Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
ザン、と。
シミュレーターで再現された地面に、聖剣の切っ先が沈む。
その剣の持ち主が浮かべるのは、いっそ朗らかにさえ見える微笑み。
目の前でダウンした相手を眺めながら、彼は口を開く。
「では、此度の特異点に同行する役目は私が。
あなたはあなたのすべき事を。ああ、それと……我らが帰還した際に、あなたが反旗を翻してカルデアが内部から崩壊していた、などという事はないように」
「く、っそ……! 誰がするか、馬鹿……!
言っとくけどな、次やったら勝つのはオレだ……!」
「よろしい。では世界を救った暁には、是非とももう一戦するとしましょう」
「ったりめーだ、太陽ゴリラ! 首洗って待っとけ!
特異点で死んで帰ってこなかったらテメェの不戦敗だかんな!」
太陽の熱にやられたモードレッドの負け惜しみ。
それに対して彼は鷹揚に頷き、正面から笑い返した。
展開していたバトルフィールドが消えていく。
戻ってきた硬質の床を殴りつつ、モードレッドは呻きながら転がった。
そんな姿を苦笑して流し、彼は踵を返して退室する。
彼が退室した先で待っていたのは、オルガマリーとツクヨミ。
「―――と、いうわけです。レディ・アニムスフィア。
あなたの第一案通り、マスターのサーヴァントの内一騎はこの私……ガウェインが」
「ええ、そうね……」
先程までの戦闘を見ていた為に呆れたように。
軽く額を押さえながら、オルガマリーが長く息を吐く。
言った彼は剣を納めて、ツクヨミの前に跪いた。
その姿は、白銀の鎧に身を包んだ金髪の美丈夫。
第六特異点キャメロットにおいて、終始最強無敵の門番として立ちはだかった男。
キャメロットの円卓に席を並べる太陽の騎士、サー・ガウェイン。
ツクヨミの召喚に応えたのは、誰あろう彼であった。
その結果として、オルガマリーが出した指示。
最後の特異点のレイシフトにツクヨミが連れていくべきは、フィンとガウェイン。
それを聞いたモードレッドは即座にガウェインへと突っかかりこうなった、というわけだ。
まだ扉の閉じたシミュレータールームで騒いでるらしいモードレッド。
そちらにちらりと視線を向け、ツクヨミが困ったように首を横に倒した。
「モードレッドは大丈夫なのかしら……」
「お気になさらず、ちょっとした癇癪でしょう。恐らく、不利をおしてなお私に突っかからねばならぬ、と思うくらいにはマスターの事が気に入っているのです」
頭を上げながらそう言って笑うガウェイン。
「―――霊基再臨、でしたか。モードレッドもそれを行って万全に整えていれば、相手が私であろうとまだしも勝ち目があったでしょうが……
ですが、聞く所によるとそれは、今まであなた方が倒したセイバーのサーヴァントの残滓を使うのでしょう? つまり、獅子王の騎士だったモードレッドを含む我々の残骸を。
騎士王の騎士として容認できない、というあれの気持ちを理解はできます。あれはあれでかなりアレですが、騎士としての矜持はそれなりに持ち合わせている手合いですので。
まあ叛逆の騎士として、ですので一切共感はできませんが」
そこまで語り、今度は忠誠を示すためでなく謝罪のために頭を下げる太陽の騎士。
「主の戦いのために矜持を曲げられぬ同輩の無礼に謝罪を。
代わりに我が聖剣の放つ太陽の輝きが、あなた方の道を切り拓く事を誓いましょう」
これは間違いなくモードレッドの我儘である、と。
そしてそれに関する叱責があるとするならば、己もまたそれを受けると。
彼はそう言って首を垂れて、ツクヨミの言葉を待つ。
何となく不思議な気がしたので、彼に向けて問いかける。
「……思ったよりも仲がいいのね? 兄妹だから、なのかしら」
円卓の騎士が王に捧げる忠誠は身に染みている。
だというのに、王の滅びに大きく加担したモードレッドにこの態度。
それは兄妹だからなのだろうか、と。
