Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
―――空に孔が開く。
赤茶けた空を浮かべた彼方の世界まで繋がった、巨大なガンマホール。
その黒い孔を通り抜け、三つの影が地球へと降り立った。
降り立つ影、三体全てが黒いネクロム。
それぞれ違うのは角とゴーグル、そしてパーカーの一部の色だけ。
そこが赤、青、黄に分かれた、三色の戦士。
彼らこそが、プロトメガウルオウダーによって変身したダークネクロム。
「英雄の眼魂を回収する」
真っ先にフードを下ろす、ダークネクロム
彼は言いながら指先で背後の二人に指示をする。
ネクロムRの態度に対して肩を竦め、
三人揃ってフードを下ろす、街中に降り立った彼ら。
その姿は、誰にも視認されることなく―――
その場で破壊行為を開始した。
特殊溶液を拳に纏い、その腕を振り抜いて光弾として飛ばす。
着弾すればそれは爆発し、周囲を炎上させる。
突如、通常の人間には見えない物体が開始する破壊。
そんな事態に見舞われ、多くの人間が悲鳴と共に逃げ惑い始めた。
見えない破壊に対し、どこへ逃げればいいのか―――
戸惑いながらも悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく民衆。
ダークネクロムたちは街を破壊するが、人は狙わない。
地球の人間もまた、彼らの主による救済の対象だからだ。
アルゴスは、この作戦における犠牲は最低限に留める―――そういう意思を彼らに示した。
地球の人間にそこまで配慮する理由はない、と思ってはいる。
が、主に反抗する理由にはその程度では弱すぎるだろう。
歯向かった相手を許すような主でもない。
無計画に破壊すれば人間を巻き込む。
故に、彼らはある程度考えながらの破壊を要求された。
つまりは普通にやるよりは、余計に手間がかかるということだ。
ダークネクロムRが面倒な任に対し、小さく鼻を鳴らした。
しかしそれでも任務は忠実にこなし、街を火の海に変えていく。
―――そんな彼らの前に飛び込んでくる浅緑の服。
ダークネクロム三体の前に割り込んできたのは、アランに相違なかった。
彼は大きく息を切らしながら、メガウルオウダーを握っている。
「ネクロム……! プロトタイプか! 何者だ、貴様たち!」
「ようこそ、いらっしゃいアラン様。お前の兄から命令が下っている。
貴様が持っているグリムとサンゾウの眼魂、ここで奪わせて貰おうか」
やっと面白くなってくる、と。
楽しげに声を張り上げるネクロムR。
そんな相手の態度に顔を顰めるアラン。
彼は破壊された街並みを一通り見回し、歯を食い縛る。
「―――英雄の眼魂が狙い……?
そのために街をこのような……! こうして、破壊したのか!」
〈スタンバイ!〉
肩を竦めるダークネクロムたち。
その前で、アランが腕にメガウルオウダーを装着。
ネクロム眼魂を起動し、すぐさまスローンへと投入。
メインユニットを立ち上げる。
そうして解き放たれる、ネクロムパーカーゴースト。
〈イエッサー! ローディング…〉
「変身!」
眼魂に特殊溶液、ウルオーデューが滴下される。
反応して輝くネクロム眼魂。
放出される神秘のエネルギーが、アランの姿を白いトランジェントで覆っていく。
〈テンガン! ネクロム! メガウルオウド!〉
舞い降りる黒とライトグリーンのパーカー。
腕を振るってそれを纏い、フードを外して襟を正す。
ネクロムへと変わったアランは、即座に駆け出していた。
―――赤のダークネクロムが対応する。
突き出される拳に対し、反撃するように振るわれる拳。
互いに拳を放った二人のネクロムが、空中で腕を交差させた。
拳を打ち合い、双方ともに火花を散らして蹈鞴を踏む。
その状態から、僅かにアランのネクロムが先に体勢を立て直した。
すぐさま彼はネクロムRの腕に掴みかかり、捻じ伏せる。
ネクロムRがそうされたところで、BとYは動かない。
彼らの動きにマスクの下で眉を顰めるアラン。
