Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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FGOのガチャは勝ったがシティウォーズのガチャは負けた感のある今日この頃。
グランドジオウがこない。
 


彼らは“どこ”を目指すべきなのか0060

 

 

 

『―――かい。聞こえているかい? ああ、繋がったかな?』

 

ロマニからの声が届く。カルデアからの通信が繋がったらしい。

 

「ドクター?」

 

その声を聞いたマシュが反応する。

こちらの声を聞けたことに安心したように、ロマニが通信越しにほっと溜息を吐いた。

 

『良かった、レイシフトは成功のようだね。こちらでも状況をモニターし始めて……あれ?

 もしかしてそこ、首都ローマではない?』

 

彼らが今いるのは首都どころか荒野だ。

アナザーライダーに傷を負わされた皇帝を、所長の魔術で治療している。

 

「はい。現在地は首都ローマから外れた荒野です。

 話を聞く限り、そう離れてはいないはずなのですが」

 

『おかしいな……確かに首都ローマにレイシフトさせたはずなのに。

 何か原因があるとしたら、すぐに見直さないと……ちょっとログを……』

 

『今は無事なんだからそういうのは後にしたまえよ、ロマニ。

 それより話を聞いた、ということは現地の人間に接触できたのかい?

 ……ん。確かに近くに一人、人間の反応があるね』

 

途中からダ・ヴィンチちゃんの声も入ってくる。

 

ネロは立香とソウゴと所長を捕まえて、話をしながら治療されている。

その治療にもまだ時間はかかりそうだ。

そう感じたマシュは、とりあえずカルデアに現状の報告をすることとした。

 

「はい。レイシフト直後、付近で戦闘音らしきものを確認。

 ランサーさんによる偵察の結果、それがアナザーライダーが現地人を襲っている状況だと判明しました」

 

『アナザーライダー? 既にその時代に存在しているのか。

 それに現地人を襲うだなんて……一体どういうつもりで作られた存在なんだ……?』

 

彼らによる考察において、スウォルツの目的は恐らく2018年までの時代の継続。

そして常磐ソウゴという人間をオーマジオウという存在に成長させることだ。

アナザーライダーはその目的のために運用されるものだと考えていたが……

 

「……それを確認し、オルガマリー所長がアナザーライダーとの交戦を決定。

 現場に駆けつけ戦闘に突入したところ、そのアナザーライダーは即座に撤退してしまいました。

 現在、一人だけ救出できたその現地人の治療を行っています」

 

『……撤退? その現地人を襲う事の方が目的だったって事かい?』

 

「それで……こちらで現在治療している現地人なのですが、名前はネロ・クラウディウス。

 この時代における、ローマ帝国皇帝陛下なんです」

 

その言葉を聞いた二人が押し黙る。

 

第五代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス―――

間違いなく、この時代に楔として必要な人間であるということに疑いはない。

 

ならば何故、それをアナザーライダーが襲っていた?

それは、スウォルツの目的が時代の継続であろうという考察さえも揺らぐ事実だ。

 

「もしかしたら彼女が聖杯の所有者であり、この特異点の中心なのではないか。

 そう考えて、彼女に聖杯というアーティファクトに心当たりがないか……

 それも当然訊ねてみましたが、ネロ帝にはまったく心当たりとなるものはないそうです。

 狙われた理由は今もって不明となります」

 

『原因は聖杯ではない……あれ今、皇帝ネロのことを彼女って言ったかい?』

 

『ふーむ、だとするとネロ帝を狙う理由が分からないね。

 彼女が喪われれば、古代ローマ帝国の崩壊。ひいては人理の焼却に繋がる。

 だというのに積極的に彼女を狙うとするならば……』

 

『あれ、ネロって女性だったかな……』

 

ダ・ヴィンチちゃんの何の事もない、という様子に自分に自信を失うロマニ。

そんな彼を差し置いて、マシュとダ・ヴィンチちゃんは言葉を交わすのだった。

 

