Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ひとつではない過去と未来2016

 

 

 

「して? わざわざ王宮にまで取り次いだのだ。

 貴様らから(オレ)に言いたい事があるのだろうよ」

 

 面倒そうな王からの問いかけ。

 それに対し、オルガマリーは彼の前に跪いた。

 とりあえず彼女に続いて、同じような姿勢をみせるカルデアの者たち。

 サーヴァントの中には明らかに嫌々やるものもいるが、仕方なし。

 

「……はい。我々は人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 西暦2016年の未来より、その後の未来が焼却されたがため、それを取り戻すべく―――」

 

「ほーう。それは痛快な話だ、よく励めよ。解散」

 

 言って、次の粘土板へと手を伸ばすギルガメッシュ。

 一言聞いたところで言葉を打ち切られてしまった。

 そこまでされて、思い切り眉をひくつかせるオルガマリー。

 

「……王よ」

 

「ハ! (オレ)が全てを見通す眼を持つと知りながら、そのような挨拶から入る間抜けどもに合わせてやる必要がどこにある。

 忙しい、と既に(オレ)は告げたはずだ。まして貴様らの節穴にその光景が映っているかどうかは知らんが、ここには山ほど(オレ)手ずから処理せねばならん案件が溜まっている。

 必要なことがあるなら早急に口にしろと言っているのだ、(オレ)は」

 

 たしなめるシドゥリ。

 しかし王は、苛立ちと共にそう吐き捨てる。

 それに対して、オルガマリーこそ押し黙らされた。

 事実として、ギルガメッシュ王の玉座、その左右背後には高く積まれた粘土板の山。

 忙しい、というのは何ら誇張でもない事実にすぎないだろう。

 

「―――失礼しました。わたしたちは魔術王がこの時代に降ろした聖杯……いまはエルキドゥの心臓となっている聖杯を回収し、時代の修正を行うことを目的としています」

 

 エルキドゥの名を出され、僅かに目を細めるギルガメッシュ。

 だが彼はそこでは口を挟まず、続けろと言うように顎をしゃくってみせた。

 

「それだけではなく、三女神同盟なる存在。

 こちらが把握しているのは、大地に氾濫している魔獣は女神の手のものであること。

 そしてエルキドゥの言葉を信じるなら、その女神はギリシャから流れてきた、と。

 他神話の神が流れてきたもの、となればそれは明らかな人理の異常です。

 エルキドゥが協力していることからも、人理焼却との関係は深いものと思われます。

 それらへの対処を行うため、ギルガメッシュ王に協力を求めて我々は―――」

 

 がらん、と。手にしてた粘土板を元の位置に戻す。

 仕方なさげに粘土板に伸びた腕は、玉座にまで引き戻される。

 その音で言葉を止めたオルガマリーが、困惑するように彼を見上げた。

 

「……この時代に降りてきて早々、その程度には見識は広めたか。

 どうせマーリンは何も教えていないだろう。

 その状況で情報は集めていた、というなら思っていたよりはまともそうで何より」

 

 ギルガメッシュがちらりとマーリンに視線を向ける。

 不機嫌そうな睨みを受けて、しかし彼は気の抜けた顔で笑い返すだけ。

 

「―――は、はい。それは、どうも……」

 

 意想外に素直に称賛。称賛?

 少なくとも最低限は認めた、という様子を見せられ呆気にとられる。

 が、

 

「その上で、改めて返答をくれてやる。

 人理を守るために(オレ)と協力する? 馬鹿も休み休み言え。

 (オレ)こそは絶対の王であり、都市ウルクを中心とし地上を統べる者。

 この地上を守るのは、それを治める(オレ)の務めよ。

 未来から流れ込んできた余所者が、この(オレ)と対等の取引が叶うとでも思ったか」

 

「―――――」

 

 心底から。

 貴様たちの話は筋違いにも程がある、と。

 黄金の王はそう断言して、玉座に背を預けた。

 

「未来―――貴様たちの時代を守りたければ勝手に守れ。

 (オレ)が守るのは(オレ)の国、(オレ)の時代。

 今まさに続くこの時代のみ。

 いいや、(オレ)でなくともその真実は変わるまい。

 100年後だろうが1000年後だろうが、その時代を守るのは常にその時代の人間よ」

 

 言った彼は玉座から立ち上がり、目の前の者たちを睥睨する。

 

