Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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再誕!背負った心と罪!2016

 

 

 

 エドモンと二体のネクロムの戦闘。

 その横を通り過ぎていく、捕まっていた人間たち。

 他の連中には目をくれずともいい。

 しかし、カノンだけは逃がすわけにはいかない。

 

 ネクロムRが床を蹴り付け、エドモンに向け加速する。

 振り上げられるのは、赤い液体に濡れた拳。

 それに対して、黒炎に燃える拳が突き出された。

 

 激突する両者の拳撃。

 その衝突に背を向け、ネクロムYがカノンを追う。

 

「カノンちゃん!」

 

「余計な手間かけさせないでよね。大人しくしてなさい―――!」

 

 人の足での逃走など許すはずもない。

 ダークネクロムは容易に追いつき、カノンの肩に手をかけた。

 力尽くで引き留められたカノンが、体勢を崩しながら振り返る。

 

「―――お願い……!」

 

「――――!?」

 

〈ファイヤーホーク!〉

 

 そうして、振り返った彼女が胸に抱いていたウォッチが解き放たれる。

 燃え上がるタカウォッチロイドが、ネクロムYへと突撃した。

 

 思いがけぬ相手からの不意打ち。

 しかし、意識が停止するのは一瞬。

 その腕が、一直線に顔面に向かってくるタカウォッチを薙ぎ払う。

 

「はっ―――!」

 

 そんなものに意味はない、と。

 そう言わんばかりに鼻を鳴らしたネクロムY。

 彼女の前で、更に御成が足を止めた。

 

「お願いします、スイカ殿!」

 

〈コダマシンガン!〉

 

 直後、彼の手から放たれたコダマスイカが跳ぶ。

 吐き出されるスイカの種状の弾丸。

 機関銃の如き弾幕を顔面に受けて、ネクロムYが思わず仰け反った。

 

 すぐさま足をその場で踏み止まらせ、体勢を立て直す。

 こんなものに足止めされた、という事実に苛立ちを隠さない舌打ち。

 

「チッ……! こんなものが通用するとでも思ってんの!!」

 

 ―――その光景を前に、ネクロムRと組み合っていたエドモンが笑う。

 

 何度か拳を交えながら見せたその様子。

 それを前にしたネクロムRが怪訝そうにしつつ、しかし攻撃を緩めない。

 四肢さえも崩れ始めたエドモン。

 彼が武器としていた両の拳も、光となって消えていく。

 

 あとせいぜい十秒。

 そう推測して、ネクロムRはただ攻撃を凌ぐだけで時間を待つ。

 

「―――さて、もう時間か。オレの此度の肉体はどうやら、ここまでのようだ」

 

 立つための足も消失したエドモンが、膝で床に着地しながら笑う。

 その余裕ぶりを前に、ネクロムRが失笑した。

 

「はっ……貴様が消えた後、連中がどうやって俺たちから逃げるか見ものだな?」

 

「ク、ハハ! ―――馬鹿めが」

 

 嘲るような敵の声に対して、エドモンは軽く目を瞑って喉を鳴らす。

 彼の態度に機嫌を損ね、ジェレドが小さく舌打ちした。

 そうして、もうまともに動けないだろう相手にトドメを刺すべく一歩を踏み出し―――

 

「オレの亡骸にも使い道くらいはある。

 特に、牢獄から逃げるために何かと入れ替えるには向いているだろうよ」

 

 言い放つと同時、炎が炸裂してエドモンの体が奔る。

 

 即座に身構えるネクロムR。

 苦し紛れの激突にやられるような真似をするつもりはない。

 その一撃を受け流し、そうして消えていく相手を見送っておしまいだ。

 

「我が肉体が光と還り、ならばこの身は何も出来ないか?

 否、否、否―――! 我は復讐者(アヴェンジャー)! 恩讐の彼方より来たりし、復讐の化身!!