「アデルは何を考えている……! これまでとは全く……!」
「―――残念だが。お前の兄とは言ったが、アデルなどとは言っていない」
笑い声を交えながら、ネクロムRはそう言った。
―――直後。
彼らの頭上に残っているガンマホール。
その真横に、新たなガンマホールが展開された。
「―――なに……!?」
赤い相手を組み伏せながら、ネクロムが空を見上げる。
眼魔世界と繋ぐホールは未だに開いたままだ。
新しい門を開く必要などどこにもないというのに。
空が割れ、新たなガンマホールから影が一つ舞い降りてくる。
その姿を目の当たりにして、アランが呆然と呟いた。
「ゴー、スト……!?」
それは正しく天空寺タケルのもう一つの姿。
仮面ライダーゴーストと酷似していた。
違うのは黒とオレンジのゴーストであるタケルと違い、黒と白のゴーストだということだ。
ゴーストと呼ばれたそれは、喉の奥から小さく笑い声を漏らした。
「……そう、ゴーストだ。お前の知る、天空寺タケルと同じな」
「――――なんだ、いや……! その、声……!?」
ネクロムがネクロムRを手放し、ゴーストを見る。
その隙に離脱したRに蹴り飛ばされ、アランは大きく揺らいだ。
必死に踏み止まりながら、彼は白黒のゴースト―――ダークゴーストを見つめる。
「久しぶりだな、アラン。父上のことは……残念だった。
だが安心するといい。アデルには私から言い含めておこう。
今度は私たち全員で、亡き父上と母上に祈りを捧げようじゃないか―――」
「ッ、アルゴス……兄上……!? なぜ、死んだはずでは……!」
同じような説明をさせられることに苦笑しつつ、ダークゴーストは一歩踏み出す。
そうして口を開こうとした彼が―――
「―――来たか」
アランから視線を外す。
彼が新たに目を向ける先で、急ブレーキをかけ停車する車。
そこから降りてくる人間たちの中に、天空寺タケルを見つけ―――
アルゴスはその手に一つの眼魂を取り出した。
「アラン様!」
「下がっていろ、カノン。アラン、無事か?」
「あ、ああ……」
飛び出そうとするカノンを止めつつ、マコトも降りてくる。
彼の腰には既にゴーストドライバーが出現していた。
「ようこそ、スペクター。会うのは初めてだが、お前のことは知っている。
―――私の名はアルゴス。アランとアデル、アリアの兄だ」
―――そんな彼らの中に半ば強制的に混ぜられていた男。
ジャベルが酷く困惑した顔で、ダークゴーストとネクロムの間で視線を行き来させる。
アルゴスは眼魔百年戦争の折、戦死した大帝一族の長兄だ。
「何故、アルゴス様が……!?」
ジャベルを一瞥し、彼はすぐに視線を外す。
そうしてアルゴスは、ただただ天空寺タケルへと向けた視線を強くする。
黒い虚のような、ダークゴーストの目の輝きを。
「……あんたは……」
「待っていたぞ、天空寺タケル。お前たちの持つ英雄の眼魂。
その全てを貰い受けるためにな」
彼が万感の念を込めたその言葉。
その言葉に込められた執念に、タケルが僅かに体を震わせる。
目覚めたあの時から、あらゆる感情はダイレクトに彼の心に刺さってくる。
そんな中でも一際強いその想いに、彼は強く睨み返すことで応えた。
「英雄の眼魂を集めて何をする気だ……!」
「ふっ、そうだな……世界を意のままに創り変える神の力。
それを手にするため、という事になるだろう」
何のことはない、と。
ダークゴーストは気負いもなく、そう答えた。
「つまりグレートアイに……!」
タケルが腕を突き出す。そこに浮かぶ、∞の可能性の具現。
人間の可能性を現出する神秘の力。
彼はそれを掴み取り、即座にドライバーへと装填した。
それを見ていたアルゴスもまた、眼魂を起動して交換。
〈ムゲンシンカ!! アーイ! バッチリミナァー! バッチリミナァーッ!〉
タケルのドライバーから純白のパーカーが解き放たれる。
空舞う軌跡に光と羽毛を散らし、光の衣は強く輝いた。
ただそこにあるだけで感じる力の奔流。
その別次元の力を察し、ダークネクロムたちが一歩退いた。
