Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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安息!繋いできた歩み!2016

 

 

 

 拳同士が激突する。

 衝撃に負け、弾かれた瞬間に拉げる腕の装甲。

 歪んだ腕をぶら下げながら、ウルティマが蹈鞴を踏む。

 

「く……っ!」

 

「オォオオオオ―――ッ!」

 

〈イノチダイカイガン!! タノシーストライク!!〉

 

 距離が開いた瞬間、ムゲン魂の手に浮かぶガンガンセイバー。

 彼の腕が、アローモードの武装を構えて引き絞る。

 渦巻く虹色の光が収束し、鏃となって放たれた。

 

「グォオオオ……ッ!?」

 

 奔る虹の閃光。

 それに対して体を強引に捻り上げ、軌道から何とか外れんとする。

 そんなジャイロの必死の回避が何とか実り―――

 

 しかしその一撃が巻き起こす衝撃波だけで、ウルティマが吹き飛ぶ。

 全身を打ちのめされながら、地面に投げ出される白いボディ。

 

「ヌ……ァッ!? こんなところで、負けるわけには……!」

 

 転がりながら、軋むウルティマ。

 それでもジャイロは何とか体を起こし、顔を上げた。

 

 目前でゴーストが武器を放り捨てる。

 無手となった彼の姿が、ゆっくりとウルティマに向け歩み出す。

 その姿に圧倒されたジャイロが、すぐに小さく頭を振った。

 

「私の使命は、大帝一族を守り、眼魔世界を守ること……!

 貴様の存在を見過ごすわけにはいかないのだ……天空寺タケル――――!!」

 

 起こした体で両腕を突き出し、放つのは無数の光弾。

 そうして放たれた攻撃は、一つ残らずムゲン魂へと直撃する。

 

 ―――だがそれでも、タケルの歩みは止まらない。

 

 光弾の嵐を逆走するゴースト。

 瞬く間に距離が詰まり、再び交差する互いの拳。

 その激突に同じように弾かれ、ウルティマが地面を滑っていく。

 

「ぐぁ……ッ!」

 

「―――――」

 

 地面を転がり、仰向けになって体を震わすウルティマ。

 彼を前にしながらタケルが足を止め、今ぶつけあった自分の拳を見る。

 指を開き、その掌を見つめること数秒。

 その中に残る感覚を確かめるように、タケルは再び拳を握った。

 

「あなたは本当は、一体何を守りたかったんだ―――!」

 

「なんだと……!」

 

 叫ぶタケルに対し、咄嗟に自身の動向を思い描く。

 

 眼魔世界。眼魔世界を治める大帝一族。

 その内乱と言っていい事態には干渉しない。

 ただトップとなる存在だろう誰かに指示されれば従う。

 そのトップが自分を必要としなければ、条件を満たした別の者に。

 

「決まっている……!

 眼魔世界を守るため、我らの指導者たる者の敵を排除する……!

 それが……! 私に課せられた使命なのだ!」

 

 ウルティマが立ち上がる。

 既に限界まで追い詰められたボディを、限界を超えて酷使する。

 眼魔ならば。眼魂の体ならば、それが叶う。

 

 ―――その姿が必死であることは見取り。

 だからこそ、タケルは強く拳を握った。

 

「本当に眼魔世界を守るためなら何で……!

 敵と戦うためじゃなく、守るべき人たちを生かすために戦えなかったんだ!

 喪われて取り返しがつかなくなる前に、守れるものがあったはずなのに!」

 

「貴様に何が分かる――――!!」

 

 軋みながらも全力で疾走するウルティマ。

 その速度を乗せて振り抜かれる拳。

 ―――ゴーストはそれを掌で受け止めて、握りしめる。

 

「守りたかったのは……!

