Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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生命!魂の尊厳!2016

 

 

 

「―――ありえない」

 

 意図したわけでもなく、自然と口から出る言葉。

 空を見上げながら、クバルはその力の波動を前にして戦慄していた。

 無敵だ、無敵だとは思っていた。

 が―――これほどの準備があったとは。

 

 この状況、最早ジュウオウジャーだの仮面ライダーだの、連中がどうにか出来るとは思わない。

 その時点でクバルの策略は崩壊したも同然だ。

 

「こんな、馬鹿な……!」

 

 額に手を当てながら、事後の行動を考える。

 ナリアは適当に拘束して転がしてあるので問題ないだろう。

 だがクバルの行動がバレていないはずがない。

 ジニスが殺そうと思えば、クバルは即座に葬られることになる。

 

「いや……いや! まだだ、まだ……! アザルドと化け物同士潰し合いになれば―――! アザルドの方が生き残れば、幾らでも口で誤魔化せるはず……!」

 

 アザルドならばまだ、会話が成立する。

 そうでなくとも彼とジニスがぶつかり合い、お互いが消耗すれば逃げ出す隙は出来るだろう。

 アザルドの気性であれば、逃げた相手をわざわざ追い回すこともないだろう。

 だがもしジニスが勝ったら―――

 

「どうする……どうする!?」

 

『どうにかできると、思っているのかい?』

 

「ひ……!?」

 

 背後からかけられた声に、思わず上擦った悲鳴を漏らしながら振り返る。

 その場にいたのはジニスではなく、一つの小さな球体。

 ―――眼魂だ。

 

 眼魂を解析し尽くしたジニスの手によるもの。

 目の前の小さな物体越しにジニスと対面したクバルが、大きくよろめいた。

 

「ジニス、様……!?」

 

『ふふ……君に朗報だよ、クバル。これから私はアザルドと、この星における最後のブラッドゲームを行うことになった』

 

 怪物二人を潰し合わせたい。

 そう考えていた君にとっての朗報だ、と。

 ジニスの声は弾むような軽さで、その事実を伝えてきた。

 

「まっ、まさかそのような! それが朗報などと、そのようなことは決して……!」

 

 ジニスの声を伝える眼魂に対して、地面に平伏してみせる。

 映像として向こうに伝わっているのかも分からない。

 が、既にここは命乞いの場になっているのだ。

 

『―――この世界において、私以外の命というものには二種類しかない。

 私を愉しませてくれるもの。そして、それ以外だ。

 さあ、クバル。君はその内、一体どちらかな?』

 

 返答も待たず、浮かんでいた眼魂が地に落ちる。

 からからと音を立てて、地面に転がる球体。

 震える体を何とか律して、クバルの手がその眼魂を拾い上げた。

 と、同時。眼魂は砕け、別のものへと変わる。

 

 ―――メダルだ。

 ジニスが力を込めた、巨大化するために使うコンティニューメダル。

 

 これから行うのはこの星最後のブラッドゲーム、と。彼はそう言った。

 つまり、この瞬間は。クバルが得られる最後の機会なのだ。

 ジニスを愉しませるものとして、庇護を得るに相応しいと示すための。

 

 次の瞬間、ジニスが降臨した辺りから爆発的な力の波動を感じる。

 

「は、あ、はあ……! ひぃいいいいいい!?」

 

 ジニスのものなのか。アザルドのものなのか。

 それすらも分からない。

 だが、あの二人が競うブラッドゲームが単純な戦闘になるはずもない。

 潰し合いではなく、競い合いになるのだ。

 恐らく、どちらが下等生物を面白おかしく狩れるかというかたちで。

 

 まずあの場に集まっている連中が狩られるだろう。

 その次に狩られるのはクバルかもしれないのだ。

 そうならないためには、クバルもそのブラッドゲームに巻き込まれるしかない。

 狩られる側としてではなく、プレイヤーとして。

 

「下等生物どもを殺せばいいのか……!? ジニスが愉快に思うように、残虐に、狡猾に……!」

 

 私はあなたをこれだけ愉しませられる兵隊です、と。

 そう示して頭を地面に擦り付ける。

 そうする以外に、これから先の生存はない。

 

 すぐさま走り出したクバルが周囲を探る。

 だがいない。人がいない。街中にでても、まったくいない。

 当たり前だ。下等生物の魂は、力を得たジニスが集めているのだから。

 周囲には魂の抜けた肉の塊が転がっているだけ。

 

「どうする、どうする!? どうすればいい!?」

 

 恐怖に喘ぎ、壊れそうな精神を生存本能で繋ぎ止め。

 彼は頭を抱えてどうするべきか考えて―――

 

 ピーポーピーポー、と。

 どこからか鳴らされる、サイレンの音を聞いた。

 

「―――――」

 

 頭を上げる。音源の方へと視線を向ける。

 遠く、一台の白い車が走行しているのを見つけた。

 

 デスガリアンの被害の大きいこの街では、情報共有のためにDEMIAを使っている人間が多かったのだろう。だがそれでも、全てではない。全員が魂を抜かれたわけではない。

 ジニスがグレートアイと融合した以上、今はまだ、程度の話だが。

 

 そうして、この地獄の中で。

 命を繋ぎ止めている人間たちは、どうするのか。

 倒れた無数の人間は、まだ倒れていない人間たちの手でどこへ集められるのか。

 

「病院―――!!」

 

 ジニスに捧げる悲鳴を奏でさせるため、クバルがその青い眼光を一際強く瞬かせた。

 

 

 

〈平成ライダーズ! アルティメットタイムブレーク!!〉

〈シンダイカイガン!! ラストバレット!!〉

 

 無数の銃口から放たれる弾丸の嵐。

 共に迸るのは、斬撃となって押し寄せる極光。

 

 それをつまらなそうに見据え、アザルドは自身の両拳を力で覆った。

 拳に纏ったエナジープラネット同士を打ち付ける。

 その衝撃で巻き起こる破壊が、相手の力を呑み込んだ。

 

