Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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慟哭!奇跡の生誕!2016

 

 

 

「っ……!」

 

 頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がる。

 真っ先に行うのは現状の確認。

 自分は一体どうなったのか、それすら予想のつかない状況だったが故に。

 

 どうやらソファに寝かされていたようだ。

 辺りを見回せば、どうやら何かの研究室のような―――

 

「おお、起きたかリヨン! すまなかったな、強引に連れてくるような真似をして」

 

「貴様―――ッ!」

 

 すぐさま跳び起き、ゴーストドライバーを呼び出す。

 研究室の奥から歩み出てくるのは、ダントンに相違ない。

 目の前に現れた圧倒的な強者。

 

 だからこそ、懐に手を突っ込んで取り出すものはディープスペクターを選び……

 

「ッ!?」

 

 そうして気付く。彼の許に残されている眼魂は三つだけ。

 ノブナガ、ツタンカーメン、フーディーニ。英雄眼魂だけだ。

 スペクターとディープスペクター眼魂が手元にない。

 

 ―――最大戦力無しにやり合うには、相手の力はあまりに強大。

 その事実を理解してなお、彼はノブナガを握り込んで取り出して―――

 

「おっと、すまないな。ちょっと調べさせてもらっていたんだ」

 

 戦闘態勢を取るマコトに、何のこともないようダントンは歩み寄る。

 その彼の手から渡されるのは、奪われたと考えていた二つの眼魂。

 そんな状況に困惑して、マコトは目を見開いて相手を見返した。

 

「やはりこの眼魂、ゴーダイの魂をベースにしたものだった。

 お前は、やはりゴーダイと共にいたのだな」

 

「ゴーダイ……? いや……ダントン、貴様の目的は何だ。

 何の理由があって俺をここまで連れて来た。それに……」

 

 あの時、息子と。

 自分にそう言い放った相手を見据え、胡乱げな視線を投げかける。

 その視線を浴びせられながら、ダントンは小さく苦笑した。

 

「ゴーダイは……私が昔、共にここで研究をしていた男だ。

 眼魔世界の赤い空―――肉体の神経を侵し、命を奪う死の世界。

 私はそれを人間の肉体を進化させ、環境を適応させることで凌駕しようとした。

 その研究だよ。私とゴーダイが行っていたのは」

 

「……だが。眼魔はこの世界で生きる方法に、イーディス長官の眼魂システムを選んだ。

 そして、それを認めないあんたと戦争になった」

 

 マコトがそう口にすると、ダントンは微かに目を細める。

 彼はそのままマコトに背を向け、壁に向け歩き始めた。

 

「―――ああ、アドニスの奴はイーディスの研究を選んだ。

 それは人間の進化を、可能性を摘み取る冒涜だ! 人間というのは、肉体と魂が揃って初めて人間なのだ! それを捨てることを、生きるなどと呼ぶものか!!」

 

 背を向けたままに語気を荒くするダントン。

 

 ―――彼が口にする考え。

 それはけして自分たちと考えを異にするものではない。

 垣間見えた彼の思想に対して、少し驚いたように表情を崩すマコト。

 

「ゴーダイもそれに同意してくれたんだ。

 だから理想を共にして、ここで世界を変える研究をしていた。

 だが……奴は、ここから出ていってしまった。

 お前の言う戦争で追い詰められた時、逃げだしたのだ」

 

「逃げた……?」

 

 そこまで語ったダントンが突然振り返った。

 彼の手がマコトの肩へと伸びてくる。

 咄嗟に退こうとして、しかし逃れ切れず、

 

 ―――マコトは、ダントンに抱き締められた。

 

「何を……!?」

 

「……その時、ゴーダイが連れて行ってしまったのがお前なのだ、リヨン。

 モノリスは通常、生身の人間は通れない。だから、死んだと思っていた」

 

 モノリス、という言葉に過るのは大天空寺地下のもの。

 それと同じものが眼魔世界にもあり、繋がっているのは分かっている。

 過去、子供だったマコトとカノンはそれに吸い込まれるようにこの世界に来た。

 

 その後はアリアに拾われ、戦士としてアランと共に育ち―――

 いま、こうしてここにいる。

 

「だが生きていたんだな……! お前も、ゴーダイも……!

