Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「砲兵隊、
リヨンの街奪還のため、再編されたフランス国軍。彼等は目標であった街に辿り着くことすらできず、瓦解の危機に見舞われていた。
空を舞う十を超えるワイバーンの群れ。開けた空間で空中を自在に舞う奴らを相手にするのは、余りにも酷な状況だった。
指揮官の声に従い、大砲が煙を噴き上げる。
砲弾はしかし、空を舞う相手には容易に回避されてしまう。
何に当たる事もなく地面に落ちて砕け散る砲弾。
「くぅ……!」
元来は化け物を撃ち落とすものなどではなく、城壁を打ち崩すためのものだ。当たり前と言えば当たり前だが、その当然を凌駕しなければ化け物を葬ることなどできはしない。
「各員、砲兵隊を守れ! 再装填の時間を稼げ!」
分かっている。分かり切っている。彼らはここで全滅する。どれだけ頭を回した所で、その現実だけしか見えてこない。
そして何より、彼らを導くべき指揮官である自分が、
……思って、しまっている。
聖女が地獄から竜を連れ、この国を焼くために舞い戻った。
それが彼女の望みになってしまったなら、それはそれでいいのではないか。
―――そう思ってしまう。
彼女がそんなことを望むような人間ならば、彼女は聖女などと呼ばれていない。そうと分かっているはずなのに、けれど心のどこかでそれを肯定している自分がいるのだ。
これが聖女を焼いた罪による主からの裁きだというなら、死が訪れるまで聖堂でただただ懺悔をしているべきではないか、という思いが離れない。
彼がここに立っているのは、フランス国の騎士であるからだというのに。
背後から届いた部下の声が、彼を思考から戦場へと引き戻した。
「元帥閣下! 砲兵隊の再装填が完了しました!」
「―――私が竜どもを下に引き付ける。その間に撃たせろ!」
「なっ」
答えを聞かずに走り出す。
その結果に死が与えられるならそれでいい。
その結果、地獄で魂を引き裂かれることになっても構わない。
それが、聖女ジャンヌ・ダルクの望みだというのなら―――
そうして、彼は目撃する。
修羅場と化した戦場に再臨する、旗持つ聖女の姿を。
「フランス兵たちよ、逃げなさい!」
「―――――」
絶句する。
そこに彼が追い続けた少女の小さな背中と、この国を支えた旗が見える。空を舞うワイバーンからフランス兵を守るように―――空を翔ける硝子の馬に騎乗した聖女が、そこにいる。
「ジャンヌ・ダルク……!?」
その勇姿に変わりなく、その尊さに陰りなく、その美しさに瑕疵はない。彼という一人の男、貴族、騎士、彼を彼となす全てが追い続けてきた聖なる人がそこにいた。
彼女の手にした旗が大きく回り、勢いをつけて振るわれる。叩き折られるワイバーンの翼。飛行能力を失い墜落していく飛竜。それは地面に打ち付けられ、首を折って絶命しただろう。
前に出ようとしていた足が止まっていた。
自分たちこそがその彼女の旗の許で戦うものだ、と号令できればどれほどよいか。
彼女こそが自分たちの旗印である、と叫ぶことができればどれほど心強いか。
状況は分からない。
竜を仕向けてくるジャンヌ・ダルクを名乗る竜の魔女がいる。
こうして、フランスの守護のために旗を揮うジャンヌ・ダルクにしか見えぬ誰かがいる。
けれど、目の前の彼女は名乗らない。
何故かは分からない。
けれど彼女が名乗らないということは、そうすることが彼女の望みということだ。
ギリ、と唇を噛み締めて背後の部隊へと叫ぶ。
「砲兵隊! 周囲の竜に狙いをつけろ! 奴らに翼を休めさせるな!」
当たらずとも、その隙をついて聖女が倒してくれる、と。
ジャンヌ・ダルクの援護をせよ、と。
信頼と崇拝と信仰の言葉を吐き出してしまいたかった。
だが、今のフランスを指揮するものとして、その言葉を吐くわけにはいかなかった。
この状況でそんなことを考えている自分には、いつかきっと主の裁きがある。
そう信じて、彼は聖女から目を背けて号令を下した。
「ねえ、ジャンヌ。声をかけなくてよかったの?」