「く……っ!?」

 

 攻撃、とさえ言えない。

 纏わり付く虫を軽く払うような、そんな程度の気の入れ方。

 ただそれだけで、ディケイドアーマーとシンスペクターが宙を舞った。

 

〈ダイテンガン! ネクロム! オメガウルオウド!!〉

 

「はぁあああああ―――ッ!!」

 

 正面を薙ぎ払う破壊に大嵐を避け、横合いから流体エネルギーを足に集めたネクロムが迫る。

 そちらに目も向けず、反応もせず、アザルドが打ち付けていた拳を下ろした。

 

 殺到するネクロムの必殺は直撃―――しても、アザルドの体を揺らすことすらできない。

 ネクロムの一撃は、単純に肉体の強度を突破できず跳ね返される。

 

「ぐっ……!」

 

 そんな相手を気にもせず、アザルドが空を見上げた。

 そこにはジニスが何もせずにただ浮いている。

 

 彼の手の中には、無造作に掴んだパーフェクト・ガンマイザーの姿。

 

 アデルはこの場所に辿り着くや否や、ジニスに攻撃を仕掛けた。

 その末路こそがこの有様だった。

 

 けしてパーフェクト・ガンマイザーの戦闘能力が低いわけではない。

 ガンマイザー全ての能力を兼ね備える魔人こそが彼。

 ただ、それ以前の問題だっただけ。

 ジニスという存在が、もはや単純な強弱で測れるようなものではなくなっていただけだ。

 

「兄上……! ―――ッ!?」

 

 吊された怪人の姿を見て、一瞬足を止めるネクロム。

 そんな相手に対して、アザルドは無造作に腕を振るった。

 距離など関係ない、とでもいうかのように奔る衝撃。

 軽く腕を払った程度の行為が発生させた衝撃波が、ネクロムを叩き伏せる。

 

「おい、ジニス! ゲームじゃねえのか!」

 

 雑魚に意識を割く必要などない、と。

 吹き飛ばした相手さえ気にも留めず、アザルドが上空のジニスを睨む。

 

 声をかけられた事に軽く鼻を鳴らすジニス。

 彼はつまらなそうに、パーフェクト・ガンマイザーを投げ捨てた。

 ただの一撃で沈黙していた魔人は、そのまま地上へと落ちていく。

 

「ゲームだとも。今なお私たちに反逆できる下等生物をどちらが多く狩りとれるか……そういうブラッドゲームさ。私自身が何もしないのは、君に対するハンデだよ。

 いま、私のために下等生物を狩ろうとしてくれている者がいるからね。彼が私のスコアを稼いでくれる限りは、何もしないさ」

 

 その物言いに対して、アザルドが苛立たしげに舌打ちする。

 恐らくはクバルの事だ、と理解したのだろう。

 アザルドからしてクバルに思うところはないが、相手にするには奴では力不足だとは考えている。

 

「それより、アザルド。君はいいのかい? クバルは今どうやら、愚かにも必死に生き存えようとする下等生物が集まる場所に目をつけたようだ。

 ここで遊んでいては、逆転できないほどスコアに差がついてしまうよ」

 

「はっ、随分とつまんねえ採点基準のゲームだな。

 そいつはプレイヤーとしちゃあんま評価できねえぜ、()()()()

 

 面白いゲームの作り方が分かっていない、と。

 そんな相手の口ぶりに対して、微かに首を動かすジニス。

 

「……フフ、そうかい? ではこうしよう。

 我々に刃向かう意思のある、いま目の前にいる連中には特別ボーナスをつけよう。()()()()を考慮した追加ポイントということでね。

 後はこいつらにどの程度のボーナスをつければいいかだが……」

 

 ジニスが空にあるまま、僅かに翼を動かした。

 悩むように彼は顎に手を当てて、僅かに首を傾げてみせる。

 

「問題は、私にはどれも特別扱いするほどでもないゴミにしか見えないことだ。

 アザルド、どれほどのポイントにするかは君が決めるといい。私はそれに従おうじゃないか」

 

 その言葉に呆れるように、またも小さく舌打ちしてアザルドが動き出す。

 ガン、と。強く打ち付け合った両の拳から生じる波動。

 たったそれだけの動作から発生したエネルギーを前にして。

 しかしそこに確かに死の気配を察して、彼女は前へと踏み出した。

 

「っ、顕現せよ―――! “いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)”!!」

 

 屹立する白亜の城壁。展開される絶対の護り。

 円卓を盾として構えて、マシュは全身全霊をそこに傾けた。

 押し寄せるだろう衝撃に体を硬くし、そうして―――

 

 瞬間、大気が爆ぜた。続けて大地が蒸発し始める。

 無敵の城塞に激突した衝撃は何とか受け流した。

 だが。ただの衝撃に瞬く間に削られて、地面が溶けるように失われていく。

 

「マシュ!!」

 

「―――――っ!」

 

 立香の叫びに、彼女が気を入れ直して盾を強く握る。

 しかし、歯を食い縛りながら耐えていたマシュの体が宙に浮いた。

 彼女は体勢を立て直す余裕さえなく、大地へと叩き付けられ転がっていく。

 落とすまいと必死に掴み続けた盾が地面を削るブレーキ代わりに、彼女は滑る体を何とか止める。

 

「ッ……! はぁ……っ!」

 

 範囲も威力も桁違いの攻めを前に、息継ぎしながらマシュが顔を上げる。

 その攻撃からこの戦場を守ろうと思えば、彼女が前に出るしかない。

 軋む体。全身が上げる悲鳴を押し殺し、盾を持ち上げ立ち上がる。

 

 そんな彼女をどうでもよさそうに見て、アザルドが首を回し―――

 ふと気付いて、その視線を持ち上げた。

 

 彼の視線が向かう先は、彼方で上がり始めた黒煙。

 

「どうやら始まったみてぇだな。どうする、下等生物ども?」

 

