Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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未来!受け継ぐ歴史!2016

 

 

 

「うーん。大丈夫そうではあるんだけど」

 

 そう言って“参った”、と。

 両手を挙げて肩を竦めてみせるダ・ヴィンチちゃん。

 そんな様子を見せられたオルガマリーが、自身の額に手を当てる。

 

 ある時、何かが()()()()と感じた。

 オルガマリー・アニムスフィアの体が、人形ではなくなったのだ。

 ダ・ヴィンチちゃんの製造した人形。

 それはもはや本物の人間と変わらないほどのクオリティだった。

 だからこそ、蘇生されたという実感すらも湧かないような唐突な蘇生。

 

 帰還したタケルから話を聞いてみれば、グレートアイの仕業だという。

 蘇生してもらって仕業、というのもあれだが。

 

『生き返った、と言えるような状況は素直に喜ばしい。

 けど所長の場合は、生き返ったら生き返ったで問題が出ちゃう可能性があるからね……』

 

 通信先で難しそうな顔をしているロマニ。

 彼もまた参った、と言わんばかりに息を吐き落とす。

 

「体内にはもう眼魂も残っていない。かつてそれがあった部分には、正しく人間の脳がある。

 私の人形をベースに人間の肉体に変換したようだけど……うーん。

 レイシフト適性も残っている、はず。ちゃんとした検査をするにはカルデアに戻らないとだ」

 

「“適性を持ってない私の肉体”になってたら戻れないでしょうけどね」

 

 一つ大きく溜息を吐いて、彼女は肩を竦めてみせる。

 そもそもが眼魂もダ・ヴィンチちゃんの人形も、器物としてのレイシフトだった。

 純粋な生命体に変わった彼女がどうなるかは読めない。

 もちろん、ダ・ヴィンチちゃんはそれに耐えるものとして人形を作ったが―――

 

「ロマニ。コフィン内の探査はどうだい?」

 

『言われてから一応やってはみたけれど……

 当たり前といえば当たり前だけど、今できる範囲の調査で所長の状態は分からなかったよ。

 あまり深い調査をすると存在証明に支障をきたすし……』

 

 そう言ってロマニが軽く眉を顰める。

 

「……黒ウォズに言ったらちょちょいと転移してくれれば楽なんだけど」

 

 レイシフト外の方法で当然のように特異点に出入りする相手。

 常識外である黒ウォズを思い浮かべてそんなことを言ったオルガマリー。

 そんな彼女に対し、ダ・ヴィンチちゃんとロマニが同時に片眉を小さく上げた。

 その反応に対してムッとして、オルガマリーが二人をねめつける。

 

『いや所長もらしくなってきたな、と思って。ちなみにその帰還方法には反対だ。

 確かに帰ってこれるかもしれない。けど、コフィン内からレイシフトしておいて、カルデア内かつコフィンの外に別手段で帰還するような場合、コフィンがどうなるか分からない』

 

「コフィン内で霊子変換されてた所長と、黒ウォズが連れ帰った所長。

 両方回収されて所長が二人に増えたりしてね」

 

『絶対にそんなことは起こらない、とは言えないから反対なんだ。

 いや流石にないとは思うけど』

 

 前に増えていたソウゴを思い浮かべつつ。

 しかしロマンは表情を緩めることなく、反対という態度を断言した。

 時空を超える術を彼らは持っているのだろう。

 だがレイシフトで転送した以上、帰還はレイシフトでなければならない。

 

 そんな言葉を聞きつつ、オルガマリーが小さく息を吐く。

 

「……まあ、ダ・ヴィンチの言葉を信じるわよ。今の体でもレイシフトして大丈夫、って」

 

「おや、それでいいのかい?

 正直、タイムマジーンなんかの機能も交えて、少し作戦を練るべきとも思ってるんだけれど」

 

 どんな返答があれ、彼女がこれから帰還のためのプロセスを詰めていくことに変わりはない。

 

 ロマニもここからはこちらの仕事だ、と。

 当然だが、あちら側は臨戦態勢に入っている。

 

 彼らを前に、しかし気を抜いた態度を示すオルガマリー。

 そんな彼女に対し、にこやかにそう問いかけるダ・ヴィンチちゃん。

 問いかけてくる相手を胡乱げに見据えながら、彼女は溜息交じりに言葉を返した。

 

「あんた、今は一時的にでも私のサーヴァントでしょ。

 なら、信じるわよ。そんくらいはね」

 

 ぱたぱたと手を振りながらそう言ってみせる。

 だってそこに突っ込んだって意味ないだろう、と。

 オルガマリー・アニムスフィアは、なんだかんだレオナルド・ダ・ヴィンチというサーヴァントは、手を尽くした上で行動していると知っているのだ。

 

 もし失敗したのならば、他の誰にもどうにも出来ない事だった、というだけ。

 だったらそこに嫌疑を挟む余地がない。

 

「……うーん、素直すぎてつまらない。ホント、あの親からこの娘? みたいな気分」

 

「それ、喧嘩売ってるの?」

 

 言い返された言葉に反応して眉を吊り上げる。

 睨みつけたところで、ダ・ヴィンチちゃんは微笑むばかり。

 

「君からの信頼を受け取っただけさ。ま、安心していいとも。

 その気前のいい支払いに対して、天才の名に恥じない十二分の成果を用意しておくよ」

 

