Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
二話同時投稿
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「―――ッ!?」
アナザー龍騎の左腕。
龍の頭部を模した前腕部から、火球が放たれる。
ディケイドアーマーの胴体に直撃したその一撃で、ジオウが大きく吹き飛ばされた。
「あ、ぐ……!」
「フォウ、フー……! フォーウ!」
呆けていた頭を振って、彼はすぐにヘイセイバーを支えに立ち上がる。
背後からフォウの鳴き声が聞こえるが、構っている暇はない。
ジオウはすぐにセレクターへと手をかけて、龍騎へと指針を回し―――
そこでぴたりと、動きを止めた。
「時間が、戻ってる……!?」
―――すぐさま気を取り直し、彼はそのまま背後へと振り返る。
そこにいるのは、アナザー龍騎。
赤と銀のカラーリングで、左腕に龍、右腕に剣を持つのがアナザー龍騎。
それとは真逆に、黒と金に変わり、右腕に龍、左腕に剣を持ったもう一人。
〈リュウガ…!〉
「二人目の……アナザーライダー……!?」
黒いアナザー龍騎―――アナザーリュウガが、その右腕を腰だめに構えた。
そうして彼の周囲に展開される、無数の黒い炎弾。
腕を突き出すと同時、龍の顎が開かれる。
龍のブレスのような火炎の渦に合わせ、解放される無数の炎弾。
「っ、」
咄嗟に横っ飛びして、それの軌道から外れるジオウ。
そこに斬り込んでくるのは、剣を振り被るアナザー龍騎。
着地して転がりながら、ジオウの指がヘイセイバーのセレクターを回す。
〈龍騎! デュアルタイムブレーク!!〉
アナザー龍騎が剣を振り下ろすのに合わせ、ジオウが炎上する剣を振り上げる。
先んじて斬撃を浴びせたのは、ジオウだった。
股下から右肩にまで切り上げる、炎の刃。
それが確かにアナザー龍騎に深々と傷を残し―――
ガチリ、と。アナザーリュウガの右腕の龍が、顎を閉じる。
〈ストレンジベント…!〉
「また―――!」
ジオウの動きは間に合わない。
アナザーリュウガがただ、その右腕をガチリと噛み合わせた瞬間。
カチリ、と。再び、時計が逆巻く音がした。
〈タイムベント…!〉
アナザー龍騎の左腕。
龍の頭部を模した前腕部から、火球が放たれる。
ディケイドアーマーの胴体に直撃したその一撃で、ジオウが大きく吹き飛ばされた。
「づ、また……!?」
まったく同じ感覚を、同じ時間に味わっていた事を憶えている。
ならば、と。
彼は跳ね起きると同時に、ヘイセイバーへと指をかけた。
〈ヘイ! 龍騎!〉
振り向くと同時に疾走。
そこには右腕の龍を構えた状態の、アナザーリュウガが立っている。
燃える刃を振り被り、一息に距離を詰め切って。
「先にこっちを倒す!」
「か、ない、で――――」
アナザーリュウガの兜の奥。
そこにある洞から、何か声のような音が聞こえる。
―――しかしそれを聞き流し。
ジオウはヘイセイバーを、攻撃態勢にある黒い怪人に向け振り抜いた。
〈龍騎! デュアルタイムブレーク!!〉
隙だらけのアナザーリュウガへと見舞われる唐竹割。
大上段から振り下ろされた炎の剣閃が、紛れもなく直撃した。
そうされた黒い体が火花を散らしてふらりとよろめき―――
ただ、それだけで。
当たり前のように、逸らした体を復帰させる。
「……っ、効かない!?」
「し、ない、で――――」
アナザーリュウガの眼前に。ジオウの目前に。
互いの間を遮るように、大きな鏡が現れた。
そこに映し出した