 

 

 

治療を受け、傷を治したネロは立ち上がり体の調子を確かめる。

アナザーライダーにやられた傷は既にほぼ完治していた。

軽く体を動かしながら、それを成したオルガマリーへと視線を向けるネロ。

 

「良い腕だな、魔術師よ。礼を言う」

 

目を向けられたオルガマリーが首を垂れる。

 

「……皇帝陛下のお役に立てたようで何よりです」

 

「そう気負ってくれるな。命の恩人に対し、そんな態度を強いるほど余は狭量ではないぞ。

 まあ、他のものたちがいる場では示しがつかぬゆえ、少しは敬ってみせてほしいがな」

 

そう言って、小さく溜息を吐くネロ。

 

そんなことをしている内に、この場から離れていたジャンヌが戻ってきた。

彼女は特に何かを告げることもなく、そのまま立香の背後へと控える。

そのジャンヌの様子を見てか、ネロが苦笑いした。

 

「すまぬな。余の兵らを埋葬してくれたのだろう。

 ―――余の言葉に二言はない。今言った通り、命の恩人に対し狭量など示さぬとも」

 

「―――はい」

 

困ったように笑って返すジャンヌ・ダルク。

それを馬鹿にするようにニヤニヤと嗤いながら見ているジャンヌ・オルタが、オルガマリーから睨まれた。

 

「でもさ、何で皇帝なネロがこんなところにいたの?」

 

先程からずうっとネロのことを見ていたソウゴの発言。

それを聞いてくらり、とオルガマリーの頭が揺れた。

対してそれを気にした様子もなく、ネロは口惜し気に表情を歪めた。

 

「……首都防衛の部隊が、近隣に敵の斥候部隊の存在を確認したのだ。

 余はその斥候たちを討ち払うべく、兵を率いて出陣した。

 そして、敵部隊と会敵するとほぼ同時。あの赤い鎧のものに襲撃された。

 結果は見ての通り、敵も味方も含めて生き残ったのは余のみ」

 

「―――敵斥候を相手にするために、皇帝陛下御自らですか?」

 

思わずといったところか。オルガマリーが口を挟んだ。

ネロはその言葉に困った様子をみせる。

 

「そなたら。先程からの様子を見てそうかもしれぬ、とは思っていたが……

 本当に、この国の現状を何も知らぬのだな」

 

「いいから。ちゃっちゃとそのこの国の現状とやらを話しなさいよ、皇帝陛下」

 

歯切れの悪いネロの言葉。それに呆れるように、ジャンヌ・オルタ。

オルガマリーの視線が彼女へと飛ぶ。

マスターに睨まれていても、彼女は気にした様子もない。

だが、そんな彼女の頭を押さえつけて、強引に下げさせる白い方。

 

「ちょ、お前……!」

 

「申し訳ありません、皇帝陛下。妹が失礼なことを……」

 

「はぁ―――!? 妹!? アンタ、ふざけたことを言ってるんじゃないわよ!?」

 

「よい、特に許そう。そして余も分かったぞ?

 そなたら、雰囲気こそ違えど瓜二つの容姿……双子だな?

 双子としてこの世に生まれたものたち……

 彼女らは、どちらが姉としての特権を享受し、どちらが妹として甘んじるか。

 正に血で血を洗う闘争の果てに、姉妹という関係を構築すると聞く」

 

「アンタ馬鹿じゃないの!?」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる似たような顔三人。

それを見ながら額を押さえて頭痛を堪えているような所長。

を、更に後ろから眺めている立香はむーん、と悩むように首を傾げていた。

 

「……マスター」

 

「清姫?」

 

そこにやってくる清姫の姿。

彼女は神妙な顔をして、珍しく声を潜めながら彼女に寄り添ってきた。

寄り添ってくるのはいつも通りといえばいつも通りだ。

 

「あの方、エリザベートそっくりですね……」

 

「エリザベートと皇帝陛下が?」

 

