Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「―――覗覚星、開眼。起動せよ。起動せよ。
新たなる理の推敲は既に終了せり。我らこそ、アモン。バアル。アガレス。ウァサゴ。ガミジン。マルバス。マレファル。アロケル。オロバス。
我ら九柱、古き人理を食み、新しき倫理を組み上げるもの―――!」
焼却式が起動する。魔神九柱、彼らが放つ火力が加速する。
大地を駆ける止め処ない熱波。
―――それを。“
神殿に並ぶ“
太陽の神威が、魔神の憤怒を悉く焼き払う。
あえて頭上に神殿を浮かべ、自身は大地に立ちながら。
ファラオ、オジマンディアスが可笑しさしかないと笑い飛ばした。
「ハ、―――ハハハハハハハ! フハハハハハハハハハハハ――――!!
この大地の理そのものである神王たる余を前に! 肉の塊がよく吠えたわ!」
「ん、ここはこいつらの根城だろ。ならあんたの管轄外じゃないか?」
とんとん、と踵を鳴らすアーラシュ。
それが魔神の肉でできた大地を指しているのは明白だろう。
確かにここは魔術王の宇宙。
神王オジマンディアスの支配下とは別の空間であった。
そうして突っ込まれたことに眉を顰め、ファラオは彼の方を振り返る。
「……ふむ、まあ言われればそうか。
必要ならば余の支配下に含めるが、こんな大地は存在する必要もない。
余の統べる世界に要らぬなら、纏めて灼き払われるが道理よな。
まあ、あの魔術王とやらの神殿には見るべきところはあるが……」
それは、その神殿を建築として見てのものか。
尊大なるファラオとしての顔を一瞬だけ引っ込め、興味を浮かべるオジマンディアス。
だがそんなものは刹那で消し去り、すぐに彼は元の表情を浮かべ直した。
「はは、今回見に行くのは勘弁してくれ。あっちは行く奴が決まってるからな」
「ふん。そうでなければ、とうの昔にあの神殿ごと纏めて余の威光で灼き払っているわ」
言いながら、矢を弓に番える大英雄。
一射に続き、周囲から山ほどの、山を削り落とすほど矢が放たれた。
熱波の壁を撃ち抜いて、そのまま魔神たちをこそぎ取る一斉射。
砕けると同時に再供給。新たな魔神は既にそこにある。
だがそれが再稼働する前に、魔神が一基、張り飛ばされた。
釈迦の説法を掌で語る、慈悲なる一撃。
叩き飛ばされた魔神が別の魔神に激突し、弾け飛ぶ。
「そうね! あの子たちの旅路にも一区切りが見えてきた、って事かしら!
あたしも負けてられないわ!」
そう言って己の行くべき道を確信する高僧、玄奘三蔵。
そんな彼女を困った風な顔で見つめる、俵藤太。
彼はアーラシュに負けじと弓を構えながら、流石にどうかと口を挟む。
「いやぁ、流石に此処から天竺には繋がってなかろう」
彼女の旅と言えば、天竺を目指すものだ。
地球であれば死ぬ気で歩けば届くかもしれないが、流石にここからでは無理がある。
そんな弟子の言葉を笑い飛ばし、三蔵は更に魔神を張り飛ばした。
「いいえ、繋がってると思えばいつか辿り着ける! はず!
それはそれとして、今はみんなで道を切り拓くのが最優先!」
藤太の矢に撃ち貫かれ、三蔵の掌底に打ち砕かれ。
そうして撒き散らされた残骸ごと、再誕してくる魔神を空気の断層が切り刻む。
指を揺らし、妖弦を奏で。
悲嘆の音色を掻き鳴らすのは、円卓の騎士が一人。
「……私は悲しい。
あのような最期の後、もはや他の誰に合わせる顔も無いと思っていたらこの席。
自身の恥を理由に欠席など、できるはずもなく……」
爪弾くは嘆きのトリスタン。
ポロロン、と。消えそうな音色が、しかし魔神の肉体を断絶する。
その刃の鋭さは、消え入りそうな覇気の無さと吊り合わぬ技量を以て。
熱波すら微塵に切り裂く音の刃による結界。
そうしていた彼が、ちらりと他のサーヴァントを見る。
彼が真っ先に瞑った目に見つけるのは、魔神の腕を折り畳んだ暗殺者。
「山の翁、ハサン・サッバーハ……彼のように顔を削ぎ落せば、私も皆に合わせる顔が物理的に無くなってマシに……?」
「別に私は誰かに合わせる顔がないと反省して顔を落としたわけではないが!」
あんまりな言葉にハサンが怒鳴る。
ふらり、と揺れつつ。ぽろん、と鳴らしつつ。
トリスタンが一切隙なく刃を奏でながら、眉根を寄せた。
「ああ……なんということでしょう。やはり、私は人の心が分からぬ男……
信仰に生き抜いた無私の求道者に対し、このような事を。貴方ほどに
そんな、血を吐くようなトリスタンの言葉。
それを向けられた途端に、呪腕のハサンが閉口する。
「………………いや、別にそれほどでは。我らサーヴァント、時には例え外道に落ちても忠義を尽くしたいとか、名を残したいとか。ほら、そういうアレが? 突発的にアレすることは致し方ないみたいなところはあるでしょう、うん」
「? 呪腕殿。そのような事を言えば、我らには晩鐘の音が届く事でしょう。
その、私が言えた事ではありませんが……」
短剣を眼を潰すために消費しながら、静謐のハサンが首を傾げる。
掘り下げてくれるな、と仮面の下で失われた顔が歪む。
「いや、まったくその通りだからこそな……」
「おお……なんという……これが山の翁。我らとは教えを異にする民ではありますが、やはりその生き様が高潔であることに疑いはない……」
ポロロン! と、トリスタンの指が加速する。
灼熱の衝撃さえも斬り捨てる刃。
それを前にしながら、呪腕はいい加減顔を全力で引き攣らせた。
「いやぁはっはっは、この話止めましょう。首が落ちます、私の」
ただでさえこうして英霊が一堂に会する場なのだ。
本当にいま、彼の背後に初代山の翁が立っていてもおかしくない。
仮にいたところで、それを察する事が出来るハサンなどいないだろう。
「?」
声を低くしてそう言い募る彼に、静謐はまた首を傾げた。
「ええ、まったく! そのような無駄口ばかり叩いていないで、しっかりと戦いなさい!
