Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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革命!魂の在り方!1821

 

 

 

 ジャイロが消えたのを見送り、タケルはドライバーを解放する。

 元の姿に戻った彼は、すぐさま後ろを振り向いた。

 視線の先にいるのは、座ったまま息を荒げているジャベル。

 

「ジャベル……」

 

「……私に構うな。私は……私の心というものに、従っただけだ」

 

 そう言って向き合った顔を逸らすジャベル。

 そんな彼の言葉に小さく頷く。

 ジャベルから外した視線を向けて見上げるのは、この世界の中心にある塔。

 

「―――止めないと」

 

 呟き、タケルは走り出す。

 

 全身を刺すような、この世界に漂う気配。

 それは留まることを知らぬように加速していく。

 きっと、そう時間が残されているわけではない。

 

 感じたことのない、奇妙な感覚。

 それに突き動かされるように走り出したタケル。

 彼はその感覚に眉を顰め、塔を見上げて歯を食い縛った。

 

 

 

 

「驚いたな。勝つのは、ダントンだとばかり思っていた」

 

 ダークゴーストは収束した戦場を見やり、開口一番そう言った。

 だがすぐに興味を失ったように視線を外す。

 彼の視線が次に向かったのは、足元に転がるガンガンキャッチャー。

 それを軽く蹴り上げて掴み取り、手の中でくるりと回してみせる。

 

「―――兄上」

 

「……アルゴス。カノンたちはどこだ!?」

 

 微かに頭を揺らすネクロム。

 それより前に出て、シンスペクターがアルゴスに詰め寄ろうとする。

 マコトのそんな態度に鼻を鳴らし、ダークゴーストはキャッチャーを肩に乗せた。

 

「心配する必要はない。お前の妹たちは勝手に抜け出した。

 ツタンカーメンとフーディーニと共に侵入してきた女たちとな」

 

 いっそ、どうでもよさそうな。

 そんな様子で答えを返すアルゴス。

 

「マシュが……」

 

「―――眼魂を渡させたい現状、それを自分からバラすのは悪手じゃないかな?

 君はマコトくんの持つ、三つの英雄眼魂を奪いにきたんだろう?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、ダークゴーストが顔を傾ける。

 その視線がマコト―――

 そしてその手の中に納まった、三つの英雄眼魂を捉えた。

 

「……確かにな。だが構わん」

 

 ダ・ヴィンチちゃんを前にしたアルゴスが口を開く。

 どこか余裕さえあるその態度。

 そんな兄に対して、アランが声を上げた。

 

「……英雄の眼魂を集める目的は何なのです。

 グレートアイの力を求めて、兄上は何を!」

 

「そうだな……」

 

 アルゴスの視線が泳ぎ―――

 先程まで、ダントンの姿があった場所へと向く。

 

「―――いいだろう。

 ここまできたのだ、説明くらいはしてやろう。私が求めるもの……

 それは、ゴーストの世界だ。全ての人間がゴーストとなり、肉体から解き放たれる世界」

 

 肉体を進化させることを選んだダントン。

 消滅した彼を笑うように、アルゴスは小さく鼻を鳴らす。

 

「ゴーストの、世界?」

 

「ああ。肉体を捨て、人が魂だけで永遠を生きる世界。

 肉体を保存していなければならない眼魔とは違う……真の理想世界だ」

 

 彼は赤いマントを風になびかせながら、何でもないようにそう宣言する。

 口調こそ軽く、笑いが滲んでいた。

 だがそれが冗談の類ではないということは、雰囲気からだけでも察せる。

 

「……ひとついいかしら。それ、どの辺りが理想なの?