 攻撃をすることもなく、笑い声混じりに問いかけてくるアザルド。

 先程の会話と合わせて考えれば、クバルが街で暴れているのだろう。

 すぐにでもそちらに向かわねばならない。

 ここに、全員合わせても勝機が見えない敵が二人いるというのに。

 

「…………あの、方向。まさか……!?」

 

 叩き伏せられ倒れていたジュウオウホエールが、弱々しくも体を起こす。

 黒煙が上がっている位置は、彼がよく知る場所だと。

 彼に続けて身を起こした操が、そこにある建造物を思い出して声を上げた。

 

「あそこには確か、病院が……!」

 

「―――ここは、俺たちが食い止める。お前たちは、向こうを!」

 

 ふらつきながらもそう口にして立ち上がるシンスペクター。

 土に塗れたくすんだ白衣を翻し、彼はガンガンハンドを振り上げる。

 直後、押し寄せる重力波を受け止めて蹈鞴を踏む。

 

「ぐ……っ!」

 

「俺は構わねえぜ? どうやらクバルが生きてる内は、あいつも動く気はなさそうだしよ」

 

 そう言って顎をしゃくり、空に浮くジニスを示すアザルド。

 その態度に対して、ジニスが微かに顎を引く。

 

「さっさとあっちを片付けて来いよ。その後に、俺とジニスとお前らで最後の決戦、って奴だ。まあ……」

 

 言いながら拳を引き、そこに力を集わせる。

 そこから軽く突き出した腕が放つ衝撃波。

 大気を震わせ大地を砕く波動が、周囲に撒き散らされた。

 

「っ!」

 

〈アタック! タイムブレーク!!〉

 

 ディケイドウォッチの力を最大に解放し、ジカンギレードとライドヘイセイバーをその手に。

 ジオウが迫り来る破壊の渦の前に立ち、双剣の斬撃で以て壁となる。

 だがしかし。押し寄せる力の奔流に比べれば、剣撃の何と弱々しいことか。

 まるで威力が足りず、ジオウが剣を振り切ることさえも叶わず跳ね返される。

 

「が……ッ!?」

 

「ソウゴ……っ! お願い、マシュ!」

 

「はい、マスター……ッ!」

 

 地面に転がるジオウ。

 彼を弾き返して威力の減じた破壊に対し、マシュが盾を構えて正面から突撃する。

 ラウンドシールドの表面を奔る衝撃。

 背後に庇う人たちを守るために、彼女は落ちそうな膝を必死に支えた。

 

 そうして必死に堪えて。

 ようやく威力を相殺し、攻撃が消滅した事を感じて、マシュの体が揺れる。

 

「ッ! はぁ、はぁ……ッ!」

 

「それまでお前らが俺を相手に生きてられれば、の話だがな」

 

 黒と金の体を微かに揺らし、全身から力を放つ破壊神。

 その前に立ちはだかるのは、盾を支えに何とか立ち続ける少女。

 

 ―――その姿を前にして、迷いが生じる。

 確かにクバルを止めにいかなくてはならない。

 けれど、この絶望的な戦力差を前に仲間を置いていけるか、と。

 

 今までも追い詰められた激戦は幾度もあった。

 だが、ここまで先の可能性が見えない戦いがあっただろうか。

 

「く、そ……ッ!」

 

 大きく頭を振り乱し、立ち上がるべく足に力を入れる。

 大和がそうした事に続くように、ジュウオウジャーたちが立ち上がっていく。

 その中で一人、強く拳を握り締めた男―――操が、声を張り上げる。

 

「みんなは行ってくれ! こっちには俺も残る!」

 

「操、お前……」

 

 握り締めた拳は震えている。

 アザルドが見せた圧倒的な力への恐怖、ではない。

 その恐怖の根源は、この戦場にいる別の怪物。

 ジニスへと感じているものだ。

 

 骨の随にまで染み込んだ、絶対的支配者だったジニスへの恐怖。

 だが彼は、それを凌駕して体を震わせながらも勇気を言葉に変える。

 

 怯え、竦みながらも。

 心臓を締め付ける感情に必死に立ち向かいながら、彼は叫び―――

 

 その瞬間。

 空から無数の弾丸が降り注いだ。

 

「あん?」

 

 弾丸の雨はアザルドの頭上へ。

 直撃したところで彼の体表に傷をつけることもなく、全て弾き返されていく。

 火花を散らしながら、アザルドが鬱陶しげに空を見上げた。

 

 そこにあるのは、空を征く船だ。

 帆に描かれているのは、鍵穴と二振りのカットラスが組み合うエンブレム。

 舳先に巨大な刃が取り付けられた、空飛ぶ赤いガレオン船。

 ―――その名を、ゴーカイガレオン。

 

 空中に舞うその船から地上まで届く、尋常ではない長さのロープが下ろされる。

 ロープに捕まった、六人の戦士と共に。

 

「あんたたち……!?」

 

「バングレイを倒すって目的は達成したし、もう帰ろうと思ってたんだけどね」

 

「そしたら宇宙からこの星にでかい粗大ゴミが墜ちてくのが見えちゃってさぁ。

 まあ、宇宙の清掃活動……地域貢献、って奴?」

 

 ジュウオウザワールドを背後にする六人。

 その中でハカセが困ったように頬を掻き、ルカが肩を竦めた。

 

「宇宙海賊は宇宙全部が仕事場ですから。ゴミをポイ捨ては見過ごせません」

 

「……ま。あたりが強い商売だからな、宇宙海賊は。ボランティアくらいしとかないと、かえって面倒ごとが増える」

 

「みなさんこう言ってますけど、スーパー戦隊が協力し合うことに理由なんかいりません!!」

 

 アイムが微笑み、ジョーが嘆息し、鎧が拳を握って振り上げて―――

 そんな鎧を後ろから押し飛ばして、赤いジャケットが前に出た。

 

「ボランティアだの協力だの知ったことか。

 宇宙海賊に、気に入らねえ奴をぶっ飛ばす理由なんかいらねえんだよ」

 

