Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
その杭は絶えず、場所を選ばず出現し続ける。
ゆえに足を止めれば貫かれるのは必定。
相手にするというならば、足を止めることなく動き続けることを要求される戦いだ。
だからこそ、クー・フーリンにその戦いは有利でさえあった。
「ぬぅ……!」
その手の黒い槍を振るいつつも、ヴラド三世は全身からいつでも杭を放てる構え。
だというのに、彼の攻撃は青豹の如きランサーには届きもしない。
逆に、突風が吹き寄せるが如く激突しにくる朱槍を防ぐことに全力を注がねばならないほど。
死角には杭を発生させることで、速度での攪乱は通さない。
だというのにこの疾風は、正面から槍と杭で作る槍衾を潜り抜けてくる。
正面からの奇襲を成立させる技量と脚力。
それこそが、この目の前の英霊が紛れもないトップサーヴァントであると伝えてくるようだ。
今もまた、正面からの一撃をギリギリ凌ぐ。
幾度目かも分からない突撃を防がれ、距離を取るクー・フーリン。
それを確認すると、腸から生じた杭がバラバラと崩れていく。
「――――削りあい、にはならねえか」
一度足を止めた彼が、槍を肩にかけながら小さく呟く。
足を止めたからと言ってあそこに杭を発生させても意味はないだろう。
余りにも自然体にしか見えない体勢。
彼はあそこからどこにでも踏み込める、神速の槍使いだ。
「―――魔力であるならば余の方が勝ろう。聖杯からの供給は止まらん。
消費はこちらが上だろうが、供給がそれ以上にそちらを上回っている。
削りあいになれば、最終的に立っていることになるのは余だ」
「かもな。だがそうはならねえ。ま、お前のもなかなか面白い槍だったぜ」
槍の腹で肩をとんとんと叩きながら、クー・フーリンはヴラド三世にそう言った。
「――――ほう。余の槍を面白いと称するか」
「ああ。どこかしこからアホみたいに槍を取り出してくるのはウチの師匠もなんだが……
いやそっちはいいか……まあ、槍で自分の結界を作るってのは悪くない。
戦う場所こそを自分のテリトリーに変えちまうってのは面白いし、やり難い」
笑みさえ浮かべながらそう語る。
その彼を見ていたヴラド三世が、表情に怒りを滲ませた。
「ほう。殺しあう相手に上から賞賛とは恐れ入る。
随分と余裕があるらしい。余の槍ではよほど役者不足であったか」
「そう聞こえたか? まあ、否定はしないがな。テメェの槍じゃ言うまでもなく不足だ」
ギシリ、と空間が歪む。朱槍が魔力を食らい、その呪力を解き放った。
自然体を崩し、その槍を両手で構えるランサー。
「せっかくの
バーサーク・ランサー? ぬかせ、バーサーカー。
テメェの槍、宝具は根底が自分のテリトリーを守るためのもの。
根っから壊すための怪物になってるテメェの霊基が、真に揮えるものじゃねえだろ」
「―――――そうとも。余は吸血鬼、ドラキュラ。血を啜り、夜を支配する……」
「だったら槍も捨てちまえ。テメェのそれは人が人を守るために積み上げたもんだ。
化け物が持ってたところで、足を引っ張られるだけだろ」
ピクリと肩を震わせるヴラド三世。
そんな彼を気にすることもせず、クー・フーリンは体勢を大きく落とす。
必殺必中、因果逆転を起こす魔槍の構え。
ここが地獄であるかと見紛うような呪力が溢れ、渦巻く。
それは夜の支配者となったヴラド三世をして、必死を予感させる構え。
防御すること能わず。回避すること能わず。
一撃必殺を体現する呪槍の一突き。
間合いに跳び込まれれば必死。それを全身が理解する。
「この一撃、槍を持っただけの怪物に止められるなどと夢にも思うな」
地面から杭の生えた敵陣の中で、しかし既にこの戦場はクー・フーリンの勝利が見えていた。
駆動すれば即座に神速に達する彼の足が、間合いを測るようにゆっくりと動き出す。
「――――ッ!」
生える。突き出す。彼に攻撃が可能な全ての場所から杭が生じ、全てが差し向けられる。
数えきれぬ血の杭を、青い閃光となった槍兵が潜り抜ける。
杭の合間を潜り抜けるだけでは済まず、その杭を蹴りつけて加速さえもやってのける。
魔槍の放つ呪力は臨界。その穂先は、振るわれれば過たずに相手の心臓を穿つだろう。
「――――その心臓、貰い受ける」
必殺の宣誓が、神速の戦闘中であるというのにヴラドに耳に届いた。
瞬間、止め処ない怒りが彼の内側から溢れだしてくる。
許せぬ、と感じるのは何に対してだ。この身を討ち取ると宣言するその不遜さか?
