Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
―――白い光が舞う。
魂の輝きを羽に変え、周囲へと散らす。
可能性の力を無限の光輝に。
タケルの体が、虹色の光に包まれていく。
「タケル!?」
「―――変身!」
〈チョーカイガン! ムゲン!!〉
〈キープ・オン・ゴーイング! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴ・ゴ・ゴ! ゴッドゴースト!!〉
白銀の衣を纏い、虹色に輝くゴースト。
ムゲン魂が降臨する。
待ち望んだもう一人のゴーストを前に、エクストリーマーが腕を振るう。
それだけで、動きが止められていたマシュが投げ出された。
解放された瞬間に体を捻り、何とか着地を決める彼女。
そんな彼女の姿とすれ違うように、ゴーストは前に歩いていく。
「タケルさん……!?」
「―――ちょっと待って、あいつは……!」
エクストリーマーは、100の魂を収めた天空寺タケルの肉体だ。
それと戦うということは―――打倒するということは。
自身の肉体を破壊する、ということに他ならない。
奪い返せるならばいい。
けれど、二人のゴーストが向き合っている今よく分かる。
圧倒的な力を持つムゲン魂すら凌駕する。
ムゲン魂と同等の力に、100の英雄の魂を上乗せしたようなもの。
それこそがあのエクストリーマーだ。
「そう、天空寺タケル……お前にこそ、問いたかった。
お前は―――私の理想を前に、立ちはだかるか?」
「―――当たり前だ。俺は……!」
〈イノチダイカイガン!! ヨロコビストリーム!!〉
ムゲンの手の中にガンガンセイバーが現れる。
ナギナタモードの長刀を振りかざし、放つ光の斬撃。
光刃に対して対応を取ることもなく。
エクストリーマーは、その一撃を正面から浴び―――
そして微動だにすることなく、ただ漆黒の衣の裾だけを靡かせた。
「人間なんだから――――!!」
加速するムゲン魂。
それを迎え撃つエクストリーマー。
両者が激突して、虹と黄金の光が渦を巻いた。
塔の天蓋を粉砕し、二つの光が空へ舞い上がっていく。
空中に描かれる、それぞれの光の軌跡。
ぶつかり、離れ、再びぶつかり弾け合い。
天空に大量のエナジーが放散される。
「せ、拙僧たちはどうすれば……!
どうにかしてタケル殿の体を取り返す必要が……!?」
「―――あれ、って。
あの……空に向こうに見えてるのは、もしかして……」
目を細めて空を見上げ、そうしてその先に何かを見たカノン。
そんな彼女のすぐそばに、てるてる坊主のような幽霊がいつの間にか浮かぶ。
「地球だぜ? アルゴスの奴、この眼魂島を地球にぶつけるつもりなのさ」
「ユルセン殿!?」
「フォフォウ……」
立香の肩の上から、その小さい幽霊に胡乱げな眼差しを送るフォウ。
ユルセンはカノンを挟んでその視界に入らないように隠れつつ。
現状を説明するように、言葉を続けた。
「タケルと英雄の眼魂……あいつらの力で満たした世界。
丸ごと全部を地球にぶつけながら、人間を全部ゴーストにしちまうつもりなんだ。
肉体はその衝撃でみーんな滅ぼすつもりでさ。
魂だけを残して、後は全部吹っ飛ばすつもりなんだよ」
「それは一体どうやったら止められるの?」
立香からの問いかけに、ユルセンが頭を揺らす。
言葉を選ぶように、しかし選び切れずに迷うように。
少し戸惑っていたものの、仕方なさげに返答を始めた。
「……まあ、アルゴスを倒すしかないんじゃないか?
それも半端なやり方じゃダメだ。
あいつをもう一つのグレートアイたらしめるあの究極の眼魂……
つまりタケルの肉体を壊さなきゃ、もう止められない」
「……なによ、それ。まさかタケルに、自分の体を殺せっていうの!?」
ユルセンに掴みかかろうとするアカリ。
そうなるだろうと思っていたのか、ユルセンはすぐにカノンの後ろに引っ込む。
カノンごと巻き込みそうなアカリを、咄嗟に御成が抑え込んだ。
「落ち着きなされ、アカリ殿! ええと、拙僧いい案を思いつきました!
ここでアルゴスを止めた後、本物のグレートアイにタケル殿の体を戻してもらうのです!
そうすればみんな元通りですぞ!」
御成が名案とばかりにその叫び、ユルセンに同意を求める。
水を向けられたユルセンが、その小さな体を背けて視線を彷徨わせた。
「―――まあ、ほら、なんだ。
どうせ倒せなさそうだし、諦めも肝心なんじゃないか?
