Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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強くてデカくて強い奴2016

 

 

 

『―――届いた! 届いたのだわ!? え、なんで!?

 たった半日くらいで! さくさく進めてしまった!

 こんな事ならもっと早くウルクを呑み込んでたのに!』

 

 冥界の鏡が、作業を終えて錯乱するエレシュキガルを映し出す。

 それを胡乱げな目で見やるギルガメッシュ。

 いちいち言及するのも面倒なので、彼は背後へと視線を送った。

 

「して? 保険は張り終えたようだが、メインプランはどうなっている」

 

「まだ終わってないみたいだな」

 

 終わってみれば、海東がこちらに顔を出す。

 そうなっていないという事は、まだ終わってないという事だ。

 溜め息混じりにそう返す、門矢士。

 

「さて、間に合うかどうか。

 シドゥリ、こんな事もあろうかと造らせておいたアレの展開を準備させよ。

 そう。こんな事もあろうかと、密かに、準備していたアレをな」

 

「はい、ウルクの北に築かれたバビロニアの壁の反対側。

 南のペルシア湾側から、もしもの侵攻があった場合に備え準備していた秘策。

 ナピシュテムの牙のことですね。

 いつでも展開できるよう、通達を回します」

 

 ――――貴様、正気か?

 そう言わんばかりに、王は目を見開いてシドゥリを凝視した。

 展開する瞬間に口にするべき情報だ、それは。

 ロマンも何もあったものじゃないぞ、これでは。

 

 そんな王からの視線を首を傾げ、しかし。

 彼女は与えられた仕事を果たすべく動き出した。

 

「で、そのナピシュテムの牙とやらで時間は稼げるのか?」

 

「……ティアマト神の足を止められるものではない。

 海洋の浸食をウルクの手前で食い止めるので精一杯であろうよ。

 だが、まあ。どうにかなろう。足を止めるのはアレに任せるまで。

 こちらは出来ることに注力すればよい」

 

 どういった感情のものか。声に、複雑な色を混ぜて。

 しかし、すぐにそれを忘れるように。

 ギルガメッシュは軽く鼻を鳴らすと、不敵に笑った。

 

 

 

 

「もうちょっと! だけど! もう保たないわよ、こいつ!」

 

 空中からラフムを撃墜しつつ、イシュタルが叫ぶ。

 彼女のその言葉は当然、グガランナの状態を示したものだ。

 如何に彼女が言葉でまだ十年戦える、などと言っても。

 それはただの激励を交えた強がりにすぎないのだ。

 

『もしグガランナがあの海に呑み込まれでもしたら、完全にアウトだ!

 最低限の余裕はもたせて離脱させるべきだぞ!』

 

「わかってるわよ! だから言ってんの!」

 

 もしあの海にグガランナが呑まれでもしたら。

 それこそ、グガランナ型のラフムでも生み出されかねない。

 そうなってはもう、ティアマトの相手もしていられない。

 完全に詰み、と言っていい状況になる。

 

「……この距離まで来たなら、本来」

 

「ドレイク殿の船で斧の吊り上げを開始する。

 ―――という予定でもありました。ですが、既に」

 

 疾走するアタランテの射撃。

 それに追随しつつ、彼女の周囲のラフムを切り払う牛若。

 

 既にドレイクの船は爆発炎上し、撃墜された。

 あれこそ彼女の大一番。

 あれ以上のものは、逆さに振ったって出てこない。

 

 既にケツァル・コアトルが眷属を差し向けている。

 翼竜、ケツァル・コアトルス。

 タイムマジーンとケツァル・コアトルスによる、ティアマト以上の位置への牽引。

 だが、間に合わない。推力が足りない。

 

 ティアマトの侵攻速度を考えると、推力を上向きに使っている余裕がないのだ。

 全力のバック以外では、今のティアマト。

 彼女が拡げていく浸食海洋には追い付かれる。

 グガランナの限界。黄金の鹿号(ゴールデンハインド)の事前消失。

 作戦の最終段階。それが始まる前に、既に戦線が崩壊していた。

 

 ―――タイムマジーンが火を噴いた。

 マルドゥークの斧を引きずり続けた腕、その関節部から火花を散らす。

 クレーンアームがガタガタと音を立てて軋みを上げる。

 バースのウォッチも、既に限界寸前。

 カッターウィングを展開する余裕なんて、どこにもない。

 

 速度が落ちる。

 それはここに至って、致命的な現象だ。

 

「いけません! このままでは!」

 

 武器も無しに盾の破片だけでラフムを粉砕していたレオニダス。

 彼が、その状況に焦燥して叫ぶ。

 

「…………ッ、ジャガー!」

 

 武器を放棄してからは手足を繰り、ラフムを粉砕していたケツァル・コアトル。

 彼女の叫びに反応して、ジャガーマンが動く。

 困った風に、しかしそれしかないと、彼女も認めてその爪を奔らせた。

 

 タイムマジーンの腕が、切断される。

 マルドゥークの斧を支えていた、クレーンごと。

 瞬間、バースのウォッチが弾け飛ぶ。

 支えていた重量物がなくなって、加速したままマジーンが吹き飛んだ。

 

 マルドゥークの斧が地面に落ちる。

 轟音を立てて、地に沈む巨大な斧。

 

 その状況に対し、ティアマトが咆哮した。

 最優先の獲物を射程内に捉えた。そう、歓喜するように。

 圧力が更に増す。

 既に限界を迎えているグガランナが、更なる過負荷に呻きを上げた。

 

「っ、もうグガランナも限界……! 下がらせる……!?

 いえ、無理! 下がらせたらウルクごと纏めて全滅する……!」

 

 巨神も、海洋も、止められるのはグガランナだけだ。

 他の現象など、ティアマトにとっては誤差にすぎない。

 グガランナが圧倒され、浸食海洋が加速する。

 彼女の海に、干ばつなど起きるものか。

 

 大地に残されたマルドゥークの斧。

 大きく打ち寄せる波濤の勢いで、神の斧が呑まれていく。

 唯一の勝ち筋が泥の中に沈んでいく。

 

 それでも足は止められない。

 いま呆然と立ち尽くそうものならば、泥に呑まれておしまいだ。

 だから全員、ウルクに向かい走り続けて―――

 

「―――だったらさっさと下がればいい。そこにいられるとボクには邪魔なんだ。

 グガランナはまだしも、オマエの声が聞こえる範囲にあると気が散るからね」

 

 ―――天の鎖が降り注ぐ。

 ティアマト神すら巻き込むに足るだけの質量を持つ、巨大な鎖の雨。

 擦れあう鎖の擦過音が、まるで咆哮のように響き渡る。

 

 それが、確かに。

 ティアマト神の全身に巻き付いて、その場で足を止めさせた。

 軋む。が、けして砕けない。

 困惑するかのように、ティアマトが身を捩る。

 

「A、a、aaaaaa―――――――ッ!!」

 

「キングゥ……!」

 

 答えはない。

 もう、彼から人に向けて送る言葉なんて残ってない。

 あと彼が残した言葉は、人に贈るためのものではない。

 

 天の鎖は繋ぐもの。

 人界に打ち込まれた天の楔と結び、人の世を神の許に繋ぎ止めるもの。

 

 この鎖は、どこにも行くな、と。

 そう言って相手の首にかけて、自分たちに繋ぐためのものだった。

 だが、もういいのだ。

 

 人は鎖などなくても、自分で繋がっていける。

 彼らの心は、もう神に縛られる必要はない。

 神代から離れても、正しく継続していける。

 

 人は旅をするものだ。

 その旅の果てに遺されたものは、他の誰かに繋がっていく。

 エルキドゥの後に、キングゥが続いたように。

 だからきっと、人の世に天の鎖は必要ないのだろう。

 無理に繋ぐ必要なんて、どこにもない。

 彼らは生き抜いて、死んで、遺ったものを誰かが継いで、

 そうして繋げて続いていく。

 

 もう楔は打ち込まれている。

 天の楔は人の世のために、自身の選んだ使命を果たした。

 人が人として生きていくために必要なものは、もう既にそこにある。

 

「―――ふん、それにしては工程に不足もはなはだしい。

 所詮は使命から逸脱した天の楔。鎖がなければ、繋ぎ止めておけなかったわけだ。

 失態だね、ギルガメッシュ」

 

 ―――在り方は果たそう。

 だが、人の世をどこに繋ぐかは、もう彼自身が決める。

 

 彼は繋ぐもの。

 人の世を、人のための世界として、維持し続けるために。

 繋ぐものはもう決めた。いや、最初から決まっていた。

 

 天の楔は人の世を敷き、自身をそれを縫い留める楔として使用した。

 ―――なら、天の鎖は。

 

「……ボクは、神を縛ろう。

 人の世を縫い留めた楔を引き抜こうと癇癪を起したあなたを、止めるために」

 

 彼は天の鎖。人の世と神を繋ぐもの。

 人にも、神にも、繋がるもの。

 彼は人を滅ぼすものではなく、また神を排斥するものでもない。

 どちらにも、繋がるものなのだから。

 

「人の世をそこに残したまま、あなたを再び眠りに誘おう。

 あなたがどこにも繋がっていない、なんてことはない。全てが繋がる在り方を人は選んだ。なら、どれだけ距離が離れても―――確かに、あなたとも繋がっている」

 

 天の鎖が黄金に輝き、ティアマトへの縛りを強めていく。

 彼女の歩みは確かに、そこで完全に止まった。

 

「星の息吹、人の叡智―――

 あなたが生んだものの力を、ボクの機体と魂の全てを懸けて此処に語ろう。

 ――――“人よ、神を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)”。

 ……人と神が正しく共にあるために。正しく世界を先に繋げるために。あなたが子の歩みを見送れるように。少しだけ、哀しいけれど。母さん、あなたの歩みを止めておくれ」

 

 

 

 

 地面に転がった黒煙を噴き上げるタイムマジーン。

 それを飛翔しながら、ケツァル・コアトルが引っ掴む。

 そのまま、全員が全員ウルクに駆け抜ける。

 ティアマト神の歩みは止まった。が、浸食海洋が止まらない。

 多少減速はしても、それはウルクに向かって流れ込んでくる。

 

 彼らが駆け込むのを見たギルガメッシュが、即座に叫ぶ。

 

「錨を上げよ! ナピシュテムの牙、展開!」

 

 兵士が反響光で合図を示す。

 構えていた担当のものたちが、すぐさまその号令に従った。

 

 ―――ウルク市の南。

 北壁、バビロニアの壁ほどとはいかずとも、ウルク市を覆うほどには長大な範囲。

 その大地を突き破り、牙を折り重ねたかのような壁がせり上がった。

 天を衝くようにせり立つ壁。それが、泥の津波を受け止める。

 

「ナピシュテムの牙、起動成功!