「貴様たちの今までの旅路のように、未来を救うための戦いをしたいのならば。

 この戦いにもし(オレ)が負け、滅亡寸前まで追いつめられた時は勝手にするがいい。

 少なくとも今、貴様たちに飛び付く理由はこちらにはない」

 

「そう言って、私のようなサーヴァントは使っているだろう?」

 

「ふん、貴様たちは(オレ)の意志で喚んだものだ。当然使い潰す。

 だがそやつらは勝手に来ただけのもの。知ったことではない。

 シドゥリよ、貴様のお節介分の言葉は交わした。

 既にそれなりに時間を無駄に浪費した。仕事に戻るぞ」

 

 今度こそ、ギルガメッシュは彼らから意識を外した。

 もはやそれを戻す気は一切ないだろう。

 シドゥリもそれを理解したのか、困った風に首を傾いでいる。

 

 やれやれ、と。

 そこでマーリンが一歩前に進み出て、王に陳情した。

 

「では仕方ない。カルデアの者たちに逗留くらいなら許可は貰えるかな?

 彼らを率先して連れてきた私の顔を立てると思って」

 

「貴様など関係なく、必要な手続きを済ませばそのくらいくれてやるわ。

 シドゥリ、駆け込みの滞在者だ。さっさと処理して追い返せ。

 これは星読みの報告か? ―――ふん、なるほどそうなるか……」

 

 ぴしゃりと言い切り、王は仕事に向き直る。

 崩されていく粘土板の山

 だが続けて駆け込んでくる兵士によって、石板は新たに積み上がっていく。

 

 そんな彼から離れ、シドゥリがオルガマリーたちの前に来た。

 

「そういう事です。案内をしますので、こちらへどうぞ」

 

「え、ええ。よろしく、お願い……」

 

 彼女の導きに従い、着いていく。

 ジグラットから出て、階段を下って地上を目指し―――

 

 

 

 

 長い階段を下りながら、眼下に広がるウルクの街並みを眺めつつ。

 その道中で、ツクヨミがぽつりと呟いた。

 

「怒られた、のよね。邪魔するなって」

 

「むぅ。まあ、なんだ。余には何となく分かる話だ。

 その時ツクヨミはいなかったが、余も生きている間にソウゴたちと会っていたのだから。

 いや正直その時はよく分かってはいなかったのだが。

 それでも、今を生きる者としての矜持、と言われれば分からぬはずもない」

 

 それこそシドゥリのおかげで、随分と言葉を尽くしてくれたのだろう。

 ギルガメッシュは、自分たちはお前たちに守られる謂れはない、と断言した。

 現在を生きる人間にとって、未来の存亡など関係ない。

 現在を懸けて死力を尽くす彼らにとって、未来の滅亡など目を向けるものではない。

 

 人理を守るべく降臨したサーヴァントたちとは違う。

 今を確かに生きる人間。そういう者たちが集った国家。

 それが今、確かに目の前に拡がる滅亡に立ち向かっているのだ、と。

 

 今まで巡ってきた多くの時代。

 それはカルデアの助力がなければ、蹂躙されていた時代だった。

 異邦の存在である魔術王の手のものと、異邦の存在であるカルデアやサーヴァント。

 多くの場合はそれが中心となっている戦いだった。

 

 生前の皇帝として戦っていたネロも、来訪者を中心に据えたことは否定できない。

 同じく、ドレイクもまた面倒そうに頭を掻く。

 

 「んー、まあ。アタシからすれば、何か変な事態に一緒に巻き込まれてる奴ら。

 くらいなもんで、だからあんま気にしてなかったってとこはあるかもねえ」

 

 今まで彼らが共闘してきた者たち。

 人理を守るべくその時代に降臨したサーヴァントたちとは根本が違う。

 異常な事態に惑わされ、どうすればいいのかも分からずいた現地の者とも違う。

 

 彼らは事態を把握し、それに立ち向かうために一丸となっている存在だ。

 この時代に生きる、今まさに押し寄せている破滅の当事者だ。

 

 未来に生きるカルデアの者たちにとって、この時代は救わねばならないもの。

 ここが無ければ、自分たちの時代も無くなるのだから。

 

 けれど。

 ここではない別の時代を守るために、この時代を守ること。

 この時代で生きるために、この時代を守ること。

 それはまったくもって別なものなのだ、と。

 

 この時代の戦いにおいて先頭に立つ王は、カルデアを追い返した。

 やるべきことが同じでも、目的意識を完全に違えた者となど共闘する筈がない、と。

 