「いいえ? さほど仲は良くないでしょう。兄妹だと意識しているつもりもありません。
ですが……いえ、まあ、あれの行為に憎しみがあるわけでもありませんので。
我らの間に横たわっていたのはただ、立場の違いだけです。
アグラヴェインであればまた違う感想もありましょうが、少なくとも私は」
初めて彼が僅かに表情を崩し、誤魔化すように口ごもる。
そんな姿を前にして、ツクヨミがすぐに謝罪を口にした。
「ごめんなさい。訊いてはいけない事を訊いてしまった、のよね」
「いえ、まったく。
女性の前で口汚い言葉を使わないように、少々言葉を選ぶ必要があっただけですので。
何より私のような性質の人間でなければ、あなた方の前に立つこともできないでしょう。
私は既に獅子王の騎士として、剣を振るっていた者なのですから。
トリスタンなどは特に、合わせる顔が無いと言って姿を見せられないタイプです」
きっぱりとそう言い切って、彼は顔に再び微笑みを浮かべる。
そんな彼の様子に、オルガマリーとツクヨミが顔を見合わせた。
「ええと、そうね……まあ、仲間割れなどをしなければ何の問題もないわ。
シミュレータールームで戦う程度で済むなら幸いよ」
「それは勿論。
必要であれば斬り捨てますが、こちらから諍いを起こすような事はけして。
どうあれ、まずは私こそがあなた方からの信頼を得るべく力を尽くしましょう。
獅子王の騎士として牙を剥いた私と、マスターの騎士として尽力したモードレッド。
少なくとも現時点では私の方がよほど信の置けない存在でしょうから」
そこまで語り、ガウェインはツクヨミに侍る。
改めて彼女たちは顔を見合わせて、肩を竦め合った。
そのまま次の目的を果たすべく、そこから歩き出し―――
「おや、魔術師殿。そちらは決着がついたのですかな」
アタランテと並び、髑髏の仮面を顔に張り付けた黒い影が現れた。
「ええ。そちらも案内は……」
「終わらせたとも。
ただ、ああいうタイプの面倒ごとはサーヴァントの仕事ではないぞ、マスター」
辟易した様子で息を吐くアタランテ。
彼女の背後で、仮面で分からないまでも苦笑するような様子の男―――
アサシンのサーヴァント、魔人の腕を持つハサン・サッバーハ。
ウルクにレイシフトするオルガマリーのサーヴァントはこの両名。
つまりは、ジャンヌ・ダルク・オルタは留守番であり、そういうことだ。
「新参者がここぞ、という戦場に送られては、古参として付き従ってきた者が面白くないと思うのは仕方ありますまい。働きで何とか認めて頂くしかありませんな」
「奴はもっと子供のような倫理で動いている気がするがな。子供ほど可愛らしくはないが」
仕方ないと笑うハサンに、アタランテは鼻を鳴らす。
一つ溜息を落としつつ、オルガマリーも軽く天井を仰いだ。
「まったく、仕方ないでしょうに。やっと得られた“目”なんだから」
「それは我らとの戦いの一つ前、の事ですか?」
既にある程度今までの戦いを聞いていたガウェインが問う。
オルガマリーが小さく目を細め、しかし渋々としながら頷いた。
周囲の情報索敵は基本、カルデア側の探査に頼ってきた。
だがそれだけでは緊急時には足りないのだ。
それを身をもって知らされたのが、第五特異点における開幕だったと言える。
「……周囲の索敵を任せられるサーヴァントは必要だもの。
何なら完全にそれ専門でも、常に一人以上同行させるべき存在よ」
「なるほど。それが山の翁ほどの存在であれば、適任と言う他ないかと。
前に出て剣となり盾となる事は、我らに任せればよろしい」
「ふむ、聖都における最強の剣にして盾であった太陽の騎士の言葉となれば。
こちらも頼りにさせて頂くとしよう」
幾分か声を低くしつつ、ハサンはそう言って一つ頷いた。
彼に顔を向けたガウェインは、不敵に笑う。
「存分に頼りにして頂きたい。
信を置けるかどうかは、その仕事を果たせるかどうかで見定めて頂ければ」
「今の我らはカルデアのサーヴァント。
