Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

242 / 245
 
2話同時投稿
2/2


3-4 王たちの慟哭1968

 

 

 

 ―――水晶と剣の入り混じる景色を駆け抜ける。

 妨害とかそう言ったものは一切ない。

 城に辿り着く事を邪魔しよう、という意志はまったく感じない直進。

 やがて城門にまで辿り着き、しかしそこまで来ても何の反応もない。

 

「大丈夫そう、ね」

 

『それにしても、いいのかい? 聞いた限りでは、ファースト・レディの方にも警戒を払うべきだとボクは思う。スカサハに協力を頼んだ方が良かったんじゃないかい?』

 

 心配そうなロマニの声。

 それは確かにそうなのだが、と揃って顔を見合わせる。

 

「でもいま最優先なのはイリヤの友達を助ける事だし、仕方ないと思う」

 

 スカサハの言い分を聞く限りでは、どうやらこの固有結界の術者であるファースト・レディ自身も、何か大きな問題を抱えていそう、という印象だ。

 最大の問題はチョコレートの中の亡霊。これは変わらないが、次いで問題なのは名を奪うお菓子の魔法少女ではなく、ファースト・レディなのではなかろうか。

 

 そう理解している彼らはしかし、レディの城に乗り込む事を良しとした。

 

「多分、スカサハも自分のやるべき事はそっちじゃないって思ったんじゃない?

 だったらなおさら、俺たちが急いでやりたい事をやるべきだと思う」

 

「やりたい事、ですか?」

 

 転身を解いて、小学校の制服のまま歩いていたイリヤ。

 彼女がソウゴの言葉に足を止め、不思議そうに彼を見上げた。

 その視線を受けて、ソウゴは周囲を見回す。

 

 水晶と剣に鎖された国。

 元がどうだったのかは最早分からない、が。

 そこから感じる今のレディの心は―――

 

「正直、情報が足りてないと思うんだけど」

 

 溜め息混じりにツクヨミがソウゴを見据える。

 

「でも、ここがファースト・レディの世界だって分かってれば十分理由になるんじゃないかな」

 

 この世界にいる、という事はレディの心の中にいるということだ。

 そこから感じ入るものは、恐らくここにいる全員が共有できている。

 カルデアから見ているだけの自分でさえそうだ、とマシュが言う。

 

『……この世界は、どこか物悲しい。それはつまり、ファースト・レディという方の心象が悲しみを描いている、という事なのは恐らく間違いないのでしょう』

 

 イリヤもまた自分の周囲の光景を見渡した。

 乱雑に水晶と剣が生え散らかした大地。

 それはどこか、どうしようもない事態にぶつかって暴れたかのような無茶苦茶さで。

 

「……それは分かるけど。ファースト・レディを説得して、スカサハの言っていた怨念を排除して、この世界を平和にするのが目的……でいいのかしら」

 

 聖杯、という第一目標を設定できた今までとは違う。

 何をして解決するか、という部分もきっちりと決めて動かなければいけない。

 彼女の提案に対して、揃って首を傾げる。

 

『現時点での情報から言えば、それを達成できればこの世界は通常の時間軸から再び完全に離れ、交わる事もなくこちらで特異点の消失を観測できるはずだ。

 スカサハが言うには、放置しても消滅はするだろうという話だけど―――』

 

「それはやだ」

 

 立香が挟んだ口に苦笑して、ロマニもすぐに話を戻す。

 

『まあ、そうだよね。なら、もうファースト・レディの居城に乗り込むしかないだろう。

 だとしたら、結局重要なのはレディという魔法少女の精神状態だ。他の事は考えず、まずはそこを解決する事を考えよう』

 

 スカサハから何を聞いても、結局必要になるのはレディの心だ。

 この固有結界は彼女の心象風景。

 世界から感じる、この言いようのない物哀しさはつまり―――

 

「…………」

 

「どうかしましたか、イリヤさん?」

 

 周囲を見回していたイリヤに声をかけるルビー。

 問われた彼女は何とも言いづらいという顔で、己の相棒を見上げた。

 

「ううん、なんだかよく分かってないけど、レディさんはとにかくいま辛い思いをしてるって事なんだよね。それがどうしてなのか聞いて、解決できるように努力する。それがいま、わたしたちにできる事なんだ」

 