 時間も! 空間も! 肉体さえも! それがこの身を囚える牢獄であるならば、全てを超越して目的を成し遂げるがこのオレ、巌窟王(モンテ・クリスト)――――!!」

 

 光に解れていた体が完全に砕け、そのまま黒い炎の人型に変わる。

 牢獄を舐める恩讐の黒炎。

 その波に押し返されて、ネクロムRが蹈鞴を踏んだ。

 

「チィ……ッ!? まだこんな力を……!」

 

 直線軌道で突撃してくる黒い炎。

 ネクロムRはすぐさま拳を握り、そこに赤い流体エネルギーを纏わせる。

 迫りくるエドモンに対して踏み込み、振り抜くその拳。

 

 ―――それが相手を捉えることはなく。

 

「―――!?」

 

「“虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)”――――!!」

 

 衝突するか、と。

 そう認識した瞬間、彼の影はそのままネクロムRを擦り抜けた。

 

 空間を飛び越えた黒い炎が、背後からネクロムRを炙る。

 それを理解した瞬間、すぐさま彼は振り向こうと試みて。

 体を捻るより先に、装甲が拉げて打ち破られた。

 

「ガ……ッ!?」

 

 突き出された腕から放たれた、黒い熱光線。

 迸る黒い光が、ダークネクロムの体内から眼魂を吹き飛ばす。

 弾き出されたそれは、光線に呑み込まれたまま空中で溶解。

 

 ネクロムRだったものが、瞬く間に崩れ落ちていく。

 

 全てを使い果たす攻撃を放った勢いのままに。

 限界を超えたエドモンもまた、完全に崩れて消え―――

 

 その残滓を巻き込み発動する魔術が、弾けた。

 

「オーダーチェンジ!!」

 

 魔力が流れ、立香の纏う礼装が起動する。

 黒い炎が崩れていく足元に、盛大に紫電が奔った。

 展開されていく魔法陣。

 その陣に包まれながら、エドモンだった炎の塊が微かに表情を変える。

 

「しかし、この身が此処で果てるというのなら。

 オレの屍を超えて前に進む者どもには、この言葉のみを送ろう。

 ―――“待て、しかして希望せよ”、とな」

 

 そうとだけ言い残し、完全に消失する黒い炎。

 

 砕けていく仲間、ネクロムRに舌打ちひとつ。

 挙句に今また何らかの戦力を呼び出そうとしているときた。

 ならばこそ、今ここで狙うべきはただ一人。

 

 オーダーチェンジを起動した立香。

 即座に彼女に向けて掌を向ける。

 そこへと集っていく、黄色の流体エネルギーの渦。

 

 殺すな、と言われてはいる。

 だがこれだけ反抗されてこちらも一人死んだのだ。

 カノンさえ残しておけば、アルゴスも文句は言わないだろう。

 

「こっちが手加減してれば調子に乗って!」

 

 そう叫び、放たれるエネルギー弾。

 放出されたそれは一直線に立香へ向けて殺到し―――

 直撃する、その直前。

 臨界した魔法陣の魔力がスパークし、周囲に爆ぜた。

 

 そうして。

 その光の中から現れるのは、一人の少女。

 彼女は身の丈ほどある巨大なラウンドシールドを手に、大きく跳ねた。

 

「はぁああああ―――ッ!」

 

 盾に直撃して、轟音と共に弾けるエネルギー。

 自分を押し流そうとするその光に逆行し、マシュはネクロムYへと踏み込んだ。

 

「なに……!? チィ……ッ!」

 

 疾風の如く押し寄せるマシュ。

 彼女のスイングする盾が、ネクロムYの胸部へ向けて振り抜かれる。

 対抗して、突き出されるのは流体エネルギーを纏う正拳。

 

 激突する両者の攻撃。

 拮抗、した直後に押し込まれ始めるのはダークネクロムの方で。

 その事実に彼女が息を呑んだ、次の瞬間。

 

