Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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咆哮!命の叫び!2016

 

 

 

「本能覚醒――――ッ!!」

 

 地球のパワーが溢れるその場所で。

 六人の戦士が王者の資格を用い、命の力を解放した。

 周囲に舞う黄金のキューブが彼らを包み、その姿を変えていく。

 

 雲より高く、青く広がる空の中。

 腕を翼の如く大きく羽ばたかせる大和。

 そんな彼の顔が、鷲を模る赤いマスクに覆われていく。

 

「大空の王者―――! ジュウオウイーグル!!」

 

 荒れ狂う大波を掻き分け進むが如く。

 大海を鋭きヒレで切り裂きながら泳いでみせる所作に構えるセラ。

 彼女の顔を覆うマスクは、牙を剥く鮫の様相。

 

「荒海の王者―――! ジュウオウシャーク!!」

 

 渇いた風が吹き荒ぶ赤茶けた地平線。

 その彼方まで届くだろう雷鳴の如き咆哮を轟かせ、その爪を振るうは獅子。

 雄々しく逆立つ鬣が、レオの顔を覆うマスクとなる。

 

「サバンナの王者―――! ジュウオウライオン!!」

 

 天を衝くほどに高く伸びた木々の中においてなお。

 立ち並ぶ樹木の丈を上回るほどに大きく、天に向かって振り上げられる鼻の如き腕。

 タスクの顔を覆うマスクは、天を貫くほどに長い鼻を持つ象の力の具現。

 

「森林の王者―――! ジュウオウエレファント!!」

 

 視界を遮るほどに吹雪く、凍て付いた白銀の大地の上。

 白く染まった風景の中から、溶け出すように、揺らめくように現れるのは白虎。

 氷河の中に佇むアムの顔が、その狩人のマスクに覆われた。

 

「雪原の王者―――! ジュウオウタイガー!!」

 

 荒れ狂う砂塵。大自然の暴威の中、黒、金、銀のトリコロールが立ち誇る。

 犀の如く、鰐の如く、狼の如く、鋭く、力強く、重々しく。

 凄然とした面持ちの操の顔を、三つの獣が合わさったマスクが覆っていく。

 

「世界の王者―――! ジュウオウザワールド!!」

 

 黄金の光の中、六つの影が並ぶ。

 その中心に立つ赤い戦士が、強く猛って言葉を振り絞る。

 

「動物戦隊―――――!!」

 

 荒々しく愛剣を引き抜くイーグル。

 動物使いの振るう鞭のように、イーグライザーの刃が波打ち地面を叩く。

 それに呼応する残りの五人が戦闘態勢を整え、身構える。

 同時に彼らは声を一つに合わせ、己らという群れの名前を声高に謳い上げた。

 

「ジュウオウジャー!!!」

 

 彼らの闘志に応えるように脈動する地球。

 その力を注がれながら、大和の視線は一点だけを睨み据える。

 

「ジニス―――! この地球(ほし)を、舐めるなよ―――――ッ!!」

 

「それは……」

 

 対面する怪物の黄金の眼光が揺らめく。

 彼が生来から心に抱え続けた劣等感が磨き上げた屈辱から生じる怒り。

 煮詰められた嚇怒が動力となり、ジニスの体を動かした。

 

「―――――私の台詞だ!

 こんな星と、そこに群がった下等生物如きが、私を虚仮にするなどと……!

 この私を、舐めるなよ―――――ッ!!」

 

 己から離れていた地球のパワー。

 ジニスは自身に取り込んだジュウオウキューブのシステムを介し、再びそれに干渉した。

 彼から逃れようとする地球の意思を捻じ伏せて、再び力を自身に流入させる。

 

 二分される地上に噴き出す地球の力。

 それをジュウオウジャーとジニスが奪い合う形になり―――

 おおよそ半分ずつ、彼らは同質の力を手に入れ合った。

 

 翼が広がる。そこから迸る光の津波。

 迫りくる光の弾丸を前に、

 

「野性解放―――!!」

 

 隙間などない壁の如き密度で迫る光を、雷鳴を呼ぶ獅子が迎撃する。

 雷が力任せに光を切り捨て、光の津波を両断した。

 

 続くのは氷河を齎す白虎。

 彼女の振り撒く冷気が、ジニスまでの一直線を一息に凍り付かせる。

 巨大な氷柱に囚われたジニスが、しかしその中で容易に腕を振り抜いた。

 氷山とも呼べるだろう巨大な氷が砕け散り、崩れていく。

 

 その直上から、水流を伴って鮫が迫る。

 氷塊ごと降り注ぐ怒涛の大海嘯。

 眼下の全てを潰して押し流すそれの訪れに合わせ――――

 

 象の足が地面を踏み砕き、ジニスの足場を粉微塵にした。

 大地がこれ以上ないほど震え、戦場に大穴を開ける。

 そこへ氷を巻き込んだ大津波が、ジニスを押し流すために流れ込む。

 

「無駄だよ―――貴様たち如きが何をしたところで、ね!」

 

 周囲を奔る稲妻も、氷塊も、水流も。

 全て翼の一振りで蒸発させて、ジニスが真っ先に大地を揺らすエレファントを見る。

 白銀の体が加速をかけながら、腕を刃へと変形させた。

 

 瞬く間に距離を詰め切ったジニスは、その刃をエレファントへと突き出した。

 

「無駄なんかじゃない!!」

 

 それに対し、狼の如き俊足で割り込むザワールド。

 突き出された刃を両腕で掴み、その場に留まってみせる操。

 徐々に押されながらも、しかし確かに彼はジニスを止めていた。

 

「もう俺なんかが何をしたって無駄だって!

 お前に目をつけられた時の俺は、そうやって何もかも諦めて生きていた―――!

 だから、言える! 何もできなかった俺がやってきたことは、無駄なんかじゃなかった!!

 あの時の俺がいたから、今の俺がある!