黒い竜騎士を焼いた炎の剣閃が鏡の中へと浮かびあがる。
―――直後に、噴き出すように、それはジオウに向かって射出された。
「――――ッ!?」
目前で発生した攻撃に対応しきれず、直撃を受ける。
自身が行った攻撃を反射され、ジオウは全身から火花を噴いた。
弾かれた彼の体が地面を転がり、倒れ伏す。
ダメージが許容量を超えたか、ディケイドアーマーが消えていく。
通常形態に戻ったジオウが、何とか体を起こし―――
「どうすんの? ディケイドの力がないと、ここから出れないけど」
「―――――」
横合いから彼に話しかけてくる、自分の声を聞いた。
恐る恐る、結果の分かった相手の正体を確かめる。
頭を上げたジオウの目の前にいるのは、彼に視線を合わせるために屈んだ常磐ソウゴ。
「お前、は……!」
ジオウの視線を受けながら、彼を覗き込むソウゴが笑う。
「俺は、お前だよ。俺の名前は常磐ソウゴ……鏡の中のね」
鏡の中のソウゴ、と名乗ったもう一人のソウゴが首を回し、フォウへと視線を向ける。
白い獣はただ二人のソウゴを見て、鳴く事もなく足を止めた。
さほど気にもせず、鏡のソウゴは小さく笑う。
「ああ……そうだ。あいつらを倒せて、それでここからも出れて。
それで更に、魔術王も倒せる方法。教えてあげよっか?」
「俺は、オーマジオウになんてならない……!」
囁く自分の声に耳を傾ける気はない、と。
ジオウは両腕で地面を押して、力任せに立ち上がる。
そんな彼の背中を見て、鏡のソウゴは笑った。
「また見捨てるんだ。タケルの時みたいに」
「――――――」
その言葉に、ソウゴの動きが凍る。
天空寺タケル。
死を切っ掛けに覚醒して、ムゲンの力に目覚めた英雄。
彼の力が無ければ、あの特異点での勝利はなかった、と確信できる程の仮面ライダー。
だが、彼がそうなった時、本当にそれしかなかったのだろうか。
彼を大切に想う人たちの前で、天空寺タケルは一度死んだ。
結果としてその魂は現世に戻り、新たな力に覚醒したが。
それでも、確かに、彼は一度死んでいた。
――――その時、自分は一体何をしていたのだろう。
「わざわざ白ウォズの足止めに付き合ったのは何で?
それがタケルに必要な事なんだろうな、って白ウォズの態度から何となくそんな気がして、何も考えずに見捨てたんだろ?」
「俺は、そんな……!」
自然と出た否定の言葉は、後が続かない。
だってその通りだから。
白ウォズを巻こう、何が何でも助けにいかなければ。そんな考えは、何処にもなかった。
タケルたちならきっと大丈夫。なら、俺はここでこうしていよう。
大丈夫だった? ああ、大丈夫だった。
―――それは、本当に大丈夫だったのか?
「今度は立香やマシュや所長も見捨てるんだ。
だって俺、ここにいたら助けにいけないもんね?」
鏡の中のソウゴがそう言って笑う。
「本当に不味いならきっと黒ウォズがどうにかしようとしてただろうし……
そんな感じはしてなかったから、多分大丈夫。でしょ?」
嘲るように笑う声。
それを、言葉で否定できなくて。
「―――――!」
ジオウが立ち上がり、そのままの勢いで鏡のソウゴに掴みかかろうとして。
―――自分とまったく同じ姿のものに、掴みかかっていた。
〈仮面ライダー! ジオウ!〉
ジオウが、鏡に映ったジオウに掴みかかり。
そうして彼らは顔を突き合わせて、正順の“ライダー”と逆転した“ライダー”。
鏡合わせの顔面を叩きつけ合った。
「―――黒ウォズとか白ウォズが同じように、立香たちに必要だけど死ぬかもしれない道を選ばせて、俺はただ見てるだけでいろ、って誘導したらそれに乗るんでしょ?