 ネクロムYの足を鎖が、そして大鎌が薙ぎ払っていく。

 踏み止まっていた足から力が抜ける。

 ただでさえ押されていた状態から体勢を崩し―――

 

 盾の一閃が拳を弾き返す。

 その交錯の衝撃で、腕のプロトメガウルオウダーを粉砕された。

 機能を停止するダークネクロム。

 色が抜け落ちていくその胸部に、切り返した盾の一撃が見舞われる。

 

「そん、な……っ!?」

 

 突き抜けていく衝撃で、眼魂が砕け散る。

 ダークネクロムの装甲と共に変身者は消滅。

 眼魂とプロトメガウルオウダーの破片だけが、その場に転がった。

 

「マスター!」

 

 すぐさま振り向き、立香に向き直るマシュ。

 彼女を前にして一息吐き、一度頷く。

 

「ありがとう、マシュ。こっちは見ての通り……向こうは?」

 

「向こうは……その……連れ去られたマコトさんと合流は出来ました。

 ですが、その相手との戦闘中です」

 

 一瞬だけカノンを見て、しかしすぐに頭を振り。

 彼女はそう報告する。

 

「お兄ちゃんは無事だったんですか? ―――良かった」

 

「そういえば、今飛んでったのは……

 マコトが持ってた、ツタンカーメンとフーディーニ……?」

 

 マシュの横をすり抜けていった、二つのパーカーゴースト。

 それが飛んでいった方向を見ながら、アカリが目を細めた。

 

 

 

 

「―――――」

 

 玉座に座るアルゴスが片目を瞑り、接近する気配に眉を顰めた。

 突っ込んでくるのは二体のパーカーゴースト。

 

 それらはアルゴスへと見向きもせず、ただ突き進む。

 向かう先には、究極の眼魂のための台座―――

 100の眼魂を治める神の台座だ。

 

 そこへと突っ込んでいき、彼らは強く凄まじい光を巻き起こした。

 微かに目を細めながら、立ち上がるアルゴス。

 発光は早々に収まり、すぐにその場の光景が見えるようになる。

 

 何が変わったわけでもない。

 神の台座に変更はなく。眼魂が解放されたわけでもなく。

 そして、眼魂が増えたわけでもなく―――

 

「……そうか、なるほど。流石は脱出王と渾名される英雄、フーディーニ。

 自分とツタンカーメンが入れ替わりに捕まる代わりに、既に捕まっていた二人を逃がしたか。

 解放した二人は、ツタンカーメンが時空を歪めてスペクターに送り届けたか?」

 

 小さく笑いながら、眼魂の台座に視線を向ける。

 答えは当然帰ってこないが、こんな事をしたところで状況は変わっていない。

 足りない眼魂はマコトの持っている三つと、ダ・ヴィンチ。

 それを回収すれば、終わりだ。

 

「では、そろそろ頃合いか」

 

 スペクターとダントンは結局決裂したのだろう。

 ならばその隙をつき、眼魂を回収するだけだ。

 プロトメガウルオウダーを拾わせたことで、ダントンの居場所は常に把握できている。

 

「もうすぐだ……真に完璧なる魂の解放は、目前だ」

 

 アルゴスが台座に手を伸ばし、その中から眼魂を握り込む。

 彼はそれを起動すると、己のドライバーへと投入した。

 

 放たれるは青い衣。

 赤いマントを左肩から靡かせて舞うナポレオンパーカーゴースト。

 

「変身」

 

〈カイガン! ナポレオン!〉

〈起こせ革命! それが宿命!〉

 

 ダークゴーストに変わったアルゴスが、ナポレオンのパーカーを身に纏う。

 彼は軽くマントを払い、歩み出した。

 

 

 

 

「む……っ!?」

 