 ―――だから俺は俺にやれることがある限り、絶対に諦めない!!」

 

「ならもう一度教えてあげよう、ザワールド。

 貴様たちが何をしようが、私の前では全てが無駄なのだと!!」

 

 刃を止められながら、ジニスが再び翼を大きく広げる。

 そこに灯り、そして放たれる光の弾丸。

 至近距離から破壊の渦がジュウオウザワールド目掛けて放たれて―――

 

 その瞬間。

 ジニスの背中に後ろから足が叩き付けられた。

 同時に両の翼が引っ掴まれて、思い切り引き寄せられる。

 腕力のままに強引に、翼の向きが変えられた。

 見当違いの方向に放出される無数の光。

 

 怨念の籠った鋭い視線で、ジニスが自身の背後に取り付いた相手を見る。

 ギチギチと軋む翼を掴んでいるのは、ジニスよりも輝かしい白銀の体。

 自身を掴んだムゲン魂を睨みつつ、彼は背中を組み替えた。

 

 背中から噴き出す無数の刃。

 ゴーストはそれを翼を手放した腕で放つ手刀で薙ぎ払う。

 その隙にザワールドを蹴り飛ばし、即座に振り返るジニス。

 彼が振り抜いた腕が、ムゲン魂の装甲を斬り砕いた。

 

「―――そうして、今度こそ理解するがいい。

 私こそがジニス! この宇宙で唯一、絶対無二の力を持つ者なのだと!!」

 

「……それが、どうした!」

 

 ふと、ゴーストが消える。

 彼が変じた光の粒子を視線で追い、ジニスは即座にそちらに刃を突き出す。

 再出現した瞬間に掠めていく剣撃。

 装甲を再び削られ、白銀の残骸を撒き散らしながらしかし。

 

 タケルが拳を握り締め、ジニスに叩き付ける。

 

「たとえお前が、絶対無二の力を持っていたのだとしても―――!

 俺たちにはみんなから託された想いが、力がある!

 無二なんかじゃない。どこにでもある、誰でも持ってる小さな力を!

 俺たちは今ここで、数えきれないほど背負ってる!!」

 

 刃で拳を打ち落とし。

 しかし一歩半、衝撃を殺し切れずに押し込まれる。

 その事実に盛大に舌打ちしながら踏み止まり。

 同時に、ジニスはその翼を大きく広げて輝かせた。

 

「……そうだ、俺たちは多くの想いに生かされてここまで来た。

 この星の生き物は、みんなどこかで繋がってる……今まで俺は、本当の意味でその言葉を信じていなかったのかもしれない。けど、俺はもう迷わない―――! 俺の命を繋いでくれた力で、この星の未来とそこに生きる命を守るために! 行こう、みっちゃん!!」

 

「ああ――――!!」

 

 踏み込む二人の意志に呼応して、光が溢れる瞬間に。

 大和と操、二人がジニスへ向けて加速した。

 両腕を大きく広げ、その体からジューマンパワーを漲らせ。

 二人は同時に、力を最大に解放する言葉を吐き出していた。

 

「野性大解放―――――ッ!!!」

 

 右腕に金鰐の尾を。左腕に銀狼の爪を。

 そして両肩に黒犀のアーマーを展開するジュウオウザワールド。

 三つのジューマンパワーを宿した彼の有する、最強形態。

 その姿を取り、いつも以上のパワーを纏う戦士の隣で―――

 

 同じく、三つのジューマンパワーを解放した戦士が姿を見せていた。

 ジュウオウゴリラ以上に全身の筋肉を膨張させて。

 ジュウオウホエールの如く大王者の資格を手に、腰から波飛沫のようなマントを靡かせ。

 そうして、ジュウオウイーグルよりも強靭な翼を背に生やし。

 

 三つの獣の力を宿した、陸海空の三界を制する絶対的王者。

 彼は地球のパワーに後押しされ、ジニスに向けて飛び立った。

 

「オォオオオオ―――ッ!!」

 

 続くのは四つの獣の咆哮。

 羽ばたいた赤い獣を追い越し、突撃する戦士たち。

 

 真っ先に激突したジュウオウザワールドが、その両腕を振り上げた。

 光の弾幕を引き裂き、別ち。

 そうして千切られた破壊の渦を、四人の戦士が更に微塵に粉砕する。

 

「ぶちかませ、大和!!」

 

「やっちゃって、タケルくん!!」

 

 拓かれたジニスまでの道のり。

 空征く翼が翔ける中、虹色の光を散らしながらゴーストが彼に並ぶ。

 

 ジュウオウイーグルとゴースト。

 二人の戦士が肩を並べ、同時にジニスの元へと辿り着く。

 ゴリラの如く筋肉に鎧われた体、その肉体が繰り出す拳。

 虹色の極光を纏い、光そのものと化した拳。

 圧倒的な規模を拳一つに集約し、突き出される二種類の力。

 

 光弾の雨を抜け、迫りくる二人に対してジニスが盛大に舌を打つ。

 迎撃するべく彼が剣と変わっている両腕を突き出した。

 ジュウオウイーグルの腕に左腕の剣を。ゴーストの拳に右腕の剣を。

 二つの切っ先をそれぞれ、己に刃向かう連中の拳に向け―――

 

 ―――激突した瞬間、腕の刃が割り砕かれた。

 

「な、にィ……!?」

 

 交錯は刹那。

 たったそれだけの内に、ジニスの腕が肘まで砕けて飛散していた。

 粉微塵に散った両腕。

 すぐさま彼を構成する細胞が分裂を始め、失われたそれらを再生し始める。

 だがそれを終える前に、目の前の二人が更に拳を振り被っていた。

 

「チィイイ――――ッ!」

 

 翼が光を放出する。視界を塗り潰すほどの閃光。

 今の二人と言えど、けして無視できる威力ではない。

 それでもその光の奔流を突き破り、二人の戦士はジニスに向けその一撃を繰り出した。

 

「この地球(ほし)のパワーを……ッ!!」

 

「そこに生きる命のパワーを……ッ!!」

 

「舐めるなよ――――ッ!!!」

 

 拳が重なる。

 同時に突き出された、赤と虹が交わった光の一撃。

 胴体に向かって放たれたその二撃を、ジニスが即座に再生中の腕で迎え撃った。

 

 再生を始めていたジニスの腕が再び消し飛ぶ。

 のみならず、突き抜けた衝撃がジニスの胴体―――

 黄金に輝いていた胸を粉砕し、大きく吹き飛ばした。

 

 自身の破片を撒き散らしながら、踏み止まり切れず地面を滑っていく体。

 命の危機。追い詰められている、という自覚。

 それが彼の意識を溶けるほどの熱で燃やし、全身の細胞を蠢動させた。

 

「貴様たちが揮うその力を!! 同じものを、私もまた持っているのだ!!

 私と同じ力を得たくらいで思い上がるな、下等生物ども!!」

 

 溢れるほどにメーバが分裂する。

 黄金に輝いたジニスの全身から溢れ出す細胞が、彼を瞬く間に再生させる。

 

 即座に翼を動かし体を切り返したジニス。

 彼が振るう剣となった両腕。

 それを前に出たゴーストが両の掌を突き出し受け止めた。

 接触した瞬間に刃を握り締め、その位置で強引にジニスの進軍を押し留める。

 

 その瞬間にイーグルがゴーストを飛び越し、ジニスの頭上に躍り出た。

 脳天へと振り落とされる巨腕の拳。

 首を傾ける程度で逃れる事が叶うはずもなく、その一撃がジニスの頭部を粉砕した。

 

「ガァ……ッ!」

 

 半壊する頭部。

 衝撃によろめいた瞬間、ゴーストがジニスの剣を手放した。

 同時にその場で跳ね、浮遊しながらの蹴撃でジニスの胸部を打ち砕く。

 

 ジニスは頭と胸を砕かれ、蹈鞴を踏み。

 しかし即座に完全に再生を終えて、殺意をより満ち溢れさせる。

 

「おのれ、おのれェ……ッ!!

