Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「祝ってる人、またどっかから出てきた……」
倒れ伏した清姫に走り寄りながら、ぽつりと呟く立香。
視線は当然、ジオウの背後に現れたウォズへと向けられたもの。
立香の護衛に戻ってきたマリーが、初見の顔に対して首を傾げる。
カルデアチームが特異点に介入する方法―――
レイシフトの都合上、ぽんぽんと追加で仲間が増えたりすることはないはずなのだから。
「お知り合いかしら?」
「うーん……まあ、うん?」
清姫を抱え上げ、彼らから離れるために足を動かす。
抱え上げた瞬間に蛇が締め付けるように腕を回してくる清姫。
余裕なんてなさそうだと思っていたが、彼女はうふふ、と楽しげに笑う余裕すらあるようだ。
アナザーウィザードを前に、ジオウがゆっくりと歩み寄っていく。
対して。相手から距離を縮められるごとに焦燥するような様子を見せ、アナザーウィザードの方は遠ざからんと後退して距離を取ろうとする。
そんな相手の対応に驚くように、マシュが声を漏らした。
「敵―――黒ジャンヌ? 明らかに戦闘を避けようとしています。これが相手がソウゴさんを封じようとしていた理由、ということでしょうか……?」
「その通り。アナザーウィザードは偽りのウィザード。
真なるウィザードの力を継承せし我が魔王の前では、その力の差は決定的!
さあ、我が魔王よ。その力、存分に揮われよ!」
彼はそう叫び、ストールを靡かせながら大きく腕を振り上げた。
大仰な動作でジオウを讃頌してみせるウォズ。
彼の存在が初見のジャンヌはどうしたものか、とマシュに視線を送る。
が、彼女にだってどうすればいいかよく分からない。
そんな視線を送られても困る……困る。
そうしてマシュが困っている内に、ジオウは己の間合いにまで踏み込んでいた。
〈ジカンギレード! ジュウ!〉
ウィザードアーマーが自身の目の前にジカンギレードを出現させる。
形状はジュウモードのそれを軽やかに掴み取ると、銃口をアナザーウィザードに向けて、ジオウは連続して弾丸を撃ち放ってみせた。
連射される銀の銃弾。
迫りくる銃弾に対し、後退りしていた怪人も恐怖を割り切ったのか。
苛立たしげに地面を踏みならすと、ジオウへの逆撃を狙いに行く。
〈テレポートォ…!〉
行使される転移魔法。その場から一瞬のうちにアナザーウィザードの姿が消える。
目標に当たることなく、ただ通り過ぎていく銃弾。
再出現するアナザーウィザードの位置は、ジオウのすぐ横。
目の前には銃を撃ちっ放しに構えたまま隙だらけの相手。
彼に対して彼女は、既に黒い旗による攻撃を行うための姿勢に入っていた。
―――そんなアナザーウィザードに、背後から銃撃が襲撃した。
意識の外からやってきて直撃し、弾ける火花。
炸裂する弾丸と驚愕した意識の中、蹈鞴を踏まされて攻撃のための姿勢が崩れ去る。
「ガッ……!?」
彼女の目の前にいるジオウは銃を発砲した姿勢のまま、まだ動いていない。
いったい何が起きたのか、と。
アナザーウィザードがよろめく中で、必死に顔を背後に向ける。
そこにあったのは、
銃口から放たれた後に、直線どころか自由意志があるかのように舞う弾丸。
それがアナザーウィザードを囲みこむように、一気に襲撃をかけてくる。
二発、三発。連続して直撃し、全身から火花を撒き散らすアナザーウィザード。
「グゥウウ……!」
〈リキッドォ…!〉
その攻撃を回避するべく、彼女は全身を液体化させた。