 黒泥の浸食は分かれ、ウルクを避けるように流れていきます!

 ですが、崩壊が至る所に見られ、次に大波が来れば防げないと……!」

 

「だろうな。だが、気にする必要はない。

 次の大波が来る時とは、即ちティアマト神が再度の侵攻を開始した時。

 そこまででどうにもならなければ、真実我らの敗北だ」

 

 轟音が響く。

 ナピシュテムの牙を越え、ウルクを飛び越し。

 そうして遂に、天の牡牛が地面へと崩れ落ちる。

 

 積乱雲が地面に落ちてくる。黄金の鎧が大地を打ち砕く。

 ウルクとバビロニアの壁の間を吹き飛ばしながら、天の牡牛が地面に伏せた。

 最早立ち上がれぬ、と。一目で知れる。

 自身らが死に物狂いで打倒した怪物の中の怪物があの有様とは。

 などと小さく鼻を鳴らし、ギルガメッシュは号令を下した。

 

「―――総員、戦闘準備! ティアマト神が止まっても、ラフムどもは止まらんぞ! 前に出る者は、牙に取り付き破壊しようとするラフムどもを狙え!

 ウルクが落とされればこちらの負けだが、そんなものはティアマト神が後一歩踏み出せば終わること! 勝利を確信して遊びに向かう連中にウルクを越させるな! この(まち)の先、バビロニアにはシュメルの生きとし生けるものを全て集めている! ディンギル隊はそれらを狙うものを全て撃ち抜いてみせよ!

 我らの世界、蹂躙されたくなければ死力を尽くせ! 守りたくば全霊を懸けよ!」

 

 ギルガメッシュの号令。

 この都市に残った兵士たちが、それを聞いて奮い立つ。

 

 ナピシュテムの牙を乗り越え、雪崩れ込んでくるラフムたち。

 それらと槍と盾を構えた兵士たちが、衝突した。

 

 作戦の最終段階、ウルク決戦。

 それはもう、始まる前から終わっている。

 マルドゥークの斧の確保は叶わなかった。

 決定打は残されていない。

 

 アナザーディケイドが、自身を縛る鎖に手をかける。

 それがただのティアマト神ならば、一刻の猶予はあっただろう。

 だが、それは創世の神にして世界の破壊者。

 世界を繋ぐ天の鎖さえも、力尽くで破壊してみせようとする。

 罅割れていく、天の鎖。

 

 それを見上げて、ギルガメッシュが僅かに目を細めた。

 

 そこで。

 決戦の光景を同じく眺める士の後ろから、銀幕を通って海東大樹が現れる。

 振り向いてそちらを見る彼の前で、海東は肩を竦めた。

 

「…………」

 

「まったく、君たちの頑張りすぎだね。

 この大地に残った命を一ヵ所に集めるなんて、とても半日で終わるものじゃないよ。

 ―――ま、やり遂げてきたけれど」

 

 彼はそのまま歩き出し、士の隣に並ぶ。

 眼下で始まっている戦いを前にして、彼は呆れた様子を言葉にした。

 

「本来ならば、数え切れるほどにまで人間は死に絶えていたんだろうけれど……どうやらこのまま国家が続けられるほどには、生き残ったらしい。

 ま、どちらにせよ。いつかこの国も亡ぶんだろうけど」

 

「は――――まったくだ。この戦い、最終的には(オレ)の死によって編纂せねば立ち行かぬ、と思っていたが。どうやらまだ、(オレ)に死んでいる暇はないらしい。

 この戦いを終わらせれば、魔獣どもに齎された被害は災害に置き換えられ―――しかし、まだこの王朝は続けていく必要がある。ならば、やるしかあるまいよ。

 滅亡はいつか訪れる。ならば、次に隆盛するもののために、何かを遺してやらねばな。何千年続くか知らぬが、人の世はそうして繋がってゆくものと、この(オレ)が定めたのだから」

 

 王の言葉にまた肩を竦め、海東大樹がドライバーを抜く。

 彼はそのままカードを引き抜いて、そこに装填した。

 ハンドグリップを持ち上げ、待機状態にするドライバー。

 その銃口を彼は―――門矢士へと突き付けた。

 

「お前……」

 

「返すよ、士。別に必要だから持っていたわけじゃないし」

 

〈カメンライド! ディケイド!〉

 

 ―――ディエンドライバーから放たれた力。

 それはスロットに装填されたカード。

 仮面ライダーディケイドのもの。

 

 放たれた力は、門矢士の姿を包み込み、彼をディケイドに変えていく。

 今までと違う点は、ひとつ。

 腰に装着されたディケイドライバーに刻まれたクレストが減り、白くなっていること。

 

「……俺が変身できないのは、そもそもお前のせいだがな」

 

「そうかい。なら、感謝してくれたまえ。

 僕があの時、ジョーたちに迷惑をかけた君からカードを奪っていたことをね」

 

 いつか、彼らがゴーカイジャーたちと争い、そして共に戦った後。

 戯れのように、海東大樹が門矢士から奪っていたもの。

 それが今ここに返却され、彼は再び仮面ライダーディケイドの姿を得た。

 カード1枚、それだけでは本調子には遥かに遠い。

 だが、これで―――保険と合わせて、アナザーディケイドを僅かであっても上回れる。

 

〈カメンライド! ディエンド!〉

 

 海東もまた、姿を変える。

 そちらを見もせずにディケイドが歩みだし、眼下の戦場を見降ろした。

 サーヴァントたちも、ジオウも、既にそこで戦っている。

 いま、ティアマトは天の鎖で動きを止めている。

 それでもマルドゥークの斧がない以上、決定打は与えられない。

 ここで幾ら足掻いても、逆転の術は存在しない。

 

 どうしたものか、と。頭を回し続ける士の後ろ。

 ふと、おかしな感覚を覚えてディエンドが立ち止まる。

 

「――――へえ、なるほど」

 

 そんな風におかしそうに笑いながら、彼はカードを一枚取り出した。

 思わずそちらを向き直り、ディケイドは鼻を鳴らす。

 

「そっちも面倒ごとな気がするが……ま、俺には関係ない話か。やるぞ、海東」

 

「面白いじゃないか、世界の終末に君と一緒に戦えるなんて。

 お宝は手に入らなかったけど、悪くない気分だよ」

 

「俺はまったく面白くない」

 

 

 

 

 しゅるしゅると、波打つストールが大きく延びる。

 突然の行動に面食らい、カゲンが下手人に対して声を荒げる。

 引き戻されるストールが彼から奪っていったのは、一つのライドウォッチ。

 

「――――ウォズ!」

 

「言っただろう、カゲン。助けが必要ならば助ければいい、と。

 ここでこうしてウォッチを一つ使うだけで十分なんだ。

 そう声を荒げるものではないよ」

 

 言って、黒ウォズが自分の掌の中にウォッチを落とす。

 言われたカゲンは小さく唸るが、それでも否定まではしない。

 彼方に見える戦場、アナザーディケイドを見て、軽く舌打ちした。

 

 その様子を見届けてから、黒ウォズが手にしたウォッチのベゼルを回す。

 押し込まれるスターター。

 そうして起動音声に続き、そのウォッチに秘められたライダーの力が大地に広がっていく。

 

〈J!〉

 

 ―――大地から溢れ出すJパワー。

 星から溢れ出す命の力が、地上に満ちていく。

 相手はこの世界を別の世界に塗り潰そうとする侵略者(インベーダー)

 既に、星は彼女の許から旅立った。

 今の命を続けるために、全ての生命の母(マザー)が相手でも立ち向かう。

 

 それは、彼らが命であるために。

 踏み躙ったものは数知れず。犠牲にしたものは数知れず。

 それでも、生きるために前に進み続けるのだ。

 望もうと望むまいと。多くのものを傷つけながらも。

 傷つけたものを、喪ったものを、奪ってしまったものを、心に残して、前に。

 

 ―――還らない。

 もう、彼らは旅立ったのだから。

 

 だから。だから――――彼女が眠る、墓所を立てよう。

 この天を生んだ母がいたと。この地を生んだ母がいたと。全ての命を生んだ母がいたと。

 忘れずに、前に進むために。

 自分たちが進むために梯子にして、狂ってしまった母のために。

 

 そうして渦巻く力の奔流の中、黒ウォズが戦場を見据える。

 

「さあ、見せてくれ常磐ソウゴ。君の力を」

 

 投げ渡されるJのウォッチを受け止めながら、彼の様子を見て。

 カゲンが僅かに鼻を鳴らし、戦場へと視線を送った。

 

 

 

 

「魔王!」

 

 拳撃でラフムを一体粉砕し、そのまま次の相手にかかろうとするジオウ。

 そんな彼を呼び止める、上空からの声。

 足を止めたジオウの前に、ディケイドが飛び込んでくる。

 

「ディケイド……!? なんで変身してるの? あ、ウォッチ?」

 

 着地すると同時、ディケイドはそのままウォッチを全部投げ渡す。

 焦りながらそれを受け止めるソウゴ。

 そこにはディケイドウォッチだけが入っていない。

 それが原因か、と。

 

 そうしている彼に対して、ディケイドがブランクのカードを一枚突き付ける。

 

「……なに?」

 

「大した事じゃない。ただ……ちょっとくすぐったいぞ?」

 

 絵柄の浮かんだカードをひらひらと振りまわす。

 そうして白いドライバーを開き、彼はそのカードを滑り込ませた。

 ガシャリと音を立てて閉じ、発動される新たな力。

 

〈ファイナルフォームライド! ジ・ジ・ジ・ジオウ!!〉

 

「え?」

 

 ふらりと彼はそのままジオウの背後に回り込み。

 両腕を背中に近づけて、大きく横に開いた。

 それに反応して、突然ぐにゃりと曲がっていくジオウの体。

 

「なに!? なになになに!? なにすんの!?」

 

「すぐ終わる」

 

 空中に浮いて、ジオウの体が折り畳まれていく。

 顔と、胴体に走る時計のベルトに似たミッドバンドライナーだけ残し。

 彼の体が消えるように、完全に内部へと折り畳まれてしまった。

 

 それを見上げているディケイドの背中に、銃口が突き付けられた。

 

「ああ。そして士、君も―――痛みは一瞬だ」

 

〈ファイナルフォームライド! ディ・ディ・ディ・ディケイド!!〉

 