ファラオ・オジマンディアスにばかり負担をかけるのは許しません!」
ファラオ・ニトクリスの一喝。彼女の意志に従い出現する冥界の鏡。
それは大神殿と太陽船が処理しきれなかった焼却式への盾となる。
火力は申し分ない。
が、無尽蔵の魔神に対し、手は自然と足りなくなる。
守るばかりではなく、常に殺し続けて相手の処理能力を削らねばならないのだ。
故にオジマンディアスの暴威があるとはいえ、遊んでいる暇などないと彼女は言い―――
「なんだ、最強のファラオと言う割にこの程度が負担だったのか。
成長した方の征服王などなら、もっとやれるのではないか?」
百貌が分身を駆け巡らせながら、呆れた風に溜め息をひとつ。
それを耳聡く拾ったオジマンディアスが、そちらに視線を向けた。
「ほう、余に向かってその大言……ただの挑発なら許さぬところであるが。どうやら、実体験を元にした素直な感想を語っていると見える。で、あるならば。それは当然の疑問として、余が答えを用意してやるしかあるまい。さてどうするか……征服王とやら以上の速度で貴様らを全て纏めて吹き飛ばし、その身に答えを刻むか?」
「そうなったら貴様の心の狭さを真っ先に刻んでやるわ」
舌打ち混じりの返答。どいつもこいつも王というのは、と。
全身全霊で語る百貌に、太陽王は笑いをこらえるように喉を鳴らす。
「ほう……まあよい。この大地は余のものではなく、太陽の光も届かぬ
いわゆる無礼講という奴だ、多少の口の悪さは笑って見過ごしてやろうとも」
彼の腕が杖を握り、軽く地面を叩く。
大神殿、並びに太陽船からの攻撃が更に苛烈さを増す。
だが無論、魔神の再生産速度も変わらぬまま。
「―――さて。それはさておき、だ。
ニトクリス、貴様の見立てでは余は負担に喘いでいるように見えたか?」
「いえ!? いえ、いいえ! 無論、ファラオ・オジマンディアスであれば全ての戦場を御一人で制覇出来るのは疑いようがありませんが、それはそれとして! 偉大なるファラオには相応しき立ち位置というものがあるかと……!」
鏡を維持しながら、ニトクリスが跳ねた。
次の瞬間、彼女の背後で太陽の熱が爆発する。
魔神の熱波を押し切り駆け抜けていくのは、不浄を焼き払う焔の陽炎。
そんな光景に目を細めて、オジマンディアスがそちらの太陽に目を向けた。
「ええ、あなたが後ろに下がっても太陽は此処にあります。
負担に感じているならば、下がって頂いてもよろしいですが」
「ほーう、ほう、ギフトも持たぬ円卓如きがよく言うわ。
面白い。ならば今度こそ、余と貴様が語る太陽の格の違いをはっきりとさせるか」
聖剣を構えた太陽の騎士、ガウェイン。
彼の一撃に笑い、オジマンディアスが
バチバチ、というよりイライラ。
そんな雰囲気を醸し出す太陽王を見て、射撃を続行しながら藤太が眉根を寄せた。
「……うーむ。これは、あれだな」
「ええ、あれね。あたしたちがある程度纏まるには、オジマンディアス王に協調性を持たせる人物が必要だと思うわ!」
「ははは、気に入った奴に対しては結構寛容みたいなんだがな。
代わりに嫌う奴はとことん嫌う気風だが」
アーラシュが次弾装填、からの発射。
それで根こそぎ魔神たちが掃討され、息を吐く間もなく補充される。
そこに斬り込むのは蒼い剣閃。
刀身に圧縮したエネルギーが煌めく様は湖光の如く。
放たれる熱量ごと斬断し、湖の騎士はそのまま腐肉の柱を解体した。
「―――致し方あるまい。我らとて赦されると思っているわけではない。
足並みが揃わずとも、ここでの勝利さえ掴めればそれで良しとするより他にないだろう」
「いいえ、旅は道連れなんとやら!
そこで邪魔し合うわけじゃないから別にいっか、で流すほど旅路を乱すことはないわ!
そんな事をするくらいなら、素直に衝突した方がマシ!
