Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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失墜!天空の城!2019

 

 

 

 ―――暗闇の中に立ち、手の中の本を広げ。

 その紙面に目を落として、一通り目を通して。

 

 苦笑するように小さく笑った彼が、ゆっくりと顔を上げる。

 

「この本によれば。

 普通の高校生、常磐ソウゴには魔王にして時の王者……

 オーマジオウとなる未来が待っていた」

 

 彼は幾度か頁が捲るとその本、『逢魔降臨暦』をぱたりと閉じる。

 本を小脇に抱えた彼は歩き出し、暗闇の中に置かれた大時計の前へ。

 そこでちらりと、針が回り続ける時計へと視線を送り―――

 

「しかし2015年において、魔術王ソロモンなる存在により歴史が抹消。

 焼け落ちた時代に未来はなく、彼らの時間はここで終わった―――かのように見えた」

 

 言いながら、視線を向けている大時計。

 時計の針は止まることなく、ただ回り続けている。

 

「だが、唯一の()()()()

 人理継続保障機関カルデアと協力し、常磐ソウゴたちは時代を救ってきた。

 レジェンドたる仮面ライダーの歴史を継承しながら」

 

 大時計の前の空間が歪み、人影が浮かび上がってくる。

 ウィザード、ドライブ、フォーゼ、ダブル、オーズ、鎧武。

 今まで常磐ソウゴの手にしてきた力と歴史。

 

 その姿が大時計の前に浮かびあがる。

 ―――続けて浮かんでくるのは、仮面ライダーゴーストの姿。

 7人の影をぐるりと見回してから、黒ウォズは改めて口を開く。

 

「そして訪れたこの世界。継承すべき仮面ライダーはゴースト。

 ……しかし残念なことに天空寺タケルは、仮面ライダーダークゴースト……いや、エクストリーマーと相討ち、消滅してしまったようだ」

 

 浮かんだゴーストの姿が虹に輝く白銀、ムゲン魂のものに変わる。

 続けて、その隣に浮かび上がる黒と金のエクストリーマー。

 二つの姿がまったく同時に罅割れて、そのまま砕けて消えていく。

 

 その末路を眺めていた黒ウォズが、小さく肩を竦めてみせた。

 

「困ったことになったものだが……どうかご安心を。

 仮面ライダーゴーストが消滅してなお、我が魔王の覇道に綻びはありません。

 何故か、というのは―――」

 

 黒ウォズが踏み出して、大時計の前を離れる。

 消えていくゴーストたちの幻像の残滓を、肩で切って散らしながら。

 

「失礼ながら、口を噤ませていただきましょう。

 私はあくまで我が魔王のしもべ。

 天空寺タケルの物語を語る気は、一切ありませんので」

 

 そう口にして、闇の中に歩いていく黒ウォズ。

 彼が姿を闇の中に消した後、再びその声が響き渡った。

 

「―――この世界における戦いも佳境、最後の戦いは目前に迫っている。

 その戦いの中で、我が魔王が受け継ぐべき力を精々磨いて頂きましょう」

 

 

 

 

 ―――サジタリアーク。

 地球の衛星軌道上に座す、デスガリアンのオーナーたるジニスの居城。

 

 彼が手にしている小さな箱は、ナリアに入手させたものだ。

 その箱を手の中で遊ばせながら、彼は小さく笑う。

 

 王の機嫌の良さがどこからくるのか。

 それはジニスの命に従い、手に入れてきたナリアにも分からない。

 たかが下等生物が作った物品。地球に降りれば、簡単に手に入るものだ。

 彼女から見れば、大した価値のあるものに見えなかった。

 

 だが理解出来ずとも、ジニスが求めたというだけで価値がある。

 ナリアは自身の働きで王に貢献できたことに胸を高鳴らせた。

 

「これで二つ、か。さて……もう一つ欲しいところだが……」

 

