Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
高台でギフトとキューブホエールの戦闘を見つめるディエンド。
彼は手の中で大王者の資格を弄びながら、背後に現れた気配の正体を察する。
振り返ってみれば、そこにいるのは青い怪人、バングレイ。
バングレイもまた、今に至るまでの状況はおおよそ把握している。
鎧の記憶を覗いた時点で、情報は収集できていた。
「なるほどねぇ、そいつが巨獣ちゃんを目覚めさせる鍵だったってわけ。
愛しの巨大クジラちゃんを起こしてくれて、バリ感謝! ってか?
でよぉ、ものは相談なんだが……」
バリブレイドで肩を叩きながら、バングレイがディエンドを見据える。
対し、海東は手の中で大王者の資格をくるりと回した。
掴み直したお宝を手に、彼は小さく微笑む。
「この大王者の資格も欲しいって?」
「ああ! そうそう、それそれ!
それさぁ……風切大和の目の前でぶち壊してやったら、どんな顔するか見たくてさぁ!」
肩に乗せた剣の柄を指で叩き、バングレイが嗤う。
そんな怪人の様子に肩を竦め、海東は彼の奥に見える光景に視線を向けた。
バングレイの船が墜落して爆発炎上。
戦場に炎の柱を立てて、吹き飛んでいく様を見る。
「帰りの足を無くしたみたいだけど、随分と余裕じゃないか」
「―――ああ、まあな。宇宙海賊の船が近くに来てるらしいしぃ?
一緒に乗せてもらえりゃ何とかなるんじゃねえ?」
そう言って、バングレイは剣を握った右腕の指を振る。
確かに、バングレイの能力ならばそれも容易い。
マーベラスの記憶を読み、彼らの船がどこにあるかは把握したのだろう。
後は誰かの記憶からキャプテン・マーベラスを再生すればいい。
そうして船長のコピーに呼び出させたうえで、乗っ取ってしまう。
それだけでゴーカイガレオンはバングレイのものだ。
本人たちを倒せれば、の話だが。
「それにもう一つ……考えが浮かんだわけよ。なあ?」
言いながら首を捻り、ディエンドを見据える六つの目。
彼の視線が自身の頭を見ていると理解し、小さく息を吐く海東。
致し方なし、と。彼はホルダーからカードを抜く。
「生憎だが、僕は利用されるのが大嫌いでね。
君は君で勝手にやりたまえ。僕の邪魔をするなら―――容赦はしないよ」
ディエンドがカードを銃に差し込み、展開させる。
その流れで突き出される銃口。
攻撃の予兆に対し、即応したバングレイ。
彼が大剣を振るい、同時に腹から砲撃を放った。
衝撃波と弾幕を前に、ディエンドライバーがカードを読み込む。
〈カメンライド! カイザ! 斬鬼! スカル!〉
Xの字が描かれた頭部。
黄金に輝く二本並んだラインを全身に走らせる戦士。
即ち仮面ライダーカイザ。
深緑の体に額に生やした一本角。
エレキギター型の武装を手に引っ提げた鬼。
即ち仮面ライダー斬鬼。
黒いボディに、骸骨を思わせるマスク。
左手に持った白い帽子を頭に乗せ、彼は帽子のつばで顔を隠した。
即ち仮面ライダースカル。
召喚されたライダーたちが、即座に動く。
放たれた剣撃を音撃弦・烈雷で切り払う斬鬼。
雪崩れ込む銃撃をスカルがスカルマグナムによる銃撃で撃ち落とし―――
主武装・カイザブレイガンをブレードモードに変えたカイザが走る。
「じゃ、後はよろしく」
ひらりと手を振り、ディエンドはそう言い残しながら背を向ける。
バングレイなど一切相手をするつもりはない。
彼はキューブホエール確保のために動き、その高台から飛び降りようとして、
「―――ああ! やると思ってたぜ!」
高速移動に入ったバングレイがカイザを抜き去り、ディエンドに向かう。
その動きに遅れ、足を止めるカイザ。
斬鬼とスカルもまた、擦り抜けていく怪人の動きを追って振り返り―――
彼らの目の前で、ディエンドの頭部にバングレイの右腕が掠めた。
飛び降りずにその場に留まり、右手を引き戻すバングレイ。
飛び降りて空中にありながらディエンドが振り返り、足を止めた相手を見る。
今の接触で記憶を読めたのかどうか分からないが―――
止まったバングレイの背後で、召喚ライダーたちが武装を構え直していた。
このタイミングなら何か再現されても諸共に巻き込めるだろう。
更に海東自身も更にカードを引き抜くと、ディエンドライバーにセットする。
「僕から記憶を盗もうなんて、随分とやってくれるじゃないか。
ただ、僕が大人しく盗ませるとは思わないで欲しいな」
三人の攻撃が彼の背中に直撃した瞬間、トドメに決めるつもりで。
ディエンドはドライバーのグリップに手をかけつつ、空中で体勢を変えた。
そんな姿を見ながらも、バングレイは余裕を持って目を輝かせる。
「いやぁ? 借りるだけだよ。借・り・る・だ・け!
とりあえず……新しい足を捕まえるまで、代わりになりそうなもんをよ!」
言い放つと同時、輝くバングレイの黄金の瞳。
―――瞬間、大地が砕けた。
高台を粉砕しながら地面を突き破り、頭を出してくるのは巨大な銀色の頭。
圧倒的な巨体が、丘を爆砕しながら空へと飛び立った。
「――――クライス要塞……!?」
銀色の昆虫のような巨大空中要塞―――その名をクライス要塞。
地球征服を目論んだクライシス帝国の地球侵略前線基地。
同時に、仮面ライダーディケイドによって大ショッカーの旗艦として使われたもの。
それに砕かれた高台にいた召喚ライダーが、巻き込まれて消滅する。
要塞の飛翔が起こした衝撃で、空中で更に吹き飛ばされるディエンド。
彼の視界が、要塞が向かって行く天空にもう一つの巨大な影を見た。
「……ギガントホース……!」
空を見上げる事になった海東の視界に入る、2頭の馬に牽かれた戦車の如き大戦艦。
宇宙帝国ザンギャックが地球侵略に使用した旗艦・ギガントホース。
それを見つけた瞬間、ギガントホースの全砲門が赤く輝いた。
「チィ……ッ!」
〈ファイナルアタックライド! ディ・ディ・ディ・ディエンド!!〉
攻撃のために準備していたドライバーを空に向ける。
カード状のエネルギーを円を描くように並べたリングが前方に並ぶ。
引き金を引けば、銃口から吐き出された青い光がその環を通り肥大化していく。
青い極光はそのまま空へと奔り――――
逆に空から降り注ぐ戦艦の砲撃に呑まれ、消滅した。
「ヒャハハハハ! バリスゲーじゃん! さっすが宇宙帝国ザンギャック!
