Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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神代-2655

 

 

 

「何か早速今までにない感じぃ――――」

 

 天空から地上を目掛け、墜ちる人影の群れ。

 二百メートル以上はあるだろうか。

 なんと地上の遠い事か。

 

 レイシフト直後に空中に投げ出され、この始末。

 ぼやくソウゴの近くを落ちながら、ランサーが肩を竦めた。

 

「いきなり空中はちと面倒だな、拾い集める都合上」

 

「それじゃ俺が足場になるしかないか」

 

〈ジオウ!〉〈ディ・ディ・ディ・ディケイド!〉

 

 くるりと空中で姿勢を整えて、起動したウォッチをジクウドライバーに装填する。

 左右両側にウォッチを付けたドライバーを腰に押し付け、ソウゴは腕をゆるりと揮う。

 

「変身!」

 

〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム! カメンライド! ディケイド!!〉

〈ファイナルフォームタイム! ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!〉

 

 十の影を重ねて組み上げられるマゼンタの鎧。

 アーマーに覆われたジオウの腕が、更にもう一つのウォッチを起動していた。

 ディケイドウォッチに追加で装填されるそれはウィザードの力。

 

 彼のアーマーは即座に、赤いローブを纏った魔法使いのものへと変わった。

 両の腕には竜の爪、背には竜の翼、腰から竜の尾を伸びる。

 

 ばさりと一つ羽ばたいて、ジオウはすぐさま竜尾を振るう。

 エクステンドの魔法により伸長し、本来より遥かに伸びる黄金の竜尾。

 それが周囲でとぐろを巻き、皆の足元にまで伸び巡っていく。

 

 真っ先にそこにクー・フーリンが足をつけ、援けが必要そうな連中の元まで走る。

 サーヴァントなどはあっさりと器用に着地。

 オルガマリーをアタランテが引き寄せ。

 ツクヨミがフィンに導かれ。

 立香とマシュと、ついでにエルメロイ二世が、クー・フーリンに引っ張られた。

 

「ゆっくり降りるよー」

 

 重力制御もこなしつつ、オールドラゴンが舞い降りる。

 突然の落下も快適な遊覧飛行に変えつつ、彼らは遂に最後の特異点―――

 メソポタミアの地へと降り立った。

 

 

 

 

「で、何か言う事はあるかしら。ロマニ?」

 

「フォウフォフォウ」

 

『ええと、ご無事で何より……というのは』

 

「それはどうも。で?」

 

 呆れるように溜息ひとつ。

 頭にフォウを乗せながら、オルガマリーが映像として投影されたロマニを眺める。

 彼の手元は忙しく動いており、今の原因を精査しているようだ。

 

『……レイシフト自体は成功しました。その時代の最大都市、ウルク。

 その中へと直接レイシフトするよう設定し、間違いなく』

 

 やがて情報が整ったのが、口を開くロマニ。

 データから見て、確かに予定通りのレイシフトは成功したのだ、と。

 その答えにツクヨミが小首を傾げた。

 

「成功したのに空中に?」

 

『恐らくは、なのだけど。成功したから空中に、なのだと思う。

 つまりは、都市ウルクには転移を阻害する結界が存在していて、それが原因でキミたちが弾き飛ばされたのだ、と考えている』

 

『はいはーい、今裏がとれた。ウルク市には防御結界があるようだ。

 市内に直接転移は不可能になっているみたいだね』

 

 顔も見せずに聞こえてくるダ・ヴィンチちゃんの声。

 彼女も今回のレイシフトでは休んでいる暇はないのだろう。

 

「……逆に考えれば、そんな結界が存続している程度には無事ってことね。

 ――――こことは違って」

 

 言って、オルガマリーは周囲を見回した。

 彼らが投げ出された空中。

 それをゆったり降りてみれば、広がっていたのは街並みだった。

 人が住まうための建築物が、ずらりと一帯に並んでいる。

 

 ―――全て、もう誰も住んでいない廃墟であったが。

 