 ―――ディケイドもジオウと同じように。

 空中に浮いて、彼はまるで自分のドライバーのようなものに変形し。

 しかしそこで何かが変わったように。

 彼の変形が巻き戻されて、まったく別のものへと変わっていく。

 

「そして、もう一つ。これが僕の最大のお宝さ、今回は大盤振る舞いだ」

 

〈カメンライド! J!〉

 

 ディエンドライバーから放たれる光。

 そして、大地から溢れ出すJパワー。

 それが混じり合い、アナザーディケイドに匹敵する巨大さを持つ人型を構成していく。

 

 深緑の巨体、仮面ライダーJ。

 奇跡の戦士が、その時と同じ奇跡を背負い、侵略者の前に降臨した。

 

 すぐさま、ジオウだった顔とベルトがそちらへ飛んでいく。

 まるでお面のように、Jの顔面に張り付くジオウの顔。

 時計のベルトはそのままJの胴体に沿うように張り付き―――彼の体を、変えていく。

 

「お、お、おぉお――――!?」

 

 ジクウドライバーまで含め、仮面ライダーJという巨人の表面に再現されるジオウ。

 そんな状態になったソウゴが自分の顔を、恐る恐る撫で始める。

 そうしている彼のドライバーに、ディケイドだったディケイドウォッチが装填。

 勝手にロックを解除して、ぐるりと一回転した。

 

〈ライダータイム!〉〈仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム!〉

〈カメンライド! ワーオ! ディケイド! ディケイド! ディケイド!!〉

 

 十の影を束ね、一つと為し。

 マゼンタの装甲が、彼の全身を包み込んだ。

 ディメンションフェイスに映し出される、ディケイドの名が刻まれた顔面。

 そうして完成した巨大なジオウが、自分の体を確かめながら、叫んだ。

 

「でっ、かく、なっ、ちゃっ、たぁ―――――!?!?」

 

 兵士が愕然とする。

 ラフムが困惑する。

 サーヴァントたちが唖然とする。

 ギルガメッシュが腹を抱える。

 

 瞬間、ジグラットの上に波打つストールが翻る。

 彼は当たり前のようにそこに降り立ち、手にした『逢魔降臨暦』を広げ。

 不敵な笑みを浮かべたまま、全力で声を張り上げた。

 

「祝え―――――!!

 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者!

 その名も仮面ライダージオウ・ディケイドアーマージャンボフォーメーション!!!

 大いなる星の力に後押しされ、地上に君臨する巨大王者が降臨した瞬間である!!」

 

 大破したタイムマジーンの中。

 数え切れないアラート表示が明滅するモニターに映った、いつもの奴。

 それを見て、一瞬だけ遠い目をして。しかしぐっとこらえ。

 

『―――マルドゥークの斧の確保を!

 そこをどうにかする方法さえあれば、あんたが振るえば意味がある!!』

 

 オルガマリーが叫ぶ。

 ディケイドアーマーが巨大化した。ならば、それに必殺の武器たる斧さえあれば。

 アナザーディケイド、ティアマト。両者に対する特攻が得られる。

 それらの怪物に対する、打倒に繋がると。

 

「って、それだけじゃ足りないでしょ!?

 母さんは恐らく、他の生命の存在によって自分を補完してる!

 致命傷を与えるには、それこそ冥界にでも落とさなきゃ……!」

 

 唖然としつつも、イシュタルがそう叫び返す。

 ティアマト神の不死性の突破は、マルドゥークの斧だけでは足りない。

 彼女の不死性は、地上に生命がある限り続く。

 それを感覚で理解して、彼女はそう口にして―――

 

『いや、いま落としてもアナザーディケイドは冥界から離脱できる!

 どうにかして、現世で致命傷を与えなきゃいけない!』

 

「どうにかって、そんな事が――――!」

 

「できるんだよね!?」

 

 立香がすぐさま振り返り、ラフムへの銃撃を開始しているディエンドを見る。

 彼は憂さを晴らすようにラフムへ銃撃し続けて。

 そのついでのように、彼女からの疑問に答えを返してみせた。

 

「感じてみればわかるさ。合図には丁度いい巨大さだからね、すぐに始まるよ」

 

 

 

 

「はぁ……私をスウォルツ氏への囮に使っておいて更に利用するとはね」

 

 だが、それが気に入らないといって無視はできない。

 海東大樹のせいで、既に状況が大きくなり過ぎた。

 このまま救世主の未来に辿り着く前に、魔王に死なれてはたまらない。

 

 彼が立つのは、ウルクとバビロニアの壁の中継点。

 ついさっきグガランナが落下してきた近くだ。

 位置的にここしかないとはいえ、随分と肝が冷えた。

 未来ノートで落下地点を誘導しなければ、潰されていたかもしれない。

 

 ―――とにかく。

 この協力は望んだものではない。さっさと終わらせるに限る。

 連絡はまだこないが、巨大な魔王が降臨したのだ。

 丁度いいタイミング、ということだろう。

 

 白ウォズがウォッチをドライバーに装着し、叩き付ける。

 

〈フューチャータイム!〉

〈デカイ! ハカイ! ゴーカイ! フューチャーリングキカイ! キカイ!〉

 

 黄金の鎧を纏い、ライダーウォズが大きく手を掲げる。

 そこから放出される、フューチャーリングキカイの特性。

 

「まったく、メガヘクスじゃあるまいし……まあいいさ。

 ――――さあ、この世界の生物をひとつ残らず絶滅させよう。

 代わりにここからは、キカイ的に行こうか」

 

 ―――どれだけ範囲を広げても、ウルクとバビロニアを含むまでが限界。

 だが、バビロニアに全ての命を集めてしまえば。

 フューチャーリングキカイの力で、全ての生命を一時的にでもキカイに変えられる。

 

 もうこの星に生物はいない。残っているのは、キカイだけだ。

 彼の未来ノートと海東大樹のオーロラカーテンで、その無茶を成し遂げた。

 彼らが守ってきた命は、全て一か所に集まって。

 いまこの時をもって、全てヒューマノイズとなって滅び去った。

 

「……ッ、こんな範囲、そう保たない。さっさと終わらせて欲しいね……!」

 

 全身から白煙を噴き出して、フューチャーリングキカイがオーバーヒートする。

 処理能力を逸脱した能力行使は、そう長く保つはずもない。

 身にかかる過負荷に耐えながら、白ウォズは戦場へと視線を向けた。

 

 

 

 

 ガキン、と。ラフムの鉤爪が、人間の腕に弾かれる。

 そうなった事実に、兵士当人とラフムが共に困惑。

 しかしすぐに気を取り直して、兵士がその拳でラフムの頭部を殴打した。

 鋼の拳が、泥の頭部を粉砕する。

 

 そんな眼下の光景に、ディケイドが状況を把握した。

 そして、すぐさま体内に響く声を張り上げる。

 

『―――状況は整った。行け、魔王!』

 

「うお!? ―――オッケー、今なら……なんか、行ける気がする!!」

 

 喋るドライバーに驚きつつ、しかし納得し。

 ソウゴは拳を握って、そこに先程返してもらったウォッチをひとつ取り出した。

 

〈ダブル!〉

〈ファイナルフォームタイム! ダ・ダ・ダ・ダブル!!〉

 

 ディケイドアーマーが変わる。

 胸部に表示される文字が、バーコードからダブルに合わせたものに。

 インディケーターに表示される文字は―――

 

 “ダブル・エクストリーム”

 

 胸から下が、三つに分かれた体に変わる。

 左が黒、右が緑。そして中心にプリズム体を輝かせ。

 割れて中が見えた究極のダブルの顔を、ディメンションフェイスに表示する。

 

 その体が放つ光が、アナザーディケイドを包み込んだ。

 虹色の光の中で、巨神は敵の出現を理解する。

 自身を脅かす可能性があるもの、という括りに含まれるものを認識する。

 

 かかる力がより増して。

 バキバキと断末魔を上げ始める、天の鎖。

 

「A、AaaaaAAAaaaa――――――ッ!!!」

 

 破片が散る。

 ティアマトはそれを砕くことに、何の感慨も見せない。

 それはそうだろう。キングゥは彼女の子供ではない。

 彼女を放逐した神々の造り出した兵器。

 だから、それも当然の話で。

 

 別に、怒る気はない。それを分かって、キングゥは選んだのだ。

 人として、神を繋ぎとめる事を。

 星が固まり、神が降り立ち、多くの生物を経て、人が生まれ。

 そうやって世界は回ってきた。

 

 だから、排斥するだけで終わらせるのは違う。

 神が在ったから人が在る。

 求められなくなってしまった神だけど、それでもその神から繋がって世界があるのだと。

 それを理解した上で―――眠らせる。もう二度と、目覚めないように。

 

 彼女にはもう居場所はない。

 彼女が活動して壊すのは、彼女が始まりになって発生した繋がりだ。

 だから、壊させない。神と人と、それらが生きる世界。

 今まで受け継がれてきた、これからも続いていく長い長い繋がりを。

 けして、棄てないために。

 

「キングゥが望んだここから先の繋がりを、終わらせないために。

 あんたが始めた繋がりを壊そうとするあんた自身を、今ここで終わらせるよ。

 …………さあ。あんたの罪を、教えて?」

 

 エクストリームとアナザーディケイドが対峙する。

 女神を手で示すように構えたソウゴに、士の声が届く。

 

『―――アナザーディケイドの能力、それを大体閲覧した。ま、何とかなるだろう』

 

「……で、大体って?」

 

『試してみれば分かる』

 

 ダブル・エクストリームの手に浮かび上がる、盾と剣。

 四つのメモリを装填するためのスロットの設けられた盾。

 そして同じく一つスロットを持つ、直剣。

 

 出現した瞬間から盾に既に装填されているガイアメモリが、続々と光を放つ。

 

〈サイクロン! ヒート! ルナ! ジョーカー!〉

〈マキシマムドライブ!!〉

〈ダ・ダ・ダ・ダブル! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 湧き立つ力の渦を目撃し、ジオウがその盾を突き出した。

 同時にジオウが盾の中心部に触れ、その盾が収束させる力を解き放つ。

 放たれる虹色の光線。

 それが、戦闘態勢に入ろうとしたアナザーディケイドを直撃した。

 

 表面だけが僅かに焦がされ、しかし徐々に傷を回帰していく。

 

『っと、不死性……傷の状態回帰が明らかに減速してる!

