Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
―――暗闇の中に立ち、手の中の本を広げ。
その紙面に目を落として、一通り目を通して。
苦笑するように小さく笑った彼が、ゆっくりと顔を上げる。
「この本によれば。
普通の高校生、常磐ソウゴには魔王にして時の王者……
オーマジオウとなる未来が待っていた」
彼は幾度か頁が捲るとその本、『逢魔降臨暦』をぱたりと閉じる。
本を小脇に抱えた彼は歩き出し、暗闇の中に置かれた大時計の前へ。
そこでちらりと、針が回り続ける時計へと視線を送り―――
「しかし2015年において、魔術王ソロモンなる存在により歴史が抹消。
焼け落ちた時代に未来はなく、彼らの時間はここで終わった―――かのように見えた」
言いながら、視線を向けている大時計。
時計の針は止まることなく、ただ回り続けている。
「だが、唯一の
人理継続保障機関カルデアと協力し、常磐ソウゴたちは時代を救ってきた。
レジェンドたる仮面ライダーの歴史を継承しながら」
大時計の前の空間が歪み、人影が浮かび上がってくる。
ウィザード、ドライブ、フォーゼ、ダブル、オーズ、鎧武。
今まで常磐ソウゴの手にしてきた力と歴史。
その姿が大時計の前に浮かびあがる。
―――続けて浮かんでくるのは、仮面ライダーゴーストの姿。
7人の影をぐるりと見回してから、黒ウォズは改めて口を開く。
「そして訪れたこの世界。継承すべき仮面ライダーはゴースト。
……しかし残念なことに天空寺タケルは、仮面ライダーダークゴースト……いや、エクストリーマーと相討ち、消滅してしまったようだ」
浮かんだゴーストの姿が虹に輝く白銀、ムゲン魂のものに変わる。
続けて、その隣に浮かび上がる黒と金のエクストリーマー。
二つの姿がまったく同時に罅割れて、そのまま砕けて消えていく。
その末路を眺めていた黒ウォズが、小さく肩を竦めてみせた。
「困ったことになったものだが……どうかご安心を。
仮面ライダーゴーストが消滅してなお、我が魔王の覇道に綻びはありません。
何故か、というのは―――」
黒ウォズが踏み出して、大時計の前を離れる。
消えていくゴーストたちの幻像の残滓を、肩で切って散らしながら。
「失礼ながら、口を噤ませていただきましょう。
私はあくまで我が魔王のしもべ。
天空寺タケルの物語を語る気は、一切ありませんので」
そう口にして、闇の中に歩いていく黒ウォズ。
彼が姿を闇の中に消した後、再びその声が響き渡った。
「―――この世界における戦いも佳境、最後の戦いは目前に迫っている。
その戦いの中で、我が魔王が受け継ぐべき力を精々磨いて頂きましょう」
―――サジタリアーク。
地球の衛星軌道上に座す、デスガリアンのオーナーたるジニスの居城。
彼が手にしている小さな箱は、ナリアに入手させたものだ。
その箱を手の中で遊ばせながら、彼は小さく笑う。
王の機嫌の良さがどこからくるのか。
それはジニスの命に従い、手に入れてきたナリアにも分からない。
たかが下等生物が作った物品。地球に降りれば、簡単に手に入るものだ。
彼女から見れば、大した価値のあるものに見えなかった。
だが理解出来ずとも、ジニスが求めたというだけで価値がある。
ナリアは自身の働きで王に貢献できたことに胸を高鳴らせた。
「これで二つ、か。さて……もう一つ欲しいところだが……」
ナリアに向けて、ではないだろう。
ただ口が軽くなって、ついこぼしただけだろう言葉。
「何なりとお申し付けくださいませ」
呟いたジニスの言葉に、即座に頭を垂れるナリア。
どういった意図の言葉かは分からない。
それでも、命令されれば成し遂げるために己の身命を捧げるだけだ。
そうしていると、ジニスがふと視線を横に動かした。
すぐにその場で扉が開き、クバルが入室してくる。
―――せっかく二人きりだったものを。
この玉座の間に常駐するのは、ジニスとナリアを除けばチームリーダーのみ。
だからアザルドもいない今、この場にはジニスとナリアのみだったのだ。
その不満を噛み殺し、ナリアもまたクバルへと視線を向けた。
「やあ、クバル。―――おや、右腕はどうかしたのかい?」
「ああ、これは御見苦しいものを」
ジニスに問われ、クバルが右腕を隠すように半身を退いた。
どうやら包帯でぐるぐる巻きにしているようだ。
その腕を視線から庇うようにしつつ、彼はそれが何かを語りだした。
「最近、ジュウオウジャーも他の連中も戦闘力が増大している様子。
それに対抗するべく、自身の体を再改造しようと思い至りましてね。
まずはと腕の武装強化に手を付けたのですが……結果は芳しくありませんでした。
ギフトやザワールドと言ったものを容易に造り出すジニス様には敵いません」
「―――なるほど。ではその内、君自身の開催するゲームが見られるのかな?