「うんうん。私も嬉しいですよ、イリヤさんが魔法少女らしい使命に目覚めてくれて。

 イリヤさんの言う通り、どこかの誰かが抱えた辛い気持ちを魔法のパワーで問答無用にスカッと力尽くで吹き飛ばして解決するのは、魔法少女の専売特許ですからねー!」

 

「そんな事言ってないから」

 

 勝手に話を変な方向に持って行こうとするステッキを軽く叩く。

 彼女はそのまま悩むような顔で、しかし決然と歩を進める。

 

 ―――水晶の城に踏み込み、まっすぐ突き進んだ先。

 

 そうして到着する大広間。

 その中心にぽつんと置いてあるのは、城と同じように水晶でできた豪奢な椅子。

 

「クロ!?」 

 

 そこに膝を抱えて蹲る少女を見て、イリヤが叫んだ。

 パッと見て違うのは肌の色。

 髪型や服装が違うだけで、イリヤと瓜二つの少女を見つけ、皆で足を止める。

 

 名前を呼ばれたからか、座っていたクロはゆっくりと顔を上げた。

 イリヤとクロがゆっくりと視線を交錯させる。

 が、それ以上の反応を示さない相手にイリヤが眉を顰めた。

 

 彼女たちの様子を訝しみながら、イリヤの背中に問いかけるツクヨミ。

 

「あの子がクロ?」

 

「あ、はい! ―――ねえクロ、大丈夫? ミユは? 一緒にいるんだよね。

 あとファースト・レディさん、って人に話を訊きたいんだけど……」

 

 間違いないという風に頷いて、クロに対して歩み寄るイリヤ。

 しかし相手はぼんやりと自分を見つめ返すばかり。

 そんな様子を前にしてイリヤは不審そうに首を傾げ―――

 

「近づいてはいけません、イリヤ様!」

 

「え?」

 

 イリヤが足を止め、声がした方向を見る。

 

 それは、彼女にとっても聞き慣れた声。

 自分の相棒である魔法のステッキ、マジカルルビー。

 その姉妹機にして、彼女の友人である美遊・エーデルフェルトの相棒。

 マジカルサファイアのものに相違なく。

 

 振り向いた彼女の視線に先には、黒々とした魔力に染まったリボンらしき何かに縛られた、一人の少女とマジカルサファイア。

 魔力を搾り取られて青い顔で小さく苦悶の声を漏らす少女が、美遊・エーデルフェルトに間違いないという事実。イリヤスフィールはそれを、数秒をかけて理解する。

 

「―――ミユ!?」

 

 ―――そのために必要とした、彼女の数秒の自失。

 

 そんな時間の隙間に、クロは椅子の上に立ち上がり、その手に黒塗りの弓を構えていた。

 番えられるのは螺旋の刃。それが矢へと変じていき―――

 

「イリヤさん!!」

 

『魔力波形、観測しました! これは……冬木のアーチャーと―――!』

 

 外部からの声など気にもかけず、クロが早々に指を放す。

 庇うように動いたルビーの防壁では、それが止められないと分かり切っている。

 ルビー単独どころか、転身した上でも魔力障壁を易々と貫通するだろう。

 

 突然、何の感情も見せずそんなものを向けてきた半身に対し、少女は動けない。

 既に放たれている光を曳き襲い来る螺旋の矢を前に、ただ茫然として。

 

「変身!」

 

〈仮面ライダー!〉〈ライダー!〉

〈ジオウ!〉〈ジオウ!〉

 

 背後から飛んできた二重に重なる“ライダー”の文字が、正面から矢に激突した。

 それでも直進を止めない矢に押し返され、文字が返ってくる。

 と、同時にそれは全て、姿を変えたソウゴの頭部へとはめ込まれていく。

 進化したジオウ、ジオウⅡの顔面にインジケーションアイⅡが輝く。

 

〈〈ジオウⅡ!!〉〉

 

 イリヤの前へと既に踏み出しているジオウⅡの手の中に、ジオウと同じ顔を持つ剣が浮かぶ。

 呼び出された時冠王剣を握ると同時、彼は即座にその剣の特殊攻撃発動装置を動かした。

 サイキョーハンドルを上げ、ギレードキャリバーの表示を“ジオウサイキョウ”へ。

 

〈ジオウサイキョー!!〉

 

 それにより臨界したエネルギーを刃に乗せて、減速してもなお直進してくる螺旋の矢へ向けて、ジオウⅡはその剣を思い切り振り抜いた。

 

〈覇王斬り!!〉

 

 時計の針が回るように、時冠王剣の刃が弧を描く。

 魔王の力が螺旋の矢の貫通力を正面から切り伏せて、粉砕する。

 残骸も残さず、カタチが崩れた時点で消滅していくクロの放った矢。

 

 そうして背後に庇われた少女が、思わず声を上げた。

 

「こ、今度は体じゃなくて顔に文字が!?」

 

「命の危機の直後にまずツッコミ! 私イリヤさんのそういうところ好きですよー!