 攻撃を受け、白煙を上げる腕。

 その衝撃で手放されて、地面へと投げ出されるゴースト。

 そこで変身が解け、タケルはそのまま地面に転がった。

 

 一瞬だけ視線でタケルを追い、しかしジャイロは攻撃してきた者へと振り返る。

 そこにいたのは、青い怪人―――眼魔スペリオル。

 

「ジャベルか……何のつもりだ?」

 

「……私がねぐらにした家の家主だ。その礼は返す」

 

 そうとだけ述べ、走り出すジャベル。

 だがそれに呆れたように鼻を鳴らしたジャイロは、軽く腕を振るだけで対応した。

 

 スペリオルとウルティマ。

 歴然たるその差を証明するように、激突した瞬間弾かれるジャベル。

 白いボディのウルティマは微動だにせず、その場に踏み止まる。

 

「我らが眼魂による活動を許されているのは、眼魔世界と大帝陛下の一族をお守りするため。

 だというのに貴様は……アラン様を守るならいざ知らず、何をやっているのか」

 

 眼魔世界の全ての民は、百年戦争を終えた時から全員が永遠の幸福な夢の中に生きる存在。

 だが。もしもの時に備えて、大帝一族を守る親衛隊のみが眼魂で活動する。

 ジャイロもジャベルも、そのために体を与えられていたのだ。

 もっとも今のジャベルは本来の肉体で、眼魂ですらないが。

 

 圧倒的なパワー差。

 軋みを上げるスペリオルの中で、全身を襲う痛みを堪えながらジャベルが笑う。

 

「私が何をやっているか、か……見て分からないか?」

 

「分かるはずもない」

 

 ウルティマの掌が発光し、光弾が飛ぶ。

 襲い来る閃光が全身の至るところに直撃。

 火花を噴いて揺らぐ体。

 

 その威力に片膝を落として、ジャベルが息を荒くした。

 

「―――生きている。生きているのだ、私は」

 

「なに?」

 

「ジャイロ……何かを食べる感覚を憶えているか? 腹を減らして動けなくなる感覚は?

 肉体が眠りを求めて、瞼が勝手に落ちてくる感覚はどうだ」

 

 スペリオルが立ち上がる。

 全身から白煙を噴きながらも、しかし。

 全身を襲う痛みに耐えながらも、しかし。

 

 ここで倒れる事はできないと、ジャベルは全霊を振り絞り立ち上がる。

 

「―――そんな欠陥は我らには存在しない。眼魂ではなくなり、そんなことも忘れたか」

 

「ふん、欠陥か。私もそう思っていた。アラン様だってそうだろう。

 けれど、違ったのだ。これこそが、私が真に求めていたものだったのだ」

 

 駆け出すスペリオル。

 全身を固めて一つの塊にし、慣行されるタックル。

 ウルティマはそれを腕一本で止めて、そのエネルギーを風化させていく。

 

「―――私は生きているという実感を求めて、強者との戦いを望んだ。

 戦いの中で魂がひり付く感覚だけが、私を生者でいさせてくれるものだった」

 

 スペリオルが揺らぐ。

 エネルギーが枯渇寸前になったそれを、白い拳が殴打した。

 罅割れていく青い装甲。

 それにすら構わず、ジャベルはジャイロに向けて拳を返す。

 

「……だが、私は肉体を取り戻して……これが、生きているということなのだと思い知った!

 疎ましいほどに纏わりついてくるこの不便さ……!

 ―――それが、戦いより遥かに強く私に生の実感を与えてくれる!」

 

 直撃するスペリオルの一撃。

 しかし直撃をもってしてもなお、ウルティマは微動だにしない。

 反撃の拳がスペリオルを粉砕する。

 

 砕け散ったスペリオル眼魂が宙に舞い。

 そして変身を解除されたジャベルが、地面に投げ出された。

 転がっていき、やがて止まるズタボロの男。

 その姿を見下ろしながら、ジャイロは口を開く。

 

「……それがどうした?」

 

「―――っ、生を強く自覚したら……同じだけ、死というものを実感した……!