「変身!!」
タケルがドライバーのトリガーを引く。
同じくアルゴスがドライバーのトリガーを引く。
配下と違いまるで動じた様子もなく、彼は神なるゴーストに向き合ってみせる。
〈チョーカイガン! ムゲン!! キープ・オン・ゴーイング! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴッドゴースト!!〉
〈カイガン! ダーウィン! 議論! 結論! 進化論!〉
虹色の輝くゴーストが誕生し、純白のパーカーを纏い―――
その対面で、ダークゴーストはオレンジのパーカーに覆われていた。
初めて見る英雄眼魂に対し、タケルが僅かに驚きを示す。
ほんの一瞬のその間に、
〈ダイカイガン! ダーウィン! オメガドライブ!!〉
ダークゴーストは再びドライバーを引き絞る。
瞬間、ダークゴーストは赤と青の光に変わった。
螺旋を描く二色の光の粒子。
それはDNAコードのような形状で奔り、一息にムゲン魂を呑み込んだ。
「うっ、ぐッ……!?」
「タケル!?」
光に纏わりつかれたムゲン魂が膝を落とす。
ムゲンに膨れ上がるエネルギーが、湧く度にそのままどこかへ消えていく。
そんな目の前の光景に、アカリが唖然として声を上げた。
進化したゴーストの圧倒的な力。
それは今までの戦いを見て、十分なほどに分かっていた。
だというのに。そのムゲン魂は、こうして当然のように膝をつかされている。
「こ、の……ッ!」
しかし力を振り絞り、タケルはそこで何とか踏み止まった。
力を入れ直し、ゴーストが崩れた体勢を立て直そうとする。
「凄まじいパワーだ! 天空寺タケル、人間の進化の可能性の具現―――!
だがそれが人間の進化の延長線上にある以上、ダーウィンならば――――!!」
ゴーストとダークゴースト。
二人のゴーストが放つ光が混じり、弾け合って消えていく。
――――二つの光は、相殺。
だが、それでも。
タケルが拳を握り締めて力を振り絞れば、徐々に削ぎ切れなくなっていく。
「負け、るかッ……!」
「流石だ―――やはり、これだけでは抑えきれないようだ。
いいぞ、天空寺タケル……! 凄まじい力だ!
貴様が力を示せば示すほど、私の計画は間違っていなかったという確信を得られる!」
虹色の粒子がスパークする。
ゆっくりとだが、ムゲン魂はその拘束を振り解いていく。
その事実に喜色を浮かべたアルゴスが、続けて叫んだ。
「だが今はこれで十分。
さあ、今のうちにこいつから英雄の眼魂を奪え!」
指示に従い、ネクロムB、Yが動き出す。
ネクロムRが立ちはだかるのはアランの前。
アランもまた即座にネクロムRに組み付き、背後に叫んだ。
「マコト!」
「ああ―――!」
〈ダイブ・トゥ・ディープ…〉
〈ゲンカイガン! ディープスペクター!〉
アランが敵を一人抑えている間に、マコトが走る。
銀色のトランジェントと、深紫色のパーカーを纏い。
彼は拘束されたタケルから、眼魂を奪おうとするダークネクロムたちの前に立ち塞がる。
前に出ると同時、腕を払ってイエローを薙ぎ倒す。
そこから流れるように、ブルーとの組み合いへと持ち込む。
圧倒的なパワー差。
組み合ったネクロムBの両腕が軋みを上げる。
このまま続ければ、十秒と保たない。
それほどの隔絶した差を理解し、ネクロムBが舌打ちした。
「チィ……ッ!」
そのまま相手を粉砕せんと、マコトは更なる力を込めて、
―――その瞬間。
ダークネクロムたちが通り抜けてきた、ガンマホールが唸りを上げた。
咄嗟に見上げたマコトの視界に、黒い怪人の姿が映る。
「――――ッ!?」
「リヨン――――ッ!!」
その両足で大地を砕きながら着地し、黒い怪物が吼えた。
黒い一つ目の怪人。
肉体を変貌させたダントン―――エヴォリュード。
彼はダークネクロムたちが眼魔世界側に残したゲートを通り―――
目的を果たすため、こちらの世界へと降り立ったのだ。
「ダントン……ッ!?」
すぐさまネクロムBを押し飛ばし、襲撃に備える。