目的を同じくして、肩を並べて戦っている。なら、相応しい距離感があると思うの!」
ランスロットが微塵に斬り卸した残骸を鍬で纏めて払い除け。
そう力説しながら、玄奘三蔵は振り抜いた鍬を倍する速度で振り返した。
いつの間にやら彼女が握っているのは棒に代わり、魔神をそのまま殴り飛ばす。
「そう言ってもなぁ、あの王様の気難しさは――――」
そこで、ふと。
アーラシュが一瞬だけ腕を揺らし、射撃を停止させ。しかしすぐに再開する。
そうしながらも彼は視線を動かして、新たな気配に顔を向けた。
――――来るのは、嵐。
この宇宙を震撼させる破壊の渦が、魔神の大地を奔り抜けて行く。
渦巻く風の只中に降り立つのは、白き獅子の兜を纏った神性。
彼女が手にした槍を一振りすれば、その嵐は全て魔神へと向かっていく。
戦場に乱入してきた嵐を見て、円卓はすぐさま振り返った。
「獅子王陛下!?」
「陛下は要らぬ。そして、もはや王でもない。私の席は取り除かれた」
「……そうは参りません。我ら、確かに獅子王の円卓に席を並べたもの。
貴方の席が失われた程度でそうも簡単に掌を返す者がいれば、誅殺するべきかと」
むっつりと、その王に侍る鉄の騎士が言い募る。
それにどう返せばいいのか一瞬だけ悩み、苦笑だけを返す獅子王。
そんな彼女の様子に、傅いて瞑目するアグラヴェイン。
「お、あんた来れたのか?」
戦闘しながら困惑する円卓を差し置き、アーラシュがそう言って笑う。
槍を引き戻し、再び構え、嵐を発生させながら。
獅子王はその兜の奥にある瞳を、此処より彼方にある別の戦場へと向けた。
「―――この私は時代に忘却され、本来は縁に依ってさえも立つ事の出来ぬはずの身。
で、あったが……ああ、この宇宙には既に、最果ての錨が打ち込まれている。
私はロンゴミニアドの女神。ならば、此処にある槍の影として顔を出す事くらいは叶う。
ここが魔術王の宇宙であるが故に、叶った事ではあるが」
その視線の先にあるのは、ワイルドハントの振るう槍。
違う戦場において暴威を振るう、もう一つのロンゴミニアド。
そこにある錨を目印に、本来消えたはずの彼女は自分の影を出力した。
これきりの奇跡だろう。だが、これきりで十分だ。
「ほぉーう? 円卓連中もそうであったが、恥知らずにも顔を出せたか。
それとも厚顔を隠すためにその兜は外さぬか?」
オジマンディアスが横目で女神を見る。
彼の言葉に少しだけ、女神ロンゴミニアドは自嘲するように苦笑した。
「消えた歴史に沈んだ私が顔を出す事こそ、誤りではあるだろう。
だが……これでは、眠りに耽るには騒々しすぎる故にな」
右腕に、聖槍を。
―――そして。左腕に、聖剣を。
比類なき強大な輝きが、女神の手の中で同じだけ光を放つ。
聖槍が嵐を纏う。聖剣が光を放つ。
その輝きを前にして、困惑していた円卓たちもまた、顔を強く引き締めた。
「―――フン。まあ、それはそれでよい。
静かなる眠りを踏み荒らされる不快さは、ファラオたる余もよく知るところ」
聖剣を半眼で見据え、舌打ちは抑え込んで鼻を鳴らす。
彼はそのまま正面に向き直り、大きく腕を振り上げた。
大神殿が揺れ動き、攻防を維持しつつ進軍。
「我らは砂漠の民、旅の何たるかを知る者。
我らは旅人に払うべき敬意というものを、誰よりも知っている」
自業自得の旅路なれど、それをやり遂げた心意気に嘘はない。
掛けた時間も。懸けた願いも。欠けた魂も。
そればかりには、真実しかないと知っている。
旅路を完遂し、ようやく眠りについた者の静かなる眠りだ。
それを阻む事の罪深さを、彼らはよく知っている。
何よりも、砂漠の民であり―――ファラオであるが故に。
「故に。魂を灼く熱砂を歩き抜いた旅人に免じ、此度は貴様らに余と肩を並べる事を赦す」
だからこそ、譲歩するのはオジマンディアスからだ。
何よりその旅路を認めたからには。騎士王の円卓が成し遂げた事を認めたからには。
偉大なる太陽王が、その偉業こそが見事であった、と告げぬのは。
遍く全てを照らす太陽である、ファラオとしての矜持に反するだろう。
「誇りに思え。貴様の騎士は余を感服させ、譲歩させる、という偉業を成した。
それと席を同じくするものとして、恥じぬものを見せるがいい。
その聖剣の輝きを曇らせるようであれば、貴様ごと灼き払ってくれるわ」
「そうか、ならば問題あるまい。
私が選んだ円卓は誰一人例外なく、貴様が称えた騎士に並ぶに相応しき者たちだ」
―――彼女は、強さだけを見て円卓につく騎士を選んだのではない。
剣に優れる、だけではなく。槍に秀でる、だけではなく。弓に長じる、だけではなく。
人の幸福を求め、不幸を打ち破るために。
他の誰でもなく、彼らこそと席を並べるのが相応しい、と。
全て、代わりなき無二の騎士たちとして騎士王が選び抜いたのだ。
微かに不満げなアグラヴェインが、その言葉に首を垂れる。
他の円卓は言葉もなく。
魔神との戦闘を続行しながら、一瞬だけ息を詰まらせた。
「ハッ……よかろう、聖槍の女神にして聖剣使い。獅子王なりし騎士王よ。
貴様のその言が事実であると証立てられた時、余は認める事だろう!
その円卓に席を並べし者たちは、全て勇壮なるものではあったのだ、と!」
「うん? 勇者とは呼ばないのか?」
「たわけ! 勇壮であるとは認めても、気に入らん連中だという事実は微塵も変わらぬわ!
誰がこんな連中を勇者などと呼ぶものか!!
アーチャー! 貴様も全霊を尽くせ、円卓どもが手持ち無沙汰になるくらいにな!!」
アーラシュからの軽口に、そう大きく叫び返して。
オジマンディアスが額に己の手を添え、一気に上げる。
掻き上げられ、逆立つ髪。
そうしてより露わになった太陽色の瞳をより際立たせ、彼は目前に広がる魔神を見渡した。
「ハ―――! 海や大地を割るに較べ、魔神の群れを割る事の何と退屈なことよ!
だが今回ばかりはその役目に甘んじてやろう!
まずもって我が威光の投射を行い、余の偉大さを知らしめる!