 生憎だけど、不老不死とか別に求めてないのよ」

 

 納めていた刀の鍔に指をかけ、武蔵はそう口にする。

 

「兄上……私は、肉体を得て生活することで知った。

 それは人の生き方ではないのだ」

 

 ネクロムが拳を握る。

 黄金のパーカーから力が噴出し、その拳に炎を灯す。

 この場で確実に止めると、そう覚悟するように。

 

 だが、その応対を見たアルゴスは笑った。

 

「だろうな。人の生き方ではない、などと。アラン、お前に言われるまでもない。

 先程までの親子の話は少し見させてもらったが……」

 

 ダークゴーストがシンスペクターに視線を向ける。

 

「私は人の親ではないが、少しなりとも気持ちは分かるものだ。

 何故か分かるか、アラン」

 

「何を……?」

 

 困惑するアランに対し。

 アルゴスは―――努めて平坦な声で、心情を語りだす。

 

「お前がいるからだ、アラン。

 私の物心がついた後に生まれたお前の、小さな姿を知っているからだ。

 お前を抱く母。喜ぶ父。両親が喜んでいるから自分たちも喜んでいたアデルとアリア。

 全て、私は憶えている。長兄として私が守らねば……そう想ったことをな」

 

 その告白に嘘が無い、と。

 余りにも簡単に受け入れてしまったことに戸惑いながら、ネクロムが拳から力を抜いた。

 

「命は尊い。家族は尊い。私がそう思っていないと考えていたか?

 いいや、違う。だからこそ、なのだ」

 

 ダークゴーストが歩みを始める。

 ネクロムが動けない、と察したシンスペクターが即座に動き前に出た。

 まず間違いなく戦闘力はマコトが勝るだろう。

 ムゲン魂を抑え込んだ力にさえ気を付ければ、まず遅れは取らない。

 

「幸福と不幸を感受する人間の生き方。ただ永遠にあるだけのゴーストの在り方。

 それを理解した上で、私は選んでいるのだ。

 ―――人よ、ゴーストになれと。

 新しい命を授かる幸福も、大切な命が喪われる不幸もない。

 だが、愛する家族と共に永遠に在り続けられるゴーストこそが、私の理想なのだ」

 

「―――お前の悲しみと怒りは分かった。

 だが、それは人の生き方を変えていい理由にはならない」

 

 シンスペクターがガンガンハンドを振るう。

 それに対抗せず、胴体を打ち据えられるダークゴースト。

 彼は衝撃に二歩、三歩とよろめきながら後退り。

 

「分かっていないな、スペクター。

 私の方法はダントンとは違う。イーディスとも違う。人の生き方を変えるのではない。

 人というものを全て、生物からゴーストという存在に造り変えるのだ」

 

 追撃。

 シンスペクターの放つ弾丸が、ダークゴーストの全身を撃ち抜く。

 飛び散る滝のような火花。

 その中でダークゴーストはガンガンキャッチャーを構え―――

 

「―――スペクター。

 ダントンの造った肉体と、これまで育ってきた深海マコトという魂。

 その二つが完全に合致したお前の力……大したものだ。

 器には相応しい魂がある。器と魂が揃った時こそ、凄まじい力が発揮される」

 

 言いながら取り出すのは、ダーウィンの眼魂。

 それを見たダ・ヴィンチちゃんが顔を顰めた。

 

 ダーウィンはムゲン魂を抑え込んだ強力な眼魂だ。

 故に、それを今この場で取り出すことがおかしいとまでは思わない。

 だが何か引っかかる。

 

「……タケルくんの力を奪った眼魂」

 

「フッ……神の器に魂の火を入れるとしよう。

 これから生まれる、究極の眼魂のための祝砲だ」

 

 ガンガンキャッチャーにダーウィンが装填される。

 そのまま銃形態になった白い砲口から、閃光が放たれた。

 

 ―――前方のスペクターに、ではない。

 後方、ダークゴーストの現れたワームホール。

 そちらへと向けて、虹色の光は放たれていた。

 

〈オメガフィニッシュ!!〉

 

「なに……!?」

 

 空間に開いた穴に飛び込む光。

 そうした瞬間、ダークゴーストが逃れるように跳躍した。

 シンスペクターの攻撃の直撃を受けながらも、それ以上に。

 自身が背中にした孔の前から、退くことを優先したのだ。

 

 ―――その直後。

 ワームホールから膨大な虹色の光が溢れ出してくる。

 撃ち込んだ光とは比べものにならない、光の洪水。

 その暴威は一気に、一瞬で、目の前に広がる光景を呑み込んでいく。

 