 マーベラスが不敵に笑い、懐からモバイレーツを引っ張り出す。

 後ろでその行動に五人が続く。

 それぞれが取り出したモバイレーツ、あるいはゴーカイセルラー。

 そしてレンジャーキーを開き、宿した力を開錠する。

 

「ゴーカイチェンジ!!」

 

〈ゴーカイジャー!〉

 

 銀色が、桃色が、緑色が、黄色が、青色が、赤色が。

 各々のジャケットを翻して立ち誇る。

 変化の衝撃が突風を巻き起こし、その場から強い風が昇っていく。

 吹き上がる威風がゴーカイガレオンを揺らす。

 メインマストの上で揺れる鍵穴とカットラスの海賊旗(ジョリー・ロジャー)もまた、その風で大きくはためいた。

 

 ゴーカイレッドが振り抜いた腕で自分の襟を弾き、声を張り上げる。

 

「海賊戦隊!」

 

 五色の戦士は両手に剣と銃、ゴーカイサーベルとゴーカイガンを提げ。

 銀色の戦士が両手で長槍、ゴーカイスピアをぐるりと回す。

 そうした六人が声を合わせ、更に声高に名乗り上げる。

 

「ゴーカイジャー!!」

 

 自分たちが立ち並んだ中、マーベラスが微かに首を後ろに傾けた。

 彼の視線が向かうのは、苦渋の感情を伺わせているジュウオウホエール―――大和だ。

 

「こっちは俺たちの獲物として貰うぜ」

 

「っ、ですけど……!」

 

「獲物を奪われたくなきゃ、さっさと向こうを解決して戻ってくるんだな」

 

 指にかけて銃を一度くるりと回し、ゴーカイレッドがアザルドに銃口を向ける。

 

「はっ……ゴミねえ。ま、サジタリアークは確かにもう使えねえゴミ同然。

 この星をぶっ壊した後の足に、テメェらの船を奪うのも悪くねえか」

 

 アザルドが手を顎に添え、軽く力をかけて首を鳴らす。

 そうしてから力を確かめるように、何度か拳を開閉してみせる。

 

「喜べよ、下等生物ども。その船を落っことさねえように、手加減して遊んでやるぜ」

 

「あっそ、そこまで言うなら喜んでやろうじゃない。

 どうもありがとうございます。低脳単細胞生物様、ってね!」

 

 ゴーカイイエローが吼え、同時に全員による銃撃が開始される。

 それに対して身を守るでもなく、アザルドはただ笑って全て直撃した。

 全弾直撃。全身余すことなく銃撃の嵐に呑まれ―――そして、当然のように無傷で済む。

 

 アザルドが腕を持ち上げ、ただ拳を握る動作をみせた。

 たったそれだけの動作から。次の瞬間、歪む重力。

 圧縮された空間が大地を砕き、ゴーカイジャーを呑み込まんと拡がっていく。

 

 効果範囲から跳んで逃れたマーベラスが叫ぶ。

 

「さっさと行け! ジュウオウジャー!!」

 

「―――っ!」

 

 迷いを振り切り、大和たちが戦場に背を向ける。

 宿した動物たちの力をもって、全速力で駆け抜けていく戦士たち。

 

 彼らの背中にちらりと目を向け、立香はすぐさま振り返る。

 相手も理解していたのか意識は合致し、互いの視線が交差した。

 彼女は一つ頷くと走り出し―――

 

「―――マシュ、まだいける!?」

 

「はい、やれます。マスター!」

 

 卑小な下等生物の足掻き。

 それを見下ろしながら、ジニスは少しだけ面白そうに喉を鳴らした。

 

 

 

 

 破壊する。破壊する。破壊する。

 限られた資源。人間という玩具。その絶望を以て王を興じさせるため。

 クバルは破壊活動を行いながら、ひたすら頭を回し続ける。

 

 下等生物を虐め、苦しめて。それでジニスの満足が買えるか。

 いや、足りない。それだけで自分は見逃されない。

 ではどうする。どうすればいい。どうしようもない。

 

「ぐぅううううう―――ッ!!」

 

 行き詰まった思考から生まれる苛立ち。

 そのストレスを発散するように、彼は全力で剣を振り抜いた。

 放たれた衝撃波が、ちょうど病院の前に止まっていた救急車を両断する。

 爆発、炎上する白い車体。

 

 その炎から逃れるように、近くにいた人間たちが地面を転がった。

 救急車で運んできたのだろう、DEMIAに繋がって魂を抜かれた人間。

 そいつを運んでいた救急隊らしき二人。

 病院側で受け入れの準備をしていた二人。

 

 ほぼ死人同然の一人と、あとは四人。

 転がっている魂が抜けた奴はどうでもいい。

 この四人をどうするか。

 殺す? だがそんな程度のことで、ジニスの関心を引けるはずもない。

 ではどうやって苦しめる。どうやってジニスを満足させる。

 

 焦燥と恐怖で思考が纏まらない―――

 ああ、もうとにかくまずは落ち着かなければ話にならない。

 だから殺そう。

 ここで適当に四人消費してでも、とにかく自身の精神を落ち着けよう。

 

 そうして思考を打ち切って、クバルは剣を振り上げる。

 出来るだけ残虐に。凄惨に。しかし時間をかけない程度に。

 

 刃を振り上げた怪人を前にして、一人の男が前に出た。

 病院側で受け入れ準備していた男だ。

 彼は他の三人を背中に庇って、必死に叫んだ。

 

「ここは私が引きつける! 君たちは院内の者を逃がすんだ! 出来るだけ多く! 早く!!」

 

 引きつける? 下等な人間風情が、自分を相手に?