ワイバーンの打倒はあっさりと完結した。飛行能力を補うマリーの硝子の馬がもつ機動性と、立香との契約でルーラーとしての性能を発揮し始めたジャンヌの膂力が合わされば、ものの数分でワイバーンを全滅させられた。
その掃討を終えると、ジャンヌは展開するフランス軍に声をかけることもせず、さっさと離脱することを選んでしまった。彼女を見つめるジル・ド・レェの視線を感じながらも。
「竜の魔女なんかに声をかけられてしまったら、彼の立場すらも危うくなるでしょう。現状、フランス軍を巻き込む理由もありませんし」
「……そうかもしれないけれど」
「―――それより、ソウゴくんの様子はどうですか?」
マリーの問いから話を逸らすように、ジャンヌがマリーに問いかける。
彼らはとりあえず街から離れ、森の中でキャンプを設置していた。高所から落下して、気を失っていたソウゴの治療を優先した結果だ。
すぐ傍に展開しているフランス軍から距離を取れていないが、しかしランサーの人避けのルーンを看破できる人間は軍にはいないだろう。
ソウゴの治療を担当したマリーが、話を逸らされたことに顔をむくれさせつつ、しかしちゃんと答えてくれる。
「傷は大したことありませんでしたし、じきに目を覚ますと思います」
「そうですか……ジークフリートの傷のように呪われてはいないのですね。良かった」
彼女たちがリヨンで合流したジークフリートには、呪詛により治療が効かない傷があった。彼の話によればその傷は、黒ジャンヌによる宝具の炎だったという。その攻撃の直撃をソウゴが受けていなかったのは喜ばしい。
ジークフリートは気合で耐えているが、普通の人間がそんな呪いに見舞われれば、一日と保たず絶命するだろうことは想像に難くない。何せ聖女たる資質を有するジャンヌ・ダルクですら、易々と解呪できないほど深い呪いだ。
「ドクター・ロマンの言う通り、この世界に黒い私へのカウンターとして、他に洗礼詠唱が可能なサーヴァントが召喚されていればいいのですが……」
そう言って、自分の力だけでは解決できない問題にジャンヌは小さく息を吐いた。
「ここは……」
ソウゴは中世フランスとは思えぬ場所にいた。
道はコンクリートで舗装され、周囲にはビル群が立ち並ぶ文明の土地。
現代日本以外の何ものでもない光景。
近くにはバスが停車しており、その周りには乗客だろう人たちが集まっていた。
それを見て、これがいつの光景なのかをソウゴは静かに理解する。
その直後、彼のすぐそばを一人の少年が走り抜けていった。
『いちご狩り! いちご狩り! 早く早く!』
両親を急かす子供の声。
笑いながら、一つの家族がそのバスへ向かって走っていった。
目を逸らさずにそれを見続ける。
その後に何が待っているか、知っているからこそ。
「……これって。つまり、どういう夢?」
「夢といえば夢だ。が、ここは君のアンダーワールドだよ。我が魔王」
そう言って彼の背後から出てくるウォズの姿。
いるだろうな、と思っていたので驚きはない。
「アンダーワールド?」
「その人間の心の原風景。その人間が心の均衡を保つための、最後の一線といったところかな。あるいは――――最後の希望、と言うべきかもしれないね。
君がただ夢を見ているだけでは私も干渉できないが、こうしてアンダーワールドというカタチで発現してくれたおかげで、見ての通り入ってこれたわけだ」
「……そうなんだ。で、何で俺の最後の希望がここなの? そこは多分違うと思うんだけど」
いちご狩りにはしゃぐ少年と笑う両親を見つめながら、ソウゴは言う。
それに肩を竦めたウォズが、軽く手を振るうと光景が大きく変わった。
そこはさっきまでとは違う。病室だ。
「もちろんだとも。あれはこちらに繋ぐための連想ゲームみたいなものさ。
この……歴史に記録された仮面ライダーウィザード、操真晴人のアンダーワールドにね」
「仮面ライダー、ウィザード……操真晴人?」
いつか夢に見た光景。
ここまではっきりと覚えていなかったが、なるほど。
確かに見た記憶がある。
「彼の両親は交通事故で亡くなった。この光景は、両親が彼に遺した最期の言葉というわけだ」
最期の言葉、と繰り返しソウゴが呟いた。
その光景。晴人に送られる両親の言葉を聞くために、ソウゴも静かに耳を澄ます。