同じ主を戴き肩を並べている内は、その心情を疑うような真似はしないとも」
「―――それでどうするんだ、マスター。
レイシフトも今すぐというわけではないのだろう。我らは待機でいいのか?」
顔を合わせている騎士と暗殺者から目を逸らし、アタランテはそう問うた。
「……そうね。順調に行って―――明日の朝。
最後のレイシフトを開始する事になるでしょう。
それまであなたたちは、体を休めて調子を整えておいてちょうだい」
「やれやれ。まるで他人事だが、人間に戻った汝も休むべきだろうに。
まぁ、承った。魔力を浪費しない程度の行動に抑えるさ」
マスターの返答に肩を竦め、アタランテは踵を返す。
その背中を溜息交じりに見送り、オルガマリーは他の連中に向き直った。
「あなた達もよ。これ以上魔力の消費は抑えるように」
「承知しました、問題は起こさないよう努力しましょう。
アタランテ殿の言うように魔術師殿に休息をとって頂くためにも」
「さて。そう言われると既にマスターに無駄な負担をかけた我ら円卓二人は心苦しい。
マスター、何かやるべきことがあればこのガウェインが。
料理から借金の取り立てまで、万事恙なくこなしてみせましょう」
「料理はまだしも、何で借金の取り立て……?」
笑いながらそんな事をのたまい、命令を待つガウェイン。
そんな彼の様子に、困惑するようにツクヨミは首を傾げた。
「うん、調子は……一応は問題なさそうだ。本人の自覚としてはどうだい?」
「はい。特段、問題と思える状態はありません」
夢に見た光景。
魔術王の呪いか何かのような悪夢。
その事に関して口にする気にはならず、彼女はただそう返した。
彼女のマスターである立香は、呪いとして巌窟王という使者を送られた。
監獄塔という地獄に押し込まれ、その命運を問われたのだ。
だというのにマシュへの呪いは、ただ一つの問答だけ残して消えた。
夢の中で覚えた感情に僅か、戸惑う。
カルテを見ながら苦笑するロマニ。
困ったような、いつも通りのDr.ロマニの笑みだ。
気の抜けるその顔を前にして、ついマシュは口を開いていた。
「その、ドクター。一つ質問をしていいでしょうか」
「うん? もちろん、ボクに答えられることなら。
あ、この前の和菓子かい? あれはフォウに荒らされないように別の場所に―――」
「フォウ!」
その言葉に医務室をうろちょろしていたフォウが振り返る。
ムッとしながら襲い掛かってくる白い毛玉。
足に体当たりを食らいながら、彼はそれでも屈しない。
そんな光景をスルーしつつ、マシュはロマニへと問いかける。
「いえ。そうではなく……ドクターは人の命の、人の生きる意味は、何だと思いますか?
主観的に見出すものではなく、客観的に見た場合といいますか……」
マシュの問いに、ロマニは少しだけ驚いて。
しかしすぐにその色を消して、小難しい顔で眉を顰めた。
「命の意味。生きる意味か……うーん、難しい話を持ち出すなぁ。主観的な命の意味にさえ無頓着気味だったマシュが、そんな事を言い出してくれたという成長をまず喜ぶべきだろうか?」
「ドクター」
むっとして少し声がとがる。
彼はすぐに降参の意を示すように両手を上げて、しかし笑い声は引っ込めなかった。
「ははは。いや、でもそんなものだと思うよ?
子供の成長を自分の人生の意味だと認識して生きている親もいるに違いない。
逆に、自分の意味なんか生まれてこの方考えずに生きている人だっているだろう。
その内の誰が間違っていて、誰が合っているなんてそんな話はないんだ。
でもそれは、それぞれ今を生きている人間の主観的な話。客観的に見て、ということは……それを高いところから眺めている神様なんかの視点、という話になるのかな」
「神様の視点、ですか」
「うん。それに限らず、どんな波乱万丈な人生を過ごした誰かの人生だって、関わりもしない誰かから見たら、基本的には自分にとっては無意味だし無価値だろう?
