Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
この男、刑事で仮面ライダー!!
次に彼らは“だれ”と出会うのか2015
どことも知れぬ闇の中、そこにぼんやりと浮かぶ大きな時計がある。
その空間にはそれ以外のものはないのか、と。
いずこから、男の声が闇の中に響き渡る。
「―――女の話をしよう」
闇の中からゆったりとした足取りで現れた男、ウォズ。
彼は“逢魔降臨歴”を脇に抱えながら、その時計の前に立つ。
そこで立ち止まると、小さく咳払いをする。
「失礼。今の言葉はなかったことに」
彼はそう言って仕切りなおすと、手にした本を開いてそちらに目を向けた。
そうして頁を捲りながら、小さく微笑む。
「この本によれば、普通の高校生・常磐ソウゴ。
彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。
しかし常磐ソウゴが未だ中学生の今。
謎の男、レフ・ライノールなる者により人類の歴史・人理が焼却され、人類は滅亡の危機に瀕してしまう」
彼の顔が本から上がり、闇の中の一点を見つめる。
そこには今までいなかったはずの、一人の戦士の姿があった。
黒いボディに、時計のベルトのようなアーマー。
時計盤を彷彿とさせる頭部の造形の、常磐ソウゴの変身形態。
仮面ライダージオウである。
「常磐ソウゴは人理焼却を防ぐべく、2004年冬木で仮面ライダージオウに変身。
レフ・ライノールの野望を打ち砕くべく、歴史上にある七つの特異点への戦いに身を投じる。
そしてまず訪れた1431年フランス。そこで彼は仮面ライダーウィザードの力を継承し、第一特異点を修正することに成功するのであった」
更にジオウの背後に、新たな戦士の姿が浮かび上がる。
燃えるような赤い宝石の頭。黒いローブを纏った、指輪の魔法使い。
その名は仮面ライダーウィザードと言う。
「次に彼らが訪れるのは西暦60年、古代ローマ帝国。
そこを治める赤き薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスとの出会いが、我が魔王に与えるものとは何か」
彼が背後の時計へと視線を送ると、赤いドレスの少女と言えるような外見の女性が映る。
「民衆に燃えるような情熱の愛を捧げ、しかしその愛を誰からも返されず果てた薔薇の皇帝。
自身の理屈により生ずる感情は、相手と共有できなければただの独り善がりとなる。
ゆえに“それが正しいから”という理由のみで、ただ脇目も振らず走り続ければどうなるか。
正しさだけの疾走は、やがて他の人間に屈辱を与え、嫉妬を抱かせ、怪人に変える。
では、その“力を持たない、ただの人でありながら怪物と化した者たち”とはどう向き合う?
守るべき民衆? 討ち果たすべき敵? それとも……
この問いに、自身の肉親さえもその怪物に奪われた一人のレジェンドが出した答えは―――」
そこで彼はパタリと手にした本を閉じた。
周囲にあったライダーや人の影もいつの間にか消えている。
「おっと。ここから先は、私が話すべきことではないようだ」
ただそう告げて、彼は闇の中へと踵を返した。
先程まで見えていた戦士の姿も時計の姿も見えなくなり、全てが闇に包まれる。
メカ所長の頭部が、突然真っ二つになる。
パッカーンと開いたそこには、眼魂が丁度ぴったりはまりそうな窪みがあった。
断面には色々と生々しい色の部品が詰め込まれており、あまり長く見ていたいものじゃなかった。
その勢いのある展開方法に慄いて、うおぉと唸りながらソウゴがゆっくりとそこに眼魂を置く。
「あとはその眼魂を起動してくれればいいよ」
「普通に押せばいいんだよね?」
ソウゴの指がカチリと眼魂の起動スイッチを押し込む。
その瞬間、開きになっていたメカ所長の頭部が閉じられた。
ガクガク動きながら起動しているらしいメカ所長。
「ななななな、なに!? 何なの!?」
その動きが突然代わり、周囲の状況に困惑しているオルガマリーそのものになった。
おぉ、とその光景に感心するソウゴ。
本当に動くのか。
「やあ、おはようオルガマリー。どこまで覚えてるかな?」
周囲に景色はどう見てもダ・ヴィンチちゃんの工房。
そんな場所で目を覚ましたオルガマリーは、はっきりとダ・ヴィンチちゃんを睨む。
「……どういうことかしら、ダ・ヴィンチ。
わたしたちは第一特異点へのレイシフト実証を実行しようとしていた筈だけど?
