Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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世界を巡るアナザーライダー2009

 

 

 

「今度はアナタの方から来てくれるなんて、お姉さんドキドキデース!」

 

 ザクリ、と。マカナの切っ先を地面に突き刺して。

 女神ケツァル・コアトルは、困ったように微笑んでみせる。

 彼女の前に降り立ったキングゥもまた、困った風に笑った。

 

「そんなつもりはなかったのだけれどね。本当に仕方なくさ。

 君にあの斧を振り回させるわけにはいかない」

 

 キングゥが彼女の神殿を見上げる。

 エリドゥ市に築かれた、太陽神の神殿。

 その背後にあるにも関わらず、神殿よりも数段巨大に見える黄金の斧。

 

 かつて神話の戦いにおいて。

 マルドゥーク神は、ティアマト神の喉をあれでもって切り裂いた。

 故にあれは、対ティアマト神における最も頼れる武装。

 それを同じく見上げながら、ケツァル・コアトルは僅かに目を細める。

 

「あの子を相手に使う気はないわ。

 まあ、アナタたちに神殿に籠られたらそうせざるを得なかったかもしれないけれど。

 そうしてウルクに攻め込むなら、そんな真似をする必要はない」

 

 ―――この時代における生存競争。

 人間と魔獣の戦争は、もう傍から見た分には完全に人間側が圧している。

 南米の女神と、冥界の女神。

 それを考えない、人間と魔獣の女神の闘争は。

 

「もしもっと人間側が圧されているなら、人間はあの子の神殿に踏み込まざるを得なかった。

 けど、徐々に状況は引っ繰り返ってきてるわ。

 だってそうでショウ?

 あの子は人を殺して、それを素材に魔獣を造り、それでもって更に人間を殺す。

 魔獣が人を殺せる数が減れば、造れる魔獣の数も減り、魔獣が減れば余計に人は殺せない。

 ―――開戦時の貯金を切り崩して平気な顔をしていられるのは今だけ。

 だから、もう勝負に出るしかないってところでもあるんでショウ?」

 

 キングゥがケツァル・コアトルを睨む。

 

 本来は魔獣を増産し、その上で攻勢を仕掛けるのが目標だった。

 が、肝いりの魔獣将軍ギルタブリルは戦果もなく敗死。

 あれが攻め落とす予定だったバビロニアの壁の前にあるニップルも健在。

 バビロニアの防衛軍と連携し、魔獣は効率よく狩られるようになった。

 確かにこちらが奪える命もある。

 が、勝敗をつけるならば負け続けている、と言える戦況が事実だ。

 

 結局ギルガメッシュが召喚したサーヴァントは減らすことも出来ず。

 イシュタルはゴミに集る蠅のように飛び回り、無駄に暴れて魔獣を殺す。

 こちらが特に邪魔されたくない事案ごとに、いちいち割り込んでくる仮面の戦士。

 

 ―――それでも。

 

「それでも、どうとでもなると思っていたのでショウけど。

 それは、アナタとあの子が同時に動いた場合、私を含めて誰も止められないから。

 けど、私が人間についた時点でそれも崩れた。

 私とカルデアとバビロニア―――と、イシュタル。

 下手をすれば、この中に更にエレシュキガルまで加わるのだもの。

 全部揃っている場合、アナタたちでも絶対に落とせない」

 

 彼が袖から鎖を垂らす。

 その動作を見て、ケツァル・コアトルがマカナの柄に力をかけた。

 

「……それは少し、母上の不死性を甘く見すぎだ。

 彼女は原初の女神、ティアマト。

 あの斧を使うなりなんなりして神性を下落させなければ、人間如きに倒せるものか。

 今のままならば、例えあの幼体が何をしたところで、複合神性は壊れない」

 

「―――それは少し、人間の力を甘く見すぎよ。

 創造神の代行にしろ、複合神性の相手にしろ、無茶をしているのはお互い様。

 だったら後は、どちらが最後まで諦めないか。

 それがきっと、土壇場で勝敗を分かつものでショウ?」

 

 じゃらり、と鎖が大地から進出する。

 無数の神具を揺らしながら、彼は自身のエンジンを最大に回した。

 南米の領域に踏み込んだ時点で、先に不干渉を逸脱したのはキングゥの方だ。

 

 ―――そもそもの話。

 キングゥの存在は、三女神同盟のいずれかの勢力に含まれるものではない。

 魔獣の女神のしもべのように動いているが、それだけ。

 魔獣の女神、ケツァル・コアトル、エレシュキガル。

 彼女たちが一堂に会し、結んだ契約が三女神同盟。

 彼はそれの取り仕切りを行ったが、それだけの事なのだ。

 

 だから、太陽の神がどれだけ力をぶつけても問題はない。

 炎を纏いながら、南米の女神が翡翠剣を振り上げる。

 

「……キングゥ、と呼べばいいのよね? では、全力でぶつかりあいまショウ!