 これなら、マルドゥークの斧の一撃を合わせれば……いけるか!?』

 

『マルドゥークの斧をどうにかして取り戻す必要がある! 手段はあるかい!?』

 

『自分たちで確かめろ。いま手に入れた情報はそっちに送る』

 

 ロマニとダ・ヴィンチちゃんの声。

 彼らの声に応じ、通信に乗せてエクストリームが読み込んだ情報を送信。

 カルデアの元にティアマト、アナザーディケイドの情報が流れ込む。

 

 更に、それを攻略すべくジオウが新たなるウォッチを取り出した。

 

「ああ、一気に行くよ! ディケイド!」

 

『ふん、そうじゃなきゃ……白ウォズが先に潰れるだろうしな』

 

〈オーズ!〉

〈ファイナルフォームタイム! オ・オ・オ・オーズ!!〉

 

 インディケーターに“オーズ・プトティラ”と。

 狂獣の顔を浮かべて、白い体に紫の甲殻を持つ恐竜種が降臨する。

 彼はすぐさまドライバーのウォッチに手をかけた。

 

〈オ・オ・オ・オーズ! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

「オォオオオオオオオオオオ―――――ッ!!」

 

 頭部からエネルギーを発し、紫の翼を構成する。

 その羽ばたき一つで、周囲には吹雪が吹き荒れた。

 荒れ狂う凍気が、周辺一帯の泥の海を一気に凍らせていく。

 まるで今までの暴虐が嘘であったかのように、当たり前のように。

 

「――――AAAaaaa、AAAAAAAAAAAAッ!!!」

 

「――――グゥウウウウウ、ルォオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 自分の世界を侵略され、ティアマトが嚇怒の雄叫びを放った。

 それと正面から向き合って、オーズ・プトティラが雄叫びを上げる。

 侵食海洋を侵食する凍気こそ、虚無に還る力。

 命を生み出し支配する侵食海洋を、既に絶滅した種の滅亡に向かう力が相殺する。

 

 プトティラが跳ぶ。

 ナピシュテムの牙を飛び越えて、彼が氷結させた泥の海へと着弾する。

 そのまま氷の海に拳を叩きつけ――――沈んだものを、掴み取る。

 氷海を爆砕しながら引き抜かれる、マルドゥークの斧。

 

『―――ティアマト神の侵食海洋……原初の命を創造する混沌の海!

 カルデアにおいて、この侵食海洋を今後ケイオスタイドと呼称!

 そのケイオスタイドに内包された生命が、生まれる前に絶滅している―――!

 マルドゥークの斧も確保した。行ける、これなら―――――!!』

 

 自身を滅するために顕れた、自身の殺すもの。

 それに対し、ティアマトが動き出す。

 

 膨れ上がる四肢。再び溢れ出す侵食海洋、ケイオスタイド。

 氷の大地に泥を流し込みながら、悪魔竜の如き様相がマゼンタに輝いた。

 泥を跳ね上げながら、アナザーディケイドが疾走する。

 力を集約させて振るわれる剛腕。

 

 それに対し、ジオウが大きく体を伏せて潜り抜ける。

 直後。彼の腰の鎧が変形し、恐竜の尾の形状へと変わった。

 アナザーディケイドの手首を掴まえる、プトティラの尾。

 思い切りそれを振り回し、ジオウは相手の巨体をペルシア湾側に向けて射出した。

 

『戦場を押し戻しすぎると白ウォズの力の効果範囲からお前が出る。

 ウルクから放し過ぎるな。そのためにあんな面倒な戦いを必要としたんだぞ』

 

「分かってる!」

 

 氷海を砕きながら滑っていくアナザーディケイドが立て直す。

 即座に切り返す巨体に向け、両腕で振り上げられるマルドゥークの斧。

 大上段から斬り降ろされる巨大な刃。

 女神はそれに正面から突っ込むことに躊躇わず―――

 

 振り下ろされる。

 そして、受け止められる。

 アナザーディケイドの力が、斧の刃を白羽取りに止めた。

 そのままへし折らんばかりに横方向へと力をかけ。

 

「オォオオオオオオオッ!!」

 

 ジオウの両肩に力が集う。形成されるのは角竜の角。

 両肩から二本の角が、即座にアナザーディケイドに向け射出された。

 放たれた角が、斧を止めていた腕の両肘を貫く。

 力が緩む、その瞬間にジオウが斧へと全体重をかけてみせた。

 

 大地ごと割る、剛撃。

 脳天から股下まで、深々と斬り降ろされるティアマトの体。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――ッ!!?」

 

 確かに。紛れもなく。

 ディケイドアーマーが握る、マルドゥークの斧に。

 深々と体を割られて、それでも。

 ―――ティアマト神の不死性が、彼女を徐々に回帰させる。

 

『っ、そんな、これでもまだ……! 確かに明らかに回復は遅くなってる!

 それでも、確かに不死のままだ!』

 

『……生命体だけではなく、大地も生物判定している?

 だとしたら、やはり地上では倒せない、か?』

 

『だったらどうしろっての! 地上以外に招いても、逃げられるんでしょう!?』

 

 今まさに起きている実際の光景を見ながら焦るロマニ。

 受け取った情報を整理しながら目を細めるダ・ヴィンチちゃん。

 その通信の中にオルガマリーが割り込み、悲鳴を上げる。

 

 そんな声を聞きながら斧を握り直し。

 

「ディケイド! なんかある!?」

 

『保険なら一つある。つまり、冥界だな。もうウルクの下に来てるが……』

 

『落としても意味ないって言ったのあんたでしょ!?』

 

 回帰を完了したアナザーディケイドが再動する。

 頭部から伸びる大角を相手に向けた、全力のチャージ。

 それに対して斧を向け、受け止めるジオウ。

 

 氷結した海洋を粉砕しながら、二体の巨人が大地を滑る。

 

『そうだな。だが……落とすわけじゃないのなら、不意はつける』

 

『はあ!?』

 

『魔王、フォーゼだ! 宇宙に行くぞ!』

 

 ギャリギャリと音を立てて、角と斧が火花を散らす。

 強引に突撃を逸らし、そのままぐるりと体を回転。

 逸らした巨体の背中に尾を全力で振り抜いて、地面に叩き伏せる。

 

 叩き付けられたアナザーディケイドがしかし。

 すぐさま立ち上がり、再びジオウに向き直った。

 同時に振り上げられる大角。

 

 山羊か悪魔か、あるいは竜か。

 ティアマトとアナザーディケイドのそれが混ざり合い、更に肥大化した獣の角。

 その質量が直撃し、ディケイドアーマーが火花を噴く。

 

 ただでさえ大きい力の行使。そしてダメージ。

 限界を超えたオーズの力が、掠れるように揺らめいた。

 

「宇宙に行っても冥界に行っても逃げられるんでしょ!?」

 

『すぐに帰ってくる!

 それまで逃がさず、一緒に地球に落ちれればそれでいい!』

 

『落ちるって……!』

 

「―――分かった!」

 

 再度実行される、ティアマトのタックル。

 それに対し、斧を強く握り自身からもぶつかりに行く。

 角と斧とが激突し、互いに弾け、オーズの力が消え失せた。

 

 続いて、すぐさまフォーゼの力を呼び起こす。

 

〈フォーゼ!〉

〈ファイナルフォームタイム! フォ・フォ・フォ・フォーゼ!!〉

 

 切り替わるインディケーター。

 新たに刻まれる文字は、“フォーゼ・コズミック”。

 胸から下に現れるのは、淡く輝く水色の装甲。

 斧を片手に引っ提げたまま、新たに握るロケットを思わせる形状の大剣。

 

 ロケットのようなその剣を推力に、ジオウが蹈鞴を踏むティアマトに向けて加速した。

 

〈フォ・フォ・フォ・フォーゼ! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 発動するフォーゼウォッチの最大出力。開かれる空間を跳躍するためのゲート。

 アナザーディケイドの背後に出現する、暗黒の宙域。

 ワープドライブの機能が十全に発揮され、惑星(ほし)の外への道を拓く。

 

「宇宙にぃいいい、行くぅううううう―――――ッ!!」

 

 コズミックエナジーが嵐となって吹き荒ぶ。

 流出し続けるケイオスタイドを吹き散らし、青く輝く流星が突き進む。

 

 腹に叩き付けられた、ロケットの先端。

 それを両腕で掴みながら、踏み止まろうとする創世の女神。

 巨大すぎるワープドライブエリア。重すぎる荷物。

 過負荷に悲鳴を上げる、バリズンソードとコズミックステイツ。

 

「お、もい……!」

 

「A、A、AAA、AAAA、AAAAAAAAAaaa―――――ッ!!」

 

 大地に、己という海洋だった場所に留まろうとする巨神。

 彼女は叫ぶ。もう、旅立たせないと。もう二度と離れないと。

 

 ―――その、叫びに。

 

〈フォ・フォ・フォ・フォーゼ! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 もう一度、フォーゼウォッチが輝いた。

 憎悪に塗れたその執念。

 どれだけ目を曇らせても、愛するものへと突き進む母の姿を前にして。

 その姿も、自分たちの母の想いであるのだと受け入れて。

 

 その上で、今日、彼女の支配から旅立つために。

 人が、神の時代から卒業する日が来たのだと示すために。

 

「ぐ、う、うぉおおおおおおおおおおお―――――ッ!!」

 

 フォーゼ・コズミックが加速する。

 限界を超え、倍以上に出力をひねり出し。

 

 巨神が浮く。彼女の足が大地から離れる。

 狂乱するティアマトに、マルドゥークの斧を叩き付けて。

 彼女の背後に展開された、ワープドライブへと押し切った。

 

 無重力の浮遊感に、揃って投げ出される。

 オーバーロードして弾けて消える、フォーゼの力。

 

 足場を失ったティアマトが、すぐに地上に戻るための手段を行使しようとする。

 離れていくティアマトの背後に、銀色の幕が現れる。

 そのオーロラ一枚先に広がるのは、彼らがやっと引き剥がした地上。

 死力を尽くした打ち上げを、たった一つの所作でなかったものにできる異能。

 

「っはぁ、はッ―――! このまま地球に!?」

 

『ああ、思い切り叩き落せ!!』

 

 ソウゴが選ぶのは、ウィザードの力。

 起動したウォッチをすぐさまディケイドウォッチに装填。

 更なる姿に変身する。

 

〈ウィザード!〉

〈ファイナルフォームタイム! ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!!〉

 

 胸から下に煌めく、金剛の鎧。

 白銀に輝く最硬の魔法使いを示す文字は“ウィザード・インフィニティー”。

 暗黒の宇宙(ソラ)を斬り裂くように、光輝の魔法使いが加速した。

 