 ジャイロ……! 訊きたいのはこちらだ……! お前は何がしたい!

 大帝陛下を殺めたアデル様につき、そしてアデル様からアルゴス様に鞍替えし……!

 大帝の一族を守るだと……! 眼魔世界を守るだと……! 貴様は何も守ってなどいない!

 生を忘れ、死を忘れ、命の価値など憶えていない我ら眼魔に……!

 何かを守れるはずがなかったのだ!!」

 

 生身のジャベルが立ち上がり、ウルティマを睨み付ける。

 

「生の喜びを思い出し、死への恐怖を思い知り、命の尊さを学んだからこそ―――!

 完璧な世界などと嘯き、腐っていくだけの命を見過ごすわけにはいかないからこそ……!

 私は貴様の前に立ちはだかる……! 命を懸けてでも……! 眼魔世界は変わらねばならない! いや、思い出さねばならない! 我らが本来、どうやって生きていたのかを! そのためにならば、命を燃やすに足る価値があると、敵として戦った連中に学んだのだ―――!」

 

 ―――そうした言葉を聞いて。

 しかし大した反応を示さず、小さく鼻を鳴らしてウルティマが歩み出す。

 ゆるりと上げられる腕。それはジャベルの首を目掛け伸ばされて―――

 

 

 

 

〈ダイカイガン! ノブナガ! ヒデヨシ! イエヤス! オメガドライブ!!〉

 

 呼び出したガンガンハンド。そしてガンガンキャッチャー。

 双銃を突き出し構えたスペクターが、ダントンに照準を合わせた。

 直後に放たれる銃撃の嵐が、ダントンを呑み込むほどの爆発を巻き起こす。

 

「ハ―――ッ!」

 

 その爆炎を突き抜け、エヴォリュードが姿を見せた。

 欠け落ちた肉体の一部を当然のように再生し、彼は疾走する。

 瞬く間に距離を詰め切られるスペクター。

 

 エヴォリュードは腕を一振りして、スペクターの腕から双銃を叩き落とす。

 素手での組み合いに持ち込み、マコトを圧倒するダントン。

 彼が悲哀さえ滲ませながら、顔面を突き合わせた。

 

「マコト、どうして分かってくれない! 私たちはただ、救いを求めただけなのだ!

 そして辿り着いた! お前という、至高の答えに!」

 

 押し返そうとするスペクター。

 エヴォリュードの足が彼の足を引っ掛け払い、その体勢から投げに持ち込む。

 背中から地面に叩き付けられ、スペクターの体が跳ねた。

 

「オォオオオ―――ッ!」

 

 そのまま拳を振り上げるエヴォリュード。

 させじとスペクターが無理矢理足を振り上げ、黒いボディを蹴り上げた。

 弾き返されたダントンが地面を滑っていく。

 距離を開いた中で、ゆっくりと体を起こすスペクター。

 

「……分かってる。だからこそ、俺があんたを救う。

 人を救いたいと願ったあんたの夢も。その夢のために重ねた罪も全部。

 罪の中から生まれた俺が、あんたの夢を継ぐことで……!」

 

「罪などない! 罪などないのだ、マコト!

 確かに犠牲になった命はあった! だがそれは、お前のために失われてくれた尊いものだ!

 進化に犠牲につきものなのだ。だからこそ、我らは前だけを見ればいい!