 ならば、ミオンも生きているんだろう!? お前の妹だ! 私の娘だ!」

 

 ―――そんなはずがないのに。

 この腕に抱かれた過去が実在するような、そんな感覚に包まれる。

 

「――――!」

 

 そんなことがあるはずない、と。

 抱き着いてくるダントンを振り払い、大きく後ろに下がる。

 残念そうに顔を歪める相手を睨み、マコトは強く叫んだ。

 

「黙れ! 何がお前の息子だ!

 俺はリヨンなんて名前じゃない! 俺は深海マコト……!

 妹もミオンなんかじゃない! カノンだ! 俺の、父の名は―――深海大悟だ!」

 

「大悟……ダイゴか、ゴーダイはそう名を変えたのだな。

 すまなかった、今のお前の名を否定するつもりではなかったんだ。

 マコト、そうかマコトか! いい名前だ。これからは私もそう呼ぼう!」

 

「そんな話をしているんじゃ……!」

 

 嬉しそうに歩み出すダントン。

 背を向けて離れていく彼を見ながら、マコトが歯を食い縛る。

 わからない。そんなはずがない。

 だというのに、ダントンから何か懐かしい感覚を感じている事実が疎ましい。

 

「信じられないのも当然だ、マコト。だが安心するといい。

 これを見れば、お前もきっと思い出してくれる」

 

 彼の手が壁に描かれた紋章に触れる。

 まるで何かの操作盤のように反応する紋章。

 直後、研究室の奥にある壁が動き出す。

 ただの壁に見えていた扉が、ダントンの意思に呼応し開きだした。

 

 咄嗟にその扉の奥に視線を送るマコト。

 彼の目に入ってくる、光景は。

 

「懐かしいだろう? ()()()()()()()()!」

 

「―――――」

 

 数百、数千と並べられたカプセル。

 そのカプセル内部に満たすのは、緑色の液体。

 

 ―――液体の満たされた培養カプセルに漂うのは、人影。

 

「あ、」

 

 腕が、足が、頭が、全身が。

 一つの例外もなく、体のどこかが黒ずんで崩れている人型たち。

 五体満足な存在はどこにもいない。

 人間の出来損ないが、そこでは数え切れないほどに並べられていた。

 

 ―――頭が無事な人型の顔は、全て同じもの。

 マコトにとって、よく見知った顔だ

 

 朝起きて、顔を洗う時。

 これとまったく同じ顔が映ることを、よく知っている。

 

「ハ―――ハァ、ハァ……ッ! なん、なんだ……なんで……!?」

 

「どんな悪環境をも凌駕する究極の肉体。

 肉体が変われば精神も変わる。よりよい肉体を得て生まれた人間は、よりよい精神を持つ。

 つまり究極の肉体で生まれた人間には、究極の精神が宿る。それこそが進化した人類」

 

 呼吸を荒くし、ふらつき、やがて倒れて尻餅をつき。

 正気を失って取り乱すマコト。

 彼の背後に回ったダントンが、優しくその肩を抱く。

 

「マコト……お前はその研究の中で、唯一この世に生まれ出でてくれた。

 本当に、本当に、気が遠くなるような年月の中で……奇跡が起こって生まれた子供なんだ。

 ゴーダイがお前たちを連れ出した後、何とかしてもう一度お前を創ろうと思ったが……」

 

 マコトを抱きながら、悲しげに培養カプセルを見上げるダントン。

 培養カプセルの中の人型は、例外なく不完全だ。

 完全な肉体を形成した例は、それぞれただ一人――――

 

 カプセルルームの内部が、ぐるりと回転する。

 培養の推移を観察するため、定期的にカプセルの位置替えがあるのだ。

 そうして前にやってきた数千の培養カプセルの中には、少女の顔があった。

 

「ぁ―――――」

 

 体の何処かが黒ずみ崩れた。あるいはそもそも形成されなかった。

 そんな、深海カノンと同じ顔を持つ、数千ある命の失敗作が視界に入る。

 

「ただの一度も、成功することはなかった……マコト、お前たちは奇跡の子なんだ……!