 そのままのイリヤさんでいてください!」

 

 自分の手の中でぴょこぴょこと羽飾りを動かすルビー。

 そんなつもりじゃなかった、と。イリヤは少し頬を引き攣らせた。

 

「あ、すみません!? 別にそんなつもりじゃ!」

 

 言い訳をするように振り返るイリヤ。

 が、そこには既に誰もいない。

 イリヤより前に出たソウゴだけではなく、立香もツクヨミも。

 

「え!?」

 

「お二人とも美遊さんとサファイアちゃんの方に行きましたよ。

 イリヤさんもすぐに転身しましょう」

 

 ふらふらと視線を彷徨わせる彼女がそう言われ、すぐに美遊の方を見る。

 すると立香とツクヨミは揃って、そちらの方に疾走中だった。

 美遊を救助しに向かい走っていく二人。

 

 自分も美遊を助けに行くべき。

 浮かんだその考えがしかし、目の前に立つ自分の半身の存在で揺らぐ。

 

「クロ、一体何を……!」

 

 彼女の憤りに対して、黒の少女は反応を見せない。

 ただ無表情のまま顔を動かして、走り去った二人を視界に収めている。

 

「……イリヤも先にあっちの子助けに行った方がいいんじゃない?」

 

 その態度を見つつ、剣を握り直してジオウⅡがゆるりと構えた。

 彼の目の前ではクロがジオウⅡなど気にもせず美遊へと迫る二人を見ている。

 そこで彼女の手の中に浮かび上がる、それぞれ白と黒の二振りの短剣。

 

 見覚えのある剣だ。そして、見覚えのある矢だった。

 ならば、何となく相手の戦闘能力は予想できる。

 

 ―――ジオウⅡのドライバーで、金色のウォッチが輝いた。

 同時に頭部のアンテナ、プレセデンスブレードが回転する。

 これから先の時間で行われる相手の行動を、ジオウⅡの戦闘システムが全て拾い上げた。

 

 一瞬身を屈め、跳ねるようにクロが双剣を揃って投擲する。

 立香とツクヨミを狙ったそれに対し、即座に投げ放たれるサイキョーギレード。

 ジオウⅡが投げたその一刀は、双剣を纏めて叩き落とせる軌道。

 

 だが武器を投げ放つ事で初撃に対応したジオウⅡを見た直後。

 クロの姿が、立っていた椅子の上から消失した。

 

「―――二人とも避けて!!」 

 

 それを転移の魔術だと知る少女が、即座に叫ぶ。

 だがイリヤの声が届く前に、クロの姿は既に疾走する二人の頭上にあった。

 投擲した筈の黒白の双剣もいつの間にか、再びその手に握られている。

 

 彼女はその勢いのまま二人を斬り捨てんと落下しつつ剣を振り抜いて―――

 

〈ウィザード! ギリギリスラッシュ!〉

 

 空間を繋ぎ、ジカンギレードの刀身だけがクロの振り抜いた剣の前に現れる。

 立香に向けられていた刃が、同じく刃と打ち合って火花を散らした。

 弾き返され、床に降り立ちながら、そこで初めてクロは表情を変化させる。

 

 歩きながら彼女の前へと立ちはだかるジオウⅡ。

 その背後で、美遊へと辿り着いた二人を見てクロは眉を吊り上げた。

 

「クロ……! 一体何するの、なんでミユにあんなこと……!」

 

 なぜこんなことをするのか信じられない、と。

 酷く動揺した少女が魔法少女として変わる事もなく、己の半身へと疑問を投げる。

 だがクロからの反応は一切ない。

 

「イリヤさん、恐らく彼女はファースト・レディです。

 クロさんは乗っ取られているだけかと」

 

 契約者の近くを舞いながら、ルビーがそう言って相手の様子を伺う。

 クロエの顔に一瞬だけ浮かぶ、酷く歪んだ顔。

 それを見て確信を得て、イリヤがすぐにファースト・レディに問いかけた。

 

「ファースト・レディって……! じゃあ、その、わたしはよく知らない人だから、こういう風にいきなり言うのは、ちょっとあれだと思うけど……!