乗らない、って言いきれないから。俺はずっとそうやって考え込んでたんだもんね」
「違、う……! 違う! 俺は――――!」
力任せに押し込んでくるジオウ。
その勢いを逸らして、ミラージオウが彼の体を後ろへと受け流す。
頭から地面に叩きつけられ、地面に転がるジオウの姿。
そこでミラージオウが、ふらついているアナザーライダーたちに視線を向けた。
彼らはふらふらと、まるで何かを探すように首を巡らせている。
新しい命はここにある。連れてきた。
だが、それで生かすべきものが見当たらない。
それでは意味がない。価値がない。
彼が欲しいのはただの命ではなく―――大切な、唯一の、
「優衣…………」
「優衣…………!」
よろめきながら探し物を始めるアナザーライダー。
それは、たった一人の執念が起点。されど、それは最早特定の個人ではない。
この鏡の中の世界に焼き付いた、執念の残滓。
秘められた正体など、もうどこにも残っていない。
誰でもない誰か。それこそが、アナザーライダーと化したもの。
その背中を見送り、ミラージオウがジオウへと視線を戻す。
「みんなのために。世界のために。俺のために。
オーマジオウにはならない。なっちゃいけない。
だから、友達を助けるためにであっても、オーマジオウにはならない。
……それ、本当にオーマジオウになってないって言えるの?」
なりたくなかったのは、何のためだと自分が問う。
あんな世界を、あんな自分を認めたくなかったのは、何故だと。
言葉はない。返せない。
「――――――」
「オーマジオウになれば、少なくともここに来てるみんなは助けられるのに」
助けたいなら、オーマジオウになる道を選べばいい。
それで自分が救われなくても、認められない道であっても。
助けられるだけの力は手に入るのだから。
ミラージオウの声を受けつつ、ジオウが何とか立ち上がる。
彼が手の中にジカンギレードを呼び出せば、ミラージオウも既に剣を握っていた。
ジオウが顔を上げ、ミラージオウを睨む。
そんな彼からの視線に対して、鏡の中のソウゴは問いかける。
「……そもそも俺、立香の事とか本当に友達って思ってるの?」
「――――――!」
ジオウが踏み込めば、当然ミラージオウが応じる。
太刀筋も、力強さも、まったく同一。
であるが故に、心が揺れていない方が勝機を得る。
十度刃を打ち合わせて、剣を弾かれてその衝突が終わる。
即ち、圧倒するのはミラージオウ。
打ち伏せられるのが、ジオウ。
無手になったジオウを地面に叩きつけ、ミラージオウが息を吐く。
「分かってるんだろ? 立香は、オーマジオウになった俺の事だって受け入れるよ。
俺が、友達を見捨てでもなりたくないオーマジオウを、あいつは受け入れるんだ。
俺が絶対に否定しなくちゃいけないものを、あいつはきっと肯定する」
藤丸立香の精神性。
彼女は、誰が相手であってもフラットな自分であれるように心がけている。
気高い英雄が相手でも、悪辣な反英雄が相手でも。
確かな自分と、相手の本性とで関係を結べるように心がけている。
だからこそ。
最高最善を目指す常磐ソウゴと、最低最悪に辿り着いたオーマジオウ。
彼女にとって、そこに、境界などないのではないか。
「それ、友達って言えるのかな?」
オーマジオウと、オーマジオウを否定するソウゴに分け隔てがないのなら。
それは、常磐ソウゴが常磐ソウゴのままである意味があるのだろうか。
そして、仮にそれでも友達であったとして。
友達に否定されない末路を拒絶して、友達をここで見捨てるのであれば。
結局のところ、常磐ソウゴにそんなものは必要ないということだ。
「俺が守ってるのは世界でも、人間でも、友達でもなくて。
自分の大切なものだけは失いたくない、俺自身の事だけじゃない?
