Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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戦わなければ生き残れない!
 


終局特異点:冠位時王指針(GRAND Zi-Order) ソロモン2016
ロマニの王国2016


 

 

 

緊急事態発生(エマージェンシー)緊急事態発生(エマージェンシー)

 カルデア外周部 第七から第三までの攻勢理論、消滅。不在証明に失敗しました。

 館内を形成する疑似霊子の強度に揺らぎが発生。量子記録固定帯に引き寄せられています。

 カルデア中心部が2016年12月31日に確定するまで、あと―――』

 

 カルデアスが赤く燃える。

 いつか見た、地獄の炎に包まれた地球の光景が帰ってくる。

 その赤い地球を見上げながら、彼は踵を返した。

 

「……この本によれば、普通の高校生常磐ソウゴ。

 彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた」

 

 手にした『逢魔降臨暦』を開き、彼はそれを正面へと掲げる。

 本の頁を画面のように、映し出される炎に包まれたカルデア。

 

「だが。彼はその未来に至る前にここ、カルデアへと訪れた。

 そこで彼が対面したのは、人理焼却と呼ばれる人間の全ての歴史を消滅させる破滅の光景」

 

 本に映し出された映像が、次々と変わっていく。

 

 炎に沈んだ街並み。

 怨念と竜種が氾濫する、黒く燃え盛る草原。

 破壊の大王が闊歩する、薔薇散る浪漫(ローマ)に通ず街道。

 星を見上げて進路を取る、海賊の突き進む海原。

 雷電渦巻く霧に包まれた、真実が秘められていた魔術都市。

 本能で動く獣王が走り抜けた、荒れ果てた大地。

 聖なる壁に覆われた、一人の罪人の終着点。

 神と離れて、人が自分の足で歩き出し始めた、旅路の始まり。

 

「―――魔術王ソロモン。それこそ、この事象の始まりの名前。

 彼と対峙した時、我が魔王が一体どのような結末を選ぶのか……」

 

 パタリ、と。彼は手にしていた本を閉じる。

 そのままそれを脇へと抱え、彼は歩き出した。

 

「人理焼却が魔術王による偉業だと言うのであれば。

 それを取り戻し、継続させ、支配する事こそ、我が魔王の偉業。

 その覇道がこの地に取り戻される瞬間を、どうぞご覧あれ」

 

 歩み去り、消えていく黒ウォズの姿。

 まるで時が止まったようなその空間から彼が消え―――

 

 帰還した者たちの耳を叩く、カルデアが上げる悲鳴。

 警報が絶え間なく鳴り続ける、完全なる異常事態。

 コフィンから出たマシュが、思わず自身の盾を見つめる。

 

「外部からのクラッキング、という事は」

 

「―――ああ。どうやら、最後の聖杯を介し、魔術王がカルデアを発見したようだ。

 干渉、というより引き寄せ。

 惑星が恒星に引かれるように、カルデアが魔術王ソロモンの特異点に引き寄せられている」

 

 忙しなく作業を行いながら、ロマニがその現状を口にする。

 彼の言葉に肩を竦めつつ、ダ・ヴィンチちゃんが同じように続けた。

 

「恒星どころかブラックホールだね。空間強度がこちらとあちらでは桁違い。

 もし接触すれば、カルデアの磁場はいとも簡単に押し潰されるだろう」

 

「つまり……」

 

「魔術王を打倒し、その特異点を修正しなければ、人理焼却は完了する。

 猶予はカルデアが押し潰されるまで。

 ―――カルデアにかかる引力から逆算……よし、こちらからも魔術王の特異点は捕捉した」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが作業を完了し、映し出される表示。

 それを見たロマニが、僅かに目を細めて。

 数秒置いて立ち上がり、管制室のメンバーを見渡した。

 

「これよりボクたちは、捕捉した敵特異点へのレイシフトルート構築に入る。

 その後、可能な限り情報を収集し、最終特異点攻略作戦を立案。

 ―――時間制限は……」

 

「24時間。とりあえず、その辺りが限度かな」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉に頷き、彼が改めて言葉を発する。

 

「―――この業務を、24時間以内に遂行。レイシフト部隊のための道を切り開く」

 

 了解を示す声が上がる。

 それを聞き届けた後、ロマニが視線を向けるのはオルガマリー。

 