 あなたはこの世界で魔法少女を保護してた人じゃないんですか!? なんでこんな事を!」

 

「黙りなさい」

 

 イリヤが聞き慣れたクロの声の上に、誰か別の声が覆い被さる。

 二重になった声を耳にして、彼女はきつく表情を引き締めた。

 そんな少女をちらりと見つつ、相手に向き直るジオウⅡ。

 

「いいよ、あんたがそう言うなら黙ってる。あんたの言う通り俺たちは黙ってるから、あんたの世界がいまどうなってるか話してよ。

 俺たちだって、なんでこんな事になってるかよく分からないから、一番状況が分かってそうなあんたに、いまここがどうなってるかを訊きにきたんだし」

 

 ジカンギレードを一振りして、コネクトの魔法でサイキョーギレードを回収。

 双剣として握り締めたジオウⅡが、クロ―――ファースト・レディを見据えた。

 クロエの瞳に、レディが放つ菫色の魔力が迸る。

 

「黙りなさい……ッ!」

 

「あんたが話してる間は黙るってば」

 

 少女の姿がその場から掻き消えた。ノーモーションで発動する転移魔術。

 

 だがジオウⅡはそれに一切動じる事もない。

 金色のウォッチがドライバーで輝き、彼はレディの出現位置を未来を視て確かめる。

 更にウィザードの魔力がジオウⅡの転移をも可能としている。

 ならば追いつけない筈がない。

 

 ファースト・レディが転移を終えた瞬間には、ジオウⅡもまたそこにいる。

 レディが狙うのは変わらず、美遊の許に辿り着いた立香とツクヨミ。

 だがジオウⅡはそれに追いつき、阻んでみせる。

 

 その事実に対して歯を食い縛り、レディは手にした剣を振るう。

 陰陽剣、干将・莫耶。対して振るわれるのは、ジカンギレードとサイキョーギレード。

 正面から切り込んでくる少女に対し、ジオウⅡはその刃を防ぐ事だけに注力した。

 

 二組の刃が何度かぶつかりあい、攻め切れずに弾かれるレディ。

 弾かれた彼女は、床に双剣を突き立て強引に減速しながら、ジオウⅡを睨む。

 

「邪魔を、しないで―――!」

 

 魔力の入り混じる、物理的な衝撃さえ生じる視線。

 それを正面から受け止めながら、ジオウⅡがゆるりと剣を下げた。

 

 どのような動きでそれを越えるかを思考する。

 ジオウⅡを相手にする意味はない。

 ただ、美遊を逃がすわけにはいかない。もうそれだけだ。

 

 ―――答えを求めた結果はすぐに出た。

 どのような方法を取ろうとも、どんな状態からでも確実に追いつかれる。

 そんな“答え”を得て、レディが唇を噛み締めた。

 

 思考のために足を止めたレディに対し、ジオウⅡが問いかける。

 

「……邪魔されたくないのはこの世界を護る為? だったら嘘でも何でも自分の事情を話して、俺たちを利用するくらいしたら? 俺たちをここでどうにかしたって、もうこれってあんたが一人で解決できる程度の問題じゃないんでしょ?」

 

 ソウゴの言葉にファースト・レディが顔を歪める。

 解決できるような問題なら、彼女はここでこうしている筈もない。

 その事実に感情が煮え滾って、憎悪を以て相手を睨む。

 

 そんな様子を見て、ルビーを手にしながらイリヤスフィールがぎょっとした。

 

「ちょ!? なんで挑発するんですか!?」

 

「うーん。本気で守りたくて、一人じゃどうにもならない。

 だったら、俺たちの事も利用すればいいんじゃない? ……って、挑発かな?」

 

「完全に挑発だよ!?」

 

 ソウゴの声に酷く表情を歪めていたレディが、不意にその表情を消した。

 そのまま双剣を放り捨て、両腕を大きく掲げる。

 

「あなたたちに出来る事なんて、ない。私は、私に出来る事をしてるだけ……ッ!」

 

 震える声で告げられる、ファースト・レディの言葉。

 その行動に対応できるように構えながら、ジオウⅡが言葉を返す。

 

「そう? 少なくともあんたにとっては、あんたが自分で俺たちと戦うよりは、俺たちをお菓子の国の魔法少女と戦わせるように誘導したりした方がいいと思うんだけど。

 あんたの世界を侵略してる元凶の一人、なんだよね?」

 