夢を無くしたくないからオーマジオウにはならない。
オーマジオウになれば友達は助けられるけど、なりたくないから自分の力を見ないフリ」
ミラージオウがギレードを放り捨て、這いつくばるジオウを見下ろす。
「俺のそれは、自分が変わる事に苦しんでるフリだ。
本当はただ目を背けて逃げてるだけ。
だって怖いんだもんね。また、独りで夢だけ見て歩くしかない事が」
アナザーリュウガが動く。アナザー龍騎が動く。
二人揃って、彼らが目指すのはフォウの許。
この周囲に探し物が発見できず、別の場所にまで移動するつもりだろう。
そのためにフォウを再び捕まえようと動き出し―――
鉛のように重くなった全身を酷使して、ジオウが走る。
背後に回り、二人に纏めて掴みかかり、ソウゴはその歩みを止めさせた。
「フォウ! 逃げろ!」
「――――――」
白い獣はそこから動かない。
ただ尻尾を揺らしながら、じいとジオウの事だけを見ている。
何故そうしているかは分からない。
だが、そうなっている以上は、これ以上アナザーライダーを前に進ませない。
二人を掴まえているジオウに、彼らが兜の奥から滲ませる声が届く。
「おいて、いかないで……」
「おれを、独りにしないで……」
「優衣……!」
―――小さな、小さな、しかし等身大の叫び。
たった一人の愛する家族を喪って、喪いたくないという慟哭。
嘘みたいな奇跡に縋る、純粋で強烈な願い。
ティアマト神より身近で、小さな叫びだったからこそ、ソウゴは歯を食い縛る。
彼女の叫びだって、ソウゴの心を揺らしていた。
門矢士はそれが分かっていたから、彼に叫んだ。
だからこそ。それでも、前に進んだ。
けど、それに比べて小さい声だからこそ―――心が、より大きく揺れる。
得てしまった。知ってしまった。
独りだったから、全員に等しく心を砕いていられたのに。
近しいものを得てしまったから、もうそんな自分じゃいられない。
でも、そんな自分ではいられなくても、そうでいなくちゃ。
自分で選んだ夢だ。自分で選んだ道だ。
ずっと、なりたかった王様だ。
「そんな我儘、通るはずがないって自分が一番分かってるでしょ。
オーマジオウになってでも友達を助けるか、友達を見捨ててオーマジオウにならないか。
要するにこの二つのうち、どっちを選ぶかってだけなのに。
友達を助けるなら、夢は棄てなくちゃ。夢を守るなら、友達は棄てなくちゃ。
友達は見捨てたくない。オーマジオウにもなりたくない。
じゃあここからどうするの?」
ミラージオウがジオウを見据える。
今にも振り解かれそうな状況で、しかし耐えて。
震えながら、ソウゴは喉の奥から声を振り絞った。
「―――友達を、助ける……!」
「ふぅん―――じゃあ、オーマジオウになるんだ」
鏡の中のソウゴが歩み出す。
彼は既に結論は出たとばかりに、ソウゴに向かって歩んでくる。
常磐ソウゴはオーマジオウだ。
彼という人間が己の道に結論を出せば、結果は何時でも訪れる。
だから、ここで彼はオーマジオウという結末に辿り着き―――
「いいや。俺は……オーマジオウにはならない……!」
しかし、そう断言したソウゴに、鏡のソウゴが足を止めた。
「………………じゃあどうするの。どうにもならない、って言ってるのに」
「お前が俺なら、分かってるだろ……!
今までの夢が、今の俺を縛るなら……俺は、今から夢のカタチを変える!
出来る筈だ! 今までの俺から、今の俺に変われたなら!!
変えられる筈だ! 今までの夢から、これからの新しい、最高最善の夢に!!
