Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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あけましておめでとうございます。
長かったような短かったような令和3年も終わり、平成33年が始まったので初投稿です。
 


おうさまの今の道-2655

 

 

 

「―――再三再四、こっちが女神らしい優しさで見逃してあげたってーのに」

 

 女神が飛翔する。空を翔ける、金色の流星。

 己の神殿から飛び立った金星の女神。

 彼女が全身に神気を漲らせ、周囲に威圧を解き放つ。

 

 眼前にあるのは、空を征く機械の船。

 またもエビフに侵犯してきたマシンを見つめ、女神イシュタルはその瞳を金に染めた。

 

 苛立ちと共に吐き出される、宣戦布告の言葉。

 

「いい加減、勝負つけたげようじゃないの!」

 

「ハーイ! 是非とも、ヨロシクお願いしマース!」

 

 応えるは、更なる上空からの声。

 その声を聞いた女神が、ぽかんと顎を大きく落とした。

 

「は?」

 

 金星の女神の頭上に、別の金星の女神が舞う。

 イシュタルの直上に羽搏くのは、超熱量の炎の翼(プロミネンス)

 

 金星の女神にして、戦の女神。

 同じ属性を有するもう一人の女神が、臨戦態勢のままそこにいた。

 イシュタルが顔を引き攣らせ、太陽神の姿を仰ぐ。

 

「ちょ、何であんたがここに……!」

 

「勿論、私が彼女たちのサーヴァントだからデース!」

 

 さっさと言い切り、臨界する太陽の神威。

 三女神同盟最強にして、現時点で地上最強。

 このメソポタミアの覇者が、魔力を迸らせる。

 

「ずる! そんなのインチキでしょ!?

 人間と女神の勝負で、女神が人間側についてんじゃないわよー!」

 

「同盟外の女神に手加減は必要ありまセーン!

 あ、冗談でなく全力で防御してね?

 あなた相手なら、本当に本気でやっても大丈夫でショウ?」

 

 にこやかにそう宣言したケツァル・コアトル。

 彼女の神威の昂りを見れば、それが嘘かどうかなど考える意味も無い。

 目の前にあるのは、超常の熱量の塊。

 その事実に対して、イシュタルが悲鳴を上げた。

 

「大丈夫なワケないでしょ馬鹿!?」

 

 イシュタルの叫びを無視し、ケツァル・コアトルが炎上する。

 恐らくメソポタミア全域で視認できるほどの炎の渦。

 地上に顕現した太陽を前にして、イシュタルが必死に全神威を解放した。

 

「――――“炎、神をも灼き尽くせ(ウルティモ・トペ・パターダ)”!!」

 

「ちょ―――――っ!?!?」

 

 太陽が墜落する。

 極大の熱量が空中から降り注ぐ。

 太陽そのものと化したケツァル・コアトルによる、全力の飛び蹴り。

 

 それを神気を完全に解き放ったイシュタルが迎え撃つ。

 激突する両者。弾け飛ぶ同質の神威。

 

 二つの神性の激突を前にして。

 タイムマジーンが、嵐のような衝撃に大きく揺さぶられた。

 振動し、幾つかエラーを吐く機体の中。

 

「……これでいいのかしら……?」

 

「まあ、喜んで協力してくれたし。別にいいんじゃないかしら」

 

 呟くようなツクヨミの声。

 それに対し、軽く思考を放棄したオルガマリーが言葉を返す。

 

 天へと立ち昇っていく炎の柱。

 尋常ならざる破壊の渦。

 その煌々とした輝きを眺めながら、彼女たちはこうなった経緯を思い返した。

 

 

 

 

「……ほう、イシュタルを雇い入れて冥界下りをしたい、などと。

 随分と面白い話を持ってきたものだ」

 

 いつも通り、政務の手を止めることなく。

 ギルガメッシュ王は、話を持ってきた連中を一瞥した。

 

 ここにいるのはオルガマリー、立香、ソウゴ、ツクヨミ、マシュ。

 そして彼らの後ろには、姿を見せた状態のハサン。

 残りのサーヴァントたちは、大使館の仕事をこなしている。

 

「冥界下りと言えば、あのイシュタルがやらかした行動の中でも、特に無様さNo.1に輝くエピソード(ウルク調べ)。そんなイシュタルをわざわざ冥界の水先案内人とする、というのがまず笑えるので、とりあえずはプラス査定をくれてやろう」

 

「王よ、都市神でもあらせられる女神イシュタルにそのような事は」

 

 シドゥリの言葉を軽く手を振って止め、僅かに悩む姿勢を見せる王。

 彼は政務の方を止めて、顎に手を添えてみせた。

 

 先頭に立つオルガマリーが、黙り込んだ王へと声をかける。

 

「……これにつきましては、三女神同盟攻略のための業務と言えます」

 

「まあそうだな。それで?」

 

 王の視線が、声の主の方へと向かう。

 彼女は小さく深呼吸を済ませると、要求を言葉にして吐き出した。

 

「―――これを、我らカルデア大使館による正式なウルク防衛の作戦と認め。

 王には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言い切ったオルガマリーが、王の様子を窺う。

 

「………………」

 

 王は無言。ただ、じい、と。

 真紅の瞳で、自分の前に並ぶカルデアの面々を見渡した。

 そんな王を横から、シドゥリが心配そうに見ている。

 

 数秒そのまま黙り込んだ後、彼はゆっくりと口を開いた。

 

「却下だ」

 

「―――――」

 

