Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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見下げた星空-931

 

 

 

 王剣の刃が一度、魔神を斬り捨てる。

 即座に復帰した魔神が眼を開く。

 迸る魔力の奔流。鎧も着ていないモードレッドでは、それは命に届き得る。

 だからこそ彼女は、即座に隣にいるものを引っ張り寄せた。

 

 蒸気を噴き出すヘルタースケルター。

 盾にしたそれが、装甲ごと蒸発させられていく。

 だが代わりにモードレッドは生き抜いて、そのまま再び魔神を斬り捨てた。

 

「ハッ、こんなもんかよ! さっさと補充しろよ、まだ殺し足りねえぞ!」

 

「セイバー、そんなに挑発しないでくれないか。

 君は大丈夫でも、僕たちはギリギリなんだから」

 

 後ろで精いっぱいの魔術を行使するヘンリー・ジキル。

 そちらを面倒そうに一瞥し、しかしすぐに視線を外した。

 そのまま流れるように蒸気機械の残骸を蹴り飛ばし、腐肉の破片を雷で焼き払い。

 モードレッドが剣を構え直す。

 

「っせーな。だからオレがわざわざこっちに参戦してんだろ。

 オレがいたからか、聖都の方のオレは来れなかったみてえだし、円卓も穴開きだ。

 いや、どっちにしろマスターたちと縁がねえからほとんど来れねえのか……」

 

 少し残念がるように。しかし妙に安心するように。

 モードレッドはちらとだけその円卓の戦場を窺い―――

 しかしすぐさま口角を吊り上げ、魔神へと向き直った。

 

「まあどっちでもいいか。テメェはモヤシらしく後ろからちまちまやってろよ。

 おい、フラン。もしもの時はそいつを盾にしていいぜ」

 

「……そんな事をされたら、今回の僕はあっさりと死んでしまう。

 もちろん、努力はするつもりなのだけれど。

 ただ申し訳ない、基本的に僕より先にチャールズ・バベッジのつけた護衛に頼って欲しい」

 

 アナザーダブルであったら積極的に盾になれたのだけど、と。

 しかし既に残っていない力にどうこう言っても仕方ない。

 今できる最大限をこなしつつ、ジキルは申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「ウゥ!」

 

 フランが己の心臓で発電しつつ、周囲に展開された蒸気機兵を見渡す。

 盾となり、矛となり、幾ら砕かれても溢れ出す夢の跡。

 魔神ほどの速度で供給されるはずもなく、魔神ほど強力なわけではない。

 だがその兵士は、確かに戦線の維持に尽力している。

 

 そんな事実に対し、機嫌良さげに頷く彼女。

 

「ではもしもの場合は(わたくし)が盾に使わせてもらってもよろしいですかぁ?

 いえ、私も悪魔なのですが、戦いは得意ではありませんので。

 あれ、これ前にも言いましたっけ?」

 

 道化が笑いながら、ジキルの背後に現れる。

 今回は鋏で切られてはたまらない、と。

 眉を微妙に顰めつつ、彼はメフィストフェレスからそっと距離を取る。

 

「―――契約が取りたいなら腕前でも見せろよ、三流悪魔。

 そら、相手は死なない……いや、死にはするんだ。ただ死んでも終わらないだけか。

 ま、どっちにしろやることは変わらない」

 

 迸る魔力光。前に立ち、その視線を殺す白刃。

 蒼く輝く眼光で死を見据えながら、両儀式は悪魔に呆れる。

 絶死の刃にぶるり震えながら、しかし嗤う悪魔。

 

「うふふふふ。んふ、はて。私と彼らのどっちが悪魔として下品でしょうかねえ。

 よく悪魔なんてやってられますねえ、あの魔神たち」

 

 別に相手の事を良く知っているわけでもないが。

 しかし、悪魔としてのシンパシーくらいあったりなかったりする。

 そうして嗤うメフィストフェレスに反応してか、魔神がぶるりといきり立つ。

 

「―――起動せよ。起動せよ。パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。ベレト。エリゴス。カイム。そして我が名は、バルバトス。

 管制塔、点灯せよ。我ら、統括局の業務の補佐を行わん。人造生命ども如きに我らが崇高なる使命の価値を推し量れるはずもなし。早々に全て抹消し、我らが本来の業務を遂行せん―――!」

 

「おやおやぁ、何だか全部自分に刺さってそうな台詞を並べられましたぁ?

 いえ、私アナタ方の事なんてよく知りませんけど! なんとなくイメージで!」

 

 悪魔的に嗤いながら、ちょきん、と。

 鋏の音色と同時に設置した爆弾が点火。

 魔神の表皮を吹き飛ばし、数多の眼を潰し、微睡む爆弾が炸裂した。

 

 当然、魔神の状態は即座に修繕される。

 新品になった魔神たちは、即座に集結して火力を行使。

 

 そうして復活した連中に、雷鳴と共に剛撃が降り注ぐ。

 雷撃の戦斧が魔神を薙ぎ倒す。

 即座に放たれる反撃に対しては、周囲を巡るヘルタースケルターが動く。

 

「悪いな、バベッジの旦那!」

 

「―――いや。本来カタチ無き我が夢の跡が道を開く一助となる、というなら是非もない。存分に使い潰せ、それこそ私から世界に選ばれた未来に望む覚悟である」

 

 焼却式を浴びて蒸発するヘルタースケルター。

 だが、絢爛なる彼の夢から、その兵士は溢れ出し続ける。

 全身から蒸気を噴き出して、周囲に展開し続ける巨大な蒸気の鎧。

 そのチャールズ・バベッジを見て、彼の言葉に笑い。

 

 坂田金時が再びマサカリを振り上げた。

 

「おう! 守りはアンタに任せて、アンタの分もオレっちが魔神を切り倒しまくる!