 彼の体から解き放たれる、白銀のドラゴン。

 それがマルドゥークの斧と重なり、その刃に光を帯びさせる。

 人の操る魔術など弾き返すだけの神なる刃。

 変質させられるはずもない。人の身が放つ、魔術などで。

 

 ―――その不可能を、魔法使いが可能にする。

 竜が刃に重なり、放たれるのは無限の魔力。

 マルドゥークの斧にさえも輝きを宿し、そのただでさえ巨大な斧を更に巨大化させた。

 

〈ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

〈シャイニングストライク!!〉

 

「はぁあああああああああ―――――ッ!!」

 

 自身よりも、ティアマト神よりも、なお巨大な超巨大戦斧。

 その刃が光の如き速さで迫り、彼女が世界の壁を越えるより速く。

 アナザーディケイドの胴体へと、全力で叩き込まれた。

 砕け散る胸部。弾け飛ぶ血肉と泥。それでも、彼女はまだ終わらない。

 命のない世界にあってもなお、彼女は未だに回帰する。

 

『チッ……この状況でもこれか。だがもう止まってる暇はない! 行け、魔王!』

 

〈プラズマシャイニングストライク!!〉

 

 マルドゥークの斧がインフィニティースタイルの手を離れる。

 巨大な斧がジオウの意思に従い、回転しながら飛翔する。

 アナザーディケイドを斬り裂き、押し切り、斬り刻み。

 彼女の巨体を、地球の方へと押し込んでいく。

 

 背後に地球が迫っている、というのなら彼女にとっても望むところだ。

 アナザーディケイドが、自身を襲う斧の方へと注視する。

 ティアマト神を斬り裂き、天と地とし、一つの世界を切り拓いた神の斧。

 ならば、それは一つの世界の始まりだ。

 

「AAAAAA、AAAAAAAAAAAA―――――ッ!!」

 

 アナザーディケイドの腰、歪んだドライバーらしき物体が輝いた。

 その力が結集するのは、彼女の足。

 彼女は地球に押し込まれながら、膨れ上がった足を全力で振り抜いた。

 激突する、世界を破壊する蹴撃と、白銀に輝くマルドゥークの斧。

 

 一瞬、拮抗。直後、斧が完全に折れ砕けた。

 飛散する破片が彼方へと散らばっていく。

 その欠片を追い越して、ディケイドアーマーがアナザーディケイドに肉薄する。

 

「この、ままァ――――ッ!!」

 

『――――鎧武だ!』

 

〈鎧武!〉

〈ファイナルフォームタイム! ガ・ガ・ガ・鎧武!!〉

 

 再び変わる。発動する力は、仮面ライダー鎧武のもの。

 銀色の武者鎧へと変わり、マントを靡かせながら。

 神なるフルーツ武者、インディケーターの表示にして“ガイム・キワミ”が襲来する。

 

〈ガ・ガ・ガ・鎧武! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 叩き付けられる、必殺の蹴撃。

 果汁を放ちながら突っ込んでくる極アームズを、ティアマトは正面から受け止めた。

 激突して、泥と果汁が入り混じり、熱に焦がされ蒸発していく。

 

『逃げるつもりもなくなったか。

 そうだろうな、すぐ下にお前が行きたい地上が待ってるんだ。だが……』

 

 士の声。何も問題ない、とそう確信するティアマト神に対して。

 まあ、そうだろう。何かあると思うはずもない。

 このまま叩き付けられようと、そこにあるのは彼女の望んだ地上。

 そして、もう白ウォズが限界を迎えただろう、命に溢れる彼女の土壌だ。

 

『―――俺と鎧武が揃って、冥界とやらがこれだけ地上に近付いてるんだ。その上、俺の力を持ってるお前は、自分がいるべきではない世界の命にとんでもない執着を持ってると来た……

 だったら。あの世とこの世が()()()()()することも、あるかもな――――ッ!!』

 

 ――――瞬間。

 地上の空気が、死に絶えた。

 いや、入れ替わったのだ。薄皮一枚下にあった、冥界のものと。

 

 自分が落ちる場所が生者の領域でなくなった、と。

 そう感じたティアマトが驚愕して、思考を停止させる。

 彼女が求めていた目的地を、完全に見失ったのだ。

 では自分はどこに行けばいい、と。完全無欠に迷走する。

 

 そうなった巨神に、全力で叩き付けられる鎧武極の必殺。

 宇宙に飛び立った二体の巨人が、冥界となった地上へと落下。

 衝撃で大地を割りながら、着陸し―――

 

 その瞬間、大地の全てがティアマトへと牙を剥いた。

 

「い、い、い……いきなり冥界がふわっとしたと思ったら!?

 いつの間にか地上が冥界になって、冥界が地上になって!?

 それでもって巨人の戦場に引きずり出されるなんて!

 一体全体、どういうことなのか説明をしてほしいのだけれど!?」

 

 いつの間にか地上へと進出していたエレシュキガルが涙目で騒ぐ。

 

 いま、此処に。冥界と地上は裏返り、地上は死者の国となった。

 死者の国たる冥界を支配する女神は結果として引きずり出され―――

 彼女が、今の地上を統べるものへとなったのだ。

 

 それを見ながら、ギルガメッシュが彼女に叫ぶ。

 

「大地を割らせるなよ、エレシュキガル!

 裏側には生者の国となった冥界がある、ティアマトにそこに潜られれば終わりだ!」

 

「生者の冥界……? 死者の地上……!?

 ああ、もう! ちゃんとこうなった理由を説明して欲しいのだわ!?」

 

 悲鳴を上げながらも、彼女の仕事は滞りなく。

 地上が冥界と化し、死者の国と化したからには、この地こそは彼女の領域。

 あらゆるものは彼女の支配下。

 それは、創世の女神であっても変わらない。

 

「母さんであろうと、この世界であれば私の権能からは逃れられない―――!

 ()の女神、エレシュキガルが命じます。

 灼け落ちなさい、原初の女神……! “霊峰踏抱く冥府の鞴(クル・キガル・イルカルラ)”!!!」

 

 大地から無数の槍檻が突き出す。

 地上ではなくなった地上に落ちた神を囲う、小さき槍の檻。

 閉じ込める、などと言うはずもない。

 ただ全霊を懸けた神罰を以て、その一切全てを灼き払う。

 

 刃向かう大地から溢れ出す熱と雷電。

 それに焦がされながら、アナザーディケイドが咆哮する。

 目指していた大地が、死の国に代わっていた。

 到着したのに、彼女が求めたものではなくなっていた。

 その事実に対して、泣き叫ぶように。

 

『これでも……! だとすると、まさか……!』

 

 地獄の大火に沈み、しかしそれでも動き続ける原初の女神。

 ディケイドアーマーがマルドゥークの斧が用い、叩き付けた傷。

 それは致命傷に成り得るはずのもの。

 だというのに。

 

 巨神は先程までに負った傷も。

 エレシュキガルの権能による今まさに負っている傷も。

 全て、逆行させて修復してしまう。

 

 ジオウが周囲に武装を展開。

 彼のサイズに合わせた巨大武具を、一気呵成に射出した。

 叩き付けられる無数の刃、無数の鈍器。

 

 それでも、ティアマト神は揺るがない。

 

『思わせぶりなこと言ってないでさっさと言え!』

 

『―――もしかすると、ティアマトの肉体の不死性と、彼女が死なない事は、まったく違うものなのかもしれない……! 生存する生物が消失して、確かに彼女は不死性を失った。だから、彼女の肉体は確かに傷つくし修復も遅い……! けど、それでも“行動不能”以上にはならないんだ!』

 

 エクストリームが得た情報を精査し。

 これまでの状態の推移を見分し。

 そうして辿り着く、どうしようもない結論。

 それに歯を食い縛りながら、ロマニが推論を語り出す。

 

『原初の女神ティアマトという存在には、初めから“死”という状態変化が存在しない! 女神ティアマトという存在にとって、自身の“生存”は前提!

 最初から彼女にとっては、生と死は表裏一体のものじゃないんだ。彼女というコインには、最初から裏にある死が用意されてない……! “生”から“死”に状態が覆らないんじゃない。彼女は両面ともに表、“生”の状態しか初めから持たないコインだからこそ、どう引っ繰り返しても同じ結果にしかならないんだ……!』

 

 プトティラの吹雪の余波で、ラフムどももほぼ絶滅した。

 ウルクにいるものたちは、冥界となった地上で、巨人同士の激突を見上げる。

 

 そんな中でロマニの言葉を聞いていたイシュタルが、天舟を強く握った。

 彼の説明に納得がいったのか、苦渋一色に表情を染めて。

 

「っ、なんてデタラメ……!

 母さん……原初の女神とはいえ、これほどなんて――――!」

 

「……こうなれば。

 その行動不能まで追い詰めて、今までのように虚数に放り込むしかありまセーン!

 どうにかして、そこから出てくる手段を潰さないと―――!」

 

 ケツァル・コアトルが燃える。

 どうにかして、あれらに割り込む手段がいる。

 いや、だが割り込んだとして何が出来るか。

 

「アナザーディケイドの力だけでも壊さないと、それも……!」

 

「ですが……っ! ティアマト神とアナザーディケイド……神核とそれに癒着したウォッチ、どちらかだけを壊すなんて出来ないから、ソウゴさんとマルドゥークの斧による同時攻撃が作戦だったのであって……!」

 

『もう、斧も完全に失われてしまった……! 一体、どうすれば……!』

 

 アナザーディケイドが身を捩る。

 エレシュキガルの権能を、耐えた上で動き出す。

 そして再び流れ出すケイオスタイド。

 それが地上へと溢れ出し、世界を彼女に染め上げだす。

 

「それでも俺たちはもう止まらない……! もう俺たちは歩き出してる―――!

 だから……! ラストスパート……ひとっ走り、付き合えよォッ!!」

 

〈ドライブ!〉

〈ファイナルフォームタイム! ド・ド・ド・ドライブ!!〉

 

 胸から下を真紅のボディに変えて。

 “ドライブ・トライドロン”が疾走する。

 彼女から溢れるケイオスタイドを止める手段すら残っていない。

 

 大地を踏切り、そのまま飛び蹴りを慣行。

 その瞬間にエレシュキガルが神罰を収め、アナザーディケイドの顔面を蹴り抜かせた。

 弾き飛ばされる巨体が、しかし。

 その一撃から即座に立て直し、ディケイドアーマーの足を掴んだ。

 

「ぐぅ……ぁっ!」

 

 地面に叩き付けられるタイプトライドロン。

 体が泥の海に背中から沈み、灼けるように煙を噴き上げる。

 そのまま転倒したジオウに乗り上げてくるアナザーディケイド。

 彼女は頭部へと掴みかかり、そのままケイオスタイドに沈めようとするように力をかけた。

 

「AAa、AAaa、AAAAaaaaaaaaa……!