「まあ、言い分としては随分と真っ当だったな。

 正直アレがどうしてああなるのか……いや、アレが最終的にあそこまで成長すんのか?」

 

「―――確かに、ギルガメッシュ王の言い分は分かります。

 こちらにとっては変えられてはいけない過去でも、彼らにとってはこれから進む現在。

 我らサーヴァントが、生者にとってはあくまで一時の援けである事と同じ。

 未来の人間による援助も、現代の人間にとってはあくまで手助けでしかない。

 必要ない、と言われればそれまででしょう」

 

 ガウェインが困ったように眉を顰める。

 その言葉にツクヨミは僅かに目を細めて―――

 

「……確かに、そうでした」

 

 マシュの声に、思わず視線をそちらに向けた。

 

 彼女はぼんやりと、つい最近ロマニと交わした言葉が頭に浮かべる。

 人は現在を積み重ねるもの、と。

 同時にもう一つ、いつか聞いた言葉を思い返す。

 

 ちらり、と。マシュが己のマスターへと視線を送る。

 目を向けられた彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

 いつか彼女は、魔術王にさえ啖呵を切ったこともあった。

 自分たちは救われると決まっているから生きているのではない、と。

 その先に何があっても、現在を生きているのだ、と。

 

「マシュ?」

 

「―――この時代の人々は、未来があると知っているから生きているのではない。

 そんな、当たり前の事を……」

 

 しゅん、と肩を落とすマシュ。

 

 もし仮に―――

 自身の命の意味を、大切な人の住む時代を救うためのものと定義したとして。

 だから、そのためだけに生きてはいけないのだ、と。

 改めて思い知る。

 どこか、この時代を―――これまでの戦いを、過程であると考えていたのだろうか。

 

 Dr.ロマニは神様の生き方と例えたけれど、つまりはそういうことだ。

 視点が違う。立っている場所が違う。

 この地に生きる人たちと、まったく視ているものが違ってしまっていた。

 

「……そう気を落とすものではあるまい。

 戦う理由が違う、など。そんなもの、ごく当たり前の話だ

 もっと俗な理由で戦う者など幾らでもいる」

 

 二世がそう宥め、気掛かりそうな視線をオルガマリーに向ける。

 彼女はそれを受け止めて、僅かに眉を上げた。

 

「ですが……」

 

 オルガマリーからは、立香に向けて視線が飛ぶ。

 向けられた彼女が思考して、思い浮かぶのは一人の女性。

 

 善く生き、そして安らかに眠りについた、彼女たちの旅路と交わった人。

 異常に見舞われた世界の中、しかし。

 彼女はごく当たり前に生き。そして、ごく当たり前に亡くなった。

 起こっている異常事態に大きく関わる事なく。

 彼女たちがそれに関わっていると知る事なく。

 ただただ、自分の人生に真摯に向き合い抜いた人。

 

 ―――きっとその生き方は、何か特別なものではない。

 この世界に生きている全ての人が、そうなのだ。

 

 人類史を懸けた戦いは、この世界で起こっている戦いの一つでしかない。

 規模が大きかろうと、小さかろうと、変わりない。

 

「―――じゃあ、一緒に戦えばいいんじゃないかな?」

 

 だからこそ、と。

 少し俯いたマシュに対して、立香が声をかける。

 

「いえ、ですが……ギルガメッシュ王が……」

 

「確かに私たちは未来からきた余所者だけどさ。

 でも、いま、私たちはここにいる。この時代で生きているんだから。

 例えここが私たちに通過点であっても、いまここで生きてることに変わりはない。

 いるべき時代が遥か未来でも、だからってここにいる私たちがいなくなるわけじゃない。

 だから、後は私たちの心ひとつ。

 どんな時だって変わらない。私たちはずっと、現在(いま)を生きるために戦う。

 そして、一緒に戦う、力を合わせるってことは、相手と一緒に生きること」

 

 未来を守るために戦うことと、現在を生きるために戦うこと。

 それは同じようで違うこと。

 けれど、けして交わらないものではない。

 未来を守るために、現在を生きるために、どちらも果たして戦えばいい。

 現在を生きて、未来のために、戦えばいい。

 

「私たちは未来の人間だけど、いま生きているのはこの時代なんだから」

 

「―――はい、そうですね。

 すみません、少し……ええと、考えることがあって」

 

 マスターからの言葉に微笑み、マシュが恥じいるように肩を揺する。

 彼女は謝罪のために軽く頭を下げて―――

 立香の言葉に小さく目を開く、ツクヨミの姿を見た。

 驚いているような彼女に首を傾げ、声をかけようとして。

 

