Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「では、存分に話して頂きましょうか」
―――廃都バビロン。
この時代にレイシフトした時降り立ち、エルキドゥと出会った最初の街。
そこに帰還した上で、追跡がないと確認した彼ら。
そんな中でガウェインが、いつの間にやら合流していた白い男に声をかける。
「うん? 話すって何をだい。
見ての通り、私は憐れにも道に迷ってしまった通りすがりな謎のお兄さんだよ?」
詰問に対して朗らかに笑い、謎のお兄さんは首を横に振る。
そんな彼らに質問しようと立香が歩み出て。
直後、彼女の肩から白いケモノが飛び降りた。
「フォウフォウ」
〈スイカボーリング!〉
いつの間にやらウォッチまで持ち出して。
コダマスイカは赤いエネルギーで覆われた球体となり、地面に転がる。
玉乗りの如くその上に飛び乗ったフォウが、一気呵成に走り出した。
加速するフォウ。回転するコダマスイカ。
それは一気に白いお兄さん目掛け、吹っ飛んでいった。
「フォ――――ウ!! マーリンシスベシフォ―――――ウ!」
玉乗りしたフォウが、回転しながら地面を弾んで跳び上がる。
男の顔面目掛けて飛翔するスイカとフォウ。
それに面食らった彼は、そのまま顔面へと直撃を受けた。
〈コダマビックバン!〉
「ドフォ――――ウ!? って、いや、ちょ……!」
まず激突するコダマスイカ。
弾け飛ぶはスイカの果汁。
真っ白な彼のローブが、スイカの汁に塗れていく。
更にそこから追撃、フォウ自身の回転突撃。
二段構えで慣行された体当たりが、男の顎を打ち据えた。
果汁でべたべたになりながら、盛大に後ろに転ぶ男。
彼は地面に背中を強かにぶつけながら、顔を押さえて悶絶する。
「彼はマーリン。
非常に優れた魔術師で、円卓においても彼の能力を疑う者はおりません。
そして同時に彼に真っ当な人格が備わっていると信じる者もおりません」
そんな惨状を見下ろしつつ。
何とも言えない顔で、ガウェインは彼の身の上を口にした。
「マーリン? マーリンってあの……」
驚いたように目を見開くマシュ。
夢魔と人の混血にして、アーサー王を導きし魔術師。
そんな世界有数のキングメイカーが、フォウから更なる追撃を貰っている。
「ええい、この! 長年世話してやった恩も忘れて!」
〈サンダーホーク! 痺れタカ! タカ!〉
響く怒鳴り声、それを塗り潰すようにばりばりと轟く雷。
空舞うタカウォッチロイドから電圧がかかる。
途端に毛羽立つ、マーリンの服や髪。
「最近フォウってあの子たちと仲いいよね」
「その反応でいいの……?」
そんな光景を眺めつつ、ぼんやりと呟く立香。
それを聞いたツクヨミは、彼女の横顔を何とも言い難い目で見つめる。
「それで、あんたたちは?」
一応まだエルキドゥへ警戒しているのだろう。
ソウゴは変身を解かず、近くにいる天草四郎に視線を向けた。
彼は過負荷を掛けた回路の不調に僅かに顔を顰めつつ、しかし。
すぐに微笑んでみせ、ソウゴの方へと向き直る。
「そちらのマスターと、あとアーチャー……アタランテはご存じのようですが。
改めて。サーヴァント・ルーラー、天草四郎時貞です。
そちらの彼、マーリンとはマスターを同じくするサーヴァント、という関係です」
オルガマリーがアタランテに視線を向ける。
小さく、一つ頷く彼女。
続けて何で知ってるのよ、といった旨の視線が立香に飛ぶ。
「えっと、エドモンのお気に入りの人で。
あ、そういえばそれっぽい着物。前に見た時は神父さんみたいな服だったのに」
「むしろ何で前はあんな服だったのかしら」
見たことがある顔が、見たことのない服で立っている。
その光景に少しだけ不思議そうに首を傾ぐ。
ツクヨミもぼんやりと監獄塔の中の出来事を思い返しつつ首を傾げた。
話を振られた天草が驚いたように大きく目を開き、苦笑する。
「おや、そんな姿までご存じとは。いえ、そうですね。
そういう細かい話は暇が出来た時にでもアーチャー……アタランテから聞くといいでしょう」
私に振るな、という視線の矢。
それを完全に無視して、彼は黙殺した。
「そんな話はさておき……」
『ちょ! ちょちょちょ、ちょっと待った! ストップ、ストップだ!