弾丸は当然、液体となったアナザーウィザードを擦り抜けてしまう。
縦横無尽に駆け巡る弾丸の群れ。
それらは水の体を擦り抜けて、そのまま壁に、床に突き刺さって消費された。
そうして、相手の攻撃をやり過ごし。
アナザーウィザードは液化したまま、ジオウに仕掛けようと振り向いて―――
〈ケン!〉
「はぁあああ――――ッ!」
彼女の体を、冷気を纏った剣が切り裂いた。
凍気を纏う一閃に、液体化していたボディが凍結する。
凍ってしまっていては、攻撃を擦り抜けさせることなどできる筈もない。
氷結した部分を剣に打ち砕かれながら、その身が大きく弾き飛ばされた。
ジオウの更なる追撃は止まらない。
吹き飛ばされたアナザーウィザードを追い、疾走を開始するジオウ。
その歩みを止めさせるため、魔方陣がアナザーウィザードの前方の床に浮かぶ。
〈ディフェンドォ…!〉
床がせり上がるように現れる岩壁の盾。
展開される防御を前に、しかしジオウは正面から飛び込んだ。
その瞬間、
回転する自分自身が武器となり、突撃した彼は岩壁を真正面から貫いて大穴を空けた。
道を遮った筈だというのに、目前に現れたジオウ。
それに驚愕するように、足が止まるアナザーウィザード。
その怪人の体を、自身を回転する弾丸と化したジオウの突撃が吹き飛ばした。
「ガァッ!?」
激突して弾き飛ばされるアナザーウィザード。
衝撃に投げ出され、地面を転がる怪物。
ジオウはその一撃を見舞った後、突撃の勢い余って着地してなお床を滑り続けていく。
背中を向けながら滑り、距離を離していく相手。
それを隙と見て、アナザーウィザードは倒れながらも手を伸ばした。
そこに展開される緑色の魔方陣。
そこから轟くのは、放電した魔力が奏でる雷鳴。
〈サン…!〉
―――雷撃の魔法名を告げる声。
だがそれは、最後まで続かない。
空中に展開される緑色の魔法陣が、発動する前に剣撃により貫かれる。
魔力を稲妻に変えるための魔法陣。
それが機能を完全に失って、高まっていた魔力が一気に霧散していく。
「―――――ッ!?」
魔方陣を貫いた剣は、確かに離れていくジオウの手が握っている。
だというのにその刀身は鞭のように撓りながら、彼女を襲撃していた。
唸る刃が隙を晒した胴に直撃し、派手に火花を撒き散らす。
倒れた姿勢のまま、再び強い衝撃に転がされるアナザーウィザード。
転がりながら確かめてみれば、ジオウの手にあるジカンギレード。
その刀身を魔法陣が取り巻いて、通常とはかけ離れた長さまで延長している。
大きく距離が離れていても切っ先が相手に届くほどの射程距離。
それがサンダーの魔法陣を発動前に切り裂き、アナザーウィザードに追撃を加えたのだ。
「――――強い」
明らかに動きが変わったソウゴを見て、思わずといった風にジャンヌが呟く。
特殊能力があるのはいい。分からないが、そういうものなのだろう。
だが、その能力をソウゴは知らないままに使いこなしている。
アナザーウィザードと呼ばれたあの怪物を見て学んだ?
それだけで本当に迷わず、あれだけの豊富な能力の中から適当なものを選べるのか?
ジャンヌの視線が、ウォズへと向けられる。
彼は満足そうにジオウの戦闘を眺めているだけだ。
その状況に理由の分からない焦燥を抱きながら、ジャンヌは視線をソウゴへと戻した。
「グ、ァアアアッ―――!!」
〈コピィー…!〉
アナザーウィザードが立ち上がり、咆哮とともに新たな魔法を使用する。
その瞬間、彼女と全く同じ存在が彼女の隣に現れた。
それは本物と全く同じ動作をする分身を作り出す魔法。