 それであいこって事で一つ頼むぜ!」

 

「ちょっと金時さん? 私とフランさんとその他ががっつりと魔力をバベッジさんやあなたたちに回しているのをお忘れなく。後方支援の分まで働く、と言うなら私たちの分までしっかりと働いてもらわなくては困りますので、そこんとこヨロシクです」

 

 ぱたぱたと鏡と尻尾を動かしながら、狐耳の巫女が口を開く。

 フランの発電する魔力。パラケルススの賢者の石。

 それに合わせて彼女の宝具が、この戦場の全てを支えている。

 魔神に動力切れがない、というのなら彼女たちにだってそんなものはほぼありえない。

 

「分かってるっての! よお、レッドサンダー! 纏めて吹き飛ばすぜ!」

 

 玉藻の前の宝具が形成する空間。

 その中であれば、消耗など度外視して最高の一撃を叩き込み続ければいい。

 カートリッジはそうそう補充できないが、まあどうにかなるだろう。

 

 そう言って構えた金時に続き、モードレッドが赤雷を解き放つ。

 刀身を覆う血色の刃にそれを乗せ、彼女は大きく振り被った。

 

「そもそも、そのレッドサンダーっての何だよ。

 ゴールデンサンダーとでも呼び返して欲しいのか?」

 

「そりゃあいいぜ! ゴールデンサンダーだ!!」

 

「いいのかよ」

 

 溜め息混じりに振るわれるクラレント。

 まったく同時のタイミングで金時のマサカリ、“黄金喰い(ゴールデンイーター)”が振り抜かれた。

 二色の稲妻が迸り、魔神の間を奔り抜けて行く。

 

 ―――その後から続いて、大雷霆が宇宙に轟く。

 赤と黄金が混じる、二騎のサーヴァントが織り上げた雷。

 それを凌駕する自然色のままの稲妻が爆裂する。

 

 そんな一撃を放った男が宙を舞いながら。

 眼下の者たちに届くように、大声を張り上げた。

 

「では! 私のことは……あえて、そうあえて!

 一切の虚飾なく、Mr.サンダーとだけ呼ぶといい! あるいはライトニングサンダーと!

 純粋なる雷電。電力を地上と人に齎したこの私にのみ、その直截な呼び名が許される!

 そうは思わないかね、神なる雷に連なりしものよ!」

 

「お前はお前で何なんだよ」

 

 高笑いと共に、ニコラ・テスラが降り注ぐ。

 神の威力たる稲妻を引き連れて、人類神話が降臨する。

 魔神の大火力に引けを取らない大雷電。

 

 そんな、目の前で行使される自然の暴威を眺めつつ。

 眩しいので手で顔を軽く覆いながら、その男は楽しそうに笑う。

 

「【私たちはみんな自分の事くらい(We know what)知っている(we are ,)けど自分がどう変わっていくかは(but know not)自分ですら分からないのね(what we may be .)】 いやぁ、運命に翻弄されてますなあ! 吾輩たち!」

 

「は、運命がどうした! 想像の中で他人の運命を弄ぶ事で悦にいるのが趣味の物書きが、自分が運命に弄ばれた程度で被害者ぶれるか! 我が身を鑑みろ、俺たちが神を呪いでもすれば、俺たちこそ物語の登場人物に呪い殺されても文句を言えん!」

 

 シェイクスピアが笑えば、すぐにそう吐き捨てるアンデルセン。

 特に否定する気もないのか、童話作家の言葉に鷹揚に頷く劇作家。

 

「はははは、では呪いを叫ぶのは控えましょう。そうとなれば、我らを弄ぶ今の運命を書いた脚本家を純粋に批評するしかありませんな、同志アンデルセン!」

 

「うむ、貴様はどうだシェイクスピア。この運命に何点をつける!」

 

 顔を見合わせる二人の作家。

 意見はまるで同じなのか、彼らは楽しそうに笑いつつ。

 完全に声を合わせて、まったく同じ点数を口にした。

 

「0点!」

 

 だろうさ、でしょうな、と。

 声を重ねて高らかに笑い、直後に呆れ果てたと彼らは息を吐く。

 

「当たり前だ。ペンを執って紙に文字を書く事くらいしか出来ない連中をこんな化け物どもが戦う戦場に引っ張り出してどうする!」

 

「まあ吾輩はこれはこれでありとも思いますが、机も椅子も用意されてないのはちょっと……せめてタブレット端末でもあれば良かったのですがなぁ」

 

 くるくると指を回して、タッチ操作っぽい動きをみせるシェイクスピア。

 彼の大文豪のアイデアになるほど、と。

 アンデルセンはそうであったらよかったのに、と同意の溜め息を吐き散らした。

 

「ああ、なるほど。それはいいな。何せここには、そこかしこにバッテリーの充電に役立ちそうな電気人間は大量にいるからな! バリバリうるさい奴らも、それなら多少は役に立つ!」

 

「うるせえのはテメェらだ! 役に立たねぇなら黙ってろ!!」

 

 魔神を斬り払いつつ、バリバリとがなるモードレッド。

 だが作家二人はやれやれと肩を竦めるばかり。

 そんな態度に、叛逆の騎士が余計にヒートアップする。

 

 モードレッドの火力を向上させる、という意味では見事な仕事なのかもしれぬ。

 そう思いつつ、玉藻が大きく肩を竦めた。

 

「しかし吾輩たち、黙ったら本格的に存在意義がなくなってしまいますし」

 

「そうとも。無駄に喋るのは俺たちに任せ、お前たちは無駄に剣を振っていろ。

 どうだ、見事な役割分担だろう」

 

「無駄とは随分な物言いですねえ。

 今やってること全部、結構重要な仕事だと思いますけど?」

 

 魔術王の城、そこの門を開けるには魔神を全て殺し続けなければならない。

 つまり、カルデアと魔術王の最後の戦いのスタートラインはこの戦いにかかっている。

 玉藻とて他人事的な気持ちを抑えつつ、それなりに尻尾を張って努力しているというのに。

 

「は! そもそも奴らの人理焼却などという計画が無駄の極みなんだ!