 そう言って彼女が準備に入る。

 

 迫り始めたカルデアへの帰還。

 その事実を前にして、オルガマリーは大きく一度深呼吸をした。

 

 

 

 

「僕たちは一度ジューランドに帰って、ここで知ったことを全部広めようと思う」

 

 大和たちを前にして、タスクはそう切り出した。

 その言葉は、大和の背後にいるバドにも向けられている。

 

 そんな意図を当然理解して、バドは彼らから視線を逸らし、小さく俯いた。

 王者の資格を手放した彼の姿は、既に人間の姿を失っている。

 

 彼の前にいる大和もまた小さく俯く。

 しかしすぐに顔を上げて、タスクに言葉を返した。

 

「俺も。みんなに全部知ってもらった上で、これからちゃんと繋がっていきたい。

 これまで互いを傷つけるような繋がり方をしてきた人間とジューマンだけど……それを、これから変えていきたい」

 

 自分が何も知らずに憎み続けてきたから、と。

 何も知らないからこそ、より強くその人を憎んでしまったから、と。

 言葉にせずそう語り、大和は大きく頷いた。

 

 そんな彼の様子を見て、バドは一瞬だけ目を見開いて。

 

 ―――そこから立ち去るために、踵を返した。

 が、直後に彼の前にレオが立ち塞がる。

 

「おい鳥男。いやバド、おいバド。どこ行くってんだよ」

 

「……すでに俺の持っていた王者の資格は大和に渡した。もう用はないだろう」

 

 彼らが“鳥男”を追っていたのは、最後の王者の資格の持ち主だからだ。

 それを最後の戦いの中で大和に渡した以上、もう用はないだろうと。

 そう言って、レオを押し退けようとするバド。

 

 無理に押し留めるような事はせず、レオは素直に押し退けられた。

 

「大和くんの言葉、聞いたでしょ?

 ―――きっと大和くんにとって、あなたが真っ先にちゃんと繋がりたい人なんじゃない?」

 

 だが、離れていこうとするバドの背中にかけられるアムの言葉。

 

 彼はそれに一度足を止めかけて、しかし実際に止まることはなかった。

 景幸と大和の関係が変わってくれたなら、それで十分だったから。

 

 景幸の優しさに甘え、大和のことを騙し続けてきたことに変わりはない。

 だから引っかかっていたのはそれだけだったのだ。

 自分のせいでこじれてしまった親子の絆。

 それが解け始め、正しく結び直せるならこれ以上のことはない。

 

 そう考えながら、やはりバドはそのまま歩き去ろうとして―――

 

「あんた自身はどうなのよ。今までのことじゃない。

 今まではすれ違うしかなかったけど、これから変えていきたいって……そうは思わないの?」

 

 問いかけるセラ。

 景幸の優しさに救われ、その恩義を大和を救うことで返し。

 そうやって守ってきた親子と……

 人間と正しく繋がっていきたくはないのか、と。

 

「俺は! 自分を変えたいって願い……

 自分が世界にどう向き合いたいかって想いは、目を逸らしちゃいけないと思う、思います」

 

 そして操が、己の感じるところをぶちまけた。

 関わりの薄い相手にどんな口を聞けばいいのか、と。

 そんな悩みすら口調から滲ませながら。

 しかし言葉を濁すようなことはせず、バドに対して声をかけた。

 

 微かに、バドの歩調が緩む。

 

 彼の様子を見たタスクが、大和を横目で見る。

 その視線を感じた大和は一つ大きく頷いた。

 

「―――バドさん。あなたが知る、人間を受け入れられなかったジューマンみたいに。

 ……ジューマンを受け入れられない、と思う人間も絶対いると思うんです」

 

 バドが足を止め、その言葉を口にした大和を振り返る。

 言うまでもない事実。彼が大和に教えた人間を排していたジューランドの真実。

 それをあえて口にした彼を見据え、

 

「だからこそ俺が、そういう人たちとジューマンを繋ぐ人間でいたい。

 ジューマンの中には俺の命を救ってくれた、心優しい人もいるんだって伝えていきたい」

 

「……それは。

 俺はジューマンを相手に、人間の中には俺を救ってくれた優しい人間もいる、と。

 そうやって伝えて回れということか?

 ―――そんなことで何かが変わるほど、連中の凝り固まった猜疑心は柔くない」

 

 断言するバド。

 少なくとも彼は、目の前の者たちよりジューランドの暗部をよく知っている。

 その暗部を曝け出させようとする者は、ジューマンでさえ排斥すると。

 

 あんな場所に関わるよりは、別の場所で一から作り直した方が早いとさえ思っている。

 今のジューランドに接触しに行くよりは、ジュウオウジャーを中心にこちらの世界にジューマンのコミュニティを作った方がよほどマシだ、と。

 

「でも俺は変われた。

 俺だけじゃ変われなかった。けど、みんなと繋がっていたから変われた。相手が変わるはずないって諦めて繋がることを止めてしまったら、これ以上何も変わらない。変わってほしいと願うなら、繋がりを断ち切ることだけはしちゃいけなかった。繋がっているからこそ感じる苦しい想いも全部、受け入れていかなきゃいけなかった」

 