「そういう事になります、所長。

 帰還したメンバー、突入部隊は今より24時間後、再度管制室に集合を。

 それまでは休息を取っていて下さい。もちろん、所長も含め」

 

「……はぁ。ええ、とりあえずそれでいいわ。

 ダ・ヴィンチ、勤務シフトの変更の必要性は?」

 

 改めて話を振られたダ・ヴィンチちゃん。

 彼女は何度か頭を揺らし、スケジュールを組み立てていく。

 待つこと数秒、彼女の中で大体の予定が上がったのか。

 必要な労力を算出し、所長へと通達する。

 

「んー……いや、そうだね。人員を三班に分けて、四時間ごとに休息を回してこう。

 作戦開始と同時に、全人員で管制室に詰める。

 あと今回ばかりは私が常に詰める。暇潰しに工房に帰る必要もなさそうで何よりだ」

 

「……ダ・ヴィンチがここから動かせない、ということは」

 

「令呪の補填はちょっと無理だね。まず魔力の残滓の回収が間に合わないだろう」

 

 メソポタミアの特異点。

 そこの修正の後に行われるサルベージ作業は間に合わない。

 それどころか、取り掛かる暇すらないだろう。

 顎に手を添えて、オルガマリーがマスターたちの手を見渡していく。

 

「残っている令呪は、わたしと藤丸と常磐に一つずつ、か……」

 

 そこで考えていたオルガマリーがハッとして。

 後ろを振り返り、声を張り上げた。

 

「―――第七特異点、攻略完遂をここに宣言します。

 続けてわたしたちは最終特異点の攻略準備に入りますが、まずはよくやってくれました。

 決戦は24時間後。あまり猶予はないけれど――――」

 

 そこで言葉を区切り、一瞬だけ止まって。

 しかし彼女はその調子のままで、言葉を再度紡ぎだす。

 

「あなたたちの働きを以て、わたしたちは今まで余裕綽々として七つの特異点を放置していた魔術王を戦場にまで引きずり下ろした。このまま、人理継続保障機関フィニス・カルデアはその設立の目的―――人理の継続を果たすため、奴に焼却された人理の奪還を行います。

 カルデア最大の使命、人理守護指定(グランドオーダー)。その最後の踏ん張りどころよ、あなたたちには悪いけど後一回、死ぬ気で踏ん張ってもらいます」

 

「はは、人理を取り戻したらボーナスとかありますかね!」

 

 管制室のどこかで上がる、職員の声。

 彼女は一度眉を吊り上げて、しかし溜息と共にそれを下ろした。

 

「それは残念ね。この件の責任を押し付けられれば、アニムスフィアから色々と接収されるのは目に見えてる。カルデアどころか、セラフィックスすら持ってかれるかもしれない。

 わたしにそんなもん払う余裕なんか残らないわ。次の職場の紹介くらいで我慢して」

 

「それは……せっかく馴染んできたのにちょっと残念です。

 最近のオルガマリー所長になら、このままついていきたいと思ってたのに」

 

「そう。それはわたしに喧嘩を売ってると受け取っていいのよね?」

 

「媚びを売ったつもりでした!」

 

「んなもんを買う金は残らない、っていま言ったでしょ」

 

 ぱたぱたと手を振ってその会話を振り払い。

 彼女は改めて、レイシフトメンバーへと向き直った。

 

「さ、あんたたちも休みなさい。食事するなり、眠るなり。作戦開始のタイミングまでに、コンディションは最高の状態に持って行きなさい。24時間しかあげられないけれど、それが今のあなたたちの最大の仕事よ。

 ああ……アーチャー、アサシン。あなたたちは休む前に、そこの医療部門の男を本来の仕事場に持って行きなさい。代わりにこれからはわたしがこっちに入るわ」

 

「―――え?」

 

 唖然と、ロマニがオルガマリーに目を瞠った。

 突入部隊になるのは彼女も一緒だ。

 バビロニアの最後は余裕があったとはいえ、休むべきなのは変わりないだろうに。

 そう考えて、ハサンが念のためにと確認を口にした。

 

「よろしいのですかな?」

 

「いいのよ。わたしたちがコンディションを整えるためには、そいつかダ・ヴィンチを医務室に置かないなんて選択肢ないでしょ。

 ダ・ヴィンチは動かせないんだから、そいつは突入時刻まで医務室固定よ」

 