 その風景を一通り見回した彼女の近くに、ぼんやりと影が浮かぶ。

 アサシン、ハサン・サッバーハ。

 黒衣と白面の暗殺者からの情報に対し、彼女は耳を傾ける。

 

「魔術師殿、やはり街には人の気配はありませぬ。

 様子から察するに、街から人が消えてから数ヵ月も経っていますまい。

 つい最近何か大きな変調があり、一斉に一人残らず消えた。

 ―――そういう事でしょう」

 

「……そう」

 

 微かに目を細めて、空を仰ぐ。

 青く広がる天空には変わらず展開される破滅の光帯。

 彼女の様子に小さく頭を下げ、ハサンが消える。

 

「では魔術師殿。私は潜んでおりますので、何かあれば」

 

 気配が消える。

 ハサンに求めるのは隠密、偵察の類だ。

 よほど追い詰められなければ、戦闘よりも潜む事を優先するべき立ち位置。

 

 まあどこまで秘せるかは分からないが、姿を軽々に見せるよりはいいだろう。

 

「さて、どう動くかね。人員も随分多くなったが、最近はどう動いてたんだ?

 ……あー、最近つってもサーヴァントと動く事自体久しぶりか?」

 

「我らとの戦いの後、通常の特異点とは違う場所で戦っていたのでしたか」

 

 頭を掻いてクー・フーリンがソウゴを見る。

 彼と立香はとりあえずマフラーをぱたぱたして、問題がない事を確認していた。

 

 それを見て、自分もと確認を始めるツクヨミ。

 派手に動いた場合外れてしまった、ではただでは済まない。

 動く時には変身しているだろうソウゴ以外はなおさら必要だろう。

 

「ふむ。まあなんとも、いつも通りだな!」

 

 マイペースの崩れないマスターたちを見て、ネロが笑う。

 わかる、と。フィンもまた続いて笑う。

 

「いつも通りではない精神状態はよくないものだ。

 いつも出来ることが出来なくなる。例えばほら、私的には―――」

 

「……君にとってディルムッド・オディナはなにか?

 滑らない笑い話か何かのつもりなのかね」

 

「もちろん。手を滑らせた笑えない失敗談だとも」

 

 話題を先んじて制されて、しかし。

 はっはっは、と。彼は笑って、二世の言葉を受け流す。

 

「そんで。どうするんだい?

 アタシは酒を我慢するとして、マスターたちに飯を抜かせるわけにもいかない。

 街がないなら、どっかでマシュの盾を使って召喚陣を敷かなきゃならないだろう?」

 

「まあ少しの食料くらいなら狩りでもすればよかろう。

 野の獣がいるかどうかは分からんが、この空気だ。魔獣など幾らでもいるだろうさ。

 後は現在地が分かればウルク市の位置も分かるのだろう?

 とりあえず私とアサシンで、この街を中心にある程度調査を……」

 

 ドレイクの言葉に、街の外に広がっている荒野に目を向けるアタランテ。

 そんな彼女が、獣の耳をぴくりと動かした。

 

「――――何かくるな」

 

「え?」

 

 直後にオルガマリーの近くに再び浮かび上がるハサン。

 彼が即座に現状を口に出した。

 

「街の外より魔獣が六。

 どういった種類のものなのかは分からず、申し訳ないが……

 赤い肌にたてがみを持つ、獅子に似た四足獣のようですな」

 

「ありがとう、アサシン。

 ……ということよ」

 

 ハサンが再度潜む。

 これから戦闘であっても、彼はそこに参加しない。

 何より―――魔獣がたった六、そもそも必要あるものではない。

 

「六ねぇ……もうちっと羽振りよく来て欲しいもんだが」

 

「さて、どうしますか? 誰か一人でも遅れは取らないでしょうが」

 

 クー・フーリンが槍を出し、肩に乗せる。

 同時にガウェインもまたその手に剣を顕した。

 