 だが大和は断言する。それでは駄目だ、と。

 変わるわけないと諦めて離れてしまったら、本当に何も変わらない。

 変わって欲しいのに変わってもらえない苦しみにぶつかりに行きながら、それでも。

 共に変わっていこう、という意志は示し続けなければならなかったと。

 

 そこで彼は一度言葉を区切り、深く息を吐き。

 そうして、バドを強く見据えて再び口を開く。

 

「だから。だから、俺は今度こそ繋がり続けたい。

 今がどんなに歪つな繋がりでも、それを断ってしまう事を選ぶんじゃなく、これから正しい形に変えるために生きていきたい。そしてそのために、あなたの力も貸してほしい」

 

 バドに向かって差し出される大和の手。

 それを見た鳥そのものなバドの顔が、微かに揺らいだ。

 

 

 

 

「アラン! ……それに、アデル」

 

 眼魔世界に帰還した彼らの前に、アリアが姿を現した。

 アランとアデルの後ろについていたジャベルが、アデルの背に視線を送る。

 が、アデルは姉の声にも大した反応を示さない。

 

「姉上。こちらの様子は……」

 

「……眼魂システムは全て停止。全ての民が目覚め、肉体に戻りました」

 

 システムの根幹をグレートアイに頼っていた眼魂システム。

 それはグレートアイが外宇宙に去ると同時、機能を完全に停止した。

 

 今まで眼魂システムによって夢の中で微睡んでいた眼魔の民。

 彼らは突然の目覚めに対し、混乱の渦中にあった。

 いきなり足場を失い放り出された彼らには、しがみ付く寄る辺が必要だ。

 

 遥か昔、同じように全てを失って未知の大地に放り出された眼魔の民。

 当時それらを鎮め、治めた者。

 かつて彼らは、そのような存在を―――大帝と呼んだ。

 

「どうするのです、アデル。あなたは―――」

 

「……どうする? 何を言う、もはや眼魔は終わりだ。

 眼魂システムによる生命力の供給も無しに、肉体を得た民の生活を支える事などできん。

 既に生物が生きることができる星ではないのだ、ここは」

 

 アデルはそう吐き捨てながら視線を逸らす。

 眼魔にとてかつては飲食のために設けられた産業もあっただろう。

 だがそれは遠い昔の話。

 眼魂によって生きるようになってから、そんなものは全て廃れ切った。

 回復している時間的猶予などあるはずもない。

 

「あなたは……」

 

「―――無茶でもなんでも、それをどうにかしろ、と。

 我らへお命じになることが現大帝であるあなたの役目では?」

 

 眉を顰めるアリアの背後から、新たな声がする。

 続くのは、にゃー、という。気の抜けるような猫の鳴き声。

 振り返ってみれば、そこには頭に猫を乗せた壮年の男性が一人。

 

「イーディス長官」

 

「はて、私はまだ長官でしたかな。

 私が所用で離れていた間に、大帝陛下はイゴールを随分重用していたように思いますが」

 

「この期に及んで嫌味か? そもそも貴様が―――いや、私には言う資格もないか」

 

 イーディスを睨もうとして。

 しかし自嘲するように鼻を鳴らし、すぐに顔を伏せるアデル。

 そんな彼を見てイーディスは目を細める。

 続けて、アリア、アランと。大帝の一族の者たちへと視線を巡らせた。

 

「……大帝陛下。いや、アデルよ。

 私はかつて、今のように先の見えない状況の中、陣頭に立ち大帝と名乗った男の友だった。

 同じく研究の道で切磋琢磨するもう一人の友と一緒に、彼を支えてきたつもりだった」

 

「…………」

 

「ですが、どこかで間違えたんでしょう。誰が間違えたのか……全員間違えていたのか。

 今もって私には……恐らく、死んだアドニスにも、ダントンにも。

 最期まで“あの時こうすれば良かった”という答えは、得られなかったと思います」

 

 イーディスの頭の上で、呆れるように欠伸をする猫。

 苛立ちつつそれを叩き落とそうとするイーディス。

 だが猫はするりその手を回避して、彼の肩から上をキープする。

 

 舌打ちを噛み殺しつつ、イーディスがアランに視線を向けた。

 

「……ですが。恐らく、アドニスと、ダントンは。

 最期には、“これからはこうすればいい”という答えを、得ていたのだと思います。

 この世界が停滞を始めて、きっと初めて。この世界に光明を見たのだと」

 

「―――ならば私などではなく、アランに大帝を継がせれば良い。

 そして私を処刑でもして、当座の結束を固めたらどうだ。

 でっちあげるまでもなく、私を処刑するに足る罪は山ほど積まれているだろう」

 

「そのようなことはできません。

 いえ、そのような事をしたくありません。兄上」

 

 アランが語気を荒げるアデルの肩に手をかける。

 それをすぐさま苛立たしげに振り払い、アデルは弟へと向き直った。

 

「ならばどうするつもりだ! まさかこのまま私を無罪放免し、大帝を続けさせると?