 進化した新たなる人類として、唯一この世界に生まれてきてくれた……!」

 

 ダントンの言葉の後、突然のアラーム。

 発生源は、目の前に並ぶ培養カプセルの中の一つ。

 それが盛大に音を発し―――

 

 直後、そのカプセルの中にあったカノンの似姿が崩れ出した。

 黒い残骸だけが、培養液の中を漂いだす。

 

「ぅぁ……! あぁあああああ――――!?」

 

「ああ、ああ、私も残念だマコト。また一人、娘がいってしまった。

 だがあの子もきっと喜んでいるはずだ。最期に、兄と会う事ができて」

 

 頭を掻き乱すマコトを強引に抱きしめ、その頭を撫でるダントン。

 もはやこの光景に何を思えばいいのか、それすら分からず―――

 

 ザザ、と。

 ダントンが腕に巻いていたプロトメガウルオウダーが異音を放った。

 

「うん?」

 

 ダントンは仕方なしにマコトを放し、腕のそれを操作する。

 支えを失ったマコトが転げ、頭を抱えながら蹲った。

 

 あの培養液の色も、そこから取り上げてくれた男の腕も、何もかもが記憶を掠める。

 ダントンが語ったことに、嘘なんて一つもないと理解できてしまった。

 

 震えるマコトの前で、メガウルオウダーが映像を投影する。

 

『久しぶりだな、ダントン』

 

「……アルゴスか。私を利用したようだが……まあいいとしよう。

 おかげで、大切な息子にこうしてまた会えたのだから」

 

 そんな様子を鼻で笑い、玉座に座ったアルゴスの姿が軽く腕を振る。

 映し出されるのは、恐らく牢屋だろう場所。

 そこに容れられているのは、立香に御成にアカリに……カノン。

 

 妹の姿を見て、マコトの表情が愕然と歪んだ。

 

『こちらには、お前の大切な娘を差し出す用意がある。

 代わりに、深海マコトが持つ三つの英雄眼魂を寄こせ。

 言うまでもないだろうが……差し出さねば、お前の娘は死ぬ事になる』

 

「なんだと?」

 

 牢屋の映像が消え、アルゴスの姿が戻ってくる。

 対峙するダントンの顔が強く歪み、彼を敵だと断定した。

 ざわつく皮膚が硬化し、人の姿から怪物に変わり始める。

 

「そんなことをしてみろ、アルゴス。

 お前こそ再び死ぬことになる。今度こそ、魂まで完全にな……!」

 

『だからこうして交渉の席についた。お前の相手は避けたいからな。

 眼魂を寄越せば、傷一つつけずに送り返そうとも』

 

 黒い単眼の怪物を前にして、映像の中のアルゴスは小さく肩を竦めた。

 そんな彼がゆるりと手を振るい―――

 

 瞬間、プロトメガウルオウダーが更なる機能を発揮する。

 二人の前に展開されるガンマホール。

 アルゴスの視線が、ダントンからマコトへと向かう。

 

『その先に繋がる世界は、地球でも眼魔でもない。私はそこにいる。

 さあ……妹を助けたくば、この世界―――眼魂島にくるがいい』

 

 言うべきことは言った、と。

 アルゴスの映像が乱れて、徐々に消えていく。

 彼の言葉に反応して、震えていたマコトが立ち上がった。

 

「っ、マコト! 待て、勝手に行くな!」

 

 ダントンの静止を無視して、マコトが走りだす。

 直前に見た、カノンと同じ顔をしたものが崩れていく光景。

 それが、今のカノンの姿とダブって頭の中で反響する。

 

「カノン……っ! カノン、カノン――――ッ!」

 

 今まで自分の周りにあったものが、全部切り離されたような。

 深海マコトが、人間として積み上げてきたものが全て崩れ落ちたような。

 人が人として生きてきた、という前提さえ壊れてしまった。

 自分が何なのかさえ、自分が正しい命なのかさえ分からなくなる。

 

 たった一つ残っているのは、妹だけだ。

 共に生まれた、妹だけだ。

 

 生身で眼魔ホールを突き抜けて、彼はアルゴスの支配する地―――

 眼魂島へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 白煙を噴き散らして、完全に沈黙する車体。

 その末路を見上げながら、ダ・ヴィンチちゃんは嘆息した。

 