 無駄な計画にわざわざ刃を向けるのも無駄な事でしかあるまい!」

 

 玉藻の言葉にそう返し、吐き捨てるアンデルセン。

 彼の言葉にシェイクスピアが手を持ち上げ、己の顎に添えた。

 顎髭を撫でながら、劇作家はおかしげに笑う。

 

「【我らが自分の足で立つものであるなら(Men at some time are) 運命の重みに耐えねばならぬ時がある(masters of their fates .)運命にだけ任せてはいけない、ブルータス(The fault, dear Brutus ,)高き所にある星は重みを軽くしてくれるが(is not in our stars ,)背負っているのは下にいる我々自身なのだ(But in ourselves ,)我々の上には常に支えるべき責任がある(that we are underlings .)】という事ですかな?」

 

「おい、随分と余計な言葉を選ぶじゃないか。そのせいで向こうの戦場にいるらしいジュリアス・シーザーが死んでいたら、笑い話になるのだが」

 

「吾輩のせいで暗殺されるとかそんなまさか。それはそれでおいしいかもしれませんが!」

 

 HAHAHA、とやはり楽しげに笑う作家ども。

 玉藻が流石に眉を吊り上げて表情を引き攣らせ、声に険を含め始めた。

 

「こいつら放置していたら、本気でずっとこいつらだけで喋ってそうですねえ……いいから、言いたい事があるなら、さっさと吐きやがってくださいます?」

 

 催促を受けて、やれやれとばかりに呆れた表情を浮かべるアンデルセン。

 そんなふざけた顔を見て、抑えきれなかった怒りがちらりと玉藻の表情に浮かぶ。

 しかし気にするはずもない、と。

 アンデルセンはそんな事を気にもかけず、半分笑いながら語りだす。

 

「ふん、この星で這い蹲っている連中から何もかも取り上げて宙ぶらりんにするなら、そもそも大地など必要ないという事だ。

 死を取り上げたい、などという過剰なお節介は当然の如く、あらゆるものから生をも取り上げる行為に他ならない。余計なお世話極まれり」

 

「ははは、そんな事になったら悲劇作家はおまんまの食い上げでしょうなあ!」

 

「ああ、そうもなろうさ。何せ犯人とて、別に悪意をもってそうしているわけではあるまい。そいつはただ知らんのだ。そんな欠陥を抱えてなくては、人間はやっていられない、というアホみたいな真実を。人は死ぬから生きていられる。欠点の代わりに美点が生じる。そんな当たり前の事を理解できず―――しかし。現実を知ったから、夢を持ってしまった」

 

 呆れるように、憐れむように、しかし知った事かと吐き捨てて。

 人間などという生き物は、酷い矛盾の塊だ。

 無駄だから滅べ、というだけならいい。そんな感性のものがいたっていいだろう。

 だが、

 

「――――で、あるならば。

 もはや奴は初めから間違えている。取り返しのつかない欠陥がそこにある。

 人類悪などというものになるには、前提からして認識が狂っていた」

 

「ほうほう、貴方らしい解釈の仕方ですな。

 ―――では、その心は?」

 

 シェイクスピアが面白がって、続きを促す。

 ほんの少しだけ、微妙に口を重くして。

 しかしここまで吐いたからには、ここから先は呑み込むなんて選択はない。

 ここまで語った後にシェイクスピアに言葉を預ける、なんてありえない。

 

「決まっている。もちろん―――」

 

 ―――轟音。

 怒涛の爆炎の余波で、作家二人が引っ繰り返る。

 どうやら雑談していたせいで目を付けられ、全力で攻撃されているらしい。

 バベッジの兵士たちを吹き飛ばし、攻撃は苛烈さを増していく。

 

「おやおやぁ? 怒らせてしまったようですねえ、あの程度で。

 ああいう図星を突かれて怒る、っていうのは悪魔的に大失点なわけですが」

 

「ほう、ならお前が突っ込んで戒めてこい。俺たちは下がっている」

 

 ちょきちょきと鋏を鳴らすメフィストフェレス。

 そんな彼に背中を向けて、すたこらさっさと距離を取る作家が二人。

 それを見送りつつ、玉藻が眉をひくつかせた。

 

 そうして、撤退した彼らが。

 彼らの間を縫って走り抜ける、黒衣とすれ違う。

 すれ違ったタイミングで、少し驚いてシェイクスピアが目を瞠った。

 

「おや、彼女も協力してくれるようですな」

 

「―――ええ、還るべき場所は誰しも失いたくないものですから」

 

 彼の声に応えるのは、魔剣を回しながらそう呟き、視線を僅かに下げるパラケルスス。

 

 駆け抜けていく小さな影、ジャック・ザ・リッパーが躍る。

 彼女のナイフが、雷光の間を縫って魔神の眼を潰し―――

 あまりにも効果が薄く、彼女は酷く顔を顰めた。

 そんな彼女に対して、錬金術師は声を飛ばす。

 

「ジャック・ザ・リッパー、霧を。チャールズ・バベッジ、あなたも是非」

 

 彼の魔術は導く。

 満ちる濃霧と、噴出する蒸気。そして、戦場に奔る雷電。

 それが一つの力となって、魔神を蹂躙することを。

 

「え……? うん、わかった」

 

「了解した」

 

 理解して、爆発的に噴き出す水蒸気。

 よく分からないけど、それを巻き込み拡がる濃霧。

 

 硫酸の霧は蒸気を巻き込み一気に魔神の元へと流れ込んでいく。

 それを見届けたパラケルススが、賢者の石の稼働を最大へと持って行く

 

「では、存分に雷電を」

 

 彼の言葉に先んじ、テスラが稲妻を轟かせる。

 霧の中を駆け巡る雷の暴威。焼け崩れていく無数の魔神。

 赤と黄金の雷光がそれを追い、敵の崩壊を加速させた。

 

「……まあ、特に何かを言う場面じゃないんだろうけどな。

 あの亡霊の世話までして、風の向くまま首を振るのは飽きたのか?」

 

 宇宙に轟く雷の輝き。

 立ち上る光の柱を前に、死の瞳がパラケルススを見据える。

 そうされても、彼は少し困ったように苦笑染みた表情を浮かべるだけ。

 

「……さて。私の本性など、今更どうしたところで変わるような事もないでしょう。

 ただ、いま私が向いている方向に、風が流れ込んでいるだけかと。

 ジャック・ザ・リッパー、彼女も同じ事です。ただ―――」

 

 周囲に散る消費された雷電。

 それを再発電に回し、フランは戦場を駆ける雷電たちに玉藻を通じて分配する。

 だが賢者の石で魔力を集積させる彼が得た魔力。

 そうして稼いだ動力は―――全て、別にいる一人のサーヴァントへと送り付けた。

 

「―――死霊を従える王の引き連れし嵐が、この場に吹き荒れているだけのこと」

 