 絶句する。

 一体何を間違えたのか、と疑問が頭を巡る。

 こういったかたちで交渉すれば、確実に協力を得られると考えていたのに。

 

 そう思考して目を回すオルガマリー。

 彼女を一瞥して、王は軽く鼻で笑った。

 そのまま続けて言葉を並べる。

 

「金銭などより、奴に最もクリティカルヒットするのは宝石だ。

 前回貨幣でも通用したのは、恐らく肉体にされた人間の価値観も共有しているからだろう。

 イシュタルと似たような性質の人間が選ばれたのであれば、然もありなん。

 であるならば、宝石を突き付けてやれば更に目の色を変えるであろうよ」

 

 その口振りに対し、オルガマリーはハッとする。

 

「……と、言うと」

 

(オレ)の蔵にある鉱物類、その3割を貴様たちに預ける。

 ―――貴様たちによる冥府の女主人攻略戦。

 今を生きる者による、今を生きるための戦いとして、この(オレ)が受理しよう」

 

 ほう、と。安堵の息を吐いたのは誰だったか。

 そんな安心感など気にもかけず、ギルガメッシュが更に続ける。

 

「貴様たちは既にイシュタルに一応は強さは示したのだろう。

 ならばケツァル・コアトルとやらを連れて行き、さっさと叩き落とせばよい。

 その後に適当に縛り付け、鼻先に宝石を突き付けてやればすぐに堕ちるだろうさ。

 そうなれば人員も最低限でよかろう。残る連中には、別の仕事がある。

 ―――(オレ)からの、仕事の依頼だ」

 

 安堵して抜けていた気を、その言葉で再び引き締める。

 

「それ、は。イシュタルの攻略と同時に、別の仕事をということですか?」

 

「別々のタイミングじゃ駄目なの?」

 

 横で声を上げるソウゴ。

 訊き方を考えろ、と思いつつもその疑問には同意だ。

 だがギルガメッシュは、それに対して鷹揚に頷いてみせた。

 

「同時でなければ意味がない。

 ついでに、ケツァル・コアトルには精々派手にやれと言っておけ。

 その力がこのメソポタミア全土に響くくらいに、とな」

 

 言って、笑みを深くするギルガメッシュ。

 如何にも深淵な考えがあるのだ、と。

 そう物語る表情を前にして、オルガマリーは自然と息を呑んでいた。

 

 

 

 

「それで、やることが水質調査なの?」

 

「ああ言って含みを持たせておけば、シドゥリが何をいう事もない。

 (オレ)が束の間の休息を楽しむ事もできる、というわけだ」

 

 追加で言い渡された仕事は、ペルシア湾の水質調査。

 現地に設けられた観測所まで、水瓶を取りに行く仕事だった。

 持って帰る瓶の代わりに置いてくる予定の、空の瓶を乗せた荷車。

 そこで寝転がりながら、ギルガメッシュは大きく欠伸をする。

 

 タイムマジーンはイシュタル攻略に使っている。

 よってこちらは荷馬車による移動になったのだ。

 

「イシュタルとの事が終わった後、マジーンでやれば早いのに」

 

 荷馬車の横を歩いているソウゴが、そうやってぼやく声。

 それに鼻を鳴らして、転がったままのギルガメッシュが言葉を返した。

 

「早いに越したことはないが、早ければよいというものではない。動かせるものを動かし、休ませるものは休ませる。その采配で王の度量も計れるというものよ。

 そら、貴様が早くこの用事を済ませたいと思うのであれば、馬の代わりにそこな犬に荷車を牽くように指示してみたらどうだ? 足回りはまともそうではないか」

 

「ぶちのめすぞ、テメェ」

 

 先導していたクー・フーリンが眼光を飛ばす。

 対して、ギルガメッシュは喜色を強めて、口の端を吊り上げる。

 

「ほう? なんだ、身を寄せている国の王に刃向かう器量があったのか。

 ははは、これは見くびっていた。

 尻尾を振るばかりが能の狗かとばかり思っておったわ」

 

「おい坊主、こいつここで転がしてこうぜ」

 

「仕事が終わってからね」

 

「フォー、フォフォウフォウ、マーリンキャーウ!」

 

 何となし、フォウがマーリンも転がそうぜと言っている気がする。

 そんなマシュの頭の上の獣を突つきつつ。

 クー・フーリンとソウゴの会話に、呆れ顔で立香が口を挟む。

 

「終わってからもダメだよ?」

 

 マシュは自分たちが歩いてきた方向―――

 ウルクの方へとちらちらと視線を送りながら、隠しきれない困惑を滲ませた。

 

「ですが、よろしいのでしょうか……

 シドゥリさんにまで黙って、ギルガメッシュ王を連れ出すような真似を……」

 

「たわけ、なぜシドゥリに許可を取る必要がある。

 王たる(オレ)がよいと判断したのだ、ならばよいに決まっておろう。

 マーリンもあれで器用な男だ。

 あれをこき使えば、一日くらいどうとでもするであろうさ」

 

 そう言って、ははは、などと笑ってみせる王。

 

「そういう問題ではないと思うが……」

 

 それから視線を逸らしつつぼやく二世。

 彼の小声を拾って、しかしドレイクは王に同調するように肩を竦めた。

 

「ま、何だかんだ余裕があるってこったろう?