そんなはずがあるものか。
その武芸を讃えはすれど、そこに悪感情を向ける余地はない。
ヴラドの腹から杭が噴出する。しかしクランの猛犬は捉われぬ。
対峙していてなお見惚れる、怒涛の如き杭をものともせぬ進撃。
「“
そうして、彼はその槍の射程にヴラドの姿を遂に捉えた。
逃れることも、迎撃することも叶わない。圧倒的なまでの速力。
最早ヴラド三世では、何をするにも間に合わぬ。
「否――――!」
その確信に、否と告げる。
杭では間に合わないとしても、その手にした槍ならば。
黒の槍が奔る。狙いは心臓を目掛けて放たれた槍の迎撃―――ではない。
逆に相手の心臓を目掛けて、彼は愛槍を突き出した。
「――――
朱い閃光が奔る。その軌道の先にあるのは、ヴラド三世の心臓。
ヴラド三世のあらゆる動作を置き去りに、その一撃は確実に彼の心臓を穿ち貫いた。
霊基が砕ける。
そこにかけられていた狂気が僅かに薄れ、正気が顔を出す。
―――彼が最期に放った槍を、しかしクー・フーリンは半身を引いて躱していた。
「……ああ、こうなるだろう。この身は槍の英雄に非ず、狂気の吸血鬼ゆえに。
槍を用いて槍の英雄に挑めば、討ち果たされるのが道理であった」
ぽつりと呟き、手にしていた槍を取り落すヴラド三世。
クー・フーリンが身を引き、彼の心臓を貫いた魔槍を引き抜いて戻す。
槍についた返り血が、魔力の光へと還元されていく。
「余の槍は―――血を啜るためのものではなく、国と民を守るために示した覚悟であった、か」
体が端から崩れ落ちていくヴラドの姿。
それを見送るクー・フーリンに対し、彼の目が向く。
「余の狂気が手間をかけさせた、槍の英雄」
「おう。悪く思うってなら、次にオレと戦う時はきっちりランサーになってくるんだな」
その言葉に目を瞑り、小さく笑うヴラド。
「生憎、今はこの有様でも槍を持てば護国の英雄だ。
世界を守るための戦いの最中にある貴様と再戦するような事態など、御免こうむる―――」
最期に笑いながらそう言葉を遺し、ヴラド三世の体は崩れて消え去った。
見送ったクー・フーリンは神妙な顔をして、その言葉に口角を吊り上げる。
世界を滅ぼすための勢力に参加など、二度とごめんだと言うヴラド。
そんな彼が消えた後に、クー・フーリンは小さく苦笑した。
「ま、そりゃそうだわな」
カーミラの杖が赤い光を湛えた瞬間、清姫は扇で口元を覆い隠しながら吐息した。
ごう、と燃え上がる火炎が迸り、カーミラを目掛けて殺到する。
しかし、その杖が振るわれると血色の刃が周囲を駆け巡り、拡がる炎を引き裂いた。
続いて、その残り火を蹴散らしながら清姫の元に聖母像が突っ込んでくる。
その拷問具による突撃に、むむ、と表情を顰めさせる清姫。
だがその聖母像を、翼を羽ばたかせながら横合いから竜の娘が襲撃する。
「邪魔ぁッ―――!」
振るわれる竜の尾。
回転しながら放たれたそれは、聖母像を横から殴打して吹き飛ばす。
その直後、清姫の口から再び巨大な炎が噴き出した。
狙われるカーミラが小さく舌打ち、横にステップして軌道を外れる。
「まったく。竜の娘たちが揃ってなんて……!」
「わたくしとそっちのを一緒にされても困りますね」
そう言って清姫が再び息を大きく吸い込んだ。
「それはこっちの台詞よ!」
次いで着地したエリザベートが、槍を大きく振りかぶった。
しかしその攻撃がカーミラを襲う前に、彼女は大きく手を振るう。
すると彼女の足元に大きな黒い穴が発生し、その中から聖母像が浮かび上がってきた。
振り下ろした槍は、その聖母像へと叩き付けられる。
槍は弾き返され、反動で痺れる手にエリザベートは小さく悲鳴をあげた。
「っ~! この、いい加減大人しくアタシの歌を聴きなさいよ!」
彼女が先に展開しようとした宝具、“
せっかくいい気分でのライブツアー開幕になるはずだったのに許すマジ。
そんなクレームを飛ばされたカーミラは、いやに平坦な声でエリザベートに言い返した。
「絶対に嫌よ。アナタ、音痴だもの」
「流石は未来の姿。自己理解は若い頃より出来ているようですね、清姫感心です」
「音痴!? そう、そう見えてしまうのね……
アタシの歌声がドラゴンの超音波であるがゆえに……ええ、いいわ! なら本当のアタシを魅せてあげる! アタシの歌声が物理的な破壊力を伴うがゆえのそんな先入観は捨てなさい! そうすれば、この歌声と歌詞に秘められた本当の美しさを理解できるはず!