既にマコトはドライバーへと手をかけていた。
少しでも力の差を埋めるべく、ゲキコウスペクターへ……
「フハハ――――!」
だがその前にダントンが動き出す。
彼は何の迷いもなく突撃する。
―――スペクターが弾き飛ばした、ネクロムBへと。
ダントンに対し一切注意を払っていなかったネクロムB。
驚愕する暇もなく、彼にエヴォリュードの拳が撃ち込まれる。
背中を粉砕し、そのまま胸から突き出る黒い腕。
突き抜けたダントンの手の中には、ネクロムBの本体であろう眼魂があった。
「キ、サマ……何を、っ!?」
相手が言葉を追える前に、眼魂が握り潰される。
変身を解除する暇さえなく、消え失せるダークネクロムB―――ジェビル。
装着していたものを失って地面に転がるプロトメガウルオウダー。
―――それを拾い上げ、ダントンが静かに笑う。
「……イーディスの作ったものを使うのは気が進まんが……
だが、これで手に入れた……ガンマホールとやらを作り出す手段をな」
「――――ッ!」
そうして、自分の腕にメガウルオウダーを巻き付けるダントン。
彼が首をぐるりと巡らせ、ディープスペクターを見据えた。
即座に、ディープスペクターはその翼を解き放つ。
〈ゲンカイダイカイガン! ゲキコウスペクター!〉
〈デッドゴー! 激怒! ギ・リ・ギ・リ! ゴースト!!〉
一瞬だけタケルの方へ視線を向ける。
そちらに助力したいが、ダントンを無視するわけにはいかない。
恐らく奴は自分に執着している、というのは分かっている。
幸い、ダークネクロム一体が消えた。
相手が二体のダークネクロムならば、アランたちだけでも―――
思考している間に、エヴォリュードが踏み込んでくる。
激突され、力で負けるスペクターが一気に押し込まれた。
それでも耐えるために炎の翼を大きく噴きだし―――
「会いたかった……会いたかったぞ、息子よ――――!」
「なに……!?」
ダントンのその言葉を聞いた瞬間、脳裏に何かの記憶がフラッシュバックする。
液体に満ちたどこか―――水槽。
そこから自分を取り上げる、大きな腕。
耳に、残る……自分を取り上げた腕の持ち主が歌う、何かの歌。
頭の中に響く歌に心が振れる。
相手の突撃に踏み止まっていたマコト、その足から力が抜ける。
瞬間、エヴォリュードはゲキコウスペクターの両腕を掴んだ。
「!?」
「さあ、帰ろう! 私たちの家に!」
深淵の炎の出力を捻じ伏せて、エヴォリュードは完全にスペクターを拘束。
そのまますぐに空を見上げ、彼は飛び立った。
未だに開いている眼魔世界と繋がるガンマホールへ。
マコトを捕まえたまま、そこに飛び込んでいくダントン。
「放せ! 貴様、何を……!?」
聞く耳を持たず、エヴォリュードは眼魔世界に消えていく。
彼が向こう側に行った瞬間、計ったようにガンマホールが完全に閉じる。
「お兄ちゃん!」
その光景に、咄嗟に前に出ようとするカノン。
そうして一歩を踏み出した瞬間、その場にネクロムYが割り込んだ。
カノンを捕まえようと伸ばされる腕。
彼女がそれに反応できるはずもなく、
「やらせま、せん―――!」
―――代わりに、ラウンドシールドがその腕を打ち払った。
直後、前に出たマシュの肩を蹴り武蔵が跳び込む。
その切っ先が向けられるのは、ネクロムYの腕―――プロトメガウルオウダー。
半身を引き、メガウルオウダーを庇うネクロムY。
胴体を切り裂く双つの刃。
だがネクロムは斬られた部分を即座に液体化し、その攻撃から逃れる。
本体の眼魂さえ無事ならば、エネルギーが続く限りネクロムは不死身。
だが一貫したプロトメガウルオウダーを狙う攻撃に対し、彼女は舌打ちしてそのまま後退る。
そちらに意識を向けていたのだろう。
ゴーストを取り巻く赤と青の光から、アルゴスの声がする。
「予定通りスペクターは消えた。
後は奴から三つの英雄眼魂を手に入れるため、妹を捕えるだけ」
「予定、通り……!? 仲間がやられたのも、予定通りだって言うのか……!」
ギリギリと全身を軋ませながら、ムゲン魂が力を更に増す。