 下等生物が、この私を……! このジニスを――――ッ!!」

 

 翼を広げ、そこから放つ無数の光弾。

 すぐさまホエールチェンジガンを突き出すイーグル。

 その砲口から噴き出し、波打つ光の鞭。

 渦を巻くように振るわれる光線が、光の弾丸を一つ残らず払い除ける。

 

 光弾が打ち払われた直後。

 ゴーストが虹色の翼を噴かし、一直線に距離を詰め切った。

 振り抜かれる拳がジニスの顔面を打ち砕き、吹き飛ばす。

 続けて光の鞭を打ち切って、砲口をジニスに向けるイーグル。

 そこから撃ち放たれた砲撃が、ジニスの胴に直撃する。

 

 打ち砕かれ、四肢を散開させるジニス。

 が、一秒と待たず彼という存在は再生してみせる。

 大砲を下ろしながら、マスクの下で大和が顔を歪めた。

 

「ジニスを構成するメーバが一体でも存在する限り、あいつは倒せない……!」

 

 相手は修復に必要なエネルギーを全て地球と人の魂から賄っている。

 それが尽きない限り、無限に再生し続けるだろう。

 だがそのエネルギー切れは星と命が死に絶えることに等しい。

 漫然と勝負を長引かせるような真似はできない。

 

「だったら、一撃で決める!!」

 

 だからこそ、タケルがそこでドライバーに手をかけた。

 一切合切、再生を許さずジニスという存在を消滅させられるだけの一撃を求めて。

 ドライバーのトリガーを引き、彼はいま自分が持つ全てのエネルギーを放出する。

 

〈チョーダイカイガン!! ムゲン!! ゴッドオオメダマ!!!〉

 

 ムゲン魂の頭上に形成されていく超級のエネルギー球。

 それを見た大和が頷き、すぐにホエールチェンジガンのグリップを握る。

 グリップをスライドさせ、地球の力を砲口へと集中させた。

 

〈ジュウオウファイナル!!!〉

 

 その一撃による圧倒的な反動に耐えるため。

 そしてそれ以上に、その一撃に自分たちの力を注ぎこむため。

 残る五人のジュウオウジャーが、イーグルの後ろについて彼の背に手を添える。

 

「これで終わりだ、ジニス――――!!!」

 

 視界を覆い尽くすほどに巨大に膨れたエネルギー球、人の魂の力を寄り合わせた一撃。

 視界を塗り潰すほどに強く輝くエネルギー波、地球から湧き上がる力が噴き出す一撃。

 それを同時に差し向けられ、ジニスが白一色の視界を見る。

 

「……私、は――――ッ!!!」

 

 一秒後の着弾。

 その瞬間に細胞一つ残さず蒸発するだろう未来。

 それを理解して、しかし彼は怒りだけを瞳に浮かべて前を睨み―――

 

 

 

 彼の絶体絶命の危機と理解して。

 彼女は死力を尽くして、その死地に踏み込んだ。

 

 

 

「ジニス、様―――――ッ!!!」

 

 突然、緑色の巨体がその場に暴れる。

 今なお膨れ上がりながら、彼女はジニスの目の前に割り込んだ。

 

「ナリア!?」

 

 光の先から聞こえてくるその声に、レオが驚愕して彼女の名を呼ぶ。

 だが生きていたとして、彼女にここからできることはない。

 彼女一人でどう足掻いたところで、この一撃を防ぐなど不可能なのだ。

 

 ジュウオウジャーとゴースト。

 ここに集まった力の全てを懸けた、絶対なる必殺の攻撃。

 ここには、庇った彼女諸共にジニスを蒸発させるだけの威力がある。

 

 そんなことは彼女だってわかっている。

 だからこそ、

 

「ナリア……?」

 

「やらせません……! あなたは、あなただけは……!」

 

 怒りに燃えるジニスの瞳が、自身の前でぶくぶくと膨れていくナリアを捉えた。

 その瞳に―――僅か、喜悦の色が浮かぶ。

 

 ナリアが膨れていくのは、コンティニューの効果に他ならない。

 彼女は砕かれて撒き散らしたジニスの破片を取り込んだのだ。

 普段使っているメダルなどとは純度が桁違いのジニスの力。しかも今この場で転がっているジニスの細胞は、地球と人の魂に励起された超常のエネルギー体。

 

 ナリア如きが抑えきれるはずもない力だ。このコンティニューからせいぜい十秒かそこらで、彼女は空気を入れすぎた風船のように破裂する。

 そんなことは理解した上で、彼女はこの行動を選んでいた。

 

 全長数十メートルを超えて膨れ続けるナリア。

 その体全てを使ったところで、目の前にした二つの光が入り混じった攻撃の盾にはなれない。

 膨張しての破裂を待たず、一秒と保たずは彼女は消し飛ぶ。

 

「ジニス、様……! わたしは、ただ、あなたが―――」

 

 言葉も、体も。ナリアの全てが光の中に溶けて消える。

 瞬間、彼女の体内で膨れ上がっていた力がその場で破裂した。

 極光の中に消える、それと比べればささやかな力の爆発。

 

 ―――その小さな爆発を盾にして、ジニスは翼を折り畳み体を押し固めた。

 

 

 

 

 大きすぎる力の反動で、全員が膝をつく。

 文字通り全てを懸けたものだったのだ。

 彼らに託された力、その全てを使い果たすほどの。

 

 力が尽きたばかりか、その威力を支えた体は今にも砕けそうで。

 限界をとうに超えたイーグルは野性大解放を維持することもできなくなる。

 同じく、限界を超えたゴーストもムゲン魂の力を失っていた。

 

「ナリアが、盾になった……? ―――けど」

 

 震える体を何とか支えながら、爆炎に呑まれた目前を見るセラ。

 攻撃を放った直後、光の先で何が起こったかは見えなかった。

 

 ただナリアの声がして。

 ひたすら肥大化する何かが、光の中で膨れた直後に消し飛んだ。

 それくらいしか、分からなかった。

 

「ナリアが盾になった? おかしなことを言うね」

 

 ―――彼女の言葉に返す声。

 その声に震えていた体を緊張させる皆。

 

 光に包まれ、炎が立ち上る大地の上。

 そこでバキリ、バキリ、と。一歩ごとに何かが割れるような音を撒き散らしながら。

 光の残照を掻き分けて、彼は当然のように歩みだしてくる。

 

「ジニ、ス……!」

 

 何とか立ち上がろうと足に力を込めながら、大和が現れた存在を見上げる。

 

 ジニスは全身に亀裂を走らせながら、しかし確かに無事に立っていた。

 その再生は遅々として進んでいない。それでも、確かに生きている。

 彼は半壊した腕で自身の顔を撫でながら、目の前に這いつくばる連中を睥睨した。

 

「たかがナリア如きが、あの攻撃への盾になるはずがないだろう?