常磐ソウゴもここにいるし、一体何がどうなっているの!?」
「あ、第一特異点の攻略は終わったよ。君が寝てる間にね。
はい、これが第一特異点で発生した件に関する報告書だ。是非読んでくれたまえ。
おっと、こっちは現時点で集め終わっている第二特異点の情報だ。
それとそれと、これは私の研究の報告書マナプリズムのとかとか。
これには今の君の状態のことも書いてあるから、必ず読むように」
はいどうぞ、と。紙の束を彼女へと押し付けるダ・ヴィンチちゃん。
それを咄嗟に受け取っていたオルガマリーが、呆けた表情で間抜けな声を出した。
「……………は?」
ソウゴたちが所長復活の儀式に取り組む中。
立香たちは新たなサーヴァントを召喚するべく、召喚室を訪れていた。
その手には一度の召喚が行えるだけの聖晶石が乗せられている。
「用意はいいかい、立香ちゃん」
ロマニが壁の操作パネルを弄りながら、そう声をかけてくる。
大丈夫、と返事をしながら目の前で展開されていく召喚サークルを眺める。
室内には武装したマシュと、壁に寄りかかっているクー・フーリンの姿がある。
恐らく大丈夫だろうとは思われるが、念のための護衛だ。
「大丈夫。これを差し出せばいいだけだよね」
サークルの前に立ち、手に乗せた聖晶石を前に突き出す。
それを確認したロマニが一つ肯き、最後の工程を実施した。
回転を始める光のリング。
聖晶石から魔力が吸い上げられて、そのリングの回転のために消費されていく。
その光を見ながら、マシュが小さく呟く。
「ソウゴさんがクー・フーリンさんを召喚されたことを考えると……
先輩が特異点で主従関係を築いた、ジャンヌさんや清姫さんが召喚されるのでしょうか」
「どうだかな。一際強い縁があるのがそいつらだ、ってことは間違いないが」
同じく召喚サークルを眺めていたランサーが、片目を瞑って肩を竦める。
執念の女、清姫が最後に見せていた姿からして彼女の可能性はあるようなないような。
通常はそんな呼ばれる側の執念など考慮されないが、彼女ならもしかして……と。
そんなことを考えながら眺めている二人をよそに、魔力の回転は臨界に達する。
「あれ?」
スパークする魔力の渦。
室内で暴れ回るそれが、いつの間にか色を帯びていた。
青白い光であったそれが、まるで虹のような輝きを発し始めたのだ。
「色変わった?」
「―――あれ、何でだろう。魔力がこんな発光を……?」
すぐさま召喚システムの状態を確認するロマニ。
だがそこに異常はない。順調に稼働を続行している。いや、順調すぎるのか。
想定されているよりも効率よく稼働しているからこそ、その魔力が余剰の魔力で輝いている?
データをすぐさま収集しつつ、しかし問題は見当たらないゆえ続行する。
「――――大丈夫、なはずだ。立香ちゃんはそのままそこで。
マシュとランサーは念のために、いつでも彼女を守れるように……
うん? 霊基反応が落ち着いてきた。クラスは……これは、ルーラー?」
すぐさま動けるように備えていたマシュが、その言葉を聞いて思わず足を止めた。
召喚サークルの中で形成されていく魔力体。
物質化されていく魔力が描く姿は、彼女たちが先の戦いで共に戦った聖女の姿であった。
顕れた白い旗を携えた、救国の聖女。
彼女はその旗を軽く一振りすると、立香に向けて花が咲くように微笑んだ。
「サーヴァント・ルーラー。ジャンヌ・ダルク。
――――こうしてまたお会いできたこと。そしてまた貴女方と戦えること。
本当に喜ばしいと思います」
「わ、ジャンヌだ!」
稼働を終了し、機能を停止させた召喚サークル。
展開された光の環が回転を止め、ゆっくりと消えていく中。
既知の相手の顔を見た立香の足が、召喚システムの中央に向けられた。
使用された魔力の残滓が舞う空間の中に、ジャンヌへ駆け寄るために踏み込む立香。