 ―――馬鹿にするのも大概にしろ!」

 

 既に彼が築いていたDEMIAは決壊した。

 ガンマイザーも全て破壊され、その先にいたはずのグレートアイは去った。

 

 グレートアイが去った以上、もはやどうにもならないのだ。

 大帝一族を大帝一族たらしめていた祈りを捧げるべき神は、彼方へと旅立ったのだ。

 もはや世界を変えるだの、支配するだの言っている場合ではない。

 今まではちらつく程度だった滅びという結末が、目前で立ち塞がっている。

 

 その事実を理解した上で向き合う中で、アランはきつく目を尖らせた。

 

「例え兄上であっても、無罪放免になどしません。

 それだけではない。問われるのは兄上ばかりではなく、我々も同じだ。

 これまでの眼魔の行い全てを民に話し、許しを乞わなければならない。

 父上のことも、兄上たちのことも、私のことも」

 

 振り払われた手を返し、今度はアデルの手首を掴むアラン。

 振り解こうと力を込められるが、それでも彼は手を離さない。

 

「その上でこの世界を未来に導くため、我らを前に立たせてくれ、と。

 ……認めてもらうのです。かつて父上が初めて大帝を名乗った時と同じように!

 そうでなくては、私たち眼魔は前に進んでいけない!」

 

「アラン……」

 

「私は私の心の叫びを聞き違えない! 私はいつだって私の心に従う!

 家族なのだ! あなたと、私は! 共にあるためならばいつだって命を懸けられる! あなたが重ねた罪は、私が共に重ねた罪だ! そして眼魔という世界が重ねた罪を全て背負うのが大帝ならば、私が大帝となって全て背負ってみせる!

 家族がいる。友がいる。多くの大切な人がいるこの世界……! そこに生きる同胞たちと共に歩んでいけるのならば、どれほどの重みを背負ったとしても、私は私の命を燃やし尽くすまで前に進み続けることができる!」

 

 正面から顔を突き合わせ、視線を交差させて。

 弟の剣幕に対してアデルが強く歯を食い縛った。

 

 

 

 

「どうされたのですか、先輩?」

 

「うーん。いろいろあったから、どれってわけでもないんだけど」

 

 夜空を駆け上がっていく赤い海賊船。

 最後にまたカレーを食べてから宇宙へと旅立っていった来訪者たち。

 そんな姿を見上げながら、立香は小さく首を傾げた。

 

 戦いは終わった。

 

 地球を侵略するジニス率いるデスガリアンは壊滅。

 大和たちは、ジューランドとの繋がりを修復するため動き出した。

 

 同じく地球を侵略していたアデルが動かす眼魔も動きを止めた。

 グレートアイがいなくなり、DEMIAもガンマイザーも完全に停止。

 アランたちは眼魔世界に帰還し、立て直しを図り始めた。

 

 どちらもきっと、これまでの戦いよりずっと長い戦いになるだろう。

 

 そして。

 あの決戦が終わった直後、カルデアからこちらの世界の捕捉が叶った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 ダ・ヴィンチちゃんはそんな事を言っていたが、詳しい理屈は立香には分からない。

 とにかく、近くレイシフトで帰還できるようになるという事だ。

 

 彼女たちの戦いもまだ続く。

 ここは七つの特異点には含まれない。特異点はまだあと一つ残っている。

 そして当然、魔術王のこともある。

 

 ―――同じく海賊船の出立を見上げていたマコトが、視線を下ろす。

 そうして振り返った彼が立香とマシュを見て口を開いた。

 

「お前たちはまた、次の戦いに行くんだろう?」

 

「はい。この特異点……と呼ぶべき場所だったのかも曖昧ですが、とにかくここでやるべきことは果たせたと思いますので。これを仕組んだ黒ウォズさん次第な気もするのですが」

 

「そうか。まあ、お前たちなら心配ないだろう。

 いつかまた宮本武蔵にあったら、よろしく言っておいてくれ」

 

 宮本武蔵は最終決戦の最中、この時代から消えたという。

 現場に居合わせたのはバドたちだけ。

 

 異世界の宮本武蔵は、数多の世界を流れていく漂流者。

 彼女が語ったその意味が実際にどういうことなのかは、詳しくわかっていなかった。

 が、こことは違う場所に流れていったことに間違いあるまい。

 

 レイシフトで別の時代に行った際にまた会う機会があるのかも分からない。

 だからこそ別れを告げられなかったことが寂しい、と。

 そう考えて微かに目を伏せた立香が、しかしすぐに表情を戻してマコトに返す。

 

「そうだね。今度逢えたら、ちゃんと伝えておくね」

 

 

 

 

 むーん、と。

 大天空寺の本堂で、仏頂面のままに瞑想している御成。

 そんな彼の背中を見つけ、アカリが声を上げた。

 

「ちょっと御成、何してんのよ」

 

「…………むーん!」

 

 かけられた声を受け流し、苦悩の唸りを上げる。

 彼の行動に呆れたように、アカリは肩を竦めつつ溜息を一つ。

 彼女はそのまま振り返って、共に居たツクヨミに視線を合わせた。

 

「ねえねえ、あの銃って丁度いい感じの威力に出来るのよね?」

 

「え? ええ、まあ」

 

「何をおっしゃるアカリ殿! 拙僧に何をするつもりですかな!?」

 

 背後で行われている会話に対し、御成はすぐさま立ち上がる。

 肩をいからせながら立ち上がった彼は、怒りと動揺も露わにアカリに詰め寄りだす。

 が、アカリは迫ってきた御成の前にずいと財布を突き出した。

 

「冗談に決まってるでしょ。

 か・い・も・の! 行くから荷物持ち手伝って。

 ツクヨミちゃんたちとのお別れ会用の食材、たっぷり買ってこないとね」

 