 全力でぶつかりあった先に、きっと友情とかが芽生えたりするように!」

 

「―――――!」

 

 ―――黄金の王が頭をよぎる。

 この機体がぶつかり合い、その果てに得た終生の友が思考を乱す。

 一度思考を解体し、敵としてケツァル・コアトルを設定。

 

 彼は言葉を返すことなく、全力の敵性排除を開始した。

 

 

 

 

 ウルクを守る壁、絶対魔獣戦線バビロニア。

 その壁が一望できる高台に、彼はいた。

 壁を打ち破らんとする攻勢が、今日は一段と強く―――

 

 魔獣とは一線を画す、巨大な神威が戦場に降臨していた。

 

 紫の髪。人の上半身に、蛇の下半身。

 この距離からでも、巨神はその威容をまざまざと見せつける。

 

 降臨から間を置かず、蛇神の蹂躙が始まった。

 髪が蛇へと変生し、戦場に暴れ狂う。

 蛇が放つ溶解液が飛散して、人間たちを溶かしていく。

 

 どれほどの魔獣に襲われても揺れなかった壁が、兵士が、震撼する。

 

「―――さて。ここで終わりか、あるいは……」

 

 そんな光景を無感動に見据えつつ、スウォルツは手の中でギンガのウォッチを転がした。

 

「次があるか……どう思う?」

 

 紫の男が振り向けば、そこには二人の男。

 マゼンタのドライバーを手に提げ、スウォルツを見据える門矢士。

 シアンのドライバーを手の中で回し、微笑んでみせる海東大樹。

 

「ないに越した事はないんじゃないか? 面倒ごとは、少ないに限る」

 

「生憎、僕はそんなことには興味がない。

 僕がいま見ているのは、君が持っているお宝だけさ」

 

 彼らの言葉に僅かに空を仰いだ彼が―――

 視線を向け直すと同時にその腕を突き出し、時間を固定した。

 ガチリ、と。

 門矢士と海東大樹の周辺ごと、凍る時間。

 

 その結果を眺めて彼は小さく鼻を鳴らし、

 

「【停止した時間が動き出し、門矢士は仮面ライダーディケイドに。海東大樹は仮面ライダーディエンドへと変身する】」

 

「―――――!」

 

 凍った時間が外部から動かされる。

 指定された未来に従い、二人の指が己のカードを挟み込んだ。

 腰に装着されるネオディケイドライバー。

 くるりと回り、銃口を空へと向けられるネオディエンドライバー。

 

「変身!!」

 

〈カメンライド! ディケイド!〉

〈カメンライド! ディエンド!〉

 

 精製されるディヴァインオレの鎧。

 マゼンタと、シアン。

 二つの光が交差しながら、二人の男を戦士の姿に変えていく。

 

 仮面ライダーディケイド、並びにディエンド。

 その二人の姿から視線を外し、スウォルツが今聞こえた声の主を横目に見た。

 そこにいるのは未来ノートを畳んだ、白ウォズ。

 

「白ウォズ……」

 

「やあ、スウォルツ氏。久しぶりだね」

 

〈ウォズ!〉

〈アクション!〉

 

 ウォッチを起動し、ビヨンドライバーを装着し。

 笑っているようで、何一つ面白くなさそうな彼が、口の端を吊り上げた。

 そのまま流れるように、彼はドライバーにウォッチをセット。

 叩き付けるように、ハンドルを倒す。

 

「――――変身」

 

〈投影! フューチャータイム! スゴイ! ジダイ! ミライ!〉

〈仮面ライダーウォズ! ウォズ!〉

 

 ライトグリーンの光を走らせて、銀色の装甲が彼を覆った。

 仮面ライダーウォズ。

 銀色の戦士となった彼が、スウォルツに対し意識を向けつつ二人に声をかける。

 

「どうだい、私と共闘……いや、競争といかないかい?