その瞬間、召喚サークルのシステム停止を見届けていたロマニの目に飛び込むエラー表示。
「……え?」
周囲に飛び散っている固形化した魔力。ダ・ヴィンチちゃんのいう所のマナプリズム。
それらが光を放ち、サークル内に踏み込んだ立香を目掛けて集まっていく。
「な……!」
ぎょっとする周囲をよそに、召喚サークルが強制的に再起動。
消える筈だった光の回転が再度周り、マナプリズムを魔力の体に再構成していく。
目の前で起こるマスターの直近への召喚。
それにマシュと、呼ばれたばかりのジャンヌが飛び込んで――――
「み・い・つ・け・た♡」
聞き覚えのある、蛇が絡み付くような執念の声に停止した。
マナプリズムは全て溶け、それで霊核を形成して召喚に漕ぎ着ける執着心。
着物で際物な一人の少女が、立香に抱き着くように出現していた。
「サーヴァント、清姫。お呼びとあらばどこまででも。
ああ、ますたぁ。会えなかった時間、この清姫は寂しゅうございましたとも。
ですがその寂しさで育てた愛……どうか、どうか受け取って下さいまし……」
「憑りつかれてんな、そりゃ」
その光景を見ていたランサーが嫌そうに呟いた。
一応知人であったので引き剥がすべきかどうか、マシュとジャンヌは目を見合わせた。
異常なデータにエラーを吐くシステムを処理しながら、ロマンは目を逸らす。
「まさか、召喚の際に発生した余剰魔力を使って自分から召喚されにくるとは……
彼女の英霊としての霊基がそう大きくないから出来た芸当ではあるだろうけど……」
「うーん。でも一人分の魔力で二人召喚できちゃったならお得なのかも?」
「まあ……そう見ることもできる、のかな……?」
抱き着いてくる清姫の頭を撫でながら、そういってジャンヌを見る立香。
久しぶり―――というほど久しぶりでもない対面だ。
ジャンヌの意識としてはほぼ連続しているし、立香の方からしても別れてから二日経っていない。
感動するより驚くような再会の状況に、互いに苦笑しあう。
「………頭が痛い。何でこうも問題ばかりが……」
ダ・ヴィンチちゃんの工房の中で、報告書の内容を詰め込まされたオルガマリー。
彼女は頭を抱えながら、食堂の椅子に腰かけていた。
その対面に座りながらダ・ヴィンチちゃんはその言葉は心外だ、と顔を顰める。
「おいおい、私が作ったメカ所長ボディはそんなに柔じゃないぞ?
頭痛なんてするわけないじゃないか」
「アンタたちの存在がその頭痛の原因になってるのよ……!」
そう言ってダ・ヴィンチちゃんとその隣のソウゴを睨むオルガマリー所長。
キッチンに準備されていた作り置きの昼食を口にしながら、ソウゴはその視線に首を傾げる。
「そういえば所長ってご飯食べられるの?」
「もちろん。私の作ったボディにその辺のぬかりはないさ」
楽し気に答えるダ・ヴィンチちゃん。
しかしオルガマリーの表情は渋い。
今ソウゴが食しているのはカルデアの一部スタッフ有志が調理してくれた食事だ。
残念ながら今のカルデアの状況で、調理人を置いておける余裕はない。
ここで準備されている料理は、管制室から退室して休息状態にあるスタッフが、積極的に作り置きして冷蔵してくれているものだ。
ほとんどのスタッフはそれを空いた時間に温め直して食べている、というのが現状。
そんなことも報告書の内容から知っていたオルガマリーは、胡乱げに彼を見返す。
「………食べないわよ、霊体の維持に必要ないもの」
カルデアには現在、食品等の備蓄は限られている。
とはいえ、ここは辺境に構えた巨大設備。
一応緊急時に備えて、そのような物資も普通よりは基本的に潤沢に備わっていた。
そのうえ、現在カルデアには本来想定されていた人数の半分以下のスタッフしかいない。
すぐに物資が底をつく、というのはまずありえない。
だからといって、必要のない浪費などこの場の管理者である彼女に許せるはずもなかった。