 失笑するように鼻を鳴らし、こいつはあっさりと殺そうと即断する。

 いや。こいつだけ生かして、他の連中だけ殺すのはいいかもしれない。

 

 その一瞬の迷い。一瞬だけ止まった剣。

 ほんの少しの時間の隙間に、彼に庇われた他の病院職員が彼の名を呼んだ。

 

()()()()!?」

 

 剣を振り下ろす。その直前に耳に入った名前を理解する。

 クバルの腕が軋みをあげるほど、急激な切り返し。

 強引な方向転回した剣が見当違いな場所へと振り抜かれ、完全に空振った。

 だが、代わりに。クバルの心中は完全に()()()を掴んだと確信していた。

 

「風切ぃ?」

 

 喜悦の混じった声。明滅する青い眼光。

 目前で怪人の変調を見た男が、僅かに後退る。

 たかが人間を逃がすはずもなく、伸ばされたクバル―――バングレイの腕が、男の頭を掴んだ。

 

「ヒヒ、ヒャハハハハハハ―――ッ! これだ、これなら!!」 

 

 読み解かれる人間の記憶。遡っていく歴史。

 それらを閲覧したクバルが、狂喜する。

 頭を掴んだこの男以外の餌が必要ないと断定したクバルの目が、残る人間を見据える。

 

「……っ、逃げろ! 早く逃げろ!!」

 

 男―――風切景幸が頭を掴まれながら叫ぶ。

 けれど、この状態からだ。

 ただの人間では、そう簡単に逃げ惑うことさえできはしない。

 切り返した剣の切っ先を、残る人間どもに向けて―――

 

 その剣に鋼の鞭と化した蛇腹剣が巻き付き、動きを止められた。

 

「ジュウオウイー……!?」

 

 グル、と。続けようとした言葉を途中で止める。

 それほどの力はない。

 武装が同じだけで、まったく別人のような貧弱さだ。

 

 クバルが振り返ってみれば、その予想は正しかった。

 赤い翼を翻し、鳥のジューマンが空中からその剣を振るっていたのだ。

 

 その隙を突いて、というほどでもないが。

 他の人間たちが全員泡を食って逃げ出していく。

 

「バド……!」

 

 景幸が呟くように、そのジューマンの名を呼ぶ。

 鳥のジューマン。そして恐らく、ジュウオウイーグルの因縁の相手。

 風切景幸の記憶から得ていたクバルが、小さく舌打ち。

 ―――した直後、鼻を鳴らす。

 

「いえ、ちょうどいい。あなたの記憶も読んで、情報を補完させて頂ましょう。

 ジニス様に愉しんで戴けるように、ジュウオウイーグルを愉快に抹殺するためにもねぇ!!」

 

 剣に絡んだイーグライザーを掴み、一気に引き下ろす。

 バドの抵抗は空しいほどに効果がなく、完全に力負けして地上へと落とされた。

 地面に転がって衝撃を殺し、赤い鳥人が何とか着地。

 

 その瞬間、景幸を投げ捨ててクバルがバドに駆け寄る。

 胴を踏みつけ、頭を掴みにかかる。

 

「く……っ! その腕、バングレイという奴の―――!」

 

「フ、フフ、ハハハ―――! ああ、これで……!

 ジュウオウイーグルを壊して、その姿をジニス様にご覧戴く! これなら!!」

 

 掴んだバドの頭の中から情報を抜き出し、クバルは笑う。

 

 ジュウオウイーグル。ジュウオウゴリラ。そしてジュウオウホエール。

 今になっては大した力ではないが、ジュウオウホエールはかつてアザルドさえも封印した力だ。

 その強者を弄んで、壊して、殺す。これだけやれば、やれるところを見せれば。

 ジニスに懇願すれば、何とか延命だけは叶うかもしれない。

 

 必要な情報を引き出したバドを手放し、蹴りつける。

 転がっていく相手からあっさりと視線を外し、彼は景幸の方へと歩き出す。

 乱暴に扱われ、咳き込んでいた男。

 その首根っこを再び掴み、吊り上げる。

 

「が……っ!」

 

「どうぞご安心を。殺しませんよ。まだ、ね。私の目的は―――」

 

 そうしている内に、野獣が迫ってくる気配を感じる。

 形振り構わない全力疾走で大地を揺らし、六頭の獣がその場に駆けつけた。

 

「クバル!!」

 

「ご機嫌よう、ジュウオウジャー。ちょうどよかった」

 

 この場に飛来するためにジュウオウイーグルになっていた大和に向け、クバルは掴んだ景幸を見せつける。

 よく見知った顔を差し出され、彼が大きく体を揺らした。

 

「父、さん……!」

 

 その反応を見て、景幸もまた驚いたように目を見開いた。

 ジュウオウイーグルが大和であると、彼もまた今知ったのだと。

 大和の口から出た言葉に反応し、タイガーがイーグルと捕まった男性の間で視線を行き来させる。

 

「大和くんのお父さん!?」

 

「人質のつもりか……!」

 

 エレファントが苦々しげに、怒りを滲ませた声で。

 だがクバルはその言葉をすぐに否定した。

 同時に、景幸の首の近くで剣の切っ先を小さく揺らし始める。

 

「ええ、そのつもりだったのです。ですがご安心を。人質にはしませんよ。

 彼では人質にならないでしょう。ねえ、ジュウオウイーグル?」

 

「ああん!? 人の親父捕まえといて何言ってやがる!」

 

 猛るライオンに対して鼻を鳴らし、クバルが剣を景幸から外す。

 次にその切っ先を向ける相手は、地に伏せたバドの頭。

 

「人質にはこちらの方が相応しいのではないですか?

 あなたの命の恩人、ジュウオウイーグルの力の源……バド、とかいう名前でしたか」

 

「鳥のジューマン……大和にジューマンパワーを渡した?

 ってことは、あいつが王者の資格を」

 

 景幸を捕まえながら、バドに剣を突きつけて。

 そうした状態で、改めてクバルが大和に対して向き直る。

 

「ですがジュウオウイーグル、全てはあなた次第!

 あなたが大切だと思う方、どちらかを解放しようではないですか!