どのようなゲームになるのか……これは楽しみだ」
喋りながらジニスの手がゆるりと伸びた。
ナリアはすぐさま反応し、彼のためのグラスに液体を注ぐ。
グラスを王へと手渡して一礼。
そうした彼女は、横目にクバルを見る。
些事から興味を失ったように見えるジニス。
あからさまに誤魔化しているクバル。
彼女はその両者を小さく伺いながら、クバルへの視線を僅かに強めた。
戦場となり荒れた、森の大地に沈んでいたもの。
それを何とか引きずり出した男が、小さく息を吐く。
その惨状を見て目を細め、彼は何とも言えない表情で眉を吊り上げ―――
「バド!」
「―――――」
己の名を呼ぶ知己の声に、振り返った。
そこにいたのは、大きなリュックを背負ったゴリラのジューマン。
ジューランドの賢人、ラリーに他ならなかった。
「ラリーさん……」
「大きな戦いがあったようだね。大和たちは無事かい?」
そう問いかけてくる彼に、バドと呼ばれた彼はふいと目を逸らした。
そんな彼の様子に、ラリーは大仰に肩を竦める。
「なんだい。ユーは大和たちと一緒に戦っているわけじゃないのかい?
最後の王者の資格を持っているのは、君なのに」
彼が着ている服は、ジューランド特有の衣装。
それを着てはいるが、姿は人間そのものになっている。
ジューマンの姿ではなく、人間の姿をしているということは―――
彼が王者の資格を持っている、ということだ。
ジュウオウイーグルの力。
大和が持っていた鷲のジューマンパワー。
それは彼が大和に授けたもの、ということは明白だ。
自身もゴリラのジューマンパワーを与えたものとして確信が持てる。
だから彼は、大和たちの味方なのだろうと。
そう思っていたが、直接的な協力はしていないらしい。
「ラリーさんがジューランドに帰れなくなった原因。
それが俺であることは確かです。すみませんでした」
追求から逃れるように、話を強引に変えるバド。
確かにそれも気にはなっていたが、と。
「そんな話をしにきたんじゃないんだがね。
それとも、何故そんなことをしたかを聞かせてくれるのかな?」
「……聞きたいというのであれば、俺の知る事は全て。
ですがその前に……」
そう言ってバドは頭を傾ける。
彼の視線を追ったラリーが見たものは、青い人型の何か。
―――それは青い怪物、その死骸。
ラリーが直接知るものではないが、それは先日の大きな戦いの原因の一人。
宇宙から訪れた巨獣ハンター、バングレイの死体だった。
「これは……デスガリアンの死体かい?」
死んだばかりなのだろう、その遺体。
目を細めてそれを見るラリーの前で、バドは小さく首を横に振った。
「厳密には違います。ですが、似たようなものではあります。
最期の戦いでロボットに乗っていたからか、自分を巨大化させたわけではないからか……
原因は分かりませんが、とにかくこいつの死体は残っていたようです」
バドが腕を伸ばし、バングレイを引っ繰り返す。
完全に生体反応を失った骸が、成されるがままに転がった。
放置して土に還るならそれでもいい。
だが、放っておいてデスガリアンに巨大化させられないとも限らない。
出来るかどうかも分からないが、処分しておく方が確実だ。
そう考えてこれを探していたバドが、眉を顰める。
「……右腕がないようだね」
「―――――」
ワイルドトウサイドデカキングの力。
それに呑み込まれたビッグマシン。
あの状態で、バングレイがどれほどの傷を負ってもおかしくはない。
だがその腕の断面を見れば、明らかに切断された傷だ。
圧し潰されたとか、吹き飛ばされたという状態ではない。