 絶対魔獣戦線とやらの防衛は堅固。

 ケツァル・コアトルはこっちについて、冥界の女神様はあの可愛らしいお嬢ちゃん。

 このままいけば、順当に勝てそうじゃないか」

 

「ふむ、そうだな。何より、魔獣の女神以外の二柱の女神だ。

 あれらはどうにも、人を滅ぼしたいと思っているわけではないらしいからな」

 

 船長の言葉に何度か肯いてみせるネロ。

 

 生存させ、自由な闘争を与えようとしていたケツァル・コアトル。

 それだけでなく、エレシュキガルも同様にそうなのだ。

 冥界の女神は、人を滅ぼしたいから滅ぼす、のではない。

 彼女が持つ人を匿える領域が冥界にしかないから、人を冥界に導くのだろう。

 

「……魔術王が聖杯を与えたのはエルキドゥ。

 そして彼が協力するギリシャから流れてきた魔獣の女神」

 

 言って、二世がギルガメッシュの方に視線を向ける。

 見られているのを気にもせず、彼は荷車で転がっているばかり。

 そんな彼に対して、今一度ソウゴが口を開いた。

 

「ねえ、王様」

 

「なんだ、雑種」

 

「エルキドゥってあんたの唯一の友達なんでしょ?

 その人がそんな風に人間を滅ぼす方についてさ……王様は、どうするつもりなの?」

 

 問われた王はちらりとだけソウゴに視線を向け。

 小さく、失笑した。

 そのままゆるりと上半身だけを起こし、ソウゴと正面から目を合わせる。

 

「逆に問おう。貴様であったら、一体どうする?

 己の友がもし仮に、人類を滅ぼすなどとのたまい、行動に移したとしたら?」

 

「―――――」

 

 数秒、ソウゴが止まる。

 その事実にギルガメッシュが口元を吊り上げ、一度瞑目した。

 すぐに目を開け、そうしてから彼は立香の方へと視線を持って行く。

 

「藤丸立香。貴様であればどうする」

 

「そんな事にはならないよ。

 私たちは、そんなことにならないように、今ここにいるんだから」

 

 返ってきた言葉。

 言い返された王はそれをおかしげに笑い、肩を竦めた。

 そのまま再び寝転がってしまう。

 

「さて、どうだか」

 

「ギルガメッシュ王はどうするの、っていう質問は答えてくれないの?」

 

(オレ)の答えが聞きたくば、そこな雑種の答えをまず持ってくるのだな。

 さすればこちらもとくと語ってやろうではないか」

 

 荷台に体を投げ出した王は、そう言って眠る姿勢。

 そんな彼に対し不満げに、立香は唇を尖らせた。

 

「ケチじゃない?」

 

「せ、先輩」

 

 頬を膨らませる立香。

 彼女の横から、マシュが袖を引っ張って止めようとする。

 だが、王は特に気にもせず転がったまま軽く笑った。

 

「は! (オレ)ともあろう王の言葉とは即ち、全てが宝石に等しい価値を持つ。

 安売りをしては相場を乱すが故に、沈黙で市場を守るのだ」

 

「んなもんに高値がつくたぁ、随分と安っぽい市場だぜ」

 

「ははは、貴様にそう映るのは仕方あるまい。

 どれだけ吠えようが、犬の鳴き声に値段はつかんからな!」

 

 荷馬車の車輪を蹴飛ばそうとするクー・フーリン。

 位置関係上、それを必死に止める羽目になるエルメロイ二世。

 

 そんな連中のやり取りを気にもせず。

 そのまま彼は、本当にそこで寝始めた。

 実際に彼の業務が尋常ではない、と知っている以上、起こす事もできない。

 

 そうして歩くことになる中で、ふと。

 表情を変えずに歩くソウゴに、マシュが目を留めた。

 

「ソウゴさん?」

 

「―――――」

 

 答えはいつだって、持っている。

 だってそうだろう。

 友が本当にそうしたい、と思って選んだのならば、自分は引き止めない。

 自分の民を害する事をもし友が、本気で正しいと思い選んだのなら。

 ―――自分はただ。

 

 そうしたいなら、それでいいんじゃない。

 

 そうとだけ返して、正面から止めるために剣を取るだろう。

 誰が、相手であってもだ。

 

 ―――敵として立ちはだかった場合に限らず。

 そんな人間が、自分の力で立ち上がらんとする意志を見たならば。

 ()()()()()()()()()―――

 

 思考に沈んでいくソウゴ。

 しかしその思考を遮る、盛大な震動が周囲を揺らした。

 小さな地震。

 その発生源を理解して、全員が空を見上げる。

 

「――――うん?」

 

 ギルガメッシュもまた目を開き、唐突に身を起こす。

 その瞬間、エビフ山の方角に太陽が顕現した。

 

 空を紅く染める熱量の渦。

 メソポタミア全土で仰ぎ見ることの出来るだろう、圧倒的な神威。

 あれこそがケツァル・コアトル。

 いま地上に存在する者の中で、最も強き女神の力。

 

 遠くに顕れた太陽に対し、恐怖する馬が暴れ始め。

 しかし手綱をドレイクに押さえられ、ゆっくりと落ち着かされていく。

 

 大炎上する空を見上げながら、立香がふと声を漏らした。

 

「わぁ、思った以上に凄い事に……これイシュタル、大丈夫かな」

 

「死んだらそれはそれで厄介ごとが一つ減る。(オレ)も支払いをせずに済む。

 む……よもや奴め、むしろここで死んだ方がこちらに得か?

