Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
荒々しく床を踏み鳴らし立ち止まる。
そのままアデルは、頭上に浮かぶ7枚にまで減少したプレートを見上げた。
「眼魂を手に入れ、脅威を排除する。
そう言ってこの祈りの間から出ていき―――その結果がこれか!」
苛立たしげに床を蹴りつけ、ガンマイザーを睨む。
対し、彼らはプレートを床に下ろして人型へと姿を変えた。
アデルと同じ顔が七つ、アデルの前に立ちはだかる。
『―――天空寺タケルの脅威度を誤認。彼は眼魔世界に対する、最大の脅威です。
全ガンマイザーは、方法を問わず天空寺タケルの排除を提案します』
「排除? こうしておめおめと逃げ帰ってきた奴がどうやって?
……貴様たちの提案などに耳を傾けた私が馬鹿だった!
もういい、貴様らはここで祈りの間の防衛に当たれ!」
デミアプロジェクトは順調に進行している。
人間界の会社の乗っ取りは完璧に行われ、計画も終盤だ。
後は人間世界にデミアを普及させ、サーバーに繋ぐだけ。
英雄の眼魂はその計画を成し遂げた後、ゆっくりと回収すればいい。
『その命令は危険です。天空寺タケルを放置するなど、危険すぎる。
いつ彼が眼魔に攻め込み、この世界を滅ぼすか分からない。
早急にこちらから行動し、天空寺タケルを排除するべきです』
言い募るガンマイザーを無視し、アデルは踵を返す。
そうして彼は祈りの間から退室しようとして―――
目の前にいる、三人の男女に気付いた。男二人に、女一人。
祈りの間の前にやってくる者など、今の眼魔世界にはいない。
仮にいるとしても、精々がアリア程度だ。
「―――何者だ?」
苛立ちながらも、しかし焦る理由はない。
ここにはガンマイザーがいる。天空寺タケルには成す術なく蹴散らされたが―――
それでも、ウルティマすら1基で圧倒する眼魔世界最強戦力だ。
「我らは使いです。貴方の……兄上様からの」
男がまるで揶揄うように、必要以上に恭しく腕を差し出す。
そこに装着されているのは、よく知るもの―――メガウルオウダーだ。
いや、その試作品だろうか。
男がメガウルオウダーから光を放ち、映像を投影する。
映し出された相手のその顔に、アデルは大きく目を見開いた。
『―――久しぶりだな、アデル』
「兄、上……!?」
―――ダントンとの戦い。
眼魔百年戦争の中で命を落とした大帝一族の長兄、アルゴス。
映し出された映像の中に浮かぶ顔は、彼に違いなかった。
アルゴスは椅子に座り、頬杖を突きながらアデルを見据えている。
「何故、兄上が……!?」
アデルの疑問の声。
それに対し画面の先にいるアルゴスは静かに笑い、言葉を続ける。
『……イーディス長官の計らいさ。
私はあの戦いで死んだ。だが、眼魂に魂を保存され新たな使命を与えられたのだ』
映像の中でアルゴスが立ち上がり、僅かに顔を上げた。
彼は天井を見上げながら、ゆっくりと歩き出す。
「使命? ……父上はそれを知っていたのですか」
『いいや? 言っただろう。イーディス長官の計らいだ、と。
あの男は父上の意思に従っていたわけではない。
自らの目的のためにあらゆるものを利用する、油断のならない男だ』
感情を隠すかのような微笑み。
それを浮かべたアルゴスが、そのままアデルを見据える。
『もっとも。もはやそれを父上に注意する必要もないようだが』
「―――――」
既に大帝アドニスはアデルによって殺害された。
眼魔世界にはアランがやったものと周知している、が。
アルゴスがそんなものに惑わされることもないだろう。
アデルが目の前の三人を見る。
プロトメガウルオウダーを装着した、三人。
つまり全員がネクロム。
―――だがネクロム三人程度何のことはない。
ガンマイザーを2基動かせば十分だ。
そんな警戒態勢のアデルを、アルゴスは軽く笑い飛ばした。
『父上が喪われたのは残念だった。だがそれも仕方がなかったのだ、お前を責めはしない。
私がもう少し早く動き出せさえすれば―――お前も、父上も、真の意味で完璧なる存在となりこんな顛末にはならなかったろうに』
「真に完璧なる存在……だと?」
その言葉に微かに眉を顰めるアデル。