 その言葉を聞いたレディの顔が、酷くショックを受けたように強張った。

 一瞬だけ硬直して、しかしすぐに震え始める。

 震えている彼女が睨むようにジオウⅡを見据え―――

 

「まだ……また、繰り返せって言うの……! せめてみんなに必要とされたかった私たちの願いは、ここまで踏み躙られなきゃいけないものだったっていうの……!?」

 

 しかしその顔は、泣き顔にしか見えなくて。

 この世界を満たしていた物悲しさが、彼女の心だとたった一目で心から理解できた。

 どういう気持ちなのか分からなくても、その悲しみがレディの本心だと。

 

「レディ、さん……?」

 

 驚いて目を見開き、彼女に問いかけるように名を呼ぶイリヤ。

 レディの反応にジオウⅡは僅かに顎を引いて―――

 

「く、ぁああ……ッ!」

 

「ミユ!?」

 

 次の瞬間、縛られたままの美遊の悲鳴が場内に響く。

 絡みつくリボンを通じ、魔力を吸い取られているのだろうか。

 

 辿り着いていた立香が彼女を解放すべく、少女に絡んだリボンに手を伸ばす。

 が、同じく縛られていたサファイアがすぐにその動きを止めさせた。

 

「いけません! これは魔力を吸収する特殊な礼装です、不用意に触れれば美遊様と同じように縛られます!」

 

「だったら!」

 

 すぐさま立香を押し退けて、ツクヨミが前に出た。

 彼女が握るファイズフォンXが連続で光弾を吐き出し、美遊を縛るリボンを撃つ。

 しかし破壊する事は叶わず、彼女が唇を噛み締める。

 

 そうしている内にも、魔力はレディの許へと集まっていく。

 その魔力が形成していくのは、剣。

 水晶の城が震撼し、周囲の至る所から刃が突き出してくる。

 同時にレディの手の中に顕れ始める、黄金の輝き。

 

「―――私に、私はまた……! 私はまだ、切り捨てなきゃいけないの!? じゃあ何のために私はここにいるの!? もう私には失う名前すら残ってない……! もう私に行き場所なんて残ってない……! もう私には、魔法少女たちを救い続ける事しか残ってないのに!!

 なのに……! なのにどうして!? 救わなきゃいけない魔法少女が、もう他にはどこにも残ってない! じゃあ私たちは、私は、一体誰に必要としてもらえるのよ――――ッ!!」

 

 少女が天へと伸ばした手の中に、黄金の光が溢れだす。

 その光。掲げられた聖剣を仰いで、その場にいる全ての人間が愕然とした。

 現れたのは、黄金の光に包まれた最強の幻想。星の聖剣。

 

『魔力反応、ほぼ一致しました……!

 間違いありません、あれはエクスカリバーです……ッ!』

 

 マシュに補足されるまでもない。一目で分かる。

 本来の持ち主が手にした時の輝きに比べればどこか劣る、という感覚は確かにある。

 だがそれが聖剣エクスカリバーである、という確信も同時にあった。

 

「ダメ押ししちゃったよ!?」

 

 半狂乱と言っていいレディを見て、ジオウⅡの後ろにいたイリヤが慌てた。

 だがそんな事をしている暇も惜しいと、彼女の手の中にルビーが滑り込む。

 

「イリヤさん、いいからとにかく転身を!

 今すぐ何としてでも美遊さんとサファイアちゃんを救出して離脱を……!」

 

「っ、美遊様の持っているセイバーのカードをどうにかして取ってください!

 それならあるいは……!」

 

「だめ、間に合わない……! イリヤ、あなたたちだけでも、」

 

 サファイアの声にしかし首を何とか横に振ってみせる美遊。

 彼女の所有するカードホルダーにもリボンは巻き付いている。

 この礼装をどうにかしない限り、セイバーのクラスカードは取り出せない。

 

 イリヤに逃げろ、と指示しようと美遊が彼女に向かって手を伸ばす。

 しかしすぐにその手を握り、立香は自分の方へと引き寄せた。

 目を白黒させて、美遊が立香を見上げる。

 

「―――大丈夫」

 

 そう少女に語り掛けて、同時に立香は前に立つジオウⅡの背中を見る。

 彼女の視線を受けて小さく頷き、僅かに腰を落とすジオウⅡ。

 そちらは大丈夫だと判断して、立香が周囲を見回した。

 どうすれば美遊を助けられるか、と視線を巡らせて―――

 