分身により倍する火力を得たアナザーウィザードが、宙へと舞う。
寸分の狂いなく連動する分身体。
彼女たちはジオウを目掛けて、空中で飛び蹴りの姿勢に入る。
〈キックストライクゥ…!〉
魔力の集中した足が燃え盛り、その威力を物語る。
当然のように分身の方にも同じ魔法が発生し、その足が炎を纏う。
疑いようのない破壊力の一撃が、二つ同時に迫りくる。
そんな中でジオウは、ただこの力でやれることを理解していた。
ドライバーのウィザードウォッチを取り外し、ジカンギレードに装填。
右手に構えたそれの状態を読み込むように、魔法陣が走る。
―――次の瞬間には、ジオウの左手にもう一振りのジカンギレードが握られていた。
〈フィニッシュタイム!〉
二振りのジカンギレードは共に、既に必殺技待機状態だ。
燃え盛る炎に包まれた両手の剣で、向かい来るアナザーウィザードを迎撃する。
〈ウィザード! ギリギリスラッシュ!!〉
ジオウが斬り込む寸前、両の剣が必殺を叫ぶ。
キックの姿勢のまま、同じ軌道で完全同時に突撃してくる二人のアナザーウィザード。
その二人を、燃え盛る炎の剣閃が完全同時に撃墜した。
爆炎とともに焼失する分身体。
本体が直撃を受けたまま吹き飛ばされ、壁に激突して停止する。
怪物はそこから復帰しない。黒煙を立ち昇らせながら、そこで止まったままだ。
それはいかなる理由か。
あるいは勝ち目を見いだせないがゆえか。
アナザーウィザードは、そこで完全に動かなくなってしまった。
様子を見ていた立香が、首を傾げる。
「………勝った?」
「ううん、まだ。ジャンヌ、いい?」
停止したアナザーウィザードに歩み寄りながら、ジャンヌに声をかけるソウゴ。
突然声をかけられたジャンヌが、目を白黒させる。
とりあえず来てくれ、という意味だと受け取り、彼女はすぐにジオウの元に向かった。
「……どうかしたのでしょうか。私の力が必要、というわけではないと思いますが」
「多分こうするべきなんだ、って思ったからさ」
言いながらアナザーウィザードの側に跪き、その手を取るジオウ。
彼の手がジャンヌにも伸ばされる。手を求められた彼女も、自分の手を差し出した。
彼女の手を取り、アナザーウィザード・黒ジャンヌと、白ジャンヌの手を重ねる。
―――そうして、小さく呟いた。
「これが、あんたの希望だ」
ウィザードアーマーが力を発揮する。
エンゲージの魔法が、二人のジャンヌ・ダルクを結ぶ。
―――その瞬間。
ジャンヌはどこかに落ちていくかのような感覚を覚え、一時的に意識を喪失した。
そこは、何もない暗黒の空間だった。
前もない、後ろもない、本当に何も記録されていない虚ろ。
そんな虚無の中で、彼女はただ茫然と佇んでいた。
彼女の背中を見つめながら、ジャンヌはその暗黒の中へと呼びかける。
「……黒い、私」
「………
私は聖女じゃない……! 私はジャンヌ・ダルクじゃない……! 私は、アンタじゃない!」
振り返った彼女の瞳には、もはや初めて会った時の憎悪はなかった。
きっと憎悪を浮かべようとはしているのだろう。
けれど、憎しみを発露させるだけのエネルギーがどこにもないのだ。
彼女が今まで燃やしてきた燃料が、全てまがい物だと気付いてしまったから。
「……そうですね。貴女は私じゃない。では、貴女は何なのでしょう」
「ッ――――! そう、完全に消し去る前に私を笑いにきたってわけ?
ええ……さぞ滑稽だったのでしょうね、私は!
何も本物なんてもってないくせに、まるで自分が本物であるかのように振る舞って!