「これは―――まさか、タケルの……!?」

 

 回避は―――許されない。

 背後にはダ・ヴィンチはまだしも武蔵がいる。

 これほどの力の荒波、人間が呑まれればまず致命傷だ。

 即座にシンスペクターがドライバーに手をかける。

 

〈シンダイカイガン!! シンスペクター!! デッドリーオメガドライブ!!!〉

 

 七枚の翼を広げ、光の壁となって立ちはだかるスペクター。

 虹色の激流はそれに正面からぶつかり、渦を巻く。

 波濤に押し流されそうな体を踏み止まらせ、マコトが死力を尽くす。

 

「マコト!!」

 

〈友情ダイカイガン! バースト! オメガドライブ!!〉

 

 それを後押しするように、駆け込むネクロム。

 彼の放つ黄金の炎が、虹の津波を遮るために加勢した。

 

 蒼い翼と金色の炎。

 二つの光の壁を、しかし虹色の極光は力尽くで押し流す。

 尋常ではない、圧倒的な力の奔流。

 

「ぐっ……!?」

 

 止め切れず、二人の影が一息に光に呑み込まれた。

 ―――それでも背後には通さない、と。

 二つに割けて、彼らの背後へと流れていく光の渦。

 

 そうして無事に済んだ場所へ、ダークゴーストが降り立つ。

 くるりと一度回しながら、キャッチャーからダーウィンを取り外す。

 続けてその銃口を光の中へと突き出した。

 

「まずは三つ」

 

 光の中に沈んだシンスペクター。

 姿さえ視認できない状態で、未だに極光に耐え続ける彼。

 その懐から、ガンガンキャッチャーへ三つの眼魂が引き寄せられる。

 

「貴様……ッ!」

 

 マコトの声に意識を向ける事さえせず、彼はそのまま三つの眼魂を掴む。

 そうした直後、怒涛の極光が破裂するように一気に溢れた。

 周囲を消し飛ばすような威力の荒波。

 その直中にいた二人のライダーが、吹き飛ばされて沈黙する。

 

「さて。後は一つ……というわけだが」

 

 ダ・ヴィンチちゃんを目的として、ダークゴーストが振り返った。

 その瞬間、彼の目前に球体のエネルギー光が飛び込んだ。

 

 ―――破裂する球体。

 そこから放たれた閃光が、ダークゴーストからパーカーを引き剥がした。

 空中へと投げ出されるナポレオンのパーカーを見て、息を吐く。

 

「ほう」

 

 直後に舞い込む二刀の閃き。

 即座に振るったガンガンキャッチャーが、その刃で弾き飛ばされた。

 得物を失い、隙を晒す。

 

 その合間に、止まらず放たれる刃の連撃。

 絡み合う無数の斬撃が、躱す事も許さずダークゴーストの装甲を刻む。

 トランジェントに確かな傷を負いながら、彼が一歩後退った。

 

 そんなアルゴスの目の前で、ダ・ヴィンチちゃんが構えた籠手が揺れる。

 

「英雄のゴーストとの繋がりを強制的に断つ……流石のレオナルド・ダ・ヴィンチ、か?」

 

「おや。私がそうだと知っているのかい? 光栄だ、と言っておこうか?」

 

 ―――仁王が浮かぶ。

 正しく一気呵成。

 一切の猶予もなく、武蔵がその刃の真骨頂を晒す。

 

 あの無限の力……虹色の奔流がもう一度行使されれば、全滅は必至。

 なればこそ、彼女の切っ先に迷いはなく。

 その気勢で無双の剣撃を練り上げる。

 

「剣轟抜刀―――!」

 

「ムサシの剣……空を斬る、という代物か。では、空想は斬れるか?」

 

 ばたり、ばたり、と。

 どこからともなく、ダークゴーストと武蔵の間に広がる紙面。

 視界を覆うほどに屏風が一気に立ち並んでいく。

 