「食べた方がいいと思うけどなぁ。元気でないじゃん」
「食事程度で摂れるエネルギーなんていくらでも代用可能です。
わたしが食べる必要はまったくありません………
けれど、スタッフの食事を準備する人間は必要ね。手が空く人間なんていないけれど……
ダ・ヴィンチ、あなた料理できないの?」
「そりゃあできるとも。私は万能だ、料理のことだって天才さ。
ただ結局のところ、食べるスタッフが時間もバラバラにくるのが現状だからね。
せめて全員に同時に食事休憩を与えられる状況になれば、話が違うんだけれど」
肩を竦めて溜息を落とすダ・ヴィンチちゃん。
それを聞いて頭痛が酷くなったように頭を抑える所長。
「結局誰かが時間を見て作って、作り置きする。
あるいは食事をする本人が作るしかないことは変わりないわけね。
バラバラに来るスタッフに対応させるためなら、それこそ食堂を管理する専属のスタッフが必要になる。しかもそういう勤務形態となると、言うまでもなく複数人。
食堂のために最低二人、できれば三人なんて幾らなんでも無理があるわ」
「何か方法ないの? 料理人のサーヴァント召喚するとか」
はぁああ…と。ソウゴの発言にでかい溜息を吐く所長。
そんなことできるなら苦労しないわよ、と言いたげであった。
しかしダ・ヴィンチちゃんはくすくすと笑ってその案を楽しげに受け入れる。
「このまま特異点攻略が進めばそれもありだろうね。
魔力リソースを確保し続け、サーヴァントを多く増やせた場合にはだけど」
「そうなの?」
「そうだね。
カルデアからサーヴァントを特異点に連れて行く場合、全員を連れて行けるわけじゃない。
フェイトの補助があるとはいえ、現地でサーヴァントを維持するのは君たちマスターだ。
どうしたってそこには限界があるのさ。
まあデミ・サーヴァントであるマシュは別として、立香ちゃんも君も2人くらいが限界かな」
「つまり……最大で立香がマシュと更に2人、俺が2人、所長が2人の7人?」
「ああ、いや。所長はあの礼装一冊が限界だ。
だから所長は1人で、最大だとサーヴァント6人パーティってことになるかな?
まあケースバイケースだけどね。そうなればカルデアに残さざるを得ないサーヴァントもでる。
彼らにこちらの運営を手伝ってもらう、というのは割と理想的な関係だよ。
っていうか私こそそういう関係のサーヴァントなわけだしね」
二人の話を聞いていたオルガマリーが、指でテーブルを小さく叩き始める。
「………それを否定はしないけれど、それはとにかく戦力の拡充を済ませてからの話です。
これから先の特異点、何が待ち受けているかも分からないのに……」
ぶつぶつと呟き始める所長。
そんな彼女の背後。食堂の入り口から、立香たちの姿が現れた。
サーヴァントを一騎召喚しに行っていたはずだが、何故か二騎増えている。
ジャンヌ・ダルク。そして清姫。
二人とも彼女がオルレアンで契約していたサーヴァントだ。
「あれ、何で二人増えてるの?」
「何かついてきちゃった」
そう言って腕に抱き着く清姫を示す立香。
苦笑いしているロマンが、その状況を端的に教えてくれる。
「最初にジャンヌ・ダルクの召喚に成功して、そこで発生したマナプリズムを利用して連鎖召喚されてしまったようなんだ。一応、システムに不具合が出てないかどうかは確認してきたよ。
後でレオナルドもチェックしておいてほしい。この手の機器のメンテナンスは、ボクのチェックだけじゃ不安が残るからね」
「ふむ。そんなことが起こり得るのか……なら、私はフェイトを見に行ってこようかな。
それが終わり次第、オルガマリーのサーヴァントも召喚しようか。
すぐに終わるだろうから、ソウゴくんが食事を終えたら召喚室にきてくれ。
ちゃんとあの礼装も持ってくるように」
「今から行くのかい?