神様なんかが見たっていうならなさおらだ。神様は人間を戒めるためのものだし―――他にも王様なんかは、人間を整理するためのものだからね」
そう言って、彼はまた苦笑する。
少しだけ、マシュが眉を顰めた。
神が人生に意味も価値も見出さない、というのはまだ理解できる。
女神となった獅子王は人の価値だけを認め、人生などというものは余分だと断じていた。
価値あるものを損なわせる劣化なのだ、と。
そういった神の視点があるというのは、確かに直面した事態だった。
けれど、彼女が見てきた王様は―――
「ドクター、それは違います。王様はあくまで人の中で立った者です。
今まで多くの王様をわたしは見てきましたが……
王様というのは、人の望みの在り方のひとつ、だったはずです」
破滅に向かって突き進んでいた狂王クー・フーリンでさえ。
それは人の望みから立ち上がったものだった。
完璧な王を目指し、何を利用することも厭わなかったイアソンでさえ。
人としての自分の心を、友と船に残していた。
王とは人とは掛け離れた超然とした意識を持たねばならない存在なのかもしれない。
けれど、始まりは人と変わらぬものであったはずだ。
マシュが断言するその言葉。
それを聞いたロマニはゆっくりと瞑目し―――
やがて、少し嬉しそうに目を開く。
「そうだね、ちょっと飛躍しすぎたようだ。
そしてそれが分かっているキミだから、後は自分で決めればいい。
だって元々、生まれてくる人間の命に意味なんてないんだから」
「―――――」
微笑みながら、ロマニは人の命に意味は無いと断じる。
「あらかじめ決められていない、という事は自分で決められるという事だ。
意味が欲しければ、自分で自分に定義したっていい。
例えば“全ての人を救う王様になることこそが自分の意味”、だってボクはいいと思う」
人間には最初から空白が残されている。
そこに何を入れるかは、本人の自由だからこそ。
「道中で自分で決めなくても、最後に振り返った時にふと理解するかもしれない。
“ああ、自分という人間にはこんな意味があったんだ”、とね。
そうでなくとも、後からその人の人生の足跡を辿った誰かに、付けてもらえるかもしれない。
“この人はこんな人生を歩み、こんなものを遺していったんだ”、と」
何て輝かしいのだ、と誰かは思った。
その輝かしさは、最初から機能が詰め込まれていた誰かには芽生えない。
「神様の客観性に頼れないなら、後から続く他の誰かの客観性に頼ればいい。
人が歩んだ足跡は、そこかしこに残っている。
多くの者が駆け抜けて、燃え尽きて、灰になって積み重なった今までが、時代になった」
神様は最初から機能が決まっている。
人のような空白は持っていない。
ヘラクレスにイアソンが抱いたような、憧憬なんて感情は生まれない。
だから、神様が人間に憧れたのなら、それは致命的なエラー以外にありえない。
星から降りてオリオンを追ったアルテミスのように。
「その灰を踏み締めて、次の誰かがどこかへと歩んでいく。
残された足跡はまた積み重なる灰に埋もれて、そしてまた新たな足跡を残す」
誰かは使命を完遂し、眠りについた。
アルテミスのようなエラーなぞ起こす筈がなかったから。
だから、きっとふと気になっただけなのだ。
使命も何も終えた後、動く理由が無くなった後に。
後は消えて、また眠るだけというそんな何もない稼働時間の間隙に。
ふと手元に
「―――人間とは、そうやって
だからこそ、勘違いしてはいけない。
どんな在り方を選ぶにしろ、守らなければならない事が一つだけある」
「守らなければならないこと……」
ふと、いつか聞いた音楽家の人生観―――音楽性が蘇る。
なぜだろうか。
確かにきっと人間として、重要な生き方だからこそ被るものもあるのだ。
けれど、それ以上に、何か。
「神様には生み出された意味がある。存在する価値がある。
与えられた機能を果たすという使命は、果たされなければならないものだ。
けど、人間に最初はそんなものはないんだ。生み出された意味も、存在する価値も。
全ては後から与えられるものだ。後から望めば、得られるものだ。
だから、自分の意味を果たすためだけに生きてはいけない。
そんな事をしなくとも、自ずと意味を見出せるのが人間という命なんだから。
意味に縛られた生き方は――――神様の在り方、だからね」
人間として生きるために神様としての機能は捨てたのだ、と。
まるで、そう言われているようで。
彼に体当たりしていたフォウが飛び跳ね、ふてくされるようにベッドに転がる。
そこで微かに彼は目を細めて、言葉を打ち切った。
「っと、まあボクに語れるのはこんなところかな?