海賊なんぞに潰された帝国にしちゃあ、いいもん持ってんじゃーん!」
クライス要塞の頭部に乗ったバングレイ。
彼が右手に握るのは鷹のエンブレム。
そしてそのエンブレムが合わさるのだろう、一枚のプレート。
その玩具を振り回しながら、彼は嬉々として爆笑した。
そうやって笑いながら、彼は足でがんがんと要塞の頭部を蹴り付ける。
ひとしきり笑った彼が顔を持ち上げ、キューブホエールを見た。
ギフトカスタムと戦闘を続けるその巨獣。
まずはあの周囲のもの全てに噛み付くような性格の矯正だ。
すぐに殺すのは趣味じゃない。
思うさま甚振り尽くしてから、殺して捨てるのがバングレイ流。
「っと、」
そこまで考えて、気付く。
ディエンドの持っていた大王者の資格の回収を忘れていた。
面白い玩具を手に入れて、近頃の鬱憤が爆発してしまっていたのだろう。
クライス要塞の頭から身を乗り出し、眼下の様子を確認する。
今ので壊していた、なんてことになったら笑い話にもならない。
いや、風切大和の前で笑い話として話してやるのはありかもしれないが。
「お。ははは! なんだ、バリ頑丈じゃねえか」
変身解除して地を這いずる海東大樹を見つけ、彼は楽しげに笑う。
彼は這いつくばりながらも、未だに大王者の資格を持っていた。
―――手にしていたプレートとエンブレムをクライス要塞に放り込む。
更にクライス要塞とギガントホースをギフトカスタムへと差し向けた。
そうして動き出した要塞の上から、バングレイは獲物目掛けて飛び降りる。
「ギガントホース……!?
―――ディエンドの野郎、記憶を読まれやがったか……!」
バスコと鍔迫り合いしながら、空に浮かんだ要塞にマーベラスが視線を逸らす。
その瞬間、カリブラスターの銃口が火を噴いた。
即座に顔を横に倒し、銃弾を躱す。
側頭部を掠めていく弾丸が火花を散らした。
それによろめいたゴーカイレッドの腹に、バスコの蹴撃が突き刺さる。
マーベラスが離れた瞬間、銃撃の嵐がバスコに向かう。
が、銃弾を凌駕する速度でカリブレードを振るう彼は、全てを切り払う。
「人のこと言えないんじゃない、マーベラス。
現にこうやって、俺ひとりに纏めてボコボコにやられちゃっててさぁ。
さっきの威勢のいい啖呵はどこ行っちゃったんだか」
ブレードを軽く振るい、バスコはそう言って笑う。
蹴り飛ばされたマーベラスが体勢を立て直す。
そうした彼は微かに顔を傾け、バスコの背後で行われている戦闘に視線を送った。
シルバに斬撃を浴びせ、しかし逆にニードルでの反撃を受けるジオウ。
拮抗は一瞬。ジオウの方がすぐに押され始める。
そんな中でマーベラスとソウゴの視線が一瞬交わり―――
彼は肩を竦めて、背後の船員に向け指示を飛ばす。
「はぁ……おい、お前らはシルバの方に行け」
「……一人でバスコとやる気か?」
ゴーカイサーベルを両手に持つブルーが問う。
バスコは確かに最終的にマーベラスが一騎打ちで降した相手だ。
だがその勝負は紙一重。
マーベラスが死んでいても―――両者相討ちでもおかしくない結果だった。
再現とはいえ、実力は本物同等。
そんな相手を一人で相手にするなど、幾らマーベラスであっても……
「いや。さっさとバスコを始末する気だ」
だが彼は自信満々にそう言い切った。
そうして、彼が首だけ捻って顔を後ろに向ける。
「―――俺がお前たちに嘘を吐いたことがあるか?」
余りにも何の衒いもなく吐かれた言葉。
それに思わず頷きそうになり―――しかしハカセがはたと止まった。
「……いや、すっごい嘘吐かれたことあるけど?」
「あたしたちはその言葉聞く前にやられてたけど、よく言えたもんだわ」
「マーベラスさんにはマーベラスさんなりのお考えがあったのは分かりますが……」
呆れながらワイヤーを引き戻し、剣を回すルカ。
彼女の隣で銃口を下ろし、アイムが困ったように首を傾げる。
そんな二人の前に出て、精一杯フォローするように声を荒げる鎧。
「自信満々に言い切ることで相手に深く考えさせずなあなあで済ませる!
流石はマーベラスさん! なんかこう……凄いです!」
ゴーカイシルバーを小突きながら、更に前に一歩踏み出すレッド。
イエローはそんな彼の後ろで肩を竦めてみせた。
―――前に出るマーベラスの背を目で追うブルー。
彼に対して、船長はもう一度問いかける。
「なら、それでもう俺のことは信じられなくなったか?」
そんな問いに対し、ジョーは大きく溜め息を吐く。
「……さぁな。ただ一つ言えることは……
俺たちはまだ、海賊戦隊ゴーカイジャーだってことだけだ」
ジョーの言葉に同意するように、四人が笑う。
彼ら船員を背にして、船長もまた笑う。
対するバスコが剣の切っ先を揺らしながら、鼻を鳴らした。
「へえ。マーベラス、部下を一度裏切ったんだ。
そういうとこ、ますますアカレッドに似たんじゃない?
時間の流れってのは残酷だねぇ。
あの可愛かったマベちゃんが、あんなろくでもない赤いオッサンに似てくるなんて」
その言葉には反応せず、五人が戦場を移す。
自分に見向きもせず去っていく五色のゴーカイジャー。
ただ一人残ったゴーカイレッドと対峙しながら、バスコは武器を握り直した。
「気持ち悪い事言ってんな。さっさと終わらせるぞ、バスコ」
「はいはい、さっさとね。さっさと――――」
瞬間、バスコが体を横に振って体勢をずらす。
直後にバスコがいた場所に突き出される剣の切っ先。
背後から強襲した剣を目に、彼は小さく笑った。
「普通に戦っちゃ勝てないから、一騎打ちに見せかけて不意打ち?
いいじゃないの! マーベラスもそういうことするお年頃?