言葉を繰り返した彼に、アルゴスは鷹揚に肯いてみせる。
直後に神妙な表情を浮かべ、正面からアデルを見据えて問いかける言葉。
『アデル……眼魔は完璧な存在か? 肉体をカプセルに保存し、生命力を維持し―――
そのシステムさえ、グレートアイの存在に頼っている眼魔が』
「……肉体もなく、眼魂だけで活動している兄上のような存在こそが完璧とでも?」
彼からの問いかけに、まるで自嘲するようにアルゴスは苦笑した。
『私もまた完璧ではない。
何故なら、肉体と完全に分離した魂は、そのままでは100日前後しか存在を保てない。
外部からの生命力の供給があって初めて、ゴーストはゴーストとして永遠に活動できる』
そう言って、彼が眼魂を一つ取り出す。
それを手の中で遊びつつ、言葉を続けた。
『だが一つ、それを覆す手段がある。大いなる力の根源だ』
「―――では結局、グレートアイに頼ると?」
『間違ってはいない。だが正確でもない。
グレートアイなど必要ないのだ。
アデルが目を細め、唇を歪める。
神に等しい存在。それがグレートアイだ。
自由にできるそんなものがあれば、何も苦労はしない。
アデルが振り返り、7枚のプレートを見上げる。
大いなる力の根源への接続を阻むもの、ガンマイザー。
その障壁の先に存在するはずの究極存在、グレートアイ。
そこに辿り着くための15個の英雄眼魂であり、アデルもまたそれを求めている。
グレートアイの同等存在があるのであれば、そんなことは最初からせずに済むだろう。
「……そんなものが一体どこに存在するというのです」
問い返され、アルゴスが小さく笑う。
怪訝そうな顔を浮かべたアデルに対し、彼は向き直った。
『……英雄の眼魂とは、グレートアイへの道を開く魂の鍵。
選ばれた15個の魂が、その鍵となった。
だが英雄の眼魂自体は15個で全てではない。全て合わせて―――100個ある』
「100個?」
『眼魂に宿る100の英雄の魂。それらを全て、神の眼となる器に容れるのだ。
器の中で選ばれし100の強き魂が混じり合い、新たなる次元へと進化する時―――
新しい
手にした眼魂を握り締め、アルゴスは断言した。
グレートアイを新たに創る、と彼は言う。
それが現実的な計画なのかどうかさえ、アデルには判断がつかない。
仮にそれが実現可能なものだったとして、彼は何を望みここに顔を出したのか。
「……兄上はそれを私に伝え、何を望んでいるのです」
『強いて言うなら、準備が出来るまで動かないで欲しいということだ。
言っただろう? 眼魂は全部で100個、うち15個は人間世界にある。
私が準備を終え次第、それらを全部回収して計画に移る。
心配することはない。当然、計画が成った暁には新たなる神が眼魔世界を救うのだから』
「―――――」
呆れるような表情を殺し、小さく息を吐く。
眼魂を持っているのは、ガンマイザー14基が手も足も出なかった相手だ。
ネクロム三人など歯牙にもかけられないだろう。
仮にアルゴスがウルティマを持っていたとしても焼石に水。
『その三人は計画実行までそちらの世界に置いておく。
私に何か伝えたいことがあれば、そいつらに伝えるといい。
もちろん、何かそちらで戦力が必要になる事態があれば、お前の指示で動かしても構わない』
その言葉に応えるように、恭しく礼を取ってみせる三人。
―――ダントンの事も把握している、対応する時はこいつらも使っていい。
恐らくはそう言いたいのだろう。
真に彼のことを把握できていれば、ネクロムなど大した戦力にはならないと分かるだろうに。
「……わかりました。では、こちらは兄上が動くまで静観させて頂きましょう」
そう言って小さく頭を下げる。
アルゴスは一度大きく頷いて、通信を切断した。
やることは何も変わらない。
水面下でデミアプロジェクトを進行し、あちらの世界を支配する。
天空寺タケルが幾ら強かろうと、それでも世界ごと呑み込まれれば成す術などないだろう。
「感謝しよう、アデル。
お前が追い詰めた結果、私の許に意図せず神の器が転がり込んだ」
彼が父を殺めた事実は確かに衝撃だった。
だが、それも仕方ないことだったのだ。
完璧ではない世界に問題が起きるのは当然のこと。