 パラケルススの言葉と同時。嵐が天から着陸する。

 騎乗している黒馬の蹄が大地を抉り、それに続けて衝撃の余波が魔神を蹂躙した。

 前兆のみで魔神の群れを引き裂いて、一人の王がその戦場に君臨する。

 

 ―――その異名を、ワイルドハント。

 即ち、死霊どもを従える嵐の王。

 竜を模った漆黒の鎧を鳴らしながら、彼女はゆっくりと顔を上げた。

 

「おかあさん?」

 

 霧を展開しながら、ナイフで魔神の眼を潰していたジャックが振り向く。

 そこに降り立ったのは、少なくとも彼女が居場所だと感じられる何か。

 彼女が求める還るべき場所ではなく、最後に辿り着くべき地獄における盟主。

 

 そういう反応も理解できなくはないのか。

 モードレッドが僅かに呆れ、しかし声を荒げる事はなく一言呟く。

 

「父上だ、馬鹿」

 

「おとうさん……?」

 

 その物言いに不審そうに。しかし確かに、還る先ではないという確信はあって。

 居場所であっても還る場所ではない、ということは。

 確かにおかあさんではなく、おとうさん、などというものなのかもしれないと。

 ぐるぐると思考を回して混乱し、ジャックは小首を傾げた。

 

 そうしている従えるべき死霊の集合体を一瞥だけして。

 彼女の足が、黒馬の腹を軽く蹴った。

 すぐさま彼女の意志に従い、体勢を変える王を戴く騎馬。

 

「――――モードレッド」

 

 愛馬ラムレイの馬上で、漆黒の竜が静かに口を開く。

 漏れ出す声は、さながら竜の息吹の前兆。

 それを受けて、モードレッドが微かに頭を下げた。

 

「…………はい」

 

「―――此度のみ、我が嵐の中で生ずる稲妻となる事を許す。

 その轟きを絶やすな、それこそが貴様の役割だ」

 

 ただ、彼女は騎士に仕事を命じる。

 それだけで言葉を終えて、ラムレイに足を進めさせるアーサー王。

 そんな王に、舌打ちを押さえながら叛逆の騎士が声を震わせた。

 

「……あなたに、言われるまでもない」

 

「随分と小さい雷鳴だな。轟け、と言ったはずだが」

 

 呆れることすらしない声。

 それを浴びせられて、モードレッドが吼え猛る。

 

「……わぁってるよ! そっちこそ、って話だ!

 叛逆の騎士の雷に腹を喰い破られねえように、この戦場丸ごと嵐で呑み込んでみせな!」

 

「無論だ。貴様などに言われるまでもない」

 

 ―――嵐の王が、己の兜に手をかけた。

 剥ぎ取られる竜王の兜。その下にあった端正な美貌が露わになる。

 兜を放り捨て、アルトリア・ペンドラゴンがくすんだ金色の瞳で前を見据えた。

 握り締めた槍の穂先に渦巻く嵐、ロンゴミニアドによる暴威。

 

「―――この身こそが、果てに渦巻く嵐である。

 我が聖槍による蹂躙。それに続くのであれば遅れるな、雷光ども。

 この戦場に限ったことではなく、全ての戦場に貴様たちの咆哮、遠雷を届けるがいい」

 

「ふふははははは! クイーンからお誘いとあらば応えるより他にない。我が交流の雷霆こそ最も優れたエネルギーである、という事実をひけらかしたい思いは抑えきれないが……クイーンの放つ嵐の中で轟け、というのであれば望むところ!

 紳士として、美しきレディのお誘いを断るような事ができるだろうか。いや、できない!」

 

「ナーゥ……」

 

 グローブで胸を叩き、悪い気はしないと朗らかに電気を撒き散らすテスラ。

 明らかに美貌に酔った男のそんな様子に、フランが発電しながら呆れ果てた。

 

「ハッ! そういうわけだ、悪ぃなフラン!

 そんでフォックス! 今まで以上に魔力を引っ張らせてもらうぜ!」

 

「はいはい、頑張ってくださいまし」

 

 人類神話が神威を語る。

 赤龍の子が黄金に吼える。

 叛逆の騎士が刃を血に染める。

 

「―――此方に集いし勇壮なるものたちに知らしめよ。

 侵攻し、蹂躙する。今この時より、ワイルドハントの訪れである」

 

 そうして響く稲妻の雨を呑み込む嵐が、全霊を以て魔神の蹂躙を開始した。

 

 

 

 

「はっはっは! いや、久しいなディルムッド!

 そしてまずは感謝せねばなるまい。

 君と私の関係だが、私の滑らない話として常に皆に笑顔を与えているぞ!」

 

「は! いや、はあ……」

 

 寄せ来る魔神の放つ熱量。

 それを薙ぎ払うのは水流を伴うフィンの槍と、ディルムッドの双つ槍。

 戦場にあって朗らかに微笑む長と、微妙に顔を引き攣らせるその同胞。

 

 そんな彼らの横で、鈍器のそれとしか思えぬ太刀筋が振るわれる。

 

「そりゃあ、んな話されても苦笑いするしかねえものな」

 

 同じく魔神に立ち向かうのは、腕を赤熱させて焦がす男。

 ベオウルフの双剣が、迫りくる熱波を真正面から叩き伏せた。

 余波で全身を灼かれながら、彼の暴力は加速する。

 一撃ごとに増す力は、大地を穿つ剣撃にて、魔神を割断するほどの衝撃を生んだ。

 

「足りてねえのは面白みじゃなくてデリカシーって話でしょうよ」

 

 熱波が塞き止められたと見て、ロビンが狙いをつけずに矢をばら撒く。

 相手は戦場に詰まった腐肉の柱ども。

 わざわざ狙いなんぞつけなくても、どこかに当たる。

 そしてどこかに掠り傷でも与えられれば十分。

 一の矢が毒をその身に与え、二の矢が肉を侵した毒を破裂させる。

 

 弾け飛ぶ肉を水流波で押し返しつつ、フィンが笑う。

 

「ほうほう、デリカシー欠如。

 つまり……私とディルムッドは似た者同士というわけだな?」

 

「…………は」

 