 みんなを守るっていう、約束じゃないのか―――!」

 

「―――――ッ!?」

 

 拳を掴まえたまま、引き寄せられる。

 同時に振り抜かれたゴーストの拳が、ウルティマの胸を砕いた。

 残骸を撒き散らしながら、大きくよろめくジャイロの体。

 

「本当にこんなやり方で……約束を果たしてるって自分で思えるのか!!」

 

 胸部を粉砕し、全身を打ちのめす破壊力。

 それとともに叩き付けられた言葉。

 砕かれたこと以上に、言葉の方に胸が軋む。

 

 ―――かつて、眼魔が眼魔という名を得る前。

 眼魔の民は、一人の男に救われた。

 いや。一人の男と彼に付き従う数人を犠牲にして、逃げ延びたのだ。

 

 彼らは自分たちだけが犠牲になることを厭わなかった。

 そして民を治めるアドニスが決断を下し―――

 結果として、彼らだけが眼魔が眼魔になる前に喪われた。

 

 その男は別れ際に、ジャイロに言った。

 新しい世界を生きる中で指導者たるものを守れ、と。

 

 無論、ジャイロは答えた。

 命に代えて、と。任せてくれ、と。

 だから応え続けようとした。

 

 何百年前のことか。

 それすら最早定かではなく……

 けれど確かにそれはジャイロの行動理念に根付いていて。

 

 犠牲の上に成り立った、たった一つの理想世界が眼魔だ。

 だから応えなければならなかった。

 

 眼魔の世界をアドニスの親衛隊として守り続けた。

 眼魂での生活に不満を持つ輩は、治世を乱すとして処罰した。

 

 ダントンの研究を契機に始まった戦争。

 そこでも当然、大帝に背きダントンについた者は処罰した。

 

 守ると約束したのだから、守るためにはどんな犠牲を払うのも仕方ない。

 眼魔は成り立ちから既に犠牲を強いている。

 ならばもしもの時、存続させるために犠牲が必要になれば迷う理由はない。

 

 ―――だからアドニスが犠牲になるのも仕方ない、だ。

 

 それがアドニスでなくとも、大帝が居ればいい。

 眼魔世界を存続させるのが最優先。

 自分はそこにある眼魔世界を守るために動けばいい。

 

 何故守ろうとしたのか。

 あの時どんな想いで彼の言葉を受け取ったのか。

 それすら、もうとっくに―――

 

「黙れェ――――ッ!!」

 

 ウルティマの拳が燃える。

 砕けた体を無理に動かし、逆撃を加えるため動き出す。

 

 ムゲン魂が両腕を交差させ、その一撃を受け止める。

 衝撃で白銀の衣をはためかせながら、タケルは拳を握り締めた。

 両腕を払い、突き出された拳を押し返す。

 

 弾き返されるウルティマ。

 が、ジャイロはしかし強引に体勢を切り返し、拳を再度振り上げる。

 拳撃が返ってくる前に、ゴーストの腕がドライバーを掴んだ。

 

〈チョーダイカイガン!! ムゲン!!〉

 

 

 

 

〈シンダイカイガン!! プライドフィスト!!〉

 

「オォオオオ――――ッ!!」

 

 ドライバーのトリガーを引くシンスペクター。

 その拳が光を灯した。

 

 真正面から、エヴォリュードに叩き付けられる拳撃の嵐。

 止まらない拳のラッシュ。

 その威力に黒い装甲が、盛大な破砕音を立てながら剥がれ落ちていく。

 

「ふ、ハハハ、フハハハハハ――――ッ!!」

 

 砕ける度、即座に再生を開始する。

 エヴォリュードは打ち砕かれながら、しかし己も拳を握り締めた。

 

 打ち合わされる互いの拳。

 

 競り合いを始め、まず圧されるのはエヴォリュード。

 しかし彼は、砕けながら再生し続ける。

 一歩も退かずに対抗してくる彼に、徐々にスペクターが圧され始めた。

 

「…………っ!」

 

「この程度か、息子よォ――――ッ!」

 

 いっそ楽しげに声を張り上げるダントン。

 

 互いに全力で振り上げる拳。

 上半身を大きく捻り上げてから、突き出される正拳同士が激突。

 それが大気を弾き、周囲を揺るがした。

 