 言ってからひょいと身を逸らし、玄関に向かって歩き出すアカリ。

 困った風に笑いつつ、とりあえず彼女に続くカノン。

 御成の方を見つつ、更にその後からついていくツクヨミ。

 そんな三人の後からぶつぶつと呟きつつ、御成も続いた。

 

「それならそうと口で説明すればいいでしょうに!」

 

「あんたがむんむん言って無視してるからでしょ。何を悩んでるのよ」

 

 地球が震撼し、人の魂が乱舞し、圧倒的な力が暴れた戦場。

 そんな状況があっても、これから人間たちは今までのように―――

 今まで以上に強く、生きていかなければならない。

 

 逞しく営業再開しているはずの店を思い浮かべつつ、アカリは御成に問いかける。

 その問いかけに対し、御成は何度か自分の坊主頭を撫で上げて―――

 

「……ツクヨミ殿たちが初めてここにいらっしゃった時に聞いたお話。

 人理の焼却、とか。世界が既に滅亡している、とか。そんな話を思い出していたのです。

 大きな戦いを終え、これからまたいつもの生活をしていく……拙僧であれば、大天空寺の住職代理として、タケル殿が一人前のご住職になるまでしっかりと支えになるというような。そんな生活が戻ってくるのか、戻ってこないのか。どうなのかさっぱり分からなくて、悩んでいたのです」

 

「それは……ごめんなさい。私にも、実際どうなるかは」

 

 これが今までのような過去改変の修正、ならば元に戻るだけかもしれない。

 だがこの時代は現代―――例外であるツクヨミにとっては過去だが―――だ。

 その上、ここは人理焼却に関与した時代でなく黒ウォズの策略によって発生した()()()

 どうなるかは恐らく、カルデアにさえ詳細は分かるまい。

 

 逡巡するようなツクヨミの前で。

 しかしアカリは呆れたように彼に振り返った。

 

「なに、そんなこと悩んでたの?」

 

「そんなこと!? この世界の一大事ですぞ! そんなこと呼ばわりはどうかと思いますが!」

 

「馬鹿ね。一大事だから、でしょ?

 何があったって、どんな災いが訪れたって―――

 私たちは、最初から最期まで全力で()()()のよ。そうでしょ? 他に何かある?

 だからそんなことなのよ。答えなんか、最初っから決まってるじゃない」

 

 そう言って、彼女は小さく笑いながら歩いていく。

 その物言いに怯んだ御成が、むむむと口を尖らせた。

 

「私たちは私たちで生き抜いて。ジューマンとジューランドの事で頑張ってる大和さんたちの事を応援もして。眼魔世界のこれからの事で頭を悩ませてるアランたちの事も応援して。

 ―――これからも世界を救うために戦い続けるツクヨミちゃんたちのことも応援する。

 詳しい話が分かってなくても、やらなきゃいけない、やれることは分かり切ってるじゃない」

 

「…………話が分からなくても、などと。アカリ殿らしからぬ言葉。さては偽物……?」

 

「あの人類史上最高の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチにさえ分からない事があるのよ?

 私にだって少しくらいは解明できないことはあるのよ。今は、だけどね」

 

 けらけら笑って。むむむと唸って。

 そうやって歩いていく二人。

 そんな二人の後に続くツクヨミの隣で、カノンが足を止めた。

 

「カノンさん?」

 

 ツクヨミがカノンに呼び掛けて、前を行く二人も足を止めた。

 彼女は足を止めたままに悩むように俯いて。

 数秒後、思い切ってその顔を上げる。

 

「……アカリさん。御成さん。私、眼魔世界に行こうと思うんです」

 

「眼魔世界に?」

 

「はい。こっちで応援するよりも、眼魔世界でアラン様たちと一緒に何かをしたいと……

 私に何ができるか分からないですけど、何か助けになりたいと思って」

 

 カノンの言葉を聞いて、目を見合わせるアカリと御成。

 そうしてから、アカリは深々と溜息を落としてみせる。

 

「―――そっか。じゃあ、カノンちゃんとも……マコトともしばらくお別れか。

 ますます豪勢なお別れ会にしないとね」

 

「え? いえ、お兄ちゃんにはこの話はまだ……」

 

「マコトさんは絶対についていくと思う……」

 

 アカリの様子に慌てたカノンの言葉。

 それを苦笑交じりにツクヨミが遮って、御成は同意するように大きく首を縦に振った。

 

「よっし! こうなったらこれ以上ないくらい盛り上げましょ!

 セラさんたちもまだきっとジューランドに帰ってないはずだし呼びつける! 御成! 大和さんに連絡! アランたちも少しくらい呼び戻したって大丈夫でしょ! 呼び戻しましょ! カノンちゃん、マコトに連絡させて! ぱーっといきましょ! ぱーっと!」

 

「仕方ありません。ですがこうなったからには、まずタケル殿にも手伝って頂かねば!」

 

「そうね。ソウゴにもさぼらせておけないわ」

 

 御成とツクヨミが懐から携帯電話を取り出す。

 盛大にやるつもりのアカリの荷物持ちは、ここにいる人員だけでは足りるまい。

 二人揃ってタケルとソウゴへと連絡を取り―――

 

 

 

 

 ―――携帯の着信音を聞き、手を合わせていたタケルが目を開ける。

 