エリザベート=バートリー……歌います!」
カーミラが仮面の下で眉を大きく吊り上げる。
一気に苛烈さが増す血の伯爵夫人の攻撃。
彼女が持つ杖が今までで一番大きな光を放ち、またも宝具の起動体勢に入ろうとしたエリザを、全力で吹き飛ばした。
音痴な歌だけならいざ知らず、目の前の音痴が自分の過去であるとまざまざと見せつける。
カーミラからすれば到底一度とて目にしたくない宝具だ。
「ああ、もう……鬱陶しい!」
「鬱陶しいのはどっちかしら。アイドル? 光り輝く存在になりたい? 何を馬鹿な事を。
私たちを形作るのは、私という悪逆なる存在への恐怖以外にないでしょうに」
「言ってるでしょ……アタシは、アンタなんかになりたくないのよ!」
カーミラの爪から放たれた血の刃。
それを槍で斬り払いながら、エリザベートは叫ぶ。
「ええ、もう好きに言ってればいい。確かに言うだけなら何を言ったっていい。
でもそもそも、その叫びは
「―――――ッ!」
「変われないのは仕方ないと諦められるのでしょうね。
でもね、エリザベート=バートリー。そもそも誰も聞いてないのよ、私たちの声は」
一瞬止まったエリザに追撃の血の刃が向かってきた。
彼女は何とか動き出し、それを翼で羽ばたき空へと逃れて回避する。
「罪の清算を他人に測ってもらう必要はない? 分かっているくせによく言える。
私たちは、罪の重さも必要な罰も、誰にも教えてもらえなかった。
私たちに与えられるのはただの孤独な牢獄だけ。
―――改めて聞かせてくれるかしら、私。
誰にも声が届かないその牢獄の中で、貴女は本当に歌い続けられるのかしら?」
「エリザベート、上です!」
空中で静止したエリザの上に、カーミラの発生させた黒い穴が開く。
彼女が回避行動に移る前に、その中からアイアンメイデンが落下してきた。
「くぁっ……!?」
巨大な鉄の塊に襲撃され、押し潰されるように落とされるエリザ。
床と聖母像に挟まれて、彼女の華奢な体が悲鳴をあげる。
即座に清姫が今まで以上の火炎をカーミラに噴き出す。
その攻撃の盾とすべく、すぐにカーミラの元へ呼び戻される聖母像。
体を震わせながらも、エリザはすぐに立ち上がった。
「っ……!」
「あら頑丈。伊達に竜の鱗はもってないわね。でも」
カーミラの杖が眩く輝き、清姫へと血の刃を連射する。
彼女もまた炎の息吹で対抗するが、相殺するまでにしか至らない。
その隙に、聖母像が自走でエリザベートを目掛けて加速した。
「エリザベート!」
「こんな、程度でっ……!」
翼を広げて退避しようとするエリザ。
が、まるで速度は出ない。まるで歩いているのと変わらない。
遂に飛行すらも維持できずに落下したところに、聖母像がその体を開いて迫っていた。
「あ……」
「ええ、ではその中で啼けるかどうか試してごらんなさいな。
――――
これも貴女がようく知っている、人を死ぬまで閉じ込める牢獄の一つなのだから。
さあ、
エリザベートにそれの回避は不可能だ。
アイアンメイデンが獲物を抱き込むための扉は、もう閉まり始めている。
立ち上がることさえ覚束ない今の彼女に、回避できるものではない。
つまり、彼女に生還の目があるとするならば―――
「まったく西洋トカゲはこれだから!」
「ちょっ……なにを……!」
体当たりじみた激突に、エリザベートの体が吹き飛ばされる。
そこにいるのは、清姫以外にはありえない。
吹き飛ばされたエリザの前で、カーミラの宝具範囲に取り残された清姫が嫌味そうに呟く。