母は逝った。父も逝った。
ならばせめて、彼は長兄として遺された家族を守るために、全ての世界を救おう。
ボウ、と。
白い軍服に身を包んだ彼の腰に、ゴーストドライバーが出現する。
イーディス長官から授けられた眼魂を生成するための力。
彼はこの力を授けたアルゴスを利用し、グレートアイに繋がるつもりだったのだろう。
だがそんなことはさせない。
眼魂はグレートアイに繋がるために使うのではない。
全てを救う、新たなる神を降臨させるために使うのだ。
手にしていた眼魂を起動し、彼はドライバーへと投入する。
そうしてトリガーを引き絞り、トランジェントへと体を換装した。
「変身」
〈カイガン! シェイクスピア! イッツ! ロミオとジュリエット!〉
黄色いパーカーゴースト、シェイクスピア。
シェイクスピア魂へと変わり、アルゴスはゆっくりとフードを取り払う。
周囲に散乱する無数の紙、本の頁。
そこに記されていく文字の羅列。
世界を救うシナリオを組み立てながら、彼は強く拳を握り締めた。
「全ての悲劇は此処で終わる。ゴーストの世界の到来によって―――」
「どすこぉい! どすこぉい!!」
まわしを締めた相撲取りのような怪人。
チームアザルドのプレイヤー、スモートロン。
彼が踏み込みと同時に張り手を突き出す。
それを一歩も動かないまま、手の甲だけで逸らし続けるのはムゲン魂。
スモートロンは躍起になって、攻勢を仕掛け続ける。
が、一度たりとも有効打を通すことなく、ゴーストは相手の両腕を弾き落とす。
「ぬおっ!?」
「はぁ―――ッ!」
突き出されるムゲンの掌底。
その一撃はスモートロンの腹に直撃し、彼を土俵の外へと突き飛ばした。
壁に激突し、そのまま地面に投げ出されるスモートロン。
『ただ今の取り組みはぁ、“突き出し”、“突き出し”でぇ、ゴーストの勝利ぃ!』
行司による裁きが下される。
彼の能力、そしてブラッドゲーム。それは戦闘における相撲の強制。
更に相撲で負かした相手に相撲の特訓を強制させること。
これではもはやゲーム失敗も同義だ。
「ぬ、あ……よもや自分が、相撲で手も足も出ないとは……!」
少し怪しい判定くらいなら不正な判定でひっくり返せる。
だが真正面から一撃で土俵の外へと吹き飛ばされては、物言いのしようがない。
どうにかならないかと頭を回しても答えは出ない。
「こうなったら、手段は選ばないのデス!」
土俵が消えたことで踏み出して、歩み寄ってくるゴースト。
彼に対して、起き上がりざまにスモートロンは武器を突き出した。
愛槍である八百長槍を。
彼のゲームの中で、相撲中は一切武器が使えない。
だが相撲が決着した以上は、武器を使うことは自由になる。
相撲取りだから武器など使わない、という先入観もまた彼の武器であり―――
しかし槍は振り抜いた瞬間、穂先が切り落とされて地面に落ちていた。
ただの短い棒になってしまった自分の槍。
それをきょとんとしながら見て、次いで相手の手を見る。
その手に握られた武器を。
ゴーストが手にしていたのは、槍に匹敵する長い刃。
ガンガンセイバー、ナギナタモード。
ナギナタを握った逆の腕で、彼はそのままドライバーのトリガーを引き絞る。
〈イノチダイカイガン!!〉
「あっ……その、武器はちょっと……自分、実は相撲取りなのデスが……
なので、武器より素手での戦いの方がいいというか……」
立ち昇る光の刃を見て、スモートロンが短い棒を速攻で投げ捨てる。
何も無かったことにして、彼は即座にゴーストに懇願した。
が、当然のように刃は彼へと振り下ろされる。
〈ヨロコビストリーム!!〉
「やっぱ駄目デースかぁッ!?」
光の刃が放出され、スモートロンを呑み込んだ。
波濤に押され、そのまま吹き飛んでいく彼。
その落下地点を見極めて、近場の高台に出現したナリアはメダルを手にした。
「―――ジニス様の細胞から抽出したエネルギーです。精々無駄にせぬよう……」
ちらりと視線を上げれば、空を舞うジュウオウキューブたち。
その光景に舌打ちしつつも、彼女は思い切りメダルを放り投げた。
「励みなさい」
投擲されたメダルはスモートロンの投入口へ。