マーリン!? マーリンって言ったのかい!? あのマーリンがサーヴァントとしてそこにいる? 世界の終わりまで死ねない筈のあのろくでなしが!?』
「ふはは、そうだとも。っていうか、いい加減にしてくれキャスパリーグ。
なんだい、そのまるまるっとしたお友達たちは。
いきなり私を襲撃するような悪いお友達とつるむなんて、君って奴は本当に、痛い痛い!」
ゲシゲシと体当たりを続けるフォウ。
よく分かってもいないが、とりあえず同じように攻撃を続けるコダマとタカ。
浴びせられるのは、凍り付いたスイカのタネマシンガン。
スイカシャーベットを頭から浴びながら、マーリンがのたうち回る。
「ふむ。それで一体何がどういうことなのだ?」
「ええと。マーリン、さんはブリテン島の伝説的な魔術師で、主にアーサー王伝説で活躍された方です。とても優秀な方でアーサー王もよく恃みにしましたが、女癖の悪さが祟りブリテン島から締め出され、理想郷であるアヴァロンに渡った、と。
彼は己の罪を悔い、アヴァロンの中に塔を建て、死ぬ事なく永劫に幽閉されながら世界を見渡す事を、自らの罰とした……と、言われていますね」
首を傾げるネロ。
そんな彼女の前で、マシュがマーリンのパーソナルを並べる。
少々顔に浮かぶ微妙な表情。
それは自分のものか、あるいは内側から溢れるギャラハッドのものか。
「まあ、基本的にうちの師匠と同類だな。
あっちは影の国まで燃えたせいで現世に転び出てきてたみたいだが……」
顔を合わせる事のなかった師を思い出しつつ。
視線を向けるのは、地面に転がる白い魔術師。
そんな光景を見下ろしつつ、クー・フーリンは片目を瞑り、何とも言えない顔をした。
サーヴァントとして呼ばれるのは死した者。
それらが死後英霊として祀り上げられ、サーヴァントというものとして降霊される。
前提となる死を得ないものは、サーヴァント足りえないのだ、と。
「ええと、アヴァロンってとこも燃えちゃった、とかじゃなくて?」
「それはあるまい。何よりも、そちらまで燃え尽きていれば、べディヴィエール卿が生き残っていた筈がないのだから」
アヴァロンに辿り着き、停止していた生命。
マーリンの助力で特異点まで踏み込んできた生者。
その存在が今まで残っていた、という現前たる事実をもってして。
理想郷たるアヴァロンの無事は、完全に確定しているのだ。
立香の疑問にそう答えを出したフィンが、小さく肩を竦めた。
「だというのにサーヴァントとして出てきたのは不自然、と。
つまりはそういうことか」
『そう! そういうことだ! やい、マーリン!