 あれは、ナリアが取り込んだ私の力が盾になったのさ。

 君たちが死力を尽くした攻撃は、私の前に敗れ去った。それだけの話だよ」

 

「―――お前……!」

 

「どこまで、自分以外の生き物を見下せば気が済むのよ……!」

 

 ジュウオウジャーたちが体に力を込め、何とか立ち上がってみせる。

 しかしそれは本当に立ち上がっただけで、吹けば倒れそうな弱々しさ。

 そんな敵の様子にゆるりと嗤い、ジニスが一歩を踏み出して―――

 

 すぐに頭を傾けて、彼方へと視線を飛ばす。

 彼方で発生する力の波動。

 彼はよく知るその力を全身で感じ、少し愉快げに、しかし少し不快げに。

 苛立ちを滲ませながら、小さな声で呟いた。

 

「―――私と戦う前にアザルドもゲームオーバー、か。

 フフフ……下等生物どもにやられるなんて、随分とお粗末な結末だったね」

 

 言いながら、彼はゆっくりと浮遊を始めた。

 半ばから砕け落ちたズタボロの翼で。

 目の前で震える、満身創痍の連中にさえ構っている暇などないと言うように。

 

「待てジニス! どこに―――!」

 

「安心するといい。貴様たちはこの星における最後の獲物にする、というだけさ」

 

 言って、すぐにジニスは本当にこの場から離れ始めた。

 それを追うために大和が翼を広げようとして―――しかし。

 腕を上げることも叶わず、見送ることしかできない。

 

「ジニスの奴、何を……!」

 

 ジニスは直前まであれほどまでにこちらに怒りを向けていた。

 だというのに、脇目も振らずの離脱。

 彼は先程までの感情をきっぱりと置き捨てて、この場を離れ始めたのだ。

 

「―――不味いね。多分、狙いはキューブホエールだ」

 

 直後に聞こえてくるのは、ダ・ヴィンチちゃんの声。

 それに反応して振り返った皆の前まで、満身創痍の彼女が歩いてくる。

 彼女は苦痛に顔を渋くしながら、ジニスが向かった方向を見ていた。

 

 そちらは確かに、先程ワイルドトウサイドデカキングが撃破された方角だ。

 

「再生もほとんど行っていなかったろう? あれは恐らく、エネルギー不足が原因だろう。

 多分、今の一撃でキューブアニマルの解析データ……地球のエネルギーの収集システムは破壊できてたんだ」

 

 ジニスがあの体の維持に使っているエネルギー源。

 それはキューブホエールのデータを応用して集める地球のパワー。

 

 そしてもう一つ。

 DEMIAとガンマイザーを利用し、グレートアイまでも取り込み利用する人の魂の力。

 こちらもけして絶好調ということはあるまい。

 どちらか一方でも完全に動いているならば、肉体の再生程度は容易なはずだ。

 

「……きっと今は、最低限の維持しか出来ていない状態なんだ。

 あの一撃から生還されたが、致命的なまでにダメージは与えられている」

 

 ―――それでも。

 ジニス自身がキューブホエール程度ならば吸収するのは容易い、と。

 そう判断できる程度の力は、確実に残っている。

 それを全員満身創痍のこちらが止められるかどうかは、別問題だ。

 

「―――つまり、今の奴の狙いはキューブホエールを直接……!」

 

「そうだね。直接キューブホエールを取り込み、また地球のパワーを吸い上げる気だろう。

 余裕な顔をしてこちらを見逃した、という姿を見せてはいたがきっと真逆だ。

 向こうがアザルドを倒した以上、彼の方こそ余裕がない。

 早く再生のためのエネルギーの算段をつけないと、自分が負けると考えてるんだろう」

 

「だったら、すぐに追いかけないと……! 野性解放―――っ!」

 

 そう叫び、翼を広げようとするイーグル。

 だが彼の体は彼の意思に反して、赤い翼を展開することはない。

 他のメンバーも似たり寄ったりだ。

 立ち上がるのがせいぜいで、戦闘に耐えることなどできるはずがない。

 

「俺が―――!」

 

 タケルがそう言って、浮かび上がる。

 オレ魂になったゴーストが、ふわりと浮いてそこで止まった。

 ゴーストであり、肉体の縛りがない彼でさえも。

 既に何度限界を超えたか分からない体が軋みを上げて、空中で動きを静止させる。

 

「っ……!」

 

 そんな彼を見上げ、ダ・ヴィンチちゃんは眉を寄せた。

 同時に杖を掲げて魔力を走らせながら、彼女は軽く瞑目する。

 

「とにかく、動ける程度までは体力を回復させなければ話にならない。

 私の魔力の限り、治療は尽くすよ」

 

「けど、それを待ってたら……!」

 

 キューブホエールは先の戦闘―――

 戦闘とさえ呼べない一撃で、ワイルドトウサイドデカキングごと撃破された。

 ジニスが弱体化していたとしても、それ以上に深い傷を負っている。

 そんな彼に向かっていったジニスを見逃せば、成す術なく取り込まれるだろう。

 

 そしてキューブホエールを取り込まれれば、ジニスは再び力を取り戻す。

 現状では、今度こそ止める手段がなくなる。

 こちらはこちらが持ち得る全ての力を、既に絞りつくしたのだ。

 

「……っ、何か……何か、手が」

 

「あるぜぇ? とっときの奴がさ!」

 

 浮いていられずよろめいて、地面に落ちたゴースト。

 そんな彼の横で、楽しげな声が弾んだ。

 

 

 

 

「ジニスが、キューブホエールを目指している……!

 止めなければ……!」

 

 無理に王者の資格の力を使ったバド。

 彼はまともに動かなくなった体で空を見上げ、そう口にした。

 彼に肩を貸して支えている景幸が、バドの視線を追う。

 が、鷲の眼を持つバドと同じ光景が見えるわけではない。

 

 とはいえ、見えなくてもそれが大きな危機だとは理解できる。

 そして、それをバドが阻むために動こうとしていることも。

 

「バド。お前まさかこんな状態で何かするつもりか?