 犠牲を出した罪悪感などにかまけていては、世界を救うことなどできないのだ!」

 

 エヴォリュードが殺到する。

 それに対しスペクターの手の中に現れるサングラスラッシャー、ディープスラッシャー。

 赤と青の剣閃が走り、エヴォリュードの片腕が飛ぶ。

 だが即座に再生したその腕が、スペクターの顔面を殴打した。

 

 吹き飛ばされそうになる体を強引に持ち直し、二刀を構え直す。

 拳撃の嵐に対抗する剣撃。

 幾度も互いに攻撃で攻撃を潰し合い、装甲を削り合う。

 

 削った傍から即座に再生するエヴォリュードに瑕疵は残らず。

 しかしスペクターは徐々に動きから精彩を欠いていく。

 

 潰し損ねた拳撃が、スペクターの胸部に叩き込まれる。

 堪え切れずに吹き飛び、彼の姿が宙を舞う。

 

「マコト……!」

 

 咄嗟にネクロムが飛び込み、その姿を受け止める。

 マコトはよろめきながら、しかしアランに向かって首を横に振った。

 

「悪い、アラン。ここは、俺だけに」

 

「……ああ、分かっている」

 

 スペクターがネクロムを離れて、再びエヴォリュードの前に出る。

 

「息子が誤った道に進もうとすることを止めるのは、父親である私の役目だ……

 マコト、お前はまだ私には勝てない!!」

 

 黒い怪人の姿が消える。

 空間を転移して疾走するエヴォリュード。

 その姿がスペクターを横合いから襲い―――

 

「ぐ……っ!?」

 

「ハハハ――――ッ!」

 

 次の瞬間には消え、スペクターの背後から再度強襲。

 消え、現れ、襲い、再び消え。

 スペクターに反撃すら許さず、縦横無尽に走る黒い影。

 

 その苛烈さに片膝を落とし―――

 しかしマコトは顔を上げ、ダントンに向け問いかけた。

 

「ダントン、あんたにとって俺は何だ?」

 

「言っているじゃないか、息子だとも! 何より大切な、私の―――!」

 

 即座にそう断言してみせる彼。

 そんな言葉を遮って、マコトはダントンに語り掛ける。

 

「―――だったら信じてくれ。

 俺が、いつか……父を超えられる、父の夢を叶えられる、息子だって……!」

 

 黒い影が僅かに首を揺らし、足を止める。

 崩れ落ちて消える、彼が跳躍していた空間の歪み。

 一瞬だけ止まったエヴォリュードは、すぐさまマコトに向き直った。

 

「―――信じているとも! だからこそ、一緒に行こう!

 より強い肉体であらゆるものを克服して、みんなで共に永遠を生きればいい!

 お前ならすぐに私を超えられる! そうなったら、皆の先頭にお前が立って導くんだ!」

 

「俺には……誰かの前に立ち、導くことなんかできない」

 

 動きを止めたエヴォリュードの前で、スペクターが何とか立ち上がる。

 限界を超えてなお変身を維持できているのは、三人の英雄の結束のおかげか。

 その力で支えられた胸の前で拳を握り、マコトはダントンを見た。

 

「俺は、あんたが言うような完璧な人間じゃない。

 カノンを救うためという口実で傲り、友であったタケルを傷つける事を正当化した。

 その罪を自覚しながらもなお、タケル達と友である事を望み欲して一緒にいる。

 それを許してくれるタケルに対して、龍さんとの関係を羨んだ。

 自分がそんな親子になれなかった事に怒り、父さんさえも傷つけた。

 父さんたちに愛されていたのに、龍さんのような人が自分の本当の親であってくれれば、と。

 愛されていたのにそれに納得せず、父さんの愛が足りていないのだと。

 ただ、俺が目を背けて見ていなかっただけなのに―――」

 

 自分の罪を告解するように、マコトはそう言葉を並べる。

 

「俺の心は、完璧になんて程遠い。

 あんたが目指した究極の命になんて、なれない。けど……!」

 

 立ち上がったスペクターの顔が、僅かに後ろに振られる。

 その先にいるのは、今まさに彼を止めてくれた者たち。

 

「―――友がいるんだ、父さん。俺が間違った時に、殴ってでも止めてくれる友が。

 俺は誰かを導けるような人間じゃない。けど、友と一緒になら前に進める。

 きっとこの想いを、未来に繋げる―――あんたから受け継ぐ、想いを」

 