『忘れないで、晴人……あなたは、お父さんとお母さんの、希望よ……』
『僕が、希望……?』
『そうだ……晴人が生きていてくれることが、俺たちの希望だ……今までも、これからも……』
その言葉を最期に、彼らの鼓動が止まった。俄かに騒がしくなる病室。
ウォズの言った言葉が真実なら、彼らはこのまま帰らぬ人となったのだろう。
二つの大切な命から言葉を受け取った少年を見ながら、ソウゴも目を伏せる。
「……それで。ウォズはこれを俺に見せて何がしたいの?」
「―――いや? 何がしたい、というわけではないよ。ただ君がこれを見ることにこそ、意味があるというだけさ」
そう言いながら彼は一つ、何も描かれていないライドウォッチを懐から取り出した。
差し出されたそれを受け取るソウゴ。
「ブランクのウォッチ……?」
「そのライドウォッチには未だ何の歴史も記録されていない。君の手で、君の意志で、この歴史をそのウォッチの中に納め、君の覇道の一助にするんだ」
ウォズが大きく手を広げれば、そこから全ての風景が消えた。
次の瞬間には、そこは灼熱のマグマが噴き上がる地獄のような景色になっている。
アンダーワールドの底の底、ゲートの持つ魔力の源泉。
そのマグマ溜まりの空には、雄々しく空を舞う竜の姿がある。操真晴人の中に住まう彼の魔力そのものであるドラゴンファントム、ウィザードラゴン。体の大きさこそワイバーンと大差ないが、その身の発する威圧感はファヴニールにすら劣らない。間違いなく圧倒的に強大な竜。
「さあ、我が魔王! 仮面ライダーウィザードの歴史、魔法の力、竜の力!
今こそ君が手にする時がきた! そのウォッチを掲げ、ウィザードの力を継承するんだ!」
大仰な身振りでそう示すウォズ。
だがソウゴは、そのウォッチを手にしたまま動かない。
「……どうかしたかい、我が魔王?」
「ウォズはさ。どうしてそんなに焦ってるの?」
「焦っている? 私が? ……どうしてそう思うんだい?」
ウォッチから目を放したソウゴの視線が、ウォズへと向けられる。
彼の姿をじっと見つめて、しかし首を傾げながらよく分からなそうに言う。
「うーん、なんとなくかな」
「……なるほど。まあ誤魔化すまでもなし、正直に言おうじゃないか。君たちが先程戦闘を行っていた怪人。あれの名は、アナザーウィザード。
ウィザードの歴史を捻じ曲げることで生み出された、タイムジャッカーの尖兵だ」
彼が手にした本を広げてみせる。
その白紙の頁に、先程戦った宝石怪人の姿が映像で浮かび上がった。
「タイムジャッカーとは、仮面ライダーの歴史をアナザーライダー化し、その力を利用して世界を支配しようと目論む集団、と思ってもらえればいい。
本来ならば彼らも人理焼却で消滅し、当然仮面ライダーの歴史に干渉するなどということは、出来ないはずだったが……」
「……俺のせいで、アナザーウィザードが作られた?」
「あれを生み出すために、君の“時の王”たる力が利用されたのは確かだろう。そしてアナザーウィザードに限らず、全てのアナザーライダーにはある特性が備わっている。
―――存在する歴史を糧に生み出された、歴史には存在しないはずのもの。彼らという存在を破壊できるのは、正しい歴史の重みだけだ」
ウォズの本の中に浮かぶ映像が切り替わる。
アナザーウィザードはこれが元であったのか、と伝わってくるその姿。
宝石の顔、黒いローブ、指に嵌められた魔法の指輪。
―――仮面ライダーウィザード。
「つまりウィザードの力がないと、あいつを完全には倒せない?」
「そういうことだね。奴は恐らくこの特異点で復活する―――狙いは恐らく君たちと同じ、聖杯だろう。この人理焼却の犯人は、聖杯をこの地に投与することでこの時代を改変し、特異点へと変えた。つまりあれは、決定的な
再び本に浮かぶ映像が切り替わる。
次はウィザードの装備している指輪の映像だった。
「タイムウィザードリング。これは時間移動を可能とするウィザードリングだ。歴史を歪める危険性から、仮面ライダーウィザード・操真晴人本人が封印したリングなのだが……ウィザードの力を持つアナザーウィザードならば、この力を使うこともできる。