世界も、人も、友達も! 全部を守れる最高最善の王様になりたいって夢に!!」
彼が力を漲らせ、二体のアナザーライダーを引き戻す。
力任せに、執念だけを詰め込んだ風船のような怪物たちを。
そうして引き離した相手と、フォウとの間に割り込むジオウ。
再び敵だと判断し、二体の怪人がジオウへと目を留めた。
赤き龍と黒き龍。互いに反対の腕にある龍の頭部を、揃って振り被る。
収束していくドラゴンブレス。
発生した火球を放つ姿勢を見せる、アナザーライダー二人。
「俺はただ王様になるんじゃない……! 最高最善の王様になりたいんだ!!」
〈ゴースト!〉
〈カイガン! ゴースト!〉
腕が突き出され、それと同時に放たれる火球の嵐。
その熱に晒されながら、ゴーストアーマーが顔の前で腕を交差させる。
同時にパーカーゴーストが放たれる。
それが向かう先は、彼の背後にいたままのフォウの許。
白い獣を抱えたパーカーが、戦場から距離を離す。
耐え切れずに弾け飛ぶジオウの追加アーマー。
一緒に吹き飛ばされそうになりながらも、彼は必死に地面を踏み締めた。
「ならなきゃいけないから諦めないんじゃない……!
なりたいから! 諦められないんだ――――!!」
〈ドライブ!〉
〈ドライブ! ドライブ!〉
真紅の装甲、ドライブアーマーが加速する。
その速度を見た瞬間に、アナザー龍騎が腕を動かした。
〈ガードベント…!〉
彼の両肩に龍の胴体のような盾が装着される。
そのままアナザー龍騎はアナザーリュウガに背中を預け、縮こまる。
疾走から放たれる拳撃。更に射出されるタイヤの連撃。
それらを全て、アナザーリュウガが正面から受け止めた。
直後、彼の前に出現する無数の鏡。
そこに映し出される、ジオウがこの一瞬に行った全ての攻撃。
「っ……!」
全ての反撃が、同時に降り注ぐ。
振り切れず、自分の攻撃だったものの中に沈むドライブアーマー。
〈鎧武!〉
〈ソイヤッ! 鎧武!〉
「―――俺が願った事は、何も変わらない……!
ただそれを叶えるために抱いた夢を、これからもっと良いものに変えていく!!」
鎧武の顔が浮かぶ、巨大なオレンジ色の物体。
立ち昇る熱気を突き破りながら落ちてくるそれを頭から被り、変形させる。
即座にその腕に双剣を握ったジオウに襲う、二体のアナザー。
二体一。
挟み撃ちにされた状況から襲う、龍の尾を思わせる柳葉刀。
数度斬り合い―――打ち払われる、大橙丸Z。
手放した剣が彼方へと弾かれ、直後に鎧武アーマーもまた斬撃に打ちのめされる。
「こうやって泣き言を言って、悩んで……!
そんな自分の弱さを知ってるからこそ、俺は最高最善の未来が欲しい!」
〈ウィザード!〉
〈プリーズ! ウィザード!〉
炎を散らす魔法陣。
至近距離で現れたそれも、アナザーライダーには効果が薄い。
それどころか鏡が炎を逆流させ、ウィザードアーマーを焼いていく。
水流でその炎を相殺しながらジオウはそこで衝突を拮抗させ―――
〈シュートベント…!〉
アナザー龍騎の腕の龍。その口が、一際大きく開く。
先程の攻撃を遥かに上回る熱光線の予兆。
それを視認して、風を、土を、守りに回して結界を形成する。
―――直後に、爆炎。
雪崩れ込む炎と熱に、守りごとジオウが押し流された。
「……ッ、正しい事だけを知って、そこを歩くだけじゃない……!
俺は良い事も、悪い事も、全部この道の上にあるって知った上で……!
自分が信じる前に最高最善の未来のために、進める王様でありたい!」
〈フォーゼ!〉
〈3! 2! 1! フォーゼ!〉
飛来する白いロケット。
それが分解して、ジオウの各所へと装着されていく。
完成すると同時に、フォーゼアーマーが爆炎をその装甲に取り込んでいく。
吸収したエネルギーを推力に変え、彼が一気にブースターを噴射した。
炎の壁を突き破り、ブースターモジュールの先端がアナザー龍騎を打ち据えた。
蹈鞴を踏んで後退する赤い怪人。
即座にそれをフォローするためにこちらに回るアナザーリュウガ。
彼の動きに合わせて展開される無数の黒い炎弾。
フォーゼアーマーの炎熱吸収が限界を迎え、ブースターが火を噴いた。
「光も闇も、善も悪も、強さも弱さも――――!