明確に、鋭い刃による切断面。
その状態を見て、バドは更に強く眉を顰めた。
―――結果的に、最良の結果だったのだろう。
ムゲン魂とエクストリーマーの激突。
その余波で眼魂島は崩落した。
そうなるや否や、ユルセンはすぐに脱出手段を呼び寄せた。
幽霊船、キャプテンゴースト。それに搭乗した皆はすぐに脱出。
全員、無事に地球へと帰還することができた。
もちろん、タケル一人を除いて。
彼の肉体は消滅した。
そうなった以上、眼魂としても活動はできない。
「……そう。とにかく、惑星レベルの危機だったということは分かったわ」
そう言って話を切り、オルガマリーはひっそりと溜め息を漏らす。
ダ・ヴィンチちゃんは小さく頷き、同じく微かに息を吐いた。
「―――まあ、とにかくだ。今は整理する時間が必要だろう。
情報にしろ、心情にしろ……そんな暇があれば、なんだけれどね」
ダ・ヴィンチちゃんの手元には万能籠手。
彼女の万能性の具現たる宝具。
戦闘に酷使したからか、整備作業をしているのだろう。
作業しながらそんなことを言い出した彼女を、片目を瞑って眺めるオルガマリー。
眼魔も、デスガリアンも。
未だに決着はついていない。
バングレイを倒した。
アルゴスを倒した。
ただそれだけ、前に進んだということだ。
「―――――」
黙りこくり、オルガマリーが眉を顰める。
一番の問題―――というべきか。
結局のところの話だが。
彼女たちがこの特異点に引き込まれたのは、ゴーストの存在があったからのはず。
いや、オルガマリーたちは途中で割り込んだのだが。
だとすると、だ。
ここでゴーストが消えてしまって、どうなるのか。
黒ウォズは出てくる気配もない。
普段から気配もなく出てくるのがあの男ではあるのだが。
「……ああ、そういえば。英雄の眼魂は?」
「―――ふむ。半身であるという意識も持っていた私の感覚では……
消えた、いや眼魂というカタチを失ったんじゃないかな?
サーヴァントが送還されるように、眼魂の中の魂も解放されたのだろう。
多分、眼魂島崩落の衝撃が原因だろうね」
宝具を弄っていた手を止め、そう口にする。
つまり、こちらからグレートアイに接触する方法も失ったわけだ。
仮にガンマイザーを排除しても、グレートアイには繋がらない。
扱える人間はいても、鍵となる眼魂は失われてしまった。
「…………そう」
数秒置いてそれだけ返し、オルガマリーは目を伏せた。
「じゃあね、魔王。君たちは君たちで頑張りたまえ」
銀色の幕を広げて海東大樹が歩み出す。
それを背後で見ながら、ソウゴは微かに目を細めた。
その様子を見るまでもなく、彼は小さく笑う。
「随分と元気がないみたいだね。
そんなにショックだったかい? 天空寺タケルが消滅したことが」
「……俺は」
言葉をかけておいて、海東大樹は足を止めない。
彼はソウゴが返答の言葉を選び出す前に、銀幕の中へと踏み込んでいた。
世界から仮面ライダーディエンドが消える。
もう彼がここに戻ってくることはないだろう。
彼は目的としていた大王者の資格を手に入れた。
その後、要らなくなったから大和に渡した。
そして人間とジューマンが共存する世界というお宝に興味は抱いたが―――盗める大きさではないので、興味を失った。
ただそれだけのことだった。
彼はいつだってそうやって旅をしてきて、これからもそれを続ける。
そういう人間だ、ということでしかない。
そんな相手の言葉であっても聞き流せず、ソウゴはふと空を見上げた。
「―――ソウゴ、大丈夫?」
そうしている彼の背中に、ツクヨミから声がかかる。