 無理だ、いまのお前は……!」

 

「―――例えそうなるとしても、俺は今やるべきことをするだけです。

 ……あなたが俺に、そうしてくれたように」

 

 景幸を振り払い、王者の資格を取り出そうとするバド。

 そうして、震えながらも構える彼の後ろで。

 

「…………」

 

 宮本武蔵が軽く瞑目し。

 仕方なさげに大きく肩を竦めて。

 鞘に納めた剣に手をかけて、その目を大きく見開いた。

 

「時間稼ぎなら付き合いましょう。

 どれだけやれるか分かったもんじゃないけど―――」

 

 そう言って。

 彼女が一歩を踏み出した瞬間だった。

 

「君、それは……!?」

 

 声に反応して振り返った景幸が、驚愕に目を見開く。

 目の前にいる武蔵が、光に包まれだしたのだ。

 その上、彼女の存在がどんどん希薄になっていくことを確かに感じさせる。

 

 よく理解している自身の状態に、覚悟を決めていた武蔵が唖然と。

 透け始めた自身の体に視線を巡らせた。

 

「―――嘘でしょ、今更? ここまで来て?」

 

 呆然としていた表情を苛立ちに歪めて、彼女が歯を食い縛る。

 漂流者である宮本武蔵はここまでだ、と。

 世界にそう突き付けられて、彼女は目尻を吊り上げ空を仰ぎ―――

 

「あ……」

 

 輪郭がおぼろげにながら見え始めたジニス。

 その彼に高速で接近する、一隻の船を見た。

 

 

 

 

「鬱陶しいね。何より―――

 そんな状態で私に刃向かえると考えるその思い上がりが!」

 

 空中を翔けていたジニスがその動きを止め、振り返る。

 砕けた翼から、疎らに放たれる光の弾丸。

 それを潜り抜け、ジニスへと肉薄していくのは一隻の船。

 

 二本の前足を生やした幽霊船のような、空を征く船。

 船は前足で空を掻き分け、ぐんぐんとジニスとの距離を詰めていく。

 

「いっけぇー! キャプテンゴースト!!」

 

 高らかに叫ぶユルセンの声。

 それに応え、幽霊船―――キャプテンゴーストが、更に加速した。

 が、距離が詰まるごとに弾幕の密度は増していく。

 躱しきれない弾丸に対し、徐々に被弾を始める。

 ほんの数発で限界まで追いつめられる船体の強度。

 

 ギリギリまで待っていた二人が、その瞬間に立ち上がる。

 代わりに、限界まで魔力を振り絞っていたダ・ヴィンチちゃんが腰を落とす。

 

「―――少しは、どうにかなったかな……?」

 

「ありがとうございます。行こう、タケルくん!」

 

「はい、大和さん!」

 

 ジュウオウイーグルが。仮面ライダーゴーストが。

 揃って甲板を蹴り、飛び出していく二人。

 墜落を始めたキャプテンゴーストの上で、ユルセンが叫ぶ。

 

「……これで負けたら、承知しねえかんなー!」

 

 遠ざかっていく叫び声に一つ頷き、浮遊を開始するゴースト。

 続けてイーグルが大きく腕を空に広げ、己に宿った鷲の力を解放する。

 

「野性解放――――ッ!!」

 

 同時に彼は愛剣、イーグライザーを引き抜いた。

 刃が延長し、鞭のように撓って斬り付ける武装。

 その刃は彼らの周囲を駆け巡り光弾を切り払い―――

 そして、すぐに限界を超えて爆散した。

 

 剣の結界を犠牲に、強引にジニスまでの残る距離を詰め切る二人。

 彼らの接近に対して、ジニスは呆れたように鼻を鳴らした。

 

「無駄だよ、貴様たち如きが足掻いたところで!」

 

 光弾を打ち切り、両腕を突き出すジニス。

 そんな彼の腕が刃へと変形し―――

 しかし細胞が僅かに波打つばかりで、腕の形状が変化しない。

 ジニスがその事実に盛大に舌打ちする。

 

「ジニス! もう逃がさない!」

 

「逃げる? 私が?」

 

 真っ先に突っ込んできた赤い翼。

 それを変化しない腕で受け止め、そのまま背後に投げ捨てる。

 

「これ以上、命を奪わせない―――!」

 

 次いでやってくるゴースト。

 全力の突撃から振り抜かれる拳。

 それを手刀で叩き落し、体を捻って振り上げた足で胴を打ち抜く。

 

「がっ……!」

 

「ハァアアアア―――ッ!」

 

 イーグルが空中で切り返し、再度突撃してくる。

 回転して赤い弾丸と化したそれを、ジニスは両腕を広げて待ち構えた。

 

 胸に激突するジュウオウイーグル。

 その威力は確かに発揮され、しかしジニスは微動だにしない。

 それどころかその体勢のままに、両腕を大上段へ振り上げ、振り下ろした。

 上から殴りつけられ、弾けるように落下を始めるイーグル。

 

「っ、大和さん……!」

 

「先程、私を追い詰めたのがよほど嬉しかったらしいね。

 このまま私を倒せる、とでも思ったのかい? 逆なのさ、考え方が。

 この星も、下等生物の魂も、君たちは全て味方につけた上で、私を倒せなかった。

 夢を見すぎだよ、下等生物の分際で」

 

 大和に意識を向けたゴーストの前に現れるジニス。

 彼がゆるりと拳を握り、振り被り。

 それに応じ、ゴーストもまた握った拳を突き出した。

 

 激突する両者の拳。拮抗は一瞬。

 すぐさまゴーストの方の拳が砕け、トランジェントに罅が入っていく。

 

「う、ぐぁ……!」

 

 よろめき、イーグルを追うように落下を始める。

 落下する二人に向けて、ジニスは砕けた翼から光弾を雨のように降らせた。

 乱雑に吐き散らかされる弾丸が、二人を幾度か直撃していく。

 光の雨の中、遂には変身が解除される二人。

 

「これが、正しい結果だ」

 

 空中に投げ出される生身の人間と、変身を解いたゴースト。

 それらにトドメを刺すべく、再び翼からの光弾を放とうと構え―――

 

 その彼の視界を、大きな光が遮った。

 

「っ……?」

 

 一瞬だけ身構えて、しかし害がないことを理解した。

 光の中で視線を巡らせ、それがただの目晦ましであることを看破する。

 そうしてジニスは、落ちていく二人を覆い隠した光を嘲笑う。

 

「この期に及んで時間稼ぎかい? いつまでも無駄な足掻きをしてくれる」

 