アカレッドだけじゃなくて俺からも学んでくれてて、嬉しくなってくるねぇ!」
その切っ先―――ヘイセイバーをカリブレードで打ち払う。
直後、ディケイドアーマー鎧武フォームに降り注ぐカリブラスターの弾丸。
全身から火花を噴き散らし、ジオウが押し返される。
そうなった瞬間、ゴーカイレッドが走り出した。
「―――やれ!!」
「ああ、行くよ――――!」
〈フィニッシュタイム! ギリギリスラッシュ!!〉
ヘイセイバーを弾かれながら、ジオウはもう一振りの刃を大地に突き立てる。
地面を通じ、バスコの周囲で膨れ上がるエネルギー。
それを感じながら、彼は一切の余裕を崩さない。
「無駄だって。これでもマーベラスに負けたこと、反省してんのよ?
動きを止められるような真似は、二度とさせないって―――」
この攻撃は自分を拘束するためのもの。
動きが封じられたバスコに対し斬り込み、マーベラスが決めるためのものだろう。
だが、バスコには自信―――否、確信があった。
拘束が自分を捕らえる前に斬り捨て、そのままマーベラスを撃ち抜ける確信が。
だからこそ彼はその位置で待ち受け―――
「―――――」
そこで、止まった。
ジカンギレードに装着されたウォッチは、仮面ライダーバロン。
そのエネルギーが形成したのは、地面から生えてくる無数のバナナ。
大地から突き上げてくるバナナを前に、バスコの反応が遅れた。
絶対の自信が崩れ落ちる。
即座に斬り捨てるつもりだった意識に空白ができる。
「―――チィッ……!」
一瞬後に意識を取り戻しても、遅い。
無数のバナナは槍となり、バスコの全身を囲うように彼を拘束した。
動きが封じられ、圧迫された体が軋む。
それでも彼は腕を動かし、銃口をマーベラスへと向けてみせた。
〈ファイナルウェーブ!!〉
サーベルとガンにゴーカイレッドとアカレンジャーのキーを装填。
赤く輝く一刀一丁の武装を手に、マーベラスがバスコに迫る。
「―――言う通りかもな。お前に学んだとこもあるのかもしれねえ。
だからこそテメェには負けねえよ。
俺はもう、海賊戦隊ゴーカイジャーのキャプテン・マーベラスだからな!」
カリブラスターが火を噴く。
ゴーカイガンから放たれる赤い弾丸。
同時に放たれた銃弾が、空中でぶつかりあった。
バスコの体が軋み、バナナを粉砕せんと力を籠める。
その彼の前でゴーカイレッドが更に一歩踏み込んだ。
振り抜かれるのはゴーカイサーベル。
赤く輝く刃の軌跡が、光の斬撃を生み出した。
赤い閃光が、ぶつかり合い拮抗していた銃弾に直撃する。
赤い弾丸を後ろから、赤い斬撃が押し込んだ。
二つの攻撃の威力が重なり、増して、加速していく。
カリブラスターの放った弾丸が粉砕される。
貫通して突き進む、赤い衝撃。
体を自由にする前に迫る必殺の攻撃。
それを前にしたバスコが、しかし腕だけは強引に動かした。
盾のように構えられるカリブレード。
「こ、の……ッ!」
刀身に赤い衝撃が突き刺さる。
着弾の威力が周囲を吹き飛ばし、突き立つバナナごと薙ぎ払う。
だがそれにより自由になったことを意識する前に―――
バスコの手の中で、カリブレードが砕け散った。
赤い光が、破壊した剣を突き抜けて更に胸を打ち砕いていく。
―――胸に風穴を開けられ、彼が砕けた剣と銃を取り落とす。
光となって消え始める体。
その状態で、彼は人の姿に戻ることなく喉の奥で笑い声を転がした。
「……あーあー、まさか地面からバナナが生えてくるなんてねぇ。
驚きすぎて動きが止まるなんて、ちょっと間抜けな負け方しちゃったかな……」
力なくぶら下がる腕。
彼がどれほど残った力を入れようと、それが持ち上がることはない。
「間抜けも間抜け、大間抜けだ。
自分で捨てたもんを踏んで転んでりゃ世話ねえぜ」
消え行くバスコ。
彼から視線を逸らさず、マーベラスがその顔を見つめる。
剣を肩に乗せながら吐かれた言葉に、バスコは小さく鼻で笑った。
彼は人の姿に戻ることさえ、しようとしない。
「―――そりゃ捨てるでしょ。
俺の船には、バナナを食べる奴なんていないんだからさ」
私掠船、フリージョーカー。バスコ・タ・ジョロキアの船。
その船の乗組員は、船長である彼だけだ。
彼以外は、誰一人として乗っていない。
ただそれだけの話に何を言う、と。
マーベラスの言葉に笑った彼が、そう言い残す。
直後。光となって解れ、完全にその姿を失っていくバスコ。
彼だった光を視線で追いながら、マーベラスが小さく呟く。
「―――もしそんな奴がお前の船に残ってりゃ……
俺が今、ここに立ってることもなかっただろうさ」
「―――やられた、ね……!
まさか、ビッグマシン計画の産物まで、記憶から再現できる、なんてね……!」
ギガントホースの砲撃で焼け野原となった大地。
そこから逃れて、海岸にまで何とか出てくる海東。
よろめきながら歩いていた彼が、大きく息を吐くとその場で転がった。
丁度そのタイミングで、彼の傍にバングレイが落下してくる。
砂を巻き上げながら着地する青い怪人。
彼は砂を蹴り付けながら、倒れている海東に視線を送った。
「よお、さっきぶり。バリお疲れじゃん? どうかした?」
「少し呆れただけさ。僕が昔使ってたお古の船に乗ってはしゃいでる奴を見かけてね」
「言うねえ。地面に這いつくばってなけりゃあ、もう少し様になっただろうけどな」
ディエンドライバーを上げ―――
しかし銃口を持ち上げきれず、バングレイに向けることさえ叶わない。
彼はバリブレイドを持ち上げて、ゆるりと振りかざす。
「大王者の資格とやらをこっちに大人しく渡せば、見逃してやってもいいぜ?」
笑いながらそう言ってみせるバングレイ。
そのおかしそうな顔を見上げ、海東が眉を顰めた。
「何でってツラ? 分かるぜ、俺が下等生物を見逃す理由なんてねえもんな。
けどお前は別だ。苦しめて面白い表情を見るには、殺すより別の手段があるタイプ。
お前、テメェが手に入れたもんを奪われる時に一番笑える顔しそうじゃん?