 そこは大天空寺の裏。

 天空寺龍が、最期を迎えた場所だ。

 彼の遺体は葬られ、当然墓の下に入っているけれど。

 それでも、最期の地でこうしたかったから。

 

 アデルはきっと、これからやり直すことができる。

 彼を案じるアランがいる。アリアという人もいる。多くの眼魔の民がいる。

 きっと、彼らの幸福を望んだ父親やアルゴスの魂が見守ってくれる。

 

 恨みとか怒りとか、そういう感情がないとは言わない。

 けれどそれ以上に自分が抱いた感情が“安心”であったことが―――嬉しい。

 きっと、父だって喜ぶはずだ。

 今まで苦しんできた一人の人間が、家族の愛の中で生きられるようになったことを。

 

 呼び出し音は二重。

 自分のものだけではなく、もう一つ携帯が鳴っている。

 隣にいたソウゴを見ると、彼も丁度目を開けたところだった。

 

 ソウゴはそのまま携帯を取り出し、相手を確認する。

 ファイズフォンXではなく、現地で契約したものだ。基本的に屋台が彼らの通信基地として機能していたので、それが撃墜された後に急遽一応手に入れていたもの。

 どうやらさほど活用しないまま解約することになるだろうが。

 

「ツクヨミ? 何の用だろ」

 

 そんな携帯に表示された名前を見て、首を傾げた。

 タケルが手にしているものの方には、アカリの名前が表示されている。

 

 ―――出てみれば、買い出しの手伝いの催促だった。

 同時に同じ要件を受けた二人が揃って苦笑。

 顔を見合わせて、表に出るため動き出し―――

 

 小さく目を眇め、タケルは先を行くソウゴの背中を見た。

 

「ソウゴ、訊いていいかな」

 

「ん、なに?」

 

「―――前にソウゴが俺にそうしてくれたみたいに。

 訊きたいんだ、ソウゴがやりたいことってなに?」

 

 足を止めて振り向いて、ソウゴはタケルの言葉に不思議そうに首を傾げた。

 

「もちろん、世界を全部良くする最高最善の王様。俺がやりたいことは、それ以外にないかな」

 

 何度訊いたってそう返ってくるだろう。

 それを分かっていてタケルは問いかけて、思った通りの答えに苦笑する。

 彼がゆっくりと握り締めるのは、自分の元に残された自分の眼魂。

 タケルはソウゴに向かって踏み出しながら、口を開いた。

 

「そっか……うん。

 じゃあ俺は、助けが必要な多くの命を未来に繋ぐために―――俺に出来ることをするよ」

 

 オレゴースト眼魂を握っていたタケルが、その手をソウゴに向けて差し出す。

 そこには既に眼魂はなく、一つのウォッチが握られていた。

 オレンジとブラック、二色で形成されたもの。

 ベゼルに描かれているのは眼のクレストと、2015という数字。

 紛れもなく、仮面ライダーゴーストのライドウォッチだった。

 

 差し出されたその力を見て、ソウゴはタケルと向き合う。

 

「……いいの?」

 

「ああ。きっとこれは、ソウゴのやりたいことのために必要な力だから。

 俺がこの力を父さんたちから託された理由……命を、魂を、心を―――未来に繋ぐこと。

 ソウゴになら、そのためになることだって信じて……俺は渡せる」

 

 一瞬、躊躇するように目を細めるソウゴ。

 そんな彼に、突き出すようにタケルはウォッチを差し出す。

 微かな逡巡が過ぎ去った後に、ソウゴは確かにそれを受け取った。

 

「―――ありがとう。うん、任せておいて。絶対に世界を救うからさ」

 

「任せたよ。ただ一つ、覚えておいて。

 俺は、今まで一緒に戦ってきたソウゴだから、この力を迷わずに渡せるんだ。

 だから……ソウゴはソウゴが選んだやり方を疑わなくていいんだ」

 

 タケルはそう言って微笑んで、ゴーストの力を手放した。

 自分の手の中に残されたそれを握り締めるソウゴ。

 その様子を見て鷹揚に頷いて。

 この場の空気を払うように、タケルは朗らかに微笑んだ。

 

「そろそろ行こっか。早くしないとアカリたちから大目玉だ」

 

「……だね」

 

 手にしたゴーストウォッチを懐にしまい、ソウゴも微笑む。

 多くの戦いを経て、恐らく黒ウォズが想定していた目的も果たされた。

 遠からずに彼らの戦いは次の段階へと進むだろう。

 

 ―――力を手放せば、記憶も記録も薄れて消えていくと理解している。

 グレートアイにさえ匹敵した彼の超感覚が、漠然とした何かを確実に感じている。

 それでも、一切の躊躇なく手放せる。

 託す相手を信じているし、それに―――

 

 例え今の現実が消えていっても、きっと残るものがある。

 

 天空寺龍の死に様。

 けして同時には起こりえない二つの歴史が編纂され、再編された。

 それでも、タケルの記憶には残っている。

 

 ―――何があっても、彼の英雄は彼を守ってくれた。

 どんなことがあってもタケルは父に英雄を見て、そしてその魂を繋ぐのだ。

 

 失われても、消え去っても、変わらないものはある。

 そんな尊いものを、命の尊厳を守るために、彼らは戦い抜いたのだから。

 