はっきり言って、今のアルゴスはグレートアイと変わらない。
勝つとか負けるとかそういう次元の相手じゃないみたいなとこあるし。
ほら、おれさまが眼魂で生きてる先輩としてアドバイスとかするしさ」
「問題がある、ということですか?」
静かな詰問口調は、流れ弾に備えて盾を構えるマシュから。
言われたユルセンが体を震わせる。
「……タケルの場合、既に死んでるアルゴスたちとは話が違うんだ。
既に死んで肉体が滅び、眼魂を本体に活動してるアルゴス。
肉体を生かしたまま、眼魂を依り代に活動してる眼魔。
タケルはその中間なんだ。肉体も、眼魂も本体。
あいつは生きてる。その上で、肉体が死に瀕したところで止まってる。
肉体を離れようとしてる魂を、眼魂の中に捕まえてる。
眼魂と肉体。そのどっちが失われても、バランスが崩れてタケルは死ぬことになる」
「……それ、タケルくんは……」
「―――多分、知ってる。説明はしてないけど、今のあいつなら……
そもそも、本来はガンマイザーに眼魂を破壊された時点でどうしようもなかったんだ。
だっていうのにあいつ、自分で新しい眼魂を創って蘇った。
おれたちにはもう、どうすればいいのか分からない状態だったんだ」
「なによそれ、無責任じゃない!」
「そんなん言われても仕方ないだろ! 本来は―――!」
叫んで、そのまま声を尻すぼみにする。
黙り込むユルセンに対して、カノンが胸の前で拳を握った。
「私じゃなくて、タケルくんがグレートアイに生き返らせてもらうはずだった、から?」
「いやそれは……そもそも、それ以前の問題だったっていうか……」
居心地が悪そうにゆらゆらと揺れるユルセン。
カノンからそう疑問を出されては、それ以上追求もできず。
アカリもまた、拳を握って俯いた。
一瞬だけ目を瞑り、そうして目を開いて。
立香が自身の前に立つマシュの背中を見据える。
「―――とにかく、動こう。
迷ったまま動けないで終わるより、何かをしなくちゃ」
「……了解しました、マスター!」
「理不尽に奪われる最愛の家族。お前はそれを恨まないか?」
黒い衣が変形していく。
それはまるで羽を広げる孔雀のように。
一枚一枚それぞれに眼球を浮かべた、百の羽を展開する。
百の眼球、その全てから同時に奔る光線。
躱し切れずにそれを浴び、全身から火花を噴き上げ。
それでも前を見て、タケルがアルゴスを睨む。
「―――言い方を変えよう。お前はアデルを恨んでいないか?」
「―――――!」
「お前は善人だ。だが聖人ではない。
人並みに喜び、人並みに怒り、人並みに哀しみ、人並みに楽しむ。
だからこそ、お前の魂は神の領域に手をかけた」
〈イノチダイカイガン!! イサマシュート!!〉
ガンガンセイバーとサングラスラッシャー。
その双銃から放たれる弾丸が、光線を相殺していく。
だがそれでも押し返すことは叶わず、すぐに押し切られる。
「アデルを恨むお前の気持ちは正しい。だがお前の良心はそこで終わらない。
アデルを許し、受け入れたいと考えるアランに思うところがあるだろう?
友のために自分の心の中で恨みを殺し、目を背ける。
苦しいだろう。辛いだろう。なぜそんな想いをしなければならない?
最初から奪われなければ、生まれなかった想いだ」
〈イノチダイカイガン!! シンネンインパクト!!〉
サングラスラッシャーを放り。
ライフルモードへと変形するガンガンセイバー。
その銃口をアルゴスへと向けて、ムゲン魂は即座に引き金を引いた。
迸る螺旋を描く光の弾丸。
孔雀の羽が渦を巻き、エクストリーマーの姿を覆う。
翼の盾に直撃した弾丸が、撃ち抜けぬまま軌道を逸らされ、彼方へと消えていく。
再び羽を大きく広げたエクストリーマーが、ムゲン魂と対峙する。
「……生きることが得ることだけの世界なら、こんなに苦しむこともなかったろうに。
だが、世界はそれほど簡単にはできてはいなかった。
だから。得るだけが許されないなら、得るものを無くす代わりに失うものを無くす。
最初に誰もが持ち得る至上の幸福。家族の団欒さえあれば、それでいいだろう?」
「――――そんなことは、ない!」
〈イノチダイカイガン!! タノシーストライク!!〉
アローモードへと変形するガンガンセイバー。
そこに集わせたエネルギーを鏃とし。
タケルの感情を乗せた一射が解き放たれた。
――――それを。
羽を動かすこともなく、エクストリーマーの腕が掴み取った。
光の矢をぐしゃりと握り潰し、残光を手の中から振り払う。
「お前も分かってるはずだ―――例え相手が家族だったとしても、それは最初から誰かに大切だって決められてたわけじゃない……! 大切にしたいと想ったのは、自分自身の心のはずだ!」
ムゲン魂の手の中で、ガンガンセイバーが変形する。
ハンマーモードに変えた武装を引っ提げ、タケルが加速した。
「そう想うことを取り上げて、ただ大切だと決めて押し付けたって……!
いつかきっと、どうしてそうだったのか忘れてしまう!