「わたくし、ここをマスターから任されておりますので。
今あなたに死なれたら困るんですよ、エリザベート」
「なっ……!」
何よそれ、と怒鳴ろうとした。
その瞬間には、清姫の体はもうエリザの視界から消えていた。
高速で閉じられた鉄処女の扉。そこからもう声はしない。
聖母像の足元からは既に、夥しい大量の血液が溢れだしていた。
「――――あ」
「狙いとは違ったけれどまず一人。良かったわね、助けてもらえて」
尻もちをついているエリザベートに向かって、そう言いながら歩み寄る。
ファントムメイデンは清姫の血を絞りつくすまで時間がかかるだろう。
だからあとは、彼女自身の手でエリザベートにトドメを刺すだけだ。
そう思っていたカーミラの前で、エリザは弱々しくも立ち上がっていた。
「……そうね。助けてもらうって、良いことだわ。
アタシたち、そんなことさえ知らなかったのだもの」
「―――――」
「訊いたわね、カーミラ。誰にも声の届かない牢獄の中で、歌い続けられるか。
正直に言うと……ええ、ちょっと自信がない。
というか多分、誰かが聴いてくれてないと無理ね。だって、寂しいもの」
槍を杖替わりにして立ち上がるエリザに、カーミラが失笑する。
「正直ね。だけどそれも当然、私たちは……」
「だからアタシは歌い続けられるわ」
「―――なんですって……?」
「だって牢獄にアタシ一人しかいないだけだもの。アタシが歌って、アタシが聴けばいいのよ。
いつか、その歌が牢獄の外にまで届きますようにと願いながら。
この声が、いつか誰かの支えになってくれますように、と願いながら」
竜の翼を広げる、竜の尾を振るい地を叩く。
そんな少女の姿を見たカーミラの目が、怒りに赤く輝いた。
「最期の最後、牢獄の外に見えた光に憧れた。
外には光が溢れているのに、闇の中で一人佇むアタシはただ孤独なんだと思い知った。
でも―――手を伸ばすことも、言葉を交わすことも、自業自得で許されないアタシでも。
何処までも届け、と歌う事だけなら出来たはずなのよ」
「見苦しい……見苦しい、どこまでも見苦しい! それでなに!?
貴女は、その声に気付いた誰かに
ええ、知っているわ! どこまでも自分の事しか考えない女、エリザベート=バートリー!
自分が救われるかもしれないifに縋っているだけじゃない!」
「……そうね。そうかもしれない。でも違うわ、
アタシの運命は幽閉されての孤独死以外にない。その結果アタシはアンタになるんでしょう。
ただ孤独と失意の中で死に果てるエリザベート=バートリーにも、孤独な牢獄の中から誰かに夢を与えられたんじゃないかって、そんな有り得ない可能性を信じてみたかっただけ―――!
もう一回、言うわよ。だから――――歌うわ!!!」
彼女の槍が展開され、再び監獄城チェイテが顕現する。
周囲を破壊しながら拡がっていく、彼女たちの終の棲家。
カーミラの杖が強く輝き、それを阻まんと攻撃を開始しようとして―――
ばきり、と自身の宝具が致命的な悲鳴をあげる音を聞いた。
ぎしぎしと鳴りながら、ファントムメイデンの扉が内側から軋んでいる。
「ッ!? なに……!」
「――――ええ、その心意気に鐘一つ。
わたくしも、あなたのそういうところは嫌いじゃありませんので。
何よりマスターの言いつけですし、お手伝いいたしましょう。
ではどうかご照覧あれ! “
瞬間。聖母像の腹を破り、青い炎の龍がその場に降臨した。
赤熱し、黒煙を吹き上げながら転がるアイアンメイデン。
「自身を龍と化す宝具……!?」
「さあ、本邦初公開―――!