全てをひっくるめて持っているのが、俺たち人間なんだ!
そんな中で、最高最善の未来に進める王であるために!」
〈オーズ!〉
〈タカ! トラ! バッタ! オーズ!〉
フォーゼアーマーを切り離して着地したジオウ。
その体を覆う、赤いタカ、黄色いトラ、緑のバッタ。
ブレスターにそれらの名前を浮かべ、彼はオーズアーマーへと換装した。
アナザーリュウガが突き出す剣。それをトラクローZで絡め捕り、奪い取る。
目の前で黒い体がよろめいて、隙を晒した。
それを見て流れるようにバッタの脚力で飛び、全力を懸けて蹴り飛ばす。
相手を蹴り飛ばした瞬間、すぐさま反射鏡が同じ威力の蹴りを跳ね返してきた。
全力を込めた自分の蹴撃で弾かれるジオウ。
彼からオーズアーマーが剥がれ落ちていく。
―――弾け合うように転がって、先に起き上がるのはジオウ。
〈ダブル!〉
〈サイクロン! ジョーカー! ダブル!〉
「俺は弱いから……! 心を乱すし、怖がるし、足も止める……!
そうなっても、この道を選んで進み続けられた俺の中の強さを……!
俺の中にある弱さが、誇りに想っていられるように!!」
二色のメモリドロイドが上半身を覆うように装備される。
そうしてダブルアーマーを纏ったジオウが、迫りくるアナザー龍騎に向き直った。
振るわれる龍尾の剣。
それに合わせて振り抜く拳が、その剣を半ばから叩き折る。
「全部抱えたまま前に進む!
最低最悪の俺も、弱くて折れそうな俺も、全部抱えたままに!!」
「……それで? オーマジオウにならずにどうやってみんなを助けるの」
ミラージオウの言葉に、ジオウが足を止めた。
その瞬間に、アナザーライダーが同時に腕の龍を突き出してみせる。
荒ぶる炎と熱が押し寄せて、ダブルアーマーを呑み込んだ。
風の結界でそれを防ぎ―――しかし、耐え切れずにアーマーが弾け飛ぶ。
周囲を火の海に変えられて。
それでも、ジオウはそこで拳を固めた。
「この答えが正しいか、間違ってるか。そんな事、俺には分からない……!
それでも、俺の願いは変わらない……! 正しいかどうかじゃなくて、俺は俺の願いが作る世界を信じたから、いまここにいるんだから――――!!」
―――鼓動のような、力の発露。
その気配を察知して、二人のアナザーライダーが戦慄する。
彼らという執念を挫く者。彼らという怨念にけして折れぬ者。
そんな、天敵の襲来を垣間見て。怪物たちが、恐れるように慄いた。
相手のその態度を見て、ジオウが思い切り腕を突き出す。
そこに灯り、浮かび上がってくる一つのライドウォッチ。
形成されていく新たな歴史の力を見ながら、ミラージオウが吐き捨てる。
「……信じられるわけないだろ? だって俺は―――」
「けど信じられるはずだ―――! だって、お前は俺なんだから……!
お前の言ったことは、全部俺が思ってた事だ……!
けど―――今言ったことだって、全部俺が思ってた事だ!
信じられるわけないって気持ちも、信じたいって気持ちも、俺の中には両方ある!」
何一つ、鏡の中のソウゴの言葉に嘘はない。
彼がそう思った事は否定できない事実。
それでも、と。常磐ソウゴはもう一人の自分に吼え立てた。
前のめりになって叫ぶソウゴに、鏡のソウゴの方こそが一歩後退る。
「過去の俺が積み上げてきたものを信じろよ!