「それも道理だな。

 そればかり考えてる船医も考え物だが、いざというとき本業をこなせないでは問題だ」

 

 肩を竦めて、アタランテがロマニに歩みだす。

 それに対する反論も思いつかなかったのか、口をぱくぱくと動かして。

 しかし、彼は管制室の外へと連行されていった。

 

「……さ。あんたちもさっさと休みなさい。

 ―――――この戦いに、勝つために」

 

 そう言って、彼女は管制室におけるロマニの定位置へと歩みだした。

 それを見送って、彼らも動き出す。最後の戦い、それに備えるために。

 

 

 

 

「ええ、ええ。ではたっぷりと食事をした後、しっかりと休んでいただかなくては。

 もちろん、床の中での護衛はこの清姫にお任せください。ま・す・た・あ」

 

 ごん、と。久しぶりに旗が唸る。

 この感覚だ、と。ジャンヌが懐かしげに、戻ってきた自分の旗に微笑む。

 倒れ伏した彼女を引っ張り戻しつつ、席につくジャンヌ。

 

「彼女のいう事はともかく、しっかりと休むべきなのは変わりません。

 食事を終えたら、ゆっくりとしてください」

 

「うん。それはそうするつもりだけど……」

 

「そういえばソウゴは?」

 

 立香の対面に座っていたツクヨミが周囲を見回す。

 が、どうやら食堂にソウゴの姿はないようだ。

 厨房にいたブーディカもそれを確認したのか、不思議そうに呟いた。

 

「珍しいね、ソウゴが真っ先にご飯にしないなんて」

 

「まあ、マスターだってお年頃だ。食事も喉を通らなくなるくらいの恋や愛が突然芽生えたっておかしくないだろうね」

 

 そんな事を言って肩を竦めるダビデ。

 

 彼の物言いに考え込むような動作を見せるアレキサンダー。

 少年王はそのまま視線を彷徨わせ、肩を竦めるフィンに目を留めて。

 

「……うーん」

 

「なに唸ってんのよ? アンタ、まさかあのアホが言ったみたいに、アイツが恋だの愛だので食事が通らなくなった、とか考えてるわけ?」

 

 アレキサンダーを見て、けらけらと笑うオルタ。

 そんなわけでもないが、ダビデ王の発言について考えているのは事実だ。

 彼は何も分かっていない。

 魔術王ソロモンが敵だという事も、事実だろうが何故かは分かっていない。

 ―――いや、分かろうとしていない。

 

 それはそれで別にいいのだが。

 分かっていないけれど、全部もう終わりまで視えているような。

 相手が息子だからだろうか。それとも―――

 

「……少し、悔しくて、寂しいな」

 

「は?」

 

「いや、これが僕たちの最後の戦いだと思うとね。もう少し色々学びたかったな、と。

 僕たちも生き残れるかどうか分からないし、何より生き残ったとして僕たちが残る理由もないだろう。人理焼却を解決すれば、サーヴァントを維持する理由はカルデアにはないしね」

 

 アレキサンダーの言葉を聞いていて、僅かに目を細め。

 ジャンヌ・オルタが、貧乏ゆすりのような行動を始めた。

 

「……マスターと共にいたいなら、行ったらどうだい?

 僕たちに下っている命令は、各自コンディションを最高に整えろ、だよ?」

 

「うっさいわね。私じゃないわよ、私じゃ。

 あの女が休むためのスケジュールも確保されてるかどうか確認しなきゃ、って思っただけ。

 マスターが万全じゃないとせっかく晴れ舞台で魔力切れ、なんて笑い話にもならないもの」

 

 そんな風に言い訳しつつ、歩き出すジャンヌ・オルタ。

 最初から最後までああだった彼女に苦笑しつつ、彼は視線を巡らせて。

 目当ての軍師を見つけて、そちらへと歩いていく。

 

「……なにかね」

 

「いや、想定されるケースを我が軍師と話し合おうかとね。

 頭を動かしている方が気が紛れるし」

 