 ―――激突させた結果、押し返されて半歩下がるのはシンスペクター。

 

 追撃のために駆けるエヴォリュード。

 更なるラッシュのために両腕を振り上げた彼が―――

 

〈シンダイカイガン!! グラトニーバイト!!〉

 

 後ろに跳ぶと同時に振り上げられるシンスペクターの足。

 そこから放たれるエネルギーが、獰猛なる獣の牙を形作った。

 形成された牙がエヴォリュードの腕へと咬み付くのと同時。

 

「俺は負けない……! あんたを止めるために、負けられない!!」

 

 スペクターが体を捩り、咬み付いた獲物を地面に叩き付けた。

 そのまま相手を踏み付け、拘束する格好となる。

 直後に彼の手の中に浮かぶのは、ディープスラッシャー。

 

〈シンダイカイガン!! ラースフレイム!!〉

 

 銃形態のスラッシャーを向けるのは、当然踏み付けているエヴォリュード。

 ドライバーを操作すると同時に、銃口から溢れ出す炎の弾丸。

 それが至近距離からダントンへと放たれて―――

 

 瞬間、シンスペクターが踏みつけていたエヴォリュードが消失した。

 かけていた相手を失い、そのまま大地を踏み砕く足。

 砕かれて撒き散らされる地面を、放たれた炎の弾丸が消し飛ばす。

 

 その状態からすぐさま。

 マコトは再びドライバーに手をかけて、ディープスラッシャーを振り抜いた。

 

〈シンダイカイガン!! グリードスラッシュ!!〉

 

 エヴォリュードの再出現位置は背後。

 そこに振り抜かれた、炎に燃える剣形態のディープスラッシャー。

 薙ぎ払われる刀身がダントンを襲う。

 

「ハッハァーッ!」

 

 それを真正面から掴み取る、エヴォリュードの腕。

 刃が発揮する威力に晒されて、弾ける肉体。

 砕けていく腕を即時再生しつつ、彼は剣閃をそこで無理矢理止めてみせた。

 

 逆に、彼の腕がそのまま刃を折り砕く。

 破壊されるディープスラッシャー。

 手の中に残ったその破片を握り潰しながら、ダントンが拳を握る。

 

「何故止まる必要がある? お前はここにいる! 私の夢の結晶であるお前が!」

 

 砕けたスラッシャーの柄を投げ捨てて。

 シンスペクターの手の中に現れるのは、大鎌の形態を取るガンガンハンド。

 ドライバーを操作し、放出されるエネルギーはその切っ先に。

 

〈シンダイカイガン!! スロウスグレイブ!!〉

 

 振るわれる大鎌。

 その軌跡からダントンの頭上へ放たれる、青く明滅する巨大ピラミッド。

 ピラミッドの一面に描かれた眼の紋様。

 それがダントンを捕捉すると同時、一気に彼の存在を吸い込み始めた。

 

「ぬぅ!」

 

 体勢を低くして、その吸引に堪える姿勢を見せるエヴォリュード。

 そうして揺らいだ彼に対して。

 シンスペクターが、ガンガンハンドを大きく背後へと振った。

 

〈シンダイカイガン!! エンヴィースラップ!!〉

 

 振り戻されるロッドモードのガンガンハンド。

 それは下から掬い上げるように、エヴォリュードの胴体を打ち据えた。

 踏み止まり切れず、黒い体が宙に浮く。

 

 ―――次の瞬間。

 エヴォリュードの体が黒い靄と共に消失し、ピラミッドの更に上に現れた。

 今の一撃で粉砕された胸部を再生しつつ、両腕に噴き上がる光の渦。

 

 光弾が上空から射出され、青いピラミッドに突き刺さる。

 巨大なピラミッドが、完全に爆砕されて消えていく。

 

 青い残光の中を、ゆっくりと降下し始めるダントン。

 彼とマコトが再度、視線を交わし―――

 