 どうやら互いに目的はスウォルツ氏の持つ、ギンガのウォッチのようだしね」

 

 白ウォズの言葉に、ディケイドがディエンドを窺う。

 そうされた彼は小さく肩を竦めて返した。

 

「好きにしたまえ。僕は僕が欲しいものを手に入れるだけだ」

 

「決まりだ。君もいいだろう、門矢士」

 

「俺の知った事じゃない。取り分はお前たちで勝手に決めろ」

 

 そうした三戦士の姿を目を細めて見つめ。

 彼が、喉から抑えきれない笑い声を漏らし始めた。

 

〈ギンガ!〉

 

 起動したウォッチがドライバーへと代わり、彼の腰に装着された。

 叩くようにバックルを掴み、凄絶に表情を崩すスウォルツ。

 周囲に拡がっていくピュアパワー。

 宇宙のエネルギーをその身に纏い、紫電と共に彼の姿を変えていく。

 

「変身――――!!」

 

〈ギンギンギラギラギャラクシー! 宇宙の彼方のファンタジー!〉

〈仮面ライダーギンガ!〉

 

 星の光が瞬くような宇宙空間の如き肢体。

 その上から惑星の輝く鎧、ミーティアーマーを纏ったインベーダー。

 彼は黄金の眼を煌々と光らせながら、喜々として叫んだ。

 

「面白い! 通りすがりの世界の破壊者と、通りすがりの星の破壊者―――!

 破壊のための力がぶつかりあった時、果たしてどちらが破壊されるか……!

 いまここで、試してみるか!!」

 

 

 

 

 蛇身が奔る。のたうつ髪にして、蛇。

 その暴虐を潜り、青と緑の狩人が駆け抜けていく。

 

「ちぃ、足が重い……! 直視されずにこれか……!」

 

「は! 自信がないなら壁に張り付いててもいいぜ?」

 

「抜かせ。この程度の縛り、あったところで追い付かれるものか!」

 

 無数の巨大な蛇が二騎を追う。

 それをようやく意識して、巨神は地べたを這いずる小さきものに目を向けた。

 焦点を合わせきれないように駆け巡るサーヴァント。

 クー・フーリン、そしてアタランテ。

 

 見えているのに追いきれない。

 そんな相手の軌道に対し、魔獣の女神が苛立たしさを口にした。

 

「上手く逃げるものだ。虫に似合いの動きではあるがな」

 

「言うじゃねえか! そうは思わねえか、アサシン!

 テメェの方がこっちを虫扱いたぁ、笑い話にもならねえって話だぜ!」

 

 女神の嘲笑に対し、笑うランサー。

 潜みながら女神の視線を躱していたアサシンが、神妙な声で返す。

 

「さて、そういった話ならば私こそ虫扱いされるというもの。

 故に口は噤んでおきましょう」

 

 ハサンの声を聞き、舌打ちしながら女神が声の許へと視線を送る。

 そこには何もない。気配も、何も。

 みしり、と。眉間を軋ませて、女神が髪に意志を伝えた。

 脈動する髪の蛇。その喉が、大きく膨れ上がる。

 口腔に溜め込まれた津波のような溶解液。

 

 それが吐き出される、寸前。

 その瞬間に、地上に太陽が出現した。

 

「“転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”――――!!」

 

 神速の兵らは即座に離脱を完了させて。

 横薙ぎに振るわれる太陽の聖剣が、魔獣の女神を呑み込んだ。

 蛇が口の中に蓄えた溶解液ごと蒸発させられる。

 

 太陽の熱に肌を焦がされながら、破裂した髪に女神が顔を酷く顰めた。

 山のように聳える女神は、聖剣の直撃にすら動じない。

 触手が失われたところで、彼女自身の生命力は僅かたりとも削られない。

 

「―――鬱陶しいぞ、虫ども!!」

 

 女神の瞳孔が裂ける。

 それ即ち、魔眼が解放される合図。

 

 ―――魔眼キュベレイ。

 視たものを石化させる、女神の瞳。

 ただそこに在る、というだけで動きを封じるほどの重圧を周囲に与えるもの。

 

 その上で意識的に解放したからには、重圧などという貧相な結果では終わらない。

 彼女の眼光は熱量を伴い地上を灼き払い、残骸を石くれにして転がすだろう。

 だがそれは、

 

「視線を暗闇に沈めれば、影響は最小限に収まるのでしょう。

 ならば視るがいい。

 我ら暗闇に蠢く風魔忍群、“不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)”を!」

 

「――――――ぬ!?」

 

 巨大な女神の背後から、少年の声がする。

 隠れ潜み、太陽の熱を女神自体を盾に凌ぎ、そうしてここにいる忍。

 彼が印を結んで、示した瞬間。

 