「そういえばソウゴは珍しく黙っていたな。

 ああいうタイプには喧嘩を売るのが常のように思っていたが」

 

 アタランテが珍しそうに、前を行くソウゴに声をかける。

 今まさに立香が出した、いわば総取りの意見。

 未来も現在も、全て一緒に守り抜くといった言葉。

 そういった話は、大体彼が挑戦状のように叩き付けるのが常だと思っていた、と。

 

「ん、うーん。そうかな?」

 

「いや、完全にそうだろう?」

 

 呆れるようにするアタランテに対し、首を傾げるソウゴ。

 マシュはツクヨミから惚ける彼に視線を移し。

 

「でしたら。あなた方がこの地で生きている、と王に証明できるように。

 まずはこのウルク市内の様々な仕事を見て回る、というのはどうでしょうか」

 

 その前に、先頭を行くシドゥリの声に引かれて頭を動かした。

 王の側近からの言葉。

 真っ先に反応し、声を返すのはオルガマリー。

 

「……ウルク市の仕事、ですか?」

 

「ええ。魔獣戦線、バビロニアの壁。

 その戦場を支えるために、今のウルクではどこでも人手が足りていません。

 あなた方がこの都市の中で仕事を求める、というならば。

 この国を運営するものとして、王はあなた方に必要な仕事を割り振るでしょう」

 

 ギルガメッシュ王は、滞在は好きにしろと言った。

 ルール通りにするならば、正しく扱うと。

 ならば、仕事を求めるものとして声をあげれば、仕事を与えてくれるはず。

 シドゥリはそう言って、ベールに覆われた口元を綻ばせた。

 

 ―――だがそれでは、魔獣戦線への参戦は叶わない。

 絶対魔獣戦線バビロニアは、兵士の戦場だ。

 王が召喚したサーヴァントが指揮し兵士が戦う、戦場と言う名の仕事場。

 

 王の口振りからして、そう簡単に彼女たちはそちらには送られない。

 つまりそちらで何があっても、カルデアは後手に回ることになる。

 

 けれど。

 彼らだけで好きに動き、相手を倒せるとまでは思い上がれない。

 ギルガメッシュ王―――ウルクとの共闘は、するべきだ。

 

「……いいんじゃない? もし何かあったら、その時はその時でしょ」

 

「常磐?」

 

「俺たちは今を生きているからこそ、何かあったら自分がやるべきことをする。

 あの王様だって、それはたぶん否定しないんじゃないかな」

 

 きつく目を眇めて、そう呟くソウゴ。

 オルガマリーはその様子に、戸惑うように目を瞬かせる。

 

 彼を前にして、シドゥリが僅かに目を細めた。

 

 ―――王が必要以上に気分を荒げたのは、彼ら全員に対してではない。

 恐らく、彼だけなのだ。王が視界に入れ、荒ぶった原因となったのは。

 怒ったのではない。憐れんだわけでもない。ただ、荒ぶった。

 

 そして、そうだったからには。

 王がああして口にした言葉もまた、主に少年に向けて放たれた言葉だ。

 

 イシュタル神は少年に対し、ギルガメッシュ王との邂逅を心配する言葉を残した。

 であれば。

 シドゥリがそれを引き合いに出した以上、王も同じことをするはずだ。

 内心はどうあれ、少年への心配―――あるいは叱責を。

 

 どういった関係でそうなったかまでは彼女には理解できない。

 が、それでもそうなっていることくらい分かる。

 様子を見た限りでは、少年の方も王の言葉に何かを感じているのだろう。

 

 その事実を確かめて、彼女は一つ息を吐く。

 声を荒げたほんの一時だったけれど、まるで友を喪い旅立った頃の王のようだった、と。

 よほど心が動かされたらしい、自身の主の事を想う。

 

「―――とりあえず、道すがら考えてみてください。

 まずはあなた方の宿舎とする場所まで案内しましょう」

 

 

 

 

「おや、珍しい。シドゥリ殿が市井に紛れているとは。

 そして後ろに続くのは……ああ、天草殿が言っていた、カルデアの者たちですね」

 

 シドゥリの案内の道中、ひょいとどこかの屋根上から舞い降りる少女。

 服を纏わず、装飾だけ纏ったかのような。

 そんなあまりにもあんまりな衣装の少女が、彼らの前に現れた。

 

「まあ、牛若丸様。どうされたのです? 普段は戦線から離れないというのに」

 