「一応言っておくが、汝ら……ちゃんと食料に出来る状態で仕留めるのだぞ」

 

 必要ないと判断したのか、弓も出さずに細めた目で男たちの背を睨むアタランテ。

 言われて、男たちは揃って肩を竦める。

 

「ご安心を。このガウェイン、武勇だけの男ではありません。

 私はキャメロットの騎士の中でも特に料理に優れていた、とは彼の王も認めるところ」

 

「…………それにしちゃあの王様は。いや、やっぱ黙っとくか。

 言わぬが華のキャメロット、だな」

 

 自身満々に胸を張るガウェイン。

 微妙に眉を顰めるクー・フーリン。

 そしてそんな二人の前に出る、花嫁の如く輝く皇帝。

 

「うむ! では、それぞれ二体、と行くか! 者ども、余に続くがよい!!」

 

 ツクヨミがちらりと振り返れば、肩を竦めて苦笑するフィン。

 まるで群れから逸れて迷い込んだような魔獣たち。

 その程度で全力で対応する必要などない。

 準備運動同然の態度で、彼らは最初の戦闘開始して―――

 

 

 

 

 十秒すら必要とせず、決着はついた。

 ハサンの報告通り、たてがみを持つ赤い四足獣。

 それが六体ほど雪崩れ込んできて、その全てが首を落とされた。

 

「…………ねえ、アーチャー。訊きたいのだけれど」

 

 どんな魔獣なのかとサーヴァントたちが死体を検めている。

 そんな光景を眺めながら、オルガマリーが眉を顰める。

 

 正しく瞬殺であった。

 故に、生きているその魔獣を目にしていたのはほんの一瞬に過ぎない。

 だけれども、その一瞬で感じるところがあった。

 

「あの、魔獣たちですが……何か、いえ……何が目的だったのでしょう」

 

 マシュが一応構えていた盾を下ろし、目を伏せる。

 彼女たちの方を一瞥して、答えを返すアタランテ。

 

「通常の魔獣ならば人間という餌を前にして、食事をしようと思った……のだろうがな。

 確かにあれは通常の魔獣とは一線を画していたな。

 ―――果たしてあれは、獣と呼ぶべきなのだろうか」

 

「魔獣ねえ。アタシには縁のないもんだが、やっぱおかしいのかい?

 連中、明らかにアタシらを()()()()だけに向かってきてたろう?」

 

 生きる糧、食事をするための殺生。

 そこから明らかに外れた、殺すためだけの殺害。

 たったほんの一瞬の邂逅。

 それだけで、それ自体が目的だと分かってしまうほどに。

 あの魔獣の眼には、憎悪が満ちていた。

 

 その憎悪もまた、気質が明らかに尋常ではない。

 まるで、人を憎むためだけに生まれてきたのではないか。

 そう感じるほどの何か。

 

 命として生きているのではなく―――

 元より、人を殺すためのだけに発生した自走機雷であるかのような。

 

「―――御免。何やら上から来ていますぞ」

 

 姿を見せぬままに声だけ届けるハサンの声にハッとして。

 オルガマリーが上を見上げ。

 

 ―――そこに、何か天上から降り注ぐ少女を発見した。

 

「……何やら妙だが、サーヴァントの気配だ。

 敵味方も判然とせぬのに下手に受け止める、というのも危ない気がするな」

 

 どこかで感じたような、そんな気配にアタランテが顔を顰める。

 この感覚は一体なんだったか。

 いつだったか。確か、そう、彼女の信仰する女神に直接出逢った時のような。

 

 その情報が即座に伝達されて、総員身構えて―――

 

 立香にソウゴが何か言った。

 ああ、と頷く少女。

 

 そうして懐から取り出されるは、緑色のライドガジェット。

 ほいと投げ込まれるコダマスイカ。

 

〈コダマビックバン!〉

 

 巨大なスイカのエネルギー体になるコダマスイカ。

 それは膨らみ、転がり、空から降ってくる少女の下まで移動して。

 