 人質を二人も捕まえておくのは大変ですからねえ」

 

「なにを……!?」

 

 遊ぶような言葉と裏腹に、喉の奥から絞り出される迫真の声。

 クバルの言葉に虚偽がないのだとさえ思わせる声色。

 その声を向けて、彼は大和に問いかける。

 どちらを解放すればいいか、と。

 

「―――両方助けるに決まってるでしょ!」

 

 シャークがそう口にして、体勢を低くする。

 鳥男のジューマンについては思うところがあるが、そんなものは後だ。

 とにかく今は、あの二人を助けてクバルを倒す。

 

 そうして体勢を変えたセラを見て、クバルは剣を引き戻す。

 刃を景幸の首に当て、ゆっくりと―――

 

「くっ、テメェ……!」

 

「そう慌てる必要はないでしょう?

 今のままでは二人助けなくていけないところを、一人にしてさしあげると言っているのですよ。

 さあジュウオウイーグル、大人しくまずは選びなさい。父親か、恩人か。さあ、さあ!」

 

「ぐぁ……」

 

 嗤うクバルに続けて、景幸の苦痛の声。

 それを聞いたバドが地に伏せながら、すぐにクバルに向け声を上げていた。

 

「俺があいつの恩人だと? 俺はあいつに何かしてやったつもりなどない。ただの気紛れで、王者の資格を捨てるより適当な人間に渡すことを選んだだけだ」

 

「ほう、ただの気紛れで自分の生命力を死にかけの子供にねえ。

 それはそれは、さぞおかしな精神状態だったんでしょう。

 ふふ、どうです? 父親として、彼は子供の恩人になったのだと聞かされて」

 

 力を緩め、しかし剣は押しつけたまま。

 クバルは景幸の顔を覗き込む。

 彼は驚いた様子で目を見開き、バドの顔を見つめていた。

 

「バド……お前……」

 

 ―――父と、恩人。

 二人の間に何かを感じ、大和が足を震わせる。

 それを察したクバルが更に笑みを深くして、彼を見据える。

 だけでなく、彼は自身の右腕を揺らしてみせた。

 クバルのものではない青い腕。巨獣ハンター・バングレイの腕。

 

「命を救われた謝礼に、救ってくれた男の息子を助ける! 命懸けで! ああ、しかし悲しいかな! 救われた息子は、自分が救われた原因である父を憎んでいる!

 人間とジューマンは簡単には分かり合えない! だからその鳥のジューマンは人間に襲われ、死にかけていた! それを治療した心優しい人間は思ったんでしょうねえ! ジューマンの存在は秘匿しなくてはならない! そうでなくてはまた同じことが起きる! つまりジューマンを助けた事を誰にも言ってはいけない!

 そんなことをしていたせいで妻の臨終に立ち会えなかったという事実さえも! それが原因で息子に憎まれるのだとしても!」

 

「―――――」

 

 ジュウオウイーグルが停止する。

 あの日、森で彷徨っていた自分はバドに救われた。

 その理由は、バドが景幸に命を救ってもらったことがあるから。

 嘘だ、と返すのは簡単だ。だからこそ、クバルはその腕を見せつけた。

 記憶を相手の頭から直接見ることができる、バングレイの腕を。

 

「や、大和……?」

 

 握った拳を震わせる大和。

 そんな彼の背中に操が声をかける。が、反応はない。

 彼の反応を待っているのか、クバルさえ動きを止めて彼を待つ。

 

「……こんなことになってても、何も言わないのかよ……!」

 

 大和が顔を上げて、クバルに拘束されている父を見る。

 

「いつも、いつもいつもいつもいつもいつも!! あんたは俺に何も言わない! 俺は母さんじゃない! あんたの言いたいことを言われる前に理解できるほど、あんたと向き合ったことはない!! あんたが向き合ってくれたことだってないだろ!!」

 

 息を荒げ。声を荒げ。

 心の底に沈殿していた暗い感情を吐き出す。

 

「あんたは人を助けてて……! 俺はただ我が儘を言ってただけだったって……! その真実さえ教えてもらえないで、じゃあ俺はどうやって間違いを正せばいいんだよ……! 俺に! それを、教えてくれるのが……父親なんじゃないのかよ……!!」

 

「大和……」

 

 景幸が息子の名を呟いた。

 それを冷めた様子で眺めながら、クバルが腕に力を込める。

 途端に景幸の口からは悲鳴が漏れた。

 

「少々予想していたものとは趣が違いましたが……ま、いいでしょう。十年来の仲違いが解決しそうで何より。では、解決する前に永遠にお別れして戴きましょうか」

 

「させるか―――ッ!」

 

 最も反応が速く動き出したのはバド。

 ちらりとそちらを見て、クバルは剣を握り直しつつ―――

 景幸をバドに向かって投げつけた。

 

「っ!?」

 

 すぐに受け入れ姿勢に入り、彼を受け止めるバド。

 だがその衝撃を殺しきれずに、二人纏めて地面に転がることとなった。

 

「父さん! バドさん!」

 

「ハッ―――!」

 

 続けて振るわれるクバルの剣が、転がった二人に向けて衝撃波を放つ。

 エネルギーを圧し固めた光の斬撃。

 それはバドはもちろん、ただの人間である景幸に耐えられるものであるはずなく。

 六人が走り出し―――しかし、それが間に合うはずもない。

 

「―――ッ!」

 

 バドはせめて、と。景幸の体を抱え込む。

 そうして抱えた恩人は少し残念そうで、しかし少し満足そうな顔をしていた。

 

 ―――あの時。

 人間もジューマンも信じられず、ただ自暴自棄になって死ぬつもりだった。

 だがそんな彼を抱き起こし、命を救ってくれたのが風切景幸だった。

 その心に触れて、生きる気力を取り戻した彼と引き換えに―――

 景幸は妻の死に目に会えず、それを詰る大和との間の繋がりに亀裂が入った。

 

 それをやっと今、また始め直すことができるかもしれないのだ。

 敵の策略の中で起きた暴露であっても、それが切っ掛けでまた親子が親子に戻れるかもしれないのだ。

 自分はいい。たとえ、ここで死んでも。

 だが景幸だけは。彼だけは何としても、生かして大和の許へ―――

 