今砕かれたネクロムBだった眼魔の眼魂。
あれは恐らく―――普通の眼魔のような、行動用ボディなどではなかったはずだ。
目の間で消えていく魂の鼓動を、タケルは確かに感じた。
その反応の意図を理解した上で、アルゴスは笑って返す。
「ああ。全ては私の脚本通り。必要な犠牲だったのだ」
「ぐ、ぅ……ハァアアア―――ッ!」
ゴーストが更に力を籠め、全身から光を放つ。
赤と青の光の粒子と化して舞うダークゴースト。
ぶつかり合う光の粒子が、その場で盛大にスパークした。
「お前の反応も予定通りだ。この後の展開もな」
全エネルギーを振り絞り、ダーウィンの力に対抗するムゲン魂。
このまま行けば、十数秒程度でダークゴーストの方が焼き切られるだろう。
予測していたよりもゴーストの力が強大で、余裕はない。
だがその事実は、むしろ喜ばしい。
彼の力の強大さは―――そのまま神の器の強靭さに繋がるのだから。
ダーウィンと力を衝突させるムゲン。
―――その背中に、暗い炎が衝突する。
迸る火柱が一気に燃え上がり、ゴーストを一息に呑み込んだ。
純白の衣が炎で照り返し、赤黒く輝いた。
「がぁ……ッ!?」
ゴーストが膝を落とし、そのまま炎に呑み込まれる。
力を削ぐことに集中しながら、しかし。
アルゴスがその人物の到来に対し、楽しそうに声を上げた。
「待っていたぞ、ジャイロ」
「ハッ……大帝一族を守護するのが我が責務ですので」
タケルを背後から撃ったのは白い戦士、ウルティマ。
彼は光の粒子となっているダークゴーストに恭しく頭を垂れた。
そうした後は、すぐさま次の行動に移る。
屈したムゲン魂を背後から殴打し、地面に叩き付ける。
その衝撃で散らばる、10の英雄眼魂。
「ジャイロ……! タケル! 今そちらに……!?」
ネクロムRを振り切ろうとして、しかしネクロムは振り切れない。
互角―――いや、確かに実力はアランの方が上回っている。
だがそれは僅差の話で、真っ当に衝突すれば死闘になるだろう。
そんな時間はない。すぐにどうにかしなくてはならない。
ギリ、とマスクの下で歯を食い縛るアラン。
それを嘲笑うかのようにネクロムRはネクロムに纏わりつき―――
「フン――――ッ!」
「ぬ、……っ!?」
その赤いゴーグルの顔を、青い腕が殴り抜いていた。
殴り飛ばしたネクロムRとアランの間に立つように、歩いてくる青い怪人。
―――眼魔スペリオル。
御成が預かっていたジャベルのものだ。
彼はゆっくりと拳を握り直し、小さく鼻を鳴らした。
「ジャベル……!?」
「……宿と飯の分の借りを返すだけです。
アラン様の捕獲・抹殺任務が無くなったわけではないのは、お忘れなきよう」
殴られた顔面を腕で拭い、ネクロムRが体勢を立て直す。
その間にアランはこの場をジャベルに任せ、走り出していた。
向かう先は当然、叩き伏せられたタケルの許。
「兄上! タケルを放してもらう!」
そう意気込んで迫りくるアラン。
何度となく打ち据えられ、地面に伏せたゴースト。
彼を足蹴にしながら、ジャイロは迫るアランへと視線を向けた。
「させるわけにはいきません、アラン坊ちゃま」
アデルもイゴールもジャイロを重用はしない。
戦う事しかできない彼を、私のために戦えばいいと誘ったのがアルゴスだった。
大帝一族であり、戦う事だけを求めてくれるのが、彼だった。
〈デストロイ!〉
緑に輝く流体エネルギーで腕を覆い、ネクロムが迫る。
ゴーストを更に一度踏み付け、ウルティマが拳を握り直しながらそちらを向く。
「退け、ジャイロ―――ッ!!」
〈ダイテンガン! ネクロム! オメガウルオウド!〉
「それは出来ない、ご相談です」
力を纏う、ネクロムの拳が奔る。対して放たれるウルティマの拳。
両者の拳撃が交錯し―――ネクロムが弾けた。
ライトグリーンの光が明滅し、白い体が宙を舞う。
「が……ッ!?」
「アラン様!」
「カノンさん、下がって!」
前に出ようとするカノンをマシュが制する。