「―――いいか、マコト。友など信じるな。

 今はそれが無二のものなどと思っていても、その信頼は土壇場で裏切る。

 やり方に相違が生まれれば、いとも簡単に崩れ去る程度の関係でしかない」

 

 ダントンの視線がネクロムに向く。

 彼が見るのはアランではなく、その奥に別の誰か。

 

「私がそうだったのだ。だからこそ、完璧なる存在こそが先頭に立ち導かねばならない。

 アドニスのような、グレートアイに力を与えられただけの只人では駄目だ!

 その資格を持つものはただ一人。お前だけなのだ、マコト! それを分かってくれ!」

 

「……分かってる」

 

 慟哭染みた彼の声に対し。スペクターは小さく俯いた。

 その答えを聞いたダントンが、嬉々として声を張り上げる。

 

「そうか! 分かってくれたか! ならば―――!」

 

「間違ったのは、あんただけじゃない。

 みんな、よかれと思って歩き続けた道の途中で……どこかでずれてしまったんだ。

 俺の父さんたちも、アランの父さんも。眼魔世界に生きる、みんなが」

 

 スペクターが拳を開き、その手を自身の胸に添える。

 

「だから、立ち止まろう。そして思い出してくれ、ダントン。

 あんたが本当に、一番望んでいたことを」

 

 そうして再びスペクターとエヴォリュードの視線が交錯し。

 しかしダントンは大きく腕を横に払い、叫んだ。

 

「決まっている! 私は人間の幸福だけを考えて生きてきた!

 究極の肉体を得れば、人は外的要因にけして脅かされない!

 それの何が間違っている? 絶対的に幸福な安念を望むことの何が悪い!?」

 

「―――ダントン。多分、あんたは人々に幸福を与えることを考えていたんじゃない」

 

「なにぃ……!?」

 

「きっと、あんたたちは理不尽にその幸福を奪っていく、不幸を憎んだんだ。

 不幸を取り除くことと、幸福を与えることは、似ているようで違って……

 あんたはそこを取り違えたまま、ここまできてしまった」

 

 ダントンは人間が人間として生きている内に得る幸福を愛した。

 そしてそれを理不尽に奪う、眼魔の空を憎んだ。

 だからこそ彼は、人が人のままに逆境を克服すべく、肉体を改造する道を選び―――

 

 永い永い時の中、愛したものを忘れてしまった。

 人が人のままで生きるための研究。

 それがいつしか、人が人を超える世界を変革する手段になった。

 

 当たり前の幸福を守るために、不幸を跳ね除ける力を欲した。

 それがいつの間にか、それを持つものは幸福で、持たざるものが不幸なのだと。

 いつか、どこかで、すり替わっていた。

 

「―――――」

 

「俺も恐らくこれから先、多くの事を間違える。

 あんたよりずっと酷い間違いを犯すかもしれない。

 でもそれは、きっと俺の友が止めてくれる。そう信じて、前に進む。

 ――――だから」

 

 スペクターから、黄金のパーカーが外れる。

 三つの英雄パーカーに分かれた彼らが、小さく頷いて示す。

 

 胸に当てた腕の中に灯る青い光。

 それが結実して、一つの眼魂を生成していく。

 いつか、タケルがそうしたように。

 

「あんたたちの心と罪は。俺が、全部背負っていく」

 

 

 

 

 ―――虹色の風が吹く。

 その中に舞う純白の羽が、ウルティマの視界を覆い尽くす。

 圧倒的な力の奔流を感じて、ジャイロは振り返る。

 

 そこに立つのは、天空寺タケル。

 彼の目の前に光と共に現れるのは、虹色の光彩を持つ眼魂。

 

「天空寺タケル―――!」

 