“
進撃していた大神殿が展開を始め、大雷電を奔らせる準備を開始した。
膨れ上がっていく太陽。その威光を阻もうと魔神が動き出し―――
「うっし、王様からのご要望だ。流星、―――とはいかないが。
まあそれなりの
矢が雨と降り注ぐ。最早それは弓から放たれた矢などとは思えず。
射撃というより爆撃のそれが、魔神を消滅させていく。
即座に再生産。そのまま放たれる焼却式。
それを阻むのは、冥界の鏡。
「つまり……一時同盟、ということで……よろしいのでしょうか……?
んん! ―――それはそれとして、不敬である!
ファラオ・オジマンディアスの御威光です! 平伏して仰ぎなさない!!」
「平伏したら仰げんだろう」
その盾が阻んだ直後、百と二の暗殺者が短剣を放つ。
それだけの弾幕となれば、魔神の眼をそれなりに潰す事も出来る。
分身してそうしている百貌が、小さく呟いた。
「体は平伏させ! 地面に頭を擦り付け!
想像の中に描いた偉大なる太陽を仰げ、ということです!」
「その、どちらにせよ―――いえ、なんでもありません。はい」
声を荒げるニトクリス。
そんな彼女に何かを言おうとして、しかし静謐は顔を逸らした。
だが彼女が言うのを止めた言葉を呪腕がそのまま続ける。
「まあ、魔神のあの体では平伏は出来ないでしょうなぁ」
「そもそも頭と胴体という区分があるのか、あれらは」
一射で龍を生し、魔神を喰い千切らせながら。
形状的には一本の柱でしかないそれらに、藤太は小さく首を傾げる。
ニトクリスがふるふると震えだす。
そんな中でからりと笑い、三蔵法師が掌底を突き出した。
「旅の終わりに設定した目的とは全く別に。
確かに歩んだ足跡がそこにあるという事実こそが、きっと誰かの胸を打つ。
だったら、それを認めて送り出すためになら、あたしたちは一つになれる。
だって、だからこそ。
あたしたちってば、今こそそうするために、結んだ縁を辿ってきたのだもの!」
張り飛ばされた魔神が嵐に巻き込まれ、砕け散る。
再供給された魔神たちの末路も同じこと。
何度躯体を出力しようとも、全ては嵐の中へと消えていく。
「――――聖槍、抜錨。この身は既に終わったもの、あえて果てを語る事はするまい。
代わりに貴様らが聞くものは、果てより先へと踏み出した人間の足音である」
「……ガウェイン、トリスタン、ランスロット。
陛下が宝具を解放する間隙、その全てを一分も残さず埋め立てろ」
剣を抜き、アグラヴェインが前に出る。
この三騎士を獅子王の盾になど使う無駄は許容できない。
太陽の暴威は太陽の騎士ガウェインが察するだろう。
嵐の旋律は嘆きのトリスタンが聞き分けるだろう。
後はそれを元に動かす湖の騎士ランスロットがいれば、これらは最前線で戦えるのだから。
三騎士が頷き、同時に大地を蹴る。
アグラヴェインを王の盾として残し、彼らは魔神の只中へと突撃した。
魔神の眼光が閃く、前に。
光よりも先んじて、音の刃が魔神の眼球を悉く切り刻む。
フェイルノートの音色は止まらず、戦場に響き渡る。
「…………私は、いえ。この想いを言葉にするのは止めましょう。
ただ、我が妖弦の刃の鋭さによって証明する。
この救われる価値なき哀しみの子であっても、騎士王に選ばれた騎士であったのだ、と」
即時再生、のちに即時解体。
崩れ落ちていく魔神柱の間を奔り抜けたのは、静けさに満ちた湖面に似た蒼き光。
刀身に全てを圧縮した、アロンダイトの刃。
流水の如き剣閃が、瞬きの内に魔神たちを斬り捨てていく。
「ああ、そう言われては是非もない。我らの不義も。不徳も。不和も。
全て差し置いて、まずは道を切り拓く。
我らは―――そのために、騎士王の許に集っていたのだから」
再誕し、壊滅する。
太陽の聖剣、ガラティーン。雪崩れ込む陽光が、魔神を一息に蒸発させた。
蒸発し、再誕し、またも蒸発し、再誕し、切り刻まれ。
ほんの数秒の内にそれぞれ十度の再誕を成し遂げて。
更に彼らは騎士の放つ閃光に、解体され続ける。
「我がマスターたちは。そして彼に円卓を託されし少女は。
正しく、我らの王が愛した人間であると知っている。
贖いの旅を果たした我らが同胞の結末に、悲しみと敬意を抱いてくれた者だと知っている。
ならば―――我らが此処で、魂を懸けず何とする!」
そうして蹂躙が続く戦場を見据え、オジマンディアスが声を張った。
同時に、獅子王はゆるりと手にした槍を掲げる。
「大神殿はその位置に固定! 魔力充填が終わり次第、照射を開始せよ!