 森と人食い虎が大きく描かれた屏風。

 その中で虎が首を巡らせ、ぎょろりと目を蠢かせる。

 

「っ……屏風!?」

 

「さて。貴様は屏風の中の虎を斬れるかな?」

 

 眼魂を変え、空色のパーカーを身に纏い。

 ダークゴーストが、前方に展開した屏風の隔壁を見て笑う。

 

「纏めて斬り捨てりゃいいだけでしょうが――――!!」

 

 そのような物言いに止まるはずもなく。

 武蔵が一度納刀していた剣の柄に手をかける。

 

 ただの屏風に仁王が如き気風は中らない。

 ならば直接斬って捨てるまで、と。

 そうして構えた彼女に対し、アルゴスの声が飛ぶ。

 

「宮本武蔵の力は大したものだ。

 それでそのあらゆるものを斬って捨てる剣で、お前は何を斬る。

 屏風か? 中にいる虎か? それとも私の言葉か?」

 

「―――――!」

 

 大天衝。

 彼女自らの抜刀で放つ剣撃が、前に立ちはだかる屏風を斬って捨てる。

 その鋭さは中にいる虎ごと、屏風などというものは消し飛ばす。

 ―――だが、当たり前のことだが。

 

 屏風の中に虎などいるはずもなく。

 従って、屏風を斬ったところで虎を斬れるはずもなく。

 

 ―――彼女に斬られなかった以上、屏風から飛び出した虎は武蔵を襲う。

 

「こん、の……ッ!?」

 

 飛び掛かってくる虎の爪を刀で受け止め。

 更に迫りくる頭部が突き立てんとするする牙を、体を退いて躱す。

 純粋に圧倒的な重量、体重差。

 それに影響されて武蔵の体が揺らぐ。

 

 宮本武蔵の刃は空を斬る。

 あらゆるものを斬って捨てる。

 彼女が未だ未完の大器でしかない、未熟者であったとしてもだ。

 その事実、その方向性ばかりはけして失われない。

 

 けれど、だからこそ。

 その力は、彼女の刃の鋭さに()()をつける。

 

〈カイガン! 一休! 迫るピンチ! 冴えるとんち!〉

 

 彼女の太刀筋が他の可能性を全て切り落としたその後に。

 他の可能性もあっただろう、と。そう問いかける。

 無理矢理斬り落とされた因果を、とんちを効かせて適当に繋ぎ直す。

 

「く……ッ! こんの……っ!?」

 

 武蔵の足が躍る。

 重量と膂力に負ける虎を捻じ伏せるために、彼女に許されるのは工夫だ。

 だからこそその身は必死に動き―――

 

 ダークゴーストがガンガンセイバーを抜き放つ。

 虎ごと纏めて。武蔵に対し放たれる、思い切ったフルスイング。

 虎に組み付かれたままに、吹き飛んでいく武蔵の姿。

 

 それを見送り、アルゴスがダ・ヴィンチちゃんに向き直った。

 

〈カイガン! ナポレオン! 起こせ革命! それが宿命!〉

 

 再び青いパーカーを纏い、赤いマントを風に流し。

 ダークゴーストはダ・ヴィンチちゃんと対峙する。

 

「先程の英雄ゴーストの分離……あれも、自分の眼魂を分析した結果だろう?

 ダ・ヴィンチの眼魂は、貴様が持っているということでいいわけだ」

 

「―――そうなるね」

 

 星の杖を構えつつ、眉を顰めるダ・ヴィンチちゃん。

 虹色の津波は収まったが、まだマコトもアランも姿を見せない。

 すぐに戦闘に戻れないほどのダメージを受けた、ということだろう。

 

「……さっきの力は、タケルくんのものだね?

 だが、明らかに前の戦いで吸収した量を超えている。どういうことかな」

 

「自身で答えに辿り着いているように見えるがな?