「……俺は平気だけど。ツクヨミこそ」
「私は……」
彼女が言い返そうと口を開き―――次の瞬間には口を噤む。
結果として、恐ろしく微妙な表情で黙り込むツクヨミ。
そんな態度を見て苦笑して、ソウゴが踵を返して歩き出した。
「とにかく、俺たちは今は問題を解決することだけ考えよう。
御成とかが一番辛いだろうしさ」
「……そうね」
申し訳なさそうに目を伏せるツクヨミ。
彼女は歩き出したソウゴの後ろに着いていきながら、小さく息を吐いた。
「―――さて。私をわざわざ地球まで呼び出して、何の心算です?」
埃の積もった廃工場に辟易した様子を見せながら、クバルはそう切り出す。
彼の目の前にいるのは、明らかに警戒態勢を取るナリア。
彼女の様子にクバルは肩を竦めて、マント状のアーマーを揺らす。
ナリアの腕がヌンチャク型の武装、ヌンチャクラッシャーを抜いた。
彼女は砲身にもなっているそれを銃のように油断なく構える。
それを向ける相手はもちろん、クバル以外にありえない。
「クバル。その右腕がどうなっているか、見せていただきましょう」
「右腕? ああ、これのことですか……」
怒れるナリアの低い声。
それに大した反応も見せず、クバルは呆れるように右腕を持ち上げる。
包帯がぐるぐるに巻かれた白い塊。
彼はそのままひらひらと肘から先を揺らしてみせた。
「言ったではないですか、強化改造に失敗しただけと。
何をそんなに警戒しているのやら……」
「その右腕。あの巨獣ハンター・バングレイのものを回収・移植したのでは?」
ぴたり、と。
振っていた手の動きを止め、青い目をナリアに向けるクバル。
「流石はナリア、面白いことを思いつきますね。
―――だがもし仮にそうだったとして、何か問題でも?」
「すぐに捨てなさい。
あのような者、腕だけでもサジタリアークに乗せるべきではない」
ギリ、と。握り締められたヌンチャクが軋む。
それだけ強く、バングレイの腕があるなら排除したいと考えている。
彼女の態度から見えてくる真実に、クバルが微かに顎を引いた。
「それをお決めになる権利はジニス様にしかないと思いますが。
貴女ほどそれをよく理解している者はいないでしょうに。
まるで、自分は記憶が読まれるようなことがあってはならない……
そうやって怯えているようですよ?
もしや、そういう事でよろしいのですか? ナリア」
「黙りなさい!」
発砲。
意図的に外された弾丸が、クバルを過ぎ去り廃工場の壁を引き裂く。
弾け飛ぶ柱と壁。工場全体が震え、ギシギシと悲鳴を上げる。
彼女の態度を見て、クバルが笑い声を漏らす。
そうしてから、素直に降参するように両手を挙げた。
「からかい過ぎたようですね。
いいでしょう、疑われるのもあまり気持ちのよい話ではありませんから」
クバルの手が包帯に手をかけ、それを外し始めた。
するすると解けていく白い布が、地面へと落ちていく。
―――そこから現れるのは、金色の装甲を持つ機械の腕。
けして青い体色の怪人の腕などではなかった。
ナリアが、握り締めていた砲身を微かに揺らす。
「変わって、いない……?」
「御覧の通り、私の腕は私のもの。ご納得いただけましたか?」
ナリアの前で、クバルは確かにそれが自分の腕だと軽く動かしてみせる。
そこまでされては、ナリアにこれ以上の追求などできるはずもない。
彼女はヌンチャクラッシャーを渋々下ろした。
「―――そう、ですか。申し訳ありません、私の思い違いだった……」
「いいえ。合っていましたよ?」
―――クバルの声がする。