 チッ、しまったな。さっさとトドメを刺せと指示しておくべきだったか」

 

 そんな心配の声に反して。

 むしろ死んでくれれば、とこぼすのは口惜しそうなギルガメッシュ。

 何と返すべきか、と。

 そうやってちょっと困り顔を浮かべるマシュの頭上で、フォウが大きな欠伸をした。

 

 

 

 

「っと、これで終わりだな!」

 

 水が入った瓶を馬車に乗せて、ネロがそう一言。

 既に運んできた空の瓶は、観測所の中に運び込んでいる。

 後はこれらを持って帰るだけだが―――

 

「んで、金ピカは何してんだ?」

 

「追加調査だそうだが……まあ、そういうことだろう」

 

 二世の答えに肩を竦めるクー・フーリン。

 

 別にそう難しいことはない。

 こちらは既に南米の女神を攻略し、イシュタルを足掛かりに冥界の女神の攻略中。

 その事実を先程のケツァル・コアトルの神威で示してみせた。

 そんな状況になっていて、もう一つの陣営が黙ってみていられるだろうか。

 

 ケツァル・コアトルを味方にする、という攻略姿勢は見せた。

 であるならば、イシュタルとエレシュキガルにも同じ事をしようとする。

 相手もその可能性は考えるだろう。

 実際のところ、こちらのマスターたちもそういった考えだ。

 

 最悪の場合ウルクと女神三柱を、魔獣の女神一陣営で相手にしなくてはならない。

 今はまさにそこまでの状況だ。

 

 相手は魔獣の女神と、聖杯を有するエルキドゥ。そして魔獣。

 確かに圧倒的な脅威ではあるが―――勝てる。

 エレシュキガル攻略戦さえ終えていれば。

 もちろんエレシュキガルを確実に攻略できる、と断言はできない。

 それでも、そうなれば勝負がつく。

 

「だからこそ、ここで相手は動くしかない。少なくとも―――」

 

『―――来たぞ、みんな! もうすぐ傍にまで迫ってる……!

 この速度で飛来するこの規模の存在を、この距離まで感知できないなんて……!

 けど、相手も今回はもう隠してもいない―――聖杯の反応だ!』

 

 ロマニが感知した反応に声を荒げる。

 直前まで隠されていた気配が、すぐに出力を全開まで上げていた。

 飛来する黄金の光に纏われた、緑の星。

 

「エルキドゥは、な」

 

 最大の脅威、ケツァル・コアトル。

 そして最悪の邪魔者、イシュタル。

 今この地上において、その二柱の居場所は確定している。

 纏めてエビフの山にいる彼女たちは、邪魔できない。

 

 ケツァル・コアトルの神威を察し、状況は掴んでいる。

 あの女神がこんな事をするとなれば、エルキドゥとて余裕ではいられない。

 潰せるものを、潰せる順に、潰していく。

 

 そのために彼は、女神と別れた方の部隊への強襲を選択した。

 エビフからここまでケツァル・コアトルが駆け付けるには、数分はかかる。

 数分もあれば十分。

 全開の彼ならば、あれらを殲滅して御釣りがくるだけの余裕がある。

 

『―――っ! 全速力で突っ込んでくる……!

 このまま宝具の一撃で当たりにくるつもりだ! 全力防御を!』

 

「ハハハ!」

 

 光の槍と化して、緑の人が天上より降り注ぐ。

 すぐさま前に出るのは、盾を構えたマシュ・キリエライト。

 

「マシュ!!」

 

「はい、マスター!

 行きます―――ッ! “いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)”!!!」

 

 神々の兵器。天の鎖、エルキドゥ。

 人を戒め、神の御許へ繋ぎ止めるために送り出された、最強の泥人形。

 その心臓に聖杯を埋め、再起動した彼の戦闘力。

 それは真っ当なサーヴァントに対抗できるものではない。

 在りし日の肉体をそのまま用い、再起動された最強の兵器。

 

 今この地上において最強がケツァル・コアトルだと言うのなら。

 それに続くのは、彼だ。

 むしろサーヴァントという枠組みに嵌りつつ、それを凌駕する太陽神の方がおかしいのか。

 

 聖杯という動力を隠さず、一切の遊びを持たず。

 全力稼働した場合の彼を防げるものは―――ここには、いない。

 

「――――“母よ、始まりの叫をあげよ(ナンム・ドゥルアンキ)”!!!」

 

 屹立する白亜の城塞。無敵の城壁が、光の槍を迎え撃つ。

 激突した瞬間、大地が砕ける。

 衝撃だけで削られて、崩れ落ち、大地が失われていく。

 面したペルシア湾に雪崩れ落ちていく、地面だったものの残骸。

 

「う、く……っ!」

 

 それほどの衝撃を正面から受け止めながら。

 しかし、マシュはその場で確かに踏み止まった。

 

「へえ、流石に耐えるね。まあ、一応はケツァル・コアトルに勝つほどだ。

 そうもなるだろうけど……さあ、何回までなら耐えられるかな?」

 

 防がれたことに大した感慨も見せず、素直に弾き返されるエルキドゥ。

 自身に纏わりついていた大量の魔力を撒き散らしながら、彼は着地。

 それと同時にマシュが盾を解除し、僅かに息を切らし。

 

 直後。

 すぐさま、エルキドゥは()()を発動した。

 

「“母よ、始まりの叫をあげよ(ナンム・ドゥルアンキ)”!!!」

 