 彼という存在の強度は、エネルギーが半減した今なお強靭だ。

 地球や命の後押しを失った戦士程度ならば、歯牙にもかけぬほどに。

 それでも彼は殲滅ではなく、離脱してキューブホエールの確保を優先した。

 

 理由はたった一つ。

 当然、アザルドがジニスの知らぬところで倒されたからだ。

 だがアザルドを倒した相手を警戒しているのではない。

 

 アザルドが取り込んでいたギンガの力が、相手に回収されていた場合を危ぶんだのだ。

 自身が負けるとすれば、それ以外にないと。

 下等生物が幾ら力を寄り合わせたところで、自分には一切届かない。

 

 万に一つの可能性があるとすれば、それはアザルドやギンガ。

 そういった、()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ。

 

 その確信から彼はキューブホエールを求めた。

 

 だがここまで来て、わざわざ相手を見逃す必要はない。

 早々にあの光ごと吹き飛ばして、キューブホエールを取り込みに行く。

 好き放題してくれた相手をより苦しめてやりたい、という思考がよぎる。

 が、これ以上無駄な反撃をされる方が不快だ。

 

 眼下に落ちていく光を見据え、ジニスは欠け落ちた翼を大きく広げ―――

 

 

 

 

 ―――光の中。

 地上に向けて落下している二人の耳に、誰かの声が届く。

 その聞き覚えのある声に、大和が僅かに目を開いた。

 光の中にいるというのに眩しくもなく、景色は明瞭で。

 

 目の前に、いるはずのない誰かの姿が見える。

 

『負けないで、ジュウオウジャー!』

 

「ペルル、くん……?」

 

 拳を握って空を見上げ、遠くを見つめているコンドルのジューマンの少年。

 その姿が目の前にあることに困惑し、大和が視線を巡らせた。

 

 いつの間にか彼の周りには、いつか会ったサーカスをしていたジューマンたちの姿がある。

 今なお落下している彼の傍に、確かに地面の上に立つ人たちの姿が。

 

 それだけに留まらず、彼の周囲に幾つもの人の姿が浮かんでくる。

 その中に二人、つい先程まで顔を合わせていたはずの人たちを見つけた。

 

 空を見上げるバド。

 そして彼を支えて立つ父、景幸。

 

『大和……』

 

 景幸が彼の名を呟き、隣のバドが拳を握る。

 

 ―――自分の目の前に広がる、幾人もの人に囲まれた光景。

 そこで、ようやく思い至った。これが幻なのだと。

 

 そして、それだけではないのだと。

 

 いつの間にか手の中に握っている、黄金色の王者の資格。

 バドが持っていた最後の王者の資格―――ジュウオウチェンジャーファイナル。

 握った掌から伝わってくる、温かいもの。

 バドが。いつか彼に命を分けてくれた恩人が、今また、彼に力を分けてくれた。

 

「―――ありがとう。キューブコンドル……!」

 

 きぃ、と。

 姿を見せないまま、幻影を見せる力を持つキューブアニマルが応えてくれる。

 彼がこの空にまで届けてくれたのだ。

 

 ただの幻じゃない。

 この地上のどこかで今もそこにある光景を、ここまで連れてきてくれた。

 そして、バドから託された最後の力も。

 

「そうだ……負けられない……!」

 

 同じく落ちていたタケルの背に、誰かが手を添える。

 見せられている幻じゃない。

 彼が懐に納めた、一つの眼魂から漏れ出す熱量。

 それが人の温もりをもって、彼の背中を押し上げてくる。

 

『ここまでか、タケル』

 

「―――まだだ。まだ俺は、負けてない……!」

 

 負けを認めなければ、負けじゃないと。

 いつかの強がりで体を、魂を、心を取り戻す。

 懐の中で燃え上がる闘魂の力を強く掴み、タケルが目を見開いた。

 

「俺が、俺の英雄から受け継いだものを……まだ未来に繋げてない……!」

 

 添えられた手から伝わってくる熱が炎に変わる。

 タケルを中心に拡がっていく赤く燃え盛る魂の火。

 その熱を確かめて、声は僅かに喜びを滲ませて、小さく笑った。

 

『そうか……なら、お前がやるべきだと信じたことをやれ。

 その先に、きっとお前の英雄が待っている』

 

 燃え上がるタケルが押し出され、体を引っ繰り返す。

 同じく反転した大和もまた、強く空を見据える。

 キューブコンドルの展開した光の幕。

 その外にいる、ジニスを睨むように。

 

 直後、光のカーテンを突き破る光弾の雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 ズタズタに引き裂かれ、消えていく光の撹乱。

 それを見下ろしながら、ジニスは軽く鼻を鳴らしてみせた。

 始末した下等生物どもから、彼はさっさと意識を外す。

 そうして目指すのは、彼の目的であるキューブホエール。

 

 ジニスはキューブ状態で地面に転がるそれを見据えて動き出し―――

 

 その瞬間、彼の直上に蒼い翼がはためいた。

 

 気付いてすぐにそちらに視線を合わせ、翼から光弾を撃ち放つ。

 それを全て掻い潜り、手にした剣を振るう蒼い影。

 剣は刃が分割して伸長し、鞭のように大きく撓ってジニスの肩を打つ。

 

「なに……!?」

 

 刃の一撃で肩を削られたジニスが、明確な敵としてそれを睨む。

 蒼い翼は一度大きく羽ばたくと、その場で滞空して剣を構え直す。

 

「蒼い、ジュウオウイーグルゥ……?」

 

 ジニスが目の前のそれに対し、訝しむようにそう呟く。

 彼がそう言った通り、姿は確かにジュウオウイーグル。

 だが色が違う。空のように深い蒼に全身を染めた、初めて見る姿。

 

 刃を引き戻し、バドの愛剣たるイーグライザーを直剣に戻し。

 ジニスの頭上で彼は高らかにその姿の名を謳い上げる。

 

「蒼穹の王者――――ジュウオウコンドル!!」

 

「――――それが、何だと言うのだ!!」

 

 自らの頭上を抑えた蒼穹の翼に向け、彼は砕けた白く濁った翼を向ける。

 彼の細胞が蠢く翼が輝き、迸る無数の光弾。

 それがしかし、コンドルの元へと辿り着く前に炎の壁で燃え尽きる。

 

 全身を、魂を、想いを燃やして業火を纏い。

 その場に浮かび上がように現れるのは、真紅のゴースト。

 浮かび上がってくる紅と黒の仮面ライダーが、頭に被ったパーカーを跳ね上げた。

 

「仮面ライダーゴースト――――トウサン魂!!」

 

 闘魂ブーストと同じ姿で、しかしそれ以上に自身の英雄の魂に後押しされて。

 紅いゴーストはその場からジニスに向け突撃した。

 両の拳を握り締め、光の弾幕を打ち破りながら。

 

「一体どこまで……! 惨めに足掻けば気が済むんだ!!」

 

 形状の不安定な拳を強く握り、相手の一撃に対応するジニス。

 両者の拳が正面からぶつかり合い―――

 

「な、に……!?」

 

 力尽くで、ジニスの方が押し返される。

 罅を走らせ、崩れ始める彼の両腕。

 それを強引に再形成して維持しつつ、ジニスがまたも瞳を憎悪で濁らせた。

 

「何故だ……! 何故だ何故だ何故だ!!