“
「――――聖剣、解放。人が望みし最強の幻想を以て、この身が知る果ての先を照らし出す」
戦場を俯瞰する二人。
そうして全てを薙ぎ払う力を充填しながら、ロンゴミニアドの女神が口を開く。
「……我らは人の旅路を赦すものである。
道中に重ねた罪も、咎も、裁くべきものではあっても別の事と知るがいい」
「罪を罰し。咎を責め。それとは別に、その歩みこそが価値あるものと称えよう。
その道のりに試練は課そう、障害も与えよう。
その上で我らは、それを越えて進む者たちこそを言祝ぐ、この世界に遍く神意である!!」
オジマンディアスが女神の言葉を継ぐ。
その言葉を言い切ったと同時、大神殿の準備が完了した。
まったく同じタイミングで、聖槍と聖剣もまた。
「その旅路を試す、太陽が齎す厳格なる恵みを仰ぐがよい――――!!」
「その旅人たちが願いを懸けた、星々の輝きがいま赦そう――――!!」
瞬間、この地上に太陽と星々の輝きが顕現した。
視界を埋め尽くすのは、全てを塗り潰す極光。
導きの光にしては暴虐的なまでに荒々しい奔流が、魔神をいとも簡単に消し飛ばす。
再誕と崩壊を繰り返す魔神。
十、百、千――――変わらず、彼らは再誕し続ける。
そうして新たに供給され続ける魔神が、僅かに揺らぐ。ほんの僅か。
瞬きするにも足りぬ、短い時間だけ。彼らの再供給が、遅くなる。
「―――歩め、人間。たとえ燃え尽き、灰しか遺らぬ世界になろうとも。
……たとえ、彼方より降ろされた錨が別の世界を縫い留めようと。
しかし、いま此処で刻んだ足跡だけは、確かにお前たちが達成した偉業である」
聖槍と聖剣を奮いながら、獅子王が兜の中でそう口にする。
誰にも届けるつもりのないその言葉が、戦闘音に紛れて消えていく。
「―――――――」
両名、無言。
そのままに実行される、魔神を挟んでの射撃勝負。
撃ち下ろされる金星の女神の矢。
打ち上げられる泥人形が知る人の叡智が生んだ武装。
彼女と彼に挟まれた魔神が、両方喰らって滅殺されていく。
もはやどちらも魔神など見てもいない。
目的は上手い事この戦闘に乗じ、相手を地面に這いつくばらせる事だ。
「……いいんですか、あれは」
「ええ、まあ……互いにギリギリ殺そうとはしていないし……多分、大丈夫。
っていうかあいつら、何しに来たか覚えているのかしら」
アナ―――メドゥーサが、珍妙なものを見る目でそれを見る。
身内の恥を前にして、エレシュキガルが少しだけ目を逸らした。
そうしつつもとても不安そうに、妹と泥人形の戦闘をちらちらと窺う。
本気で殺し合いになったらどうするべきなのか。
「ふん、我らの目的など決まっている。
こちらの午睡を邪魔してくれた礼儀知らずを殺しに来たにすぎん。
ああして、ついででも殺してやってるなら問題などないだろうよ」
蛇の巨体がとぐろを巻きつつ、体を持ち上げる。
開かれる双眸に、宝石の魔眼が輝いた。
物理的な熱を伴う光線となって、キュベレイの眼光が魔神を薙ぎ払う。
燃やされ、石化し、崩れていく巨体。
目の前を通って行ったその光に、一瞬だけエルキドゥが足を止めた。
「はっ! 隙を見せたわね、エルキドゥ!
これで終わりよ、地べたに這い蹲って私に許しを請いなさい!!」
マアンナから光の矢をつるべ打ち。
それがついでに魔神を打ち砕きつつ、エルキドゥへと殺到した。
足を止めていた彼には、その全ては迎撃しきれない。
「…………」
ゴルゴーンの視界が逸れ、一瞬だけ眼光が乱れる。
偶然にもそれはエルキドゥに向かう矢を幾つか迎撃し、吹き飛ばした。
結果として開いた、弾幕の穴。
そこを潜り抜け、エルキドゥは無傷で生還する。
「ちぃ、邪魔しないでよ! 今のは決まったはずなのに!」
「―――ふん」
口惜しいと舌打ちするイシュタル。
そんな彼女からそっぽを向き、魔神へと視線を向けるゴルゴーン。
「くっ、グガランナさえ連れてこれれば、魔神みたいな雑事なんてアイツ任せで、遠慮なくエルキドゥをぶっ飛ばせるのに!
アイツったら、存在規模がデカすぎてここにこれないと知るや、安心してやがったっての! 私が来いと言ったら、ブタのように小さくなってでも着いてくるべきでしょ!?」
「……同じ兵器として同情するよ。
彼は僕より強靭な兵器だが、持ち主に恵まれないとああも無惨な事になるのか、とね」
呆れ混じりのエルキドゥの言葉。
それに眉を吊り上げながら、イシュタルは彼を天上から見下ろした。
「ええ、同じ兵器だってならキングゥの方がよっぽど可愛げがあったわ。
アンタ、あいつを見習ってもうちょっと人間らしくなってみたらどう?」
「キングゥ、ね。その人間らしい僕の後継機に興味がないわけではないけれど。
ただ、それよりも。おまえが随分と人間らしくなっている事に、少し驚いているよ。依り代に選んだ少女の影響なんだろう?
……本当に、人間は凄いな。この世に並ぶものなど無いほど醜かったあのイシュタルを、こうしてまともに見れるものに変えてしまうなんて。ギルガメッシュはショック死しなかったかい?
僕としては、いま世界が滅亡に瀕しているのは、おまえのその乱心に驚いた世界が恐怖で取り乱しているからなのではないか、という可能性を捨てきれない」
「あら、うふふ。醜くて悪かったわね。ぶっ殺す。
なら私を二度と見なくていいように、今すぐ泥に還してやるわよ―――!」
そうして、揃って。
ついでに魔神を蹂躙しながら、イシュタルとエルキドゥが攻撃を撃ち合う。
蹂躙されながらも再誕し、魔神は周囲へと眼光を飛ばす。
薙ぎ払われる熱線、焼却式。
「起動せよ。起動せよ。我らこそ、生命院を司る九柱。
即ち、シャックス。ヴィネ。ビフロンス。ウヴァル。ハーゲンティ。クロケル。フルカス。バラム。そして我、サブナック。
我らは新たなる誕生を祝うもの。我らは接合を讃えるもの―――否、否……! 我ら、この賛美を蔑む事能わず……! 過ちに満ちた世界に生まれいずる者を、どうして祝福できようか!」
嚇怒の叫びと共に、放たれる熱線の渦。
その前に立ちはだかるのは、スパルタの勇者の構える盾。
熱波が直撃し、盾が揺らぎ、それでも、彼らはそこに立ち誇る。
「――――無論、共に生きることができるからである!
