Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「それで、お届け先はどこでしょうか先輩?」
「えっと、この道の奥にあるお家? 芸術家の……
あ、それってもしかして粘土? もしかしなくても凄い重いよね」
「いえ、大丈夫ですマスター。デミ・サーヴァントにお任せあれ!」
粘土の詰まった箱を持ち上げつつ、着いてくるマシュを先導。
立香は目的地を探して視線を左右に振る。
やがてその家を見つけたのか、彼女はそちらに足を向けた。
マシュもそれに続き、重量物を危うげなく運んでいく。
入口まで辿り着いた立香が、その場で大きく声を上げた。
「ごめんくださーい。
荷物を持ってきました、えっと、芸術家の……カドヤさん?」
―――はて、と。
カドヤという響きはどこかで聞いたような。
まあ、こうして配達をやっていれば似たような名前の一つや二つ耳にするか。
「そこに置いといていい。ご苦労さん」
家の奥に、何やら山のような粘土に向き合っている男性が見える。
彼はこちらを見ずに、手をパタパタを振っていた。
目の前にある粘土の山は、何やらよく分からない形状だ。
あれが芸術というのだろうか。
ダ・ヴィンチちゃんやネロなら分かるかもしれないが、立香は門外漢。
その手のことはさっぱり分からない。
「ではこちらに。ええと、ではわたしたちはこれで。
頑張ってください、カドヤさん!」
マシュがそろりと出入りの邪魔にならない程度の場所に荷物を下ろす。
彼女の声に対し、続けてまた手をぱたぱたと振るうカドヤさん。
いつまでもそうしているわけにはいかない。
彼女たちには、まだまだ運ばねばならないものはあるのだ。
立香とマシュは顔を合わせて、互いにひとつ頷いて。
次の仕事、新たな荷物を取りに戻るため、走り出した。
そんな相手が消えたのを見計らい―――
ふらり、と。
『逢魔降臨暦』を手にした黒ウォズが、その場に現れた。
「この本によれば、普通の高校生、常磐ソウゴ。
彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。
常磐ソウゴとカルデアが訪れた最後の特異点、紀元前2655年のメソポタミア。
彼らは都市ウルクに拠点を構え、いわゆる“何でも屋”を始めていた」
粘土に向き合っていた男。
彼が滔々と語りだしたそんなコートの男の背中に視線を向けた。
非常に胡乱げな視線で黒ウォズの背中を見据えつつ、吐き捨てるのは呆れの言葉。
「誰に言ってるんだ、お前」
「―――少なくとも君にではないよ」
「だったら外でやれ、鬱陶しい」
肩を竦めて返す黒ウォズ。
そんな相手に対して、カドヤ―――門矢士は溜息を一つ吐き落とした。
「……なんでわたし、こんな事してるんだろう? って、たまになるのよね。
わたし、カルデアの所長なんだけど」
テーブルの上を片付け、拭きながら。
オルガマリーが自分の妙に慣れた手つきを睨む。
自分で自分の手を睨む、というような自傷。
それを見ながら、ソウゴが返す。
「今回は許可とったじゃん。前は無許可だったけど」
そういうことじゃない、と。
オルガマリーの睨みが今度は彼の背中に向けられた。
前はドーナツとドリンクの無許可販売だった。
が、今回はちゃんと王様に許可を取った酒場でのバイトだ。
一歩前進とも言える。
「そうそう! いいもんじゃないか、何よりいつでも酒が飲めるのがいい!