分かってるんだろ! 眼魔は―――アデルだって! だからこうなったんだって!!」
孔雀の羽が眼を見開き、その眼光を解き放つ。
迫りくる百の光線。それを潜り抜けながら、突き進むゴースト。
白銀のパーカーを掠めて、無数の光が火花を散らす。
〈イノチダイカイガン!! ラブボンバー!!〉
「フ――――ッ!」
閃光を突き抜けてきたムゲンに対し、エクストリーマーが翼を閉じる。
それを体にぐるりと巻き付け、百眼の羽で球体を作りあげた。
―――怒涛の勢いで迫り、そして鉄槌が叩き付けられる。
揺らぐほどの衝撃を受けたことに、アルゴスが小さく鼻を鳴らす。
「俺は、父さんを奪われた事で―――悲しくて、辛くて、苦しんだ……!
そして本当のことを知った時、アデルを恨んだ……!」
羽と鉄槌をぶつけ合いながら、タケルが言葉を漏らす。
対してアルゴスは、押し返すこともせずその続きを待った。
―――もはや、タケルの中で繋がっている。
子供だったタケルを足蹴にし、父を殺したあの白い眼魔。
眼魔ウルティマの正体が、アデルだったことは。
復讐心がないとは言えない。
絶対に許せない、と心の中で燻る暗い感情を否定なんて出来ない。
その口ぶりに対してエクストリーマーは軽く肩を竦め―――
「―――けど、そんなに辛く思えるほど強く父さんを愛せたことを。
父さんと、その息子であれた自分を……俺は誇りに想う!」
纏っていた光が爆発的に増加し、ハンマーからによる負荷が激増する。
ミシリ、と。堅牢なる百の魂を束ねた羽の盾が、微かに軋む。
そんな事実を前にして、アルゴスが息を呑んだ。
「この怒りだって、哀しみだって!
全部俺が父さんに貰った、喜びと、楽しみがあったからこそだと知ってるから!
人から奪っちゃいけないものだって信じて、お前を止めるんだ!」
「チィ……ッ!」
ぎゅるりと渦を巻く羽。
想像を超えた一撃と認めつつも、しかし。
エクストリーマーの足元にも及ばないのが現実。
回転鋸の如く蠢動する羽が、瞬時にハンマーを弾き返した。
ムゲンの手から飛ばされ、地上へと落ちていくガンガンセイバー。
無手となったゴーストに対し、鞭のように羽が振るわれる。
滂沱と火花を噴き上げて、ムゲン魂が大きく揺らぐ。
そうして怯んだ体を無理矢理立て直し、タケルはアルゴスへ向き直った。
「アルゴス……! 人の想いは、失われるものじゃない……!
大切なものを失った時の暗い感情だって、人にとっては得たものなんだ!
色んなものを手に入れて、失って!
良い思い出も悪い思い出も、全部を積み上げて出来上がるのが俺たちの心なんだ!」
跳ね上げた羽を引き戻すエクストリーマー。
彼の腕がゆるりと振られると、羽が繕われるように並び直す。
「何も手に入れず、何も失わず、そんな在り方じゃ心は何も築けない……!
何かを大切に想って失いたくないと願うことも! 何かを憎んで苦しむことも出来ない!」
「その代わりに―――永遠の安寧を得るのだ。我らゴーストは!」
「……その永遠が欲しいと思ったのは、一体何でだよ!
家族と一緒に過ごす温かい時間が、永遠に続いて欲しいと思っただけだろ!!
終わらない時間なんてない……いつまでも同じ時間は続かない!
全ての魂を永遠に生かしたところで、望んだ時間が永遠に続くわけじゃないんだ!!」
「……もういい」
羽が奔る。
鞭の如く撓る眼球の羽が、連続してゴーストを打ち据える。
視認さえ困難な連撃に対して、両腕で頭を庇いながらタケルは拳を握り締めた。
「だから俺たちは、その時間を噛み締めながら必死に生きるんだ!