 これから何があっても、生きていく。

 生きていくために、この世界を守っていく。

 今まで受け継がれてきたこの世界を、未来に生きる誰かにまた繋ぐために。

 

 

 

 

「かくして。ゴーストたちと共に行っていた魔王たちの戦いは完結した」

 

 そう言いながら決戦地だった場所を歩く。

 彼は明確な目的地があるかのように、一切迷うことなくどこかを目指していた。

 手の中で開いた本へと小さく視線を落とし、微かに唇を吊り上げつつ。

 

「しかしまあ……やれやれ、随分と危うげなものだった。

 ―――とりあえず、労せず二つ目のウォッチが手に入ったことを喜ぼうか」

 

 そう言って、彼はパタリと()()()を閉じる。

 既にそこに記された未来。

 

 【次元の狭間に呑み込まれた仮面ライダーギンガのライドウォッチだったが、戦闘の余波で不安定になっている空間に発生した亀裂から、ウォズの手の中へと落ちてくる】

 

 大きな力が暴れ尽くし、歪んだ空間。

 ましてこの世界はそもそもの有り様事態が不安定だったものだ。

 この程度の無理を差し込める程度には、安定を欠いている。

 

 彼は未来に導かれるままに足を止めた。

 

 そうして、白ウォズは掌を空へと大きく差し出す。

 するとその直上の空間が歪み、一つのウォッチが吐き出された。

 通常のライドウォッチとは形状が異なるが、確かにライドウォッチ。

 彼は不敵に口角を吊り上げ、危うげなくそれを掴み取り―――

 

「まったくだ。労せず、面白い力を手に入れられた」

 

 瞬間、ガチリと。

 時間の流れという概念が、空間ごと凍り付いた。

 

「―――――!」

 

 白ウォズの示した反応は、言葉を発せないが故に絶句。

 既に未来ノートによって導かれた未来。その先で時間が一切停止する。

 

 確かに彼の決定通り、ギンガのウォッチは白ウォズの手に落ちた。

 だがそれ以降の未来はいまだに不確定。

 このウォッチのこれからは決まってなどいない、と。

 

 男は白ウォズの背後から突然現れて、ゆるりと彼の横をすり抜ける。

 当然のように、白ウォズの手の中のウォッチを掴み取った上で。

 時の止まった白ウォズから難なく、楽しげに。

 

 スウォルツは、ギンガのライドウォッチを持って行った。

 

 ふい、と雑に振るわれるスウォルツの指。

 拘束が弾け飛んだ事で、自由を取り戻す時間。

 何事も無かったかのように、足を止めていた時間が歩き出す。

 

 そうして時間が動き出したと同時。

 白ウォズは、既にビヨンドライバーを装着していた。

 

「―――いけないな、スウォルツ氏。人の物を勝手に持って行っては……!」

 

〈キカイ!〉

 

 即座に起動されるキカイのウォッチ。

 ウォッチを握った白ウォズの手が流れるように動作する。

 ドライバーにウォッチを装着。開始される変身シーケンス。

 周囲に展開されるライトグリーンの光と、形成されていく金色の鎧。

 

「変身!」

 

〈フューチャーリングキカイ! キカイ!〉

 

 ドライバーのハンドルを中央へ叩き付けると同時。

 彼の姿は展開された鎧を身に纏う。

 現れるのはライトグリーンとシルバーの装甲、その上にゴールドを鎧った戦士。

 仮面ライダーウォズ・フューチャーリングキカイに他ならない。

 

〈ビヨンドザタイム! フルメタルブレーク!!〉

 

 ライダーウォズがすかさず、再度ドライバーを操作する。

 展開される肩部ユニット、キカイショルダー。

 先端にフックが付いた、長大なるチェーン。

 そのフックの照準として定められるのは当然、スウォルツ。

 

 自身に迫りくる金色のフックを流し見つつ。

 彼はおかしげに手の中でギンガのウォッチを弄び―――

 そのスターターに指をかけ、力を込めた。

 

「だが力とは、持つべき者の元に自然ともたらされるものだ。

 その存在が大きければ大きいほど、その力が強ければ強いほど。

 力自身が認める、相応しき所有者の元へと向かう引力もまた強い。

 こうして今、俺がこの力を手にした事こそが……」

 

〈ギンガ!〉

 

「ッ!?」

 

 起動され、発光するウォッチ。

 その光は瞬く間にスウォルツを包み込み、彼の腰に一つのガジェットを出現させた。

 それがギンガの身に着けていたベルトだということは疑いなく。

 彼の手が出現したそれ―――ギンガドライバーの中央へと手を添えた。

 

 ギンガドライバーの中央ユニット、ギンガスコープ。

 そこに表示されている惑星、地球。

 その星ごと掴むように、彼は強くドライバーを握り締める。

 

「この力が示した、答えだ―――変身!」

 

〈ギンギンギラギラギャラクシー! 宇宙の彼方のファンタジー!〉

 

 吊り上がったスウォルツの口端。そんな表情を覆い隠していく黒い仮面。

 星を散りばめた輝く紫紺の鎧。

 未知よりの来訪者であることを感じさせる、円盤型の飛行物体の造形を持つ頭部。

 渦巻くピュアパワーに覆われて、スウォルツは確かにその姿に変わった。

 

〈仮面ライダーギンガ!〉

 