「ちょ、何よいきなり! あー、もう!」

 

 ―――激突して、砕け散った。

 撒き散らされるスイカの果肉。噴き上がるスイカの果汁。

 真っ赤なエネルギーがその場いっぱいに広がって。

 

「何よこれぇー!」

 

 スイカの汁に塗れた少女の悲鳴が轟いた。

 少女が乗っていたのだろう、弓のような形状の飛行物体が続けて降りてくる。

 

「……神霊、か?」

 

 言いながら目を細めるアタランテ。

 彼女のその反応を見て、オルガマリーが強く顔を顰め―――

 

 目の前で、彼女の十倍くらい強く顔を顰めているエルメロイ二世を見つけた。

 

「……?」

 

「いや、まあ……私よりは依り代にし甲斐があるかもしれんがね」

 

 ぽつりとそんな言葉をこぼす二世。

 

 スイカを形成していたエネルギーが解けていく。

 消えていく果肉の山と果汁の川。

 その中で溺れていた少女が、怒り心頭一気に立ち上がった。

 

「ああ、もう! べたべたと! 何よこれ!

 甘くて美味しかったのが余計に腹立つ!」

 

 ぶるりと体を震わせて、消えかけていた果汁を更に振り払う。

 身に着けている飾りは黄金の数々。

 そして装束と呼べるのは、まるで下着のような胸当てとショーツ。

 そんな煽情的な少女は、走って逃げていく小さなガジェットを睨みつつ、がなる。

 

「食べたの?」

 

「食べたくて食べたわけじゃないわよ!

 割ともうちょっと食べたかった、とか思ってないから!」

 

 ぎゃーす、と叫びながら、少女は真紅の瞳で周囲を一通り睨みつけて。

 周りの様子にようやっと気づいたように、端麗な眉を小さく顰めた。

 

「……なに、あんたたち」

 

 逃げ帰ってきたコダマスイカを拾い上げる立香。

 彼女が頭を下げた瞬間、オルガマリーの上にいたフォウも立香に飛び乗った。

 右肩にフォウ、左肩にコダマ、と。

 珍妙なお供を両肩に得た立香。

 

 そんな姿を見下ろしつつ、少女はツインテールにまとめた黒髪を軽く掻き上げる。

 彼女はそのまま再び周囲の連中を検めて、不機嫌そうに目を眇めた。

 

 とりあえず会話が出来そう、という事実を理解した。

 ので、真っ先にオルガマリーは一歩を踏み出す。

 

「わたしたちは人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 魔術王による企み、人理焼却を防ぐために各時代へとレイシフトによる転移を―――」

 

「―――ああ、そういうのいいから。っていうか何様?

 巫女でもない人間の分際で、いきなり私に話しかけるなんて」

 

 少女がオルガマリーへと視線を向ける。

 真紅の瞳が僅か、不穏なまでに輝かしい黄金の光を帯びる。

 神気の解放。立ち上る絶対的な貴き気配。

 

 そんなものを前にして、サーヴァントたちが即座に動き出そうと構え―――

 

「王様のつもりとか?」

 

「は?」

 

 少しだけ驚いたように、少女は言葉を発したソウゴに向き直る。

 彼女はそのままソウゴを見て、少しだけ眉を顰めた。

 

 そうして数秒。

 何度か表情を変えて、何かを探るような様子を見せていた彼女が―――

 まるで重大な何かに気付いたように、掌で顔を覆ってみせた。

 

「……あ。うわ、うわー……これ、そういうこと、よね?

 えっと、たぶん、そういうことになるわよね、これ。アイツってそういう奴、よね?

 なにそれ。ウルクどうすんのよ……っていうか、アイツどうするのかしら。

 ここで我慢する最低限の常識くらい持ってる……あ、ダメだ。アイツにそんなもんないわ」

 

 顔を覆ったままにぶつぶつと言葉を並べる少女。

 そんな様子に、恐る恐る声をかけてみるツクヨミ。

 

「あの……?」

 

「―――ああ。いまのは冗談よ、冗談。

 一応こっちから話しかけといていきなりキレたりしないわよ。気分次第ではね。

 それにあんたたち、どっか異邦からの来訪者なんでしょ?