失われない命なんてない。終わらない時間なんてない。
それでも、だからこそ! その瞬間が来るまで、一瞬でも長く想いを共有するために!」
「―――黙れと言ったんだ!!」
一際強く、全ての羽がゴーストを殴打する。
彼は耐えきれずに体勢を崩し、地面に向けって弾き飛ばされた。
減速することも出来ず、吹き飛んでいく白銀の体。
―――それを。
蒼い七枚の翼で舞うシンスペクターが、受け止めてみせた。
「タケル! 無事か!?」
「っ、マコト兄ちゃん……!」
ゴーストをスペクターが受け止めた瞬間。
塔の外、地上から放たれた光球が空へと翔け上がっていく。
それは二人の横をすり抜け、そのままエクストリーマーの許へ。
瞬間、発光。
光弾が破裂して、周囲に閃光を振り撒いていた。
「…………ダ・ヴィンチか」
キシリ、と。
ほんの僅かだけ、光を浴びた瞬間に軋みを上げる孔雀の羽。
100の眼魂。100のゴーストパーカーを重ねたのがこの衣だ。
エクストリーマーのパーカー。
それは天空寺タケルの肉体を核に融合させて、更にダーウィンの力で纏めて進化させたもの。
だからこそ、彼女の放つ今までと同じ効果範囲でも影響はある。
パーカーを強制排除する光は、確かにエクストリーマーに届いた。
だが余りにも貧弱すぎる。
純粋に攻撃の威力を百倍にしても、強制分離に持ち込むには出力が足りないほどに。
成果は、羽の動きがほんの一瞬だけ動きが乱れるのみ。
その隙をついて、地上から立ち昇る光。
「兄上!!」
〈ダイカイガン! オメガフィニッシュ!!〉
黄金の流体エネルギー。
ガンガンキャッチャーの銃口から放たれた閃光。
それは天空に舞うエクストリーマーを目掛け一直線に奔り―――
アルゴスは動きを乱された羽どころか。
その体を僅かに動かすことすらしなかった。
―――直撃、したにも関わらず。
光はエクストリーマーを穿つどころか、激突した瞬間に弾け飛んだ。
一条の閃光は、黒と金のトランジェントに傷一つつけられず霧散する。
「―――――!?」
「無駄だ」
100の魂を織り成したのがパーカーならば。
今アルゴスの体を構成するのは天空寺タケルの肉体―――神の器だ。
100の眼魂無しでさえムゲン魂に匹敵する彼は、ネクロムの攻撃程度では揺るがない。
「いくら集ったところで、お前たちに勝ち目などない。
この眼魂島が地球に落ちるまで、大人しくその時を待つがいい。
まずは地球……その次は眼魔を完璧なる理想世界へ―――」
「ふざけるな……! 何が完璧な理想世界だ―――!」
〈シンダイカイガン!! ラースフレイム!!〉
ディープスラッシャーを引き抜き、シンスペクターが構えた。
引き金を引き絞ったその瞬間、銃口に集う嚇怒の炎が弾丸となって空を裂いた。
連続して迫りくる業火の魔弾。
それを羽を動かして容易に斬り捨てながら、エクストリーマーはマコトを見る。
「世界に、完璧な理想の状態なんてものはない……!
そこに生きる俺たち自身が、それぞれ抱いた理想を持ち続けて、ずっと向き合っていかなきゃいけないものなんだ!」
「―――――」
羽が蠢く。
連結した眼球が槍となり、シンスペクターに向けて放たれる。
スペクターがディープスラッシャーの刀身を組み替え、銃から剣に変えた。
〈シンダイカイガン!! グリードスラッシュ!!〉
「たかが世界を一回造り変えることができれば満足か!?
神を気取って他人の幸福を決めつけて、それを押し付けることがお前の望みか!!」
燃える刀身が羽槍と激突し、火花を散らす。
数本向けられただけで捌き切れず、瞬く間に追い詰められていくシンスペクター
抑えられなかった一撃が肩を掠めて、大きく削れる。
その衝撃で揺らいだ彼に対し、更に羽槍の襲撃を追加し―――
〈イノチダイカイガン!! イカリスラッシュ!!〉
「オォオオオオ――――ッ!!」
直上から、舞い上がったムゲン魂の強襲を受ける。
「チ……ッ!」
エクストリーマーが即座に羽を防衛に回す。
重なった羽が壁となり、ゴーストの接近を阻んでみせた。
ムゲン魂が手にするのはガンガンセイバーとサングラスラッシャー。
再び手にした愛剣二振りによる同時斬撃。
輝く刀身で赤光を曳きながら、振るわれる双つの剣閃。
それをいとも簡単に受け止め、エクストリーマーは胸を張る。
叩き付けた衝撃の反動に押し返されそうになりながらも。
しかし、必死にゴーストが喰らい付いた。
「―――俺たちに力を貸してくれた英雄たちは……!
命を燃やして、今までこの世界で生きてきた全ての人たちの魂は!
その人たちの想いを受け継ぐ限り、永遠に不滅だ!」
「それが何だと言う―――」
「だからお前の魂だって、眼魔の世界に遺っているんだ!
アランに、アデル……! 眼魔の世界でまだ生きてる命はみんな……!
お前が、命を懸けてまで守ろうとした、大切な命だろ―――!!」
エクストリーマーが微かに頭を揺らし。
すぐさま、大きく腕を振り抜いた。
それに連動して振るわれる羽。
乱雑に振り抜かれたそれでさえ、ゴーストを一息に押し返す。
羽と鍔競り合っていた刀身が一気に削られる。
刃が丸々と欠け落ちて、サングラスラッシャーの刀身が根本から千切れ飛んだ。
スラッシャーの残骸を放り捨て、両腕でガンガンセイバーを支える。
しかしそれでもなお、容易に圧し飛ばされるゴーストの体。
何とか空中で姿勢を立て直し、彼はズタズタに引き裂かれたセイバーを構え直す。
「―――お前は俺に苦しいだろうって訊いたけど。
お前こそ、苦しいから目を背けたかっただけじゃないのか!
眼魔の生き方で在り続けた、守りたかったものが、歪んでしまったのを見て!