全身に駆け巡るエネルギーにより、相撲取りのような体が膨れていく。
「ナリア、ごっつぁんデース!」
瞬時に40メートル級にまで巨大化する彼。
だがその目前に君臨するのは、70メートル超の更なる巨人。
〈ワイルドトウサイキング!!〉
『完成! ワイルドトウサイキング!!』
目の前に現れた壁に怯むスモートロン。
しかしすぐ我に返った彼が相手を張り倒さんと手を挙げたところに―――
ワイルドトウサイキングの左腕、ビッグワイルドキャノンが火を噴いた。
『ジュウオウダイレクトショット!!』
「あばばばばば!?」
至近距離から浴びせられる光線の雨。
光に焼かれたスモートロンの体が、いとも簡単に引っ繰り返った。
轟音と共に倒れ込む巨体。
全身から火花を散らし、白煙を噴き上げて。
そうしてよろめきながらも、彼は何とか姿勢を立て直す。
「す、相撲で銃は禁止、デス……!」
『そもそも。相撲は相手を苦しめるためのものじゃありません!』
そう断言し、アムが目の前のキューブを大きく回転させた。
トウサイキングが左腕を下ろし、右腕を持ち上げる。
そこに取り付けられているのは、ビッグキングソードに他ならない。
『お前がやってたのは相撲じゃなくて、相手を見てねぇただの一人相撲だったってわけだ!
他人に無理矢理やらせる前に、テメェ自身がきっちり相撲をやりやがれ!!』
レオが続けてキューブを回し、更に王者の資格の面を揃えた。
その瞬間に充足する力。
ワイルドトウサイキングの全身に溢れるジューマンパワーが、右腕の剣に集束していく。
『ジュウオウダイレクトストレート!!』
巨神が大きく一歩踏み込むと同時、右腕の剣を杭打機の如く突き出した。
スモートロンの腹に激突し、撃ち抜く一撃。
そうして大穴を開けられた彼が力を失い大きく揺れて、地面へと倒れ込んでいく。
「決まり手は……! 相撲のルールを、上手投げ……! デース!?」
倒れ伏し、爆炎を舞い上げて滅びるスモートロン。
それを見て、ナリアは即座に帰還するのだった。
帰還して、床を苛立たしげに揺らしながら歩むナリア。
彼女は足早に玉座の間へと進んでいき―――
「おや、随分と苛立っているようですね。そのままジニス様に挨拶するのですか?」
「――――そのようなこと、あるはずが」
途中でクバルに声をかけられ、彼女は歩幅を緩めた。
確かに急ぎ報告をしなければならない。
だが、ジニス様の前にあのような態度で出るなど、到底許されることではない。
仕方なくクバルに向き直り、彼女は小さく頭を下げた。
「止めて頂いたことには感謝を。ではこれで」
「感謝してくれるというのであれば、苛立ちの理由を知りたいものですね。
やはりあの新たな戦力のことですか?」
不思議そうに問いかけてくるクバル。
新たなる戦力、というのは間違いなく仮面ライダーゴースト・ムゲン魂のこと。
あの戦力の出現により、ブラッドゲームは更に難易度を増した。
今まで以上に何もアクションを起こせず、倒されることが増えたのだ。
だがそのこと自体はどうでもいい。
「ご冗談を。敵の戦力など気にしてどうするのです。
何も出来ず、早々にゲームオーバーになるプレイヤーの不甲斐なさの方が余程問題でしょう」
「これは痛いところを突かれましたね。
ですが……あなたも見ての通り、敵の戦力はかなりのものです。
あの力に対抗できるとすれば、ここにはアザルドくらいでしょう。
もちろん、ジニス様には及ばないでしょうが……」
「当然です! ジニス様が下等生物如きに遅れを取るはずないでしょう!?」
声を荒げるナリアに、降参というように両手を挙げるクバル。
そうした自分にハッとして、彼女はすぐさま踵を返した。
玉座の間へと向かっていく彼女の背中を見送り、クバルは顎に手を当てる。
「……確かにあの力、凄まじい戦闘力。ジニスとて簡単には行かない相手でしょう」
あの後、数度開催されたブラッドゲーム。
その全てでムゲン魂は圧倒的な戦闘力を見せつけた。
クバル自身も、一騎討ちなどすればまず間違いなく敗北する。
対抗できるのはアザルド。そしてオーナーであるジニス。
ジニスに万が一があると考えれば、ナリアの焦りにも納得はいく。
だがそこまで心配をすることか?