どうだろう、少しはマシュの学習に貢献できたなら幸いだけど」
「―――はい。ありがとうございます、Dr.ロマン」
立ち上がり、頭を下げる。
そのタイミングでベッドのフォウが跳ね、マシュの頭の上に乗った。
そっか、と微笑みロマニが書類を整理しだす。
「……恐らく明日、最後の特異点へのレイシフトが始まるだろう。
今日はもう休んでおいで、マシュ。キミがキミの戦いをするために」
「……はい。マシュ・キリエライト、レイシフトに備えて待機します」
彼女が背を向け、医務室を退室していく。
ロマニ・アーキマンはすぐさまこちらを片付け、管制室に顔を出さねばならない。
最後のレイシフト、紀元前のメソポタミアにおける実在証明の調整。
それは今までのレイシフトとは比較にならない難易度だからだ。
ダ・ヴィンチちゃんも当然、今度はこちら側で手伝ってもらう必要がある。
白い手袋に包まれた両手を、その指を絡ませて。
手袋越しに感じる微かな感触に、目を細める。
そうしたまま僅かに指で自身の頬をなぞり―――苦笑した。
「まったく、やれやれだ。なんだかな、相手が本物の魔術王ソロモンだったらどうしよう、なんて。ずっと頭を悩ませていたくせにね。
そっか。過去に存在した王様を、現在を生きる王様が超えてくれるなら―――それはきっと、真実、遂に最後まで役割が果たされたってことで……ああ、もしかして。だからダビデ王は」
ロマニが目を瞑る。十秒に満たない沈黙。
まったくもう、と。
最後にそうやって呟いて、彼は再び立ち上がる。
もう先程までの顔色は浮かんでいない。
いつも通りのロマニ・アーキマンは、すぐに管制室に向かって歩き出した。
「納得いきません!」
「私に言われても知らん」
「先生は相談しやすそうな感じあるから」
今回の藤丸立香のサーヴァントとして決定した諸葛孔明、ロード・エルメロイ二世。
そんな彼に突っかかるのはのたくう蛇少女、清姫。
他人事全開で茶々を入れるアレキサンダーを小さく睨み、彼は溜息を一つ。
立香のサーヴァントは彼と、ドレイク。
ソウゴのサーヴァントはクー・フーリン及びネロ。
オルガマリーのサーヴァントはアタランテ、呪腕のハサン。
ツクヨミのサーヴァントはフィン、ガウェイン。
これが今回の編成となる。
二世自身も正直、自分を使うか? という気分であるが。
レイシフト先の土地柄上、船持ちのドレイクは当確。
後はブーディカでもいいと思っていたのだが。
どっちにしろ清姫は外れてしまうが、仕方ない。
戦闘、移動、偵察。
近距離戦、遠距離戦、水上戦。
それらの総合的判断からオルガマリーが決定したのがこのメンバーだ。
二世とて別にその内容に文句はない。
自分が選ばれたのは、真っ当な魔術師がいなすぎる問題だろう。後は、ソウゴはまず間違いなく前線に出るので、サーヴァントの方に後衛を求めたというのもあるか。
そこでバン、と。
積み上げた本を叩いて、ジャンヌ・オルタがこちらを振り返る。
「……ったく、うっさいわね。少しは静かにできないの?」
「君も割とついさっきまでこんな感じだったけど」
アレキサンダーからの茶々を全力で無視して、彼女は清姫を見る。
「今回選ばれなかっただけでしょ?