「……ふむ。まあ、そうだな。決戦となると、一番痛いのは前特異点でキャプテン・ドレイクの宝具が崩壊したことだ。二度目の霊基再臨が可能かどうか……

 理論上可能であっても、それを調整するためのダ・ヴィンチが動けない。無いものと考えていいだろう。そうなると、純粋な高火力はツクヨミのサーヴァントに頼ることになる。

 だが彼女には令呪が既になく、継続して大火力の宝具を使っていくのが―――」

 

「ふむ。今回ばかりは恐らく、魔力に余裕を持たせる事もなく、サーヴァントを全員投入になるだろう。そうなれば、私とモードレッド卿とガウェイン卿だ。いくら何でも保つまい」

 

「ああ、そこをどうカバーしていくかが……」

 

 フィンも交じり、そこでどう戦線を繋ぐかの話に入る連中。

 それを珍妙なものを見る目で眺めつつ、アタランテがパイを口にした。

 

「場所を選ばんな、奴らは」

 

「はは、場所を選ばなくても好きにやれるんだ。それに越した事はないんじゃないかい?

 しかし、困ったもんだね。嵐の神様と一緒の戦いには奮えたが、それで船が沈んで最後の最後に出番なしじゃあ海賊として格好がつかない」

 

 ジョッキを空にして、彼女はどうしようもない事を口にする。

 まあどうしようもない事はどうしようもないのだ。

 船が沈んだ以上、カルバリン砲の展開すら叶わないだろうが。

 ―――それでもやれる事をやるだけだろう。

 

 そこで、マシュの手が空になったジョッキを取り上げた。

 

「ドレイクさん、お代わりはどうされますか?」

 

「うん? そりゃあ貰うが、なんだいマシュ。アンタはちゃんと休みなよ。

 アタシらと違って、アンタには休みが必要だろうに」

 

 空いた皿やコップやらを纏め、厨房へと持って帰る姿勢。

 そうしながら、彼女はドレイクへと微笑み返した。

 

「いえ! 最後までいつも通りに、これまで通りのわたしでいたいですから!

 ―――きっとそれが一番、力を振り絞れるわたしだと思うんです!」

 

 彼女が持ってくるものを困ったような微笑み顔で受け取りつつ。

 ブーディカがマシュに、次の作業を指示していく。

 

 そんな彼女の様子を見て。

 立香とツクヨミが顔を合わせて、立ち上がる。

 

「じゃあ、私たちも手伝いましょうか」

 

「屋台とウルクで結構経験してきたから、かなりの実力アップがあるはず!」

 

 そう言いながら厨房の仕事を手伝いだす、マスター二人。

 厨房管理を受け持つブーディカはもう呆れ顔だ。

 そうして働く少女たち。

 その姿を見つつ、ダビデがとても惜しいとばかりに悲痛に顔を染めた。

 

「もったいない……彼女たちが飲食店の真似事をするなら、しっかりとした給仕服を用意するだけで目の保養にもなって、売り上げが伸びただろうに。

 プロデュース力が足りないんじゃないか、ダ・ヴィンチは」

 

「こいつは……」

 

 どちらかというと、もっと売り上げが上を目指せた、という点に憤っているのだろうか。

 どうあれ、少女を変な目で見つめる男には変わりない。

 そんな奇人を前にして、頭痛を堪えるようにアタランテは眉間に指を当てた。

 

 

 

 

「あれ、ソウゴくん? こんなところでどうしたんだい?」

 

「うん? ロマニこそ。何してるの?」

 

 通路でばったりと顔を合わせた二人が、互いに首を傾げた。

 訊き返されたロマニの方が、先に苦笑しながら答えを返す。

 

「ああ、ちょっとね。緊張、というわけではないんだけれど。

 ここまで来たんだ、と思ってしまったら、何だか居ても立っても居られなくて。

 もちろん、すぐに医務室に戻るけどね」

 

「ふーん……俺も、特に何があるわけじゃないけど」

 

 そう口にしたソウゴの顔を見て。

 ロマニは少しだけ目を細め、すぐに微笑んで言葉を口にする。

 

「じゃあよかったら医務室で少し話していかないかい?