船乗りに陸で仕事しろ、ってのはちょいとあれだが。
酒の現品払いと言われちゃ、こっちだって乗るしかないってもんさ!」
従業員になっているはずなのになぜか客と一緒に飲んでいるドレイクが言う。
まだ昼だというのに、これである。
「ちょっと、ドレイク。飲んでばっかいないで、こっちも手伝ってよ?」
「ふむ。手が足りない、というのであれば私が―――」
「ガウェインは配膳だけでいいの。配膳以外しないで」
なぜ、と。料理自慢が肩を落とす。
せめてガウェインとフィンを逆にすべきだった、と。
采配の失敗にツクヨミは大仰に溜息ひとつ。
「結構繁盛してるんだよね。手が足りないくらいに」
座席が埋まった結果、ソウゴの手が止まる。
そんな酒場の様子を見渡しつつ、彼はふぅむと唸った。
「ええ。客となっているのは、魔獣戦線から帰還した兵士が主でしょう。
彼らはここで英気を養い、体を休めた後、再び戦場に戻っていく。
―――こうして手伝いをしているだけでも、この場に集った彼らの士気の高さを感じます」
ソウゴの隣に並び、ガウェインがそう述べる。
滅亡を前にしているとは思えないほど、高い士気を維持した兵士たち。
だからこそ、
「まさしく、一丸となっているということでしょう。
だからこそ、我らが肩を並べるのが難しいと言えるのかもしれませんが」
彼らの士気が高く、結束が堅く、意志が強いからこそ。
外様であるカルデアとは歩調が合わないだろう、と。
そこまで口にしてから、ガウェインが苦笑する。
「その溝を埋めるための仕事の最中に言う事ではありませんでしたね。
ええ、もちろん仕事に際しても、我らもいつでも助け合える体勢を整えていきましょう。
私もいつ厨房からお呼びがかかってもいいよう、常に気を張り巡らせておきます」
「絶対呼ばないから。
所長さん、こっち手伝ってください。ガウェインは所長さんの分までそっちお願いね」
マスターからの言葉に肩を落とす太陽の騎士。
彼がとぼとぼと歩いていくのを見送り、ソウゴは目を瞑る。
―――信じること。託すこと。仲間に向けるべき意志。
それを常磐ソウゴは、真の意味で果たせているだろうか。
いいや、自分でもきっと分かっているのだ。
こうして悩みに心が沈む時点で、本当の意味では出来ていないのだと。
だから、タケルだってわざわざあんな言葉を―――
「常磐! あんたも休んでないでさっさと働きなさい!」
「あ、うん。分かってるけど」
逃げてはいけない疑問にとりあえず蓋をして、彼は動き出す。
いつかは立ち向かわなければならない、自分の心。
これに決着をつけなければ、きっと前に進めないから。
「羊のお守りか。私ではなくダビデ王の領分だろうに」
「いないものは仕方ありません。
まあ羊飼い殿と巫女殿たちが羊の毛を刈る合間、我々は護衛として働けばよいでしょう」
潜みつつも、アタランテをなだめるハサン。
ここはウルク市の郊外。
兵士の巡回もあり危険というほどでもないが、それでもたまに魔獣がやってくる。
「ふむ。まあ当然だが、女神の放った魔獣はいない。
襲撃に来るのはおよそ餓えた魔猪。であれば、私一人の輝きで十分であろうとも!」
ひらりと槍を回し、決めるフィン。
彼がちらりと視線を牧場の方に向ければ、大勢の巫女。
彼女たちは一人の例外もなく、羊のもふもふに夢中だった。
流麗なる英雄の背中に視線を向けるものは、一人もいない。
「……うむ。私の輝きに劣らず、婦女子の注目を集める羊たち。
魔獣どもよりよほどの強敵と見たが、如何か」
「どうでしょうなぁ……」
ぷらぷらと槍の穂先を揺らしつつ、フィンが己の顎に手を添える。
ハサンは光帯こそあるものの美しい青空を見上げつつ、ぼんやりと返した。
「もしや、グラニアを私から奪ったというディルムッドも羊だったのでは……?」
「どうでしょうなぁ……」
「私も羊になれば、今よりも輝き婦女子により注目されてしまう……?」
「どうでしょうなぁ……」
「羊になって何をするというのだ。
まさか羊の姿で気に入った相手に付き纏う、などとそんな阿呆な事は言うまいな?