だぁかぁらぁ、そのツラ見せて俺を笑わせてくれれば、命は助けてやるってこと」
「―――そんな問いに、僕がなんて答えるか。わざわざ言う必要があるかい?」
楽しげに自分を見下ろすバングレイを見上げ、海東が不快そうに顔を歪める。
腕に力を籠めるほどにブレる銃口。
それでもしてやられたままでは、余りに気に食わない。
「あっそ。ま、どうでもいいけどよ。どうせ、本命は―――お前じゃねえし?」
そう言い切った瞬間、バングレイが剣を振り下ろす。
放たれた衝撃は剣撃のカタチで舞い、伏せる相手を目掛けて奔った。
せめてその範囲から逃れようと必死で体を転がす海東。
当然、そんな動きで逃れ切れるはずもなく―――
「オォオオオオ――――ッ!」
海東は、その攻撃の前に飛び込んできたジュウオウイーグルに救われた。
バリブレイドから放たれた斬撃は彼を直撃。
スーツの表面が爆発し、滝のような火花が撒き散らされる。
その威力を受け墜落したイーグルの変身が解け、砂浜に大和の体が投げ出された。
「頑張るねえ、風切大和! けどよぉ、こっち来てていいのか?
そろそろキューブホエールちゃんがぁ……?」
半笑いしながら、バングレイが視線をそちらに向けた。
ギガントホースからの空爆に、ギフトカスタムもろとも炎に包まれる姿。
反撃しようとするギフトには、クライス要塞が激突。
純粋に圧倒的な質量差で押し飛ばす。
ギガントホースの爆撃を阻めるものはなく、キューブホエールは追い詰められていく。
飛行していた赤い巨体が、海面に叩き付けられた。
悲鳴染みた声で大きく啼くキューブホエール。
「はいドーン! こりゃ捕獲まで秒読みじゃねえか!」
「ぐ、ぅ……!」
砂を握り締め、這いつくばる大和。
彼が顔を上げて、何とかバングレイを睨み付けた。
その視線を見返して、金色の目が愉快げに歪む。
「いいツラだぜぇ? なあ、風切大和。
巨獣……キューブホエール。アイツ、大事なお友達のご先祖さまから、大切に受け継がれてきたんだってなぁ? いいねぇ、繋がってるねぇ……!
クク……! 最高じゃねえか! 俺の目的がガッチリ一致した! 清々しい気分だぜ!
テメェを甚振り! 巨獣を甚振り! 最後にはテメェの大事なこの星も木端微塵!」
握り直した剣。
それを振り被り、バングレイは楽しそうに声を上げる。
「風切大和! テメェは最後まで生かしといてやるよ! 繋がりをこの星ごとぐちゃぐちゃになるまで踏み躙ってから! テメェが浮かべる最期のツラを! この星で得る最高に笑えたもんとして、俺の記憶の中に華々しく飾ってやるぜ!!」
―――剣が振り落とされる。
その前に、
「そんなこと、させてたまるか―――! 野性大解放――――ッ!!」
踏み込みで砂の柱を立て、三色の獣が突撃する。
それを知ってしかし、剣を振り抜くバングレイ。
放たれる衝撃波に突っ込み、粉砕しながらジュウオウザワールドが両腕を振り抜いた。
鰐の尾と狼の爪が放つ力の奔流。
向かってくる攻撃をバリブレイドで受け止め、バングレイが一歩後退る。
直後、そんな彼の頭上から四色の爪が降り注いだ。
〈ジュウオウスラッシュ!!〉
「ぅらぁあああッ!!」
四人の戦士がジュウオウバスターを手に、獣の爪となる。
並ぶ斬撃に斬り付けられ、弾き飛ばされるバングレイ。
彼が斬られた部分から白煙を上げつつ、蹈鞴を踏む。
「オイオイ! 揃って俺の相手かぁ?
キューブホエールちゃんがピンチだってのに薄情な奴ら! バリかわいそー!」
「だからまず、あんたをぶちのめしてあのデカいのを消してやんのよ!」
「今まであなたを助けてた宇宙船はもう無い! 今度こそ逃がさない―――!」
バスターのキューブを入替、銃に変える四人。
彼らは即座にその銃口を突き出し、バングレイに向けて放つ。
〈ジュウオウシュート!!〉
放たれるキューブ型の弾丸。
それが四つ重なり、巨大な塊となって殺到する。
対して腹から砲撃を発射するバングレイ。
互いの砲撃が空中で激突し、破裂した。
拡がっていく爆炎、熱と衝撃。
その不可視の壁をぶち抜きながら、更にバングレイ目掛けて突撃するもの。
ジュウオウザワールドが黒い犀の角を立て、加速していく。
「ワールドザ……! クラァアアアアシュ――――ッ!!」
突っ込んでくるザワールドにバリブレイドを振るう。
角と剣、互いの武器を突き立てんと両者が激突する。
ぶつかり合った衝撃で弾け飛ぶ砂浜。
立ち昇る砂の柱に呑まれながら、操とバングレイが拮抗した。
「これ以上……! お前に好き勝手させるかぁあああッ!!」
「いいやぁ? まだまだ愉しませてもらわねえとなぁ―――ッ!」
隙あらば右手を頭を掴んでやろうと、剣を握る力を操作した。
それを理解して地面を踏み締めながら、ジュウオウザワールドは突進の中で頭を傾ける。
衝突して弾け合いながら離れはしない。
その距離感のまま、交錯する二人。
戦いの様子を見ながら、海東が膝に力を入れ直す。
そうして立ち上がろうとした彼が、その手に握る大王者の資格。
これを持ちあげた瞬間、横合いから引っ掴むための腕が伸びてくる。
反撃をする余裕もなく、引っこ抜かれる大王者の資格。
「―――やれやれ。僕が手に入れたお宝を横取りとは」
ちらりとそちらを見れば、両手で大王者の資格を抱えたオルガマリー。
彼女の視線が眇められ、海東を強く睨みつけていた。
「……そもそも、そっちが先に横取りしたものでしょう。
そんなことより! あのデカいの二体は何なのよ!? どうやって倒せばいいの!」
言って、思い切り空で暴れるクライス要塞とギガントホースを指差す。
キューブホエールは既に着水。沈み始めている。
あとはその所有権をめぐり、二隻の要塞とギフトカスタムが争っているだけ。
とはいえ、見た限りギフトに勝ち目はあるまい。
ギフトカスタムの火器もまた尋常ではないが、ギガントホースに比べれば脆弱だ。
自動操縦で適当に攻撃しているだけだろうに、ギフトはどんどん追い詰められていく。
数分も経てばギフトは粉砕されて、キューブホエールは捕獲される。
その事実を前に、何とか大和も立ち上がった。
「俺たちが……また行きます! キューブホエールを守るためにも……!