そこが過ちに満ちていようが何であろうが、共に生きれる。ただそれだけで、生まれてきた者に我らが送る祝福の言葉が尽きる事など、ありはしない!!」
残り火と白煙を盾で払い除け、レオニダスは槍を魔神に向ける。
その合図に従い、彼に呼び出されたスパルタ兵が投擲を開始した。
魔神の眼を潰す投げ槍の雨。
それを掻い潜りながら、天狗の歩法が彼女を獲物の許まで運ぶ。
閃く白刃が魔神を切り刻み、残った眼を潰していく。
跳ね回る牛若丸は、全てを躱しつつ確かに魔神に攻撃を加え続けてみせた。
「そもそも貴様などに祝われるまでもない。黙ってさっさと死ね」
「牛若丸様……」
そういうところですぞ、という顔を浮かべる武蔵坊弁慶。
エレシュキガルが
周囲の空気を冥界のそれに変え、彼女は己の権能を解き放った。
空を翔ける女神ほどの力強さはない、冥界の女主人の力。
「……ここは冥界の外。縁を通じて何とかここまできたけれど、冥界の外で私に出来ることはそう多くはないでしょう。ただし、現世でも冥界でもない
なら―――やれるだけはやるのだわ!」
魔神の焼却式に、エレシュキガルの有する太陽の権能が激突する。
今の彼女に発揮できる力は大きくない。
故に、一基や二基相手ならまだしも、数基がかりで押し切られ―――
彼女の後ろから飛来したもう一つの太陽が、更に押し返して魔神を灰に変えた。
着陸する
展開されたままの炎の翼が、復帰してきた魔神の放つ熱量を遮り、受け流していく。
「―――そう、やれる分だけでいいのデース。
前に進めるだけ。今日やれる分だけ。人ひとりに出来るだけ。一緒にいる人と出来るだけ。
その積み重ねだけが、やるべきことをやるだけの神を越えていくのだから」
「その方法で太陽を越えるにはまだまだかかりそうだニャー」
ケツァル・コアトルに火力を向けている隙に。
大地を這うような姿勢で駆け抜け、魔神を断ち切るのはジャガーの爪。
トラの着ぐるみが呆れ混じりにそう言って、流れるように魔神を肉塊へと変えていく。
「ンー、私としてももうちょっと越えるのに時間を掛けてもらってもいい感じデース!
越えられてしまったら悲しいので! もちろん、いつその時が来ても祝福しますけど」
まだ人の世に近い太陽の女神は、そう言って笑った。
人にはやがて、太陽を越えて彼方に漕ぎ出す時がくるかもしれない。
この星に未知が残されていないなら、星の彼方に探しに行く。
そうなる時がいつ来てもおかしくはない。
―――いつ来てもいいだろう。その時は、笑って見送るだけ。
ティアマト神にああ言っておいて、自分が縋っては道理も通らない。
「まあ、そうなるにはまだ遠かろうよ。あるいはそこに届かぬままに滅びるか。
未知に胸をときめかせる冒険も、無難で退屈な人生を歩むも、同じ人生には変わりない。
黄金の波紋が空に拡がっていく。
王律鍵バヴ=イルが、地上全ての財宝を収めた蔵への路を開く。
それこそが、人類最古の英雄王の築いた宝物庫への門。
―――“
王が選択したのは、放つ物を選ばぬ事。
宝物のランクに糸目をつけず、一切合切、秘宝からガラクタまで含めて全てを使用する。
それこそが、彼にとっての最大の賛辞である。
「―――貴様はそれを解せなかったわけだ。まったく、夢見がちにも程がある。
エレシュキガルも相当湯だった頭をしていたが、あれはそれ以上だな」
「なんでそこで私を引き合いに!?」
エレシュキガルの悲鳴を、宝物の射出音で掻き消して。
英雄王、ギルガメッシュによる魔神殲滅が開始される。
掃射を始めた彼の隣に、ケツァル・コアトルが着地した。
神殿のない彼女は、太陽神の神格は発揮できず、強力なサーヴァント止まり。
それでも当然強力だが、クールタイムを挟まねば戦い切れない。
「あら、アナタもそんな事を言うのね。
それ、どんな人生にも等しく価値があるってことでショウ?」
「たわけ。
そして当然の如く、価値とは別のところで
呆れた風に女神を見つつ、彼は肩を竦める。
そんなギルガメッシュを見て、ジャガーマンの方が唸った。
「ほーん。つまり、神様は定価で売ってるから値段は決まってるけど、人間にはオープン価格しかないからお値段自由自在、みたいな?」
「…………まあそれでよいわ、貴様にはいちいち口を挟むのも面倒だ」
「なしてー?」
口を挟んでくるジャガーマンに、しっしっと追い払う所作を見せ。
追い払われたジャガーは、再び魔神との戦場へと駆け出した。
その後ろ姿を胡乱げな瞳で眺めつつ、ギルガメッシュは続ける。
「全てが値千金だと評すのも。全てが値段をつけるに値しないと評すのも。
自分が気に入ったものにだけ値札を張るのも、全ては自由だ。
見る者が変われば価格が変動するそんなものに、一定の価値など与えられるものか。
安定した相場があって初めて、価値というのは語るに値するのだからな。
―――だから、そこで納得しておけば良かったものを」
処置無し、と。そう言って溜め息ひとつ。
彼は蔵から射出する宝具を加速させながら、瞑目した。
そんな彼にかけられるのは、天上からのイシュタルの声。
「なによ、それ。魔術王が何してるか、アンタ知ってんの?」
エルキドゥとのじゃれ合いを終えたのか。
彼の方はまだ最前線で魔神の処理を行っているが。
そうして向けられた声に、鼻を鳴らす。
「此処に至れば最早見えたも同然だ。
未だ千里眼では視れぬが、賢王であった時に足りなかった情報は埋まった故にな。
察しているのは
「なにそれ、じゃあ教えなさいよ」
玩具を見つけた、とばかりに降りてくるイシュタル。
説明を待つ彼女に対し、彼は肩を怒らせて怒鳴りつけてみせる。
「何故、
おい、エルキドゥ! しっかりとこいつごと仕留めておかぬか!」
「あれだけ世話になっておいて言うことがそれ!?」
「あの程度では今まで掛けられた迷惑さえ相殺しきれておらぬわ!