 女神の目前に無数の人影が飛び交い、その視界を暗闇に鎖した。

 魔眼を向けるべき相手が、視えなくなる。

 例え視界に収まらなくとも“視る”だけで魔眼の効果範囲内。

 

 だが、風魔忍群が女神の視界を奪う限り、彼女は何も視れはしない。

 

「小癪な……! 人間如きが私の視界を覆い続けられると思ったか!!」

 

 それを理解し、怒りを増した女神が眼を見開く。

 暗闇に鎖された視界。

 風魔の暗躍する世界の中で、女神は全力で魔眼を解放した。

 

「ッ……!」

 

 小太郎が退避すると同時、混沌旅団が瓦解する。

 魔眼を封じ、軽減してなお、その熱量を彼らでは止められない。

 暗闇を切り裂く、熱量を持った石化の視線。

 視ること出来ずとも、彼女の正面にバビロニアの壁があるのは厳然たる事実。

 

 であるならば、忍群を薙ぎ払った余熱で十分。

 彼女の魔眼の余波だけで、人の築いた要塞など一息に吹き飛ばせる。

 

「その程度で、我ら人間の魂を滅ぼせると思ったならば――――示さねばなるまい。

 貴様の言う人間如きが持つ、この魂の熱量を!

 行くぞ、友たちよ! “炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)”ァ――――ッ!!」

 

 バビロニアの壁の前で、炎のたてがみが大きく波打つ。

 彼が構えたラウンドシールド。

 それに盾を並べるように、炎が形作る300人の英霊たちが燃え上がった。

 

 盾に対して激突する魔眼の熱。

 要塞を蒸発させるに足るそれを、戦士の盾が確かに受け止めた。

 その視界が覆われぬままに発露した魔眼ならば、防ぎきれなかったろう。

 熱は塞き止められても、石化の呪いは跳ね除けられなかった。

 だが忍者が潜む暗闇の中、何を“視る”こともなく放たれたただの光線如きでは。

 

「これがァ、スパルタだァアアアアア―――――ッ!!!」

 

 盾が跳ねる。

 光線を受け止めていた盾が、振り上げられる。

 その動作は攻撃を弾く、どころの話ではなく。

 魔眼が放つ熱視線を、そっくりそのまま巻き戻すように跳ね返した。

 

「――――っ!?」

 

 光線と化した視線が、自分の顔にまで跳ね返ってくる。

 そんな状況に対し当惑して動きを止める女神。

 彼女の顔面に反射された熱が直撃し、爆炎を巻き上げた。

 

「ふぅうううう―――――!」

 

 赤熱した全身の筋肉から白煙を上げながら、レオニダス王がクールダウンする。

 魔力の節約のため宝具の維持も打ち切り、彼は即座に自身の役割に徹した。

 レオニダス王はウルクの防衛線であるバビロニアの壁の、最終防衛ライン。

 全ての力は敵を此処から先に通さず、壁を壊させない事に使うためのもの。

 

 前線で他のサーヴァントが戦い、足止めが叶っている内は、もしもの時のために力を温存しなければならない。

 

 そんな彼の少し前の位置で、ガウェインが顔を顰めた。

 

 聖剣の解放に足る魔力は、彼自身が持っている魔力ではもう足りない。

 マスターが近くにいればもう少し魔力を融通できる、が。

 いま彼女たちは冥界攻略戦の最中、どうにかなるものではない。

 

 開戦して、今の状態になるまで十数分。

 まだ始まったばかりで、既にリソースの枯渇が視野に入ってきている。

 彼らほどの英雄が集まれば、魔獣の女神とはいえ戦えない相手ではない。

 だが、それは全力を振り絞れることが最低条件。

 このまま行って、あと十分。その後はただ、崩壊するだけ。

 

「―――さて、どうしますか」

 

 彼らが丁度門に詰めることを許された。

 そのタイミングで助かった、とも言えるのだが。

 どうあれ、ウルクに残ったメンバーも、冥界攻略中のマスターたちも動くはずだ。

 ならば、彼らがここでやるべきことは変わらない。

 

 流石にガウェインであってもあの巨神と激突は出来ない。

 ならば、やるべきことは一つ。

 敵が魔獣の女神だけではない以上、他の魔獣どもを早急に撃破することだ。

 

 聖剣の剣閃が魔獣どもの鱗を焼き払い、肉を斬り捨てる。

 女神を押し留めながら、片手間にでも魔獣たちは処理されていく。

 