そのために今は……バングレイを――――!」
言って、王者の資格を構える大和。
彼は苦痛に震えながら、それでも皆が戦っているバングレイを見据える。
そんな彼の背中を見て、海東は目を細めた。
「……気に入らないね」
ガチャリ、と音を立てて持ち上げられる銃口。
それはバングレイなどではなく、大和の背に向けられていた。
その気配を察して、大和が動きを止める。
こんな状況でのその行動に唖然とし、オルガマリーが顎を落とす。
「あん、た……!」
「何を……!?」
彼の行動に目を白黒させ、二人が揃って海東を呆然と見つける。
「―――君のその態度が気に食わないのさ。
君たちはどうやら、キューブホエールを自分たちが守っていると思っているようだ。
だがあれは、今はフリーのお宝。誰のものでもないよ?」
大和が王者の資格を下ろし、海東に向かって振り返る。
途中、オルガマリーの持つ大王者の資格に視線を止めて―――
そのまま大和は、海東を強く睨み据えた。
「キューブホエールはケタスさんと一緒に、この星を守ってくれた存在だ……!
この星で生きている、俺たちの仲間だ――――!」
「けどそのケタスとかいうジューマンは……
自分がジューランドに引っ込む時、彼を地球で眠らせて置いていったんだろう?
ペットの不法投棄だ。よろしくないね」
「――――――」
海東の言葉に目を見開いた大和が、キューブホエールを見る。
傷を負って海中に投げ出された赤い巨体。
上げていた慟哭のような声は潜まり、彼は静かにゆっくりと沈んでいく。
「―――僕に仲間や友情なんてものは理解できないが。
本来の持ち主が地球を守るための武器としてしか扱わなかったんだ。
別にお宝として僕が貰ってしまったっていいだろう?」
―――キューブホエールは。
悠久の眠りから目覚め、そうしてこの世界の今を見た。
唯一の友であり、仲間であり、家族であった者が自分を置いていった世界を。
ジュウオウキューブが同族だから。
自分たちがケタスと同じジュウオウジャーだから。
そんなこと、キューブホエールには関係なかったのだ。
彼の感情はケタスにしか向いていない。ケタスしか知らない。
デスガリアンも、バングレイも、海東も、マーベラスたちも―――大和たちも。
キューブホエールにとって、訳の分からない存在でしかなかった。
「この戦いはキューブホエールの争奪戦さ。誰にとっても平等な、ね。
よしたまえ、勝手に彼の仲間面をするのは」
「――――あ……だから、キューブホエールは……」
海上に頭を出している赤い巨体。
それを見ながら、大和が動きを止める。
キューブホエールはただ啼いていただけだ。
地球の力を借り、彼を生み出してくれた存在。
ケタスを求めて。
でも彼はもういない。
彼と最後に分かれてから、ジューランドに行き―――生涯を終えた。
その終の棲み処である世界に、キューブホエールは着いていけなかった。
連れて行って貰えなかった。
キューブホエールはずっと啼いている。
どうして、と。
大和の反応を見た海東が銃を下ろし、踵を返し――――
その瞬間、大和の頭に投げつけられた大王者の資格が直撃した。
「あっ……だっ……!?」
頭にキューブが直撃し、引っ繰り返る大和。
そんな彼の姿を見て、溜め息混じりに海東はオルガマリーに視線を向ける。
「―――やめてくれないか、僕のお宝をぞんざいに扱うのは」
「うっさい!」
オルガマリーは頭痛を堪えるように、額を手で押さえる。
そもそもちょっとした調査のつもりで来ただけだ。
だというのに状況が発展し、ここまで大きくなった。
もう一体どうしてくれようか、という―――
いや、そんなことはどうでもいい話だ。
おおよその流れを聞いて、分かったことがある。
あれは、
「あんたがいま何にショックを受けてるのか、知ったこっちゃないけどね!
こんな奴に言われたまま、固まってる場合じゃないでしょ――――!」
薙ぎ倒された大和が上半身を起こし、手元に転がった大王者の資格を掴む。
そうして、呆然とした様子の彼に見上げられながら、オルガマリーは言葉を続けた。
「……ッ! ああ、もう! お馬鹿なあんたに言ってあげるわよ!
あのデカいのに、教えてあげなきゃいけないでしょう―――?
あんたを求めてるのは、あの怪物連中や海賊だの怪盗だけじゃないって!
――――
「―――――」
自分は何を言うのか、と。
言い切った瞬間、そっぽを向くオルガマリー。
そんな台詞を叩き付けられた大和が、手の中の王者の資格。
そして手元の大王者の資格を見た。
『もう大丈夫だ。きっとこいつが、お前を守ってくれる』
―――いつか。
その言葉と共に鳥男から握らされた王者の資格。
握らされたそれと共に、与えられたジューマンパワー。
母を失い―――そして父を信じられず、逃げだしたあの日。
風切大和は、ジューマンに救われた。
ケタスが残してくれた世界の繋がりが、彼を救う繋がりをくれた。
「そうだ……ッ! 俺が……あの時、救ってもらった俺だから……ッ!
俺がキューブホエールに届けなきゃ……!
今の時代にまで繋がったケタスさんの想いに、救われた俺だから――――!」
ケタスが残したこの世界とジューランドの繋がり。
それが大和を救ってくれた。
両方の世界の未来を憂い、いつか共に歩みたいと願っていただろうケタス。
鳥男、ラリー。ジューマンパワーを分け与えてくれた恩人たち。
彼らの想いこそ、ケタスが未来に夢見た光景に違いないはずだ。
「伝えに行かなきゃ……! キューブホエールに……!」
二つの王者の資格を握り締め、大和が何とか立ち上がる。
彼はそのままジュウオウイーグルに変わろうと、キューブに手をかけようと―――
「……ふぅん。そんな状態で、ギガントホースの爆撃を潜り抜けられるのかい?」
そうした彼の背に、海東が声をかける。
キューブホエールには既に直接攻撃はされていない。
そんな必要もなく、完全に沈黙しているからだ。
だが近づこうとすれば、ギフトカスタムとギガントホースの爆撃を突破しなければならない。
傷ついたジュウオウイーグルで、そんなことが可能とは思えなかった。
「それでも!! 俺が行かなきゃいけない! いや、俺が行きたいんだ!!」
海東の声に動きを止めることもなく、大和はキューブを握る。
そんな彼の背をじぃと見つめ、呆れたように鼻を鳴らす。
直後、海東の背後に浮かび上がる銀色のカーテン。
「そうかい―――」
海東が軽く指を鳴らすと、カーテンが動き出す。
それは一気にスライド移動して―――大和の姿を完全に呑み込んだ。
彼方。
キューブホエールの上に銀色のカーテンが浮かぶ。