自分では……アデルも、父親も、全部守りたかったのに……!」
「―――知った風なことを……!」
羽が折り重なり、巨大な槍となって押し寄せる。
対し、ムゲン魂はドライバーのトリガーを引いていた。
〈イノチダイカイガン!! カナシミブレイク!!〉
粉砕寸前のガンガンセイバーが光を帯びる。
全力で振り抜く光の刃をもって羽の槍に対抗し―――
激突と同時に、限界を超えたガンガンセイバーが砕けた。
全てを載せた一撃を放って、ようやく穂先を逸らす程度の拮抗。
何とか攻撃を凌いだタケルが、その場で叫ぶ。
「誰だって間違えるんだ! その間違いに苦しむんだ!
だから俺たちは一人じゃない……共に歩んで、手を取り合う人がいる!
先に進んで道しるべを示してくれた、英雄たちがいる……!
神様みたいな力なんかなくたって、何度だって世界を良いものに変えていける!」
「正否を問われる生き方をしているからそうなる。
最初から世界に間違いなどなければいい!
正解も間違いもなく、唯一無二の絶対なる答えだけがあればいい!
ならば間違えない。ならば奪われない。
欠けず、劣らず、瑕疵一つない完璧なるその世界には、当たり前の幸福だけがある!」
「当たり前の幸福なんて、どこにもない……!
あるのは……当たり前のことを幸福に想う気持ちと、ずっとそうあって欲しいっていう願いだけだ!! もし人間がゴーストになって何も求めなくなったら……! お前が思い描く当たり前の幸福なんて、どこにもなくなるんだ!!」
―――切り返す羽が、無手になったムゲン魂に叩き付けられる。
地面に向けて吹き飛ばされるゴースト。
それと入れ替わるように、黄金の装甲が天空へと駆けあがってきた。
撃ち出したのは巨大なラウンドシールド。
マシュが振り抜くそれを足場にしたネクロムが、一気に跳んだのだ。
下にはマシュのみならず、皆が揃っている。
エクストリーマーが微かに首を傾げると、塔の上から人の姿は消えていた。
どうやらあの場にいた全員、塔から抜け出していたらしい。
だからと言って何も変わらない、と。
ネクロムに対して羽を一振り差し向け、迎撃する。
ゴーストやスペクターならいざ知らず、ネクロムに凌げるものではない。
「ハァアアアア――――ッ!!」
〈友情ダイカイガン! バースト! オメガドライブ!!〉
―――だというのに。
その拳に宿った黄金の光が、一瞬だけ羽を押し返す。
反動でパーカーに装着された装甲を砕かれながらも、しかし。
ネクロムが羽との衝突を利用し、そのままエクストリーマーへと加速した。
適当に打ち払えば対応する必要なし、と断じていたアルゴス。
彼が仕方なく挙げた腕に、ネクロムが掴みかかる。
「――――まさかな……だが、それがどうした」
「どうもしないのだろう……!
私では、タケルやマコトほど兄上に肉薄することはできない……!
だがそれがどうした! 私たちは兄である貴方に救われた!!
家族を守ろうとする兄上の想いによって、私たちは今日まで永らえた!!」
―――眼魔百年戦争。
大帝アドニスを頂点とする眼魂派。そしてダントンを始めとする人体改造派。
その二つに別れて、発生した争い。そんな戦争の中で、アルゴスは命を落とした。
家族を守るために、その身を盾にして。
「だから、同じことをするだけだ! 守りたいものがあるから―――!
相手にしがみ付いてでも、命を懸けてでも、奪おうとするものを止める!
兄上! 貴方のように――――!!」
友情バーストが黄金の光を強め、出力を増す。
同じ光の色であっても、その強さの差は一目瞭然だ。
―――エクストリーマーに比べ、ネクロムの何と弱々しい光か。
叫ぶアランに無言で返し、羽を動かすアルゴス。
自身にしがみつくネクロムの背中を撃ち抜かんと、羽の切っ先が翻る。
〈シンダイカイガン!! スロウスグレイブ!!〉
直後、空中に巨大ピラミッドが展開した。
羽が動きを止め、空中墓所へとゆっくり吸い寄せられていく。
が、一つ舌打ちしたエクストリーマーが羽に力を籠めた。
それだけで強引にその拘束が打ち破られる。
続けて振るわれる羽。
その刃は、容易くピラミッドを解体した。
「兄上があの時繋いでくれた私の命を―――!
私は、眼魔に生きる全ての命を、未来を繋ぐために使いたいのだ――――!!」
崩れ落ちていく破片の雨の中、力を増すネクロム。
腕に僅かに力を籠めればあっさりと撃退できるだろう弟。
そのじゃれ合いのような拘束に、アルゴスの動きが一瞬だけ止まった。
瓦礫の中から身を起こし、ゴーストが立ち上がる。
埃に塗れたパーカーの裾を翻し、何とか。
「タケル殿!」
「タケル! どうにかしてあいつの動きを止めるの!