確かにハイテンションな態度な人だが、あれほどブレーキが壊れているような印象はない。

ただ確かに―――カーミラの事を語っていたエリザはあんな雰囲気だったろうか。

 

少し離れた位置でカルデアに報告をしていたマシュが、こちらに戻ってくる。

立香のことも通信範囲に入れたロマニが、ネロについてを語る、

 

『皇帝ネロ。為政者としては、良い面と悪い面の両方が大きいローマ皇帝だ。

 ―――ただ、西暦59年。

 今キミたちがいる時代から約一年前に、彼女は国政のために自らの母を謀殺している。

 それは彼女の来歴から見るに、彼女という皇帝が自死という結末に向けて転がり落ち始める、第一歩だったようにすら見える。

 ボクたちには予想することしかできないが、多分精神的に相当参っているんだろう』

 

「自分の母親を?」

 

それを聞いて、静かにネロを見つめる立香。

なるほど。追い詰められている、という点で彼女はエリザと似ているのか。

―――もしかしたらそれだけではないかもしれないが。

 

見られていることに気付いたか。

赤いのが白いのと黒いのから目を逸らし、立香を見返す。

 

「む? どうした、余に見惚れていたか?」

 

「うーん、否定はしません」

 

見ていた理由は別だが、美しい人であることは間違いない。

見惚れるような美しさである、と同意する意味も含めてそう返す。

するとネロは嬉しそうに何度も肯き、ちょいちょいと立香を手招きする。

 

「そうかそうか! ならもちっと近くに寄ると良い!

 余もそなたのような美しい少女は好きだぞ!」

 

そそそ、と立香の前に移動する清姫。威嚇の体勢だ。

自分と立香の間に立った清姫を見て、ネロが更に嬉しそうに笑みを大きくした。

 

「なんだ? 嫉妬か? 愛いやつめ! それもよし!

 そなたも美少女となれば! 二人纏めて余の傍へと侍らせてやるまでだ!」

 

身構えていた筈の清姫に抱き着いてみせるネロ。

きしゃー、と清姫が悲鳴をあげた。

 

「ちょ、やめなさい……! なんて破廉恥な……!」

 

「ふふふ、愛いやつめ。ところでこの頭の飾りはなんだ? 可愛らしい髪飾りではないか」

 

「竜の角です! 勝手に触らないでください……! 触っていいのはマスターだけで……!」

 

なるほど、どんな時でも強がってしまうタイプ。

清姫に抱き着いた皇帝を見ながら、立香は確かにエリザっぽさを感じないでもなかった。

 

「ところで、この国に起きていることとは」

 

「む。そうであった、その話の最中であったな!」

 

ネロの腕の中から解放された清姫が、一気に立香の後ろまで逃げてくる。

はいはい、と頭をぽんぽんと叩きながら彼女を迎える立香。

それを少し羨ましそうに見ていたネロが、しかしきっちりと表情を切り替えて口を開く。

 

「――――連合ローマ帝国。それが今、余のローマが敵対しているものたちの名だ」

 

「連合、ローマ帝国」

 

「うむ。この地に突如として現れた、自分たちこそが真のローマ皇帝だと称するものども。

 正統なるローマ皇帝たる余に刃を向ける、大逆の徒たち。

 今まさに、余のローマはそやつらとの戦争状態にあるのだ」

 

彼女の語るこの時代の事を聞き、皆の表情が引き締まっていく。

本来のローマを襲う、歴史には存在しない別のローマ。

だというならば―――その場所にこそ人理焼却の要石、聖杯があるはずだ。

 

「……連合ローマ帝国の出現により、余のローマは二分された。

 即ち余に従う者と、連合ローマ帝国に寝返る者。

 実に国の半数が、余ではなくその連合側の皇帝こそが真の皇帝であると判断したのだ。

 だからこそ余は示さねばならぬ。余こそが、今まで積み重ねたローマの歴史の上に立つ皇帝。

 ローマ帝国第五皇帝。ネロ・クラウディウスに他ならぬ、と」

 