 AAAAAAAAAAAAAAAA―――――ッ!!!」

 

『俺たちと戦ってる最中に地上が消えたんだ……!

 俺たちを取り込めば、また見つかる、とでも思ったわけか……!?』

 

「うぅ、ぐぅううう……ォオオオオオオッ!!」

 

 抑えつけられた姿勢から、足を強引に振り上げる。

 アナザーディケイドの腹を蹴り上げ、押し返し。

 そうした瞬間に、振り抜いた拳で胸を殴り飛ばす。

 拘束が外れたタイミングで即座に転がり、ケイオスタイドの中から転がり出る。

 

「っ、はぁ、ぐ……!」

 

 装甲が溶けたように白煙を噴き上げながら、ジオウが立ち上がり。

 再びエレシュキガルによる神罰が執行される。

 だが、まるで最早気にしていないと言わんばかりに動きを鈍らせもしない。

 

 それどころか、彼女の体が神罰さえも引き裂き始めた。

 彼女は世界の破壊者、アナザーディケイド。

 冥界の権威すらも破壊して、己の世界で塗り潰す。

 

「う、そ……! 冥界の中で、私の権能をこんなに簡単に……!」

 

 そこで、ふと。何かに気付いたように、ティアマトが動きを止めた。

 ゆっくりと、彼女が顔を向けるのは、地面。

 まるでその先にある、生者の蔓延る冥府を見つけたかのように――――

 

 オーロラが展開され、彼女がそれを動かした。

 

「逃げられる……!」

 

『―――どうにか止める! そっちでも援護しろ!』

 

 銀幕に向け、同じく銀幕が放たれる。

 同質の力による、強引な相殺。

 だがティアマトに出力されたそれは、門矢士一人だけでは相殺し切れない。

 押し切られればそれで終わる。

 その状態に、ジオウが左手首に巻かれたシフトブレスに手をかけた。

 

〈カモン! ベガス! キャブ! サーカス!〉

 

「これ、なら―――――!」

 

〈タイヤカキマゼール! アメリカンドリーム!!〉

〈ド・ド・ド・ドライブ! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

 トライドロンから射出される三つのタイヤ。

 ドリームベガス、ディメンションキャブ、アメイジングサーカス。

 運否天賦、次元操作、幻影形成。

 それら一つに纏め上げ、左腕に纏い、ジオウが一息にその力を行使した。

 

 銀幕が相殺される。

 ディケイド自身の銀幕と、次元操作を行使するトライドロンによって。

 二人が共に全力を尽くして、一度だけの結果。

 

 ―――相殺された次元操作以外。

 そのまま拡がっていく、アメリカンドリームの造り出す光景。

 パノラマの光景を遮り、再現される人の業。

 

 建ち誇るのは、ジグラットが小さく見えるような摩天楼。

 闇の中でも光が絶えぬ、数え切れぬ欲望の塔。

 いずれ人間たちがこの地上に築く、天を衝く街並み。

 

 冥界に顕現した未来の都市の灯り。。

 それを見て、ギルガメッシュが呆れたように鼻を鳴らす。

 

「……まったくもって度し難い光景よな。

 が、まあ―――人間とは、そういうものなのであろうよ」

 

 巨人たちより遥かに高い、高層ビル群。

 摩天楼の中で、巨人二人がなお戦闘を継続する。

 残った力を振り絞り、前へと踏み込むジオウ。

 

 実体を有する幻影のジオラマ。

 そのビルの一つに、ジオウがティアマトを叩き付ける。

 崩壊し、コインになって崩れていくビルディング。

 

 コインの滝を突き破り、アナザーディケイドが復帰する。

 直進する大角の一撃。

 それがトライドロンの腹を捉え、爆発のような火花を噴き出した。

 勢い余って倒れ、地面に転がるジオウ。

 

「ぐ、あ……ッ!?」

 

「ソウゴ!」

 

 相手を吹き飛ばし、空いた手で。

 女神は再び、世界を繋ぐ路を開く。

 彼女の手の動きに合わせ、ゆるりと動き出す銀色のオーロラ。

 その体が向かう先には、生者の屯う冥界がある。

 

 逃がせば終わり。

 現世と冥界の逆転現象は、鎧武とディケイドの力。

 そしてティアマトの執念に支えられたもの。

 ティアマトがアナザーディケイドとして、執念を失わない限り。

 この現象は終わらない。

 

 ディケイドの力を砕き、ティアマトを終わらせる以外に。

 この世界が、命を継続していく場所として続いていく方法はない。

 

 だから、逃がせない。

 命の溢れる冥界に移動されれば、肉体の不死性も完全に復活する。

 そうなれば、行動不能に追い込むことすらもう出来ない。

 

 だから、まだ。

 

 彼らが歩みを止めないために、諦めてなんかいられない。

 負けたと思わない限り、まだ負けてない。

 最後の最後まで、自分のことを信じて、戦い抜く。

 

 だが、それでも肉体には限界がある。

 離脱しようとするアナザーディケイドを、ジオウは追い切れない。

 彼が復帰するより先に、彼女はこの世界を後にする。

 だから、この戦いは此処で終わり。

 

 この大地から目を背ける。

 その答え、その彼女の選択こそが。

 

 ―――それが生存競争を放棄したという決着の、何よりの証左である。

 

「―――貴様と相対する人の旅路と、この身は黙って見届けるつもりであったが。

 道理が通らぬ所業を前にした、となれば口も出そう」

 

 崩れていく摩天楼より、大地に立つ母に下される結末。

 天を衝く塔の頂上。最も高き場所。

 人が闇を切り裂くために造り出した、文明の灯りの中。

 そこに、昏く燃える灯火が一つ。

 

「見渡すがいい、創世の母よ。

 この地は紛れもなく、貴様が求めた地上に他ならぬ。

 既に在った命を磨り潰してまで、貴様が求めた光景だ」

 

 噴き上がり、人らしきカタチを取り、現れるのは髑髏の面。

 “死”を知らぬものに“死”を知らしめる。

 幽世の淵より訪れし、終焉の使者。

 

「ならば、どうして逃げることなど出来ようか。

 子に旅を許さぬ世界を求めるのであれば。

 なおの事、貴様が他の世界への旅路を結ぶなど赦されぬ」

 

 創世の神が天を仰ぐ。

 “死”を知らぬ彼女に、その脅威は理解できない。

 初めて感じる未知の悪寒のみが、彼女の全身へと突き刺さり―――

 しかし、それが何故そうなるのか、という答えを彼女は持ち得ない。

 

「獣に堕ち、世界を縛りし創世の母よ。

 どちらが生き、世界を続けるか、その闘争から逃れるというならば是非もなし」

 

 大剣を握り、振り上げて。

 崩れ行く摩天楼から、その体が投げ出された。

 

 未知の感覚。理解できない危機感。

 それをしかし、躱さねばという焦燥だけで、彼女は即座にオーロラを引き寄せた。

 そこを越えれば、やっと彼女が待ち望んだ光景に辿り着く。

 彼女が再び原初の母になれる光景が待っている。

 

「我が名――――山の翁、ハサン・サッバーハ。

 一時、この身を見届け人としての役割から解放し。

 冠位を捧げし一刀にて、貴様に昏き死を馳走し奉る」

 

 揺らめくオーロラよりなお速く、その影は天より地へと迸る。

 それがどうした、と。

 彼女は還るのだ。彼女が望んだ、彼女が愛された、彼女が求められる時代へ。

 

 ―――ゴーン、と。

 一つ、彼女の意識に鐘の音が届く。

 

「聴くがよい、晩鐘は汝の名を指し示した。

 貴様の旅路に、此処より先の世界はない。

 故に、最早この世界から貴様が逃れる術もなし。

 現世を呑むか、黄泉路に沈むか。二つに一つと知るがいい」

 

 ―――オーロラが斬断される。

 彼女が求めた世界への扉が、斬り落とされて無に還る。

 

 己の辿り着くべき地を求め、手を彷徨わせるティアマト。

 だが最早彼女の前に、世界を越えるオーロラは現れない。

 既に地上へと降り立った翁が、最期に告げる。

 

「―――――“死告天使(アズライール)”」

 

 彼女の、死を。

 

 戦慄する。愕然とする。憤怒する。狂乱する。

 その感覚に、ティアマトの本能が暴走した。

 

 一閃をもって、彼女の道を拓く力が完膚なきまでに斬って捨てられた。

 その直後に自身の中に顕れた、未知の感覚。

 それが初めて対面する“死”であると、本能で理解して。

 

 彼女は永遠に子を愛する世界でありたいのに、死んではそうあれない。

 彼女は永遠に子に愛される世界でありたいのに、死んではそうあれない。

 

 そう泣き咽ぶ母の前で、もう一度。

 

〈ゴースト!〉

〈ファイナルフォームタイム! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!〉

 

 終わりじゃない。そこで終わらせない。

 死してなお魂は不滅であり、未来に向け無限に繋がっていくものなのだと。

 ―――“ゴースト・ムゲン”が立ち上がる。

 

「命を燃やして前に進み続ける限り……! 人間の可能性は無限大だ――――!

 あんたに繋がれたままじゃ前に進めないから……!

 託された大切なものを、未来に繋げないから……!

 だから俺たちは、命を燃やしてでも、アンタを乗り越えて前に進むんだ――――!」

 

 白銀のパーカー。虹色に煌めく装甲。

 ムゲン魂の背後に浮かぶ、∞と描かれた光の翼。

 彼に残された全ての力を結集し、ジオウは再び立ち上がった。

 

 狂乱するマゼンタの鬼神。

 そこに向けて加速し、激突する白銀の閃光。

 

 互いに突き出す拳。

 世界を捻じ伏せ、破壊するための一撃。

 魂を繋げ、未来へと進むための一撃。

 激突する二つの力が世界を揺らす。

 

 弾け飛ぶ泥の海洋。

 ケイオスタイドの侵食はまだ止まらない。

 ウルクに向け、どんどん流れ込んでくる。

 

「エレシュキガル! 母さんの海を止めなさい!」

 

「止められるなら止めているのだわ!