「私は間違っていない、何一つ。

 正しい目的を、正しい手段で克服しようとした。

 だからこそ、お前という奇跡を得た」

 

「……いや、あんたは間違ったんだ。始まりの想いが正しかったとしても。

 あんな形で人間を救おうとしたことも、俺たちを作り出してしまったことも。

 俺たちは……あんたたちの罪から生まれた」

 

 エヴォリュードの足が地面を踏み締める。

 マコトの物言いに無言のまま、ダントンは再び腕に光を纏う。

 圧倒的な光量が、そのまま弾丸と変わり放たれた。

 

〈シンダイカイガン!! ラストバレット!!〉

 

 ガンガンハンドを銃にして、スペクターがそれに応じる。

 背後に浮かび上がる光で形成された無数のガンガンハンドの像。

 

 両者が放ち続ける砲撃。

 その弾丸が互いの間でぶつかり合い、爆炎と共に四散する。

 

 手数で勝るスペクターの砲撃。

 相殺しきれなかった弾丸が、エヴォリュードを粉砕する。

 だが即座に再生し、痛痒も示さず、彼は攻撃を続行した。

 

 正面でぶつかり合う弾丸。

 そこでの撃ち合いだけは、ダントンが力尽くで押し切ろうとする。

 

「いいや! 間違ってなどいない!

 なぜだマコト! なぜお前は自分が生まれたことを罪などという!

 お前に罪などない! お前が生まれたことは、何も間違ってなどいない!!」

 

 弾丸が激突する場所が、徐々にシンスペクターへと寄せ来る。

 ひたすらに前だけを見て、苛烈に攻めるエヴォリュード。

 それが弾幕の嵐を押し切り、マコトへと迫る。

 

「―――――」

 

 マコトの背を見ていたノブナガ。

 彼が微かに肩を揺らしながら視線をずらし―――しかし、そこで留まった。

 その視線の先にあるのは、先程取り落としたガンガンキャッチャー。

 キャッチャーでテンカトウイツの力を使えば、押し返せる。

 そうであろうと思いつつ、視線を元に戻す。

 

 ヒデヨシも、イエヤスもまた。

 ノブナガに倣うように、ただマコトの背に視線を送る。

 

 弾幕を打ち破り、エヴォリュードの攻撃がシンスペクターに届いた。

 光の弾丸に撃ち抜かれ、僅かによろめき、しかし踏み止まり。

 ガンガンハンドを取り落としながらも、彼は前を見た。

 

「―――いいんだ。

 俺たちは間違った場所から生まれて、それでもこうして今、生きている。

 支えてくれる、過ちを正してくれる仲間たちと共に」

 

 光弾を放ち続け、反動で焼け爛れたエヴォリュードの腕。

 その黒い皮膚が再び、ゆっくりと再生を始めた。

 消えていく傷痕。数秒で完全に傷を消した彼が、マコトを仰ぐ。

 

「……俺は、生まれてこれてよかったと思ってる。

 間違いをそうじゃないと誤魔化すんじゃなく、受け入れて手を取ってくれる友に出会えたから」

 

 彼の前でシンスペクターがドライバーのトリガーに手をかけた。

 

「兄妹たちを犠牲に、俺がここに立っていること。

 間違いを積み重ねて築き上げた現在。

 ここまでの道のりは間違っていた、だけどそれは無価値じゃない」

 

 対峙するエヴォリュードの全身が燃える。

 

「俺が生まれることができたから、意味があったんじゃない。

 俺がその犠牲を背負って、これからの生で意味があるものにしていく。

 その過ちを、未来に生きる命の糧にするために。

 ―――父さん。俺たちの命を、間違いじゃなくそうとしなくてもいいんだ。

 間違ったものだったとしても、俺たちの命は意味あるものになれるんだから」

 

〈シンダイカイガン!! シンスペクター!!〉

 

 シンスペクターがトリガーを引いた。

 眼魂の力が限界まで引き出され、背中に浮かび上がる七枚の翼。

 溢れ出す力が渦を巻き、天を衝く。

 

「だから俺たちが背負うべき罪は何も捨てない!

