Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
リヨンの街まで辿り着いたカルデア一行。彼らは廃墟と化したその地を見て心を痛めながらも、希望となる竜殺しのサーヴァントの捜索を始めた。
その街において、いま世界を襲う人理焼却とは異なる大きなうねりの一端に触れることになる、という未来を知らないままに。
「この本によれば普通の高校生、常磐ソウゴには魔王にして時の王者。オーマジオウとなる未来が待っていた。だが本来この本が正しい歴史を綴り始めるのは、西暦にして2018年。西暦2015年の今、それは未来の出来事にすぎない……はずだった」
彼らがリヨンの街に踏み込んだ後、街の外で一人の男が立っていた。
魔王の家臣、その名をウォズ。
目を眇めて手にした本を見ている彼は、一体誰へと語りかけているのか。
ただただ、朗々とその本の内容を語り続ける。
「だが2015年において常磐ソウゴは人理焼却という事件に遭遇し、自らの意志で仮面ライダージオウへと変身。彼は七つの特異点を修正して世界を救うべく、3年ほど前倒しして、その大いなる覇道へと足を踏み入れるのであった。
―――そして訪れた第一の特異点、西暦1431年フランス。彼らが今まさに踏み込んだ壊滅した都市、リヨン。この地で彼らを待ち受けるのは、最後の希望の模造にして絶望の生み出した怪人、アナザーウィザード。果たしてそのアナザーウィザードを生み出した男の正体とは……」
そこまで本の内容を視線でなぞり、口にしたウォズ。
彼はそこで言葉を止め、急にバタリと本を閉じて話を打ち切った。
リヨンの捜索は二手に分かれることとなった。霊脈に設置したキャンプ地から離れたことで、カルデアとの通信も大分状況が悪くなってしまったのだ。このような広範囲の捜索にこそ、カルデアスの観測によるサーチの助力が欲しかったのだが。
とにかく。
立香にはマシュ、ジャンヌ、マリーがつき東側へ。
ソウゴにはランサーとアマデウスがつき西側へと。
そのようなことになったのであった。
「こういう時ってどういう風に探せばいいんだろ。声かけしながら歩くとか?」
「まあナシじゃねえが、流石に範囲が広すぎる。サーヴァントを使うのが無難じゃねえか?」
ソウゴの問いにそう言って、アマデウスへと視線を送るランサー。彼の耳の良さは王妃からのお墨付き。いや、世界からさえ認められているものなのだから、使わないのはもったいないということだろう。
話を振られた当人は渋い顔でそれに答える。
「やれと言われればやるけどね。いくら僕の耳とはいえ、この広い土地の中で、潜められた小さな呼吸を探せるような便利なものじゃあ―――ん……ああ、これはまずいんじゃないかな?
―――瞬間、ランサーが動いていた。
有無を言わさずソウゴとアマデウスの襟首を掴み、大きく跳躍してその場から離れる。同時にバキバキと石で舗装された路面が砕け散り、つい今まで足をつけていた地面が大穴を開けて引き裂かれた。
その大穴の中から、さながらドリルのように回転しつつ地上へと進出してくる人型。
現れたのは、砕けた赤い宝石の如きマスクに覆われた異形の顔。その側頭部からは一対の角のようなものが伸び、まるで頭そのものが指輪であるかのような造形になっている。
襤褸切れのようなローブで包んだ体は、禍々しさすら感じる不安定さで出来上がっていた。
〈ウィザードォ…!〉
「ハァアアア……!」
地下からの奇襲を躱したランサーに手放され、地面に転がりながらソウゴはそれを見た。
そして、見た瞬間に感じ取る。あれは、
「違う……違う、けど……仮面、ライダー?」
砕けた宝石の顔の中で、異形の瞳がソウゴを見つけた。
アナザーウィザードは狂喜する。
彼はただ、ジオウを葬り去れと命じられただけだ。だが彼の中の何かが、彼の意志に訴えかけてきているのを感じている。
恐怖させろ、絶望させろ、絶望の果てに死に絶えたものこそが、己の仲間になるのだと。
―――そして、仲間を揃えてサバトを決行することこそが。大切な、大切な、他の何より大切な