 貴様たちの手にした力ならば、私もまた手にしているはずだ!!

 だというのに何故! 下等生物が私に勝るなどという異常が起きる!!

 なぜ私の手にした力が貴様たちに劣る!! なぜこのようなことになる!!」

 

「……お前に。お前に、その力は宿らない―――ッ!!」

 

 蒼い翼が羽ばたいて、頭上からの急襲。

 振り抜かれるその刃がジニスを捉え、彼の胸を深く抉り取った。

 染み出す液状の細胞を撒き散らしながら、ジニスは両腕を振り乱した。

 煮え滾る憎悪が彼の肉体を、限界を凌駕して酷使する。

 

 無理矢理に剣へと変形した両腕。

 それが振るわれる度に剣撃による衝撃波を放ちだした。

 迎撃するために延ばされるイーグライザーの刃。

 周囲を薙ぎ払う剣の結界。

 

 幾つか衝撃を迎撃し、しかし斬撃の嵐に刃節から断たれる蛇腹剣。

 砕け散り、宙に撒き散らされる刃の残骸。

 

 その状況で、コンドルはすぐさま剣をジュウオウバスターに持ち替えた。

 同じようにサングラスラッシャーを引き抜くゴースト。

 

 彼らは手にした剣で押し寄せる斬撃を切り払いながら、前へと突き進む。

 

「自分の命を救ってくれた人の死さえ嘲笑い、踏み躙ったお前には……!

 背中を押してくれる誰かの声が届くことなんて……ない―――!!」

 

「声ぇ? 下等生物の断末魔が何の力になる――――!!」

 

 距離を詰め切り、同時に奔る二人の剣閃。

 それに合わせ、ジニスもまたその腕を振り上げていた。

 交わる両腕と、二振りの剣。

 火花を散らす鍔迫り合い越しに、二人とジニスが視線をぶつけ合う。

 

「例え途中で命が燃え尽きても……! 俺たちの心に、その命が遺してくれた想いが残っている限り、魂は永遠に不滅だ!! 誰かが自分に遺してくれたものを全部踏み潰してきたお前には……この力は砕けない!!」

 

 ギシリ、と。全ての剣が大きく軋んだ。

 それでもなお力を掛け続ける中で、一気に限界が訪れた。

 刀身が弾け飛ぶように折れるジュウオウバスター、サングラスラッシャー。

 そしてそれと同じように、肘から先が微塵に砕けるジニス。

 

「グゥウウウウウ……ッ!? お、のれぇええッ!!」

 

 両腕の肘から先を失い、当然のように再生は間に合わない。

 砕けた翼を限度いっぱいまで大きく広げ、そこから光弾を吐き出す。

 そうしながら、彼は後退を選んだ。

 

 ひたすら弾幕を張りながら、キューブホエールの元まで逃げること。

 それがこの逆境を唯一逆転できる一手だと理解していて。

 今の彼が出せる速度は速くない。

 ただ後退するだけでは、ジュウオウコンドルを振り払えるはずもない。

 

 そうしたジニスの苦し紛れの光の弾幕。

 それを浴びながら、二人の戦士は刃を失った剣を手放した。

 

「だから俺たちは命を燃やすんだ!!」

 

「誰かが俺たちのために命を懸けてくれたことを知っているから!!」

 

 ―――燃える。

 彼らが背負った力と命が、その体の中でとめどなく溢れ出し、燃え上がる。

 その熱量に抗しきれず、焼け落ちていく光弾の雨。

 

「俺たちがそうしてもらったように、今度は俺たちが次の誰かに未来を繋ぐために!!」

 

「この星の生き物は今までずっとそうしてきた!

 これからもずっと、俺たちはそうやって繋がって生きていく!!」

 

 溢れ出す熱量を一点に集中する。

 ジュウオウコンドルも、ゴーストも、その力をただ一点。

 足裏へと集約させていく。

 

 蒼い翼が大きく羽ばたき。

 紅い炎がその火力を推力として加速した。

 

「俺たちが魂を未来に繋ぎ続ける限り―――!! 俺たちの可能性は、無限大だ!!!」

 

「ジニス!! この世界に生きる命の強さを、舐めるなよ―――ッ!!!」

 

 弾幕を蹴り破り、減速することさえなく。

 蒼と紅は螺旋を描きながら、ジニスを目掛け一直線にやってくる。

 もはや彼の前に一切の壁はなく、止める手段は存在しない。

 失った腕で守りに入ることもできず、彼はそれをただ見送るより他になかった。

 

 蒼と紅が交わる弾丸が、ジニスの胴体へと着弾する。

 攻撃を受けた瞬間、彼は全ての持ち得る力を生存のために尽くす。

 が、それでも。

 

 彼の全身に一秒と待たず、亀裂が駆け巡っていく。

 沸騰する細胞。蒸発していく肉体。

 目前まで迫った死に対し、ジニスは黄金の瞳を明滅させた。

 

「ありえない……! ありえるはずがない―――ッ!! この私が、下等生物などに! 下等生物が、この私を、ジニスを!? 私はジニス……! この宇宙で唯一にして、絶対の……!! ありえない、ありえない! 下等生物如きに!? ありえていいはずが……!! ありえな―――ッ!?!?!?」

 

 全ての細胞が破裂する。全てのメーバが死滅する。

 内側から消失していく存在に、ジニスが断末魔を張り上げる。

 彼が体内に抱えていたものが全て弾け飛ぶ。

 

 ―――空に二つ目の太陽が生まれる。

 ジニスの内に残っていただけでも十分なほどに圧倒的なエネルギー。

 それが炸裂して生み出した、最後の光。

 

 その中に呑み込まれ、大和は意識を失った。

 

 

 

 

 ―――そうして。

 彼は最後に彼女と顔を合わせる。

 ふわふわとした浮遊感を覚えるような、白い空間。

 その中で佇む、一人の少女。

 

 彼女と視線を合わせて、タケルは微笑んだ。

 

『……どちらの生への執着が優れているか。答えは出た、と?』

 

「―――ううん、そうじゃない。

 きっとこれからの全部が、俺たちが生きたいっていう気持ちを試してくる。

 だからそのたびに俺は言うよ。生きたい、みんなと一緒に。って」

 