 ナリアに向けて、ではないだろう。

 ただ口が軽くなって、ついこぼしただけだろう言葉。

 

「何なりとお申し付けくださいませ」

 

 呟いたジニスの言葉に、即座に頭を垂れるナリア。

 どういった意図の言葉かは分からない。

 それでも、命令されれば成し遂げるために己の身命を捧げるだけだ。

 

 そうしていると、ジニスがふと視線を横に動かした。

 すぐにその場で扉が開き、クバルが入室してくる。

 

 ―――せっかく二人きりだったものを。

 

 この玉座の間に常駐するのは、ジニスとナリアを除けばチームリーダーのみ。

 だからアザルドもいない今、この場にはジニスとナリアのみだったのだ。

 その不満を噛み殺し、ナリアもまたクバルへと視線を向けた。

 

「やあ、クバル。―――おや、右腕はどうかしたのかい?」

 

「ああ、これは御見苦しいものを」

 

 ジニスに問われ、クバルが右腕を隠すように半身を退いた。

 どうやら包帯でぐるぐる巻きにしているようだ。

 その腕を視線から庇うようにしつつ、彼はそれが何かを語りだした。

 

「最近、ジュウオウジャーも他の連中も戦闘力が増大している様子。

 それに対抗するべく、自身の体を再改造しようと思い至りましてね。

 まずはと腕の武装強化に手を付けたのですが……結果は芳しくありませんでした。

 ギフトやザワールドと言ったものを容易に造り出すジニス様には敵いません」

 

「―――なるほど。ではその内、君自身の開催するゲームが見られるのかな?

 どのようなゲームになるのか……これは楽しみだ」

 

 喋りながらジニスの手がゆるりと伸びた。

 ナリアはすぐさま反応し、彼のためのグラスに液体を注ぐ。

 グラスを王へと手渡して一礼。

 

 そうした彼女は、横目にクバルを見る。

 

 些事から興味を失ったように見えるジニス。

 あからさまに誤魔化しているクバル。

 

 彼女はその両者を小さく伺いながら、クバルへの視線を僅かに強めた。

 

 

 

 

 戦場となり荒れた、森の大地に沈んでいたもの。

 それを何とか引きずり出した男が、小さく息を吐く。

 その惨状を見て目を細め、彼は何とも言えない表情で眉を吊り上げ―――

 

「バド!」

 

「―――――」

 

 己の名を呼ぶ知己の声に、振り返った。

 そこにいたのは、大きなリュックを背負ったゴリラのジューマン。

 ジューランドの賢人、ラリーに他ならなかった。

 

「ラリーさん……」

 

「大きな戦いがあったようだね。大和たちは無事かい?」

 

 そう問いかけてくる彼に、バドと呼ばれた彼はふいと目を逸らした。

 そんな彼の様子に、ラリーは大仰に肩を竦める。

 

「なんだい。ユーは大和たちと一緒に戦っているわけじゃないのかい?

 最後の王者の資格を持っているのは、君なのに」

 

 彼が着ている服は、ジューランド特有の衣装。

 それを着てはいるが、姿は人間そのものになっている。

 ジューマンの姿ではなく、人間の姿をしているということは―――

 彼が王者の資格を持っている、ということだ。

 

 ジュウオウイーグルの力。

 大和が持っていた鷲のジューマンパワー。

 それは彼が大和に授けたもの、ということは明白だ。

 自身もゴリラのジューマンパワーを与えたものとして確信が持てる。

 

 だから彼は、大和たちの味方なのだろうと。

 そう思っていたが、直接的な協力はしていないらしい。

 

「ラリーさんがジューランドに帰れなくなった原因。

 それが俺であることは確かです。すみませんでした」

 

 追求から逃れるように、話を強引に変えるバド。

 確かにそれも気にはなっていたが、と。

 

「そんな話をしにきたんじゃないんだがね。

 それとも、何故そんなことをしたかを聞かせてくれるのかな?」

 