彼の中に既にクリスティーヌが何か、などという情報は残っていない。オペラ座の怪人の霊基を糧に起動した何かが、その中の記録された歴史と勝手にすり合わせた結果、発生したバグのような情報にすぎない。だがそれは、アナザーウィザードが行動原理にするには十分すぎた。
アナザーウィザードが一歩も動かぬままに、ソウゴに向かって手を伸ばす。
ソウゴはその様子に僅かばかり首を傾げ、次の瞬間に度胆を抜かれる。
〈エクステンドォ…!〉
物理的に手が伸びて、ソウゴに迫ってくる。
「うぉわぁっ!?」
ソウゴの目前まで迫った腕を、朱色の閃光が打ち払う。
即座に武装を完了したランサーの手による迎撃。
彼は軽やかに魔槍を回しつつ、ソウゴを守るように彼の目の前に陣取っていた。
打ち払われた腕をくねくねと回し、やがて通常の長さまで戻していくアナザーウィザード。
その様子を見送ったランサーが目を眇めつつ思考する。
相手の体に直接斬り込んだにも関わらず、刃は入らなかった。恐らくは彼のマスターの装備、ジオウと同じような材質・システムで構築された鎧。
だとすれば、攻略のために必要なのは、その装甲が維持不可能なほどの超過ダメージだ。ランサーだけでも達成できないことはないが、それよりも話の早い解決法がある。
「……さて、ならマスターが決めるべきか」
「じゃあ一緒に行く?」
〈ジオウ!〉
ランサーの背後で、ソウゴが変身までの行動準備を済ませていた。
彼の背後に浮かぶライダー時計が、時間を刻んでいる。
そんな彼を鼻で笑うように、ランサーは声を上げた。
「着いてこれんならな!」
瞬間、青豹の如き槍兵の体躯が奔った。
正面から突っ込まれただけだ。あまりにも愚直な直線軌道。
だというのに、アナザーウィザードの思考速度では反応すら許されない。
神速の一刺しは過たずアナザーウィザードの胴に直撃し、血飛沫が如く飛び散る火花。
引き戻しの動作は最小限に、すぐさま更なる一突きが怪人の喉元に炸裂する。
再び盛大な火花を撒き散らし、アナザーウィザードの体が地面に転がった。
ノックダウンは奪ったが、しかしそれでも傷を与えられたわけじゃない。
やはり軟い堅いの話じゃない、とランサーが小さく舌打ちする。
〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉
変身を完了すると同時、マスターの体がランサーを飛び越していく。ジオウはなんとか体を起こしていたアナザーウィザードの目前に着地すると、握り固めた拳を振るう。
拳は相手の体に食い込むように確かに入る。が、それが大きなダメージになっているという感覚は得られない。相手は確かにそこにいる。攻撃も確かに入っている。なのに、
事実、アナザーウィザードはすぐさま拳を返してきた。それを前腕部で弾くように受け流し、至近距離まで詰まった間合いを活かすように、相手の胴体へと膝蹴りを叩き込む。
なされるがままに攻撃を受けた相手が、後ろへと蹈鞴を踏んで下がった。が、すぐさま体勢を立て直して腕を掲げる。
またも伸びる腕か、とその腕を注意するソウゴの目前。
〈ライトォ…!〉
超視覚を有するジオウの頭部センサー・インジケーションアイから侵入する、視界を埋め尽くす突然の凄まじい発光。
「まぶしっ!? なにっ!?」
即座に顔を隠すように腕で庇うソウゴ。
その瞬間、アナザーウィザードが動いていた。
一歩で踏み切り、空中で身を捩る回転からの蹴撃。
凶器と化したつま先が、ジオウ頭部に叩き込まれる―――その寸前。
朱槍が奔り、その足を横合いから切り払った。アナザーウィザードのボディには切断どころか目立った切創すら出来ない。しかしその体は派手に火花を散らして、そのままもんどりを打って背中から地面に落ちる。
「ガッ―――!」
宝石の中の口から、衝撃に呻くような声が漏れる。
そして倒れた相手に追撃を仕掛けるべく、ランサーが槍を振り上げ―――
〈ディフェンドォ…!〉
突如、足場がせり上がるという緊急事態。