 ふと気付いたように、ツクヨミの方が顔を上げる。

 リボンは全て、周囲の壁に繋がっている。

 恐らく美遊から吸収した魔力は城―――この固有結界に直接供給されるのだろう。

 そうして美遊を拘束しているのだ、と知って彼女は手を叩いた。

 

「いっそこのリボンが繋がってる周りの壁とか柱を壊せば何とかなるかも!」

 

「爆破解体! 魔法少女らしくなってきましたね!」

 

「どこが!?」

 

 変な事を言いだす自分の手の中のルビーに怒鳴るイリヤ。

 

 そんな少女たちのやり取りを背にしつつ、ジオウⅡがサイキョーギレードを床へ突き刺した。

 取り外されるギレードキャリバー。

 それをジカンギレードへと装填し、彼はそのまま双剣を一振りの大剣に合体させる。

 

〈サイキョー! フィニッシュタイム!〉

 

 目の前で立ち昇る聖剣の光。

 それに劣らぬエネルギーで形成される、“ジオウサイキョウ”の文字が描かれた光刃。

 光の剣を互いに構える状態になった中で、ソウゴが小さく呟いた。

 

「……状況はよく分かってない状態のままだけどさ。それでもまだ少なくとも一人、救わなきゃいけない魔法少女がここにいるって事は分かったんじゃない?」

 

 彼の背後で慌てていたイリヤがその声を聞き、小さく目を見開いてクロを見る。

 クロエ―――その中に宿る、ファースト・レディの心。

 

 慟哭する魔法少女と対面し、何と言うべきなのか、と。

 イリヤが言葉にならない声のために、口を何度か開閉して。

 それがしっかりと言葉として成立する前に、レディは手にした聖剣を振り抜いていた。

 

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”ァ――――――ッ!!」

 

〈キング!! ギリギリスラッシュ!!〉

 

 対峙するジオウⅡが時冠王剣を振り抜く。

 二つの光の刃が近距離で衝突し、その場に光と熱が溢れ出した。

 互いに激突した破壊の渦は二人のちょうど中心で爆発する。

 

 そうして。

 行き場を失った熱量は、レディの居城を蹂躙しながら外へと溢れていった。

 

 

 

 

 ファースト・レディの居城。

 その天蓋を突き破って黄金の光が溢れだす。

 天を衝く光の柱。

 

 それを見て、()は何かを思い出した。

 いや、思い出したのではない。

 思い出すような記憶は残っていない。

 何かを思い出すというような機能は働いていない。

 

 それでも、彼は確かにその光に突き動かされた。

 

 ああ、あれだ。あの光だ。

 忘れるものか。忘れるものか。

 何百年経とうが。何千年経とうが。

 命を赦さぬ地獄の炎に魂を焼かれようが。

 自分の名前と共に自我さえも奪われようが。

 

 この屈辱だけは、何があろうとも忘れない。

 

 王が王を降したのであればまだいい。

 だというのに、ただ。徹頭徹尾、ただ。

 あの()()は、誇り高き王を害獣としてしか見なかった。

 

 忘れるものか。

 許すものか。

 赦すものか。

 

 己の名も、他の何も、何一つ自分の中には残っていない。

 時代の灼く炎の中で生命として焼け落ちた。

 迷い込んだ名前を奪う森で残ったものは消え果てた。

 

 それでも。ああ、それでも。

 まだ、あの光への怨念だけは残っている。

 

 世界が滅びようが。己が滅びようが。

 忘れるものか。消えるものか。

 

 この屈辱を雪がず、何とする。

 己が何故そう名乗っていたかも覚えていない。自分が何だったのかなど分からない。

 だが、自分は王だ。

 

 そう―――――

 

「■■■■■■■■―――――――――――ッ!!!」

 

 ―――チョコレートの海が氾濫する。

 それを押し固めて造り上げられるのは、巨大な猪の姿。

 何故そんな姿なのか、その躯体を動かす意識だって理解できない。

 だが、そんな事はどうだっていい。

 

 ―――あの光を討ち滅ぼす。

 今度こそ、どちらが真に強き王であるかを知らしめるのだ。

 

 

 




 
 (チョ)コレート。
 魔女にならなかった女王と、魔猪になった王。

 このエピソードの原型はプリヤイベ+水着イベです。
 まあ水着キャラなんか出てこないんですけど。
 海がチョコになってしまってな…
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。