「……聞きたいというのであれば、俺の知る事は全て。

 ですがその前に……」

 

 そう言ってバドは頭を傾ける。

 彼の視線を追ったラリーが見たものは、青い人型の何か。

 

 ―――それは青い怪物、その死骸。

 ラリーが直接知るものではないが、それは先日の大きな戦いの原因の一人。

 宇宙から訪れた巨獣ハンター、バングレイの死体だった。

 

「これは……デスガリアンの死体かい?」

 

 死んだばかりなのだろう、その遺体。

 目を細めてそれを見るラリーの前で、バドは小さく首を横に振った。

 

「厳密には違います。ですが、似たようなものではあります。

 最期の戦いでロボットに乗っていたからか、自分を巨大化させたわけではないからか……

 原因は分かりませんが、とにかくこいつの死体は残っていたようです」

 

 バドが腕を伸ばし、バングレイを引っ繰り返す。

 完全に生体反応を失った骸が、成されるがままに転がった。

 

 放置して土に還るならそれでもいい。

 だが、放っておいてデスガリアンに巨大化させられないとも限らない。

 出来るかどうかも分からないが、処分しておく方が確実だ。

 

 そう考えてこれを探していたバドが、眉を顰める。

 

「……右腕がないようだね」

 

「―――――」

 

 ワイルドトウサイドデカキングの力。

 それに呑み込まれたビッグマシン。

 あの状態で、バングレイがどれほどの傷を負ってもおかしくはない。

 

 だがその腕の断面を見れば、明らかに切断された傷だ。

 圧し潰されたとか、吹き飛ばされたという状態ではない。

 明確に、鋭い刃による切断面。

 

 その状態を見て、バドは更に強く眉を顰めた。

 

 

 

 

 ―――結果的に、最良の結果だったのだろう。

 

 ムゲン魂とエクストリーマーの激突。

 その余波で眼魂島は崩落した。

 

 そうなるや否や、ユルセンはすぐに脱出手段を呼び寄せた。

 幽霊船、キャプテンゴースト。それに搭乗した皆はすぐに脱出。

 全員、無事に地球へと帰還することができた。

 

 もちろん、タケル一人を除いて。

 彼の肉体は消滅した。

 そうなった以上、眼魂としても活動はできない。

 

「……そう。とにかく、惑星レベルの危機だったということは分かったわ」

 

 そう言って話を切り、オルガマリーはひっそりと溜め息を漏らす。

 ダ・ヴィンチちゃんは小さく頷き、同じく微かに息を吐いた。

 

「―――まあ、とにかくだ。今は整理する時間が必要だろう。

 情報にしろ、心情にしろ……そんな暇があれば、なんだけれどね」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの手元には万能籠手。

 彼女の万能性の具現たる宝具。

 戦闘に酷使したからか、整備作業をしているのだろう。

 

 作業しながらそんなことを言い出した彼女を、片目を瞑って眺めるオルガマリー。

 

 眼魔も、デスガリアンも。

 未だに決着はついていない。

 

 バングレイを倒した。

 アルゴスを倒した。

 ただそれだけ、前に進んだということだ。

 

「―――――」

 

 黙りこくり、オルガマリーが眉を顰める。

 

 一番の問題―――というべきか。

 結局のところの話だが。

 彼女たちがこの特異点に引き込まれたのは、ゴーストの存在があったからのはず。

 いや、オルガマリーたちは途中で割り込んだのだが。

 

 だとすると、だ。

 ここでゴーストが消えてしまって、どうなるのか。

 黒ウォズは出てくる気配もない。

 普段から気配もなく出てくるのがあの男ではあるのだが。

 

「……ああ、そういえば。英雄の眼魂は?」

 

「―――ふむ。半身であるという意識も持っていた私の感覚では……

 消えた、いや眼魂というカタチを失ったんじゃないかな?