だったら次のために、何かしようとか思わないわけ?」
「次?」
腕を組み、ふんぞり返るオルタ。
彼女の言葉に対し、清姫は小さく首を傾げた。
「そーよ。あの性格悪そうな魔術王とかいう奴が、ここまで解決したら敵として見てやる、とかほざいたんでしょ? だったら本番は次でしょ。そこが最高の大一番、ってわけ」
「確かに……それで、あなたは何をなさっているんですか。
それ、独逸語辞典?」
「別にいいでしょ! なに勉強してようと!」
合体攻撃の名前の候補を幾つか書いたノートが閉じられる。
黒き竜の炎、太陽の騎士ガウェインすらも一時的に跳ね除けた力の奔流。
そんな一撃の名前を考えつつ、彼女は覗き込もうとしてくる清姫の頭を押し返した。
なんてことをやっている少女たちを見て、エルメロイ二世は深々と息を吐いた。
「さて、つけてみてくれ」
「おー、赤いマフラー。なんとなくライダーっぽい?」
ダ・ヴィンチちゃんから赤いマフラーが差し出される。
受け取ったソウゴは、それをちゃちゃっと自分の口を隠すように首に巻いた。
彼の感想を聞いたダ・ヴィンチちゃんが首を傾げてみせる。
「うん? えーと、ダブルだったかな。
それ以外にマフラーをつけてるライダーがいたのかい?」
「どうだろ。なんとなく?」
「ははは、ソウゴ君はたまに話にならない話を持ち出すなぁ。
さて。それはさておき、これを身につけておけば、神代の空気にも順応できるはずだ。
なので、基本的に絶対に手放さないように」
彼に続いて立香にツクヨミ、オルガマリーもマフラーを身に着ける。
少ないリソースの中でそれでも茶目っ気を出そうとしたのか、それぞれの色が違っている。
ソウゴは赤。立香は橙。ツクヨミは白。オルガマリーは銀。
ソウゴと立香、ツクヨミとオルガマリーと。
何か遠いとは言い切れない色の被り方を見て、ツクヨミは微妙な顔をした。
「……色を変えるならもっと違う色にすればよかったんじゃ?」
「私の美的センスが本人に合わない色を渡す事を絶対に認めないのさ。天才だからね」
彼女がそう言って胸を張る。
そんな自信満々な彼女に向けて、立香が顔を向けた。
自分の首に巻かれたマフラーの先端を掴み、ぷらぷらと揺らしながら―――
「黒ウォズのあれみたいに凄い伸びたりは?」
「しないよ」
「黒ウォズのあれみたいにぐるんぐるん回してワープしたりは?」
「しないよ。
いい加減にしないと、カルデアの資産を食い潰してでも本当に再現してやるぞーぅ」
「やめなさい、馬鹿。この四本だけでほんとギリギリだったのに」
天才を馬鹿呼ばわりしつつたしなめて、オルガマリーが頬を引きつらせる。
流石にカルデアを枯渇させるとは思っていない。
が、本当に挑戦しかねないと同時に思わざるを得ないのがこの天才だ。
そんなやり取りを少し羨ましそうに眺めていたマシュ。
残念ながら、デミ・サーヴァントである彼女にマフラーを作る分はなかった。
魔力リソースの問題なので、流石に如何ともしがたい。
ロマニが、その場で咳払いを一つ。
「―――さて。歓談を妨げて申し訳ないが、そろそろ本題に入ろう。
今回特定された年代は、古代メソポタミア文明の紀元前2600年頃、初期王朝時代。
魔術的な視点で言えば、人と神が袂を分かった最初の時代とされている。ここを決定的な決別として神霊は地上から薄れていき、西暦を迎えた時点でほぼ完全に消失した」
「西暦以降も存在を継続した神霊として特例とできるものは幾つか浮かぶけれど、この時代が神代の終わりの始まりである事は決定的だね」