 英雄の背中を見て、兵士たちも平静を取り戻す。

 人と変わらぬ姿で神と渡り合う英雄を見て、立ち上がる。

 女神の相手が出来なくとも、この壁をずっと守ってきたのは人間の兵士たちだ。

 少し魔獣が増えたくらいで、簡単に瓦解するような軟な鍛え方はしていない。

 

 女神を英雄が留めてくれるならば。

 兵士だって魔獣なんかに負けていられないのだから。

 

「おのれ、貴様ら……!」

 

 爆炎を引き裂いて、女神は無事な姿を再び晒した。

 負った傷をいとも簡単に修復し、蒸発した髪も再び蛇として再生させる。

 そうして稼働し始めようとした彼女に、

 

「“突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”――――!!」

 

 呪いの槍が、朱色の雨となって降り注ぐ。

 辺り一帯諸共に吹き飛ばす、クー・フーリンが放つ投げ槍の奥義。

 

 無数に分割した呪槍が牙を剥き、彼女の全身を貫いていく。

 だが直撃したところで、本体へのダメージなど微々たるもの。

 しかし彼女はそれを浴びて弾け飛ぶ、再生したばかりの蛇どもに舌打ちする。

 それを再び修復しようとして―――

 

「ええい、私にこの程度の呪詛が――――!」

 

 呪いの槍の再生阻害を弾くのに、手間取った。

 意識が自身を侵す呪詛に向く。

 

 そうして、彼女の“視線”が逸れたことを理解して。

 

「撃ち出せ、弁慶」

 

「ぬ、しかし……!」

 

「愚図め、貴様の意見など聞いていない」

 

 牛若丸が、武蔵坊弁慶の肩を踏む。

 一瞬遅れながら、彼が手にした矛を大きく振り抜いた。

 それを踏んで、牛若丸が空に舞う。

 

 女神を目掛けて一直線。

 一切の躊躇なく、魔眼に迫る恐怖など微塵もなく。

 天狗の歩法で彼女は虚空を踏んで加速して―――

 

「ッ――――!!」

 

 女神が“視線”を移す。

 意識を向ける先を、自身の肉体から、瞳が視るものへと移す。

 そうなれば、視界のものは石になって砕け散るだけだ。

 

 ―――その前兆を察知して。

 牛若丸が、刃を翻した。

 

「遮那王流離譚、二景」

 

 天狗は空を翔ける。即ち、空こそ天狗の歩む場所なれば。

 地を縮める縮地の業は、空をも縮めて彼女を敵の許へと導く。

 

 牛若丸が空間を縮めて移動する。

 そうなる前にいた場所が、石化の魔眼に押し潰される。

 つまりは、女神が牛若丸を視失う。

 

「っ!?」

 

「“薄緑・天刃縮歩”――――!」

 

 自分は敵を視失ったのだ、と理解すれば彼女は当然、首を巡らせる。

 その視線に追い付かれる前に、彼女の刃が女神の首に徹った。

 鋭さで、相応に深く肉を抉っていく刃。

 噴き出す血を目晦ましに、牛若丸が離脱する。

 即座に傷を再生させながら、女神が表情を嚇怒に染めた。

 

 叩きつけられるように着地し、動きを止めずに加速しつつ。

 牛若丸が軽く舌打ちする。

 弁慶の逡巡がなければ、眼球に斬り込めたものを、と。

 

「逃すか――――!」

 

 女神の視線が牛若丸を追う。

 しかしその瞬間、すぐさま彼女の眼に向けて無数の矢が迫っていた。

 そんなもの、視線を向ければすぐに石化して崩れ落ちる。

 射手も、と追おうとすれば、しかしアタランテの動きを女神は追いきれない。

 

 その事実に歯を食い縛り。苛立ちを噛み殺し。

 彼女は、手数を戻すための髪の再生に意識を戻す。

 ゲイボルクの呪詛を跳ね除け、状態を完全に復調させるために。

 

 ―――そんな彼女の全身に。

 無数の砲弾が直撃し、爆発した。

 

「ガッ……!?」

 

 ただの砲弾に、異常なほど体が軋む。

 海神すら撃ち落とした女の砲撃に、神霊としての霊基が揺さぶられる。

 体表で燃える残火を振り払いながら、女神がそちらに意識を向けた。

 無論、それ自体が魔眼による殺戮。

 

 そこにあるのは、空中にある船。

 キャプテン・ドレイクの宝具、“黄金の鹿号(ゴールデンハインド)”。

 

「あー、できなかないが、やっぱ趣味じゃないねえ。船をお空に浮かすなんて」

 