 サーヴァントが送還されるように、眼魂の中の魂も解放されたのだろう。

 多分、眼魂島崩落の衝撃が原因だろうね」

 

 宝具を弄っていた手を止め、そう口にする。

 

 つまり、こちらからグレートアイに接触する方法も失ったわけだ。

 仮にガンマイザーを排除しても、グレートアイには繋がらない。

 扱える人間はいても、鍵となる眼魂は失われてしまった。

 

「…………そう」

 

 数秒置いてそれだけ返し、オルガマリーは目を伏せた。

 

 

 

 

「じゃあね、魔王。君たちは君たちで頑張りたまえ」

 

 銀色の幕を広げて海東大樹が歩み出す。

 それを背後で見ながら、ソウゴは微かに目を細めた。

 その様子を見るまでもなく、彼は小さく笑う。

 

「随分と元気がないみたいだね。

 そんなにショックだったかい? 天空寺タケルが消滅したことが」

 

「……俺は」

 

 言葉をかけておいて、海東大樹は足を止めない。

 彼はソウゴが返答の言葉を選び出す前に、銀幕の中へと踏み込んでいた。

 世界から仮面ライダーディエンドが消える。

 

 もう彼がここに戻ってくることはないだろう。

 

 彼は目的としていた大王者の資格を手に入れた。

 その後、要らなくなったから大和に渡した。

 そして人間とジューマンが共存する世界というお宝に興味は抱いたが―――盗める大きさではないので、興味を失った。

 

 ただそれだけのことだった。

 彼はいつだってそうやって旅をしてきて、これからもそれを続ける。

 そういう人間だ、ということでしかない。

 

 そんな相手の言葉であっても聞き流せず、ソウゴはふと空を見上げた。

 

「―――ソウゴ、大丈夫?」

 

 そうしている彼の背中に、ツクヨミから声がかかる。

 

「……俺は平気だけど。ツクヨミこそ」

 

「私は……」

 

 彼女が言い返そうと口を開き―――次の瞬間には口を噤む。

 結果として、恐ろしく微妙な表情で黙り込むツクヨミ。

 そんな態度を見て苦笑して、ソウゴが踵を返して歩き出した。

 

「とにかく、俺たちは今は問題を解決することだけ考えよう。

 御成とかが一番辛いだろうしさ」

 

「……そうね」

 

 申し訳なさそうに目を伏せるツクヨミ。

 彼女は歩き出したソウゴの後ろに着いていきながら、小さく息を吐いた。

 

 

 

 

「―――さて。私をわざわざ地球まで呼び出して、何の心算です?」

 

 埃の積もった廃工場に辟易した様子を見せながら、クバルはそう切り出す。

 彼の目の前にいるのは、明らかに警戒態勢を取るナリア。

 彼女の様子にクバルは肩を竦めて、マント状のアーマーを揺らす。

 

 ナリアの腕がヌンチャク型の武装、ヌンチャクラッシャーを抜いた。

 彼女は砲身にもなっているそれを銃のように油断なく構える。

 それを向ける相手はもちろん、クバル以外にありえない。

 

「クバル。その右腕がどうなっているか、見せていただきましょう」

 

「右腕? ああ、これのことですか……」

 

 怒れるナリアの低い声。

 それに大した反応も見せず、クバルは呆れるように右腕を持ち上げる。

 包帯がぐるぐるに巻かれた白い塊。

 彼はそのままひらひらと肘から先を揺らしてみせた。

 

「言ったではないですか、強化改造に失敗しただけと。

 何をそんなに警戒しているのやら……」

 

「その右腕。あの巨獣ハンター・バングレイのものを回収・移植したのでは?」

 

 ぴたり、と。

 振っていた手の動きを止め、青い目をナリアに向けるクバル。

 

「流石はナリア、面白いことを思いつきますね。

 ―――だがもし仮にそうだったとして、何か問題でも?」

 

「すぐに捨てなさい。

 あのような者、腕だけでもサジタリアークに乗せるべきではない」

 

 ギリ、と。握り締められたヌンチャクが軋む。

 それだけ強く、バングレイの腕があるなら排除したいと考えている。

 彼女の態度から見えてくる真実に、クバルが微かに顎を引いた。

 

「それをお決めになる権利はジニス様にしかないと思いますが。

 貴女ほどそれをよく理解している者はいないでしょうに。

 まるで、自分は記憶が読まれるようなことがあってはならない……

 そうやって怯えているようですよ?