 そもそも、先程言った通りだ。魂から得たかがり火を、肉体に灯した。

 それだけの話でしかない」

 

「―――――」

 

 ガンガンセイバーの切っ先を返し、アルゴスが歩みを始める。

 

 彼に向け、籠手で握った星の杖が振るわれた。

 迎撃のために杖から流星が舞う。

 それら全てを切り捨てながら、ダークゴーストは進み続ける。

 

「貴様がレオナルド・ダ・ヴィンチ当人であるならば……私の目的は、そう頭ごなしに否定するべきものではあるまい? ダ・ヴィンチの眼魂は少なからず、魂のみで生きるという眼魔の方針を肯定していた」

 

 ちらりと一瞬、自分の籠手へと視線を送る。

 まあそうなんだろう。

 レオナルド・ダ・ヴィンチがそういうことをした、と。

 そう言われると、彼女個人としても納得しかない。

 

 けれど、だ。

 

「まぁ……そうかもね。私にそういう部分がないとは言わない。

 単純に人の可能性の追求、という観点においてそれに興味が無いとは言えない。

 けど残念ながら、こちらの私はまったく心惹かれないね。

 何で同じ私でありながら、そんな違いが出るか。

 私の眼魔と私の違い、分かるかい?」

 

「理解する必要はない。私はお前の眼魂をただ力として使うだけだ」

 

〈ダイカイガン! ナポレオン! オメガドライブ!!〉

 

 ドライバーを引き、刀身に暗い炎を宿し。

 ダークゴーストが斬撃で描いた軌跡を、炎の刃として飛ばした。

 

 即座に腕を突き出し、その力を臨界させる。

 掌に展開される魔力投射レンズ。

 そこから溢れる光が、球体を形成して解き放たれる。

 

「―――“万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)”!!」

 

 投射された光球は炎の斬撃に立ち向かい。

 そして切り裂かれた瞬間に、一気に弾けた。

 途端に崩れていくダークゴーストの放った斬撃。

 

「相殺……いや」

 

 そうして崩れた斬撃のエネルギーを利用し、光が咲いた。

 相手の攻撃のエネルギーをそのまま自身のものとして。

 ダ・ヴィンチちゃんの放った光球が、無数の光線となって弾け飛んだ。

 

「そりゃ私は善く生きる人が好きだからね!

 一人で好きに遊ばせたらろくな事をしないだろう事は認めるけど!」

 

 撃ち上がる無数の光線。

 それが一度大きく空へと舞い上がり―――

 切り返して、一気にダークゴーストへ向けて降り注いだ。

 

「―――そこに善き人がいなくなる世界の在り方はごめんだね。

 私は好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いだ。

 疎んでいるものが消える代わりに愛しいものが失われる、じゃ採算が取れない」

 

「善悪などで測るから大切なものを見失うこともある。

 命というものには、善も悪も必要なかったのだ。

 ただ大切なものと永遠に共にあり、それを幸福だと知ればいい」

 

〈カイガン! ガリレオ! 天体知りたい! 星いっぱい!〉

 

 ―――ダ・ヴィンチちゃんが放ったその星の光が。

 

 赤いパーカーを纏ったダークゴーストを目掛け、しかし全て逸れていく。

 まるで距離感を誤ったように、不自然な軌道に折れ曲がる光線たち。

 見当違いの場所を粉砕していく光の雨。

 

 ゆるりとダークゴーストが指先を巡らせる。

 その瞬間、空で光が瞬いて、発生した星の光が失墜を始めた。

 

「天体干渉ね……! こういう時に限ってオルガマリーはいない……!」

 

 降り注ぐ光に対し、ダ・ヴィンチが杖を翳す。

 対抗するように放たれる魔弾が迎撃に撃ち出される。

 

 空から降り下る流星雨。

 それを相殺して持ち堪えるのは、すぐに限界がやってきた。

 迎撃から結界に切り替え、完全に防御の姿勢へ。

 

「く―――っ!」

 

 強く顔を顰めながらそうした彼女の前。

 ダークゴーストは何事もないように歩み出す。

 降り注ぐ星の光は、彼を避けるように落ちていく。

 

 星のカーテンを割って進み―――

 アルゴスが、ダ・ヴィンチちゃんの前に辿り着いた。

 