アザルドを絶対に倒せるとも限らず、ましてジニス自身の力が絶対だ。
クバルからすれば、現状ではまったく危機など有り得ない。
デスガリアンなど。ブラッドゲームなど。
ジニスからすればただの遊びだ。
こんな戦場、彼にとっていつでも引っ繰り返せるチェス盤でしかない。
「それでも心配な乙女心か……あるいは。
その安心感を転覆させる弱点が、ジニスに存在するか……」
そこに焦燥が生まれる、ということはナリアはそれを知っているということだ。
だが例え自分が殺されても彼女はそれを白状すまい。
それこそ、記憶を直接探りでもしなければ―――
―――ひとつ思いついた案を、鼻で笑って頭から追い出す。
「馬鹿らしい話だ。ですが、これ以上奴らが力を付けるようなら……
こちらを捨て、命乞いでもする準備はしておきませんとね」
ジニスに従っているのは、最初から命惜しさでしかない。
もし彼が負けるようなことがあれば、今度は地球の連中に頭を垂れるだけだ。
ジニスは異常な強さを持つ怪物だ。
そんな怪物を倒すそれ以上の怪物を前に、逆らう気などない。
命を拾うためにプライドを捨てることに躊躇などない。
そうでなければ、クバルはとうの昔にジニスに殺されている。
恐怖により従わされていた。ジニスがいなくなった今金輪際悪事は働かない。
そう叫びながら、頭を地面に擦り付ければいい。
幸い、相手が強かったお陰で地球の被害はさほどでもない。
選択肢を誤らなければ、命くらいは助かるだろう。
機械の体だ。少しくらい壊されたところで、どうにかする手段はある。
「そのためにも……手土産代わりの情報は確保しておきたいところですが」
先程頭から追い出した思いつき。
それを改めて考えつつ、クバルはゆっくりと歩き出した。
「そういえば、あのエドモン・ダンテスさんの事ですが……」
「なんだか戦いが終わったらすぐに消えちゃったね。
ツクヨミにも会っていけばよかったのに」
いつも通りに仕事をこなしながら肩を竦める立香。
ツクヨミと初めて出会ったのも、あの監獄塔の中だった。
彼女の方はエドモンが出た、と聞いて微妙な顔をしていたが。
とにかく。
エドモン・ダンテスのお陰で立香は救われた。
それに関しては感謝しかないのだが、一体どうしてそうなったのかという疑問はある。
「バングレイの持つ記憶の再生能力は理解していましたが……
彼はどうやって、先輩の記憶の中から強引に出てきたのでしょう……?」
バングレイの能力ではなく、別の方法で呼び出せれば。
そう考えつつ、マシュは小さく首を傾げた。
「普段は出てこないとか、出てくる時はここぞという時とか。
割とそういうところあると思う、エドモンは」
が、当の立香はそんな感じで適当に納得してしまう。
何で出てきたのか、何故出てこれたのかもよく分からない。
けれどまあ、彼自身がそういうカタチに落ち着いたのだろうと。
疑問を受け流して、そんな感じで収めてしまった。
―――ガンマイザー。更にバングレイ。
押し寄せてくるような敵の到来は、一応何とか退けた。
その後、散発的にデスガリアンの侵略はある。
が、ほぼ何もさせずに相手を完封し続けているのが現状だ。
ジューマンの察知能力以上の感覚で敵の存在を把握するタケル。
彼が即座にムゲン魂によりデスガリアンを排除。
コンティニューしてきても、ワイルドトウサイキングが粉砕する。
この流れから逸脱できたデスガリアンは今のところ存在しない。
『……それにしても凄まじい力だね、あの新しいゴーストは。
一人の人間が持っているとは思えないエネルギー量だ。まるで―――
いや、味方であるなら心強いことこの上ない力だけど』
確かに、と。
彼が何を口籠ったか分からないが、マシュもロマニの言葉に小さく頷いてその姿を思い出す。