 全ての罪を背負って前に進んで、次の命に―――罪を罪として示す!

 同じ過ちを犯さないために……あんたが望んだように、人間が人間のまま正しく変わっていけるように!」

 

 

 白銀を染める、虹色の光。

 眼魂から溢れたその光を足に集中し、ゴーストが舞う。

 満身創痍の身でなお、ウルティマはそれに応じた。

 

 その光は眼魔に仇なすものだ。

 眼魔を守らなければならない。

 守るためには、仇なす全てを排除しなければならない。

 敵を排除するためには、彼は戦士として必要とされねばならない。

 だから。

 

「私は……!」

 

「あなたが守ろうとした筈のものも、アランが守りたいものも!

 眼魔の世界はこのままじゃ、きっと何もかもが滅茶苦茶になる!

 だから俺は―――絶対に止めてみせる!」

 

 激突する。

 ―――勝敗は、容易に決した。

 

 虹色の光となったゴースト・ムゲン魂。

 光の矢の如き蹴撃は、僅かな拮抗も許さずウルティマを粉砕する。

 

 ウルティマの装甲。そして自身の眼魂。

 両方を完全に粉砕されたジャイロ。

 彼の意識は数秒と保たず、眠りの間に帰るだろう。

 

 四肢が失われて、崩れ落ちていく感覚。

 そんな中で目にする、自身を砕いていく虹色の光。

 その光の彼方に、何故か友だった男の姿が重なる。

 

「リュー、ライ……!」

 

〈ゴッドオメガドライブ!!!〉

 

 加速する虹光。

 圧倒的な光の奔流と衝撃に、ウルティマだったものは微塵と残らない。

 無意識に呟いた自分の最後の言葉を耳に残し、ジャイロの意識は途絶した。

 

 

〈デッドリーオメガドライブ!!!〉

 

 蒼い翼を羽ばたかせ、飛び立つシンスペクター。

 空へと大きく舞い上がった彼。

 その七翼から放たれるエネルギーが、足へと集っていく。

 

 全てを乗せたその足を突き出し、上空から迫る息子の姿。

 それを見上げながら、ダントンは全身に力を漲らせた。

 噴き出す炎。溢れ出す光。

 体が反動に耐えかねて、崩壊を開始する。同時に再生も。

 

 そんな全てを振り絞った態勢で、彼はマコトを待ち受けた。

 

 果たして、結局自分は何を求めていたのか。

 目が眩んだのは、マコトとカノン―――リヨンとミオンを授かった時だろうか。

 

 自分たちが選んだ道は間違いではない、と。

 この手に抱いた小さな命に保証してもらえたようだった。

 罪の重さに耐えかねて逃げ出した、と言われればそうなのかもしれない。

 最初は……命を犠牲にする罪を、罪と確かに思っていたような―――

 

「……体がどれだけ治っても、罪の重さに潰れたあんたの心は治らなかった。

 ―――それでも、前に進んできたあんたを俺は誇りに思う。

 だからもう休んでいいんだ、父さん。後は、俺たちが繋いでいくから」

 

 シンスペクターとエヴォリュードが激突する。

 

 不死身の体が壊れていく。究極の肉体が潰れていく。

 再生はすぐに始まって―――けれど。

 ゆっくりと、ゆっくりと、修復速度が緩慢になっていく。

 

 肉体を支えていた心が、終わりを認めて―――

 自分が終わっても、息子が続けていくものなのだと認めて、終わっていく。

 

 急速に終わっていく自分を自覚して。

 ぽつり、と。ダントンの口から声が漏れる。

 

「―――私は、間違っていたのかな」

 

「あんたの間違いが、俺に命と幸福をくれたんだ」

 

 激突の最中にあって、マコトはその呟きに言葉を返す。

 エヴォリュードの肉体を支えていたものが、ついにぷつりと切れた。

 