 あなたこそ、地面を撃ち抜かない程度に吹き飛ばしなさい―――!」

 

 冥界神の神威、雷光が奔り泥を灼く。

 そうして処理する以上の泥が、ティアマトからは流れ出す。

 サーヴァントたちが、可能な攻撃手段を尽くす。

 だが処理能力が足りる筈もない。

 

 彼女が悲しめば悲しむほど、涙のようにケイオスタイドは加速する。

 半壊したナピシュテムの牙ではもう壁にならない。

 量が増え、大波一つ発生すれば、それだけでウルクは沈む。

 

「―――キングハサン!」

 

 立香の呼び声に応え、地上に降り立った暗殺者が顔を動かす。

 髑髏面に浮かぶ、青い炎のような眼光。

 それと正面から視線を交わし―――微かに、彼は首を動かした。

 

 彼の助勢は今の一刀のみ。

 何より、これより歩いていく人のために。

 ―――それに大きく頷き返して、立香が戦場に向き直る。

 

「泥だけ今の冥界に落ちるように落とし穴を掘るとか!」

 

『それはダメ! ケイオスタイドに呑まれたら、ティアマトの眷属に造り替えられる! 生命のある世界になっている今の冥界に泥が流れ込めば、そこは彼女の世界になってしまう!』

 

 立香の提案をダ・ヴィンチちゃんが即座に切り捨てた。

 タイムマジーンを乗り捨て、ツクヨミとオルガマリーが地上に降りる。

 

「……だったら、どうする……!

 処分できない、除去しきれない、棄てる場所もない……! なら―――!」

 

「―――無害な目的に消費してみる、というのはどうだろう?」

 

 静かに笑う、軽い声。

 その声と共に、ケイオスタイドの流入が停止した。

 泥が地上に流れる落ちると同時、花を咲かせ始めたのだ。

 侵略海洋としての能力を失い、泥はただ美しいだけの花を咲かせるためだけのものになる。

 

『こ、れは……ケイオスタイドの機能、停止……!

 いや、停止したんじゃない。目的を果たした……?

 使い切ったのか……! 内包された命を、無害な花を咲かせることで!

 こんな事が出来るのは――――!?』

 

「そうとも、ロマニ・アーキマン。

 こんな事が出来るのは、花の魔術師の名を欲しいままにする私くらいなもの。

 マーリンお兄さん、ここにきて本人がアヴァロンから再登板さ」

 

 白衣を翻し、胡散臭い微笑みを浮かべ、花の魔術師が彼らの元に降りてくる。

 サーヴァント、ではない。紛れもなく花の魔術師、マーリンの本物。

 理想郷の塔に幽閉された身でありながら、当然のように。

 人理焼却によって歪んだ世界でなければこうも簡単にはいかないが―――

 それでも彼はいま、ここにやってきた。

 

 着地狩りを目的とし、オルガマリーの頭の上からフォウが跳ぶ。

 綺麗に決まるヘッドバット一発。

 

「……キャスパリーグ、お前は状況が分かってるのかい?

 やれやれ、せっかく見聞を広めるために外へと送ってあげたのに……

 なんてことだ、代わりに視野が狭くなってしまったなんて」

 

「フォッ!」

 

 状況は分かっているのでそれだけでとりあえず済ませ。

 摘まみ上げられた白い獣が鼻を鳴らす。

 

 そんな魔術師の登場を見て、ジグラットの上から声を張り上げる王。

 

「何が再登板だ、マスターに断りもなく勝手に死んで退場しおって。

 宮廷魔術師の役割を与えた(オレ)の見る目が疑われる事案だぞ、これは!」

 

「ははは、手厳しい。だがこっちにだって言いたい事がある。

 まだ私が退場してから一日も経ってない。だっていうのにこの状況だ。

 私は生まれて初めて、最高最速の全力疾走をする羽目になったよ。

 徒歩なんてとんでもない、もう本気で息を切らしながら走ってきたのさ!」

 

『普段は塔に籠っているんだ、運動不足解消に丁度よかったんじゃないかな!』

 

 疲れた疲れた、という様子を見せるマーリン。

 そんな彼にそう言い放ち、ロマニが状況の精査を開始する。

 

『マーリンの魔術によって、ケイオスタイド目的完遂……!

 山の翁によって世界間通路断絶……! 及び、ティアマトの神核に“死”の概念付与!

 これで、後は、ソウゴくんが勝てれば……!?』

 

「いや、足りぬな」

 

 そこにギルガメッシュが口を挟み、戦場を見上げる。

 

 ムゲン魂の拳が、アナザーディケイドの顔面を捉えた。

 その威力によって、彼女の大角に罅が走っていく。

 ―――だがそれも、ゆるりとした速度で回帰し修復されていく。

 

「どうして!?」

 

「奴は“死”を知った。その結末に至る道は出来た。奴はもう、生きているだけではいられない。だが今のところはそれまでだ。存在核に“死”を刻み、生物に保障された回帰の人類悪たる不死性を剥奪され、それでも。まだ、奴は純粋な生命力だけで不死身に等しい。

 あれが不死身であり続ける限り、アナザーディケイドとやらも砕けない」

 

『……その、ティアマトの不死身を斬り裂けるはずだったものが』

 

「マルドゥークの斧、ということになるな。もっとも、仕方あるまい。

 使い切らねばここにさえ至れなかったのだ」

 

「だったらどうすればいいっていうのよ!」

 

 状況に頭を抱え、オルガマリーが叫ぶ。

 ジオウとアナザーディケイドの戦いは、ゆるやかに終焉に向かっている。

 そう遠くないうちに、ジオウが負ける。

 勝利条件が存在しないのに、敗北条件だけは設けられているのだから。

 

「考えるまでもあるまい。

 マルドゥークの斧に匹敵する、ティアマト神を殺し得る武装を用意する以外に何がある」

 

「そんなものがどこに!」

 

 もうティアマトに傷を与えられる武器など残っていない。

 そんなものがあるならば、そもそも死に物狂いでマルドゥークの斧を引っ張ってきていない。

 彼女の問いかけに答えず、ギルガメッシュがマーリンに目を向けた。

 

「―――我がサーヴァント、キャスターだったもの。

 宮廷魔術師、マーリン。生身で走ってきた貴様に最も大きい仕事をくれてやる!」

 

「結局私の最大の仕事、ティアマトの復活阻止はできなかったんだ。

 今度こそしっかりと果たそうじゃないか、マスター」

 

 マーリンが杖を上げ、それで軽く地面を叩いた。

 拡がっていく魔法陣。

 形成されたそれを見て、マシュが驚きの声を上げる。

 

「これ、は。サーヴァントの召喚、陣?」

 

「そうだとも。なにせ、ここは冥界だ。

 生者は生者でしかないが、ここにいる以上は同時に死者としても観る事が出来る。

 ティアマトの不死性を誤魔化すためにここを利用したように。

 そして私は死なないが、人理焼却に紛れてインチキしてサーヴァントになったように。

 ここであれば――――生者であってもサーヴァントとして、再召喚できる」

 

「な、それは……つまり、まさか」

 

 拡がる召喚陣の光は、ジグラットにまで昇る。

 そうして光に包まれたギルガメッシュ。

 死者と扱われた彼が、肉体を置き去りにして魂を再臨させていく。

 

 ―――サーヴァント、英雄王ギルガメッシュの降臨。

 

「は、何を驚く盾の娘。

 そもそも貴様の半サーヴァントとしての状態の方が余程イカサマ染みている。

 この世界、やろうと思ってやれぬ事などそうないと言う事だ」

 

 変わっていく魂。その感覚の中で、ギルガメッシュがおかしげに笑う。

 彼の言葉に応じて、マーリンが頷いた。

 

「肉体はちゃんと確保しておくとも。

 ここが冥界でなくなったら、しっかりと生き返れるようにね」

 

 そんな、彼らのやり取りを聞いていて。

 目を見開いた立香が、ジオウとアナザーディケイドの激突に視線を向けた。

 限界を超えて衝突し合う巨人たち。

 その光景、そしてムゲン魂が持つ翼を見て――――

 

「―――エレちゃん! 冥界にいる人たちを、そういう風に全員魂だけにできる!?」

 

「へ!? い、いえ……できない事は、ないと思うけれど」

 

 彼女たちのその会話で、思い当たる。

 ―――あの翼ならば。

 彼女たちが知る、仮面ライダーゴースト・ムゲン魂ならば。

 

 ツクヨミが即座にマーリンを見て、声を張る。

 

「マーリン! その人たちの体も終わった後に全部元に戻せる!?」

 

「え、いや。流石に、多すぎるんじゃ。

 ほら、そこまでくると魔力がどうかって問題も……」

 

「ジャンヌ! 聖杯をマーリンに!」

 

「はい!」

 

 立香の声に応え、走り寄ってきたジャンヌ。

 彼女が、水晶体―――紛れもない聖杯を、マーリンへと押し付けた。

 それを抱えさせられたマーリンが少しだけ、口元を引きつらせる。

 

「……巡り巡って。天草四郎くんから今まで押し付けてきた仕事を投げ返された気分だよ。

 けど。ああ、もちろんやり遂げるとも。

 流石に本気で多すぎてどうなるか、という数だけれど。やってみせようとも。

 ―――どうせなら、完全無欠のハッピーエンドの方が僕だって好きだからね!」

 

 水晶体、聖杯を掲げてマーリンが魔術を行使する。

 当然、ギルガメッシュのサーヴァントとしての再召喚もこなしつつ。

 

 そんな流れの中で、オルガマリーが光の中のギルガメッシュを見上げた。

 

「……ギルガメッシュ王!

 つまり、マルドゥークの斧の代わりは、あなたが行うという事なんですね!」

 

「たわけ! それよりも遥かに優れた一撃を見せてくれるわ!」

 

「やれるなら最初からやってくれと言いたい気持ちでいっぱいですが、ええ!