 声を落とすディルムッド。

 しかし、前に立つ二人の槍兵の動きには一切の乱れはない。

 上司は部下と遊ぶ余裕を見せつつ、遊ばれても余裕を持った部下は黙り込んだ。

 

「ははは、まあ仕方あるまい。デリカシーなど俺たちに不要なものだ。

 もちろん今の世の女を口説く、となれば礼儀として用意もするが。

 俺たちのやり方からすれば、そんなものより腕尽くだろうさ!」

 

 天地天空大回転。螺旋を穿つ大剣が、魔神を貫き粉砕する。

 残骸を微塵に磨り潰しながら、その大剣を抱えた巨漢が笑う。

 

「ははは、これは参った。フェルグス殿にそう言われれば、ディルムッドに劣る武を恥じるより他になくなってしまう」

 

「………………そのようなことは」

 

 むっつりと、なかなか凄い形相のまま戦い続けるディルムッド。

 

 彼らのカバーをするように精霊に動きを願い奉りつつ。

 困ったような顔で、ジェロニモがその光景を眺める。

 

「いじられているのか、いじめられているのか……」

 

「ふふ、ディルムッドも今はこうだがね。

 そうだな、剣を持たせればもっと軽妙なトークが飛ぶに違いないんだが」

 

 駆け抜けるコヨーテの間を縫い、飛翔する真紅の穂先。

 無数の槍は全て魔神へ突き立ち、その肉を抉り抜く。

 それらは呪詛を滲ませ、損傷の再生など許さぬと蝕むが、しかし。

 

 傷を負い、消耗した魔神は瞬く間に再生産されていく。

 コヨーテの引き連れる陽光による火傷も、呪いの魔槍による欠損も。

 全ては前の魔神に与えられたもの。新造された魔神には、何一つ残らない。

 

「やれやれ。随分とお行儀がよく、また往生際が悪い。

 男としてお前から奪った女を満足させてやった、と吼える甲斐性くらいは欲しいものだ」

 

「なんだ、スカサハ。クー・フーリンにそんな事をされたいのか?」

 

 ―――真紅の閃光。

 怒涛の勢いで放たれる紅の槍衾。

 それを横合いから纏めてカラドボルグが殴りつけ、魔神の方へと弾き飛ばした。

 フェルグスに向けて放たれたものが全て魔神へと突き刺さる。

 

「ほう、なかなか面白いことを言うなフェルグス。

 儂を前にその口振り、足りていないのはデリカシーか? 甲斐性か?

 それとも、死に対する危機感か?」

 

「応とも、全部知らん。戦場で剣を奮う事こそ愉しむ戦士にはどれも要らぬ。

 此度の俺は王ではなく、ただ戦場を愉しむ戦士だからな!」

 

 串刺しにされた魔神を一基、カラドボルグの剛撃が粉砕する。

 弾け飛ぶ肉片、焼失する残骸、再誕する新たな魔神柱。

 

「とはいえ、これ以上遊んでいては申し訳も立つまい。これでも今はマスターを持つ身。彼女のサーヴァントとして、我が槍は君にも劣らぬ、と戦果を以て証立てようではないか。君も我が騎士団の誇る一番槍としてそれに恥じぬものを見せてくれるのだろう?」

 

 大きく笑うフェルグスに同調しつつも、フィンがようやっと気迫を入れ直す。

 場と旧交を温める目的で行われていた会話がそこで止まる。

 そうした彼はディルムッドに視線を飛ばして、槍を一振りしてから構え直した。

 憂いがようやく去って、彼もまた双つ槍を握り直す。

 

「―――無論だとも、我が戦友フィン・マックール」

 

 そう言って笑い合い、三つの穂先が奔り抜ける。

 焼却式を押し流す津波。それを越えてきた魔力波を斬り捨てる魔槍。

 そうして進撃した彼らが、腐肉の柱を斬り捨てていく。

 

「呵々―――まったく、こう大雑把な戦いは苦手なのだがな。そうも言っておれん。

 しかしまあ……この場は目に毒だ。

 これほどの手練れどもと肩を並べているのに、手合わせは願えぬとは」

 

 老師の槍が大きく跳ねて、一振りのうちに数え切れぬ眼を魔神から奪い去る。

 そうしながら彼が意識を向けるのは、戦場に馳せる英雄たち。

 拳にしろ槍にしろ、ぶつかりあえればどれだけ満足できるか、と。

 李書文は痛ましげに顔を顰めた。

 

 神話の英傑に混じって槍を振るいながら、競う事はできない状況。

 致し方ないことではあるが、無念であると。

 

「はっ! わからねえでもねえが、次の愉しみにでもしとけよ!」

 

 連続して放たれる魔神の熱量。

 雪崩れ込む煉獄の熱波に対して、ベオウルフが双剣を全力で叩きつけた。

 踏み止まり切れず、彼の手から双剣が吹き飛ばさる。

 そんな事を気にもせず、彼は灼熱に燃える体で両の拳を握り締めて笑った。

 

「分かっている。元より、奴らとの縁を辿って此処に至ったのだ。

 その足場の上で、己の力較べを優先などするものか。

 だが残念に思うのは止められん。やれやれ、儂もまだまだ若いという事か」

 

 単純な技量の較べ合いに望めない、と悲嘆する李書文。

 そんな彼に、理由は違えど一人の弓兵が同意を示す。

 

「少し理由は異なりますが、その気持ちも分かるというもの。

 最も望んだ大敵を隣に置き、やる事が共闘とは―――些か、妙な気分になる」

 

「で、あるならば。どちらが戦果を挙げるか、お前の弓とオレの槍で競うか」

 

 アルジュナの指が弓を弾き、放たれる炎の矢。

 一射で魔神の肉体を大きく吹き飛ばす矢が、数え切れぬほど無数に。

 彼の射撃に続き、一閃する太陽の槍。

 カルナが放ったその一撃が、無事であった魔神を大地からこそぎ取り焼き払う。

 

 炎で戦場を舐め尽くしながら、授かりの英雄が施しの英雄に視線を向けた。

 

「…………いえ、やめておきましょう。少々心を動かされましたが。

 今回我らは、あくまで縁を通じて降り立ったサーヴァント。

 我らの中において、今回の勝利はただひとつ。前に進むものたちの勝利です。

 今回ばかりは、我ら全員が勝者であるために―――個人の勝敗などは持ち込むまい」

 

「ですって。いまのアルジュナの言葉、聞いていて?