彼女が実母の命を奪ってまで繁栄させようとしたもの。

それがたった僅かな時を置いて、まるで簡単に彼女への裏切りを示した。

彼女の心に圧し掛かるものは、それだ。

 

だからこそ彼女は前線にまで赴く。

この身、この存在こそがローマを導く皇帝である、と叫ぶように。

 

「そうして、余が連合の兵たちを相手にするため、この場に訪れた時。

 奴めが突如現れて、兵たちを襲い始めた。

 余のローマ兵と、連合のローマ兵。どちらかという区別もつけることなく、な」

 

アナザーライダー。

決定的な一撃は、オリジナルのライダーの力でしか与えられぬ敵。

サーヴァントであるならば、一時的に撃退することも可能かもしない。

だが、人間である皇帝ネロにそれは叶わなかった。

 

『つまり、あのアナザーライダーは正統なローマ帝国とも、連合ローマ帝国とも敵対している?』

 

「うん? 声だけするな、魔術師か?」

 

『どうもどうも。ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス陛下。

 私たちは彼女たちのサポートをしている魔術組織。

 カルデア、という組織なのだけれど陛下はご存じだろうか?』

 

ご存じのはずないでしょ、と。オルガマリーがそのダ・ヴィンチちゃんの声に顔を顰める。

案の定、ネロは聞き覚えの無い名前に首を傾げた。

 

「カル、デア……? すまぬがとんと知らぬ。

 余は魔術やそういった類のものへの造詣は深くなくてな……

 宮廷魔術師たちなら知っていたやもしれんが、既に彼らは連合の皇帝に討ち取られてしまった」

 

「連合の、皇帝ですか。陛下はその連合の皇帝と顔を合わせたことがあるのですか?」

 

「―――――うむ。まあ、な」

 

マシュからあがった疑問に歯切れの悪い回答を返すネロ。

そんな様子に、マシュは続けようとしていた問い掛けを打ち切った。

代わりにネロから話題を変えるような質問がとんでくる。

 

「その、アナザーライダー……というのか? 奴は。

 とにかく奴のことは余もよく分からぬ。少なくとも、先程初めて見た相手だ。

 各地の戦場からの報告にもあがってきたことはない」

 

『そうでしたか……』

 

そこまで聞いたソウゴが、声を上げた。

 

「初めて見るような奴がまず皇帝を狙ってきた、って事はさ。

 やっぱそいつの目的は皇帝なんだと思うんだ。

 だから俺がまずやるべきことは、皇帝を守ることな気がする」

 

「―――貴公が余を、か? それは……確かに助かる、のだろうな」

 

ソウゴの視線が所長へと向けられる。

アナザーライダーという存在が、この時代の要衝である皇帝ネロを狙っている。

その情報だけでも、ソウゴに皇帝を守護させるにたる情報だ。

オルガマリーもそれは理解している。

このまま彼女を一人で首都ローマまで歩かせる、などという選択肢はないだろう。

 

「……ロマニ、この周辺の索敵は終わっている?」

 

『ええと、それが龍脈の索敵という意味ならばおおよそは。

 地図上では……エトナ火山。

 そこならば物資を送り込めるだけの召喚サークルが設置できます』

 

「エトナ火山……ここからだと……」

 

ローマの地図を思い浮かべようと思考するオルガマリー。

しかし彼女が思い出す暇もなく、横合いから声が上がる。

 

「エトナ火山か? ここから陸路をとるなら首都とは進むべき方向が真逆だぞ?」

 

地理を知るネロからの言葉に小さく顔を顰める。

マシュ・キリエライトは召喚サークル設置に必須。

一応、ネロの護衛と召喚サークル設置でチームを分けることは可能だが……

 

「じゃあ俺が皇帝に着いて行って、所長と立香でそっちに行けばいいんじゃない?」

 