ここから一気に飛ばされ、赤い巨体の背中に投げ出される大和。
その様子を目を細めて見て、海東はディエンドライバーを上げた。
「あんた……」
「なら勝手にするといいさ」
ホルダーから引き抜くのは、仮面ライダーディエンドのカード。
それをドライバーに差し込み、変身の準備を整える。
「へえ、随分と風切大和に優しいじゃん! 仲間意識でも芽生えちゃったぁ?」
ゆるりとドライバーの銃口を上に向ける海東。
彼に対して声をかけてくるのはバングレイ。
既に変身解除まで追い込まれた五人が、砂浜に倒れ込み息を荒くする。
そんな相手にトドメを刺すでもなく、彼は大剣を肩に乗せた。
「僕に仲間? 冗談はやめたまえ。僕は常にお宝を目指すだけさ」
〈カメンライド!〉
そのバングレイを前にして、不敵に笑った海東。
彼の指がネオディエンドライバーのトリガーにかけられる。
「あぁん?」
「大王者の資格とキューブホエールを創り出したジューマン、ケタス。
彼が創り切れなかったという理想の世界。
そんな世界が本当に創れるとすれば、大王者の資格やキューブホエール以上のお宝だ。
だとすれば、あの程度のお宝を惜しむ必要はなくなるというだけさ」
ケタスという過去の偉人。
彼が地球の力を借り、創り出したもの。
それが“大王者の資格”、“キューブホエール”、そして“ジューランド”。
だがその生涯を懸けても、彼には創れなかったものがある。
―――“地球とジューランドが再び繋がり、共に生きていく世界”。
もし仮にそれを創れるとすれば、その世界こそがジュウオウジャー最大のお宝だ。
大王者の資格もキューブホエールもジューランドも創れた。
けれどその世界は創れなかった。
この事実だけでも、どちらが上等なお宝か分かるというものだ。
だとするならば、狙うべき真のお宝はそっち。
価値の落ちたお宝に拘泥する気など、一切ない。
〈ディエンド!〉
引かれる銃爪。射出されるライドプレート
特殊鉱石・ディヴァインオレにて構成された装甲が体を包んだ。
変身を完了した頭部にプレートが刺さり、彼の体がシアンに色付いていく。
「さあ、まずは僕の記憶を利用した君にお仕置きをしてあげよう。
特に理由はないけれど、僕は僕の過去を詮索されるのが大嫌いでね――――!!」
ばちゃり、と。大きな水音。
水の中に突然放り出され、そこで転がる大和。
彼が転がったのは、海中に没しつつあるキューブホエールの背中だった。
少し視線を上げれば、彼をここまで運んだ銀色のカーテンが消えていく。
そちらから視線を外し、足元のキューブホエールへ。
「キューブホエール……!」
赤い背中に手をついて、声をかける。
反応は一切ない。
いや。その背中が震えているのが、上に乗る大和にも伝わってくる。
今もなお、啼き続けているのだろう。
こうして彼の背中に乗ったことで、言葉が詰まる。
何という言葉で伝えればいいのか、と。
少しだけ悩み―――しかし、答えはすぐに見つかった。
孤独だった彼を救ってくれた人と、同じことをするだけでいい。
「――――キューブホエール。
もう大丈夫だ、きっとケタスさんの残してくれたものが……あなたを守ってくれる」
手にしていた大王者の資格を、彼の背に置く。
全ての王者の資格の原型となった、地球のパワーの結晶。
キューブホエールと同時に生み出された存在。
その力を背に感じ、彼の意識が向くのを感じた。
大王者の資格に宿った地球のエネルギー。
それがキューブホエールに流れ込み、その傷を癒していく。
少しずつ力を取り戻し始めた彼の背中で、大和は言葉を続ける。
「俺たちの戦いに巻き込んで、ごめん。あなたを苦しめるつもりはなかったんだ」
そのまま手放し、大王者の資格をそこに置く。
これはジューランドと地球を繋ぐ、一番大事なもの。
けれど、それ以上にキューブホエールにとっては大切な形見なのだ。
それを彼に託して、大和は王者の資格を手に立ち上がる。
「守ってみせる……! あなたも、ケタスさんの想いも、この星も、全部!
ケタスさんが託してくれた想いを、こんなところで終わらせないためにも!」
胸の高さに王者の資格を構え、彼は両手でそのキューブを掴む。
―――ケタスはキューブホエールを残し、ジューランドへ去った。
彼はどちらの世界も、どちらの世界に住む命も、愛していたから。
地球の力であるキューブホエールが、地球を守り抜いてくれると信じて―――
ケタスはジューマンと、新たな世界であるジューランドを守り抜くことに命を懸けた。
やがてどちらの世界も落ち着き、繋がりを取り戻した時、再び会えることを信じて。
けれどそんな未来は来なかった。
ケタスは志半ばでジューランドの民に後を託し、この世から去ってしまった。
それを眠りについたキューブホエールが知ることもなかった。
今、こうして目覚めるまでは。
水中で声を上げ、海面を揺らす。
友であり、親であり、相棒であり―――
そんなケタスは、知らぬ間にいってしまった。
いや、こうなることは自分でも分かっていたのだろう。
だが同時に、そうなったときは自分も永遠に眠るだけと思っていただけだ。
なのにこうして無理に起こされ、現実を目の当たりにして―――
赤い巨体が背を大きく揺らす。
その上に立っていた大和が巻き込まれ、思い切り転倒する。
衝撃で立ち昇る水柱の中で、彼が驚いたように声を出す。
「キューブ……ホエール……っ!?」
倒れ込んだ大和の手が、彼が先程置きっぱなしにした大王者の資格に触れた。
地球から溢れ出したエネルギーと、それと合わさったケタスのジューマンパワー。
二つの力の結晶である大王者の資格―――ホエールチェンジガンが感応する。
水中の中で、キューブホエールの目が揺らいだ。
そんな事があるはずないのに、目の前にケタスがいるような。
幻のような光景を前にする。
幻のケタスがゆっくりと、大きく頷いた。
命を懸けて守った世界の中で、ずっと生き続けている。
星とそこに息づく命を愛した男が、その表情だけでそう語った。
これからもこの世界の中で。
私たちが繋いだものがある限り、私たちの想いは生きていくのだ、と。
だから―――と。
―――赤い巨体が浮上した。
巨大なクジラが一つ啼き、天空へと舞い上がる。
「キューブホエールが……!」
「ハハッ、よそ見してる余裕があんのか?」
乱戦になった地上の戦場から、空に舞い上がるキューブホエールが見える。
だがそんなことをすれば、ギガントホースのいい的だ。
だからこそ一瞬注意を奪われ、その瞬間にバングレイの砲撃が襲う。
「破壊! 破壊! 弱化した戦隊粒子反応を完全に抹殺する―――!」
それに留まらず、シルバのバイバスターが更に閃光を追加した。