じゃあボクもついて行こうか。立香ちゃんはここで休憩していてくれて構わないよ。
ソウゴくんが召喚を終えたら、二人とも召喚後のメディカルチェックを行おう」
そう言ってふらりと立ち上がり、食堂を後にするダ・ヴィンチちゃん。
それを見送りながら食事をしているソウゴの目が、新たにカルデアに訪れたサーヴァントに向く。
ジャンヌ・ダルク、清姫。
「ジャンヌたちがきたんだ」
「うん。普通に召喚したら、清姫もついてきた」
立香が椅子に座り、つれている皆へと着席を促す。
立香にへばり付いて離れない清姫の反対側は、マシュが確保している。
ジャンヌもまた近くの椅子に座った。
マシュの肩からぴょいとフォウの姿がテーブルの上に。
そのまま歩こうとした彼を立香が捕まえる。
食事するところで歩くな、けもの。
ふぉー、と小さな声で鳴きながら持っていかれるフォウくん。
「改めてよろしくお願いします、ソウゴくん」
「うん、よろしく」
「今回の召喚では、フランスで先輩が契約したお二方が召喚に応じてくれました。
これを考えるとソウゴさんの召喚でも、フランスで契約したサーヴァント……
ジークフリートさんが召喚に応じてくれそうに思えますね」
見慣れた顔がカルデアに増えたこと。その状況に、マシュがそんなことを言う。
確かにそうなれば心強いのは確かなのだけれど。
「でも、俺が召喚するのは所長のサーヴァントだし」
「……貴方が召喚したサーヴァントに、わたしのサーヴァントとしての契約を持ちかけるだけ。
召喚時点では通常通り貴方のサーヴァントのようなものよ」
「所長はジークフリートがいいの?」
突然、立香からかけられる言葉。
そのまるで自分にジークフリートは合わない、みたいな言葉にジロリを立香を睨む。
「………何よ。仮にジークフリートの召喚に成功すれば、戦力として大きいでしょう。
報告書を読む限りでは人格にも問題はないのでしょうし」
「いや……うーん、所長だと相性が良くなさそう」
「はあ? 何よそれ」
彼女の意見に目を怒らせた所長から目を逸らし、立香の目はソウゴに向く。
話を振られたソウゴは確かに、とそれに肯きを返す。
「所長はジークフリートみたいに後ろで支えてくれるタイプより、ランサーみたいな前に引っ張ってくれるタイプの方が必要な気がする」
「そう。そんな感じ」
「……サーヴァントに主導権を握らせる、なんてありえるはずないでしょう。
あなたたちと違って、わたしはきっちりと状況を判断できるだけの知識があるの。
サーヴァントの能力も含めて、全ての状態を加味した判断を下せなきゃ、司令官になんてなれるはずないでしょう」
腕を組み、そう言ってむっつりとむくれるように呆れる彼女。
素人ならばサーヴァントの知恵も借りなければ状況の判断はできないだろう。
だが彼女はカルデアチームの総司令官として機能するため、妥協などあるはずもなく性能を向上させ続けた。
その自分による指揮に間違いなど――――そんなにないハズだろう。
「大体、あなたたちの使命は私の命令を忠実に実行することで……」
「普段はともかく所長って土壇場だとなんか焦って失敗しそうなところあるよね」
「そこだよね。疑ってはいないけど、心配になるっていうか」
「はっ倒すわよ!?」
どばん、とテーブルに両手を叩き付けながら立ち上がる所長。
それを嗜めるようにジャンヌが言葉を挟む。
「私と彼女は初対面ですが、マスターが言う通りの人だというのなら、なおさら彼女には後ろで支えてくれるサーヴァントの方がいいのではないですか?