その瞬間、武蔵に対する遠距離攻撃をばら撒く事に専念していた、ネクロムYが鼻を鳴らした。
彼女が横に伸ばした腕に投げ込まれる、ジャイロの投げた眼魂。
それを掴み取ったネクロムYは、プロトメガウルオウダーの眼魂を入れ替える。
英雄眼魂を強制的に従える力が、投入された眼魂を支配する。
「さっさと終わらせて帰りましょ」
〈ローディング…〉
放出された青いパーカーがダークネクロムに纏わりつく。
纏ったのはニュートンゴーストパーカー。
彼女は両腕を突き出し、引力と斥力をその場に発生させた。
「チッ……!?」
対象を定めない重力の暴力。
周囲一帯を巻き込む範囲攻撃に対し、マシュは正面から守り抜く。
だがマシュの背中で縮こまっているわけにもいかない。
武蔵は舌打ちをしながらも、斬り込むために跳んだ。
大きく横に回り込む軌道を強いられるが、それでもどうにか―――
〈カイガン! ピタゴラス! 三角の定理! 俺の言う通り!〉
「――――!」
瞬間、武蔵が全力での退避に移る。
重力波の影響のない空間に落ちてくるのは、三角形状のエネルギー弾の雨。
潜り抜けるための隙間さえないその密度に、彼女は大きく退避することを強制された。
周囲に散らばっていく光弾は、場所を問わず破壊していく。
彼女たちの背後でも同じように。
ここに来るために乗り付けたダ・ヴィンチの乗った車が、蜂の巣にされて爆発炎上した。
「ダ・ヴィン――――ッ!?」
「ふん、ダーウィンの力で奪えるだけでもこれほどのエネルギーか……!
やはり私の目に――――狂いはなかった!!」
〈カイガン! カメハメハ! ハワイ! ワイワイ! 治めたい!〉
倒れ伏したゴーストを足蹴にしながら、ダークゴーストがパーカーを変える。
金色のピタゴラスから、金色のカメハメハへ。
直後に彼の周囲の地面が隆起し、活火山の噴火の如くマグマが溢れ出す。
それに巻き込まれ、ムゲン魂が炎の柱の中へと呑み込まれた。
―――噴火の炎はそのままアルゴスがやってきた方のガンマホールへ。
ゴーストの姿を、向こう側の世界に強引に押しやっていく。
「タケル殿――――っ!?」
「チッ、―――フン!」
御成が叫ぶ声を聞き、舌打ちしながらジャベルが拳を振り抜く。
胸を強打されたネクロムRが蹈鞴を踏む。
そこに更なる追撃を仕掛けんと、強く踏み込んでいくスぺリオル。
しかしネクロムRはすぐに腕を横に伸ばし、軽く指を動かした。
「ジャイロ」
呼ばれたジャイロが眼魂を彼に投げつける。
すぐさまメガウルオウダーの眼魂を換装し、彼は纏うパーカーを変えた。
支配されるのは白いパーカー、ベンケイ魂。
〈ローディング…〉
身に纏うと同時、ネクロムRの手の中に出現するガンガンセイバー・ハンマーモード。
それを肩に乗せながら、彼は仁王立ちで相手を待ち受ける。
正面から激突しにきたスペリオルに対して、不動。
拳を振り抜いたジャベルの方が、逆に弾かれる。
そうして弾かれた相手を鼻で笑い、ハンマーで剛撃を叩き込んだ。
「ぐ、おぁ……ッ!」
倒れた眼魔スペリオルの変身が解除され、ジャベルに戻る。
そんな彼の目の前で。
倒れていたネクロムが頭を掴まれ、引き起こされる。
アランを引き起こしたジャイロ―――ウルティマの腕が発光した。
その瞬間、ネクロムの放つ光が一気に陰る。
ライトグリーンの光は消え失せ、白いボディが灰色になって崩れ落ちた。
生身に戻った彼の懐から、ジャイロは英雄眼魂を奪い去る。
アランを手放し、地面に放り捨て。
ウルティマがネクロムYの方へと視線を向けた
「後は……」
「スペクターの妹だけね!」
ウルティマが武蔵を目掛けて踏み出す。
そちらに意識を割く必要のなくなったネクロムY。
彼女が操作できる重力を全て、カノンに向けて差し向ける。
「―――マシュ!」
「はい――――! “
白亜の城が光臨する。
後ろに庇う皆を守り抜くために広げた、無敵の城壁。
その堅牢さは今更に言うまでもなく―――
「ふっ――――!」
だからこそ、無敵の城壁は無敵のまま。
役目を果たせなくなる。