まったく、何で私がこいつらと組まねばならんのだ。恨むぞマスター」
「えっ!? 私もフィン殿と同じ扱い!?」
男二人に纏めて呆れるアタランテ。
その突然の衝撃に、ハサンが泡を食った。
「…………別に、付き合う必要はないのですが」
「別にお前に付き合ってるわけじゃねえよ。
オレは―――おっ、そこの彼女!
美しい花はどうだい? 良ければ、オレがあんたに似合う花を見繕ってやるぜ?
良い花は、良い女を飾るために咲いてくるもんさ。
オレにできるのは、その二つを巡り会わせてやることだけ……さあ、どうだい?」
花屋の店先に立ったクー・フーリンが、通りがかりの女性に声をかける。
そのまま踏み込んでいく青い男を睨みつつ、アナは鉢植えを一つ抱えた。
店内では足腰を悪くした老婆が、申し訳なさそうに座っている。
そちらに顔を向け、問いかけるアナ。
「これはどこに置けばいいでしょう」
「ああ、ありがとう。
そっちに棚があるだろう? その上にお願いね」
どうやら老婆はもう視力も弱いらしく、指示自体も曖昧だ。
だが自分の店ならばある程度は把握しているのだろう。
そこに飾れば確かに、この彩りがより映えそうではあった。
そんな事を思いつつ、老婆の指示した場所に鉢植えを持って行く。
そうこうしている内。
フラれて戻ってきたクー・フーリンがそんな彼女の背中を眺めていた。
甲斐甲斐しく作業しているアナを見て、彼は片目を瞑って肩を竦める。
「しかし、婆さん。今までなかなか無茶してたんじゃねえか?
その目で商売……まあ、緊急事態であの金ピカが貨幣制度を持ち出すまでは、商売って話でもなかったんだろうが。とにかく、その目に足腰で客の相手とは随分無理してたもんだ」
「そうだねぇ……そうかもねぇ」
笑うクー・フーリンに、老婆もどこか誤魔化すように曖昧に笑う。
その態度に対し、アナがフードの下から彼を睨みつけた。
「―――マーリンくらいには余計なことしか言わない男ですね。
黙って仕事ができないんですか?」
「花は黙ってても魅力が伝わるかもしれねえがな。
せっかく口があるんだ、人間は自分で魅力をアピールしていかねえとな」
けらけらと笑って、その睨みを躱すクー・フーリン。
そんな彼に対して、老婆がほんの僅か微笑んだ。
「そんなことはないよ。人間だって、黙ったままだって伝わる魅力はあるものさ。
こんな老いぼれに構ってくれる、優しい子がいるもんだってね」
「はっ、そんだけ言えりゃまだ若いさ。体の老いなんざ大したこたねえ。
ホントの老いぼれは、魂の方から腐り落ちてくるからな。
っと、これ以上何か言ったら、どっかから槍が飛んできかねねえ。危ねえ危ねえ」
そう言って、彼はまた客引きに出ていった。
手持無沙汰になって、アナが顔を覆うフードを目深に引く。
そんな彼女の姿が見えているわけではないだろうけど。
老婆は、彼女に向かって微笑んだ。
「おお、軍師殿! 久しぶりではないですか!
