、優先排除対象として設定―――』
そう発音したのは、エレクトリックリキッド。
彼はスピアーを持ち直して更に攻撃を加速させようとして―――
その瞬間、弾け飛んだ。
驚愕というより、観測できなかった異常事態への混乱。
情報収集が開始される。
ボディが弾け飛んだ直後に液体化した彼は、飛沫になりながら事態の正確な情報を求めた。
その結果、自分の目の前に見つけるゴーストの姿。
事態の把握さえできれば、何の事は無い。
ワープしてきて、攻撃された。それにはガンマイザーを一撃で倒せる威力がある。
それで終わるなら、ガンマイザーにとって何の脅威でもない。
プラネットオシレーションがハンマーを振り上げる。
大地を震動させる魔人による破壊の鉄槌。
破壊力だけ見るのであれば、恐らくガンマイザー屈指の組み合わせ。
ゴーストはそれを叩き付けられ―――
ハンマーを掴み取り、そのまま柄をへし折っていた。
動揺に似た動きの停滞は一瞬。
折られたハンマーはその場でプレート形態に一度戻って更新され、再びハンマーへ。
〈イノチダイカイガン!! イサマシュート!!〉
その瞬間には既に、ゴーストの両腕には武器が握られている。
ガンモードのガンガンセイバー、そしてブラスターモードのサングラスラッシャー。
ガンガンセイバーから放たれる極光弾。
それが目の前にいたハンマー、そしてプラネットオシレーションを消し飛ばす。
「みんながここまで来てくれた。その勇気が俺に声を届けてくれた」
出現するガンマイザーのプレート三枚。
それは即座に再び戦闘形態に変貌しようとして―――
サングラスラッシャーが解き放つ光線。
螺旋を描きながら突き進む光の渦が、プレートまでをも粉砕してみせた。
不死身のガンマイザー。
その本体であるプレートが、完全に機能を止めて崩れていく。
目の前にした現象に対し、ガンマイザーたちが一瞬止まった。
『―――プラネット、オシレーション、ハンマー。完全に機能を停止。
対象の脅威度を即時変更。最優先排除対象と認定。
全ガンマイザーによって、天空寺タケルを……!?』
真っ先に動き出し、指令を出すクライメット。
その目前にムゲン魂が、光の粒子と変わってワープすることで現れる。
すぐさまタイムウィンドがゴーストを対象として行動した。
変身した、という事実さえ巻き戻すために。
アローを手放し、両腕を掲げたタイムウィンド。
―――その頭部に、投げ放たれたサングラスラッシャーが突き刺さる。
頭部が砕け、ぐらりと空中でよろめくガンマイザー。
〈イノチダイカイガン!! シンネンインパクト!!〉
タイムウィンドの行動を補助するため動こうとするクライメット。
その胸を、剣を投げ放った流れで動かす拳でついでのように一撃で粉砕。
大きくよろめき怯んだクライメットを、軽く蹴り飛ばす。
そうした処理を行いつつ、手には既にライフルモードのガンガンセイバー。
渦巻くエネルギーを銃身に溜め、頭部を修復しているタイムウィンドに向き直る。
タイムウィンドが回避に移る暇もなく、トリガーは引き絞られた。
爆発するようなマズルフラッシュ。
そこから奔る光線は、過たずその胴体を撃ち貫き胴を丸々吹き飛ばした。
ガンマイザーの残骸が空中で四肢散開し、バラバラに落ちてくる。
その崩れていく体の代わりに現れるプレートは、しかし再生できずに崩壊を始めた。
「俺たちの信じる想いは、こんなところで終われないって―――」
更に二基のガンマイザーを破壊したゴーストが銃身を下ろす。
顔を向けられたクライメットが、砕かれた胸の修復を開始した。
簡単に傷は直っていく。
数秒待たず、クライメットの状態は最善の状態にまで回帰する。
『―――ウィンド、タイム……機能、停止』
そうだというのに、クライメットは呟くように声を出す。
何故わざわざ声を小さくするような真似をするのか。
それさえガンマイザーの意識は理解できないまま、彼は怯えるように一歩後退った。
立香専用セコム。
33話でムゲン登場。
そのための話数。あとそのための拳?