乱舞する光線と光弾の嵐。
そのただなかで倒れる、変身解除したジュウオウジャーの面々。
「チッ……!」
彼らを守るため、ゴーカイジャーが前に出る。
同時に両手に旗を持つ、鎧武フォームのディケイドアーマーも。
バイバスターの弾幕はもはや光の壁。
そんな攻撃に晒され、盾となった者たちが吹き飛ばされた。
「っぁ……!」
鎧武フォームが解除され、ディケイドアーマーが転がる。
変身が解け転がるのは、ゴーカイジャーたち全員もだ。
倒れ伏した彼らを援護するように、ディエンドライバーが火を噴いた。
だが直撃を受けても怯む様子さえ見せないハンター・シルバ。
彼の反撃がディエンドを襲い、即座に回避運動に移行させる。
「白い方のウォズ! あっちは君の担当だろう?」
「そう言われてもね!」
飛来する二本のシルバーニードル。
その長大な針をデスピアで撃墜しつつ、白ウォズが息を吐く。
シルバの眼光がそちらを向く。
すぐさま上がった銃口から再度放出される閃光。
迎撃し切れなかった光線に焼かれ、キカイの鎧が白煙を噴いた。
赤熱するボディで、彼が膝を落とす。
一通りの光景を見回し、バングレイが嗤う。
そうして彼は、キューブホエールを再び撃墜するため空を見上げ―――
赤い巨大クジラの飛び込んでくる先が、ここだと理解した。
すぐさまギガントホースを動かそうとして、止まる。
こちらに向かってくるキューブホエール。
今の位置で撃たせれば、当たらなかった弾丸はこちらに飛んでくる。
「バリ元気だねぇ、ハントし甲斐があるってもんだぜ!」
ギガントホースはそのままギフトカスタムに当てる。
代わりにクライス要塞をこちらに回す。
キューブホエールに激突するため、巨大昆虫のような戦艦が動き出した。
対応は遅れるが、破れかぶれの突撃でやられるほど間抜けじゃない。
あとは上に乗っているだろう風切大和だ。
どうせ突っ込んでくるだろうから、斬り伏せるつもりで剣を握り直す。
突撃してきた彼を墜とし、踏み付け、その目の前で仲間にトドメを刺していく。
その時に見せるだろう彼の表情を愉しみにしつつ―――
「あん?」
キューブホエールが強引に着地する。
バングレイたちに届く前に、戦場の少し手前で。
砂浜を滑り、舞い上がる砂塵。
それを突き破り、上に乗っていた大和が跳ぶ。
彼は砂の上を転がりながら、仲間たちの許へと飛び込んできた。
すぐさま起き上がり、そのまま駆け寄り声をかける。
「げほっ……! みんな、ごめん! 待たせちゃった!」
「キューブホエールは……正気に戻れたのか?」
身を起こしながら、心配そうに操が問う。
ジュウオウジャーたちごと攻撃するように暴れていたキューブホエール。
今は砂浜に滑り込み、埋もれた巨体。
そちらを見ながらの問いかけに、大和が困ったように微笑む。
「正気っていうか……うん、詳しいことは後で話すよ。けど……」
―――砂上でキューブホエールが大きく咆哮した。
その背中から潮が吹き、飛沫が舞う。
同時にその巨体からミサイルが放たれ、バングレイとシルバを襲った。
「おっと!」
直撃する前に迎撃されるミサイル群。
それが爆炎を撒き散らし、二人の姿を呑み込んだ。
その間に大和は倒れている仲間たちへ手を伸ばす。
彼らを引き起こす間に、大和の視線がキューブホエールへと向かった。
「……俺たちと一緒に守ってくれる、って。
ケタスさんが、大切に想っていたもののことを」
「そーかよ。だったら後はバングレイをぶっ飛ばして!
次にデスガリアンもぶっ飛ばして! そんで……」
立ち上がったレオ。
彼は、自分たちの前で同じように立ち上がり出す海賊たちを見る。
真っ先に立ち上がっていたマーベラスと、レオの視線が交差した。
「それで、次は俺たちもぶっ飛ばすか? 威勢がいいのは嫌いじゃないぜ」
「時間なさそうだから、何か言い合いするなら終わってからにしてよ」
ヘイセイバーを握り、立ち上がるジオウ。
ソウゴはそうして前に出ながら、背後の方も確認する。
空中で頭の向きを変え、こちらに加速し始めているクライス要塞。
それの到来までそう長くない。
もしキューブホエールとの共闘が叶うなら。
ジュウオウジャーの皆は、あちらの巨大マシンたちと戦って貰うことになる。
そんなソウゴに苦笑して―――
大和が、マーベラスたちに頭を下げた。
「ありがとうございました。みんなを守ってくれて。
それと、お願いします! もう少し、俺たちに力を貸して下さい。
ケタスさんが愛していたものを、守り抜くために」
目の前で頭を大きく下げた大和に、マーベラスが眉を顰める。
「で、どうするのマーベラス?
目的だった大王者の資格はジュウオウジャーが手に入れちゃったけど。
僕たち、これから一体どうするの?」
「―――さあな、んなもん後で考えりゃいいさ」
「ですよね! 目の前に地球の平和を脅かす敵がいるんです!
ここで力を合わせて戦うのが、スーパー戦隊です!」
ハカセからの問いに面倒そうに返すマーベラス。
彼の横に飛びついた鎧が、そのまま投げ飛ばされた。
鎧を投げ捨てるとコートから砂を払い、彼は正面の炎に向き直る。
そんな彼の背中に問いかけるジョー。
「つまり?」
「目の前に立ちはだかる敵はぶっ潰す。それだけだ」
「そもそも私たちが大王者の資格を狙っていたのは、バングレイを誘き寄せるためでしたし……こうしてバングレイとの決戦に持ち込めた以上、争う必要もないのではないのでしょうか?」
そう言ってレオの方へと微笑みかけるアイム。
レオは彼女の笑顔を見て相好を崩すと、両腕を胸の前で組んで大きく頷いて見せた。
彼はそのままアイムに向かって歩き出す。
「確かに! バングレイと戦うために手を結ぶべきだな! よろしく!」
「言い合ってる場合じゃないのは確かだしね」
握手しようと差し出されるレオの掌。
セラがそれを後ろから叩き落とし、王者の資格を持ち直す。
既に満身創痍だ。が、それでもここは退けない場面。
同じくタスクも、アムも、操も変身するために構え直した。
「―――なんだよ、仲直りか? だったら俺も仲間に入れてくれよ!
一緒に遊ぼうぜぇ? なあ、風切大和くーん!」
炎を剣閃が払い、バングレイが前に出る。
その後ろに続く銀色のボディ。
突き出した銃口に光を湛え、赤い目を爛々と輝かせるシルバ。
「戦隊粒子反応、先程より増大! 確実に抹殺する!」
バングレイ、そしてシルバ。
圧倒的な戦力は今までの戦いでよく思い知っている。
背後の巨大戦艦とデスガリアンの衝突を無視して、掛かり切りにもなれない。
「……まずは、キューブホエールを狙っているあのでかい戦艦を倒そう!