偽物なら正体を表せ! 本物でも正体を表せ!』
「おっと、そうだったね。べディヴィエールの事はどうもありがとう。
彼の旅路を見届けてくれたキミたちには、送り出したこちらとしても感謝しているよ」
ようやっとフォウとその仲間たちを放り投げ、彼は何とか立ち上がった。
とても柔和な笑みを浮かべながら。
彼は軽い口調で、一人の騎士の旅路の援けに対し礼を述べる。
「―――敵対した私が口にするのもなんですが。
それで済ませようとするから、あなたは信用を得られないのでしょうね」
「私は私なりに実際感謝をしているのだけれどね。それなりには。
それが伝わらない、というなら仕方ない」
「フォッ!」
こんな奴だぜこいつは、と。
フォウは毛玉を吐き出さんばかりにいきり立つ。
そんな彼を抱き上げ、どうどうと宥めるマシュ。
「……いつまでも遊んでいないで、早く要件を果たしてください。
というか、神殿から離れているのはどういうことですか。契約違反です。
私たちの契約は、一刻も早く女神を倒すために協力する、という内容だったはずです」
それまでマーリンの後ろに佇んでいた少女。
彼女がずっと被っている黒いフードを、更に顔を隠すように下に引っ張る。
そうしながら、全力で非難を白い魔術師の背中に飛ばした。
「おっと。すまないね、アナ。でも、見ての通りだ。
あの神殿の防衛ラインは天の鎖たるエルキドゥが敷いている。
しかも彼らによって明かされた情報によれば、敵の動力は聖杯ときた。
これは正面突破は難しいと言わざるを得ない。だろう?」
「……ええ、そうね。背後には神殿に控えた女神がいる、というならなおさら。
エルキドゥを一度引き離して撃破して、その後に神殿攻略の方が現実的でしょう」
そう考えつつ、オルガマリーは先程まで自分たちがいた森の方向を見つめる。
エルキドゥがこちらを追撃してくる様子はない。
結構な勢いで常磐ソウゴが煽っていたが、それでも動かないのだ。
何か、神殿から引き離すための戦略は別に必要だろう。
「挑発とか乗り易そうに見えたけど、そうでもないんだね」
「多分、人間に何を言われてもあんまり気にならないんじゃないかな。
気にするほどの存在じゃない、って思ってるというか」
「……じゃあイシュタル。
女神イシュタルには何か凄い、思うところがありそうに見えたけど。
あの女神が何かすれば、積極的に動くかも」
同道した道のりの中で、エルキドゥは明らかにイシュタルへの反応が強かった。
心臓の代わりに聖杯で動いているなら、つまりは彼女が原因で一度死んだはず。
だとすればその反応もおかしくはないだろう。
どうにか利用できれば、エルキドゥを本拠地から離せるかもしれない。
そう考えながら腕を組む立香とジオウとツクヨミ。
「―――魔術師殿、街の外にまたも魔獣が徘徊しています。
話すにしろ、悩むにしろ、ここからは離れるべきかと」
背後に浮かび上がる黒い影。
ハサンの言葉を聞いて、オルガマリーは軽く息を吐いた。
「そうね。脅威度は高くないとはいえ、キリがなさそう。
とりあえずウルクに向かいましょう。あなたたちはどうするの?
言っておくけどこちらは、このタイミングで神殿への特攻は考えてないわよ」
「私はもちろん同行しましょう。マスターもウルクにいますので」
即答する天草。
マシュが彼の口にしたマスター、という言葉に改めて首を傾げる。
「そういえば、お三方のマスターというのは……?
現地人の方がマスターになっている、ということ、ですよね?」
「はい、私とマーリンのマスターはギルガメッシュ王ですよ。
そちらの彼女は違いますが」
特に隠すまでもないと、素直にその名前を出す天草四郎。
彼がそれを告げると、今気づいたとばかりに手を打つマーリン。
「おっと、そうだった。それを伝えていなかったね。
同時にそれが先程から私に向けられた疑問の答えでもある。
力ある魔術師が呼んだ。だから私がサーヴァントとして来れた、という。
まあそれでも、ここが私が発生するより前の時間だから出来たわけだが」
「発生する前、ですか?」
「そう。この時代の地球には私がまだ生まれていない。
つまりこの時代、私は
というわけで色々誤魔化しつつ、サーヴァントになってみせたわけだね」
「屁理屈ですね。やることなすこと全て」
インチキ染みた方法でそうしてサーヴァントになった、と。
そう愉快げに口にするマーリン。
アナと呼ばれている少女が、彼の様子を見ながら不機嫌極まる声で呟いた。
「では屁理屈を続けてこねるとして。
アナ、私たちも一度ウルクに向かうとしようじゃないか。
私はキミに速やかなる女神の撃破を提案し、契約した。