 周囲は木々に囲まれ、視界は通らない。

 どうにかする手段は幾らでもあるだろうが、ここは相手のホーム。

 あまり不用意な行動はしたくない。

 まあここまで追い込まれては、そうも言ってられないだろうが。

 

「ま、随分無理させたんだ。しょうがない、これはここに放棄だね」

 

「……そうなりますね」

 

 少し残念そうにマシュが同意。

 そんな彼女の様子を見て、ダ・ヴィンチちゃんは肩を竦める。

 

「新車を作る時はもっと頑丈に作るとしよう。

 どんな悪環境も走破できるくらいのダ・ヴィンチちゃんスペシャルだ。

 そーなると、流石に空飛ばしたりは無茶かなぁ」

 

 そう言って笑い、彼女は中に入って乱雑に物品を掻き出し始めた。

 マシュがそうして投げ出されてきたものを纏める。

 彼女が袋に纏めたそれを、アランが何も言わずに掴み上げた。

 

「あ、すみません」

 

「―――お前は守りの要だろう。

 咄嗟の時、手が空いていなかったでは笑い話にもならん」

 

「そうそう、マシュがいないと私も結構厳しいもの。

 誰も彼も剣を通さない鎧を着て、大火力の銃を持ってるとなるとねー。

 剣士ひとりじゃ辛い環境なのです」

 

 言いながら、武蔵が木々の間から出てくる。

 アランの視線を受けて、彼女は首を横に振った。

 

「近くにはいなそうね。

 タケルやジャベルだけじゃなくて、人も動物もなーんにもいない感じ」

 

「そうか……だとすれば、周囲を探すより前に進むべきか。

 タケルも、ジャベルも、恐らくはアルゴス兄上の許に向かうだろう」

 

 彼の言葉に片目を瞑る武蔵。

 ジャベルは絶対に、とは言えないが。

 確かにタケルはアルゴスの許に向かうはず。

 

 というより、アルゴスの態度から言ってタケルは呼び寄せられている。

 どういった目的かは分からないが。

 

「……だとすると、やはり。

 空を飛んでいる時に見えた、あの大きな塔でしょうか」

 

「そうねー、正しく敵の本丸! って感じだったものね」

 

 飛行している間に見ることができた、巨大な塔。

 今は森の中で見えないが、それがアルゴスの居城と見るべきだろう。

 だとすれば、立香やカノンたちもそこに囚われているはず。

 合流するにもそちらに向かうべきだ。

 

「―――では、一刻も早く向かいましょう」

 

 塔があるだろう方向を見上げながら、マシュがそう口にする。

 

 まあそうなるだろう、と。

 武蔵は肩を竦めて、しかし反論する理由もなく頷いた。

 その後に荷物を吊るしたアランの方を見る。

 

 彼は少しの間だけ黙った後、口を開く。

 

「道中で兄上……アルゴスのことを話そう。

 何故生きているのかは、私にも詳細は分からない話だが」

 

 

 

 

「……っ」

 

 必死に体を起こして、壁に寄りかかる。

 何故だか、この世界の中心らしき塔から大きく離れた位置にある一軒の家。

 そんな藁葺き屋根の家には、人の気配は一切ない。

 いや、この家ばかりではなく、この世界全体に。

 

「この、世界……!」

 

 よろめきながら、タケルは世界の中心にある塔を見上げる。

 そうしている内に、自分以外の魂の鼓動を感じた。

 

 すぐさまそちらに視線を向ければ。

 そこには、バンダナを巻いて黒い軍服に身を包んだ男。

 ジャイロがその手にウルティマの眼魂を握りながら、タケルの前に立ちはだかった。

 

「あんたは……!」

 

「天空寺タケル。アルゴス様の命により、その身柄を確保させてもらう」

 

〈ウルティマ!〉

 

 有無を言わさずに白い怪人へと変わるジャイロ。

 タケルが腹に力を籠め、ゴーストドライバーを呼び起こす。

 そしてムゲンゴースト眼魂を呼び出そうとし―――

 