挙句化け物にされて、遊ばれて……! 踊らせる人形としては満点だったでしょうよ!」
「それを決めるのは貴女でしょう」
がなり続ける彼女を、ジャンヌは一言で切って捨てた。
怯むように言葉を止める黒ジャンヌ。
そんな彼女と目を合わせ、強い光を湛える瞳で睨みつける。
「貴女が化け物として終わってもいいと言うならそれでいい。
踊らされた人形でおしまいでもいいと言うならそれでもいい。
ただ偽物として生まれて、本物が何もないから自分は偽物だ、なんて。
―――そんな逃避は許しません」
「なにを……!」
「どんな形であれ、貴女に授けられた命だけは本物だ。いつだって、誰だって、望まれようと望まれまいと……授かった命にだけは偽りなんてどこにもないのです。
その誕生が人の営みであれ―――ジル・ド・レェの願いであれ」
強い瞳に見据えられた黒ジャンヌが、思わず視線を逸らす。
「それさえも偽りだと言って投げ出すのは貴女の弱さです、ジャンヌ・ダルク。
貴女の苦しみは偽物だった。貴女の憎しみは偽物だった。
それでも、貴女自身は本物だ。偽物の苦痛と憎悪に、貴女という命が抱いた感情は本物だ。
だからこそ―――偽りがあるとするなら、貴女が自分で自分を騙しているだけでしょう?」
「命……! サーヴァントが何を言う、私たちは……! 私は!」
そんな言葉を振り払うように、竜の魔女が腕を大きく振り乱す。
空っぽの空洞。そんな胸の内から、怒りよりも哀しみばかりが湧いて出る。
彼女を見て、ジャンヌは表情を和らげた。
「―――この世に在り、悩み、苦しみ、涙する。それを命と言わず何と言いましょう。
英霊とは人でありながら、既に人から外れたもの。それでもこの世界にある限り、それを命と呼ぶことに何の問題もないのです。
自分のことが認められないのなら、生きようと足掻きなさい。言い訳をする余裕があるなら、胸を張ってこれが自分だと言えるようになるまでもがきなさい。
貴女はそれでもジャンヌ・ダルクですか? 難しいことを考えずただ前へと進み続け、その結果こうなった人間ならば、もっと前向きであるべきでしょう?」
「お前と一緒に……するなッ―――!」
彼女の言葉に拒絶の意志を示すために、近寄ってくる彼女を睨み、吼え立てる。
怒鳴られたというのに、しかし白いジャンヌは嬉しそうに微笑んだ。
「そうでしょう? 私と貴女は違います、貴女と私は違います。
だからもう、貴女は私の偽物なんかじゃない。
私と違うものになりたいという願いこそ、貴女が貴女になるために一番大事なものでしょう?」
「わた、しは……! 私は……!」
白いジャンヌの手が差し伸べられる。
取ってしまうのが一番楽な道だ、と心のどこかがぼやいている。
ジャンヌ・ダルクを睨み据え、彼女の手を打ち払う。
驚いた彼女の表情をいい気味だと嘲笑い、正面から見返してやる。
「―――黙りなさい! アンタに何か言われるまでもなく、私はとっくに私よ!
私の中の憎悪は消えない! 私を動かす復讐は終わらない!
全部嘘、それが何よ! 私は、
嘘から出た復讐である私が、私だけが! 本物であることしか取り柄のないようなものを全部ぶち壊して嗤ってやる!
――――なんて爽快。こんな空虚な復讐にさえ焼かれるなんて、まるで風船みたいに中身の無い世界だったわ、ってね!」
「………ええ、そうですね。だというのなら是非もない。
貴女がその結論に至り、なおもフランスを焼こうとし続けるのなら私はそれを止めましょう」
差し伸べた手を引き、彼女は笑顔のまま旗を手にした。
黒ジャンヌの手にもまた黒い旗が現れる。
黒ジャンヌの深層世界が、暗黒の闇から地獄の業火に変わっていく。
その世界こそが彼女の発端。彼女が生まれる前から焼かれていた世界。
そうして、二人のジャンヌ・ダルクは向かい合った。
「ジャンヌが消えちゃったけど……」
ジオウがジャンヌとアナザーウィザードの手を合わせると、ジャンヌの姿が消えてしまった。
立香の感覚ではまだジャンヌとの繋がりは感じるが。
ちらり、と停止したままのアナザーウィザードの姿を見る。
「うん。今、中で決着をつけてる」
『中……? その怪人の中に入っている、ということかい?』