 もしや、そういう事でよろしいのですか? ナリア」

 

「黙りなさい!」

 

 発砲。

 意図的に外された弾丸が、クバルを過ぎ去り廃工場の壁を引き裂く。

 弾け飛ぶ柱と壁。工場全体が震え、ギシギシと悲鳴を上げる。

 

 彼女の態度を見て、クバルが笑い声を漏らす。

 そうしてから、素直に降参するように両手を挙げた。

 

「からかい過ぎたようですね。

 いいでしょう、疑われるのもあまり気持ちのよい話ではありませんから」

 

 クバルの手が包帯に手をかけ、それを外し始めた。

 するすると解けていく白い布が、地面へと落ちていく。

 

 ―――そこから現れるのは、金色の装甲を持つ機械の腕。

 けして青い体色の怪人の腕などではなかった。

 

 ナリアが、握り締めていた砲身を微かに揺らす。

 

「変わって、いない……?」

 

「御覧の通り、私の腕は私のもの。ご納得いただけましたか?」

 

 ナリアの前で、クバルは確かにそれが自分の腕だと軽く動かしてみせる。

 そこまでされては、ナリアにこれ以上の追求などできるはずもない。

 彼女はヌンチャクラッシャーを渋々下ろした。

 

「―――そう、ですか。申し訳ありません、私の思い違いだった……」

 

「いいえ。合っていましたよ?」

 

 ―――クバルの声がする。

 だが、それは目の前に立っているクバルが発したものではない。

 彼女はすぐさま武装を持ち上げ―――

 

 ざくり、と。

 彼女の背を剣閃が擦り抜けていく。

 

「カ、ハ……ッ!?」

 

 飛散する緑色の体液。

 致命傷とまではいかずとも、決定的に行動不能にまで追い詰められる損傷。

 ナリアの全身から力が抜けて、その膝が一気に落ちる。

 

 更に、怯んだ瞬間に頭を掴んでくる青い腕。

 それが画面越しに見ていたバングレイのものだという事に、疑いはなかった。

 瞬きの内に読み取られていく、ナリアの記憶。

 

 ―――その内容を理解して。

 クバルが堪えきれぬとばかりに、笑い声を漏らしてみせた。

 

 手放され、地面に転がる緑の体。

 

「ク、バル……!」

 

 地面に伏せた彼女が必死に頭を上げ、自分を見下ろす金色の機兵を睨む。

 クバルはその青い右腕―――

 バングレイの腕を動かしながら、愉しげに笑っていた。

 

「どうもありがとう、ナリア。

 あなたの記憶、ありがたく拝見させて頂きました」

 

「貴様……!」

 

 先程まで正面にいた、右腕が変わっていないクバルが消えていく。

 この事実だけで、あれの正体は分かり切っている。

 

「もうご理解頂けているでしょうが……

 あれはアザルドの記憶を読んで再現した、“腕を交換する前の私”です。

 馬鹿なアザルド相手なら、幾らでも記憶を読む手段はありましたので」

 

 必死に起き上がろうとするナリア。

 彼女が手を伸ばした先に転がっているヌンチャククラッシャー。

 クバルは一つ鼻を鳴らし、ヌンチャクを蹴り飛ばした。

 

 からからと転がっていく武装。

 ナリアはそれへと何とか大きく手を伸ばし、その手を強く踏みつけられる。

 