〈ダイカイガン! ガリレオ! オメガドライブ!!〉

 

 赤い衣を纏った腕が伸びた。

 光が加速し、ダ・ヴィンチちゃんが展開した守りが砕け散る。

 そこで留まらず降り注ぐ破壊の光芒。

 

 それを止めるべく、彼女が右腕を掲げられた。

 

 ―――解析し、対応する。

 万能の天才の具現であるその宝具。

 そこから放たれる力が光線の雨を遮って、しかし。

 

 光を止めている以上、ダークゴーストを止める事は叶わなかった。

 

「ッ……!」

 

 ガンガンセイバーが奔る。

 掲げられた籠手を殴りつける刃。

 火花を散らして弾かれる、万能の籠手。

 その衝撃で飛び出すように、一つの眼魂が吐き出される。

 

 ガリレオの撃ち下ろす星の光が止む。

 攻撃を早々に打ち切った彼が、すぐさま弾かれた眼魂を掴んだ。

 

「神の器を満たす100の魂。最後の一つだ」

 

 ダークゴーストの背後の空間が歪む。

 歪みの先には、無数の眼魂が収められた場所が見える。

 きっと、恐らくあの中に―――

 

「やらせるわけには……!」

 

「最早お前たちに関わっている暇はない」

 

 立て直そうとしたダ・ヴィンチちゃん。

 彼女の鼻先に投げつけられる、ガンガンセイバー。

 それを杖でどうにか弾いた瞬間―――

 

 アルゴスの姿は、既に彼女の目の前から消えていた。

 

「――――っ、」

 

 眉を顰め、一度目を瞑り。

 すぐに彼女はマコトとアラン、武蔵を探して動き出す。

 

 

 

 

「―――――マスター、下がってください」

 

 丁度、立香たちが塔を上がり切った瞬間だった。

 マシュが即座に前に出て、盾を構える。

 

 牢を脱出してすぐ。

 彼女たちは塔全体を揺るがす衝撃に見舞われた。

 塔の一番上で、まるで何かが爆発したかのような。

 

 相手が何をやろうとしているかは分からない。

 だが少なくとも、眼魂を集めて何かをしようとしている。

 集める事を許したら、取り返しがつかないかもしれない事を。

 

 だからこそ彼女たちは、選択した。

 戦力が足りていないことは重々承知で。

 しかし、ここで逃げるより相手の作戦の成就を邪魔するべく。

 

 そうして現場についた瞬間、見たもの。

 それは、空間の歪みからこの場に帰還するダークゴーストの姿だった。

 

「ア、アアア、アルゴス!」

 

「逃げずにこちらに来たのか。どちらにせよ、結果は変わらないがな」

 

 喚く御成などをちらりと見て、アルゴスはそう呟く。

 彼の手の中から、幾つかの眼魂が飛び出していく。

 いまドライバーに装填されている眼魂もだ。

 

 そうして変身を解除された彼の前。

 玉座の間に置かれた巨大な台座に、全ての眼魂が収まっていく。

 数にして100。この眼魂島にある、全ての英雄眼魂だ。

 

「眼魂が全部……! お兄ちゃんの分も……!?」

 

 二つ入れ替わっているが、それでもノブナガが混じっていれば理解できる。

 今放たれた英雄眼魂は、マコトの持ち合わせていた分も混じっていた。

 

「……あなたは、何をしようとしてるの?」

 

 最早アルゴスの計画は最終段階、あるいは成就しているのか。

 それを理解して、立香は静かに彼へと視線を向けた。

 

 声をかけられた彼は、少し悩むように首を捻る。

 

「そうだな……今、この場で何が起こるかと言えば―――」

 

 そうして返される言葉と共に―――大気が揺らぐ。

 次いで100の眼魂を集めた台座が強く震動し、虹色に輝き始めた。

 まるでゴーストが放つような色の光に、微かに困惑する。

 

「―――新たなる神の降臨だ」

 

「神……?」

 

 婉曲的な表現なのか、あるいは―――

 神に等しき力を持った存在、という意味なのか。

 