久しぶり? いえ、あれはずっと後の時代なので、あっちでの出会いが久しぶり?」
筋骨隆々の肉体を惜しげもなく晒す、ランサーのサーヴァント。
彼は大股で二世に歩み寄ると、バンバンとその肩を叩いた。
折れそうになる体に頬を引き攣らせる二世。
「そのように理屈で考えることではないでしょう。
ご壮健のようで何より、レオニダス王」
「ははは、私は王という立場のマスターを戴くサーヴァント。
レオニダス王、ではなくレオニダスで結構ですとも。
それにそちらは、ネロ殿。
先の戦場では槍を合わせる事叶いませんでしたが、各々乗り越えられたようで何より。
ブーディカ殿とはあの後、良き決着は得られましたかな?」
ここにいるからには、勝利したのだろう。
理解していて、彼は声を昂らせながら問いかける。
それに対してネロは、不思議そうに首を傾げた。
「む? まあ色々とあったが、そなたに何か思われるような事があったか?」
「おや?」
お互いに揃って首を傾げる。
二世が仕方ないのでその間に声を割り込ませる。
「まあ女王ブーディカもカルデアに呼ばれているからな。
なんだかんだ決着した、と言っていいのではないかと思うがね」
「おお、それはそれは。
ええ、人理の危機であれば、思うところはあれど皆が結束して戦うのが最上。
ネロ殿もブーディカ殿も力を合わせている、というならそれ以上はありますまい」
「うむ。とはいえ、我らの参戦はこの地の王に拒絶されておるがな」
もちろん戦場に出向くこともできない。
故に、こうしてレオニダス王のウルクへの帰還を待ち受けたのだ。
拒絶されている、と聞いたレオニダスが首を傾げる。
「拒絶……王がですか? ふーむ」
兜ごしに顎を撫でる彼。
そんな彼がふと思いついたように、言葉を吐き出した。
「……ふむ。我らギルガメッシュ王に呼ばれたサーヴァントは、既に受肉しております。
如何な王とはいえ、七騎のサーヴァントを一人で維持する事はできませんからな。
というより、本来ならマーリン殿一人で限度だったのでしょう。
だというのに、余程の無理を通して更に六騎を揃えたのですから、感服するより他にない」
「受肉を。それは、つまり」
「ええ。我らは生きた人間のように食事をし、鍛え、眠り、魔力を自前で回復しながら戦闘を継続しています。バビロニアに詰めるのは、基本的にはマーリン殿を除く六騎のうち最低三騎。私も帰還した本日、及び明日は休日という事になっています。
よりよき肉体と精神を鍛えるためには、休息も必須ですからな」
そう言って筋肉を震わせるレオニダス。
ネロは彼の態度にほう、と頷いた。
「サーヴァント、というよりも本当に一人の人間として扱うのだな。
サーヴァントとしては維持できないが故の苦肉の策、という面もあるやもしれんが」
「此度の戦いがギルガメッシュ王の英雄としての資質を問うものであれば、彼もそのような事はしなかったでしょう。そもそもサーヴァントの召喚などしなかったはず。
ですが、この戦いは恐らくそんなものではない」
「……では、何だと?」
問い返され、何と答えるか数秒だけ悩み。
その後にそれを口にしていいのか、また数秒悩み。
しかし、何か吹っ切ったのか、彼は己の所感を素直に口にした。
「
「障害……?」
「何かを試す試練。立ちはだかる壁。前に進むために、乗り越えねばならぬもの。
人間は生きる過程において、そういったものに必ずぶつかります。
それにどう向き合うかは、各々で違うことでしょう。
ですが、いま我々が向き合っているのは、そういったものでは一切ないのです」
最前線において、もっとも魔獣と戦ってきた男が空を仰ぐ。
憎悪に塗れた魔獣の視線。
あれは確かに人間のことを見ている。
破壊すべき対象として、憎むべき怨敵として。
それならば、彼ら人間にとって生存の敵であり、踏み越えていくべきものだ。
だが、違う。
何か分からないが、戦場の空気が違う。
戦っている魔獣は確かに敵だ。
だがその背後にいるだろう大いなるものは、敵ではないと思う。
レオニダスはその感覚を明確に言葉にする事が出来ないが、間違いなく。
自分たちが戦っているのは、敵ですらないのだ。
相手は自分たちを、敵とすら見ていない。
自分たちは相手を、敵とすら見ていない。
強い弱いの話ではなく、本当に何も感じていないのだ。
恐らくは、双方共に。
「ただ……そうですね、何と言えばいいか。
いま我らの前にあるのは、ただの陥穽。特に意味もなく開いた、ただの落とし穴なのです。
何も試されていない。何も問われていない。ただ邪魔なだけのもの。
だからこそ、なのです。
何も試されず、何も問われず、ただ邪魔なだけだからこそ。
英雄にどうにか出来るものではないのです。
目の前の道に落とし穴があれば、人は飛び越えていくしかない。あるいは工夫を凝らすか。
どちらにせよ、その道を歩いている人間自身がどうにかするしかない」
「……なる、ほど。貴重な意見だった。
こちらでもあなたの感覚は共有しておこうと思う」
「申し訳ない、軍師殿。私は見ての通り理系なもので、文系はどうにも」
体育会系では? というネロの視線。
それに胸を張って鷹揚に構えることで彼は応えた。
「せっかくですので、今夜にでも挨拶に向かわせていただきます。ええと、」
「ああ、カルデアの拠点の位置は……」
「む、ロード・エルメロイ二世よ。拠点、では呼び名に華がなかろう?