可及的速やかな女神の撃破には、彼らの協力が不可欠だからね。
私も着いていかないと、ギルガメッシュ王が彼らに何をするか分かったものじゃない」
言われて、フードの下で酷く顔を顰める少女。
明らかに納得していない、が。
それでも確かに全力稼働のエルキドゥを見て、理解しているのだろう。
自分とマーリンだけで何をしても、目的は果たせないと。
「おや、マスターが彼らに何かしようとしたら止められるのですか?」
驚いた風にそう口にする天草四郎。
彼は知っているからだ。
自分たちのマスターである、英雄王ギルガメッシュ。
彼は余人が何を言ったところで自分の意見を翻す王ではない、と。
「どうだろうねえ。無理かもしれないね!」
『なんだそれ!? 役に立たないじゃないか!』
笑うマーリンに、怒鳴るロマニ。
だが怒鳴られたところで彼の微笑みは変わらない。
「いやいや、アポイントを取らずにギルガメッシュ王に会えるようにするくらいの口利きは出来るとも! 何せ私はいま、この国の宮廷魔術師マーリンだからね!」
逆に言えばそれくらいしか出来ない、と。
そう宣言するように、彼はさほど頼りに出来なそうな笑顔を見せた。
『……この河を下れば、うん。問題なくウルクの付近につく。
周囲の状況、魔獣は大丈夫そうだから注意すべきは女神イシュタルかな』
「流石に空から一方的に撃たれたら問題だねえ。
タイムマジーンがありゃ随伴してもらうんだが」
周囲の探査をしていたロマニの言葉を聞き、空を見上げるドレイク。
今彼女たちは、宝具である船を使って河を下っていた。
そんな状況を軽く確認して、アタランテは難しい顔で片目を瞑る。
「陸も近い。襲撃があった時は、私が対空を担当。
その間にガウェインなりクー・フーリンを地上に下ろし、薙ぎ払うなり狙い撃つなりだな」
「そうだねえ。後はエルメロイ先生に船を強化してもらって一発……」
「二度とやらんぞ、あんな真似。それと二世をつけてくれ」
けらけら笑いながら言い募るドレイク。
彼女の態度に思い切り眉を顰め、渋い表情を見せる二世。
そのやり取りを聞いて、隙あらばマーリンに追撃を放ちに行こうとするフォウを抱えたマシュが小さく笑った。
「ダブルジャンヌさんはいませんが、第三特異点で一緒に戦ったメンバーが多く編成されていたのですね。ドレイクさんはあの時はまだ生前の身でしたが」
彼女の言葉に微かに眉を上げる天草四郎。
ジャンヌが恐らくジャンヌ・ダルクの事だと理解して―――
ダブルジャンヌ……? と。
珍妙な呼び方を聞いて、よく分からないという表情を浮かべた。
「―――あの時船に乗っていたのは、アルテミス様とダビデ王」
「それにエウリュアレとアステリオス、そして船長のとこの船員大勢だな!」
アタランテが続け、ネロが懐かしむように声を上げ。
そこで、アナの肩が揺れる。
「一応録画されている映像は見ているが、中々のものだったね。
相手方に君臨するのは、ヘラクレスにヘクトール……いやはや、その時私がサーヴァントとして参加できなかったのが悔やまれる」
「フィンどころか私もいなかったもの」
自分もその時はカルデアにすらいなかった、と。
ツクヨミはどう反応したものかと微妙な表情を浮かべる。
そんな話を聞いていて、海を見ていたソウゴが目を細めた。
彼が懐から取り出すのは、マゼンタのライドウォッチ。
「そういえば、ここにいるのかな……ディケイド」
彼は最後の特異点で待っている、と告げていった。
最後の特異点、と呼ぶとすればそれはここ。
第七特異点であるメソポタミアの地以外にないはずだ。
そんなことを呟いていたソウゴの声が耳に届いたのか。
ネロが肩をいからせ、口惜しげに声を荒げた。
「安心せよ、ソウゴ。
今度会うような事があっても、ああも簡単にはしてやられぬとも!」
「え? あ、そっか。俺たちがオ……消えてる間に、戦ってたんだっけ」
一瞬、頭を過る黄金の王。
しかし黄昏に佇む王者の幻影を振り払い、ソウゴが話を続ける。
「うむ! そう、女神エウリュアレとはちょうどその後に出会ったのであったな。あの事態ゆえに口説く余裕もなかったが、エウリュアレも特に美しい女神であった。
更に余自身がいっぱいいっぱいであったがために同じく口説けなかったが、ローマに降り立ちし彼女の姉妹女神。ステンノもとても美しい女神だったとも!」
ディケイドの話が、いつの間にか美少女の話にすり替わる。
アタランテから向けられるこいつは何を言っているんだ、という視線。
それにもめげず、というか気づきもせず。
ネロは愉しげにかつて目の当たりにした美の結晶を瞼の裏に思い浮かべた。
「美少女はいくらいてもよい、余は常々そう思っているわけだが!