まして貴様はそもそもウルクの都市神、あんなもの貴様自身の役割の内だ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎだす二人。
そちらに軽く視線を向けて、エルキドゥは肩を竦めた。
その間にも彼が放つ宝剣・宝槍の雨は止まない。
「放っておいていいのですか、アレは」
不死殺しの鎖鎌を振り回しながら、眉を顰める少女。
彼女の武装は不死殺しではあるが、相手は死んだ後に補完されて再生産される手合い。
その能力に大きな意味はなく、当然のように魔神は再出現し続ける。
「いいんじゃないかな。イシュタルはどうやら本当に今回はまともみたいだし。
元のそれだったら、真っ先に殺していたところだけど」
そう言って、感慨深げに人間は凄いね、などと語る泥人形。
そこで、ふと思い出したように彼は僅かに首を傾げた。
「君たちは僕の機体を使っていたキングゥ、というものを知っているんだったね。
彼はそんなに人間に近付いていたのかな?」
君たち、と。
そう言って、メドゥーサのみならずゴルゴーンにも意識を向ける。
メドゥーサの方は、困ったような顔で視線を彷徨わせて。
ちらり、とゴルゴーンの方を見上げた。
そんな二人からの視線を受けながら、蛇神は魔眼の熱量を魔神へと差し向ける。
熱量と石化の呪詛、それを受けて崩壊する魔神たち。
補充される魔神たちを前にしつつ、ゴルゴーンは小さな声で呟く。
「……さあな、私もよくは知らん。
ただ―――人間にも、神にも、どっちにも寄らず、近づかず。
その間を繋ぐためだけの鎖となり、果てたらしいがな」
「知らない、と。そう言う割には、君は彼に思うところがあるように見えるけれど」
鎖と武装を放ちながら、エルキドゥが不思議そうに首を横に倒す。
その顔に覚えはあっても、その所作には一切覚えはない、と。
ゴルゴーンの顔が、一瞬だけ歪んだ。
―――が、すぐに彼女は誤魔化すように吐き捨てる。
「―――見れば分かろう。この身は神が墜ち、人を殺すために怪物へと変生したもの。
神と人の間に立つ貴様にも同じものになる資格があると、目を掛けてやっただけの事。
……だというのに、アレは随分と詰まらぬ終わり方をしたようだ」
「そうか。うん、なるほど」
「何を分かった風な顔をしている。貴様」
得心がいった、と。それなりに晴れ晴れと頷いたエルキドゥ。
彼に対して、ゴルゴーンが苛立ちを滲ませて問いかける。
問いかけられた以上は、と。彼はそのまま微笑みながら返答した。
「いや、大した事じゃないよ。
ただ、いつだって泥人形に知性を与えるのは母の愛、のようなものだと認識しただけさ。
かつて僕がシャムハトと出会い、泥人形からエルキドゥになったようにね」
「私が一体いつ! そんな話をした!!」
エルキドゥの言葉に荒ぶるゴルゴーン。
めんどくさい自分があれなのか、或いは分かり切っている事をするエルキドゥがあれなのか。
メドゥーサは魔眼で魔神を睨みながら、何とも言えない顔をした。
「僕が勝手に納得しただけだから気にしなくていいよ。ただ礼は言っておきたい。
ただの兵器、泥人形にそんな感情を向けてくれたことに。それだけさ。
―――さあ、魔神の殲滅を続けようか」
別に、罪悪感のようなものは特にないけれど。
彼の執着がこの機体に残してしまった熱が、キングゥの邪魔になっていた。
後継機が兵器として稼働する事を、エルキドゥだったものが邪魔するのは望ましくない。
それを解放してくれた、というのなら。きっと素直に感謝するべきだろう。
彼はシャムハトという“母”と、ギルガメッシュという“友”を得て。
こうして、エルキドゥと名乗るものになった。
ならば、キングゥもきっとそうなのだろう。
ゴルゴーンという“母”と、彼の為の言葉を送ってくれた“友”も得ていたのだろう。
この機体に残る、僅かな残滓。温かみ、とでも呼ぶべき魂の欠片。
それが確かに、そうなのだと伝えてくる気がする。
エルキドゥが、魔術王の城の方角へと一瞬視線を送る。
残念ながら顔を合わせる事は叶わなかった。
ギルガメッシュは嫌っていて、説明などしてくれないだろう。
では、仕方ない。
いつか会える奇跡を願いつつ、彼の目的を果たすだけだ。
彼は兵器。
人のために、人に使われる、最強の兵器である。
エルキドゥが一息に鎖を奔らせる。
魔神の間を縫って突き進むそれを足場に、牛若丸が疾走した。
弁慶が背負っていた武装を撒き散らしながら、双槍を手に突貫する。
更にそこに続いていくジャガーマン。
切り倒される魔神たち。それらは再び再誕し―――
「……? 補充が遅くなったな」
ぽつり、と。斬り抜けた牛若丸がそう呟いて。
その瞬間、別の戦場で圧倒的な力の奔流が放たれた事を理解する。
彼方で発生した爆発だけで肌が粟立つほどの衝撃。
「神性……? サーヴァントの枠に収まってないように感じるけど……ま、いいわ。
再生産が追い付かなくなってきた、ってわけ?