「あれだけ分かり易く『ジニスに隠れて怪しいことをしています』と……

 そういう姿勢を見せれば、あなたなら絶対に私を呼び出すと思っていましたよ。

 普段、あなたはジニスの命令以外でサジタリアークを離れませんから。

 わざわざ私に記憶を読む機会を与えてくれて、ありがとうございました。

 ―――おかげで、ジニスの弱点も分かりましたよ」

 

「―――――!」

 

 ナリアの動きに力が籠る。

 自分を踏み付ける足ごと、引き倒さんとする組み付き。

 それを予期していたクバルが即座に足を退き、彼女に剣を振るった。

 

 火花を噴き上げ、転がる彼女。

 その口から、クバルを問い詰める言葉が吐き出される。

 

「貴様……! ジニス様に何を……!」

 

「私がジニスに何をするのか? もちろん、何もしませんとも。

 ただ私は、ジュウオウジャーどもに情報を流すつもりだっただけです。

 『ジニスの弱点。それは、サジタリアーク内部で力が常時供給されている状態でなければ、その力が大きく弱体化すること』だとね」

 

 廃工場の天井―――その先にある天空に座す、サジタリアーク。

 それを指差しながら、クバルが再びナリアを踏み付けた。

 

「―――サジタリアークが墜とせるとでも!」

 

「墜とせるでしょう、奴らのあの新たなマシンなら」

 

 クバルに言われ、ナリアが思い浮かべるのはただ一機。

 ワイルドトウサイドデカキングの姿。

 その圧倒的なパワーは、現状のデスガリアンに対抗する術がない。

 それこそサジタリアーク―――惑星を打ち砕く弓矢に成り得る、ジニスの居城くらいか。

 だがそれは砲台としてであり、あれと戦闘が出来るかと言えば否だ。

 

「サジタリアーク内部のジニスは無敵だ。

 ですが無敵のジニスとはいえ、サジタリアーク外部まで守れるわけではありません。

 船に乗り込んでジニスに挑むのは愚策です。

 が、船を墜としてジニスを引きずり落とせば倒せるでしょう?」

 

「させると、思うか! 今ここで貴様を始末すれば、それで終わりだ!

 ジニス様の弱点を知る者は、私以外にいなくなる!!」

 

 踏み付ける足を振り払うナリア。

 彼女が立ち上がることを今度は邪魔することなく、クバルは一歩退いた。

 そうして、彼は笑みを深くし言葉を続ける。

 

「ええ、確かにそうなるでしょう。だからこそ細心の注意を払う必要があった。

 ですから慎重に進めなくては、と……考えてはいたのです。

 ―――アザルドの記憶を読むまでは、ですがね」

 

「何を……!」

 

「ジニスとアザルドの関係……あなたもそれは知らなかったようですね。

 もちろん、私もアザルドの記憶を読んで知ったことですが……ああ、ところで。

 いま、そのアザルドがどこにいるか、ご存じですか?」

 

 必死に足を動かし、転がされた自身の武装を取り戻しに行くナリア。

 彼女を邪魔するでもなく、ただ見過ごしながら。

 クバルは実に愉しげに、天井に向けて光弾を撃ち放っていた。

 

「……!?」

 

 ナリアが転がり込みながらヌンチャクラッシャーを拾う。

 その彼女の頭上で、老朽化した天井が爆散して吹き飛んだ。

 空がよく見えるようになった、それとほぼ同時に―――

 

「化け物は化け物同士で殺し合えばいいのです。

 私はその後に残ったものを存分に利用させてもらいますとも」

 

 天空に、二つ目の太陽が浮かび上がった。

 

 

 

 

「あー……んだかなぁ、調子でねえ。おい、オーナー。

 次のブラッドゲームはどうするんだ? 俺か? クバルか?」

 