タイムジャッカーの今の所の目的は恐らく、時間を越えられるアナザーウィザードに聖杯を融合させることで、
これが誕生してしまえば、タイムジャッカーは……少なくとも、2000年から2012年までは自由に特異点化し、ライダーの歴史を奪う事ができるようになってしまう。
私の焦りは理解できたかい? そうなってしまえば、人理焼却に便乗してこの世界を手中に収めんとするタイムジャッカーは、不死身のアナザーライダーを複数体、自由にあらゆる時代に送り込むことが可能になる。
ここ以外の6つの特異点からも、アナザーライダーによって聖杯を奪取することで、彼らは君たちが修正しようとしている人理焼却を乗っ取り、利用しようとしている」
「………それを止めるためにも、ウィザードの力が必要ってことか」
手の中にあるブランクウォッチを見つめ、ソウゴが神妙に呟いた。
その様子を見たウォズが彼に心配げな声をかける。
「―――何を戸惑っているんだい、我が魔王。もしや恐れているのかい? 確かにウィザードの力を手にする、ということはその歴史の全てを手中に納めるということ。そのことに、何か恐怖を覚えてしまっているのでは……?」
「そういうわけじゃないけど。うん……」
ウォズが偽っているとは思っていない。あくまで考察ではあるが、タイムジャッカーという相手がそのような危険な計画を立てている可能性だって、大きいのは確かだろう。
悩む必要があるか、と問われれば無い……はずなのだ。
一度目を瞑り、ブランクウォッチを持った手を空に掲げる。
―――世界を救うために必要だというのなら、迷う必要も悩む必要もない。
ただこの力をもって、世界を救ってみせればいいだけだ。
ソウゴとウォズを取り巻く世界が崩れ始めた。全ての魔力がウォッチへと取り込まれていく。赤い空を翔けるウィザードラゴンが、その変調にこちらへと視線を送った。しかしそのまま悠々と飛行を続け、やがて砕けてウォッチの中へ吸い込まれる。
手にしたブランクウォッチが色づいていく。
表面には宝石の顔が浮かび上がり、銀と黒のライドウォッチがそこに出現していた。
〈ウィザード!〉
そのままこの世界は崩壊していく。
足場も崩れ去り、全てが消失した闇の中へ落ちていく。
そこでソウゴは――――
目を覚ました。
「あ、ソウゴ。起きた?」
「………立香?」
焚火にかけられ、ぐつぐつと煮立つ鍋をかき混ぜている立香がいた。
夢は―――アンダーワールドでの出来事は覚えている。その前には確か、高所から落下して気絶したはずだった。痛む頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がる。
「食べられる? ワイバーンのお肉なんだけど」
「竜って食べれるの……?」
「正直に言うと美味しくはないよ。ちゃんとそういう加工というか、処理をしてないせいかもしれないけど。まあドクターに調味料とか色々送ってもらって、こう……食べても大丈夫そうな感じにはなってるからセーフ、多分」
そこらへんの木から削り出したのだろう、木の皿に木匙で鍋の肉を盛り付ける立香。
まだ食べるって言ってないよ。
はい、と渡されたのでしょうがなく受け取ろうとして―――その手に、ウィザードのウォッチを持っていることに気付いた。小さく息を吐いて、それをポケットにしまって木皿を受け取る。
「……あれ、今の何? 気絶してる時そんなの持ってたっけ?」
見えた物品に対して、こてんと首を傾げてみせる立香。
渡された皿を覗き込みながら、ソウゴは答えを返した。
「ウォズが持っておけって」
「なるほど」
立香が納得した様子を見せる。
細かく刻まれたワイバーンの肉を一口。まあ、食べれないことはない……かもしれない。
一気におじさんの料理が恋しくなってきて、ソウゴは一抹の寂しさを感じた。
「他のみんなは?」
「マシュは周囲の警戒って言って周りを歩いてる。耳が良いアマデウスも一緒。
ジャンヌとマリーさんは、この近くまできてたっていうフランス軍を襲ってたワイバーンを追い払って、その後フランス軍がどうなったかを確認してる。ランサーは……」