小さく舌打ちして、離脱を優先させるランサー。一歩引いたところでみれば、アナザーウィザードの周囲の地面が、まるで彼を守るかのように持ちあがり壁になっている。
ジオウの隣まで立ち位置を下げたランサーが、怪訝そうに呟く。
「魔術師……? 声の方は一小節の詠唱か……いや、その割には……」
〈エキサイトォ…!〉
再び声がする。ランサーの目が鋭く尖り、何が来るかと身構えた。
次の瞬間には聳え立つ土の壁が弾け飛び、弾丸となってこちらに襲いかかってくる。
ランサーは飛び道具に対する対処性能を向上させる矢除けの加護を有するが、そんなスキルがなくとも簡単に防げる程度のお粗末さ。
石と土の混じる弾丸を打ち払おうとして、隣から連続して轟く銃声に手を止める。
ジオウの手にはジュウモードのジカンギレードがあった。
その銃口から走る弾丸が、石を、土を、空中で爆砕して粉塵と変えていく。
「あん? その武器は」
「なんか直ってた!」
タラスクとの決戦で半壊したはずの武器は、いつの間にやら修復されていた。どういう理屈か分からないが、ジオウの装備は修復すらされるらしい。
その至れり尽くせりに肩を竦めるランサー。とりあえず、今はそんなことよりも戦闘中だ。疑問なんて後からでも間に合うだろう。
そう考えて舞い散る粉塵の先に目を凝らす。
隠れたその姿を探すまでもなく、相手の姿はすぐに粉塵のカーテンを突き破って現れた。
筋肉の肥大化した上半身。
腰から上が三倍ほどに膨れた異形の怪人が、そこにはいた。
「……ゴリマッチョって感じ?」
「ハ、下半身も鍛えてから出直してこいって話だ」
ぐいん、とアナザーウィザードの上半身が捻り上げられる。同時に振り上げられる拳。
腰から上をまるで鞭のように撓らせて、その拳が鉄槌が如く敵に向かって振り下ろされた。
戦士二人は即座に横に跳び退る。
拳が叩き付けられる。二人が直前まで立っていた大地を砕く、強大な一撃。
飛び散る破片。振動する大地。
外見に違わぬそのパワーがもたらした破壊痕を見て、気を引き締める。
銃撃がアナザーウィザードの全身に直撃する。火花が雨のようにその体から飛び散るが、しかし決定打としては成立しない。砲火に晒されながらも、アナザーウィザードがジオウへと顔を向け―――その瞬間、彼の足を槍の薙ぎ払いが襲う。
弾かれる片足。巨体と化した上半身が支えを失い、大きく揺れて傾いた。続けて流れるようにランサーの姿が空を舞う。槍ごと体を縦に回転させて、傾いた巨体に上から槍を叩き付ける追撃。アナザーウィザードの体が、尋常ではない勢いで地に落ちる。
石畳を砕き、半身を地面の中に沈めるアナザーウィザード。
その肥大化していた肉体が、元のサイズへと萎んでいく。
〈5! 4! 3! 2! 1!〉
ジオウの手には、リューズを押してチャージを開始したジカンギレード。まるでダメージの無いように起き上がってくるだろうアナザーウィザードへ、既に銃口は向けられている。
粉砕された石畳の上、地面だったものの塵を払いながら。
体を元のサイズに戻した怪人が、ふらつきながらも立ち上がる。
その瞬間に引き絞られる、ギレードのトリガー。
〈ゼロタイム! スレスレ撃ち!〉
ジガンギレードが火を噴いた。
連続して吐き出される超エネルギーの砲火。
この相手から感じる奇妙な手応えの無さを考慮しても、これならば相手を爆砕できるはず。そうと考えるに不足ない威力があることは間違いない。起き上がりに放ったこの攻撃。タイミングは完璧で、回避は不可能。だが、しかし。
〈リキッドォ…!〉
「えっ……!?」
ジオウの目の前で、アナザーウィザードの体がどろりと崩れた。
その体は、瞬時に水へと変わっていたのだ。
水となったそれは当然のように宙に浮かび、ジオウへと高速で殺到する。
咄嗟に銃撃で迎え撃つが、弾丸が当たった水が弾けるばかりだ。
なんの痛痒もないとばかりに水はジオウを取り囲み、その背にいきなり蹴りを見舞った。
「うわっ!?」
足だけが元のアナザーウィザードのものに戻り、ジオウを後ろから蹴り飛ばしていた。