―――未来の自分は、最高最善の未来に辿り着けるって信じろよ!!」
過去に積み重ねた全てが、現在の自分を作った。
ならば、過去と現在を更に積み上げ続けて未来に至った時。
自分の夢は、きっと願いに手が届くはずだと。
そのために自分は、戦い続けることができるはずなのだ、と。
「世界を全部よくしたい! みんなに幸せでいて欲しい……!
そんな世界でいてほしいから、俺は王様になる事を夢に見たんだ!
だから、これまでの夢で俺の願いを叶えるに足りないなら……!
それを叶えられるものを夢に見る!
俺は……この願いの重さに耐えられる、最高最善の魔王になってみせる――――!!!」
「―――――」
ただの王様では足りない、というのなら。
最高最善の王でも、最低最悪の魔王でも駄目だと言うのなら。
全て纏めて、最高最善の魔王になってみせる。
―――もし、それでダメだったのなら更に前へと。
常磐ソウゴの意志が尽きない限り、その夢に果てはない。
世界をよくするという願いを叶え続けるために、彼の旅路には常に夢が立ちはだかり続ける。
けどそれでいい。それを望んだのは自分だ。
迷うことはある。悲しむこともある。今のように苦しむことも、まだあるだろう。
だったら。
その都度、自分と夢を変えていくしかない。
願いは一つだ。それを見失わない限り、辿り着くべき場所は変わらない。
そうして戦う事は怖い。怖いに決まっている。
最低最悪の未来に進むかもしれない未来が怖いから―――最高最善の未来のために戦える。
「俺は世界を救える王様になるためにライダーになったんだ……!
だったら―――選ぶ事なんてせず、みんなを助けられる事を夢見たっていい!!」
〈龍騎!〉
ライドウォッチを握り締めるジオウ。
その瞬間、世界に罅が走っていく。鏡が割れるように終わり始める世界。
二人のアナザーライダーがその事実に喘ぐ。
「優衣……!」
―――ミラージオウの変身が解けていく。
その仮面の下に隠していた顔が、苦渋に滲む。
だが彼はそこで、体から力を抜いた。
砕けていく世界の中で、鏡の中のソウゴは光に消えて。
―――比較の獣が、尾をゆるりと振るう。
彼の有するその天秤は傾かない。
善いものも。悪しきものも。
両方抱えて持って行かれてしまっては、そこに置き去りにされるものがない。
みんなで手を携えてゴールイン、という話ではないけれど。
全部一つにされてしまっては、較べるものがどこにもなくなってしまう。
溶け合ったというわけではない。
一つでも欠けたらいけない、数え切れない歯車と燃料で出来たもの。
願いを目指して走る、夢の車輪。
醜いものと、美しいもの。
醜いものが醜いから、美しいものは美しいのだろうか。
美しいものが輝いているから、輝かないものは醜いのだろうか。
美しいに越したことはない。
でも、美しいだけでは人間ではいられない。
それが分かっているから、彼は人間を避けているのだし。
『美しいものに触れてきなさい』、と。
かつて魔術師は彼にそう言った。
まあ、それくらいしかないのだろう。
だって、醜いものを捨ててしまったら人間ではない。
無垢で綺麗なままなだけであるのなら、人間である必要もない。
そんなろくでもないものを抱えたままで。
それでも、目が眩むほどに美しいものを生み出せるのが、人間なのだから。
醜い姿になりたくない、と。
そう思っていた、醜いものを喰らい成長する獣。
醜い姿を越えていきたい、と。
美しい想いを支えにして、比類なき夢を抱く少年。
負けたくない、と。稚気を出してもいいけれど。
そうなった時点で、“比較”の理が打ち倒されているもの同然だ。
それは彼を育てるものであって、彼が抱くべきものじゃないのだから。
―――では、彼は見送ろう。
よくある醜さと、目も眩む美しさを比翼にして、進もうとする人間を。