 テスラの雷の音が聞こえるからって、無駄に張り合わなくてもいいのよ」

 

 円盤を浮かべながら、そう言って背後を振り返るエレナ・ブラヴァツキー。

 彼女に背後にいるのは、宝具で焼却式を軽減し続けるエジソンの姿。

 敵の神秘だけを可能な限り削り落としながら、雷音がその場に轟いた。

 

「張り合ってなどいないとも! 既に勝利は直流のものなのだから!

 そして我ら全体の勝利と、部署ごとにこなした工数の多寡はまったく別の話である! これはこの戦いに最も貢献した、という名誉のためにやっている事! あんなすっとんきょうに勝ちたいからとか、そんな理由じゃないんだからね!」

 

 獅子の頭を持つ男、トーマス・エジソンのがおんという叫び。

 そんな彼の様子に溜め息混じりに声をかけるジェロニモ。

 

「やれやれ、だからと言って足並みを乱す必要はあるまい。どこまで行けるか、は我々もそれぞれ違うところ。だが少なくとも今は、歩いている方向だけは同じなのだから。

 そうしていきり立っていては、先に進ませる者の背中を押す事もできなくなるぞ」

 

 自分たちはそれこそ神話の英霊ほどにはやれまい。

 この尋常ならざる戦場においては、サポートに回るのが必定だ。

 だというのに背中を押す相手より急いていては、無駄に負担を生むばかり。

 

「むぅ……!」

 

 そう口にしながら戦うジェロニモに、エジソンも押し黙る。

 そんなやり取りに同意するように。

 カルナもまた、アルジュナに向けて鷹揚に頷いてみせた。

 

「ふむ、確かにそれが道理だ。

 詫びよう、アルジュナ。どうやらまた無自覚にオレの無神経さが顔を出したようだ」

 

 アルジュナが浮かべるのは、お前の発言は自覚があっても無神経だろう、という顔。

 無自覚だから無神経と言うのであって、自覚があるならそれはただの挑発。

 が、この男に限っては無自覚に無神経というより他にない、が―――

 

「……自覚が出てきたようなら何より。

 貴様にそれを教えたものがいるのであれば、随分と骨を折った事だろう」

 

 肩を竦めるアルジュナ。

 そんな彼に対して、妙に自信ありげにカルナは微笑む。

 

「ふっ、安心しろアルジュナ。

 骨を折ったりする事がないように、前もってこの鎧を彼女に与えていた」

 

 カルナの有するスーリヤの光、黄金の鎧。

 必勝の槍と引き換えにしてでも、インドラが彼から取り上げたもの。

 それを与えられていれば、確かに竜種に轢かれても骨など折らないだろうが。

 

 ―――そもそもそんな話じゃない、と。

 

「………………それはお前なりの冗談、と取っていいのか?」

 

「……そうか。確認せねばならないくらいには出来が悪かったか。

 ああ、鎧を渡したのは事実だが、今のは冗談のつもりだった」

 

 そっちの話は事実なのか、と呆れ顔が自然に浮かぶ。

 が、カルナは苦笑しながら言葉を続けた。

 

「既にこの身は死後の英霊。だが、大きな切っ掛けがあれば変わる事もあるだろう。オレも、お前も。で、あるならば―――オレは今度こそお前に勝利するため、研鑽を積み重ねるまでだ。

 此度は競うための席ではなかったが……なればこそ、存分にお前の座に焼き付けていけ。これこそが、次にお前に挑む今のオレの姿であると」

 

 日輪を背負い槍を振るうカルナ。

 彼はそのまま再び魔神の掃討のために、炎熱を振り撒いた。

 大地を覆う太陽の熱。

 エジソンに抑え込まれた魔神の焼却式を凌駕する、施しの英雄の火力。

 

「―――……ふん」

 

 それを眺めながら、アルジュナが弓へと矢をかける。

 

「あの勝利では、貴様を負かしたなどと口が裂けても言えはしない。

 俺が得る筈だった勝利は、まだ俺の許にまで届いていない。

 俺が勝利できていないのに、勝手に敗者面をするな。

 貴様がその顔に敗北の屈辱を浮かべるのは、俺が貴様に真実勝利するまで待っていろ」

 

 そう口にしつつ、彼が炎神の弓を解き放つ。

 着弾と共に炸裂し、魔神を吹き飛ばしていく炎の雨。

 負けじと槍を振るいながら、カルナがアルジュナへと言い返す。

 

「それは約束できない。その闘いが満ち足りたものであったのなら、オレが最期にこの顔に浮かべるのはお前への称賛だろう」

 

「ふん……どんな顛末であろうと貴様はそういう顔をするのだろうに。どちらにせよ、もうどうでもいい話だ。私が私の中に残した貴様への執着など、表に出すのはこれきりだ。

 ―――これから先、私の中に燃やすのは純粋なる勝利への執念のみ。まずもって、この戦いにおいて完全なる勝利を得る。この身が此処にある限り、他の誰に授けられるまでもなく、私の弓の威力を以て、彼らに勝利を授けよう――――!」

 

 炎が弾幕となって押し寄せる。

 サーヴァントたちによる攻撃が一斉に雪崩れ込む。

 焼却式ごと打ち砕かれ、一欠片も残さず消滅する魔神柱。

 

 が、当然のようにそれらは幾度であろうと再誕する。

 

「再起動せよ―――弾薬、再装填。兵装舎、補充完了。

 司る九柱。それ即ち、フルフル。マルコシアス。ストラス。フェニクス。マルファス。ラウム。フォカロル。ウェパル。そしてハルファス。

 我ら九柱、戦火に焼け落ちるものを悲しみ、尊ぶもの。真実の前で目を瞑ることは許さぬ。最後まで、人間らしく、闘争の炎の中に身を置き、燃え尽きるがいい―――!」

 

「なるほど、精神の病ですね。理解しました」

 

「理解できてるのかなぁ?」

 

 拳銃による射撃。

 神様の炎が飛び交う戦場では頼りないが、そういうものなのだから仕方ない。

 光った眼を優先的に、確実に、順番通りに撃ち抜く銃撃。

 それを繰り返しながら、ビリー・ザ・キッドが同じく銃撃を行う看護の鬼を見た。

 