「別に離れたくて離れたわけでもありません。

 ただ先日はどうにも魔獣の数が少なかったもので。

 弁慶の奴めが私の俊足でこの事実を王に報告してきてくれと、頭を地面に擦り付けて頼むものですから。まあ丁度先程すれ違った天草殿から聞いたところ、森の方に巨竜を出したからそうなった、と考えるのが妥当という判断に落ち着きましたが。一応」

 

 敵が少ない、という事は戦線が広がらない、ということだ。

 長大なバビロニアの壁と、そこに押し寄せてくる魔獣の群れ。

 そんな戦場で戦えば、通常は最早誰がどこで戦っているか分からなくなる。

 

 だがそれほどの数ではなかった場合、どこに誰がいるか分かる。分かってしまう。

 その事実をもって、弁慶が冷や汗を流す理由はただ一つ。

 

 シドゥリも理由はよく知らないが、とにかく会わせてはいけないと言われている顔。

 即ち、牛若丸と巴御前。

 彼女たちが顔を合わせないようにする、弁慶苦肉の策だったのだろう。

 

 そうしているうちにも、牛若はカルデアの方に軽く頭を下げていた。

 

「主殿―――ウルクの王、ギルガメッシュのしもべ。

 サーヴァント・ライダー、牛若丸です」

 

 牛若丸。名高き日本の武将の一人、源義経の幼名。

 それが少女の姿をしている事におや、と。

 しかしまあ突っ込むほどでもないかな、と。

 スルーしつつ、彼女たちもまた自己紹介を済ませてしまう。

 

「……では、一応は主殿に状況を報告に行きますので。これにて。」

 

 彼女は最後に、最後尾で仕方なくついてきているアナにちらりと一目を送り。

 颯爽と屋根を駆け上がって、ジグラットに向け疾走していった。

 

「魔獣戦線は安定している、のでしょうね。

 指揮官の一人がああも自由に動ける……天草もそうだったけれど」

 

「ええ。誰もが必死に戦っていますから。

 兵士だけではなく、それを支える者たちも。

 だからこそ。あなたたちがまず見るべきは、そちらからであるべきかと。

 さて、そろそろ着きますよ。

 こちらの路地の奥に、元は酒場だったそれなりに広い建物があります」

 

 そう言って路地に入っていくシドゥリ。

 彼女に続き、オルガマリーたちもそこに入っていった。

 

 丁度、そのタイミングで。

 パシャリ、と小さな音がする。

 別に何か害意を感じるわけでもない、何かの異音。

 それに対して、すぐさまアタランテは獣の耳を動かしつつ振り返り―――

 

 ただ、流れ行く人の波だけを見た。

 

「…………ハサン?」

 

「どうかなさいましたか?」

 

 姿を見せず、声だけで問い返してくるハサン・サッバーハ。

 その反応に、アタランテの方こそ顔を顰める。

 

「何か……誰か、我らを見ていなかったか?」

 

「む。奇異なもの、という視線は最初から集めていますので、どうでしょうか。

 大抵はシドゥリ殿が先導していると納得している様子ですが。

 少なくとも、何らかの攻撃的な意図を感じるようなことはありませんでした」

 

 目の前の光景を見て感じることは。

 またギルガメッシュ王が何かやらせてるのか、程度の話。

 そんな納得を得て、民はすぐに目の前の日常に帰る。

 そうしなかった者はほとんどいない、と。

 

「……それはまあ、私もだが。

 ――――耳慣れぬ音に違和感を覚えただけ、か? あれは何の……」

 

「アーチャー、アサシン? 置いていくわよ?」

 

 先に歩いて行ったマスターにそう言われ、アタランテが思考を打ち切る。

 彼女の聴覚をもってしても、掠めるような小さな音。

 別に悪意も害意も感じない、何かちょっとした違和感。

 とりあえず頭の中に残しておこう、と。

 そうとだけ考えて、彼女たちもまた路地裏に踏み込んでいった。

 

 

 




 
過去にも鎌田はいるし、未来にも鎌田はいる。
未来はいずれ過去になり、つまり未来の鎌田はいずれ過去の鎌田になる。
過去の鎌田は過去の鎌田より過去の鎌田になり、新たな未来の鎌田も生まれる。
つまり未来も過去も鎌田も無限に存在する。無限に連なる鏡合わせの鎌田。

恐らく私が言いたい事は全て誤解なく伝わったと思うのでここまでにしておこう。
 
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