その隙にあの眼魂を奪って――――」
「……だから、もう遅いんだって。
……あの眼魂は壊さないと、この現象は止まらない。
もう……タケルは……」
アカリの言葉を遮って、ユルセンがそう言う。
同時に、アカリの―――周囲の人間全ての体が発光を始めた。
ぼんやりと全身を覆う光を検め、立香が眉を顰める。
「これは……」
「ゴースト化が始まったんだ。
……もう猶予はないぜ」
言って、空を見上げるユルセン。
そこに映る景色―――地球の光景が、どんどん大きくなっていく。
同じくその現象に見舞われたマシュが目を細め―――
光る自分の手を見ていたダ・ヴィンチが、より強く顔を顰めた。
「……肉体があるマシュはまだしも、サーヴァントである私までか。
魂の在り方を変える、というならまあこうもなるわけだね」
―――地球を見上げていたタケルが、拳を握る。
そんな彼の姿を見たダ・ヴィンチちゃんは、片目を瞑って自身の左手を籠手に乗せた。
どうあれ、次の一撃が最後になる。
全力を注ぎ込む以外にない場面だろう。
「タケル……何とか言いなさいよ……!
自分の体が……命が懸かってるのよ!?」
「アカリさん……!」
ゴーストに詰め寄ろうとするアカリ。
彼女の腕を掴んで、カノンが何とか止めようとする。
「―――消えたくないだけなら、アルゴスのことを見過ごせばいい。
そうすれば俺も永遠に存在するゴーストになって、みんなとずっといられるのかもしれない」
そう言ってから、タケルが振り返る。
ムゲン魂のオレンジ色に輝く瞳と、アカリの視線が交錯した。
「―――でも。アカリ……俺、生きたいんだ。
例えここで死ぬことになったとしても、最後の最後まで生きたいんだ。人間として。
俺はいつだって、生きるために闘う……例えその結果が、死ぬ事だったとしても」
「タケル……!」
俯くアカリと、その腕を肩ごと抱き締めるカノン。
彼女たちの後ろで、御成が顔を歪めながらタケルと視線を合わせた。
「……覚悟を決められたのですな。では、拙僧からは何も……あ、いえ。
―――いってらっしゃいませ、タケル殿」
「―――うん。いってくる」
ゴーストが正面に向き直り、パーカーをはためかせる。
そうして飛び立った彼に対し―――
武蔵が声を張り上げた。
「ねえ、タケル! あなたがやりたかったこと……見つかった?」
「―――――」
かけられた声に一瞬止まり。
タケルは、強く一度頷いてみせた。
加速するムゲン魂。
その背中を見て瞑目し、武蔵がマシュの方に首を曲げる。
「マシュ、お願いがあるの。あと、ダ・ヴィンチも」
ネクロムは容易に振り解かれ、落下する。
それに最早意識も向けず、エクストリーマーは先に落下していたムゲンを追う。
そんなアルゴスを阻もうと、シンスペクターの姿が割り込んだ。
〈シンダイカイガン!! ラストバレット!!〉
「オォオオオオ――――ッ!!」
銃形態のガンガンハンド。
エネルギーで編まれた同形状の砲口を、背後に無数に浮かべ。
シンスペクターが一斉に火線を解き放った。
弾幕という言葉に収まらない、弾丸の壁。
それを前に減速一つせず、エクストリーマーは羽を動かした。
眼球の羽は瞳孔を窄め、そこから吐き出される閃光。
弾丸の壁を薙ぎ払い、その先にいるシンスペクター諸共吹き飛ばす。
「ガ……ッ!?」
更にすれ違いざまに羽を一閃。
シンスペクターが飛翔に使っていた七枚の翼を切り落とす。
ムゲン魂にひけを取らないシンスペクターを相手にさえ、これだ。
エクストリーマーは。アルゴスが求めた神は。
―――誰にも止められない。
スペクターを叩き落とし、地上に近づき。
飛び立ってきたムゲンと相対する。
「―――例え、これ以上どんな言葉を並べようと結果は変わらん!
私が望んだ理想の世界は、もうすぐそこまで来ているのだからな!」
「――――俺、見つけました! 俺の夢……!」
―――対峙したタケルが、アルゴス……エクストリーマー。
その先にいる何者かに語り掛けるように、言葉を吐いた。
彼の態度に対して、アルゴスが胡乱げに頭を揺らす。
「英雄の心を繋げるような、でっかい夢じゃなかったけど。
それでも、これが俺が抱いた……命を燃やして、叶えたい夢だから」
「何を……?」
「俺は……ご飯が食べたい!
ゴーストになってご飯が食べられなくなって、寂しかったから……!
だから、人間に戻って―――みんなと一緒にご飯が食べたい!」
突然のその告白に、アルゴスが理解できぬとばかりに腕を持ち上げ―――
その瞬間、エクストリーマーの動きが止まった。
「なんだ……!?」
『こんまい! こんまいのぉ!
―――こんだけ時間かけて出てくる夢が、そんなこんまいものだとはのう!
おんしといい龍といい、ちくと欲がなさすぎるぞ!』
羽が蠢き―――エクストリーマーを覆う、漆黒のパーカーに戻る。
その黒い衣が粟立ち、暴れるように波打った。
次いでまるでパーカーの一部が喋ったかのような声。
『だがこうなったということは、確かに100の英雄の心が一つになったということだろう』
『―――大切な者と共に囲炉裏を囲み、飯を食いたい。
……そうだろうな。それ以上に、人として生きたい理由は必要あるまい』
パーカーの中で誰かが、誰もが、口々にそのような言葉を並べだす。
「貴、様らァ……! 英雄ども、貴様らの意思など必要としていない――――!