私たちサーヴァントは、ただ見守るだけの存在ではない。マスターたちと言葉を交わし、教え導くこともできるものたちですから。
最初から所長さんだけで全てをこなす必要なんてないと思います」
「……わたしは別にそんな関係を求めていないと言ってるでしょうに……」
むすぅっと表情に不満を露わにするオルガマリー。
ジャンヌの言葉を聞いたソウゴが唸る。
「なるほど。なおさらジークフリートじゃ所長を甘やかしそうな気がする」
「あるね、それ」
「アンタら本当いい加減にしなさいよ!?」
「じゃあ所長な感じのサーヴァントを召喚できるように祈ればいいのかな」
テーブルの食器を纏めながら、ソウゴが思い悩む。
所長な感じのサーヴァントを思い浮かべているのだろう。
立香も所長な感じかぁ、と考えているが、所長な感じのサーヴァントとは何なのか。
「……別にアンタが祈ろうが祈るまいが結果は変わらないわよ。
それがカルデアの召喚式なんだから……」
怒鳴りつかれた、とばかりに着席するオルガマリー。
そんな彼女を見ながら、マシュが苦笑する。
「ええと、とにかく。ソウゴさんのお食事も済んだようですし。
召喚室に皆さんで向かいましょうか」
「そういえばランサーは?」
「召喚室に興味があるってまだあっちにいるけど」
ふぅん、と。
食器を載せたトレイをキッチンの流し台に運びながら、ソウゴは首を傾げた。
だったらこの前見ればよかったのに、と。
「まあ、マスターによって同じ英霊のサーヴァントでも性能は上下する。
そう考えりゃ別におかしくないっちゃおかしくない」
「マスターの性能が同じなら同じサーヴァントの基本性能は同じになると思うけどねぇ」
ダ・ヴィンチちゃんが召喚室の管理画面に浮かべた霊基グラフ。
それを見ながら、ランサーは肩を小さく竦めた。
「マスターとしての性能、というなら立香の嬢ちゃんの方が上だろ。
まあ、坊主との差なんてほとんど誤差だがよ」
「マスター適正もだいぶ立香ちゃんの方が上だね。
ソウゴくんは低くもないが、とりたてて高いと言うほどじゃない。
もちろん、一般人からの参加者という点からみればそれでも驚異的な高さだが」
ロマニの手がキーボードを叩き、表示される画面を増やす。
そこに表示されたのは立香とソウゴの能力値を数値化したグラフだ。
そこまで聞いてランサーが面倒そうに肩を大きく揺らした。
「じゃあそっちなんじゃねぇか?
それ以上は適正はねぇが性能は最高峰なマスターの召喚を見なきゃ分かんねぇな」
「と言っても所長が直接召喚するわけじゃないからなぁ……」
「……まあ、現時点で問題は見当たらないし棚上げしておこうか。
悪い話じゃないし、それ以外の問題は山積みだし。この話はもうちょっと余裕ができたらだ。
そろそろソウゴくんたちもくるかな?」
ッターン! とキーボードを叩くダ・ヴィンチちゃん。
それまで展開されていた幾つものウィンドウが消え、待機状態に入る召喚システム。
丁度、そのほんの数秒後に召喚室の扉が開かれた。
「持ってきたよ、この本」
先頭で入室してきたのは、概念礼装“偽臣の書”を抱えたソウゴ。
「待ってたよ、じゃあすぐに始めちゃおうか。
所長も自分がマスターになれるのを楽しみにしてるみたいだし」
「勝手なことを言わないでくれるかしら。
わたしは必要だと判断したからこれを許可しただけで……」
ぞろぞろと入室してきた皆に目もくれず、一気に召喚システムを起動状態に持っていく。
スムーズに光のリングが展開されて、回転を始めた。
そちらに歩み寄っていったロマニの手から、ソウゴに聖晶石が渡る。
「その本を持ちながら前のようにしていてくれればいいよ。
あとはこっちで調整するからね」
「うん」
言われた通りにしていると、前と同じように光の回転に聖晶石が吸い取られていく。
加速していくリングの回転。そのリングが、この前とは違う様相を見せ始めた。
「あ、色変わった」
「さっきと同じだ……」
光が虹色に転じる。
機器を見ているダ・ヴィンチちゃんとロマニ、眺めていたランサーの目が細まる。
何も言われないのでそのまま続行していると、サークル内に新たなサーヴァントの姿が形成されていく様子がよく見える。
割と誰もが茫然とする。
一人だけソウゴが、何となく納得したような表情を浮かべているが。
黒一色の装束。
立香が先程見た白布に金糸の聖女の旗を、灰で染め抜いたような魔女の旗。
彼女の隣にいる白の聖女と同じ顔が、薄く笑みを浮かべながらそこに降臨した。
「サーヴァント・アヴェンジャー。召喚に従い参上……
―――ちょっと待ちなさい。なんでその白いのまでここにいるのよ?
聞いてない、聞いてないわよ? ちょっと、これ一体どうなってるのよ!
責任者はどこ、出てきなさいよ!?」
彼女の浮かべたドヤァ、という感じの薄い笑みはすぐ消えた。
ソウゴを見るとやっぱりなぁ、みたいな顔をしている。
なるほど所長みたいな感じなサーヴァント。
ソウゴ。アンタ、そういう意味で所長な感じのサーヴァントって言ってたの?
思わず今そう言ってしまいそうだった。
が、何か横の白ジャンヌは嬉しそうだったので、立香は黙っていることにした。
姉なるものに目をつけられた女