その後はナリアの乗ったギフトを……!」
―――だとすれば、と。タスクがそう提案する。
キューブホエールと力を合わせる事が出来る今ならば。
彼と協力し、ワイルドトウサイキングであちらを撃破すればいい。
しかしそう言って王者の資格を上げた彼を、大和が制する。
「……いや、まずはバングレイを倒す――――!」
「大和くん……?」
大王者の資格を握り、大和がバングレイを睨む。
そんな視線に晒された青い怪物が、楽しげに肩を揺らした。
「クク、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!
俺の誘いに乗ってくれてありがとよ! んじゃあ、付き合ってくれよ!
テメェの後ろでキューブホエールが八つ裂きにされるまでさァッ!!」
剣を振るう彼の腕。それに応え、シルバが更に前に歩み出す。
全戦隊、全ライダーを抹殺するべく生み出された銀色の狩人。
彼は改めて狩るべき敵を認識し、力を漲らせる。
その強敵の姿を前に、ルカが叫ぶ。
「―――うっさい、バーカ! いつまでも好き勝手できると思ってんじゃないわよ!」
言い切った彼女の隣でマーベラスが腕を組み、不敵に笑う。
「はっ……! つまり、ここでまずバングレイを速攻で潰す。
そんでもって流れで後ろの連中もついでにぶっ飛ばす。それに協力しろってわけか。
面白れぇ、乗ってやろうじゃねえか――――行くぜ、お前ら!!」
五人が笑い、船長の号令に従う。
彼らが手にするのは、モバイレーツとゴーカイセルラー。
そしてそれぞれのレンジャーキー。
「俺たちも―――行こう!!」
それに負けじとジュウオウチェンジャー、そしてジュウオウザライトを握る。
続けて大和がホエールチェンジガンを両手で掴み、大きく上へと掲げた。
「ゴーカイチェンジ!!」
「本能覚醒!!」
レンジャーキーが差し込まれ、モバイレーツとゴーカイセルラーがその力を解放する。
二本のカットラスと鍵穴が組み合わさったジョリーロジャー。
そのエンブレムと重なり、ゴーカイジャーが変わっていく。
〈ゴーカイジャー!〉
赤いマスクで顔を包み、黒いアンダースーツの上から羽織るは赤いジャケット。
マーベラスがその手でジャケットの襟を弾き、胸の前で腕を組んだ。
「ゴーカイレッド!!」
青いマスクで顔を包み、黒いアンダースーツの上から羽織るは青いジャケット。
ジョーは己の額に左手を添えて、右腕を背の後ろに回す。
「ゴーカイブルー!!」
黄色いマスクで顔を包み、黒いアンダースーツの上から羽織るは黄色いジャケット。
ルカが自身の体を抱くように回した左腕に右腕の肘を乗せ、その手を振るう。
「ゴーカイイエロー!!」
緑のマスクで顔を包み、黒いアンダースーツの上から羽織るは緑のジャケット。
ハカセは両の手を、拭うように太腿に擦り付ける。
「ゴーカイグリーン!!」
桃色のマスクで顔を包み、黒いアンダースーツの上から羽織るは桃色のジャケット。
アイムがゆるりと前に差し出した右手を折り、優雅に一礼をしてせた。
「ゴーカイピンク!!」
銀色のマスクで顔を包み、黒いアンダースーツの上から羽織るは銀色のジャケット。
鎧が天高く伸ばした腕を下ろしつつ、更に体を回転させる。
「ゴォオオオオカイ! シルバァアアアアッ!!」
解き放たれたジューマンパワー。
ジュウオウザライトの光に包まれ、操が変わっていく。
黒の犀、金の鰐、銀の狼。
三つの獣の力を宿した腕が、世界をその手に握り込んだ。
〈ウォーウォー! ライノス!〉
「世界の王者! ジュウオウザワールド!!」
四頭の獣が続けて覚醒する。
迸るジューマンパワーが、青、黄、緑、白の四色の光を破裂させた。
〈アーァアァアーッ!!〉
荒れ狂う吹雪の中。
その地を制する、氷雪を引き裂く白虎が咆哮する。
「雪原の王者! ジュウオウタイガー!!」
生い茂る樹木の中。
その地を制する、大地を震撼させる巨象が咆哮する。
「森林の王者! ジュウオウエレファント!!」
雷鳴轟く荒野の中。
その地を制する、疾走する猛き獅子が咆哮する。
「サバンナの王者! ジュウオウライオン!!」
渦を巻く大海の中。
その地を制する、波を切り裂く獰猛なる大鮫が咆哮する。
「荒海の王者! ジュウオウシャーク!!」
―――大王者の資格を通じ、流れ込んでくるケタスの力。
その温もりを全身で感じながら、大和はホエールチェンジガンを開く。
キューブに持ち手がついている形状が展開し、腕を覆う大砲へと変形した。
〈ホーホー! ホエール!〉
銃口から溢れ出した力が雨のように降り注ぎ、新たな姿へ変わる大和。
クジラを思わせる赤いマスク。
ブリーチングするクジラの描かれた赤い衣が、腰からマントのようにはためいた。
世界の全てを示すように薙がれる腕。
そこに示した全てを守るために、太古から受け継がれてきたこの力こそ―――
「――――王者の中の王者!」
振るわれるホエールチェンジガン。
大和の足元で波打つ力の波濤。
それに流されるよう、クジラの描かれた赤い衣が大きく翻った。
「ジュウオウホエール――――!!」
12の戦士がその場に現れ、二人の赤い戦士が同時に前に出る。
「海賊戦隊――――!」
「動物戦隊――――!」
続く10人の戦士たちがその動きに続き、身構えた。
爆裂する力の奔流が、名乗りと共に立ち昇る。
「ゴーカイジャー!!」
「ジュウオウジャー!!」
―――それと同時。
ジュウオウホエールが掲げたホエールチェンジガンが光を噴き出した。
放たれる光が柱となり、そしてまるで鞭のようにうねりだす。
「―――――!?」
周囲を薙ぎ払う光の鞭。
それがキューブホエールを飛び越え、その向こうから飛来するクライス要塞に直撃した。
全長200mを超えるだろう長大な要塞が、光に殴られ地面に叩き付けられる。
その光景を前に、バングレイが言葉を漏らす。
「んだと……!?」
巻き上げられる砂の柱。
そんな光景を背にしながら、ジュウオウホエールがその視線でバングレイを射貫いた。
「―――バングレイ。俺たちを……舐めるなよ!!」