―――時にそちらのアナという少女も、フードの下にはステンノやエウリュアレに負けぬ美貌を持っているはずだと、余のセンサーが強く反応して……」
「―――ありません。私が、その双神ほど美しいなどということは。
ありえるはずが、ないです」
ぎゅうとフードを掴み、自分の顔を隠すように。
彼女はそうしたまま、踵を返した。
そのまま甲板から船内に入っていってしまう。
力説していたネロが固まって、やがてうろたえ始めた。
「ぬ、ぬ、むむ……? 何だ、余は何かやってしまったか……?
容姿を誉めそやすのが禁忌である民であったのか……?
そ、そのようなつもりはなかったのだぞ? ただお近づきに、とな?」
オロオロとしているネロを見つめ、ハサンが横の男に向け呟く。
船上でまでは、彼も姿を消したままではいないようだ。
「ランサー殿、教えて差し上げないのですか?」
「何をどう教えろってんだよ」
集まった情報で、魔獣の女神の“神殿”の正体は割れたも同然だ。
もっとも女神級の規模で展開した時、どれほどのものになるかは結局不明。
「しかし、魔獣の女神ねえ……まあその血から魔獣を生んだ女神ではあるんだろうが」
「ふむ。まあ、ウルクについて落ち着いたら情報共有すればよろしいでしょう。
魔術師殿やダ・ヴィンチ殿ならば、何か思い至ることもあるやもしれませんし」
そう言って話を畳み、ハサンが警戒に戻る。
そんな彼を見つつ、クー・フーリンが溜息をひとつ。
もうそろそろ、どこかの街で出会った死後の知り合いコンプリートである。
まあ今回のライダーは、既に冬木で同じように顔を合わせていたが。
後は侍が一人くらいなものか。
「ウン千年歴史があっても、意外と世界は狭いもんだな」
「何だと? 牛若丸が落とした魔獣の首を前線に並べている?
魔獣相手に威嚇になるか!
エアンナに送る研究材料はとうに溢れている、さっさと全部燃やせ!」
「ギルガメッシュ王!
山にこもった茨木童子殿が悪霊を追い出し、夜間になると平地に幽霊が溢れます!
それが原因で幽霊が怖いとレオニダス殿が狂乱し、夜戦が危うく!」
「自分こそが幽霊だろうが! 何を寝言をほざいている!
鏡を見て出直してこいと言っておけ!」
「巴御前殿と風魔小太郎殿は早急に鬼討ち取るべし、と。
出陣の許可の願いが……」
「そんな余裕があるか戯け!
放っておいて何の問題もない小鬼に割く戦力など兵士一人分ないわ!」
そこでギロリ、と。
兵士を怒鳴りつけている金髪の男―――英雄王ギルガメッシュ。
彼が玉座から入口の方へと視線を向けた。
聖塔ジグラット。
メソポタミア文明の中心、都市ウルク。
その更に中心である塔の中で、王はいきり立って声を荒げた。
「天草四郎時貞! 誰が持ち場を離れろ、と命じた!