既に死者であるものどもが、そんな欲望を持って暴れるな――――ッ!!」
パーカーが異音をかき鳴らす。
その音を掻き消すために、エクストリーマーが全身から光を放つ。
英雄の意思を抑え込み、ただその力のみを纏おうとする。
エクストリーマーの体の許、無理矢理に定着させられる黒いパーカー。
『そうだ。貴様ら、今暴れるのは止めておけ』
一人の英雄がそう言って、他の英雄の叛乱を宥める。
落ち着き始めたパーカーを更に強く戒め、アルゴスは息を荒げた。
その次の瞬間、
『
「――――“
その光が、エクストリーマーを呑み込んだ。
パーカーゴーストを剥離するための解析結果の対抗。
それ単体ではエクストリーマーに対抗できるはずもない光。
だがこれが僅かな緩みを生み出した、その瞬間。
100の英雄たちが、全て自分の意思で離脱のために動き出した。
ダ・ヴィンチちゃんの宝具に助力を得て、更に増すパーカーの叛乱。
自分の体を抱きかかえるように、エクストリーマーが身を捩る。
―――それでも。
100の英雄の叛乱をもってしても、エクストリーマーは崩れない。
数秒か、数十秒か。それだけの隙は作れるだろう。そこまでだ。
エクストリーマー本体だけでさえ、その程度で崩せるほど容易くはない。
パーカーを抑え込む不調を処理しながらも、彼はムゲンの攻撃を捌くだろう。
それを可能とするだけの能力がある。
「英雄、ども……! 何をしようが、今更無駄だ!!」
「そうとは、限らないんじゃない?」
拘束を振り払うように身を捩るエクストリーマー。
その黄金の姿を見上げ、かちゃりと鍔を鳴らし。
振り被られた盾の上に足を置く、女剣士がそう言って小さく笑った。
まあ、真っ当にやっていたら斬れなかったろう。
神の器などと呼ばれているタケルの肉体を中心に、結集された100の魂。
その結びつきの間に刃を徹せたか、というと怪しいと言わざるを得ない。
けれど、今ならば。
タケルの言葉に応え。
浮ついた所をダ・ヴィンチちゃんが乱し。
そうして、必死に抑え込んでいる今ならば。
「―――行きます!」
全力のスイング。
そうした盾を足場に、合わせて踏み切った武蔵の足。
それを見下ろしながら、エクストリーマーが腕を翳す。
掌の中で明滅する光。
物理的な威力を伴う閃光が浴びせられ―――
両者の間に割り込んだゴーストが、その光を塞き止めた。
真正面から光を受け止める、虹色に輝く白銀の装甲。
そのムゲン魂の全身に、着弾のたびに罅が奔っていく。
ただ堪えながら、アルゴスを見据えるタケル。
「邪魔を……!」
「肩、借りるわよ!」
武蔵がタケルの許まで届く。
そのまま彼女はムゲン魂の肩に足を置き、更なる踏み込みのために体を屈めた。
―――断つべきは、一点。
100の英雄を纏めたパーカーと、エクストリーマー本体の繋がり。
そこを断っただけではエクストリーマーは崩れない。
けれど、そこさえ断てれば―――二人のゴーストは、同じ地平だ。
「神か仏か知らないけれど……いざ!
―――我が一刀にてその身、尋常の戦場に引きずり墜とさん!!」
跳ねる。
ムゲン魂が揺らぐほどに強く踏み込み、剣鬼が舞う。
喉を鳴らしながら、アルゴスが体を捩る。
彼の精神が力任せに、パーカーの一部を捻じ伏せた。
黒衣が眼球で出来た孔雀の羽の一房に変わる。
突き出される羽の槍、その一刺し。
それが―――
『征け、宮本武蔵』
アルゴスの意思に反し、切っ先が僅かに落ちる。
切っ先に変えられた―――
このためにわざと変わった、一つの眼魂がそうして叛意を示す。
そうでもしなければこの女では届かない、と。
馬鹿にされたようで癪に障るがそこはそれ。
この状況なので我慢して、彼女は笑った。
「どうも、宮本武蔵」
逸れた羽の槍を踏み締め、更に踏み込む。
柄に添えた手に力が満ちる。
自身が放った一撃を遡られて、アルゴスが息を呑んだ。
瞬間、パーカーの反抗が一層増す。
「お、のれ……ッ!」
「――――――!!」
乾坤一擲。
一刀に全てを賭して、彼女はその一閃を成した。
エクストリーマー自体は斬れまい。
パーカー自体斬ることさえ叶うまい。
だがそれでも、
「斬れぬ奴、と笑われたからには―――
我が剣、見舞ってやらねば死んでも死にきれないってーの!!」
剣が描く閃光が、何かを切って捨てる。
誰一人に傷を負わせることもなく。
―――次の瞬間、星が弾けるように黒衣が弾け飛んだ。
100の眼魂が、流星のようにその場から地上に降り注いでいく。
それと一緒に落ちていく武蔵。
エクストリーマーが彼女の背に一瞬だけ視線を送り、しかし。
突撃してきたゴーストに、意識を引き戻される。
「ッ、……!」
「これで終わりにしよう、アルゴス―――!」
「終わりなどない……! ゴーストならば、終わりなどない!!」
パーカーを失った黒と金のトランジェントが光を放つ。
黒衣を失ってなお、それはムゲン魂に匹敵……以上に、上回る。
互いに振るう拳。殴り、殴られ、双方傷を負い―――
既に大きく傷を受けていた、ムゲンばかりが押し返される。
「英雄どもを失ったところで、もう止まらない!