正しくその名、定めたばかりではないか」
カルデアの拠点に繋がるルートを説明しようとする二世。
彼の言葉を遮って、ネロは言っておかねばならない事があるとした。
彼らの有する拠点のみならず、彼ら自身の立ち位置を示すための名前。
「おお、何やら良き名が?」
「うむ! 我らはこの地のものから見れば、異境の徒。住む時空まで違えた異邦人。
同じものを見たとしても、そこに感じること、何もかもが大いに違おう!
だからこそ!
それを擦り合わせ、共に生きるためにこそ歩み寄りたいという願いの具現!
違うからこそ、共に歩むために努力するという決意の結晶!」
身振り手振りで花嫁衣裳のネロが高らかに叫び、舞う。
舞い散るは白と赤の薔薇の花びら。
白と赤、まったく違うものが交わり、生み出すコントラスト。
それを彼女はこれからの旅路を彩るものとして撒き散らし。
二世は溜息ひとつ、花びらを纏めて捨てられそうな場所を探し始める。
「その名も―――何でも屋、カルデア大使館! である!」
その名、高らかに。
国どころか時代という横たわる垣根。
それを超越し、真の意味で共に戦えるように、肩を並べられるようにと。
願いと、決意を宿した彼女たちがこの地に掲げた名前。
それこそ即ち、『カルデア大使館』であった。
「ふん。旅行者としてならまだしも、他国の者としての活動を許可した覚えはないがな」
「ですから、私の斡旋したウルクの民からの仕事だけを行っているのでしょう」
粘土板の山を崩しつつ、ギルガメッシュは舌打ちする。
ウルク市、カルデア大使館。
別にそこに文句をつけるつもりもないが、と。
顔を顰めながらも仕事の手は止めないギルガメッシュ。
そんな彼に対し、シドゥリが声をかけた。
「王よ、なぜあの少年にそのように気を荒げるのです?」
「なぜ貴様にそのように問われねばならん」
「王一人の話で済むならば問いません。
ですが、王の好悪で国に負担を増やすというのであれば、私は何度でも問い質しましょう。
生憎、今の状況であなたにもう一度自分探しの旅を許す余裕はないのです」
面倒そうに玉座に背を預ける王。
彼は頭を上に向け、何かを想うように視線を天井付近で彷徨わせた。
「ふん、余裕などと言えば、そんなものいつの時代もあった試しがない。
だからこの国は一度、
「分かっているなら……」
「だからこそ、であろうよ。どっちでいたいのだ、という話だ。
使命を果たすのか。己が意志に殉じるのか。
それは、特別を授かったものは誰しも、選び取らねばならぬものだ」
誰にも言及されていないのか。
いいや、確かに常磐ソウゴの中にその疑念はあったのだ。
だからギルガメッシュに言われただけで、彼という器が軋んだ。
英雄王ギルガメッシュは、神に与えられた天の楔としての使命を放棄した。
そうして無二の友を得て―――やがて喪った。
その時の恐怖から、彼は不老不死を求めるという行動を起こす。
神の血を引く彼が永遠の王として君臨する。
それが天の楔としての使命に酷く近しい行為だと理解しながら。
けれど、そんな彼の旅路は成就しなかった。
だが、不老不死を得られなかった代わりに―――彼は、自身が殉じる王道を得た。
自分が生まれた意味を果たす事と。
自分が生まれた意味を見出す事は。
最初に生まれた意味を持つものにとって、まったく違うことなのだ。
まっとうな人間ならば、それを思い悩む必要はない。
けれど、授かってしまったものには永遠について回る問題だ。
使命を否定しつつ、己が意志だけで生きているわけでもない。
そうやって気を荒げる王に、シドゥリは目を細める。
「あんな少年にもう老齢と言って差し支えない王と同じ経験を求めるのですか?