「ま、その時代だわなぁ」
「そうなるでしょうな」
面倒そうに溜息を吐くクー・フーリン。
なぜかそこに同意し、同じように重い息を吐くハサン。
彼に同意されたランサーは微妙な顔をして、片目を瞑って肩を竦めた。
「時代を遡れば遡るほどに、人類史というものは不確定になる。
神代とは不確定性の時代だ、なんてのたまう学派もあるくらいさ。
けど、それもまた当然と言えるかもしれない。
なにせ、“歴史がまだ人ではなく神のものであった時代”なんだからね。
そんな時代を人類史として定義するのは、非常に難しいということなんだろう」
「で、あるが。それでも人は時代を紡ぎ、歴史と文化を重ねたのだ。
ならばその重みこそが、神代でさえも人類史に繋がるものとして定義してくれよう」
純白のドレスを翻し、ネロがそう語る。
彼女の言葉に同意するように頷くダ・ヴィンチちゃん。
「そうだとも。カルデアスタッフの努力のもと、第七特異点の座標は割り出された。
今回の観測は最高難易度だが、私もこっちに詰めるから安心してくれていい」
「―――レイシフト先は当時の文明都市の中心、ウルク。
聖杯の位置は不明だが、特異点が生じている以上メソポタミアのどこかにはあるはずだ。
今回もきっと一筋縄ではいかない冒険になるだろうが……キミたちなら、きっと何の問題もないだろう。では……っと!
では、ここからは陣頭指揮に立つオルガマリー所長に一言をお願いしようか」
「……必要な情報を語ってから私に回す?」
いきなり水を向けられたオルガマリーが、細めた目でロマニを睨む。
だが彼を睨んでもしょうがないと、彼女は前に出た。
そうした彼女が一息ついてから、声を張る。
「まあ、何てことないわ。いつも通り、前より大変な戦場になるということよ。
いい加減慣れてきたでしょう。甘く見て楽だったことなんて一度もないもの。
アメリカ、エルサレム、日本。あれより面倒で大変な戦いが待っていると思いなさい。
けどわたしたちの聖杯探索はこれで最後よ。後一回、全力でやり遂げるわよ」
「はーい」
いつも通りの遠足の引率か、というような雰囲気。
気の抜ける態度にいつも通り、かくんと頭を落とすオルガマリー。
そんな彼女に対し、サーヴァントから贈られる言葉。
「士気も高い、良い鼓舞ですな魔術師殿」
「……馬鹿にされてる風にしか聞こえないわ」
「そのような事はないのですが……」
ジト目でハサンを睨むオルガマリー。
そう返された彼は困惑しつつ、しかしとりあえず黙り込んだ。
いつも通りに弛緩した空気の中、ロマニが声を上げる。
「―――では、コフィンに搭乗してくれ。
カルデアの総力をあげて、キミたちを紀元前へと送り届ける!」
俄かに騒がしくなる管制室。
加速していく状況。
最後の戦いを前にして、弛緩していた空気が熱を持って行く。
レイシフトする全ての人員がクラインコフィンに搭乗。
それを確認したスタッフが上に下にと状況の変化を伝達していく。
起動されたプログラムが、モニターの中で一気に流れ出す。
『アンサモンプログラム スタート。
霊子変換を開始 します。
レイシフト開始まで あと3、2、1……全行程
第七グランドオーダー 実証を 開始 します』
そうして、最後の特異点。
―――人理焼却によって発生した第七の特異点。
魔獣蔓延る、いずれバビロニアと呼ばれる地へと彼らは送られた。
冬木、フランス、ローマ、チェイテハロウィン本能寺、オケアノス、
ロンドン、アメリカ、エルサレム、ゴーストの世界
九つの世界を巡りその瞳は何たらかんたら