 しかし、力が湧いてこない。

 無限の光輝を束ねたような力の奔流は、僅かたりとも感じられない。

 それを呼び出すほどの力が、タケルに残っていないのだろう。

 

「……くそっ!」

 

〈カイガン! オレ!〉

〈レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ! ゴースト!〉

 

 すぐさまオレゴースト眼魂を取り出し、出現させたゴーストドライバーに装填。

 黒いトランジェントにオレンジ色の光を灯し、身構えた。

 右腕に引っ提げるのは大剣のガンガンセイバー。

 

 そんな相手を見据え、ウルティマが鼻を鳴らす。

 

「ムゲンの力もなく、英雄の眼魂すら持っていない。

 そんな貴様を長々と相手にするつもりはない」

 

 白い怪人が疾駆する。

 それに合わせて奮われた大剣が確実にその体を捉え―――

 しかし、片腕で容易に受け止められた。

 

 ガンガンセイバーが枯れ、風化して崩れていく。

 流れるような動作でその手がゴーストの首にかかり、タケルの体を吊り上げる。

 

「が……ッ!」

 

「―――全ては、眼魔世界のために」

 

 相手の首をギチギチと軋ませながら、力を籠めていく。

 振り解こうとするゴーストの動きには、一切揺るがない。

 ジャイロはそのまま、タケルを完全なる戦闘不能に追い込むためにより力を強め―――

 

 

 

 

「―――――」

 

 先頭を歩いていた武蔵が足を止める。

 

 森を出て幾らか歩いた結果、町に辿り着いた。

 とはいえ、まるで戦闘でもあったかのように荒れた町。

 当然のように人っ子一人いない。

 

 そんな町の中を塔を目指して歩いている途中。

 彼女は突然、足を止めたのだ。

 背後で目を細めて、ゆっくりと荷物を下ろすアラン。

 マシュもまた強く盾を握り、身構たる。

 

 武蔵は微かに目を細めて、眉を顰める。

 少しだけおかしな顔をしたまま、彼女は腰の刀に手をかけた。

 

 一瞬、静止。

 直後に抜き放たれた剣閃が、近くにあった家屋の扉を斬って捨てる。

 崩れていく扉。そしてその奥に見える、一人の人間。

 

「く……ッ!?」

 

 そこにいた男は、扉が崩れた瞬間に手元の眼魂を起動。

 ゴーストドライバーにそれを投入―――しようとして。

 

 即座に踏み込んでいった武蔵に、その腕を峰打ちされた。

 動きが止まった彼が、そのまま足を引っ掛けられて転倒する。

 床に強かに打ち付けられ、彼が呻く。

 そんな彼の目の前の床に突き立てられる。武蔵の剣。

 

「こんにちわ。このお宅の大家さん?

 扉はごめんなさい。冤罪だった時は、ちゃんと頑張って直すから」

 

「……! ムサシ、か……!? いや、そんなはず……!」

 

 自分の目の前に突き刺さった剣。

 それを見て、目を見開く男。

 そんな彼の様子を見て、あー…と声を漏らす武蔵。

 いちいち説明―――しなくていいか、と。さくっと思考を斬り捨てる。

 

「ええ、まあ。宮本武蔵的なものと理解してくれれば、それで結構。

 それであなたは……」

 

 押し倒された衝撃で地面に転がった彼の眼魂。

 それをアランが拾い上げて、眉を顰める。

 

「色は違うが……スペクターの眼魂だ。マコトのものと同じ」

 

「っ、アラン……様」

 

 アランの言葉に微かに目を見開き、取って付けたような敬称でその名を呼ぶ。

 しかしわざわざそうするという事は、間違いなく眼魔の者だ。

 そうなるとアルゴスの配下、と考えるのが自然。

 

 相手の顔をまじまじと見て、アランが記憶を呼び起こす。

 眼魔であるということは、過去に顔を合わせたことがあるかもしれない。

 が、それらしい顔はアランには思いつかなかった。

 

「……思い当たる顔はいない。

 兄上の生前……の配下、というわけではないはずだ」

 

「ふむ。だとしたら君は一体?