そのまますぐに水の塊という状態へと戻ってしまう。
蹴り飛ばされて蹈鞴を踏んだジオウが振り返り、その光景を見て戸惑いの声を上げる。
「ええ……? なに、水?」
自分の周りを飛び交う液体をジオウがきょろきょろと見回す。そうしている間にも、水はジオウへと接近したかと思えば片腕だけ再構成して殴りかかってくる。
今度は事前に察知して自らの腕でその攻撃を打ち払う。
そのまま捕まえてしまおうとするも、すぐに液体化して止めることができない。
「うーん……あ、そっか。ランサー!」
「防げばいいんだな?」
宙を舞う水を引き裂きながら、ランサーの姿がジオウに並ぶ。
そう言った彼の振るう槍こそはもはや結界だ。
水流のまま近づいて肉体を再構成しての攻撃、などという手間のかかるプロセスは彼の前では立ち行かない。アナザーウィザードの射程距離を完全に把握しているランサーは、一定の間隔までしか水の浸入を許さない。近づこうとした水の塊は弾け、飛沫となって吹き飛ばされる。
一定以上の質量を伴っていなければ、再構成からの攻撃ができない水。だと言うなら、射程距離に近づかれる前に、衝撃で散らすことで時間稼ぎすることは十分に可能だった。
だが同時に、それを攻撃側として打ち破る手が多くないのも事実。
「……さっきから、あの一小節の詠唱でこれだけバリエーション豊富とはな。冗談抜きで高速神言じみた芸当だ。そんで、どうするよマスター。炎で散らすか?」
「いや、これで行けると思う。俺の正面に通して」
そう言うジオウの手には、携帯電話が握られていた。
特異点Fで見た性能を思い出し、ランサーはなるほどね、と口角を吊り上げる。
「了解。行くぜ、しくじるなよマスター!」
ファイズフォンXを折り、銃モードに変形。エンターキーを即座に三連打する。
エネルギーの収束していく音を聞きながら、トリガーを引くべき瞬間を待ち受ける。
〈エクシードチャージ!〉
「そらよっ!」
ランサーがそれまで避けてきた大振りの薙ぎ払いで、纏わりついてくる水を一気に引きはがす。当然のように一度は振り払われた水も、すぐに集まって塊となって戻ってくる。
まるで演武のように大きく槍を振り回し続けるランサー。どこから入り込もうとしても打ち払われるその槍撃の結界には、しかし明確に穴がある。
あからさまに、意図的に開けられた侵入者を歓迎するためのゲート。だがしかし、アナザーウィザードはその不審さを考慮しない。水流は槍に守られた場所を避けて自然とそこに集まって、ジオウを討つために腕を構成し――
「今ッ―――!」
その腕に、赤い光が突き刺さった。赤い光を構成する粒子が一気に液体化している全身に伝播し、強制的にリキッドの魔法が解除される。既に水である部分はどこにもない。全てが、アナザーウィザードという怪人に再構成されていた。
「グッ――ガッ―――!?」
「これで、終わりだ―――!」
〈フィニッシュタイム!〉
元の姿に戻され、しかし動けずに呻くアナザーウィザードの周囲に、12の“キック”の文字が時計盤の如く浮かびあがる。拘束に成功した瞬間にファイズフォンXを放り投げたジオウは、即座にジオウウォッチを必殺待機状態に移行してドライバーを回していた。
跳躍し、飛び蹴りの姿勢に入ると同時。
12の“キック”がカウントを告げるように一つずつ消え始め、そして最後の一つがジオウに向かって飛んでいく。自らの顔と足裏で“ライダーキック”を作り、ジオウの体はアナザーウィザードに向け加速した。
〈タイムブレーク!!〉
呻くアナザーウィザードの胴体に突き刺さる蹴撃。
ダメージと同時に火花を噴くことで、衝撃を緩和するはずの宝石で出来たブレストアーマー。
その圧倒的なまでの破損耐性を抜き、砕くまでに至った感触をソウゴが捉える。
次の瞬間には、ジオウの必殺技を受けたアナザーウィザードの姿は爆発四散していた。
「どうしたんだい? 倒したんだろ?」
戦闘を終えたはずだというのに、きょろきょろと辺りを見回すジオウ。特に援護も必要なさそうだと素直に避難していたアマデウスは、そんな彼の様子に問いかけてくる。