 タケルの言葉を聞くと、少女は瞑目する。

 

『…………天空寺タケル。

 あなたたちは私を取り込んだものを打ち倒し、この身を解放せしめた。

 その礼に、最後に一つだけ願いを叶えましょう』

 

 そう言って少女―――グレートアイは、その神威を解放する。

 肉体を捨てて、精神のみの存在となった知的生命体の集合意識。

 それがガンマがグレートアイと名付けた神の正体。

 肉体を失ったタケルが、他の魂の力を取り込むことで近づいた神の領域。

 

 浮かび上がるグレートアイの紋章。

 そこに集う力を見上げ、タケルは一瞬だけ迷う様子を見せた。

 

「一つ、訊いてもいい?」

 

『ええ』

 

「……初めから、長く生きられないと決められた人の寿命を延ばすことは、できる?」

 

 その問いに対し、グレートアイが僅か視線を逸らした。

 この空間から下界を眺め、一人の少女を視界に納める。

 人の生としては短い期間で運命力を果たし、死ぬ未来の少女。

 そんな少女の姿を見て、

 

『―――いいえ。できません』

 

 グレートアイは、虚偽で返した。

 いいや。グレートアイの力ではできない、というのは事実だ。

 彼女を人間のまま生かす、というのはグレートアイでも不可能だ

 

 だが絶対にできない、というわけではない。

 運命力を譲渡する方法があれば、例外的に彼女を生かすことはできるだろう。

 

 ―――そして、タケルにはそれができる。

 彼の持つムゲンゴースト眼魂は、彼の運命力の具現。これを彼女に譲渡すれば、ムゲン魂に変身するための力と彼の寿命の半分を引き換えに、少女の延命は叶うだろう。

 

 何故だろうか。

 グレートアイはそれを説明することさえせず、彼にそう返していた。

 恐らく説明したところで選ばないだろう、と考えつつ。

 しかし、何故か。タケルの命を削る可能性を排するように、そうしていたのだ。

 

「……そっか。なら―――肉体を失って漂う魂を、体に返してあげてほしい」

 

 DEMIA、そしてジニス。戦いの中で多くの魂が奪われた。

 その魂たちを、元いた肉体へ。

 そう願われたことに安堵するように、グレートアイが鷹揚に頷いてみせる。

 

『わかりました』

 

 言って、彼女はゆっくりとその腕を上げた。

 彼女が差し出した手の先には、タケルの姿。

 

「え?」

 

『天空寺タケル、あなたもです。肉体を失い、漂う魂。

 あなたはこれから生き、試されるのでしょう? その魂がどのような生き方をしていくのか……宇宙の果てから、私も見させてもらいます』

 

 タケルの肉体を生成し、彼に与え。

 そうしてもう一度、下界に視線を向ける。

 引き剥がされた全ての魂を、元の肉体まで戻るように仕向け―――

 

 もう一つ。

 肉体を失ったままに動く、魂の入った人形を見つけた。

 疑似的な肉体は持っているが、眼魔のように眼魂で動いているようだ。

 

 どうするか、と少しだけ悩み。

 しかし彼女はもうここを離れ、眼魔の眼魂システムも停止させるつもりだ。

 人間とは、そうやって生きていくものなのだと言うのだから。

 

 彼女も眼魂ではなく、そのまま肉体に宿る魂にしてしまえばいい。

 出来の良い人形が体になっている。天空寺タケルや深海カノンにそうしたように肉体を創るより、あれをそのまま肉体に変えてしまった方が早いだろう。

 

 あちらのダ・ヴィンチは……あのままでいいだろう。

 あれは英雄眼魂のようなものなのだろうから。

 

 そうしてやるべきことを終えた彼女は、最後にタケルに振り返る。

 

『では、さようなら。天空寺タケル』

 

「……ありがとう、グレートアイ」

 

 ―――光が晴れる。

 地球から、極大の光の塊が飛び去って行く。

 空にかかる、地上からでもよく見えるようになった光帯を追い越して。

 

 天空に描かれたグレートアイの紋様、黄金の曼陀羅。

 そこから投げ出されたタケルが、すぐそばにいた意識を失った大和に声を飛ばす。

 

「大和さん! 落ちてるよ!!」

 

「――――っ、え、え!?」

 

 もう彼はゴーストじゃない。

 そのままでは空も飛べないし、透けて消えることもできない。

 このまま地上まで真っ逆さまでは死んでしまう。

 

 そんな修羅場を目掛けて、地上から黒煙を噴き上げる船がやってくる。

 船体にある顔を歪めて、しかし必死に空を翔けるキャプテンゴースト。

 そこに乗った多くの仲間たちからの声が聞こえた。

 

「大和ぉ――――っ!!」

 

「タケルぅ――――っ!!」

 

 空中でタケルと大和が手を結び、どうにかそちらに向かって落ち始める。

 

 魂だけではない、肉体で感じる温かさ。

 その熱を胸に宿して、彼は叫ぶ。

 

「―――みんな、ただいま!!」

 

 キャプテンゴーストの甲板で受け止められる二人。

 受け止めた連中ごと、もんどりうって転がっていく。

 そんな騒々しい光景の繰り広げられる船。

 

 それを地上から見上げながら、木に寄り掛かったマコトは笑みをこぼす。

 

 呆れた風に肩を竦め、立ち去り始めるマーベラスたち。

 二人で並び、言葉を交わすことが叶ったアランとアデル。

 疲労からか突如倒れたオルガマリーに寄り添う立香とツクヨミ。

 

 ソウゴとマシュがマコトのところまでやってきて、彼へと手を差し伸べてくる。

 マコトは特にダメージが大きく、未だに立てない程度には体力を失っていた。

 そんな彼を運ぶためにやってきた彼らが、

 

「何とか、終わったね」

 

「そうだな。だが、これからだ。お前たちもそうだろう?」

 

「―――はい。でも、まずは……」

 

 マコトを挟むように並ぶ二人。

 そうしながら、ゆっくりと降りてくるキャプテンゴーストを見上げるマシュ。

 その肩を借りて立ち上がったマコトも彼女の視線を追って、笑う。

 

「ああ。まずは、掴み取った今を祝おう。

 差し当っては……最後まで戦い抜いたダブルヒーローのご帰還を、だな」

 

 きょとんとする二人。

 だがそれに小さく笑い、三人は揃って着陸を始めたキャプテンゴーストを目掛け歩き始めた。

 

 

 




 
Q.バードがいないジュウオウコンドルってイーグルと何が違うんだろう?
A.私にもわからん

「ダブルヒーローのご帰還だ!」
これがやりたかった。一番やりたかった。
 
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