 これより! カルデア大使館は、常磐ソウゴを中心に最後の一撃を敢行します! それに合わせて、ご協力を願います!」

 

 彼らは、同時にその攻撃を行わなければならない。

 ティアマトの神核、アナザーディケイドのウォッチ。

 それを同時に粉砕して初めて、彼らは勝利を得られるのだから。

 

「ふん。いいだろう! 特に許すぞ、カルデアの子守り係!」

 

「子守り違う!」

 

 がなるオルガマリー。

 そして光の中で変わっていく王を見て、シドゥリが小さく礼をする。

 

「……よく、分かりませんが。

 王よ。どうやら、私たちも少しお暇を頂く必要がありそうです」

 

「よい、行ってこい。これより(オレ)の傍に控える者は不要。

 ―――(オレ)はこれより一時賢王の名を捨て、数多の英雄の頂点に立つ王。

 英雄王、ギルガメッシュの名を取り戻す故にな――――!」

 

 頭を下げるシドゥリにそう応え、彼は笑う。

 光の中、王の魂が天変地異に等しき暴威の姿を取り戻す。

 

「……ッ! 全部捉えたわ! 行くわよ、私が冥界である今の地上に知覚できる命、その全てを剥き出しの魂に変える! そうされたくない奴はギルガメッシュの傍に集まりなさい! そこだけは範囲から外すから!」

 

「エレちゃん、お願い!!」

 

「―――任せなさい!!」

 

 続けて、エレシュキガルの権能が全ての生命を魂に変えていく。

 ギルガメッシュの傍へと避難した者。

 イシュタル、ケツァル・コアトル、ジャガーマン、マーリン。そして海東大樹。

 範囲外にいるにも関わらず、影響を受けない山の翁。

 

 それだけを残して、全ての命が魂と変わり舞い上がっていく。

 

「……それってバビロニアにいる連中も魂に変えたんでしょう?

 ここにいた兵士たちはともかく、他の連中はどうやって集めて――――」

 

 イシュタルが見上げる空。

 バビロニアの空から、無数の魂がこちらに向かってくる。

 それは、全てがジオウに向けて。

 

「―――あれだけ巨大だと、離れていても見えていたでショウ。

 人間が、人間として生きるために、全霊を懸けて戦う人間の姿が。

 なら、心配ありまセーン。

 自分に少しでも出来る事があるならば、という小さな意志も、確かに。

 彼らは、拾い集めて進むようデスから」

 

 全てを使い果たし、震えるディケイドアーマー。

 そこに、その中に、舞い上がった魂が全て流れ込んでいく。

 背負う∞の翼が色を取り戻し。巨大さを増し。

 ムゲン魂自身の体を、爆発的に輝かせた。

 

「そう、ね。ま、この辺りが世界が人間に譲られた理由なんでしょう。

 私たちは見送り役。人間の門出は、しっかりこの先を生きる人間が果たさないと。

 そうでしょう、ギルガメッシュ」

 

「ふん……随分と殊勝極まるではないか、らしくない事この上ない」

 

 がしゃり、と黄金の鎧がジグラットの天蓋を踏み鳴らす。

 上半身には何もつけず、下半身は鎧で覆い。

 唯一無二たる原初の剣を携えて、不敵に微笑む英雄王。

 

 彼の言葉に肩を竦めて返し、イシュタルが下がる。

 

 英雄王が円柱を三つ連ねたような歪な剣を目の前に突き刺した。

 そのまま手放し、戦場を見上げる。

 

 再び激突する二体の巨人。

 押し返されるのは、創世の神ティアマトにして世界の破壊者アナザーディケイド。

 そして災厄の獣、ビーストⅡ。

 

「ことここに至っては、もはや我らが先達として語らねば終わるまい。

 さあ。貴様の語る地獄を以て、今こそ神の代への訣別の儀となそう。

 ――――起きろ、エア」

 

 地獄、再開。

 彼が目の前に突き刺した剣らしきものから、赤黒い光が拡がっていく。

 それに認識したか、ティアマトがこちらに視線を送る。

 

 だが視線を逸らした瞬間、光となったムゲン魂が彼女に襲来する。

 超常的な膂力で繰り出される拳撃。

 その一撃で女神の体が沈み、追撃として放たれもう一発に吹き飛んだ。

 

「引き裂かれし貴様より生じた天と地。

 その始まりに至る前のこの星の原初の姿。

 生命を許さぬ地獄を思い出すがよい」

 

 この惑星(ほし)の原初の姿。

 あらゆるテクスチャが星を覆い隠す前に実在した真実。

 マグマの海とガスのみが存在していた死の星。

 それこそがこの惑星(ほし)の正体であり――――

 

 英雄王のみ持つことを許される、乖離剣の識る真実である。

 

 ゆるりと伸ばされた彼の腕が、乖離剣の柄を掴む。

 連なった円柱が回転し、天井知らずに加速し、そこに地獄を生み出していく。

 それを押さえつけながら掲げ―――

 

 この星の原初の姿と、そして先に視た数千年の先の姿を思い描いた。

 

「―――天を仰ぎて地に築き、積み上げたるは人の理。

 我が乖離剣が此処に語るは、天地の定まり。

 創世以前に顕わであった真実、地獄であった頃の星の記憶よ」

 

 エアの咆哮、高らかに。

 乖離剣の雄叫びは、地獄を識るものとして、その先に繁栄したものへの祝福。

 よくぞそこまで辿り着いた、と。

 生命を赦さぬ地獄から、生命の栄える地獄へと転じた、この惑星への感動。

 

「さあ、聞くがよいティアマト神。

 開闢を言祝ぐ、地獄であったものの祝着を。

 そして今度こそ、死という永遠の眠りに落ちるがよい――――!」

 

 故に。その剣を握る事は、彼にだけ赦される。

 彼こそ人の裁定者。星に根付く生命の在り方に楔を打ち込みし者。

 地獄の上に地獄を敷いた、人の代の観測者。

 

 英雄王ギルガメッシュが、乖離剣エアを引く。

 回転で発生する魔力が、円柱の内部で空間の断層を巻き起こす。

 それを更に圧縮し、引き裂き、到達する次元は全てを滅する虚無。

 神であっても、創世の神であっても、逆らえぬ。

 

 ―――其は自然(かみ)惑星(ほし)に降りる前よりそこにあった、地獄の再誕なり。

 

「この一撃を以て、人の代の開幕を告げる。

 子の在りように刮目するがいい、創世の母よ!

 いざ仰げ、死に物狂いで謳う人間どもの執念を―――――!!」

 

 拳を交わし、打ち砕き。

 ジオウの一撃が、アナザーディケイドを押し返す。

 

「A――――! A、AAA、La、AA、……!」

 

 咆哮(こえ)が、枯れる。

 原初の女神が、終焉を前にして戸惑いを見せる。

 何故こうなるか分からない。

 ただ、ただ、ただ、ただ、ただ、愛したかった。愛して欲しかった。

 

―――なぜ? ああ、ああ―――

―――ああ、ああ、いかないで―――

―――わたしから、はなれないで―――

―――おいて、いかないで―――

 

 ムゲン魂の拳が軋む。その心が、接触を通じて流れ込んでくる。

 女神の中に、角を持つ揺蕩いながら悲しむ女性の姿が見える。

 

『魔王!』

 

 更に強く拳を握り、激突。

 弾け飛ぶアナザーディケイドの破片。

 

―――だったら。あんたはあんたの望む世界を創ったあと、どうするの。

―――もし、俺たちが滅ぼされて。その後、ラフムたちが新しい人間になって。

―――それで、それだけで幸せならいい。

―――でも、神様のために造られたキングゥだって、エルキドゥだって変わったんだ。

―――ラフムたちがいつか変わって、あんたの元から離れようとした時。

―――その時、またあんたは全部滅ぼして、新しい人間を創るの?

 

 交錯する。返ってくる答えは、ない。

 その代わりに。ティアマト神が、啼いた。

 

「LaaaAAAAAAAAAAAAAAAA―――――ッ!!!」

 

「……そんなんじゃ何も残らない。それじゃあいつまで経っても先に進めない!

 あんたが創って愛したものが、何も、何処にも、残らないし繋がらない!!」

 

 胸部を撃ち抜く、全力のストレート。

 それをまともに受けて、アナザーディケイドが大地を滑る。

 ギリギリのところで踏み止まったティアマト。

 その前で、ジオウが全身に力を漲らせる。

 

「ォオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!」

 

 翼をより巨大に、託された魂を力に。

 虹色の閃光を全身から放ち、全ての力をただ一点に集結させる。

 これ以上ないというほどの輝きを一点に集中。

 右足に集いし光が、最早計り知れぬほどに膨れ上がった。

 

 ジオウが飛翔した瞬間、同時に地上から燃える地獄が放たれる。

 

「“天地乖離す(エヌマ)――――開闢の星(エリシュ)”!!!」

 

 暗紅の極光、その奔流が一息にビーストⅡを呑み込んだ。

 その地獄の中で、当然のように蒸発していくティアマトの肉体。

 天も地も赦さぬ地獄の中、彼女は最後に縋りつく。

 彼女を支える最後の柱、世界の破壊者アナザーディケイド。

 

 死にさえしなければ、彼女はまだ舞い戻れる。

 あの輝かしい、愛に満ちた女神としての生に。

 

 ―――地獄の熱量が増す。

 そして、原初の地獄が彼女に語る。

 もう戻れはしない。戻す必要などないのだと。

 原初にはただ彼らだけがあった。

 その上に、薄くて、柔くて、弱々しいものを重ね続けてきた。

 それをずっと積み上げてきて、今に至った。

 

 その奇跡を、我らは言祝ぐべきなのである、と。

 

 ティアマトの肉体が崩れていく。

 それでも、最後の柱から彼女は離れない。

 アナザーディケイドとして、彼女は肉体を保ち続け――――

 

〈ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト! ファイナルアタックタイムブレーク!!〉

 

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!」

 

 地獄を突き破り、迫る人の魂の集合体。

 その一撃が、彼女の胸を打ち据えた。

 最後に残った命綱が、呆気ないほどに簡単に崩れていく。

 

 地獄の熱を突き抜けて。

 破壊者の力を破壊して。

 女神の肉体に、永遠の眠りを齎して。

 

 人の魂が確かに、大地に足を下ろして生還した。

 

 

 




 
・仮面ライダージオウ・ディケイドアーマージャンボフォーメーション。
 仮面ライダーJのウォッチの力に呼応し、地球から溢れ出したJパワーを受けた、仮面ライダーディエンドによって召喚された仮面ライダーJ。彼にファイナルフォームライドで変形した仮面ライダージオウ、及び仮面ライダーディケイド(ディケイドライドウォッチ含)が装備され、誕生した超巨大王者。
 ディケイドウォッチに装填されたレジェンドライダーのウォッチの力を最大限に引き出し、通常を越える最強パワーを引き出すファイナルフォームタイムで戦う。

・ファイナルフォームライドジオウ。
 そんな ものは ない。
 相手の顔に張り付いてジオウに変身する腕時計型のなにか。
 変形はトリニティの際のゲイツとウォズを想定。


 長く苦しい戦いだった。
 しいて言うならあとどっかにウィザード特別編要素も欲しかったような。
 それと真仮面ライダー要素も欲しかったような。
 ままええわ。

 そして書き終わって思う。

 (あれ、ヘイセイバーいないな…?)
 
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