「ははは、済まないが我慢してくれ。

 私たちウルクでバイト組が戦線に合流するには、これが一番早いだろうという判断なんだ」

 

 苦笑しながら船首に歩み出るフィン・マックール。

 彼がぐるりと槍を回して、波をコントロールした。

 津波規模の流水を従える、美貌の戦士。

 

 彼が空中に海を創り。

 その海を、海賊の船が進軍する。

 ウルクの空に浮かぶ海をここまで船で強引に下ってきた彼が、そこで肩を竦めた。

 

「だがここまでだ、私は全力防御で流石にからけつになる。後は任せるよ」

 

「―――落下は私が制御する。流石に、その程度はな」

 

 溜息交じりに二世がそう言って。

 彼の後に続いて、ネロが大きく胸を張った。

 

「では! 余が名乗り上げを担当しよう!」

 

「必要なのか、それは……」

 

「無論、必要だろう。

 さて、後は託せた事だし私は死に物狂いで女神の熱い視線に耐えるとしよう。

 ふふふ、これほど情熱的な視線を向けられるのは久しぶりかな?

 まあ、私ほどともなると、そう珍しいことではないのだが!」

 

 フィンがそう言って槍を翻す。

 更にその時、同乗していたアナにウィンクするのも忘れない。

 当然のように目を逸らされながらも、彼は気にした様子もなく。

 船が下っていた海が空から消える。

 

「“無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)”――――!!」

 

 津波が如き、空の海。

 その水量が全て彼らの前方へと流れ込んだ。

 圧倒的な熱量を圧倒的な水量を以て。

 絶大な呪詛を絶大な神気で以て。

 空中で、神気の津波と石化の蛇眼が激突した。

 

 落下を始めた船をドレイクが消失させる。

 このまま宝具を出し続けていても、余波だけで撃墜されかねない。

 

 そうして放り出されたサーヴァントたち。

 彼らの落下を重力と風で捕まえ、二世が眉間に皺をよせた。

 どれだけ軽口を叩こうが、フィンは自分の体の姿勢になど気を配っていられない。

 彼に重点的に意識を向けつつ、全員に最低限の補助を。

 自分、ドレイク、ネロ、フィン、アナ、巴御前。

 人数分の補助魔術のため思考している彼の視界に、黒衣が翻る。

 

「美女の抱擁でなくて申し訳ないが、フィン殿の着地はお任せを」

 

 ―――修正。

 フィンの落下地点を、ハサンの方へ。

 それ以外もきっちりと計算しきり、彼らは無事に着地のタイミングを迎えた。

 

 綺麗に決まる着陸態勢。

 舞い上がる白い薔薇のブーケから、散る花弁。

 

 頭上では魔眼が津波を粉砕し、灼熱した石片と蒸気が爆発した。

 そんな中で、薔薇の皇帝が大きく腕を振り上げる。

 

「カルデア大使館、第二陣! 現・着!

 そして聞くがいい、我らの友と、魔獣の女神の軍勢よ!

 つい先ほど、冥界の女神に我らが勝利し従えたと連絡があった!

 もはや我らの勝利は目前だ! 魔獣の女神、何するものぞ!

 さあ、最後の踏ん張りどころだ! ―――行くぞ!!」

 

 戦場に声を高らかに響かせながら、ネロが真っ先に斬り込んでいく。

 

 彼女の言葉の意味を理解して、士気が更に上がる。

 兵士たちの動きにもう淀みはない。

 魔獣を囲み、確実に討ち取っていく。

 

 その光景も見ながら、アナが被っていたフードを取り払う。

 彼女のその動作を見て、巴御前が声をかけた。

 

「―――アナ殿」

 

「……私がいる以上。もう、あの魔眼は脅威になりえません。

 だから、お願いします。彼女を、終わらせることを手伝ってください」

 

 魔眼は、“視る”事で初めてその効果を最大に発揮する。

 だから、アナに彼女の魔眼は効かない。

 ―――目を逸らしたままでは、効果なんてないに決まってる。

 

 アナはそのまま一歩踏み出して、一瞬だけ止まった。

 急いで出立したせいで、花屋の老婆に最期の別れを告げられなかった。

 それが少しだけ、心残りで。

 

 ―――彼女にとって優しくはなかった世界だけど。

 それでも、惜しむように心を残せるなら、それでいいと思った。

 

 

 

 

「フゥン――――ッ!」

 

 ライドブッカーの剣閃がぶれる。

 マゼンタの軌跡を無数に引きずり、その刃がギンガを襲う。

 それに片手を向け、動きを止める。

 彼の両手を覆うように展開されたエナジープラネットは、攻撃を通さない。

 