「真実、と。そのような言葉ひとつで語り切れるのであれば、人間の精神状態に疾患など生じません。傷痍軍人の方は特にそういった、自身が今いる世界自体に苛まれている、と感じるような精神疾患を抱えやすい。ならばなおさらの事、あなたは診察にかかり、正しい治療を受けるべきです。ここであなたを殺してでも、私はあなたたちを治療します」

 

 魔神を精神を病んだ傷病兵扱いし、手榴弾を放る彼女。

 狙って撃ち落とすまでもない、と。熱波を撒き散らす魔神。

 熱に呑まれ、破裂する火薬。

 

 女王の戦車を牽く牛が、流れてきた炎をその角で振り払う。

 彼女はその様に満足そうに頷きつつ、戦車の上で立ち上がった。

 

「この世界に変わらない真実と呼べるものがあるとするなら、そう。

 それは私が変わらず美しいという事と、素敵な男は全て私に傅くために存在するという事。

 その辺りの理解が不十分じゃない? 所詮は使い魔ってことかしら」

 

 撓る鞭。それに応えて戦車が動く。

 その侮辱に反応したのか、彼女に特に差し向けられる火力。

 戦車を盾にそれを凌ぎつつ、蜂蜜の女王はその場で立ち誇る。

 

 眼をクイックドロウで潰しながら、ビリーは口許を小さく引き攣らせた。

 

「だいぶ偏向された真実じゃない、それって」

 

「ええ、もちろんそうよ。私は美しき女王、メイヴ。けれど、それを維持するための努力をしていないと思っていて?

 真実って言っておけば努力を怠っても維持される、なんてとんだ思い上がり。真実とは勝手に生まれるものではなく、努力したにしろ投げ出したにしろ、積み重ねた結果そう見えるように仕上げたメイクだと知りなさい!」

 

「いやぁ、まあ……事実と違うものが真実と呼ばれることもあるのかもしれないけどさ」

 

 騒がしい戦場の中でけして指を止めることもなく、射撃を続行するビリー。

 苦笑している彼をつまらなさげに見下ろし、メイヴは軽く鼻を鳴らす。

 次いで、ビシリと手にした鞭を彼女は魔神に突き付けた。

 

「だからこそ、常に完璧に私を仕上げ続ける私はこう言うの。私の美しさこそ永劫変わらぬ無二の真実、私こそが誰より美しき女王メイヴ! さあ、声高らかに叫びなさい、『メイヴちゃんサイコー!』とね!」

 

「ほう、この際だ。叫んでやろうか? メイヴちゃんサイコー、と」

 

「アンタに叫ばれると気色悪い!」

 

 真っ先に鼻で笑いながら声を上げるスカサハ。

 即座にそちらへ振り返ったメイヴが、迷いもなく吐き捨てる。

 

「ふむ。だが同じ言葉を皆で発するのは、士気を高める効果があるかもしれん。

 メイヴちゃんサイコー。やってみるか、アルジュナ」

 

「やるわけがない!!」

 

 どうにも妙にノリ気なカルナ。

 当然の如く、アルジュナはそれを一言で両断した。

 

「直流サイコー! ではどうか!」

 

「……ま、技術を持ってるような奴は拘るが、使うだけの側からすりゃ道具なんて便利なら何でもいい、ってのが大半の人間にとっての真実なような気がしますがね」

 

「そういう心理は分かっているとも、何せ私は発明王!

 だが分かるわけにはいかんのだ!」

 

 呆れ混じりのロビンの溜め息を、ライオンの雄叫びが上塗りする。

 まるで嘲笑うかのように、別の戦場からの遠雷が届く。

 その遠鳴りに対抗するように、遠吠えを放つエジソン。

 

「まったく、この二人は……いいえ、でも折角だし私も乗りましょうか!

 ここはマハトマサイコー! にしましょう!」

 

 そう言ってエレナも混じる、その瞬間。

 ガンガン、と。明らかに魔神ではなく、空に向けて放たれる銃声。

 

 おや、と。多くの視線を一気に集めるその行動。

 それを会話を纏めて吹き飛ばしながら、ナイチンゲールが静かに語る。

 

「必要な会話はともかく、無駄に声を張り、息を荒くするのは控えなさい。ここは足場すら何で出来ているかもわからず、大気の状態すら不明な場所です。緊急時につき我ら全員ここで活動していますが、未知の病原菌がないとすら言い切れない。最短で患部の摘出を完了させ、帰還する前に全員を殺菌消毒し、その上で体調に変化が発生しないか経過観察を行う事は絶対です」

 

「……まあ、長居したい場所ではないのは確かだが」

 

 その前に我らは退去するだろう、と口にはせず。

 ジェロニモは困り顔で肩を竦めつつ戦闘を続行した。

 

 そんな一瞬の停滞を突き破り、黄金の螺旋が魔神へと直進する。

 

「―――目を開け続ければ大切なものを失わぬ、などという事はない。

 見失ってはならぬものは、常に己の心の中に在る。目の前の事に囚われ、己の中にある最も大切な想いを蔑ろにした時こそ、人は己の真実(こころ)を失うのだ!!」

 

 柱として立つ魔神を、根本から切断する不滅の刃。

 縦横無尽に駆け巡るそれが、魔神を根こそぎ刈り取っていく。

 当然、すぐさま再生産される魔神たち。

 

 即応する、それを放った直後の彼の腕。天へと向かって掲げられる少年の掌。

 その所作に応えるように無数に降り注ぐのは、聖者から彼に託された破魔の武具。

 三叉槍、戦輪、棍棒―――

 それらを降らせながら掴み取り、王となった少年が走る。

 

「悲しいからなんだ! 尊いからどうした! その想いから傷を得るからこそ、我らは涙を流すのだ! 貴様たちは己が負った傷から得た痛みから逃れ、目を開けたまま顔を逸らしているだけだ! 己が負った傷を認めず、そんな棘がある世界こそが過ちであると断じ! 傷つきながらも前に進む者たちを否定し、我が身に瑕疵はないなどと嘯く―――!」

 

 彼の突撃に合わせ、アルジュナが弓を引く。カルナが槍を引き絞る。

 真っ先に解放される、ラーマによる螺旋を描く武具の投擲。

 三人の英雄による、同時の武技。

 

 魔神の肉体で出せる火力を遙かに超えるだろう、英雄の熱量。

 兵装舎はそれにより焼失し―――即座に、再装填。

 

「愚かなり。愚かなり。だからこそ、貴様たちは燃え尽きた―――!!」

 

「だが、だからこそ! その後に大地に芽吹くものを見つけられる!