 先程と全く同等の魔力が溢れる。

 顔色一つ変えず、神威にも匹敵する一撃を再起動する。

 これがサーヴァントであればこうはいくまい。

 魔力が足りない。足りたとしても、霊基が保たない。

 

 だが、最強の泥人形にその心配はない。

 その肉体はこの程度の攻撃の反動で軋むことなどなく。

 心臓の聖杯と大地から吸い上げる魔力が枯渇することなどなく。

 故に、彼はこれから相手が死滅するまで同じことをし続けるだけでいい。

 

「チィ――――ッ!」

 

 ドレイクが即座に砲門を展開。

 連続して、砲撃が放たれた。

 だがそれは無数に渦巻き、暴れ狂う鎖に阻まれる。

 無論、鎖には傷の一つもなく動きを止めることなど叶わない。

 

「っ、マシュ、もう一度! 令呪を使うよ!!」

 

「っ、はい! “いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)”!!」

 

 立香の手から令呪が欠ける。

 力を得たマシュが、再び盾を前へと翳す。

 立ち上がるロード・キャメロット。

 

 その穢れなき白き護りを前にして、エルキドゥが嗤った。

 

 光が奔る。

 天の鎖が槍となり、再び城塞に叩き付けられる。

 城の壁が瑕を負うことはなく。

 しかし、それを支えるマシュが僅かに膝を揺らした。

 

「……っ!」

 

「足掻くねえ、みっともない!

 それともここを耐え切れば、逆転の手段があるのかな?

 ボクを相手に壁になれるサーヴァントが他にいる? それともマスターが?

 ああ、耐えてケツァル・コアトルが来るまで待つなんてのもありだ。

 できるといいねえ、ボクを相手にそんな事が!」

 

 大地が割れる。

 盾を支えるために踏み締めた足が浮く。

 その状況に持ち込まれた瞬間、マシュが必死に腕を繰る。

 

「通しま、せん……ッ!」

 

「っと――――」

 

 天の鎖が城の壁面を滑る。

 攻勢を受け流され、そのまま地面へと激突するエルキドゥ。

 大地を穿ち、抉りながら光の槍がブレーキをかける。

 

 そうして光の槍が地面に突き立った瞬間、青い獣が疾走した。

 野獣の如き速さを前に、エルキドゥが邪悪なまでに表情を崩す。

 

「ハハハ!」

 

 解放した宝具が止まった瞬間、通常機動で再加速。

 自身を目掛ける相手に対して動き出す。

 

「――――ちぃッ!」

 

 ステータスが速度に振られる。エルキドゥの戦闘が変容する。

 そうなったエルキドゥが初速でクー・フーリンに並び―――

 加速が乗った瞬間、彼の速度を追い越した。

 

 空を切る朱色の槍。

 弾けるように無造作に、四方へと放たれる無数の鎖。

 鎖に覆われた視界の中、舌打ちしながらクー・フーリンが後ろへ跳んだ。

 

 エルキドゥはそれに先回りし、クー・フーリンの背後に舞う。

 完全に相手を置き去りにした戦闘速度。

 そのまま相手を串刺しにせんと鎖が放たれて―――

 

 次の瞬間、彼だけが“劇場”の中に取り込まれた。

 美しき黄金の劇場、ネロ・クラウディウスの愛の象徴。

 劇場にして式場たる絢爛舞台。

 その中に呼び込まれた彼が、面倒そうに一つ溜め息を吐いた。

 

「またか……」

 

「必要であれば何度でも招待するとも!」

 

 エルキドゥが狙いを変える。

 そもこの式場内にいるのは、エルキドゥと宝具の使用者のみ。

 自身が絶対有利を得られる空間の中で、ネロが剣を構え直す。

 

 その直後、ネロは眼前に迫り終えたエルキドゥを見た。

 

「ッ、!?」

 

 大地からの魔力供給を邪魔し、“劇場”により縛りを与え。

 その上で自分を“劇場”にバックアップさせ。

 それでも比較にならないほどの性能差。

 

 咄嗟に何とか守備を間に合わせたネロ。

 彼女の剣と鎖が打ち合い、それと同時にエルキドゥの能力が変容する。

 筋力を増した鎖の殴打に、ネロの体が吹き飛んだ。

 

「あ、ぐ……!」

 

 劇場の壁へと叩き付けられた彼女の体。

 肺から空気を絞り出され、苦悶に喘ぎながら。

 その瞬間、彼女は自分の宝具を即座に打ち切った。

 

 さっさとトドメを刺そうと身構えていたエルキドゥ。

 彼がそうする前に、劇場が解れて消滅していく。

 それに僅かに眉を顰めた彼が、直後に小さく目を見開いた。

 

「良い位置だ、そのまま“(かえらずのじん)”に直行してもらう」

 

 黄金劇場が崩れ落ちた先、既にその周囲には石柱が配置されている。

 獲物が中に現れた瞬間、希代の軍師による陣が牙を剥く。

 脱出不能、内に呑み込んだ敵に疲弊を強いる大地にできた陥穽。

 

 そこを目掛けて、更に攻撃が向けられていた。

 空中に駆け上がるクー・フーリンの手に握られた、呪詛を発揮する朱き魔槍。

 ドレイクは砲身四門を展開し、その砲口に魔力を充足させる。

 

 石兵八陣に捕らえた敵を、結界の外から纏めて吹き飛ばすための布陣。

 それを前にエルキドゥは―――小さく、微笑んだ。

 

「―――残念ながら意味がないね」

 

「なに……!?」

 