 ディエンドが軽くステップを踏み、次の瞬間加速。

 ギンガの背後に回り込むと、銃撃を開始した。

 そちらに片手を向けようとして―――

 

〈フィニッシュタイム! 爆裂DEランス!〉

 

 鼻を鳴らし、腕での防御はライダーウォズからの攻撃に回す。

 背中で弾ける銃撃の雨。

 それに踏み止まりながら、力尽くでディケイドとライダーウォズの攻撃を受け流す。

 

 投げ出された二人が一度地面を転がり、すぐに立ち上がった。

 そのまま武装を構え直しつつ、白ウォズが笑う。

 

「ははは、流石に三対一は辛いかい?」

 

「―――そう見えるか?」

 

 スウォルツがドライバーに手を当てる。

 瞬間、増大するピュアパワー。

 彼らの頭上に銀河が渦巻いて、星の光が瞬いた。

 

〈ストライク・ザ・プラネットナイン!〉

 

 小銀河から降り注ぐ、無数のエナジープラネット。

 一つ一つに絶大な力を込めた、破壊の流星群。

 ディケイド、ディエンドがすぐさまその手にカードを引き抜く。

 

〈アタックライド! インビジブル!〉

 

 同時にドライバー操作を完了した彼ら。

 二人の体が同時に消失し、その場に白ウォズだけが残された。

 舌打ちしながら、彼はジカンデスピアのタッチパネルに指を這わせる。

 

〈ツエスギ!〉

〈フィニッシュタイム! 不可思議マジック!〉

 

 掲げた杖から拡がる空間。

 それが降り注ぐ流星を逸らす盾になり―――しかし。

 エネルギーの総量が違い過ぎたか、その盾が砕け散った。

 

「ぐ……っ!?」

 

 着弾する惑星を模したエネルギー弾。

 周囲を爆裂するそれらの威力に、ライダーウォズが大きくよろめいて。

 その姿を前にしたギンガが、ゆるりと片腕を突き出した。

 発生する巨大なエネルギー塊。

 無造作に射出されたそれが、蹈鞴を踏んでいた銀色の体に直撃した。

 

「がぁ……ッ!」

 

 吹き飛ばされるライダーウォズ。

 限界を超えたダメージに、彼の変身が解除された。

 そうして転がる白ウォズの姿を見下ろして―――

 

〈カメンライド! ブレイド!〉

 

 その音声に対し、すぐさま右腕を背後へと突き出した。

 腕に纏うエナジープラネットと、醒剣ブレイラウザーが激突する。

 

「正面から斬り合って俺が―――」

 

 再変身したディケイドを相手にするつもりで、スウォルツがそちらへと首を曲げて。

 目に映った相手の様子に、僅かに息を呑む。

 彼が塞き止めたブレイドは、仮面ライダー(ブレイド)そのもの。

 その腰に装着されたのはディケイドライバーではなく、紛れもなくブレイバックル。

 

 ブレイドを向いた瞬間、その反対にディケイドが出現する。

 彼はそのまま片手でライドブッカーを振り上げながら、ドライバーの操作を完了させ―――

 

「ディエンドの召喚ライダーか。

 だが、ディエンドも一緒に仕掛けなければ意味があるまい?」

 

 ギンガの左腕が伸びていた。

 ディケイドに向けられた手が、王の力を行使する。

 空間ごと時間とともに凍り付き、ディケイドは完全に静止した。

 

 そのままスウォルツはブレイドも消し飛ばすために力を込め―――

 

「さあ、それはどうかな?」

 

〈ファイナルフォームライド! ブ・ブ・ブ・ブレイド!!〉

 

 ブレイドの背後に出現していたディエンドが、ディエンドライバーを突き付ける。

 瞬間、ブレイドの体が大きく跳ねた。

 ブレイラウザーと合体して、ブレイド自身が剣に変形するように。

 

「ぬっ!?」

 

 ギンガが止めていたブレイラウザー。

 そこはブレイドが変形した剣に切っ先として使われる。

 そうして交差している部分を基点にして、ブレイドブレードが回転した。

 2メートルを超す長大な刀身が、空中で突然大回転。

 

 その動作に胴体を殴られて、ギンガが僅かに怯む。

 スウォルツの集中が乱れるという事は、王の力が乱れるという事だ。

 時間の停止から、ディケイドが解き放たれる。

 同時、彼が既にドライバーに入れていたカードの力が迸った。

 