 そう言いながら玉座の間に入ってくるアザルド。

 ジニスは先程ナリアに入手させた玩具の箱を片手で遊びつつ、彼に目を向けた。

 

「―――もうすぐクバルが面白いゲームも見せてくれる予定だよ。

 それで、どうかしたのかい。アザルド」

 

「いや、クバルが良い酒が手に入ったっつーから呑んでたんだよ。

 それはそれで旨かったんだが、何か途中で妙な感覚があってよぉ。

 いつの間にか寝ちまってたし。起きたらクバルはいねえし。

 そんでもって、起きてからずっとなーんかムカムカすんだよなぁ……」

 

 ガーン、と。アザルドが自分の拳で胸を叩く。

 まるでその中に何か、変にくすぶっている何かがあると感じているように。

 

 それを見てジニスは小さく笑い、手の中の箱を懐にしまった。

 すぐに壊れてしまう脆いものを、今は表に出しておけないと理解して。

 

 確かにアザルドの放つ気勢が、いつもと変わっていると見て取れる。

 だとすれば答えは一つしかない。

 

 ―――外から干渉されて、眠っていた記憶が覚醒しかけている。

 そして記憶の封印が緩んだということは同時に。

 地球のパワーに封印されていた、真の力も目覚めかけているということだ。

 

「そうかい。だが、もしかしたらその感覚……

 それが何か、思い出させてくれるかもしれないよ」

 

「あん?」

 

 その力の波動を感じればきっと。

 似た起源を持つものも、時を同じくして覚醒するだろう。

 十分に傷は癒やし、そして力は蓄えたはず。

 

 容易に滅ぼせない相手と理解し、ならばと滅ぼせるだけの力は充填した。

 地球の周りを回り続けるのはもう終わり。

 そうして動き出した破壊の使者に真っ先に狙われるのは―――

 目覚めかけた、破壊神。

 

「今から来る、客人がね」

 

 ―――瞬間、サジタリアークの表面が爆ぜた。

 

 太陽が激突してきたかのような熱量の渦。

 サジタリアークの表層が溶解し、空気がそこから流れていく。

 その程度でどうにかなるジニスやアザルドではない。

 が、微かにジニスだけは目を細めた。

 

「……手荒い訪問だ。まあ、構わないがね」

 

「あぁん? いつぞやの奴か。

 こっちに乗り込んでくるたぁ、随分太い野郎だぜ」

 

「―――僅かだが、その記憶……覚醒(ウェイクアップ)したか」

 

 船に開けた大穴から、煌めく紫紺の姿が現れる。

 瞬く星々をその身に宿し、黄金の瞳を爛々と輝かせ。

 流出していく空気に流されるマントを、ばたばたと暴れさせながら。

 

 仮面ライダーギンガが、アザルドを見下ろした。

 

「この宇宙の法―――全てのものは滅びゆく。

 その絶対なる運命(さだめ)の鎖からは、何一つ逃がれる事は許されない。

 野放しにされていた貴様に、滅びに繋がる首輪をかける時が来た」

 

「何を言ってるのかさっぱり分からねえが……いいぜ、遊んでやるよ!

 よく分からねえが、テメェをぶちのめせばこのムシャクシャが晴れそうだ!

 不思議なことにな!」

 

 アザルドナッターを引き抜いて、青いキューブの怪人が吼える。

 その背中を肩を竦めて見送りながら、ジニスは玉座で頬杖をついた。

 

〈ダイナマイトサンシャイン!!〉

 

 ギンガのドライバーからその声が放たれる。

 同時に紫紺の体が赤熱し、周囲に熱を振り撒き出した。

 

 恒星に似た熱量の増大。

 それから放たれる熱線が、船の外壁から内部から、全てを焼き切っていく。

 崩壊を始めるサジタリアークの中。

 太陽の熱を浴びながら、自身の生命線である母船の断末魔を聞き―――

 

 ジニスは、小さく笑った。

 

 

 




 
まだまだキバって
 
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