 エルキドゥを覆う石柱。石兵八陣が砕けていく。

 大軍師が張る結界が、何もなせずに意味を消失させていく。

 地の理を突き詰め、張り巡らされし“石兵八陣(かえらずのじん)”。

 それが脱出不可の陣として機能しない。

 その光景を前にして、エルメロイ二世が歯噛みした。

 

「キミがその結界で得たのは、究極的には地の利でしかない。

 人知を惑わす在り得ざる幻影たる石の陣形。

 人の身でありながら、よくもそこまで大地と同調できると褒め称えようじゃないか。

 だけど、ボクをそれに捕らえられると考えるなんて、思い上がりもいいところだ!」

 

 エルキドゥの魔力が溢れる。

 聖杯によるもの以上に、大地から吸い上げた魔力の渦が。

 

「ボクなら出来る! キミが築いた石の洞穴を、ただの砂漠にすることがね!」

 

 エルキドゥに力を吸われ、枯れていく。

 大軍師の軍略の粋。石兵八陣が。

 地理、地形、天候、情報、人心―――

 自然にあるものを自然に利用する事を窮めたが故に、神仙が如き軍師の奥義たりえる陣形。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは、エルキドゥという大地と共にある存在にとっては、自身の一部と変わらない。

 

 瞬く間に風化し、風に流されていく石柱。

 瞬時に解き放たれたエルキドゥが、周囲に鎖を乱舞させる。

 周囲を薙ぎ払いながら迫る鎖。

 それを前にして、サーヴァント二人が構えていた追撃を解き放つ。

 

「ちぃ、()ぇ―――――ッ!!」

 

「“突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)”―――――!!」

 

 砲口四門が同時に爆炎を上げる。

 引き絞った体躯がしなり、朱色の閃光が投擲される。

 砲撃四つ全てが、乱舞する鎖と激突。その銀色を波打たせた。

 

 光と鎖を擦り抜けて、魔槍がエルキドゥにまで届く。

 防ぐこと、躱すこと叶わぬ一投。

 それに胸を喰い破られながらも、エルキドゥは止まらず、笑みすら崩さない。

 

「――――“母よ、始まりの叫をあげよ(ナンム・ドゥルアンキ)”!!!」

 

 溢れる黄金の光。

 彼の放つ鎖が束ねられ、光の槍と化す。

 砲撃が多くの鎖を弾き飛ばし、ゲイボルクの傷で修復に魔力を回させて。

 それでもなお、尋常ならざる威力を有する一撃。

 

 周囲を蹂躙する光の波濤。

 地上に突き立てられた槍が生み出し、押し寄せる破壊の潮騒。

 マスターたちを守るべく、マシュが前に出る。

 

「わたしの後ろに……!」

 

 令呪をもう一角切るか、と。

 立香が一瞬の思考の末、余波だけならば問題ないと温存する。

 

 転がっていたネロのすぐ傍。

 そこにドレイクが飛び込むと同時に、二世が結界を張る。

 空中にありながらクー・フーリンがルーンで守りを描く。

 

 一拍置いて、周辺に破壊の渦が駆け抜ける。

 

 尋常ならざる破壊の渦の中。

 その中で、ソウゴが半壊した観測所に視線を向けた。

 

 

 

 

 呪槍の直撃で受けた傷をあっさりと修復し。

 エルキドゥは視線を、エビフの方へと向けた。

 少なくともこちらに接近している気配はない。

 

 ケツァル・コアトルやイシュタルでは、この機体の感知能力を誤魔化すのは不可能。

 どう足掻いたところで、カルデアはここで半壊する。

 その事実に小さく口の端を吊り上げて―――

 

「ねえ、ちょっと訊いていい?」

 

「……」

 

 常磐ソウゴが前に出る。

 ジクウドライバーを腰に当て、ウォッチを手にし。

 エルキドゥを真っすぐに見据えて、歩み出てくる。

 

「時間稼ぎかい? いいよ、少しくらいは付き合おうじゃないか」

 

「あんたがその気になれば、すぐにバビロニアの壁は崩せるよね。

 なんでそうしないの?」

 

 ソウゴとエルキドゥが視線を合わせ、互いに見据え合う。

 同時に突き付けられた質問に対し、エルキドゥはさほど興味なさそうに肩を竦めた。

 

「なんで、ねえ? 強いて言うなら、人間を苦しませるためにかな。

 魔獣の女神……母上は人間が苦しむ姿をお望みだ。

 だからこそ、ギリギリまで引き延ばして人間たちで遊んでもらっているのさ。

 そのせいでキミたちの行動を許し、面倒な事になっているけどね」

 

「じゃあ俺の質問に答える理由もないんだ?

 人間を苦しませるのは女神の望みで、あんたには関係ない。

 だって言うなら、さっさと俺たちを倒せばいいだけなのに」

 

 エルキドゥの腕、その服の裾からじゃらりと鎖が垂れた。

 変身されれば頑丈だが、そうでないなら一息に殺せる。

 速力を優先し、体を造り替える。

 

「――――今すぐそうされたい、という話かな?」

 

「そうしない理由がないのに、何でそうしないのかな? って話だけど。

 やっぱりあんた、自分が兵器っていう割にやりたい事がはっきりしてないんじゃない?