神聖さすら感じる、強大な力を有する白いゴースト。
それまではまるで対応しようがなかったガンマイザーたち。
そんな相手を圧倒的な力で完全に捻じ伏せてしまった。
次の戦いになれば、ガンマイザーでもバングレイでも確実に勝てる。
そう確信するにたる、絶対的な存在であった。
「ま、頼り切りにならない程度には頑張るとしようじゃないか。
彼でも勝てない存在がまだまだいるかもしれないしね」
『天空寺タケル君はもはや神性―――仮面ライダー鎧武や、獅子王。
そう言った超常の存在に準じる存在に至っている。
同等の存在がそういるとは思えないけれど……』
ロマニが通信先で目を細める。
例えに神性を出したが、きっと彼の本質は真逆。
星側の存在である神らは、いわばガイアに属するもの。
逆に、人の意識が集う器のように進化した彼は―――
考え込んでいたロマニの思考を遮り、ダ・ヴィンチちゃんが声を出す。
「ほら、メガヘクスみたいなのとかが大量に押し寄せたりさ」
『それは勘弁してほしいな……人理の前に物理的に星が無くなるよ。
あり得ない、って断言できないのがホントにもう、ね』
「慣れだよ、ドクター」
溜め息混じりに宇宙の彼方へ愚痴を言うロマニ。
彼に対し、立香は苦笑しながらそんな事をのたまった。
『慣れはしたさ。常に心臓に悪い思いをしているけれど』
計測機器を見る。
星を灼く光帯も空に大分濃くなってきた。
融合が進んでいる、と解釈するべきなのだろう。
終わりが見えてきた、と思っていいのかもしれない。
「おい……次はどうすればいい」
テーブルの片付けをさせられていたジャベルが戻ってきた。
最近はもう、彼も馴染んできたような感じがする。
一応監視にあたる武蔵は、当たり前のようにたこ焼きを食べていた。
マシュが苦笑しながら、手慣れた様子で次の指示を出す。
「では、次はゴミの方を……」
『―――――』
そんな彼女を見て、黙り込むロマニ。
その様子に気付いたのだろう、調理をしつつダ・ヴィンチちゃんが笑う。
「ギリギリまでこの世界にいさせてあげたい、って雰囲気が漂ってきた気がするぞぅ?」
『―――そこまでは言わないけれどね。特異点はまだ一つ残っているわけだし。
けれど、まあ……ただ良かった、と。そう、思うよ。
……あー。それでほら、今日は所長はどうしているんだい?』
感情を隠すようにすぐに話を変えようとする彼。
へぇ、とニヤニヤしつつもしょうがなく、彼女はそれに乗ってあげた。
「うん? ああ、何だかタイミングが合わなくて結局私リンクキューブ見に行けてないから。
とりあえず所長に見てきてもらう事にしたんだよ」
『? 今日こっち任せて行けばよかったじゃないか』
「……んー、それはそうなんだけど。何だろうね、この感覚」
片目を瞑り、考え込む様子を見せるダ・ヴィンチちゃん。
ロマニは不思議そうに彼女の様子を窺い、首を傾げた。
「で、これがリンクキューブってわけね」
「おー」
巨大な石のキューブを見上げ、ソウゴは感嘆する。
リンクキューブは半壊し、川の中に転がり込んでいた。
デスガリアンの爆撃による被害の一つだ。
「これが……リンクキューブ」
「そういえば、みっちゃんも見るのは初めてだっけ」
キューブを見上げる操の後ろから、カメラを持ち出した大和が声をかける。
そのままとりあえず一回りしつつ撮影を始める大和。
「……あなたたちのキューブを六個嵌めるんでしょ?
これ、まずこっちを修理しなきゃ無理じゃないかしら」
「まあそう言われると……確かに」
セラも改めて見てみるが、リンクキューブの破損は中々酷いもの。
大きく割れて、キューブの中心近くまで砕けている。
仮にこの状態で王者の資格を六つ嵌めたとして、正しく動くかは甚だ疑問だ。
「あー、じゃあやっぱダ・ヴィンチに頼むか?