 こちらとしてはまず、君が眼魔……いや、アルゴス側かそうではないかが知りたいのだけど」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが周囲を探りながら、男を見る。

 扉を斬り飛ばした時に起こしたそれなりの音にも、周囲からの反応はない。

 

「…………俺の名は、深海大悟。

 いま口にしたマコトという名が、深海マコトのことならば……その父親だ」

 

「マコトさんの、お父さん? それは―――」

 

「……待て、お前は眼魔の民だろう。

 何故マコトの父などという言葉が出てくる」

 

 マコトは幼少期をタケルと共にしていた。

 そうして、大天空寺地下にあるモノリスを通じ、眼魔世界に辿り着いた。

 結果として眼魔と関わりを持つことになった人間だ。

 彼の父が眼魔の者などと、そんなことは―――

 

 大悟は伏せたまま小さく首だけ振り、アランを見上げる。

 

「俺はかつて……大帝派とダントン派に分かれた戦争状態だった、あの世界から逃げ出した。

 モノリスを通じ、グレートアイに祈ったんだ。こんなろくでもない眼魔の世界から、俺を逃がしてくれ、とな。

 なぜグレートアイが俺の願いを聞き届けてくれたかは分からない。だが事実として、俺は地球へと逃がして貰った。俺はそうして地球に辿り着き……」

 

 そこで一瞬彼は言葉に詰まり、しかしすぐに続けた。

 

「―――天空寺龍に出会った。

 眼魔世界にあるモノリスと対になるモノリスは、大天空寺にあるからな。

 マコトを知っているのなら、タケルくんのことも知っているんだろう?

 天空寺龍は、彼の父親だ」

 

「……ええ、はい。わたしたちは天空寺龍さんのことも、知っています」

 

 ―――アナザーゴースト。

 その最期を思い浮かべ、微かに下がる眉尻。

 そんな反応に僅かに目を細めて、大悟は言葉を続ける。

 

「そうか、なら話が早い。俺は地球に辿り着き龍に出会い……」

 

「その前に。お前が地球に行ったのは百年戦争の頃ではなかったのか?

 ならば、なぜそこでタケルの父親の話が出る。

 あの戦争はタケルの父親が生まれるより以前に起こったものだ」

 

 アランが口を挿んだことに、彼は片目を瞑って唸った。

 

「……正確な答えは俺も持たない。

 ただ、そのモノリスを潜った俺は、時間も越えていたということだ。

 それを知ったのは……いや。

 とにかく、俺は龍がいる頃の大天空寺に辿り着き―――そこで家族を授かった。

 それが妻の奈緒子であり……マコトと、カノンだ。」

 

 そんな彼の言葉にダ・ヴィンチちゃんが目を細める。

 武蔵が彼女の方へと振り返り、視線を合わせ。

 数秒した後、武蔵は剣を納めながら彼の背中を解放した。

 

 ゆっくりと起き上がり、そのまま座り込む大悟。

 

「まあ、出自は納得するとして。君は何故こんなところに?」

 

「…………」

 

 問いかけに対し、彼は今度は無言で返答した。

 眉を顰めるアランを制し、ダ・ヴィンチちゃんが続ける。

 

「―――なるほど。では、カノンちゃんがアルゴスに連れ去られたことはご存じかな?」

 

「なんだと?」

 

 目を見開き、すぐさま立ち上がる彼。

 その顔が自分の眼魂を握っているアランへと向いて―――

 鍔を鳴らして、彼の動きを武蔵が制する。

 大悟は苦い顔を浮かべながら、足を踏み出すことを止めた。

 

「ちなみに。

 アルゴスの目的は、彼女を人質にマコトくんから英雄眼魂を奪うことらしい。

 その理由を知っていたりするかな?」

 

「…………奴、アルゴスは」

 

 視線を彷徨わせながら、大悟が言葉を選ぶ。

 そんな彼の様子を見ながら、武蔵が小さく頭を後ろに傾けた。

 直後に響く、何かが崩れる音。

 

 壊れた建物がいつ倒壊してもおかしくない場所だが……

 それほど大きい音でもない。

 誰かが、何かを蹴り飛ばした程度の音。

 