 患者がいない間はボクは休み時間、となるわけだけど。流石に診察時間外を全部寝て過ごすわけにはいかないし。せっかくだし、話相手が欲しいんだ」

 

「……うん、別にいいよ」

 

 ロマニの言葉を受け入れ、彼らは共に医務室へと歩いていく。

 24時間。決戦の準備を整えるには短くて、しかしただ待つには長い時間。

 そう―――決戦のために心を整えるには、短い時間。

 

 二人が揃って医務室に入る。

 ロマニに促されて、椅子へと座るソウゴ。

 彼の対面に、ロマニが座った。

 

「さて。じゃあ何から話そうか……ソウゴくんからは何かあったりするかい?」

 

「大丈夫。ロマニの方こそ、何かあるの?」

 

 彼の答えにちょっとだけ苦笑して、しかし彼はならばと口を開く。

 

「それは、まあ。ソウゴくんはずっと何か、悩んでいただろう?

 あの黒ウォズに誘導された特異点から帰ってきてから、ずっと」

 

「うーん……うん」

 

 訊かれた事に素直に返答し、しかしそれ以上は口にしない。

 そうしたいというなら、それでいいと。

 ロマニの方が言葉を続けて、ソウゴへと話しかけ続ける。

 

「それでもキミは必要な場面では、パフォーマンスを落とさないように努力していた。

 こちらとしてはとても助かった事だけど。でも、ここで話したいと言うならもちろん聞こう。話したくないというなら、せっかくだからボクの話に付き合って欲しい」

 

「ロマニの話?」

 

「大した話じゃないさ」

 

 ロマニが立ち上がる。

 彼は言葉を続けながら、コーヒーの準備を整え始めた。

 

「ソウゴくんの夢は、最高最善の王様だろう?」

 

「うん」

 

「レイシフトで様々な時代を渡り、色々と見て回ってきて。キミも何となく、昔の王様の事がどういったものかは分かってきたんじゃないかな。

 彼らは本来、人を治める神様の代行者、それらしい目的を役割として与えられた、人間を整理するための装置だったものなんだ。と言っても、ギルガメッシュ王を見た後じゃそんな感じもしないかもしれないけれど……」

 

 その役割を真っ先に放棄した王が、彼らが直前まで会っていた黄金の王様だ。

 故に、人類最古の英雄王。

 神から人を解き放した、当時からしてとんでもない事をやらかした王。

 

「キミが知る中で一番それに近いのは……あー、うん。多分、ダビデ王かな。

 彼は人としての自分と、王としての自分と、今はサーヴァントとしての自分。

 全部きっちりと分けて考えてるだろうけど」

 

「んー……うん。まあ、何となく」

 

 コーヒーを淹れ終えて、ロマニが椅子に戻ってくる。

 差し出されたカップを受け取り、一口。

 それを見届けてから、ロマニも一度口にして、話を続けた。

 

「そういうね。昔の王様たちには、遠回りがなかったんだ」

 

「遠回り?」

 

「そう。必要なことをするだけだから、進むべき道に悩むこともなかった。

 必要なことしかしないから、余計な行動はしなかった」

 

 王は神の代理人。

 既に示された正しき道に、人を誘導するためだけの道導。

 ―――だから、間違うなんてなかった。

 最短最善の道だと神が用意したものが、最初からそこにあったのだから。

 彼らがやることは、そこに人間を連れていくだけだった。

 

「ダビデのナンパも?」

 

「いや……あれは彼の人としての趣味じゃないかな……うん」

 

 困ったものだ、と。本当に、本当に、困ったものだと。

 それはそれとして、ダビデ王の所業をロマニ・アーキマンとして否定もしきれない。

 彼のあれこれがなかったら、確かにソロモンは生まれてすらいない。

 ある意味ではそれも正しき道、だったのかもしれないが。

 

「とにかく。かつての王様には、選ぶ事なんて必要なかったのさ。

 いや、正しく使命を代行するために、何かを勝手に選んではいけなかった」

 

 ダビデの話を流し込むように、コーヒーを大きく仰ぐ。

 そうして気を取り直した彼が、ソウゴに向き直った。

 

「……王様が世界を変える方法は、ボクは二種類あると思うんだ」

 

「二種類……王様が、世界をどうするか?」

 

 ふと、ロマニが立ち上がる。

 まだ少し残った自分のカップをそのままに。

 彼は新たなカップにお湯だけを淹れてくる。

 それを机に置いて、二つのカップを並べてみせた。

 

「仮に、今の世界を地獄と呼ばれるものだと仮定して」

 

 そう言って、彼は既に半分飲んでいたコーヒーのカップの縁に指を乗せる。

 