 そう考えたバドの胸元で、王者の資格が熱を帯びる。

 その事実に驚愕しつつ、しかし。彼は懐に手を伸ばした。

 

 人間も、ジューマンも、まだ信じることはできない。

 けれど、全てを疑っているわけではない。

 そして、守らなければならないものも知っている―――つもりだ。

 

「一度だけでいい……! 俺に、守るべきものを守るための、力を―――!!」

 

 バドが叫ぶ。

 それと同時にクバルの放った攻撃が着弾し、爆炎を撒き散らした。

 立ち上る炎、濛々と立ち込める黒煙。

 そんな光景を前にして、クバルが笑いをこぼしながら大和に向き直る。

 

「どうです!! やっと繋がりとやらを取り戻せそうになった父親も! 今まで守ってくれた恩人も! あっさりと死にました!!

 さあ、絶望に塗れたその貌を! ジニス様に捧げる見世物にする時です!!」

 

 下等生物の絶望は今更だ。

 けれど、反抗するほどの力を持つ強者の絶望ならば。

 最早それしか選択肢はないからこそ、彼は狂喜しながら大和を見据え―――

 

 炎と煙を晴らす風の訪れに、驚愕して振り返った。

 

「なにが……!?」

 

 クバルの攻撃が起こした破壊の残滓が晴れていく。

 ジュウオウジャーが何かしたわけではない。

 炎を裂き、煙を払い、その中から姿を現すのは二人の人影。

 

 一人は間違いなく風切景幸。

 そして彼の前に立ちはだかる、ジュウオウイーグル。

 ―――いや、ジュウオウイーグルではない。

 大和はそちらではなく、確かにクバルの目の前にいる。

 

 ジュウオウイーグルと同じ姿を持ちながら、体の色が薄れたようにオレンジ染みた色に変わった戦士。

 彼は大きく腕で羽ばたくと、その場で名乗り上げた。

 

「天空の王者! ジュウオウバード!!」

 

 バドの声が、新たに現れた戦士の名を告げる。

 更に彼は手の中にある剣、イーグライザーを振るう。

 その蛇腹剣は鋼の鞭となってクバルを強襲し、彼の持つ剣に巻き付いた。

 

「ぐっ、貴様……!」

 

 つい先程の引っ張り合いとはまるで違う力。

 その力に不意を突かれ、力任せに剣を奪われる。

 

 ―――だがそれだけで彼は限界だった。

 引き寄せたイーグライザーと、絡みつかれたクバルの剣。

 それが勢い余ってバードの手から離れ、転がっていく。

 

 元より彼は、既に大和に生命力の大半を与えたジューマン。

 本能覚醒しジュウオウジャーに変わった。

 たったそれだけで、限界が訪れる。

 無防備に膝を落とすバードを前にして、クバルは即座に行動を変えた。

 

「やってくれましたね……! 代わりに、お前の頭から―――!」

 

 バングレイの腕で兵隊を貰う、と。

 そうやって喚き立てながら、同時にジュウオウジャーを窺う。

 

 状況は変わらない。

 瀕死のバド。そして無力な景幸。

 この二人が戦場にいる限り、それを守るためにジュウオウジャーは戦う。

 その隙をついてバングレイの力を使えば、まだ幾らでも挽回が―――

 

「これまでの代価を払わなければいけないのはそっちでしょう。

 ―――堕ちた外道に罪を告げるは閻魔の仕事。懺悔があるならこれから地獄で並べなさい」

 

 稲妻のように、その刃が降り来る。

 病院の壁を駆け上がり、跳んだ剣豪が振るう一撃。

 それは正しく、クバルの体とバングレイの腕の接合部に徹された。

 

 青い腕が空を舞う。

 クバルの持つ、現状を打破する唯一の武器が。

 

「ま、宇宙人が私たちと同じ地獄に行くのかどうかは知らないけれど」

 

 くるくると回る腕を視線で追い、すぐにそれを為した人間を睨む。

 既に剣を納めた青い着物の侍が、醒めた眼で彼を見据えていた。

 

「か……ッ、下等生物ガァアア―――――ッ!!」

 

 赫怒が彼の思考を染め上げ、それを晴らすために動こうとし―――

 

〈ジュウオウスラッシュ!!〉

〈ジュウオウザフィニッシュ!!〉

 

「オォオオオオオオオオ―――――ッ!!」

 

 剣形態のジュウオウバスター。そしてロッド形態のジュウオウザガンロッド。

 二種の武器を以て六人が繰り出す必殺の剛撃が放たれる。

 六つの攻撃は六指の獣の腕と化し、その爪をクバルに対して突き立てた。

 

「グァ……ッ!?」

 

 直撃を受け、金色の装甲を切り裂かれる。

 よたよたと覚束ない足取りながら、距離を取ろうと必死に足を動かす。

 その彼の目前に、筋肉の塊が飛び出した。

 

「本能覚醒! ジュウオウゴリラ!!」

 

「ギ、」

 

 振り抜かれる巨大な拳。

 それがクバルの顔面に突き刺さり、粉砕した。

 破片を撒き散らしながら吹き飛んで、地面へと激突。

 

〈ジュウオウシュート!!〉

〈ジュウオウザバースト!!〉

 

 コンクリートを粉砕しながら地面を滑る彼に、更なる追撃が放たれる。

 それぞれ銃に変わった四つのジュウオウバスターと、ジュウオウザガンロッド。

 五つの光が一つに合わさり、巨大な光弾に膨れた。

 その一撃を見舞われ、またも無数の破片を撒き散らすクバル。

 

「こんな……! 馬鹿な……! 私は、絶対に、生き延びて……!!」

 

「本能覚醒―――ジュウオウホエール!!」

 

 ばらばらと残骸をこぼしながら、クバルが半死半生の状態で立ち上がる。

 彼の前に立つのは、大王者の資格を掲げたジュウオウホエール。

 残る五人がホエールの後ろに回り、彼の背中へと手を添えた。

 同時に、ホエールチェンジガンのハンドグリップを幾度も前後させていく。

 