だが、それは目の前に立っているクバルが発したものではない。
彼女はすぐさま武装を持ち上げ―――
ざくり、と。
彼女の背を剣閃が擦り抜けていく。
「カ、ハ……ッ!?」
飛散する緑色の体液。
致命傷とまではいかずとも、決定的に行動不能にまで追い詰められる損傷。
ナリアの全身から力が抜けて、その膝が一気に落ちる。
更に、怯んだ瞬間に頭を掴んでくる青い腕。
それが画面越しに見ていたバングレイのものだという事に、疑いはなかった。
瞬きの内に読み取られていく、ナリアの記憶。
―――その内容を理解して。
クバルが堪えきれぬとばかりに、笑い声を漏らしてみせた。
手放され、地面に転がる緑の体。
「ク、バル……!」
地面に伏せた彼女が必死に頭を上げ、自分を見下ろす金色の機兵を睨む。
クバルはその青い右腕―――
バングレイの腕を動かしながら、愉しげに笑っていた。
「どうもありがとう、ナリア。
あなたの記憶、ありがたく拝見させて頂きました」
「貴様……!」
先程まで正面にいた、右腕が変わっていないクバルが消えていく。
この事実だけで、あれの正体は分かり切っている。
「もうご理解頂けているでしょうが……
あれはアザルドの記憶を読んで再現した、“腕を交換する前の私”です。
馬鹿なアザルド相手なら、幾らでも記憶を読む手段はありましたので」
必死に起き上がろうとするナリア。
彼女が手を伸ばした先に転がっているヌンチャククラッシャー。
クバルは一つ鼻を鳴らし、ヌンチャクを蹴り飛ばした。
からからと転がっていく武装。
ナリアはそれへと何とか大きく手を伸ばし、その手を強く踏みつけられる。
「あれだけ分かり易く『ジニスに隠れて怪しいことをしています』と……
そういう姿勢を見せれば、あなたなら絶対に私を呼び出すと思っていましたよ。
普段、あなたはジニスの命令以外でサジタリアークを離れませんから。
わざわざ私に記憶を読む機会を与えてくれて、ありがとうございました。
―――おかげで、ジニスの弱点も分かりましたよ」
「―――――!」
ナリアの動きに力が籠る。
自分を踏み付ける足ごと、引き倒さんとする組み付き。
それを予期していたクバルが即座に足を退き、彼女に剣を振るった。
火花を噴き上げ、転がる彼女。
その口から、クバルを問い詰める言葉が吐き出される。
「貴様……! ジニス様に何を……!」
「私がジニスに何をするのか? もちろん、何もしませんとも。
ただ私は、ジュウオウジャーどもに情報を流すつもりだっただけです。
『ジニスの弱点。それは、サジタリアーク内部で力が常時供給されている状態でなければ、その力が大きく弱体化すること』だとね」
廃工場の天井―――その先にある天空に座す、サジタリアーク。
それを指差しながら、クバルが再びナリアを踏み付けた。
「―――サジタリアークが墜とせるとでも!」
「墜とせるでしょう、奴らのあの新たなマシンなら」
クバルに言われ、ナリアが思い浮かべるのはただ一機。
ワイルドトウサイドデカキングの姿。
その圧倒的なパワーは、現状のデスガリアンに対抗する術がない。
それこそサジタリアーク―――惑星を打ち砕く弓矢に成り得る、ジニスの居城くらいか。
だがそれは砲台としてであり、あれと戦闘が出来るかと言えば否だ。
「サジタリアーク内部のジニスは無敵だ。
ですが無敵のジニスとはいえ、サジタリアーク外部まで守れるわけではありません。
船に乗り込んでジニスに挑むのは愚策です。
が、船を墜としてジニスを引きずり落とせば倒せるでしょう?」
「させると、思うか! 今ここで貴様を始末すれば、それで終わりだ!