「新しく天国を創り、そこに救われるべきものを収集していく方法」

 

 そう言って、彼は新しく淹れてきたお湯だけのカップの縁に指を乗せる。

 

「そして、地獄そのものの在り方を変え、今よりも幸福な地獄に変えていく方法」

 

 彼はそこに一緒に持ってきた容器から、ミルクと砂糖を落とし込んだ。

 黒かったコーヒーがミルクによって色を変えていく。

 色はなくならない。一度無垢に色付いた色彩は、もう二度と抜けない。

 

 コーヒーのカップの方に手を置いて、彼は言葉を続ける。

 

「前者の方法はね、意外と簡単だと思うんだ。もちろん、イニシャルコストもランニングコストも目を覆いたくなるほどだろう。地獄と変わらないものにならないように、天国であることを維持するための労力だって計算しきれない。

 だけど、最初の一歩はきっと地獄を変えるより簡単で。出来上がるものは、地獄を整えるよりずっと綺麗にできたように見えるものになると思う」

 

 そう言いながら、無色透明のお湯だけのカップを揺らして。

 彼は困った風に苦笑した。

 

 それは、獅子王が望んだやり方だ。

 彼女はもっと狭い区域で世界を区切ったけれど、方向性はそういったものだ。

 女神の視点は、かつてのやり方で人を正しく愛そうとした。

 

「きっと。世界を綺麗にしたいなら、そっちのやり方の方がいいんだろう」

 

 一度色がついた以上、もうそれは不可逆のもので。

 地獄は、地獄にしかならない。

 この世界を地獄でなくしたいのであれば、最初からやり直すしかない。

 

「―――けれど。キミが救いたいと願ったものは、地獄の中にしかないものだと思う。

 綺麗に創り直した新しい天国に、キミが願いを抱いた動機は生まれない」

 

 カップから手を放して、ロマニがソウゴと目を合わせる。

 

「……そんな想いを抱かせたこの世界が憎いのであれば、その選択も一つの手だ。

 その想いをキミの中に育てたこの世界を、キミはどうしたい?」

 

 この世界が地獄でなければ、最初からそんな想いは必要ない。

 ただ幸福なだけであれたはずなのに。

 地獄を憎んで、地獄を廃棄して、新たな天国を目指すなら。それも一つの選択だろう、と。

 そう問いかけられて、しかし。そんな言葉への答えは、見失ってはいない。

 

「―――変えたい。この世界を、変えていきたい。

 だって、俺の夢は……世界を全部よくしたい。みんなに幸せでいて欲しい。

 憎んでなんかいない。

 この世界に貰った辛い想いも、嬉しい想いも、全部俺の夢を育ててくれたものだから」

 

 辛い世界だけど。それでも、だからこそ。

 彼は、王様になることで全部を()()()()()と願ったのだ。

 このままでは辛いだけなものを、少しだけでも幸福になって欲しいと想って。

 

「うん……そっか、ならよかった。だったら、キミが怖がる必要なんかない。

 キミは王様としてまだ未完成だから、キミの王様としての想いも、まだ変わっていくんだ。

 ―――自分を、自分の夢で縛るのはやめなさい」

 

 既に指定された道を辿るだけの王様に、そんな望みは得られなかった。

 ()()()()、なんて。そんな選択肢は持ち得なかった。

 

「世界をよりよいものに変えていきたい、と祈ったキミだから。

 自分の夢は、よりよいカタチにまで、まだ変えていけるものであると信じなさい。

 キミが変えたいと祈った世界と一緒に、キミもまだ変わっていける」

 

 全てを壊して新しく創り直すのではなく。

 続けていきたい、その上でよりよいものに変えていきたいと。

 そう願った夢なのだから、だからこそ今を恐れる必要なんてない。

 足りないのならば、変わっていけばいい。

 世界をよくするために、自分もよいものへと変わっていけばいい。

 変われると信じればいい。変えられると信じればいい。

 

「……昔の王様は決められた道を歩くだけのものだった。

 そこが通れる道である、と。

 他の人間に真っ先に歩いて示し、民を誘導するためだけの装置だった。

 けれど、もう王様がやるべきそんな役割はこの星には残ってない。

 この星にはもう、人の進む道を示す王様は要らない。

 だって、もう人の生存圏に未知や神の領域なんてほとんど残っていないんだから」

 