 噴き上がる地球の力。

 ジニスが得た力に比べれば小さい。

 だがそれでも、クバルを殺すには足る強大な力だった。

 

「ひ……!?」

 

「これで終わりだ、クバル―――!!」

 

〈ジュウオウファイナル!!〉

 

 砲口から光が放たれる。

 逃げることも叶わず、クバルはそれに一息に呑み込まれ―――

 

「嫌だ……! 嫌だ、死にたくない……! ジニス様、ジニス様! どうかお助けを!!」

 

 その断末魔に、懐にあったコンティニューメダルが励起した。

 瞬く間に膨れ上がっていくクバルの機械の体。

 損傷を完全に復元しながら、更に巨大に、強大に。

 

 巨大になった金色の機人が、自身の体に視線を巡らせる。

 自身がブーストコンティニューした事を理解して、彼は歓喜の声を上げた。

 

「ああ……! ありがとうございます、ジニス様! 必ずや貴方様のお役に立ちます! ですから、どうか私を!! 私だけでも!!!」

 

〈ワイルドトウサイドデカキング!!〉

 

「完成!! ワイルドトウサイドデカキング!!!」

 

 狂喜する彼の前に、ジューランドの象徴たる巨神が降り立つ。

 そのコックピットの中で、キューブに手を添えながらセラが呟く。

 

『……あんたは、そうやって生きていくことに満足なの?

 こんな、命を続けることだけを媚びる生き方で』

 

「黙れェエエッ!! 自分の命を最優先に考えて何が悪い!! どれほど綺麗事を並べようが、それが生物の真実だ!!」

 

『……かもな。自分の命が一番大事なのは、何もおかしいことじゃねえ。

 けどなあ! 自分の命が大事で、自分の命を必死に生き抜こうとしてる連中と! お前みてえにジニスに縋って、他の命を愉しみながら踏み躙ろうとした奴を、一緒にするんじゃねえよ―――!!』

 

 ドデカキングが進軍を開始する。

 レオの意気に従い、巨神がモグラドリルの装着された腕を突き出した。

 回転するドリルがクバルを装甲を食い破り、残骸を散らす。

 攻撃を返したところで、クバルの一撃ではドデカキングは揺るがない。

 

「ひぃ―――ッ! おのれ、ジュウオウジャーどもぉ!!

 くそっ! くそぉっ! 私は私が生きるために他の連中を殺しただけだ! 殺す理由がジニス様を愉しませるためだっただけだ! 何故私が、こんなァ―――ッ!」

 

『お前が今までしてきたことを、“生きるため”だったと正当化するなら―――お前たちを倒す僕たちの、“生きるため”の戦いを否定できはしない! 僕たちは生きる! お前を倒して、アザルドを倒して、ジニスを倒して!!』

 

 タスクが強くキューブを掴み、回転させる。

 キリンバズーカが展開した腕部からの砲撃がクバルを撃つ。

 破片を散らしながらよろめいた彼が、狂ったように嗤う。

 

「今のアザルドを、ジニス様を、倒す? できない。できはしない!

 ジュウオウジャー! その力を以て、私と共にジニス様を愉しませましょう! チームリーダーとして下等生物を狩ってジニス様を愉しませれば、生きる事を許して貰うことができるはず!!」

 

『私たちが生きることに、誰の許しも要らない! 私たちはここにいる! いま、ここで生きてる! いつか必ずやってくる死を迎えるまで、私たちは思うように生き抜くだけ! 命を失いたくないって生きる事から逃げて、他の命を踏み躙ることを選んだあなたとは違う!!』

 

 アムが力を込めてキューブを掴めば、ドデカキングの胸部に集う力。

 それが光線となって解き放たれ、クバルを吹き飛ばした。

 轟音を響かせながら大地に転倒するくすんだ金色の巨体。

 

『―――どんなに辛くても。どんなに怖くても。俺には、心が繋がってる仲間がいる。ジニスはまだ怖い。けど、立ち向かえる。逃げ出したくなった時も、手を握って支えてくれているような安心感をみんながくれるんだ。俺たちの力はジニスたちに届かなくても、この温かさがあればきっと乗り越えられる! だから行こう、大和!!』

 

『…………うん』

 

 大和がキューブに手を添えて、力を込める。

 

『クバル、俺もお前と同じだ。自分の弱さを相手のせいにして、逃げ出してた。目を背けて、耳を塞いで、自分だけの世界から相手だけを責めてた。

 けど―――俺には、俺の弱さを全部引っくるめて受け入れて、一緒に戦ってくれる仲間がいる! 自分以外の誰かを利用することしか考えないお前たちに、俺たちは絶対に負けられない!!』

 

 ドデカキングの足下からキューブ状のエネルギー体が無数に現れた。

 それがどんどんと連なっていき、空中へと舞い上がっていく。

 

『クバル!! お前が負けた恐怖にも、俺たちは―――()()()()()負けない!!!』

 

 舞い上がった100のキューブ。

 それらが全てキューブアニマルへと変形し、クバルに向けて殺到する。

 

『ジュウオウドデカダイナマイトストリーム!!!』

 

 100体のキューブアニマルの激突。

 それはクバルの体を徐々に粉砕していき、致命的な損傷を負わせる。

 全身から火花を噴き散らし、罅割れ濁った金色の機兵が崩れ落ちていく。

 

「ああ、ああ!? ジニス様! ジニス様!! お助けを!? お慈悲を! どうか、お慈悲を……!! ジニス様ァアアアアアアアア―――――ッ!?!?」

 

 爆炎と共に沈むその姿を見据え、ドデカキングが両腕を下ろす。

 そうした巨神がゆっくりと振り返り―――

 ここからそれなりに離れた空中で漂う、白い王と対面した。

 

 

 




 
側溝の王者! ジュウオウザリガニ!!
 
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