〈ファイナルアタックライド! ブ・ブ・ブ・ブレイド!!〉

 

 ディケイドがライドブッカーを手放して。

 回転しているブレイドブレードを強引に掴み取る。

 そして発揮される、彼のドライバーが解放したブレイドの力。

 青く燃える光を刃に纏わせて、彼の腕が長剣を全力で振り抜いた。

 

「フゥ―――! ハァアアアア――――ッ!!」

 

「チィ……ッ!」

 

 至近距離から奔る、青の斬撃。

 ガードも間に合わず、ギンガの胴体に叩きつけられる必殺剣。

 その威力に呑み込まれる前に、スウォルツは両腕を強引に胸の前に持って行く。

 エナジープラネットを出力し、盾にして。

 それでも押し込まれていく体。

 

 大地を削りながら滑っていく彼に、ディエンドが加速して迫る。

 狙いは彼を倒すことでもなんでもない。

 “お宝”を得ること、だ。

 

 ギンガの背後から、彼は目当てのお宝に手を伸ばす。

 海東大樹の接近を理解して、スウォルツが即座にドライバーを叩く。

 

「させ、ると思うか――――!」

 

〈ダイナマイトサンシャイン!〉

 

 ギンガを中心に爆発的に拡がる破壊の威風。

 ディエンドとギンガが交錯した瞬間、その場で巨大な力が爆発した。

 

 弾き飛ばされたディエンドが、盛大に地面の上で転がる。

 彼に歩み寄るディケイドの手の中から、ブレイドブレードが消えていく。

 代わりにライドブッカーを拾い直しながら、向ける視線の先にはスウォルツ。

 

 ―――爆煙の中で、小さくギンガが揺れる。

 それを見た士は溜息交じりに、起き上がりつつある海東に声を向けた。

 

「今のは盗れただろ」

 

「……ふん、今ので盗れなかった以上、もう貴様たちにチャンスはない」

 

 仮面ライダーギンガが体勢を立て直す。

 充填されるピュアパワー。

 生成されるエナジープラネット。

 ブレイドブレードが直撃したのは変わらないと言うのに。

 そのダメージを凌駕して、スウォルツが力を漲らせた。

 

 そんな相手を前にして、ディケイドがライドブッカーの刀身を撫でる。

 まだ続くであろう戦いに向け、体勢を整える。

 

「いや……」

 

 だが、そんな二人とは全く違う心持ちで。

 小さく笑い、海東大樹が立ち上がる。

 

「ちゃんと手に入れたさ」

 

 ―――瞬間、ディケイドにノイズが走った。

 

「が、ッ……!?」

 

「なに……!?」

 

 ザザザ、と。砂嵐のようなノイズが、ディケイドの姿を覆い隠す。

 ディケイドの歴史が、ブランクのウォッチに収容されていく。

 彼の背中に押し付けられた、アナザーウォッチに。

 

 スウォルツが即座に自身の腰に手を当てる。

 ディケイドと交戦する以上、一応は準備しておいたアナザーウォッチ。

 それが、いつの間にかなくなっていた。

 

「貴様、俺のアナザーウォッチを……!?」

 

「海東、お前……!」

 

 ディケイドの姿が薄れ切り、門矢士が地面に倒れる。

 地に這いつくばりながら見上げるのは、肩を並べていた筈のディエンド。

 そんな彼を見下ろしながら、海東は新しく手に入れたお宝―――

 アナザーディケイドウォッチを、掌の中で転がしてみせた。

 

「僕は最初からスウォルツの持つウォッチが狙い、と言っただろう?

 ギンガのウォッチになんか興味ないさ。

 僕が欲しかったのはこれ。オリジナルのディケイドウォッチは魔王に渡してしまったからね」

 

「お前、本当に、いい加減に……!」

 

「約束は果たすさ。これが手に入った以上、ちゃーんと、あの暴れ牛は解放するよ」

 

 ディエンドが腕を振るう。

 次元の垣根を取り払う、次元戦士が世界を渡るための力。

 

 巨大な銀色の幕が開く。

 そこから響くのは、雷鳴。

 進出してくるのは、黄金の神具と積乱雲によって形成された神獣。

 

 ―――神により創られし、最強の神獣。

 その銘を、グガランナ。

 

 魔獣の女神と人間の決戦場に、暴れ狂う嵐の蹄が振り落とされた。

 

 

 




 
仮面ライダーディケイドと、仮面ライダーディエンドは、とっても強い絆で結ばれた仲間同士なんだジオジオジオジオ~!
 
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