そう言って立香はちらりと木の間へと視線を送った。
ソウゴがその視線を追うと、木に背を預けて腰かける一人の男性――ジークフリートがいた。
「あ、でっかいドラゴンを落としてくれた人」
「ジークフリートさんね」
「……ああ。無事で何よりだ、カルデアのマスター……いや、それはどちらもか。すまない、君たちのことはどのように呼べばいいだろうか……」
「俺は常磐ソウゴ」
「そういえば凄いごたごたしてて自己紹介も出来てなかったね……藤丸立香です」
「そうか。ソウゴに、立香か……それと、俺に“さん”などと付ける必要はない。戦闘中にそうだったように、呼び捨てにしてもらって構わない」
そう? と小さく首を傾げる立香。
そう言えば、戦場に乱入してきた時は呼び捨てにしていたような気がする。
「それで……ランサーは、ジークフリートの呪われた傷を治す手段を探しに、フランスを走り回ってくれてる。見つけ次第ドクター経由で私たちに連絡があるから、それまでは休憩だよ」
ランサーに休みなしである。そもそも戦闘に向いているサーヴァントが彼しかいないため、負担が彼ばかりに圧し掛かってしまっている現状だ。
この戦場で勝利しカルデアに戻った暁には、彼の負担を軽減できるサーヴァントが召喚できることを願うばかりである。
「あら、目を覚ましたのですね。おはようございます」
「いやはや、あの高さから落ちて無事とは。凄いものだね」
「ソウゴさん、体の方は大丈夫ですか?」
「先輩、周囲に異常は確認できませんでした。ドクターからの通信はどうでしょうか?」
マリーとジャンヌ、マシュとアマデウスが揃って帰還する。
まだだよー、と言いながら立香が全員分の木皿にワイバーンスープをよそり始めた。この木匙も木皿もどこから出てきたんだろう、と辺りを見回すとジークフリートの周囲に結構な木屑が落ちている。彼が削り出してくれたのだろうか。
『――――もし、もしもし? 聞こえるかい? こちらカルデア管制室だ』
「あ、ちょうど今きたね」
『ああ、やっと繋がった。……どうにも、リヨン周辺は通信状況が悪いな。ドラゴンの魔力の余波というわけではないと思うんだけど……』
音声がつながり、映像が伝わり、そうしてから首を傾げるドクター・ロマン。
それを聞いていたジークフリートが、何やら申し訳なさげに言葉を切り出した。
「すまない。それは恐らく、俺を隠すためにライダーが張った結界のせいだろう。近くにあれだけの結界がある以上、魔術的な通信手段に影響を及ぼさない筈がない」
『ああ、なるほど……確かにその可能性は……いやでも』
「それで、ランサーからの通信ってことだよねドクター?」
何やら難しい顔で考察を始めてしまったロマニを、立香の言葉が引き戻す。
『あっと、そうだ。場所はティエールの街、その場で彼が二体のサーヴァントを確認した、んだけどね……残念ながら、ジークフリートの呪いを解除できそうなサーヴァントではなかったよ』
「……もしかしてランサーが戦ってる?」
ドクターの様子に荒事か、とソウゴが確認をする。
だがドクターは手をぱたぱたと横に振ってそれを否定してみせた。
『いや。そういうわけじゃないんだけど……その、なんだ。敵対はしていない。彼もその二人のサーヴァントを戦力として取り込めるなら取り込むべき、と言っていてね……』
「味方にはなってくれそうなんだ?」
『だがまあその、ほらなんだ。彼は
だからその、申し訳ないんだが……至急ティエールに向かい、二騎のサーヴァントと交渉を行ってほしいんだ。最低限のことはランサーから相手に伝えてある。彼女たちも大人しく待っていてくれるはずだ、恐らく』
やたらと彼の態度は下向きだ。現地でランサーからの通信が入ったというなら、彼もそのサーヴァントと会話したのだろうか。
少なくとも相手が女性である、ということは把握しているらしいが。
「目的とは違っても、戦力が増えるなら歓迎じゃない?」
「そうだね。みんなでこれを食べたら急いで行こっか」
もそもそと微妙な味の肉を食べ、現代的な調味料で味の整ったスープを啜る。サーヴァントたちからは意外と高評価を得られたのは、やはり現代の調味料は偉大だったということだろうか。