「んー……そうなんだけど。あれが何だったのかなって」
「サーヴァント、じゃねえな。サーヴァントらしき気配も僅かに感じたが、明らかに違うものになっていた。そういう性質の宝具で変貌したサーヴァント、って可能性はなくもないが」
ランサーも周囲を見回している。
敵怪人は爆死。その場に残ったものは何もない。
それならそれでいいはずだが、どうにも引っかかる。
「ふむ。ああ、けれどあれが竜の魔女の手の者だったなら、その撃破はジャンヌ・ダルクに伝わったはずだろう? なら、のんびりしている暇はない。
悩むにしても、この街にきた目的を果たしてからにするべきだ」
「……まあ、そりゃそうだ」
そう言って煮え切らないものを感じながらも、ランサーが手の中に残していた槍を消す。
ジオウもまたその言葉に同意するように変身を解除した。
倒したはずなのに、
ソウゴたち一行が目的を果たすべくその場を離れ、見えなくなった後の話。
その場に一人の青年が歩いてくる。本を携えたコートの青年、ウォズ。
彼はアナザーウィザードが爆散した場所を検めると、
ウォズはそれが確かにアナザーウォッチであるのか、確かめるようにまじまじと見つめる。
「これは確かにアナザーウィザードのウォッチ。何故これがここに……?」
「無論、俺の企みだ」
ガチリ、と。ウォズの動きが不自然に止まる。
驚きを隠せない表情のまま停止したウォズの背後から、ファントムにウォッチを仕込んだ男が現れる。彼はゆったりと歩きながらウォズへと近づいて、動けない相手に囁きかけた。
「俺が仕込んでおいたウォッチを、勝手に持っていこうとされるのは困るな。
それともウォズ。貴様がアナザーウィザードになり、オーマジオウに代わる新たなる王として立候補してみるか?」
彼は小さく笑みを浮かべつつ、ウォズが手にしていたアナザーウォッチを取り上げる。そのまま数歩離れてから、軽く手を振ってみせる男。
それが合図であったかのように、時間が再び流れ始める。突然の停止から唐突に解放されたウォズが、蹈鞴を踏んでよろめいた。
「―――ッ、我が魔王をさしおいて私が王に? 笑えない冗談だね、スウォルツ」
「目指す権利は誰にでも平等にある。もっとも、それを成し遂げられるだけの力と資格が備わっているかは別の話だがな」
体勢を立て直すと同時、すぐさまスウォルツから距離を取るウォズ。
「君にはその力と資格が備わっていると?」
「―――そうだな。一つ教えておこう。人間には“使うもの”と“使われるもの”がある。
“使うもの”は崇高なる目的を思考するものであり、“使われるもの”には前者の目的を理解できないものだ」
「……なるほど。ならば我が魔王こそが、その“使うもの”に相応しいとは思わないかい?」
ウォズの言葉に小さく笑うスウォルツ。
次の瞬間、彼が突き出した掌から紫紺の光が生じてウォズを襲う。
対してウォズは首から垂らしたストールを翻し、広げながら渦巻かせる。
まるで盾となるように広がる布こそ、ウォズが整えた防御の姿勢。
光と布が激突し、発生する熱と衝撃。
耐え切れずに吹き飛ばされるウォズの体。
「“
吹き飛ばされたウォズが何とか着地し、膝を落とす。そうした彼の体から、保護を目的に展開していた本の頁がバラバラと落ちていく。
そんな中で、しかし彼はスウォルツの持つアナザーウォッチへと鋭い視線を送り続けていた。
「―――そうしてアナザーライダーの力を歴史から吸い出すために、我が魔王を利用する計画、かい?」
「……ふん。ここでこのまま立ち話を続けて、今の段階で常磐ソウゴに見つかる気はない。とは言っておこう。
俺が奴と顔を合わせることがあるならば、それはこの特異点が消滅する瞬間だろうさ」
最早スウォルツはウォズに視線も向けない。
そして彼自身が発光したかと思えば、その姿は一瞬で消えてなくなっていた。
彼がいた場所を苦々しげに見つめるウォズ。
人理焼却とはまた違う目的を持つ敵は、この機に乗じて水面下で動き始めていた。