アンタたちの目的なんかよく知らないけど、別に分からなくても問題ないもの。
どうせここまで。勝つのはこっち、どんな目的があろうとここで終わりよ」
「終わらぬ―――終われるものか! 我ら生命院が、最後の責務を果たすまで……! 新たな星の生誕を祝うまで、新たなる生命の幸福を証明するまで、我らはけして終われない――――!!」
放たれる焼却式。
それこそが魔神九柱、全霊を懸けた一撃。
押し寄せる熱波を、レオニダスが受け止める。
彼の周囲に槍檻が突き出して、稲妻を放散。
エレシュキガルの神威がスパルタ兵たちを援護して、彼らを支えた。
その隙に天上から降り注ぐ無数の矢。
イシュタルの攻撃が、魔神から眼を次々と奪っていく。
火力が落ちた瞬間、メドゥーサ、ゴルゴーンが魔眼を解放。
同時にケツァル・コアトルがその神威を解き放つ。
押し返され、自分たちこそが焼失していく魔神柱。
一拍の間を置き、全て補充される魔神たち。
彼らの前に―――
「きっと、誰に証明されるまでもないよ。人の生に価値がないからこそ、幸福にだって価値はない。本人がそれでいい、と思えたらそれ以上はどこにもないんだから。既にそういう事にしてしまった王様が、ここにいるんだ」
「ふん。個々人の感じる幸福こそ、それこそ値段のつかぬ品、と言う奴だ。疾うに証明はされている。幸福それそのものに価値などない、という解がな。
人間は価値あるものに囲まれる事を幸福としてもよいし、価値なきものを抱える事を幸福としてもよい。それだけのことよ」
天の鎖がその力を発揮する。
天の楔が乖離剣に手をかける。
先程この場にまで届いた波動にも劣らぬ、圧倒的な力の奔流。
「まあ僕の中における価値を量る天秤は、星の上にある全てに価値を感じているけれど。
もちろん、イシュタル以外にはね」
「はっ、全てに価値があるなどと、それは全てに特筆する価値がないと言っているも同然だ。
大地の息吹と地獄の業火が吹き荒れる。
それが交わり、余波のみで魔神を薙ぎ倒していく。
揃って、二人の男が腕を大きく高く掲げた。
天を衝く、乖離剣と神の兵器。
「心の使い方を知らぬまま此処まで至りし獣よ、ならば覚えていけ。
本来価値なきものに価値をつけられるのが、唯一
ギルガメッシュの言葉に、エルキドゥが微かに目を細めた。
かつて、動きを止めた価値なき兵器を前にして。
ギルガメッシュは、己の中に一つの価値を生み出した。
未来永劫に渡り、我が友は彼一人だけである、と。
唯一無二、絶対に色褪せない価値を自分の中に設けて。
彼は、既に動かなくなった兵器という、価値なきものを尊んだ。
「―――貴様は価値なきものを見放したのではない。
価値なきものを前にして、貴様自身の意志で価値を与えなかっただけなのだ」
二人の腕が動く。
それに従い、彼らがそこに生み出した破壊が降り注ぐ。
再誕、崩壊、再誕、崩壊、再誕、崩壊―――
絶大なる力が迫る中で、魔神は一秒たりとも生存が赦されない。
生と死を繰り返しながら、生命院が言葉にならない叫びを吼え立てた。
それを塗り潰す轟音と共に、着弾。
拡がっていく破滅の威力が、魔神の命を無限に削り落としていく。
「誰ぞに決められた適当な価値など元より要らぬだろう。
千里を視通すばかりではなく、貴様自身の秤で最後に量るがいい。
貴様が求めた、人間の価値を――――!!」
溶けながら、生命院が悲嘆の声を放つ。
もう。これ以上。まだ。視ろと。まだ。視続けろと。
そんな、地獄は、もう―――
―――その泣き言に、英雄王は乖離剣を強く握り締める。
それにより、全てが消し飛んだあと。
当然のように、再び生命院が再稼働を始める。
もはや、もはや、我らには荒れ狂うより他にないのだと言うかのように。
それを前にして、英雄たちが再び決戦に挑んだ。
やっと……あと一つなんやなって。
ふりかえり。
六章。
開幕クライマックス。
もちろん原作鎧武編を踏襲してみたものである。
鎧武編ということで、どっかから生えてくるリブートキカイダー。
ではなく、仮面ライダーキカイとなんか出てくるハカイダー。
メガヘクスという戦力として見るとでかいが、アナザー鎧武単体は割と普通。
「鎧武の歴史が割り込んだ特異点」であるだけの筈のこの特異点に既にビルドの情報があった、というのは重要かもしれない。重要じゃないかもしれない。
アナザーライダーとジオウの一騎討ちでケリがつくのは楽でええ。
総力戦は疲れるので1.5部くらいは今後もそうあってほしい。切実に。
この章における終わりは、Fate/stay night(Fateルート)を意識したもの。
獅子王が最後にベディヴィエールがどんな想いだったか理解できたかどうかは神のみぞしる。
私にも分からん。
そして何故かベディヴィエールの終局での出番が消える。
獅子王はこじつけたが、あの流れで出てくるベディをどうやって出せばいいのか分かんねえ。
この辺りまででモードレッドとアーサー王、後ランスロットにもう書く事ねえなとなる。
アクセルゼロオーダー纏まんねえ、となった理由でもある。
フィンやアレキサンダーを連れ込んでディルやイスカンダルと会わせるのは面白そうでやりたかったのだが。
アナザー鎧武に選択したのはメガヘクス。
モチーフはメガヘクス。
方法は違えど同じくヘルヘイムを超克した機械の星。
決着は、運命の勝利者の選択。
運命の勝利者には接戦の末に降した敗者がいて、そして後に続く者たちがいた。
メガヘクスという強大な存在に、そんなものは必要なかった。
―――“
故に、女神は。
彼らの方にこそ、勝利を約束した。