「そう。アンダーワールド? なんかこう、心象風景? 的なところに入って……なんかそんな感じ?」
「適当だね……」
ウィザードアーマーが腕を組んで適当なことをのたまう。
呆れるように立香がソウゴから視線を外し、さっき祝っていたウォズを探す。
彼ならもう少し具体的な情報を出してくれるだろうと思ったが……
だが、既に彼の姿はこの場から消えていた。
「またいなくなっちゃったね、祝えの人」
「というか何しに来たんだい、彼」
自分の演奏で超音波を撒き散らしたアマデウスが、頭を抱えながら歩いてくる。
耳がイかれるような音を食らい、くらくらとふらついているようだ。
「―――その、ジャンヌさん一人で大丈夫なのでしょうか……?」
おずおずとマシュが疑問を投げる。
今まで戦っていたこの怪人・アナザーウィザードは強力だった。
如何にジオウ・ウィザードアーマーは圧倒してみせたとはいえ、だ。
「きっと大丈夫よ! ―――だって、彼女はジャンヌ・ダルクなのだもの」
マシュの心配を、マリーは何の事はないと笑う。
オルレアンの奇跡の人。彼女の憧れ、ジャンヌ・ダルク。
贔屓目も混じっていると自覚していてなお、マリーは容赦なく彼女を信じ切る。
ね? と同意を求めてくる彼女に、マシュも小さく笑みを浮かべてそうですね、と返した。
またもこの広間の端で何事かを言い合っているエリザベートと清姫。
それから意識を逸らすように、アマデウスは空を見上げる。
彼女の超音波で聴覚がマヒしたか、普段の精度は期待できないそれに――――
ごうごう、と。何かが空気を切り裂きこちらに向かっている音がした。
どこから、どこへ、距離は、と。いつもなら察知できる事が分からない。
だから彼には、その場で叫ぶしかできなかった。
「――――次の敵が来るぞ!」
次の瞬間。
壁と床をぶち抜いて、黄金の竜がアナザーウィザードへ向け突撃してきていた。
咄嗟に防御したジオウが大きく弾き飛ばされる。
即座にウィザードアーマーが緑に輝き、風を纏って空を舞う。
その目の前で天に翔け上がる竜の口には、彼が抱えていたアナザーウィザードが銜えられていた。アナザーウィザードの意識が無い事に気付き、竜が顔を大きく顰めさせたような気がする。
「……またドラゴン!?」
『………ファヴニールとは反応自体が変わっているけど、多分その竜はファヴニールだ。
その竜と戦っていただろうジークフリートとゲオルギウスが、今そちらに向かっている!』
「ふーん、随分小さくなったのね。脱皮の時期?」
飛行できるのはジオウとエリザベート、そして宝具を解放した清姫のみ。
清姫はいい加減、既に限界だ。
エリザベートとて、空を飛びながらの戦闘が特別可能というわけではない。
「けど今の俺なら、一対一でも行ける気が―――!」
風の翼を纏ったジオウが身を乗り出す。
だが彼が踏み込んでくる前に、ドラゴンの目が大きく見開いて魔力を発した。
連動して、口にぶら下げているアナザーウィザードのバックルが呪文を唱える。
〈スペシャルゥ…! ラッシュゥ…!〉
その光景を見ていた皆がえ、と呆けるほど綺麗に分割される竜の体。
機械的なフォルムである、と思っていた。
だが、そこまで生命体から逸脱した性能を持っているとは誰も思っていなかった。
〈フレイムゥ…!〉
だらりと空中で垂れ下がるアナザーウィザードの胴体に、竜の頭部が合身する。
首だけでも当然の如く意志を持っている、と言わんばかりに咆哮するドラゴンの頭部。
―――ラッシュスカル。
〈ウォータァー…!〉
アナザーウィザードの腰に竜の尾、ラッシュテイルが接続される。
〈ハリケェーン…!〉
背には風を切る翼、ラッシュウィング。
〈ランドォ…!〉
そして腕に竜の爪。ラッシュヘルクローが装備された。
人型に竜の頭、尾、翼、爪。竜種の脅威を全て集約した形態。
アナザーウィザード・スペシャルラッシュ。
胴についた竜の頭の目から光が消え、逆にアナザーウィザードの眼窩に光が灯る。
疑いようもなくそれは、竜がその身を支配したということだろう。
「グゥウウウウ……!」
「まずっ……!」
その体に魔力が収束する。大地に太陽が現れたかのような光が咲く。
直後にそれが、この場を焼き払う爆炎になることを確信する。