ジニス様の弱点を知る者は、私以外にいなくなる!!」
踏み付ける足を振り払うナリア。
彼女が立ち上がることを今度は邪魔することなく、クバルは一歩退いた。
そうして、彼は笑みを深くし言葉を続ける。
「ええ、確かにそうなるでしょう。だからこそ細心の注意を払う必要があった。
ですから慎重に進めなくては、と……考えてはいたのです。
―――アザルドの記憶を読むまでは、ですがね」
「何を……!」
「ジニスとアザルドの関係……あなたもそれは知らなかったようですね。
もちろん、私もアザルドの記憶を読んで知ったことですが……ああ、ところで。
いま、そのアザルドがどこにいるか、ご存じですか?」
必死に足を動かし、転がされた自身の武装を取り戻しに行くナリア。
彼女を邪魔するでもなく、ただ見過ごしながら。
クバルは実に愉しげに、天井に向けて光弾を撃ち放っていた。
「……!?」
ナリアが転がり込みながらヌンチャクラッシャーを拾う。
その彼女の頭上で、老朽化した天井が爆散して吹き飛んだ。
空がよく見えるようになった、それとほぼ同時に―――
「化け物は化け物同士で殺し合えばいいのです。
私はその後に残ったものを存分に利用させてもらいますとも」
天空に、二つ目の太陽が浮かび上がった。
「あー……んだかなぁ、調子でねえ。おい、オーナー。
次のブラッドゲームはどうするんだ? 俺か? クバルか?」
そう言いながら玉座の間に入ってくるアザルド。
ジニスは先程ナリアに入手させた玩具の箱を片手で遊びつつ、彼に目を向けた。
「―――もうすぐクバルが面白いゲームも見せてくれる予定だよ。
それで、どうかしたのかい。アザルド」
「いや、クバルが良い酒が手に入ったっつーから呑んでたんだよ。
それはそれで旨かったんだが、何か途中で妙な感覚があってよぉ。
いつの間にか寝ちまってたし。起きたらクバルはいねえし。
そんでもって、起きてからずっとなーんかムカムカすんだよなぁ……」
ガーン、と。アザルドが自分の拳で胸を叩く。
まるでその中に何か、変にくすぶっている何かがあると感じているように。
それを見てジニスは小さく笑い、手の中の箱を懐にしまった。
すぐに壊れてしまう脆いものを、今は表に出しておけないと理解して。
確かにアザルドの放つ気勢が、いつもと変わっていると見て取れる。
だとすれば答えは一つしかない。
―――外から干渉されて、眠っていた記憶が覚醒しかけている。
そして記憶の封印が緩んだということは同時に。
地球のパワーに封印されていた、真の力も目覚めかけているということだ。
「そうかい。だが、もしかしたらその感覚……
それが何か、思い出させてくれるかもしれないよ」
「あん?」
その力の波動を感じればきっと。
似た起源を持つものも、時を同じくして覚醒するだろう。
十分に傷は癒やし、そして力は蓄えたはず。
容易に滅ぼせない相手と理解し、ならばと滅ぼせるだけの力は充填した。
地球の周りを回り続けるのはもう終わり。
そうして動き出した破壊の使者に真っ先に狙われるのは―――
目覚めかけた、破壊神。
「今から来る、客人がね」
―――瞬間、サジタリアークの表面が爆ぜた。
太陽が激突してきたかのような熱量の渦。
サジタリアークの表層が溶解し、空気がそこから流れていく。
その程度でどうにかなるジニスやアザルドではない。
が、微かにジニスだけは目を細めた。
「……手荒い訪問だ。まあ、構わないがね」
「あぁん? いつぞやの奴か。
こっちに乗り込んでくるたぁ、随分太い野郎だぜ」
「―――僅かだが、その記憶……
船に開けた大穴から、煌めく紫紺の姿が現れる。
瞬く星々をその身に宿し、黄金の瞳を爛々と輝かせ。
流出していく空気に流されるマントを、ばたばたと暴れさせながら。
仮面ライダーギンガが、アザルドを見下ろした。
「この宇宙の法―――全てのものは滅びゆく。
その絶対なる
野放しにされていた貴様に、滅びに繋がる首輪をかける時が来た」
「何を言ってるのかさっぱり分からねえが……いいぜ、遊んでやるよ!
よく分からねえが、テメェをぶちのめせばこのムシャクシャが晴れそうだ!
不思議なことにな!」
アザルドナッターを引き抜いて、青いキューブの怪人が吼える。
その背中を肩を竦めて見送りながら、ジニスは玉座で頬杖をついた。
〈ダイナマイトサンシャイン!!〉
ギンガのドライバーからその声が放たれる。
同時に紫紺の体が赤熱し、周囲に熱を振り撒き出した。
恒星に似た熱量の増大。
それから放たれる熱線が、船の外壁から内部から、全てを焼き切っていく。
崩壊を始めるサジタリアークの中。
太陽の熱を浴びながら、自身の生命線である母船の断末魔を聞き―――
ジニスは、小さく笑った。
まだまだキバって