 そう言って瞑目し、噛み締めるように。

 ロマニ・アーキマンが、王様を夢見る少年に語りだす。

 

「かつての王は、なるべきものがなるものだった。けれど、もう王になるべきものなんてどこにもいない。ただそこに、王様になりたいという願いがあるだけだ。

 だったら。だからこそ、キミはキミの道を見失ってはいけない。だってこれは使命じゃなくて、夢に抱いた願いの話なんだから」

 

「使命じゃない、俺の夢……」

 

「変わってしまいそうな自分が、自分で理想とする自分じゃない事に怯えなくてもいい。望んだものではない自分に変わってしまう事を恐れる必要なんてない。

 この地獄を変える事を望めるキミだから、少しくらい自分の心に遠回りを許してあげたっていいじゃないか。一直線に進めない、と思ったなら少し道を逸れてみればいい。遠回りしたっていいんだ。キミが辿り着くべき場所を見失わない限り、絶対にそこまで辿り着ける。

 キミが旧い王たちのような最短最善の王様になりたいと思っているわけではなくて、最高最善の王様になりたいと思っているのなら―――それは無駄ではなく、最も高き場所に至るために積み重ねる、キミの夢路なのだから」

 

 そこまで言い切って、一息吐いて。

 そうして改めて残したコーヒーを口にするロマニに。

 ソウゴが、苦笑しながら声をかける。

 

「……まるでさ」

 

「うん?」

 

「ロマニも王様だったみたいな事言うよね」

 

 言われて、彼もまた苦笑した。

 彼がソウゴに返す言葉は、少し大仰に笑う声。

 

「ははは、そりゃそうさ。だってボクは王様だもの」

 

「そうだったんだ?」

 

 空になったカップを置いて、ロマニの指がデスクを叩く。

 まるで、この場所自体を指し示すように。

 

「酷いなぁ、キミがいる場所はどこだい? カルデアの医務室だろう?

 ボクが頑張って走り抜いて獲得した、ボクに与えられた自分の城だ。

 実は一国一城の主なんだよ、ボクは。こう見えてもね」

 

「えー、ここの王様は所長じゃないの?

 ロマニだっていま閉じ込められてるんじゃん。マーリンみたいに」

 

「マーリン扱いはちょっと嫌だな……

 いや、そりゃカルデア全体で比べられたら、ボクに所長への勝ち目はないけれどさ。

 うん。でも医務室の中だけなら、ボクの方が強い。

 冥界では無敵なエレシュキガル神みたいなものかな。

 ボクはここにいる限り、誰に対しても実は無敵なのさ。どんな命令も聞かせられる」

 

 そう言って胸を張るロマニ。

 確かに医務室においてなら、医者が最強なのかもしれない。

 けれど、結局外には別の国があるのだ。

 一部門トップでは、組織のトップと勝負にはなるまい。

 

「ふぅん。そう言ってたって所長に言ってもいいの?」

 

「う……いや、流石にそれはあまりよろしくない。怒られそう。

 うん、告げ口禁止。これはキミへの命令だ」

 

「弱いじゃん」

 

 呆れるようなソウゴの言葉。

 仕方なし、彼がちょっと困りながら椅子から立ち上がる。

 

「ぐ、仕方ない。じゃあこれでどうだろう」

 

 そう言って彼は戸棚へと触れる。

 少し奥まった場所にしまわれていて、そこから出てくるのは大きめの箱。

 持ってきて開けてみれば、そこには和菓子が詰まっていた。

 それを見つつ、首を傾げるソウゴ。

 

「これって買収?」

 

「うーん……王様から王様への協力要請、でどうだろう」

 

 互いに首を傾げ合いつつ、また対面で座って。

 

「でも俺は同盟なんかしなくてもみんなを守る王様だから」

 

「じゃあボクの失言も所長から守り抜いてほしいなぁ」

 

 そう言って互いに笑い、二人揃って手を伸ばす。

 そのまま適当に菓子を漁り、幾つかどうでもいい話をして。

 

 ふと、時計を見上げたロマニがそろそろ時間だ、と。

 箱を閉じて、それを持ちあげながら立ち上がった。

 彼の行動に頷いて、ソウゴも椅子から立ち上がる。

 