 この土地の民が働いた無礼なら見過ごさないけど、よそ者なら少しくらい見逃すわ。

 私、自分の財産以外にあんま興味ないし」

 

 少女は踵を返して、ふよふよと浮いていた弓のような飛行物体に足を向ける。

 彼女の意志に反応してか、その“舟”はゆっくりと彼女へと近づいていく。

 

「で、何だっけ。世界を救いにきたって? それなら丁度いい助言があるわ。

 女神様直々のアドバイスよ。心して聞きなさい」

 

 飛行物体に手をかけながら、真剣な表情を固め。

 ソウゴの方を見ながら、彼女は言葉を発した。

 

「さっさとそのカルデア? だか言うところに帰りなさい。

 あんたがウルクに入ったらろくでもない事にしかならないわ」

 

「えー、そんなこと言われてもな」

 

 少女の貌が一際歪む。

 苛立ちと、もう一つ。

 何か、とんでもなく面倒な事態に呆れるような。

 

「――――私に忠告まで貰っておいて、それでも聞かないってなら好きになさい。

 そこまで面倒見る義理もないし。

 っていうか、もしウルクに何かあったとして、それは全部アイツのせいだし。

 幾ら私が守護するって言っても、ウルクの方から自沈するなら私のせいじゃないもの」

 

 呆れて物も言えない、と。

 彼女は弓のような舟を引き寄せて、腰かける。

 

「ま。私がちょっと、ちょーっと事故(ミス)ったのは認め難いけど事実として。

 きっと何かの導きだったんでしょうね、あんたたちのための。

 ええ、私に忠告をもらえずにあんたがウルクに踏み込んでたらきっと大変な事になってたわ。

 私がちょっとブレーキ操作を誤ったのも、全てはそれを未然に防ぐためだったのね。

 まったくもって仕事熱心。この辺り、ウルクの連中は払いの査定に加えるべきなのよ」

 

 はぁやれやれ、と。

 彼女はそんな風に呆れるような仕草を見せる。

 

「でもまあ、クッション代わりを用意してみせた勤労は認めましょう。

 それを以てまあ。私への無礼の数々。色々と許しましょう。

 こっから先は勝手にすればいいわ」

 

 その意志に呼応して、舟が発進する。

 瞬く間に舞い上がり、空へと消えていく金色の少女。

 

 ―――それを見上げながら。

 

「……この土地の神霊、なんだろうがな。

 なんだ、余程人格が肉体の方に寄ってると見えるな」

 

「さて、確かに神性にはありえない態度と面倒見の良さ。

 ……体を預けたのは、随分と気風の良い方なのでしょうね」

 

 クー・フーリンが肩を竦め。

 ガウェインが苦笑して。

 その態度に、二世はますます顔を顰めて黙りこくる。

 

「あれで? 何か凄い勝手に言いたい放題して行っちゃったけど」

 

「ああ、随分と人間らしい物言いだったとも。

 まして土地柄上、ここの神霊と言えば自然の暴威と同意だ。

 あんな風に言葉を交わせるものだったのは、少々驚きだとも」

 

 首を傾げるツクヨミに、フィンが感心したように何度か頷く。

 

『―――うん、間違いない。今までそこにいたのは神霊だ。

 オリオン、の霊基を借りたアルテミス……とはまたちょっと違うけれど。

 どちらかというとロード・エルメロイ二世、諸葛孔明に近い形かもしれない』

 

「ふうん。知り合いだったの?」

 

 妙に表情を崩しているサーヴァントたちに問いかけるソウゴ。

 彼らは揃って微妙な顔をする。

 

「……ま、似た顔を見知ってるってだけだ。結局中身は神霊だからな。

 気にしてもしょうがねえ。

 それよか面白い事言ってたな、ウルクの守護を担当する神だとよ」

 