「グレートアイ、のこと?」

 

 台座の放つ虹色の輝きに、眼魂が放つそれぞれの光が混じっていく。

 全ての輝きが混じり合って、立ち昇る黄金の光輝。

 金色の光を背にしながら、アルゴスが小さく笑った。

 

 ちらりとカノンの方へと視線を向け、眉を顰める御成。

 

「確かにグレートアイとは、カノン殿を生き返らせるほどの存在……

 神、のようなものと言えばそうとも言えるような……」

 

「私はその神の力で、全ての世界の人間をゴースト化する」

 

 首を傾げる御成の前で、そう断言するアルゴス。

 彼の言葉に対して、アカリが眉を顰めた。

 

「……なんですって?」

 

「肉体を維持する必要もなく、永遠に活動する魂だけの存在。

 それこそが完全なるゴーストであり……私の理想だ」

 

「―――それは、何のための?」

 

 真っ先に返した立香に視線を合わせ、鼻を鳴らすアルゴス。

 

「決まっている……何かのため、などではない。

 ただそれが、私の望みだからだ」

 

 一切揺るがず、彼はそう断言した。

 その言葉に対して叫び返すのは御成。

 

「全ての人間を人間じゃなくすることが、望みだとでも!?」

 

「いや? 人間が今の人間のままである限り、得られない望みだからこそ……

 人間を別物に変えるしかない、という結論に至っただけだ」

 

 言いながら彼は視線を巡らせて、部屋の入口へと顔を向ける。

 階段を駆け上がる足音が近づいて―――

 やがて、その場に天空寺タケルがその姿を見せた。

 

「アルゴス……!」

 

「お前を待っていた。天空寺タケル」

 

「タケル殿……!」

 

 台座の放つ黄金の光を背にしていたアルゴス。

 彼の手が、その台座から一つ眼魂を取り上げた。

 その影響か、僅かに弱まる光の中。

 

 黒く染まって、見えないようになっていた台座の中心。

 その黒染めが薄れていき、中に人の姿が浮かび上がってきた。

 そうして浮かび上がった姿を、見間違うはずもない。

 

「……タケル、の体……!?」

 

 思わず声を上げたアカリ。

 彼女の言う通り、アルゴスが背にした眼魂の台座の中。

 そこには、天空寺タケルの姿があった。

 

「あれ、は。まさか……?」

 

 呆然と呟くタケル。

 あれは正しく、18歳の誕生日に喪った彼自身の肉体。

 あの日から天空寺タケルは、仮面ライダーゴーストになり戦ってきた。

 その肉体が何故、そんなところにと。

 

「お前の肉体だ、天空寺タケル。そして今から、この肉体は―――」

 

 そんなことで悩んでいる暇は与えられず。

 アルゴスの指が、持ち上げた眼魂を起動する。

 それは人間の進化の力を司るダーウィンの眼魂。

 微笑みながらそれを起動した彼は―――

 

「―――マシュ! 止めて!」

 

「―――――ッ!」

 

 盾を手に、マシュがアルゴスに突貫する。

 黄金の光に逆らい―――

 しかし、その物理的な衝撃を伴う圧倒的なプレッシャーに前に進めない。

 それこそゴースト・ムゲン魂と同等か、それ以上の力。

 

「く……っ!」

 

 盾で衝撃を受け流しながらでは、まるで足が前に出ない。

 それも当然、とでも言うかのように、アルゴスの意識はタケルを捉えている。

 

「神なる、究極の眼魂となる」

 

 ダーウィンが力を発揮する。

 それと連動するように力を放つ99。合わせて100の眼魂。

 その全てが、台座の中に収められたタケルの肉体へと溶け込んでいく。

 

 ―――周囲に発散されていた黄金の光。

 それが一所に集中し、凝縮される。

 形成されるのは黄金のベルト。

 

 敢えて似ているものを挙げるとすれば、アイコンドライバーG。

 タケルの肉体を元にした黄金のベルト。

 何故か残っていたタケルの肉体が出てきて、そしていきなり消されて。

 代わりに、アルゴスの手の中に現れたドライバーが一つ。

 