あとは……ほら、ラリーさんとか? 学者だし」
「ラリーさんは人間学者でしょ。絶対専門外だよ」
レオの言葉に呆れる様子を見せるアム。
彼らの後ろでタスクは顎に手を添え、上から下までキューブを見渡す。
「……どっちにしろ、直せるかどうかも仕組みを理解するところからだ。
そのためにどういった仕組みでリンクキューブが動いているかを……」
「やっと見つけた!
あーもう、だから最初っからナビィ連れてくればよかったじゃん!」
―――そうして、声を上げながら草木を掻き分け姿を現す闖入者。
その場にいた誰もが、その声の許に視線を向けた。
真っ先に出てくるのは、緑のジャケットを着た金髪の男。
「じゃあハカセがナビィの代わりに一人でガレオンに留守番する?」
続く黄色い服の女―――ルカが、ハカセの肩を叩きながら前に出る。
それは嫌だ、と露骨に表情を歪める彼。
「どーせあのトリ連れて来たってロクなナビはしねえさ。
んなことより、先客がいるらしいぜ」
「先客も何も、どう見てもジュウオウジャーだろ」
「まあ、あの方たちが? ごきげんよう、ジュウオウジャーの皆様」
姿を現すや腕を組んで不敵に笑う赤い服の男、マーベラス。
そんな彼に呆れた様子で溜め息を吐く青い服の男、ジョー。
彼らに続き出てきたピンク色のドレスの女性、アイムはこちらに向かって一礼した。
「ジュウオウジャーじゃないのも混じってるけど?」
「だろうな。ま、仮面ライダーに用はねえ。引っ込んでな」
不敵な笑みに不敵な笑みを返し、ソウゴが一歩前に出る。
それに対してマーベラスは、引き抜いた銃口をあっさりと彼に向けた。
「ふぅん、つまりジュウオウジャーには用があるんだ。リンクキューブだけじゃなくて」
またこいつは、というオルガマリーの視線を受けながら。
微笑んでマーベラスにそう問いかけるソウゴ。
軽く鼻を鳴らし、彼は銃口をソウゴから外して肩に乗せた。
「かもな。だが通りすがりにここから先は関係ない。
引っ掻き回す前に追い出してやるよ、仮面ライダー」
銃を頭上に放り投げる。
直後。左手に握るのは携帯電話型のツール、モバイレーツ。
更に彼は右手に握る、赤い戦士を模ったものを半ばから畳んで鍵にする。
ソウゴがドライバーの両側にウォッチを装填。
そのまま腰に装着し、即座にロックを外して回転させた。
「ゴーカイチェンジ!」
「変身!」
鍵を差して捻れば開く、モバイレーツの上部。
展開されるのはカットラスと鍵穴で描かれる、宇宙海賊の
現れるのは、黒いアンダースーツに赤いジャケット。
ジョリーロジャーを額につけた赤いマスクが、マーベラスの顔を覆い隠す。
周囲に広がっていく無数のヴィジョン。
九つの光となって一度散らばった姿が、ソウゴを中心に重なっていく。
やがて一つになり、完成するのはマゼンタのアーマー。
インディケーターにディケイドと文字を浮かべ、彼はその手に剣を握る。
カットラス―――ゴーカイサーベルを手に、ゴーカイレッドが奔る。
対して振り上げられる、ライドヘイセイバー。
互いの刃げ激突し、火花を散らし、そうして突き合わされた二つのマスク。
その中で、マーベラスが小さく笑う。
〈ゴーカイジャー!〉
〈カメンライド! ディケイド!!〉
鍔迫り合いで剣を制しつつ、ゴーカイレッドが落ちてきたゴーカイガンを掴む。
すぐさま体を捻ろうとしたジオウに対し、流れるように銃口を押し付け接射。
火花を散らし、大きく押しやられたジオウ。
それを見送り、マーベラスが剣を手にしたまま赤いジャケットの襟を弾く。
―――そんな彼の背後。
四つの影が同じように、それぞれの色のジャケットを纏った戦士に変わっていた。
「さあ―――派手に行くぜっ!」
四人の海賊の先頭に立ち、赤い戦士が声を挙げる。
その船長の声に応じるように、海賊たちが一気に侵攻を開始した。
全ライダーVS全戦隊 ついに大激突!