ジオウの背を魔法の突風が押し、アナザーウィザードの元まで彼を運ぶ。
接近すると同時、その腕がジカンギレードを奔らせた。
対抗するのはアナザーウィザードの竜爪。
竜はジオウの攻撃を受け止めると同時、胸の竜の口を開かせた。
「――――っ!」
「オォオオオオオオオッ――――!!」
迸る爆炎の息吹。咄嗟に展開した守護の魔方陣が、容易に打ち破られる。
炎の渦に呑み込まれ、そのまま城外までも吹き飛ばされていくジオウ。
すぐに戻らなければ、と考える必要はなかった。
ドラゴンはジオウ以外に用はないとばかりに、即座に追撃すべく追い縋ってきたのだ。
「こん、のっ……!」
吹き飛ばされた体を風で制御し、両足で地面に着地する。
ガリガリと地面を削りながら減速し、最大加速で突っ込んでくる相手に備える。
その手が、ジカンギレードのリューズを叩いた。
〈タイムチャージ! 5!〉
両腕の爪を真正面に突き出しながら飛んでくる、人型の竜。
その背の翼が一度大きく羽ばたいて、更なる加速を生み出した。
〈4!〉
タイムチャージは間に合わない。
このまま突っ込まれれば、カウントを終える前に接敵するだろう。
それでもジオウはその場で剣を腰だめに構え続ける。
〈3!〉
「今ッ!!」
次の瞬間、アナザーウィザードが自身に届く。
まさにそのタイミングで、ジオウは叫んだ。
その声に呼応するかのように立ち上る土の壁。ディフェンドの魔法。
〈2!〉
だが、そんな土塊にアナザーウィザードが止められるはずもない。
先程の展開の逆。竜の爪を衝角に見立て、アナザーウィザードが高速で回転を始める。
苦し紛れの壁を貫くドリルの魔法――――
アナザーウィザードは壁に衝突し、あっさりとその壁を貫き通していた。
なのに、その先にジオウの姿がない。
竜の意識が呆けて、何故そうなったのかの思考を回す。
だが何故、という疑問の答えはすぐに下から返ってきた。
〈1!〉
そこに、自身の体をドリルにして地中に潜り込んでいたジオウの姿があった。
アナザーウィザードが減速した瞬間、飛び出してくるジオウ。
アナザーウィザードは罠に綺麗に嵌った。
しかしそれでも、その状況からさえ対応を可能とするのが竜の力。
自身の背を取ったジオウに対し振り向くこともなく、ラッシュテイルで地面を叩く。
ただそれだけでその瞬間、周囲に冷気が奔りジオウさえも例外なく凍結させる。
ラッシュテイルが再び凍結した地面を叩き、その勢いで体を反転する。
その勢いのまま加速したアナザーウィザードの突撃。
凍り止まったジオウを、その爪が貫通する―――
バキバキと砕け散っていくジオウの姿。
ドラゴンはその光景に充足する気分を覚え、クフゥ、と吐息を漏らす。
しかし次の瞬間には、周囲から現れた鎖に巻きつかれていた。
その鎖は翼と尾も一気に縛り付け、相手から一時的に飛行能力を奪い去る。
「ッグァ……!?」
〈ゼロタイム!〉
バラバラに砕け散った凍ったジオウの
同時に、アナザーウィザードが落ちた地面にフォールの魔法で穴が開く。
地中にぽかりと空いたそれなりの広さを持つ空間。
それはドリル、グラビティによる突貫工事で作り出した、彼が潜むための場所。
コピー体は自身の動きに完全連動する。
だから。
〈ギリギリ斬り!!〉
「はぁああああああッ――――!!」
バインドの魔法とはいえ、ドラゴンを縛れるのなんて一瞬だ。
だがその一瞬で、ギリギリ斬りの一撃を直撃させる。
衝撃で薄い土の天井をぶち抜いて、ドラゴンの体は宙へと吹き飛ばされた。
それを追うように、ジオウもその空間から外へと飛び出した。
ドラゴンを縛っていた鎖がばらばらと崩れ落ちる。
縛りから解放された途端に、翼と尾を大きく広げるドラゴン。
だがその翼には、まさに今ついた大きな斬撃痕が刻まれていた。
怒りに喉を震わせる竜に対し、ジカンギレードを構え直すジオウ。
ソウゴが小さく、強く、竜に対して宣告する。
「俺は負けないよ。今の俺は、ウィザードだからさ。
誰かの絶望になんて屈しない。お前の中から必ず、世界の希望を取り返す―――」
絶望を与える竜の咆哮。
それを切り裂くのは、魔法使いが行う希望の宣誓。
同じ力を、正反対のもののために使う、二人のウィザード。
―――彼らが、空中で再び激突した。