「私が戦況を良くするために必要だと思い、した事です」
一番前に立っていた天草が、そう言って僅かに頭を下げる。
そんな彼に対し怒鳴り声から後に続くのは。
更に荒ぶったものかと思えばしかし、平坦なものだった。
「そうか、では仕方ない。
各々魔獣を狩り最高の結果を出せ、とだけ命じたのは
それに見合う成果を持ち帰った、というのであれば認めぬわけにはいかぬだろうよ」
「エルキドゥを見かけ、即座の対応が必要と判断しました。
もっとも、彼らはそう危うげなく彼を追い払ってみせましたが」
彼から報告を受け取り、王が片眉を僅かに上げる。
「ほう……あれがな。まあよい、貴様はさっさと壁に戻れ。
貴様の仕事は、レオニダスの奴が動けるよう悪霊どもを冥界に還すことだ」
「あと弁慶殿が死にそうになりながら、牛若丸殿と巴御前殿を対面させぬように頑張っておいでで、当人から誰か手伝って欲しいとの声も頂いております!」
「それはそれは。
ではそちらを私がこなし、弁慶殿にこそ悪霊祓いを担当して頂きましょうか。
彼がそれでいい、というならの話になるでしょうが。
では、私はここまで。また会う事があれば、よろしくお願いします」
ギルガメッシュ王の指令、そして兵士からの追加オーダー。
両方を受けた天草が、その場で踵を返す。
このまま前線であるバビロニアまで取って返す、ということなのだろう。
「さて。ではこちらの要件をお願いしようか、ギルガメッシュ王。
見ての通り、カルデアからのお客様だ」
「うむ。早急に帰れ」
さらっと。
マーリンから紹介された瞬間、足を前に出したオルガマリー。
彼女の一歩が床を踏み締める前に、王ははっきりとそう口にした。
そのまま何を言う事もなく、玉座の横に山のように積まれた粘土板に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっとそれは……! いえ、その、お待ちくださいギルガメッシュ王。
わたしたちは魔術王による人理焼却を……」
「知っている。理解した上で言っているのだ、阿呆。
さっさと帰れ、とな。見ての通り
王であるが故の仕事を山積みしているが故に、帰れ、なのだ。馬鹿どもめが。
それ以上語る事はない、と。
真紅の瞳で一度カルデアの者たちを睨むと、彼は粘土板に向き直る。
「……全然取り次ぎになってなくない?」
言って、ソウゴがマーリンを振り返る。
彼は困った風に肩を竦めながら微笑み、それだけだ。
「王よ。察するところ、彼らは王の喚ばれたサーヴァントの方々に匹敵する戦士たちなのでは?
ではそのように無碍にするような真似は……」
「黙れシドゥリ、そんな問題ではない。
もし仮に
その後には今度は互いを滅ぼし合う、と言っているのだ。
人理を守りたいとほざくなら、さっさと荷を纏めてカルデアとやらに帰れ」
一切歩み寄る余地はない、と。
何の迷いもなくギルガメッシュ王は断言する。
ベールで口元を隠した側近らしき女性の言葉も一刀両断。
それほどの強硬な姿勢に対し、クー・フーリンやガウェインが眉を顰める。
ギルガメッシュ王は最早視線一つこちらに向けない。
ただ手に取った粘土板に目を落とすばかりで、完全に話を終わらせていた。
「ギルガメッシュ王もイシュタルと同じ事を言うんだね……」
ぽつり、と。
その態度を前にした立香が落胆した様子で、そう呟く。
―――瞬間。
「――――ふは」
笑い声が漏れる。
驚いた様子で玉座の王に向け、視線を向ける一同。
王は全力で堪えるように、小刻みに体を震わせている。
が、それでも耐え切れなくなったのか。
「ふはははははははははは! ふは! ふははははははははははははは!!
ハハハハハハハハ! ハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハッ!!
フハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――――ッ!!!」
「……王?」
粘土板から顔を上げ、王の笑い声が噴水のように噴き出した。
何がおかしいのか分からず、首を傾げるシドゥリと呼ばれた女性。
「クッ、フハハハ―――! あのイシュタルが! 赤子の夜泣きより周囲を顧みない程度の情緒しか持たない、あのイシュタルが! お前たちに帰れ、と! ウルクを訪れるなと! こともあろうに
粘土板を持つ手が震える。
そればかりか、周囲に積み上げられていた粘土板の山までもが。
王が全力で放つ爆笑の勢いで、ぐわんぐわんと大きく揺れる。
シドゥリがすいと手を上げて、兵士を呼び寄せた。
彼女の指示に従い、その者たちは周囲の粘土板を押さえ付ける。
数分に及ぶ大爆笑。
やがてその声は勢いを失っていき、消える。
それを経たギルガメッシュはしかし、それでも腹を押さえながら震え続けていた。
「ク……ッ! フフ、ハハハ……ッ! ふ、は……! いや。
あれだ、あれだぞシドゥリ。相性の良い人の身を器となし、あれを降霊させた巫女所の者。
つまりはシドゥリ、お前の管轄だ。ぐ、ふふ……ッ!
反省せねばなるまい。
「はあ……」
何を言いたいのか、と。
シドゥリもまた不思議そうに首を傾げている。
彼女よりギルガメッシュ王の事を知らないカルデア側はなおさらだ。
いきなり追い出しにかかったと思えば、だ。
イシュタルの話を聞いて大爆笑。
彼の中で何が起こっているのか、さっぱり分からない。
「あのイシュタルに一般的と言えるレベルの知性を与えたのだ!