 そうして振り返ろうとした彼に、ロマニは声をかけた。

 

「―――さて。ボクの国を後にするキミに、最後に命令をしようかな」

 

「何かあるの?」

 

「もちろん。最後の戦いが迫っているんだ、今からちゃんと眠って休むこと。

 それにお菓子を食べたんだ、ちゃんと寝る前に歯磨きをすること。

 そして――――ちゃんと、カルデアに帰ってくること」

 

 二人が視線を正面から交錯させる。

 優しく微笑むロマニ・アーキマンを前に、常磐ソウゴはただ頷いて返す。

 

「キミの王様としての道はまだ途中だ。

 ボクにはもう国も城もあるけれど、キミはまだまだこれからの王様だからね。

 先輩の意見はしっかりと聞くように。

 残ったこれは、それを守れたらキミたちにプレゼントしようじゃないか」

 

 抱えた菓子箱を指で叩き、そう言いながら棚に戻しに行く。

 そんな彼の背中を眺めながら、肩を竦めるソウゴ。

 

「……うん。守るよ、すぐにドクターより凄い王様になるから。

 でも食べかけ? どうせなら新しいの買ってくれればいいのに」

 

「残念ながらさっき所長が言ってたようにカルデアが接収されたら、ボクだって無職になってしまうんだ。そんな余裕はないのさ。もしボクがカルデアをクビになったら、キミの国で医者として雇ってくれると嬉しいな」

 

「時間ないじゃん、それ。

 俺があと24時間ちょっとで王様にならないと間に合わないけど?」

 

 箱をしまいおえて、腕を組んで悩み込むロマニ。

 さっき遠回りしてもいい、と言った手前せかし過ぎてもいけないと思ったのか。

 ならば、と彼は妥協案を持ち出してくる。

 

「うーん……じゃあボクの貯金が尽きるまでには、でお願い」

 

「えー……」

 

 最後にまた、適当に言葉を交わして。

 ソウゴは彼の国を後にして、ロマニは自分の国に留まった。

 

 

 




 
 もうすぐ一部が終わるんやなって。

 なので、適当にこの作品の振り返りでもします。

 ふりかえり。
 一章。

 書き始めた時は特に何にも考えずだったわけですが。
 まずはどういった方向性の作品になるか、すらよく考えてなかったわけで。
 最初の転機は、忘れもしない。

 そう。
 出てくる、戦う、死ぬ。
 俺はお前に一体何を何をさせればいいんだ……
 ファントム・ジ・オペラくんです。

 書くにあたって原作を読み直しながら書いていて。
 「あ、君いたんだっけ…」
 そうなって、じゃあどう活躍させる?
 そう考えた時。
 「ファントムって名前だしアナザーウィザードにしちゃお…」
 そうなりました。

 このSSにアナザーライダー、そしてスウォルツが登場することが決まった瞬間です。
 つまり全部ファントムがやったことです。あいつが犯人です。
 彼の存在がこのSSの方向性を決めました。全てはあいつの責任です。

 それ以外にもどういう流れになるものか。
 まあ色々考えていたような気もするんですけれど。
 例えば最強フォームウォッチをどうにか出してみようか、的な事を考えたり。
 この時点では一章のラストが何かこうぐわーとパワーアップしたスーパーファヴニールに対し、ジオウとジークフリートがダブルキックして締め、みたいな終わり方もあり得たんでしょうね。

 結局のところ、Fate/Grand Orderと仮面ライダージオウ。
 両方を合わせた上で、両方を再構成する。
 そんなシンプルな方向性で落ち着きました。
 このSSはシンプルなのだろうか。
 内容はともかく方向性はシンプルでしょう、多分。

 アナザーウィザードに選択したのは、
 ファントム・ジ・オペラ、及び完成体にジャンヌ・ダルク・オルタ。

 モチーフはコヨミ(白い魔法使い)。
 少なからずその誰かを救いたいという願いがあり、そこから造りだされた誰かの似姿。
 しかし誰でもない、空っぽの人形。

 最終決戦の場は、エンゲージの魔法によるアナザーウィザードの心象。
 希望に満ちた彼の世界ならぬ、絶望に満ちた彼女の世界。

 決着は、横入りをかけてきたものに対する、最後の希望による一撃。
 
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