 呆然とした声が、アカリの口から漏れる。

 

「タケルの、体が……消え、た?」

 

「――――取り戻します!」

 

 黄金の威風が収まり、その中でマシュが強く踏み込んだ。

 だが彼女の手がアルゴスからそれを奪い去ることはない。

 彼は流れるように新たなドライバーを装着し―――

 

「―――変身」

 

 一切の予備動作なく、アルゴスの体が黒と金のトランジェントに変わっていた。

 ベルトから染み出す黒い霧がパーカーを形成。

 すぐさまトランジェントの上に纏わり、彼の全身を覆い隠してみせる。

 

 ただその変身の衝撃が、この玉座の間を粉砕していく。

 床に、壁に走っていく罅。

 

「たぁああああ――――っ!」

 

 そうして崩壊の始まった塔の中で、巨大なラウンドシールドが振り抜かれる。

 疾走から全力スイングに繋いだ、純粋に高い運動エネルギー。

 それが真正面から叩き付けられて―――

 

 アルゴスは。

 指を翳すだけで振れることもなく、マシュの動きを完全に止めた。

 

 盾が動かない。

 体が前に進まない、後にも退けない。

 ただ行動という行動を全て抑え付けられている、未知の感覚。

 

「――――ッ!?」

 

「―――天空寺タケル。

 お前の魂は、人が持つ無限の可能性の具現にまで昇華した」

 

 マシュを制しながら、彼の意識はただタケルに。

 自身を襲う盾になど気も止めず、相対するもう一人のゴーストだけを見ていた。

 

「つまりお前の肉体は、無限の可能性を持つ魂の器だったということだ。

 だから、詰め込むことができた。

 ……人間の可能性の体現者。人間が持つ可能性を歴史に示した、英雄という人種の魂を。

 数にして100。本来一つの肉体に一つの魂である人間の限界を超えた数を」

 

 フードを被った黒と金の影。

 それと視線を合わせて、タケルが胸を掻き抱く。

 

「人間の、俺の、可能性……」

 

「――――そう、可能性だ。

 英雄の魂というのはな、()()()()()()()()というモデルケースだ。

 お前という器は、人間の有する100の理想像を内に収めるほどの深さを見せた」

 

 魂に大きさがあるとするのなら、その重さが生前の行いで増減するなら。

 英雄の魂は、普通の人間よりも重く大きい魂を持っていることになる。

 ―――その上で。天空寺タケルの肉体は、100の英雄を受け入れた。

 

「それが何を意味するか。

 ―――お前という肉体は、人の持つ可能性を超越したんだよ。

 お前の中に、英雄の魂という一つの可能性を極めた容量(たましい)が、100種類収まり切るんだ」

 

 可能性は無限にあっても、結果は一つに終息する。

 人の可能性に生き、英雄という結果に辿り着いた先人たち。

 その100の結末を取り込み、天空寺タケルの肉体は新たな地平に辿り着いた。

 

 人の窮極。可能性が生む最大値。それが英雄の魂。

 その人間の限界を100だけ並べ、全て取り込むことで超えた事を示した時。

 無限の可能性は、一つの結論に辿り着く。

 

 この力は、人の持つあらゆる可能性を超越したものだと。

 可能性の前に立ちはだかる限界を突破する、唯一無二の突き詰めしものだと。

 

「……この“極限(エクストリーマー)”には、人の可能性は届かない。

 人の無限の望みはここで完全に終わらせる。これから先は……可能性など何もない、望むこともない、ただ静謐を幸福とするゴーストだけが、世界にあればいい」

 

 エクストリーマーが被ったフードが、崩れ落ちる。

 分解した黒い粒子が、彼のパーカーの上半身で再構成されていく。

 構成されるのは黄金の鎧と、高い襟。

 

 真紅の眼光を爛々と輝かせ、極限進化した黒と金のゴーストがその腕を掲げた。

 

 

 




 
100人の英雄の魂とかあったら14個くらい聖杯作れそう。
星4を二人レベル100にできるな。
 
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