大地を食い破るマグマの奔流が、マシュの立つ地面を粉砕する。
足場を失ってなお、その城壁は破れない。
だがその状態で彼女が、その場に踏み止まることなどできるはずもなく―――
「っ……!?」
〈カイガン! コロンブス! さぁ行こうかい! 大航海!〉
無敵のまま空に浮いた城が、虚空から押し寄せる大津波に呑み込まれた。
盾は破られない。
ただ破られないままに、踏み止まれずに押し流されていく。
「マシュ!?」
悲鳴染みた声を上げる立香。
彼女の前で、ダークゴーストがパーカーのフードを取り払う。
錨のような角と、エメラルドグリーンのパーカー。
ダークゴースト・コロンブス魂が、ネクロムYに首を振って指示をした。
「あっ……」
「カノンちゃん!」
守護者を失ったカノンをニュートンの重力が捕まえた。
ふわりと浮く彼女は何の抵抗も出来ず吸い寄せられ―――
すぐさま、その腕を立香が掴んでいた。
そんな立香をアカリが。そして彼女の腕を御成が。
面倒そうにダークゴーストに振り返るネクロムY。
力の細かい制御ができれば三人は吹き飛ばし、カノンだけにすることもできるだろう。
だが強制的に英雄眼魂を従属させているネクロムは、そういう事は不得手だ。
「退くぞ」
何のこともないようにそう返すダークゴースト。
ならば纏めてでいいか、と。
ネクロムYはそのおまけに付いてくる三人ごと周囲の重力を操作した。
二人のダークネクロム、ウルティマ、ダークゴースト。そしてカノンたち。
全員をガンマホールに向けて浮遊させる。
「マス、ター……!」
彼らが通り抜ければ、ガンマホールは閉じていく。
それを苦渋の顔で見るしかないマシュが体を起こし―――
次の瞬間、車両から伸びてきたアームが、彼女と武蔵を掴んだ。
いきなり掴まれた武蔵が声を上げる。
「ダ・ヴィンチ!? 生きてる!?」
爆発炎上した車は、しかしまだ何とか動いている。
とはいえ、内部ではあらゆるところがアラート音を吐いているが。
彼女たちを車内に放り込んで、続けて回収されるのはアランとジャベル。
『―――悪いね。あのゴーストがいるうちは、ちょっと動けなかったんだ。
……ここで目をつけられてたら、多分終わってたから』
低い声でそう呟き、彼女は即座に車両を飛行モードに変えた。
言いながらも全速力で車を飛行させる。
そうして彼女はホールが閉じる前に強引に空間の歪みに突入し、僅かに顔を顰めた。
―――帰還したアルゴスが、真っ先に神の器に向かった。
回収に成功した12の英雄眼魂。
後は人質の代わりにスペクターから3つの眼魂を回収すればいい。
ダントンの相手は面倒だが、仕方ない。
どちらにせよ彼も人間の可能性を人工的にであっても突き詰めた存在。
ダーウィンと他の眼魂を合わせれば、十分に処理できるだろう。
確認した限り少なくとも、天空寺タケルほどの脅威ではない。
後はこの世界に放逐した天空寺タケルの魂だが―――
折角の神の生誕だ。彼にも是非立ち会ってほしいものである。
そんな事を考えながら、彼はゆっくりと神の器を収めた場所に眼魂を並べていく。
今この場に揃うのは97。
残るはノブナガ、ツタンカーメン、フーディーニ――――
「……? 何だ、何が……?」
そうして並べてみて、初めて気づく。
並べた眼魂が96個しかない。
アルゴスはすぐさま、その眼魂を全て検め直していく。
足りないのは一つ。全部確認すれば、何が足りないのかはすぐに分かる。
調べ直していた彼の手が止まる。
今ここにない眼魂を理解した。
そうして、それが一体どこにあるのかも。
どうしてそんなことが可能だったのかは分からない。
いつの間にそうなったのかも。
確かにその眼魂はこの眼魂島にあったはずだ。
だが確実に、残る眼魂の場所はそこしかないと確信できる。
アルゴスの口が、最後の眼魂の在処の名を忌々しげに呟いた。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ……!」
ダーウィン火のエル説。
イグアナゴーストライカーは…?