 やるべき事がないんじゃなくて、やりたい事が分からないみたいに。

 イシュタルの事をおかしいっていう割に、イシュタルよりずっと―――人間みたい」

 

「―――――!!」

 

 エルキドゥの貌が変わる。彼の激情に従い、鎖が跳ねる。

 それを向けられたソウゴがライドウォッチをドライバーに―――セットせず。

 腕を下ろしたまま、ただ相手を見据えた。

 

「フ、フハハ! ハハハハハハハハ――――ッ!!」

 

「――――!?」

 

 横合いから、堪え切れないとばかりに笑い声が上がる。

 エルキドゥという名の機体が反応する。

 耳に残ったその声が、ほとんど強制的にエルキドゥの視線を吸い寄せた。

 

 半壊した水質観測所。

 その崩れた壁に寄り掛かった一人の男が、彼の事を眺めていた。

 機動がぶれる。人格と肉体の同調が乱れる。

 見当違いの方向に逸れた鎖が、ソウゴではなく地面を叩く。

 

「ギル……ガメッシュ……!?」

 

 意図せずに、思わずその名前が口を衝いた。

 

「なんだ、見ていれば随分と面白おかしい事をしているな、お前は。

 戦闘に遊びを挟むわ、途中で相手との問答を挟むわ、図星を衝かれて怒るわ。

 エルキドゥという兵器であれば、そんな雑種気にもかけずに殺して終わりだろうに。

 ―――いや中々、珍しいものを見せてもらった」

 

 おかしそうに笑うギルガメッシュを前にして、エルキドゥが一歩後退る。

 機体の裡から湧き上がる、未知の感覚。

 否。この肉体にとっては既知だが、この人格にとっては知り得ないだけ。

 未知なる既知の情動に襲われて、エルキドゥが両手で頭を押さえた。

 

「馬鹿、な……! ボクの感知には、お前の反応なんて……!?」

 

「ああ、そういえば。もうよいか」

 

 そう言って王が、ぱたぱたと手を振る。

 その動作が切っ掛けで感知できるようになったのか、エルキドゥが顔を酷く歪めた。

 

「マーリンの奴の幻術だ。

 いや、身隠しの布を使うという案もあったのだが。あれはちと使い勝手が悪くてな。

 ……ああ。言っておくが貴様ではなく、シドゥリの目を盗むための小細工だぞ?」

 

 そう言って、ギルガメッシュが愉しげにエルキドゥを無遠慮に見つめる。

 

「さて、この依頼をカルデア大使館に持ち込んだのは(オレ)

 流石に見捨てて逃げる、などという事をするわけにもいくまいよ。

 山の方の女神どもが助けにくる様子もなし、これは死んだか?」

 

 微笑みさえ浮かべながら、ギルガメッシュはそこに立つ。

 エルキドゥとの敵対を明確にし、その上で敗北は確定していると笑い。

 その姿と対面したエルキドゥの方こそ。

 歯を食い縛り、焦燥を露わにするかのように、小刻みに体を震わせる。

 

「王様も勝てないの?」

 

「致し方あるまい。

 完全稼働の天の鎖を止められるのは、天の楔たる(オレ)くらいなものよ。

 だが生憎、今回の(オレ)は乖離剣を手放していてな。まあ勝てん」

 

 変身せずに佇んだまま、ソウゴがギルガメッシュに問いかける。

 もちろん結果は明白だ、と。

 さほど口惜しむ様子さえもなく、王は敗北を断定してみせた。

 

「意外と役に立たないね、王様」

 

 溜め息混じりのソウゴの言葉。

 それに軽く肩を竦めつつ、ギルガメッシュは呆れ顔を浮かべてみせた。

 彼はその顔のままに、ソウゴを方へと視線を送る。

 

「たわけ。(オレ)が現時点までに片付けた仕事の量は、貴様ら含め他の者どもがこなした仕事を全てひっくるめても、ゆうに三倍を超える激務だ。

 その上で(オレ)が戦場でまで活躍してみよ、まるで(オレ)一人で全てを解決したようになるではないか。その辺りを弁え、配下の者どもに仕事を与えるのも王の差配という奴だ」

 

 そう言ってから不遜な表情を浮かべ。

 改めて、彼はエルキドゥに向き直った。

 

「聞いての通り、貴様に有利な舞台が整ったぞ?

 ここでカルデアを半壊させ、(オレ)を討ち取れば大金星だろうさ。

 さて。どうする、エルキドゥよ」

 

「―――違う……!」

 

 ギルガメッシュからその名を呼ばれ、エルキドゥが吼える。

 

「僕は……ボクの名は、エルキドゥじゃない……!」

 

「ほう? そう名乗っている、と聞いていたがな。

 では問おう、我がウルクを脅かす女神の手の者よ。

 名乗るがいい、この(オレ)に」

 

「―――ボクは……!

 旧人類を滅ぼし、新たなる世界を統べるヒト、そのプロトタイプ……!

 原初の女神、母なるティアマト神に創造されし、新人類!」

 

 大地が粟立つ。

 砕けて砂になってなお、その大地から力が湧き出す。

 無数の鎖、そこに形成される神域の武具。

 周囲に圧倒的な力を展開しながら、彼は己の名を叫んだ。

 

「キングゥ! それこそがボクの真名……! エルキドゥじゃない!!」

 

「そうか。では改めて問おう、キングゥ。

 ―――貴様はここからどうするつもりだ?」

 

「は、どうする!? どうだって出来るさ! 自分で認めただろう!

 キミたちが何をしたところで、ボクには勝てない! ボクは止められない!