既に奴らの力で、お前の肉体自体が究極の眼魂へと進化している!
ゴーストの世界は、とうに約束されているのだ!」
―――空に見える地球との距離は詰まっていく。
数分もあればもう激突するだろう、という距離感。
それを勝利と見て、両腕を大きく広げるエクストリーマー。
全身に奔る亀裂から光を溢れさせながら、ムゲンは彼を見据える。
「……俺が、みんなと一緒にいたいのは、それが幸せだからだ。
他の誰に強制されたわけじゃなく、俺が幸せだと思えたことだからだ。
だから同じ経験をするだろう他の誰かも……
きっと、同じだけ幸せになってくれると信じて――――」
―――ドライバー。
そこに収められた、ムゲンゴースト眼魂が光を放つ。
一口に語り切れないくらい複雑で、大切なもの。
タケルの持つ全ての感情が、想いが、眼魂の虹色の光彩を輝かせた。
「ゴーストになったら出来ない、その人間の在り方を守るんだ。
命を懸けてでも、守りたいと願えることだから」
タケルがドライバーのトリガーに手をかける。
「アルゴス……お前が神の力と呼ぶその力は―――
人間を信じる事を止めて、可能性を鎖すための力なんかじゃない。
人間の可能性を信じて、未来に託していくための力なんだ」
〈チョーダイカイガン!! ムゲン!!〉
虹の輝きにその身を包み、ムゲン魂が飛翔する。
黄金の輝きはそれに応じ、空中で二つの光が激突した。
互いに突き出した拳がぶつかる。
―――虹色の光が、金色の光を塗り潰していく。
エクストリーマーのトランジェントに走る金色のライン。
そこに沿うように流れ込んだ光は、黒いボディを砕いていく。
すぐに、両者が大差ない損傷までもつれ込む。
「ぐ……ッ!? 馬鹿な、こんなことが――――!!
「……きっと、何か違ったら俺も……お前みたいに、そう望んでいたのかもしれない。
―――でも違った。そう願わずにいられるくらい、大切なものがたくさんあった。
アルゴス……多分、お前だって――――」
振り上げられるエクストリーマーの蹴撃。
それに応じ、ムゲンもまた足を振り上げる。
ぶつかりあった二人の足が、盛大に罅割れていく。
弾け合って、距離が開いて。
そうなったムゲンが、大きく腕を上に挙げた。
浮かび上がる、∞の文字を描く光の紋章。
相対するエクストリーマーもまた、その力を振り絞り光を放った。
「黙れ……! 私は、私の……我らの理想たる完璧なる世界を――――!!」
「―――だから、大丈夫なんだよ。
お前が大切にしているものを、同じくらい大切に想ってるアランがいる。
アデルだって、きっと。前に進むことができる」
アルゴスの夢が、愛するもののために生まれたものならば。
きっと、その発端になった想いは伝わっている。
閉じ込めることで維持するのではなく、生き抜くことでずっと受け継ぎ続けてくれる。
だから――――と。
二人のゴーストのエネルギーが、それぞれ足へと集中していく。
―――虹と黄金。
二つの光を曳く流星が、同時に加速する。
「―――信じて前に進み続ける限り……人間の可能性は、無限大だ。
だから人間は……命を燃やして、前に進み続けるんだ―――!」
同時に飛び立った二つの光に、差が生じる。
虹が更に加速して、光を増す。
――――激突。衝撃で撒き散らされる破壊。
全てを載せた、命の叫び。
ぶつかってそう間を置かず、砕かれ始める金色の光。
だが同時に、その光を砕くごとに虹色の光も欠けていく。
ムゲン魂は天空寺タケルであり。
エクストリーマーもまた天空寺タケルである。
そうである以上、その結果は必然だ。
どんな結末であれ、天空寺タケルは打ち砕かれる。
だがアルゴスもまた砕かれているというなら。
勝敗がどちらに傾いたのかは、言わずとも知れるだろう。
砕かれながら、アルゴスが意識を鎖していく。
消えていく意識の中で、彼は最後に相対する相手の声を聞いた。
「――――さよなら、オレ」
―――それは。
天空寺タケル自身に向けたものか、あるいは究極の眼魂と化した肉体に向けたものか。
あるいは―――もう一人の自分だと感じた誰かに向けたものか。
答えを出すことはせず、アルゴスはただ意識を闇に委ねた。
千翼「俺も生きたい」