 蒼い光が羽となって弾け飛び、その威力を十全に発揮する。

 無敵だった進化生命の肉体が限界を超えて崩れ落ちた。

 

 相手を突き抜けて、着地するシンスペクター。

 その足が地面を削りながら大きく滑り、やがて止まった。

 

 踏み止まったマコトの背後。

 シンスペクターの力の残滓である、撒き散らされた光の羽。

 それらが降り注ぐ光景の中で。

 砕けたエヴォリュードの肉体もまた、光の粒子に還っていく。

 

 バラバラと崩れていく黒い外皮の男が、小さく頭を揺らした。

 

「……ラボに。クロエという、お前のもう一人の妹が眠っている。

 すまないが……全部、終わったら……」

 

「―――ああ、分かった」

 

 そう答えながら振り向いたスペクター。

 彼の前で、小さく笑いながら、ダントンが完全に消え去った。

 

「……おやすみ、父さん」

 

 

 

 

「……逝ったか」

 

 その光景を離れた場所から眺めながら、男はゆっくりと瞑目した。

 

「……ダントンめ。最初からお前がわしと力を合わせていればもっと……」

 

 今しがた逝った友を偲ぶように、彼は微かに顎を引く。

 だがそんな男の様子に呆れるように。

 ユルセンが周囲をぐるぐる舞いながら、仙人の後頭部をつついた。

 

「おまえの方こそ譲る気ゼロだったくせになーに言ってんだか。

 譲らなかった相手だけが悪いみたいな言い方やめろよなー」

 

「やかましいっ! 奴と違ってわしは力を合わせることを知っておる!

 それがこの、眼魂島なのだからな!」

 

「それがこの~ってさぁ……

 おまえがそもそも龍とタケルを信じてりゃ、ここ要らなかったじゃん。

 いつの間にかゴーダイは追い出されて、アルゴスは勝手に動いてるし。

 なあなあ、こっからどうすんだよ?」

 

 そも、この島は仙人にとっての次善の策だ。

 ガンマイザーを突破し、グレートアイに接触するための。

 

 グレートアイを守護する15基のガンマイザー。

 それに対応する15個の英雄眼魂。

 

 かつて龍たちと仙人が協力し、ムサシを始めとする15人の英雄を選出した。

 その魂を眼魂化することによって、ガンマイザーに対抗するために。

 結果として龍に託されたタケル達はそれに成功した。

 少なくともグレートアイに一度繋がり、カノンの命を救ったのだ。

 

 だがこれが失敗した時。龍たちが選んだ15人の英雄では駄目だった時のために。

 仙人が予備として進めていたのが、眼魂島の計画だ。

 15人の英雄を選び出す前、眼魂とする偉人の候補として挙がった100人の英雄。

 選ばれなかった残りの魂を眼魂島に集め、ガンマイザーに対抗するための力を見出す。

 

 そんな計画を進めるために選んだ人員こそ。

 百年戦争で死亡し肉体を失い、魂だけを眼魂に保存していたアルゴス。

 

 そして、仙人もまた人間世界で龍を通じて再会したゴーダイ―――深海大悟。

 彼はマコトたちを戦いに巻き込まぬために仙人へと協力し、結果としてここで散った。

 その事実にもまた視線を泳がせて、仙人は空を見上げる。

 

「……もはや全てはわしの想像を超えた事態。

 ――――これからの全ては、タケルの肩にかかっているのだ……」

 

 自分が準備した世界の空を見上げながら、きっぱりと。

 そう言い切った彼に対し、ユルセンの小さな体が跳ねた。

 

「オマエ、そればっかな!」

 

 きゃあきゃあと騒ぐユルセン。

 仙人はそれを鬱陶しげに手で追い払う。

 

 そんなことをしている彼らの前。

 彼らが見つめる、ダントンとの戦いを終えたマコトたちのすぐ傍。

 

 ―――空間が歪み、そこにダークゴーストが姿を現した。

 

 

 




 
オヤスミー
 
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