 失ったなら取り戻す……! 見失ったのなら探し出す!

 たとえ燃え尽きた世界の上でも、我々の足は止まらない―――!!」

 

 駆け巡る黄金の刃。押し寄せるサーヴァントたちの攻勢。

 それに吹き飛ばされながら、しかし魔神には余裕しか存在しない。

 

 ―――そんな連中を、無数に分かれた呪いの鏃が蹂躙した。

 

 降り注ぐ真紅の弾丸。

 その雨に引き裂かれながら、魔神が下手人へと視線を向ける。

 それに誘導されて、放たれる熱量も全てそちらへ。

 

 押し寄せる熱波を跳び越えて、黒い鎧を纏った獣が魔神の中へと踏み込んだ。

 彼が鎧を形成すると同時、降り止むゲイボルクの雨。

 その代わりに得た爪で以て、クー・フーリンは魔神を纏めて千切り飛ばした。

 

「いい加減にうるせえよ、これ以上の問答なんざいちいち必要あるか。

 必要なコトについてのやり取りは疾うの昔に終わってるだろうが。

 オレたちは此処に連中を殺しに来た。連中はそれを阻むために立ち上がった。

 それ以上、一体何を交わす必要がある。

 存分に殺し合って、どちらかが死んだらそれで終わりだ」

 

 呪いの魔爪が魔神を刈り取る。

 再生産される肉の柱がすぐさま聳え立ち、しかし死棘の乱舞がそれを蹂躙する。

 

「―――曲りなりにも王として変質したものが、この始末。

 やはり、このような在り方は許容範囲外である……!」

 

 再生しながら、軍魔ハルファスが言葉を絞り出す。

 それを当然のように鼻で笑い。

 しかし、少しだけ気を取り直して。彼は、どうでもよさげに口を開く。

 

「は、テメェに許されるまでもねえ……が、折角だ。一つだけ教えてやる。

 獣ってのは愚直なもんだ。ただ目的しか見てねえ疾走者。

 ま、本能だけで疾走するならそれでいい。そりゃ始めからそういうもんだ」

 

 温存のためか、黒きクー・フーリンが宝具の鎧を解除する。

 その代わりに手に浮かぶ、死棘の槍。

 

「だが理性あるものが、獣の愚直さのままに走るのはそりゃ醜い事この上ねえ。これ以上ないほどに醜い、が。目的に向かって突き進むだけのその欲望には嘘がねえ。自分で自分が収まるべきと決めた場所に向かってるだけだ。ブレもしねえ。

 だからこそ、だ。()()()―――星に吼えて沈むならまだしも、星を見上げて手を伸ばすなんてのは、獣の在り方じゃねえと覚えておけ」

 

 ただ理性の内にそう告げて、直後に彼は凄絶な笑みを浮かべた。

 会話などこれ以上何一つとしてありはしない。

 荒ぶる狂獣と化したクー・フーリンが槍を手に、魔神どもの殲滅を開始した。

 

 

 




 
 ナーサリーは別のイベントで出す事にしようかと。

 残るは覗覚星、生命院、廃棄孔。
 まだ三つもあるとか嘘やろ……


 ふりかえり。
 五章。

 マスター多い。多くない?
 監獄塔を経てツクヨミが追加人員に。
 そしてモードレッドがとりあえずビーム要員に。
 ビーム! ビーム! 効いてるか~?

 この章の書文といい、六章のランスロットといい。
 味方が増えた結果本編では味方してくれるサーヴァントが敵のままになる現象。
 正直こんなに自軍いらんという。
 スキルや宝具でコンボ考えるのは楽しいは楽しいが長くなる。

 これを書いている内に、ふと気付く。
 アルジュナがカルナの槍を投げる辺りで。
 「特別な武器を使い手じゃない託された別の人間が使う」
 やたら出てくるこのシチュエーション……これ、俺の性癖だな?
 ははーん、自覚していなかった自分の正体を見つけてしまった。

 ラーマくんとシータが会ってましたね。
 ええんかな。まあええか。
 会えたように見えて会えてないのでセーフで。

 オルタニキの登場シーン、アナザーオーズを盾にしての強引な攻め。
 最初はこれがアナザーオーズ、のつもりだったはず。
 主体はあくまでクー・フーリン・オルタで、アナザーオーズはオマケ。
 常磐ソウゴと、クー・フーリン。そこをメインにするつもりだったので。
 そういう考えで書き始めて、なんかパワーアップしてた。

 オルタニキを更に強くしよう!→対抗するためにジオウを増やそう!
 だったのか、
 ジオウを増やそう!→対抗するためにオルタニキを更に強くしよう!
 だったのか。
 どっちの流れでこうなったんだっけな…
 多分、ジオウを増やすために相手であるオルタニキをも強くしよう。
 そんな感じの思考だった、はず。

 アナザーオーズに選択したのはクー・フーリン・オルタ。
 現在だけを見据えて疾走する獣。彼はその先にどうなるか、など考えない。
 彼という器に望まれた欲望を果たすため、最期に至るまで走り続ける。
 彼にとって、行動は全て“やるべきこと”でしかない。
 望まれた事を果たす、その目的の道中、以外の何ものでもないのだ。
 ならば彼にそれを望んだものこそが―――

 モチーフはアンク。
 彼女はいつか夢見た、彼が隣にいる、手に入らなかった光景を望んだ。
 永遠に訪れなかったいつかの明日。
 それをこの地で描いた時点で、彼女はもう願いを叶えてしまっていた。
 強欲な彼女らしからぬことに、既に満ち足りてしまっていた。

 決着は、その先にある明日にまで伸ばした手。
 より大きな夢が目指す欲望。
 それが彼らを呑み込む今日の先、いつかの明日にまで手を届かせた。
 
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