 虚空を指が走る。その指先が引きずる力の軌跡。

 それは迫りくるアンカーフックへと向けられて―――

 触れた瞬間、フューチャーリングキカイの放ったフックは見当違いの方向に逸れていた。

 

「ふっ……悪くない。そうは思わないか、白ウォズ?」

 

「チィ……ッ!」

 

 即座に反応し、ライダーウォズが鎖を引き戻す。

 が、それを察知していたギンガが動く。

 逸れて彼方へと飛んで行ったフックが、今度はギンガの手元に向け飛んでくる。

 自身に引き寄せたそれを掴み取り、彼は僅かに首を回した。

 

「ああ、悪くない。悪くない―――が、足りない。まるで足りん。

 この程度の力では、まだ奴を完全に超えたとは言い難い」

 

「奴……!?」

 

 喜悦の声に僅かに苛立ちを滲ませつつ、スウォルツはフックをより強く握り締める。

 

 今にも引きずり寄せられそうな圧倒的なパワー。

 それに対応するべく、白ウォズが自身の肩から伸びたチェーンを手でも掴む。

 そのまま力任せに引き戻そうとしてしかし、ギンガと力が拮抗した。

 膂力が遙かに増しているフューチャーリングキカイを制し、ギンガは仮面の下で失笑する。

 

「安心するがいい。俺の目的を果たすため、お前を此処で殺すような真似はしない。

 オーマジオウに匹敵する救世主とやらを見せてくれるのだろう? ならば今ばかりは、お前のことも常磐ソウゴのことも黒ウォズのことも、邪魔するようなことはしないとも。

 貴様の造る救世主とやらが期待外れではないことを愉しみにしているぞ」

 

 拮抗していた綱引き。

 それが一息に崩されて、ライダーウォズがギンガへと引き寄せられる。

 すぐさま体勢を立て直そうとするライダーウォズ。

 

 ―――その動きを待たず、ギンガが舞う。

 収束するピュアパワー。

 それを拳一つに全て載せ、彼は軽く腕を振り上げた。

 

「っ!?」

 

 ゆったりとした動作で突き出される拳が、空中のライダーウォズを捉える。

 振り抜いた速度からは考えられぬほどの威力を伴った一撃。

 撫でるように掠めるだけの拳撃を受け―――瞬時に限界を迎える金と銀の鎧。

 

「が、……ッ!?」

 

 盾となったキカイの鎧を消滅させながら、空中できりもみするライダーウォズ。

 銀色の戦士が地面に落ちて転がっていく姿を見届けて。

 ギンガはゆるりと、両腕を大きく横に広げた。

 

「では、今回はここまでだ。さらばだ、白ウォズ」

 

 紫紺の光がギンガを包む球体に変わる。

 彼はそのまま紫の星として、空へと昇っていく。

 

 やがて次元の壁すら突き破り消えていくその姿。

 紫色の光の軌跡を見上げ、白ウォズが握った拳で地面を叩いた。

 

「―――やってくれるじゃないか、スウォルツ氏……!

 だが何をしようがオーマの日に選ばれるのは我が救世主……!

 次の時代に残るべき存在は、私だ……!!」

 

 

 

 

「――――かくして。

 ゴーストの歴史を継承した我が魔王は、次の特異点へ向けて動き出す」

 

 “逢魔降臨暦”を手に、黒ウォズは暗闇の中を歩く。

 彼の後ろに浮かぶ大時計の針は動き続けている。

 

 ―――その大時計に、どかりと乱暴に寄り掛かる仮面ライダー。

 マゼンタを基調としたカラーリングの戦士。

 仮面ライダーディケイド。

 

 その姿の方へと視線を向けて、黒ウォズが足を止める。

 

「本来想定されていた彼らの冒険譚、その最後。

 七つ目の特異点、ウルクで待ち受けているのは―――仮面ライダーディケイド、門矢士。

 既に彼のウォッチは手に入れている以上、彼自身に用があるわけではありませんが」

 

 そう言って本を閉じようとした黒ウォズの前。

 空間から染み出すように、紫紺の光を伴った存在の姿が浮かび上がってくる。

 仮面ライダーギンガの姿が、ディケイドの正面に現れた。

 

 向き合う二人の戦士の姿を見て、強く眉を顰める黒ウォズ。

 

「……やれやれ。どうやら彼らもまた、無視できない存在として関わってくるようだ。

 まあ、いいでしょう」

 

 彼はそのまま本を閉じ、脇へと抱え。

 代わりに懐から一つのウォッチを取り出した。

 

 銀色のベゼル。

 上ではなく横についた大きなリューズ。

 ジオウの顔が描かれたそのウォッチを握り、彼は笑みを深くする。

 

「我が魔王の覇道は着実に進みつつある。

 門矢士だろうと、スウォルツだろうと、救世主とやらだろうと、神魔の類であっても。

 如何に他の連中が策を弄そうと、その歩みは止めることなどできないのだから」

 

 そう言うと彼は懐にウォッチをしまう。

 そのまま踵を返して、大時計から遠ざかって闇の中へ消えていった。

 

 

 

 




 
まあバビロニアで新ウォッチなんて出ないんですけどね。

特異点G 全55話でGO!GO!ゴースト!というわけで。
まあ55話にしようとして終盤は文字数考えず無理に1話にしてるわけですが。
このくらいなら全40話くらいで終わるやろ!とか思ってたのに不思議だなぁ。
 
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