『ウルクの都市神―――となれば、イシュタルだね。

 戦と豊穣を司る金星の女神』

 

金星の女神(ヴィナス)か。確かに見目麗しい少女を体にしていたな。

 というか、うむ。余としてもかなり好みの美少女であった。

 金の装束だけでなく、赤とか似合いそうでとてもよい」

 

 飛び去って行った少女を思い返し、満足気に頷くネロ。

 おや? と、その態度に小首を傾げつつ。

 しかし口を開くことなく、そういう事もあるかとガウェインは黙る。

 

「ウルクの都市神が、疑似サーヴァント状態での降霊?

 ……まあ、それはそれでいいとしましょう。

 ステンノやエウリュアレみたいな野良神霊サーヴァントって前例もあるのだし。

 ウルクの危機に近しい神霊がサーヴァントとして現れた、と考えてもいい。

 で、なんでそのイシュタルがわたしたちを追い返したがるのよ」

 

 オルガマリーがソウゴに視線を向ける。

 イシュタルは完全にソウゴだけにその注意を向けていた。

 

「俺に訊かれてもなぁ」

 

「―――魔術師殿。先程の神霊、またこちらに向かってきましたぞ」

 

 ハサンからの通達にぎょっとする。

 天空で黄金の軌跡を曳く舟。

 それが雲を切り裂きながら、再び彼女たちの直上に登場した。

 

 目を白黒させるオルガマリーの頭上。

 金星の女神が身を乗り出して、彼女らに向かって声を張り上げる。

 

「そうそう! ねえ! この辺りに何か、妙な落とし物がなかった!?

 こう……アレよ! そうね、もしそれを一目でも見ていれば、『あ、アレだな!』って直感的に分かるくらいのもの! そう! アレよ、アレ! アレ見なかった!?」

 

「あれじゃ分からないけど……」

 

「分かるか分からないかなんて訊いてないのよ!

 アレを見たか、『はい』か『いいえ』か、どっちって訊いてんの!」

 

「その、それはあなたが何かをこの辺りに落とした、ということでしょうか?」

 

 遠慮がちに問い返すマシュ。

 そんな言葉に対して、ぐぬぬとイシュタルと思わしき女神がほぞを噛む。

 

「……私がそんな間抜けな失敗をするわけないでしょう?

 ただの頼まれごと、ちょっとしたおつかいみたいなものよ。ええ、もちろん」

 

「―――ああ、よかった。清姫をレイシフトメンバーに入れてなくて」

 

 自分のナイス采配に、思わず小声を漏らすオルガマリー。

 まったくもって同意を示し、エルメロイ二世は深々と頷いた。

 あんな誰でも分かる嘘を見せられたらこうもなる。

 嘘だと分かっていても突っ込んではいけない事だってあるのだ。

 

「まあ少なくとも、一目見て何か神威を感じるようなものはありませんでしたな。

 隅々まで捜索したわけではありませんが……」

 

 何もない背後からの声に頷く。

 

「この辺りを見て回った限り、少なくとも御身が仰るような物は見ておりません。

 もしよければ、それが何かを教えて頂ければ―――」

 

「そ! じゃあいいわ。いい? アンタたちもさっさと帰りなさい。

 余計なことして私の仕事増やすような真似はしないこと!」

 

 さっさと言葉を遮って、女神は飛び立っていく。

 それは黄金の軌跡を曳きながら、流星となって空を切り裂いていく。

 瞬く間に見えなくなった光の舟。

 そんな理不尽がいた場所を見上げながら、オルガマリーは額に手を当てる。

 

「神サマが必死になって探す落とし物ねえ。

 お宝の匂いだ、興味が出てきたよ。どうだい、ちょっと探してみないかい?」

 

「やめておけ。こういうものは見つけて拾っても大抵ろくな事にはならない。

 ……少なくとも、私の知るような神が相手ならな」

 