 マシュが即座に盾を握り直し、真っ先にその場を飛び出した。

 戦闘態勢を整えた彼女が跳ねる。

 屋外に出て着地して、地面を踵と盾で削りながら滑っていく。

 

 そんな彼女の目に映るのは、敵ではなかった。

 頭に手を添え、ふらつきながら、しかし塔に向かっているのだろう。

 こちらに歩み寄ってくる姿は、見知ったもの。

 

「マコトさん!」

 

「―――カノン、カノン……!」

 

「マコト、さん?」

 

 尋常ならざる様子に、駆け寄ろうとしたマシュが止まる。

 目の前にいる彼女の姿にさえも焦点が定まらない瞳。

 そんな状態のまま、彼は塔へと走っていこうとして―――

 

「マコト!? 何があった」

 

 続けて屋内から出てきたアラン、武蔵、ダ・ヴィンチちゃん。

 ―――そうして、深海大悟。

 

 その姿を目にした瞬間、彼の足が止まった。

 自身を睨みつける息子の視線に、大悟が目を細める。

 

「貴様……! 貴様ァ――――ッ!!」

 

 瞬間に沸騰し、何の迷いもなくマコトが踏み出した。

 どう考えても親子喧嘩では収まらない殺気。

 その怒りを見取り、武蔵が前に立ちはだかろうとして、しかし。

 

〈ゲンカイガン! ディープスペクター!〉

〈ゲットゴー! 覚悟! ギ・ザ・ギ・ザ! ゴースト!〉

 

 一切の躊躇なく、彼は深淵から湧き出すような怒りの炎を身に纏った。

 武蔵を押し飛ばし、そのまま大悟に掴みかかるマコト。

 銀色の腕が襟元を締め上げ、その体を吊り上げる。

 

「ぐ、ぁ……ッ! マ、コト……!」

 

「何なんだ……! 何なんだ()()()は!?

 何が父親だ……! 何が子供だ……!!」

 

 頭に過るのは、友とその父の姿。

 子に願いを託して命を懸けた父親と、その父の願いを叶えた息子。

 あれが人間だ。あれこそが人間の姿だ。

 

 じゃあ自分は何だ。

 命の営みの外から現れた異物。

 人間の命の連鎖には含まれない、人間ではないもの。

 

「落ち着け、マコト! どうした、ダントンに何かされたのか!?」

 

 その彼に後ろからしがみ付くアラン。

 だがアランの声など届いていないかのように、マコトは止まらない。

 ―――代わりに、彼の言葉で大悟が顔色を変えた。

 

「マコト、お、前……まさか……見た、のか……!?」

 

「答えろ! 俺たちは一体、何なんだ――――ッ!!

 あんな……! あんなものが、お前たちにとっての家族か……!

 命だっていうのか―――ッ!!」

 

 その怒りに呼応し、ディープスペクターが姿を変えた。

 ショルダーアーマーが肥大化し、背中から紫炎の翼が迸る。

 同時に振り上げられる、炎を纏う拳。

 

 自身に向けられるその拳を見て、僅かにだけ目を細める大悟。

 そのまま彼は抵抗を示すこともなく―――

 

 盛大な破裂音。

 振り抜かれた拳が、耳に障る金属音を撒き散らす。

 

「退け……! 邪魔を、するな――――ッ!」

 

「―――いいえ。例えこれが邪魔なのだとしても……やめません!」

 

 炎に焼かれ、白煙を上げる盾。

 それで強引に割り込み、大悟諸共に弾かれたマシュ。

 彼女は大悟を後ろへと押しやって、両手で盾を握り締める。

 

 爆炎の翼が空を裂き、裂帛の勢いでもってスペクターが押し寄せた。

 正面からそれを塞き止め、マシュが全力で踏み止まる。

 破裂した炎が周囲に散って、町の廃墟へと燃え移っていく。

 

「……ッ、答えろォオオオオオ――――ッ!!」

 

 盾に叩き付けた拳を握り締め。

 屹立するラウンドシールドごしに見える、大悟の顔を睨み付ける。

 そうして。彼は沸き上がる怒りを吐き出すように、慟哭した。

 

 

 




 
ペガサスドラゴンサンダークルーザーダ・ヴィンチスペシャル(適当)死す。
 
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