 咄嗟にウルティマが放つ光弾。

 スペリオルすら容易に撃破するその威力を、無限の光輝が掻き消した。

 

 体を震わせながらも、タケルの腕がムゲンゴースト眼魂を掴み取る。

 

「馬鹿な……! アルゴス様の手により、既に力尽きていたはずだ……!」

 

 未だに眼魂が出現しただけ。

 だというのに感じる圧迫感に対し、ジャイロが半歩足を退く。

 

「それが、どうした……! この力は――――!!」

 

〈ムゲンシンカ!! アーイ!〉

 

 開いたゴーストドライバーに、ムゲン眼魂が投入される。

 解き放たれるのは、煌めく純白の衣。

 羽を散らしながら周囲を翔け巡るムゲンパーカーゴースト。

 

「変身―――!!」

 

 取り巻くように風に舞う白い羽の中、ドライバーのトリガーを引かれる。

 白銀のトランジェントへと変わっていくタケル。

 彼に被さった純白の衣が、その頭部にゴーストの顔を顕した。

 

〈チョーカイガン! ムゲン!!〉

〈キープ・オン・ゴーイング! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴッドゴースト!!〉

 

 ジャイロが両腕を掲げて、ウルティマの力が発揮される。

 放たれる光の弾丸が纏めてゴーストへと殺到し―――

 その全てが、片腕の一振りで消失した。

 

「む、ぐ……!?」

 

「この力は、俺だけの力じゃない……! これは人間の持つ可能性だ……!

 誰かがその可能性を信じる限り、俺は何度だって立ち上がる―――!」

 

 タケルがジャベルへと一瞬視線を送り―――

 すぐさまジャイロへと向き直った。

 

 ジャベルは言った。

 眼魔世界は変わらねばならない、と。

 今のやり方を変えて、眼魔という世界が変わっていく可能性。

 よりよい未来を目指す意思がこの場にある。

 

 ならば、タケルがここで負けるわけにはいかない。

 その未来を守るためにも、彼は絶対に負けられない。

 

「未来を信じる限り……! 人間の可能性は無限大だ!!」

 

 

 

 

〈セブンシンカ!! アーイ!〉

 

 マコトが起動した新たなる眼魂をドライバーへと投入。

 途端に彼の全身を深海色の炎が呑み込んだ。

 

 グリントアイから放たれる白いパーカー。

 それは大きく舞い上がり、炎に包まれたマコトの周囲を回る。

 

〈バッチリミロォー…! バッチリミロォーッ…!〉

 

 白いパーカーが取り巻く中、焼け落ちていく黒いトランジェント。

 崩れ始めた体で腕を伸ばして、マコトはドライバーのトリガーを掴む。

 ゆっくりと引いて、押し込まれる引き金。

 その瞬間、今までの体が完全に崩れ落ちた。

 

〈シンカイガン! シンスペクター!!〉

 

 黒い体の中から現れるのは、水色。

 澄んだ水のような新たなトランジェント。

 その上から白のシンスペクターパーカーゴーストが舞い降りた。

 

〈プライド! グリード! ラスト! ラース! エンヴィー! グラトニー! スロウス! ブレイク! デッドリーシン!!〉

 

 頭部を半透明のシールドが覆い、そこから生えるのは虹色の二本角。

 黒い顔面に水色のラインで浮かぶ眼光。

 

 ゴースト・ムゲン魂によく似た。

 しかしどこか違う―――その名を、仮面ライダーシンスペクター。

 深海マコトの新たな姿が、ゆっくりとフードを取り払った。

 

「……父さん。俺を、俺たちを。この世界に生み出してくれて、ありがとう。

 そうして生まれた、一つの命として……一人の息子として、俺はあんたを止める。

 あんたが心から願った夢を叶えるために、命を懸けて最期まで戦い抜く―――

 俺の生き様、見せてやる――――!!」

 

 

 




 
福袋を引いたら姉ができました。
 
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