 うきうきし始めたドレイクをアタランテが制する。

 本当に、本当に嫌そうに。

 

「あ。そういえば、結局あの魔獣はどうだったの?」

 

 ふと思い出したと、立香が解体された魔獣の残骸を見る。

 

『ああ……少なくとも、ボクたちが事前情報として集めていたデータベースに存在しない。

 もちろん、神代の情報を全て余すことなく事前に収集できていた、とは言えないけれど……』

 

「―――まあ、一つ言えることはだ」

 

 軽く首を回し、肩を鳴らし、朱色の槍が躍る。

 戦闘態勢に入ったクー・フーリンが、背後へと視線を向けた。

 

 そこに展開しているのは、彼らが狩った魔獣と同じもの。

 数十の獣の群れが、廃墟とした街を目掛けて殺到している光景だった。

 

「狩られた同族の敵討ち、というわけでもありますまい」

 

「そのような殊勝な態度には見えないな。

 野生の魔獣がそんな事をやっていたら驚きだが」

 

 声だけのハサン。彼の言葉に目を眇めるアタランテ。

 

「獲物の血の臭いに集った、というならまだしも獣らしいが……

 さて、我らが起こした血風には興味がない様子」

 

 片目を瞑り、未だに処分していない獣の死骸を見るフィン。

 その血の臭いを辿り集まった、というなら良い。

 が、明らかに獣たちはそちらに興味を持っていない。

 

 血溜まりに沈んだ同族に対し、何の感慨も見せない。

 同族の死への弔いもなく。同族の死骸を肉として見ることもなく。

 ただ、その場にいる別の生き物に対して、憎悪だけを放つものたち。

 

「……つまり真実。あれはただ、()()()()()()()()()、と」

 

「ということは―――この街は……やはり、そういうことなのでしょうか」

 

 エルメロイ二世の言葉に強く眉を顰めるマシュ。

 あんなものが街の付近を徘徊しているということは、つまり。

 

「あれが原因であれば死体が喰われることもなく残っているでしょう。

 あれとこの街の状態は、恐らくは別口かと。

 ですが、一先ずは現状でやるべきことは変わりません」

 

 そう言った彼の手元から、ごう、と。

 太陽の熱が溢れだし、姿を現す太陽の聖剣。

 

「……そうだねぇ。折角集まってくれたんだ、逃がすのも勿体無いって話さ!

 まずはアタシが一発でかいのをくれてやるよ!」

 

 ドレイクの背後の空間が波を打ち、カルバリン砲の砲身を現した。

 曲がりなりにも市街地戦である、が。

 一切の遠慮も手加減もありはしない。

 空っぽの廃墟を背にしながら、彼女はまず開戦の烽火として一撃を放とうとし―――

 

「―――いいえ。既に廃都とはいえ、確かに人の暮らしていた場所です。

 できれば壊さず、カタチだけでも遺しておきたいでしょう?」

 

 瞬間、大地が鳴動した。

 地面が姿を変え、鎖と変わり、地を走る魔獣どもが貫かれていく。

 

 数え切れぬ鎖の乱舞。

 その全て、一つ一つが鋭い槍が如く、魔獣の心臓を次々を粉砕していく

 瞬く間に数十の獣が一匹残らず、地に転がる死骸と変わる。

 

 誰もがその光景に目を瞠り、涼やかに響いた声を視線で追う。

 声の先は、街を囲う塀の上。

 

 そこにいたのは、緑の髪を揺らす美しいヒト。

 質素な貫頭衣を纏っているような、しかし美しいヒトガタ。

 彼、あるいは彼女は、風に揺れる長髪を軽く手で押さえてみせて。

 カルデアの面々に向け、ゆるりと微笑んだ。

 

「―――お会いできて光栄です、カルデアのマスターたち。

 僕の名前はエルキドゥ。

 この神代において、最新の人類の到来を待ちわびていたもの。

 この地と新しい人を繋ぎ止める役割を担うものです」

 

 

 

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