 お前たちに何が出来る! ボクに対して、一体何が出来るというんだ!」

 

「……勝てぬ、とは言った。死ぬだろう、とも言ったな。

 だが何も出来ぬ、などと言った覚えはないが」

 

 片目を瞑り、ゆるりと手を持ち上げるギルガメッシュ。

 その動作に僅かに怯み。

 しかしすぐさま気を取り直して、キングゥが叫ぶ。

 

「だったら! お前如きに何が出来ると――――!」

 

 凶器が舞う。

 神器と呼べるだけの性能を持った武具が、彼の意志に呼応して動き出した。

 その全てがたった一人の人間、ギルガメッシュへと差し向けられる。

 

「女神の使い走りが随分と思い上がったものだな、キングゥ。

 ならば―――(オレ)の手で、()()()()()()()()()()()

 

「―――――っ!?」

 

 意識が凍る。

 機体に張り巡らされた神経が、怖気に震える。

 

 目の前で佇む男は何もしていない。

 ただ手を前に突き出し、キングゥの前に立っているだけだ。

 宝剣宝槍の雨を降らせるわけでもなく。

 原初の地獄の中で理を語るわけでもなく。

 ただ、そこに、あるだけだ。

 

 そうして、そうしているだけの男の瞳が。

 兵器(エルキドゥ)の記録を揺さぶって仕方ない――――!

 

「ッ、ぐ、あぁ、あああああああ―――――ッ!!!」

 

 凶刃が降り注ぐ。

 数え切れない無数の刃が、一人の人間を目掛けて振り下ろされる。

 天から降り下る武具が、その刃にかけたものを微塵に砕く。

 例外なく、全ての刃が大地を粉砕する。

 

 ―――ギルガメッシュに、傷一つつけぬまま。

 ただの一振りも、キングゥの刃はギルガメッシュに中らない。

 

 身動ぎ一つすることなく。

 死地にいるまま生還した王が、表情一つ変えずにただキングゥを見つめる。

 砂塵越しにその瞳に視られた彼が、息を呑んで後退った。

 

「う、ぐ……! お前は、僕の――――ボクの、敵だ……ッ!!

 なの、に……ッ! なのにッ!!!」

 

「…………」

 

 キングゥが目を逸らす。

 そのまま彼は大きく大地を踏み切り、飛翔を開始した。

 一切迷いのない撤退。

 雲を引き裂き、杉の森に向けて緑の人が去っていく。

 

 それを眺めていたギルガメッシュ。

 彼が振り返りながら、小さく鼻を鳴らした。

 軽く首を回しつつ、溜息交じりに吐く言葉。

 

「やれやれ、何故だか知らぬが助かったな。

 ここでアレとの決戦などという事になれば、全滅していたわ。

 さて、いつ戻ってくるとも分からん。さっさと帰るとするか。

 今の戦闘の余波で馬どももどこかへ逃げおった。

 そこらに転がっている犬で犬ぞりするしかないな、これは」

 

 相応の傷を負いながらも帰還したクー・フーリンを見ながらの一言。

 彼はそれに盛大な舌打ちで返し、朱槍を一振りして消し去った。

 

「……あれでいいの? あいつは……」

 

 声をかけてきたソウゴに、ギルガメッシュが視線を向ける。

 一瞬だけ止まった王は、すぐに再び歩き出した。

 

「貴様がいいと思うかどうかなど、(オレ)が知るものか。

 貴様が見て、勝手に決めよ」

 

「…………」

 

 そのまま歩き出すギルガメッシュ。

 ずんずんと突き進んでいく彼。

 そんな彼の背中を見つめながら、ソウゴは懐からウォッチを取り出した。

 起動するのは、変身するためのもの。

 

〈ジオウ!〉〈ウィザード!〉

 

「俺たち転移して帰るけど、王様は歩いて帰るの?」

 

 二世が重力を軽減して、ネロとドレイクが引きずってきた水瓶を積んだ馬車。

 そっちを見ながら、ギルガメッシュに問いかける。

 言われた彼はぴたりと動きを止め、振り返って怒鳴り声を上げた。

 

「それならそうと早く言えたわけ!」

 

 怒鳴りながら戻ってくるギルガメッシュ。

 

 そんな光景を眺めながら。

 結局最後まで出る必要のなかった女神―――

 ジャガーマンが、着ぐるみの上から被っていた身隠しの布を取り払う。

 

 これが魔術的に隠匿してくれれば、キングゥから隠れるには十分。

 彼の感知は大地との同調故に、自然に潜む異物はほぼ完全に察知する。

 が、ジャガーとて狩人。身を隠して獲物を狙うハンターだ。

 

 つまり魔術がどうこうを考えなければ、後は野性力の差が勝敗を分かつ。

 相手が見敵必殺(サーチアンドデストロイ)な兵器ならばともかく。

 あんな純情ボーイを相手にして、負けるようなやわな野性はしてないぜ、という話だ。

 

「うんうん、友情って感じ。むしろ痴情のもつれ? こういう指示が下せるなんて、ギルガメッシュ王もあの子の事大体分かってるって事でしょーけど。

 うーん……でもそうよね。神様より人間が上等なのは、結局そういうところなんでしょう」

 

 訳知り顔でそんな風にうんうんと頷き、腕を組む。

 そのまま小さく笑い、彼女は最後に一つ呟いた。

 

「英雄や王様ならアリかもしれないけれど。

 ―――これから続いていく人を導く教師(もの)に、慢心はちょっとナシだものね」

 

 

 




 
ランサー×子ギルいいゾ~これ
 
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