そんな奇蹟を成し遂げるなど、もはや全人類を賢者にするのと変わらんではないか!
いいや、それよりもなお難しいだろう。神の権能などより余程の神業を見たわ。
それほどの奇蹟、これほどの偉業を成す宝物など、我が蔵にすら一つとして存在しない!」
言われて、困ったように軽く首を横に倒すシドゥリ。
彼女が少し悩み―――ふと思いついたように、言葉を返す。
「―――それはそれは。お褒めに預かり光栄です、王よ。
ですがその言葉は余りに過分かと」
「ほう?
「いいえ。王から賜る言葉を跳ね除けるようで私も心苦しいのですが……
自分が気に入らないから、と。
部下が御前に招いた客人を、話も聞かずに追い返す王一人矯正できぬ非才の身ですので。
イシュタル様に佳き影響を与えられた、という言葉はありがたく。
しかし全人類を賢者に導ける、などという評価はとてもとても」
申し訳なさそうにシドゥリは頭を垂れる。
王が赤子の夜泣き以上に迷惑だ、と称したイシュタル。
そんな神様にまともな知性を与えた手腕こそを、王は確かに称賛した。
馬鹿を改心させるのが上手過ぎる、と。
そう言って誉めた彼女の言葉を無視し、我儘を徹すとすれば―――
自分は、シドゥリたちの手腕により改善されたイシュタル以下の知能であると。
そう標榜することに他ならないのだ。
首から『自分はイシュタル以下』と看板を提げるかどうか。
その岐路に立たされたギルガメッシュが、尋常ではない引き攣った表情を浮かべる。
「―――――――――――ハ。
……いや、笑うに任せて適当な言葉を並べるべきではなかったな。本音であったが。
王の失態をそこまで容赦なく衝くとは、いやはや流石。
「ありがとうございます」
褒めてないという表情を浮かべつつ、彼は面倒そうにカルデアの者たちに向き直る。
一通りを見回して、一瞬ソウゴに目を止めて。
僅か、忌々しげに眉を顰めた。
「……まあよい。側近よりの忠言である、多少は融通を効かせてやろう。
―――さて、早々に終わらせるぞ。
貴様たちがいようがいまいが、見ての通り
そう言って王は玉座に座り直し、肘をかけた。
人を神の許へと留める天の楔。
その役目を放棄し、不老不死により見届ける事さえも取り止め。
ただ人の王として玉座より未来に続く道を“見据える”事を選んだ王。
故にこそ、彼は一切その存在とは相容れない。
なぜって、当然の話だ。
だってその姿はまるで―――
不老不死の霊草を口にし、人を見届ける事を選んだ
終わる筈の時代の楔として、永遠に君臨する孤独の王者。
一つの時代で星を縫い留める、平成の楔。
故に彼とその存在が相容れる事は一切ありえない。
人の理の外から正しく人を治めんとする神王オジマンディアス。
彼とならば、あるいは恐らく言葉を交わせるのかもしれない。
だからこそ。
超越者として人の世の土台を布き、王として眠りについた彼。
英雄王ギルガメッシュにとって、それは―――
という話を。
あらかじめアクセルゼロオーダーなどで詳しく書こうと思っていました。
ええ、賢王ギルガメッシュでなく。
英雄王ギルガメッシュの視点から、書こうと思っていたのです。
ええ、はい。少し前までは……そう思っていたのですが。
――――やめました。
要するにソウゴとギルガメッシュの相性は最悪。
オーマジオウという結末。それはまるで、蛇に奪われることなく不老不死の霊薬を口にしたifの自分にさえ感じられるがために、印象は最悪中の最悪である。それでもその分岐を既に経た気性である賢王であれば、ある程度の妥協は発生するので一応会話はできるくらい。
天の楔としての使命を放棄し、己が王道を見出したギルガメッシュ。
平成の楔として世界を固定し、それを己の覇道と見定めたオーマジオウ。
この両者は、一切合切相容れない。
逆に超越者として永遠に君臨する事こそ至上と考えるオジマンなどとの相性は悪くない、と。そういう風に解釈してますよというお話。
(……? ? ??? ……? ?? 平成の楔……?
平成の……楔……?? ??? 平? 成……? ジオジオ?)