新ユニット・エリザベート=バートリーと清姫のアイドルチームによる
――――“
展開したチェイテ城がスピーカーとなり、イントロを流し始める。
エリザベートの姿が空を舞い、突き立てた槍の石突に立ち乗りした。
そんな彼女の周囲を取り巻く青い炎の龍。
曲の出だし目前、二体のドラゴンが息を大きく吸い込んだ。
片や雷鳴の如き超音波で相手を粉砕するソニックブレス。
片や嚇怒の炎でもって目標を焼き焦がすファイアブレス。
それらが同時に、カーミラへと向けて解放された。
「LAAAAAA――――――!!!」
「ッガ………!?」
対象物を選ばずにとにかく粉砕するエリザの息吹。
そして狙いをつけたものをとにかくしつこく焼き続ける清姫の息吹。
それらが同時にカーミラを襲う。
どんな形であれ、それは宝具にまで昇華されたドラゴンブレス。
対峙するカーミラには成す術もなく、その怒涛の如く押し寄せる地獄のリサイタルに呑み込まれていった。
ブレスを放ち終え、床に足を降ろすエリザ。
展開されていたスピーカー、チェイテ城も消えていく。
彼女の横で青い炎も崩れていき、やがてそこには清姫だけが残された。
「……アンタ、それ大丈夫なの?」
膝を落として息を切らす清姫に駆け寄る。
彼女の白かった着物は、彼女自身の血液で赤黒く染め直されているようにさえ見える。
宝具を使用できるほどの力がある、ということなら霊基は無事だろうが―――
「大丈夫ではありませんが、こうするより他になかったでしょう。
マスターの頼みなのですから、成し遂げねば」
清姫の声からも、目からも大分力が失われている。
当然の事だろう。
サーヴァントの血は魔力。この失血量では、体を維持できているだけで奇跡的だ。
彼女がマスターに執着するバーサーカーであることが上手く働いたのだろうか。
「……体力ならアタシの歌を聴いたら回復したりしない?」
「トドメを刺す気ですか、あなたは?
そんなことより、早くマスターの元へ……」
エリザベートの歌で体力を回復させる話を蹴って、彼女は立ち上がる。
だとするならば、仕方ないと。
エリザは彼女の前に回り込み、彼女に背を向けた。
「……なんですか」
「アタシのせいで負った傷でしょ。こんくらいするわよ」
「ふむ」
特に文句もないのか、エリザの背中に圧し掛かる清姫。
彼女の腰から生えている竜の尾に腰かけて、頭の角を掴む姿勢。
「ちょっと! 尻尾に座るのはともかく、何で角を掴むのよ!?」
「いえ。操縦桿みたいだな、と思いまして」
「アタシはロボットじゃないんだけど!?」
しょうがないので肩に手を回した清姫を背負い、エリザが半壊した通路を進みだす。
少し進んだ場所に積み上がった瓦礫。
その中に、魔力に還りつつあるカーミラの姿があった。
光の消えかけた彼女の目と、エリザの視線が交差する
「……やりたい放題。でもそうね、その歳のころからそうだったのよ。
その時、誰も間違いだって教えてくれる人はいなかった」
「…………」
「間違ってた、なんてもう知ってるわ。
でも、
……せめて血の伯爵夫人として、誰かに恐怖されること。
それ以外、私には何も無いというのに……」
ざらり、と一気に彼女の体が崩れて金色の魔力に還っていった。
その光景を見ていたエリザが、何を言うでもなく再び歩み始める。
二歩、三歩。
それだけ足を動かしてもう一度足を止めるエリザベート=バートリー。
振り返ることはせず、彼女は前を向いたままに口を開いて。
心情をただ、言葉にする。
「
でも、こうしてサーヴァントとして今ここにあるんだもの。
アンタだって……牢獄の外に、夢くらい見るべきだったのよ」
「それを本人に言ってあげればよかったのでは」
「うるさいわね」
エリザは再び乱暴に歩みを再開する。
恐らく既に最終局面を迎えているだろう戦場を目掛け、彼女たちは歩き出した。