多分、王があの少年くらいだった頃はもっとアレだったと思うのですが」
「黙れ、シドゥリ。
言っておくが、
「ですが結局エルキドゥと逢うまでは荒れていたのでしょう?」
そこまで言われ、言い返すことも出来ず舌打ちで済ませるギルガメッシュ。
彼は誤魔化すように幾分か低くなった積み重なる粘土板に手を伸ばし―――
「―――風魔小太郎、本日の休息は貴様であったか。
殊勝にも理由もなく
「はっ、主殿にお願いしたき儀がありますれば」
王の前に、いつの間にか跪いている赤毛の少年。
忍びの装束に身を包んだ彼は、そう言って黄金の王へと平伏した。
聞かずとも分かる、と。
面倒そうだった顔の眉間に、更なる皺を寄せていくギルガメッシュ。
「あれが山から追い払った悪霊が、夜ごと平野に溢れています。
レオニダス殿どうこうは置いておいて。
このままでは日中は魔獣、夜間は悪霊と、兵士の負担が増えるばかり」
魔獣の活動時間は基本的に日中。
あれらも睡眠を取るようで、まったく無いとは言わないが夜間の襲撃はあまりない。
だからこそバビロニアの壁に詰めた兵士は休めるのだが。
それが、少々崩れつつあった。
原因はエビフ山の方面からやってくる悪霊の波。
山との間にあるクタ市は既に悪霊に沈んでしまった。
そこから更にウルクに接近してくるものの対処に、手間をかけさせられているのだ。
ギルガメッシュが目を細め、御山とクタ市の位置を頭の中で検める。
そこで何か思いついたのか、彼はシドゥリへと視線を向けた。
「……ふん、
貴様の仕事に変わりはなく、その労働形態を変えてやる必要もない。
また、わざわざ小鬼を追い回すために兵を回す気も無い。
だが―――最近、この国には
それを貴様が利用することまでは縛るまい」
「何でも屋……? あ、もしやカルデアの方々の?」
話はそこで終わりだ、と。
ギルガメッシュはさっさと会話を打ち切る。
前髪で隠されて外からは見えないが、小太郎もその顔に困惑を浮かべていた。
「よろしいのですか、王? カルデアの皆さんをエビフの山になど……」
彼の態度を訝しむように、眉根を寄せるシドゥリ。
彼女はギルガメッシュと小太郎の間で視線を行き来させ、難しい表情を浮かべた。
「知ったことか。ウルクに住まう者からの依頼を受けているのは奴らだ。
都市の外に出る必要がある仕事があれば、許可を求められれば出そうとも。
バビロニアの壁の防衛線は
故に何をどう言い繕おうが、参戦に許可など出さぬ。
が、野暮用で山に踏み込む事に対してなど、わざわざ
「いえ、それもそうですが、そもそもあの山には女神イシュ―――」
「さあ行くがよい、アサシン・風魔小太郎!
貴様の休日は刻一刻と消費されている!
こんな野暮用さっさと済ませ、体を休めるためにウルクを満喫するがよい!」
シドゥリの声を遮る大音量。
ジグラットを揺らすほどの声に、小太郎は目をぱちくりと瞬かせた。
光と闇のエンドレスバトゥ…