彼は天秤の上にいる。
彼が乗った皿の反対側には、醜いものが自然と降り積もっていく。
徐々に上がり続ける彼が載った皿が頂点に達した時、彼は姿を変えてしまう。
防ぐ方法はただひとつ。向こうの皿に、何も載せないこと。
……けれど、彼だって夢のひとつくらい見ていよう。
彼が乗った皿に、反対側にある醜いものと同じだけの美しいものを積み込めたなら。
もしかしたら、そんな事にはならないのかもしれない、と。
そんなこと、あるわけないのだけれど。
―――だから、ということにして。
醜いものを積み上げて出来上がる獣は。
醜いものと美しいものを翼にして飛び立つ夢を、見上げていよう。
いつか、多くの醜さに負けない美しさで、この人間社会が満たされると信じて。
あの男は『触れてきなさい』、と言っていた。
なら、最後に。
全てを懸けて、背中の一つも押して上げなければ。
キミたちは、醜いものを睨むボクの目を眩ませるほどに、とても美しいものだった。
これからもどうか頑張って、と。
・アナザー龍騎&アナザーリュウガ。
アナザー龍騎は「鏡に映ったアナザーウォッチ」、アナザーリュウガは「外から放り込まれたアナザーウォッチ」によって誕生したアナザーライダー。
契約者は鏡の中の世界にこびりついた誰でもない誰かの執念に過ぎず、一つだけ遺された行動理念に沿っているだけ。彼が求める事は一つだけ。隣に愛する家族がいてくれる事だけ。
―――果たして、その願いは正しく果たされた。戦いの果てに、誰かの幸福を願いながら兄妹は完結した。本人にとってはそれで幸福な結末だったのだろう。だが、幾度となく繰り返し、鏡の中に刻まれた彼の執念にその結末は訪れなかった。本人と愛する妹は光の中に向かったのかもしれないが、彼の慟哭はその世界に独り置き去りにされたままだった。
悲劇の少女とそれを見守る
それ以外に、彼が孤独から解放される手段は存在しないのだから。
ふりかえり。
七章。
アナザーディケイド出す気なかった気がするが出てますね。
何でだかよく分かんないですけど、まあ纏まったしいいでしょう。
スウォルツこのままずっとギンガなんですかね。
私には分かりません。
酷使されるグガランナ。
色々と思うところのあるギルガメッシュもこれには憐れみの視線。
天草、小太郎、巴御前、茨木童子を出して行く。
出してみて思ったのは、この章ボス戦しかねえから活躍の場が用意できねえ。
ということ。
結果として11体のベル・ラフムをサーヴァント用の中ボスに。
大物と乱戦をさせる上で一番悩むのは火力が薄いタイプの立ち位置。
小太郎とか撹乱ばっかでまともに攻撃しとらんじゃないか。
剣豪で活躍させねば……あそこは敵が不死身じゃないか……
―――オメェの出番だぞ、リンボ!
ふと思いついて遊びでサブタイトルをディケイド本編のサブタイトルっぽく並べてみた結果、話数が縛られて分割できなくなるという。
ティアマト戦とか絶対にジャンボフォーメーション登場辺りが切りどころだったと思う。
そこで区切っても結局後半は長いのだが。
アナザーディケイドに選択したのはティアマト。
モチーフは仮面ライダーディケイド激情態。
原初より命のある世界を開闢し、始まった世界を先へと継続するために棄てられたもの。
世界の終焉を防ぐため、全てを破壊し己が最後に破壊される事で世界を継続させたもの。
ただ、全てを破壊するという行為の先に。
彼女は、自分に全てを繋ぎ止めようとして。
彼らは、全てが繋がっている事を歩いてきた旅路の中に見出した。
決着は、彼女に永眠を与えることで果たされた。
彼女が天地となり生命を生み出したことに変わりはなく。
全ての生命の母である、という事実は確かにこの地上に残った。
それはもう、二度と失われない。
遠い昔から続いてきた、この星の上に積み上げられてきた、原初の繋がりとして。