特に気負うこともなく、そう言ってのけるソウゴ。

確かに召喚サークルを設置するのは、カルデアの観測精度を向上させるためにも必要最低限だ。

だがそのための部隊の分割に、悩み込む。

サークルを設置して、すぐに首都ローマへと向かうにしても―――

 

「じゃあ、そうしようか?」

 

そんな風に悩んでいるオルガマリーを差し置いて、立香が勝手にそんなことを言い出した。

 

「ちょっ、なにを勝手に……!」

 

「え、じゃあ違う方法にしますか?」

 

きょとん、と。それ以外にあるのか、と。本当に不思議そうに彼女は首を傾げてみせる。

それが最も無駄がない、とは分かっている。

だが安全を期すならば部隊を分割すべきでない、という考えが……

彼女は周囲を見回して、自分の意見に同意するだろう者を探す―――

 

オルガマリーが代案を出すならば、と。ソウゴは彼女が口にする違う作戦を待つ姿勢。

彼女が作戦を提案すれば、じゃあそっちで、と。

特に何事もなく、彼女に賛成してくれるのだろう。

 

「まあ、現状そもそも情報が足りねぇ。知らねぇもんは警戒しようもねえだろ」

 

今まで押し黙っていたランサーが、そう言ってオルガマリーを見る。

決断力の低さを見咎められた、と感じた彼女は唇を噛み締めた。

それを察しながらしかし何も言わず、ランサーは話を進める。

 

「マスター。前の特異点で俺を呼び出した空間転移、距離関係なく使えるのか?」

 

「俺が場所を分からないと無理じゃないかな。

 だから多分、ランサーやジークフリートが俺のサーヴァントだから出来ただけだよ。

 距離は大丈夫だと思うよ。場所さえ分かれば」

 

「レイラインを辿れる相手だけか。じゃあそこの黒いのはどうだ?

 今は移譲してるが、元は坊主と黒いのの契約だ。場所は分からないか?」

 

「……黒いの?」

 

大きく顔を引きつらせ、ランサーを睨むジャンヌ・オルタ。

ランサーはその視線を気にも留めない。

 

言われ、目を閉じて考え込むソウゴ。

ランサーとの契約のラインよりは薄い気がする。かなり分かりづらいが。

だがどうだろう。これを長距離に伸ばしてしまうと、察知できなくなりそうな?

 

「うーん、どうだろう。あるのは分かるけど……

 遠くから呼べるかどうかはちょっと分からないかも」

 

「んじゃまあ……組み合わせから俺と黒いのを交代だな。

 俺が一時的にオルガマリーの嬢ちゃんについて、黒い方が坊主につく」

 

「……へぇ。それって私はアンタより役立たずって言ってるように聞こえるけど?」

 

ジャンヌ・オルタが薄ら笑いを消して、一気に冷めた微笑みを浮かべる。

それを向けられ、心底めんどくさいと言わんばかりに肩を竦めるクー・フーリン。

 

「俺でもお前でも大差ない。必要なのはそっちの赤いのの護衛だ。

 むしろそっちに回したいのは白い方だって話だっての」

 

「赤いの呼びはどうかと思うぞ、青いのよ。

 しかしそうだな……そのように色を指定して呼ばれるのも悪くはないが……

 赤薔薇の皇帝、などならとてもよいと思うぞ。青いのよ」

 

「うるせえ」

 

さあ呼べ。すぐ呼べ。もっと呼べ。

そんなキラキラした瞳で赤薔薇の皇帝、という名をプロモーションしてくる皇帝。

ランサーに一蹴されてしまった彼女は、残念そうに辺りを見回した。

その視線が白い方を捕まえる。困ったように苦笑するジャンヌ。

 

「その、お似合いの呼び名だと思います。赤薔薇の皇帝」

 

「そうであろう! うむ、話の分かる姉だな!」

 

他人の口からそうと呼ばれたのがよほど嬉しいのか。

何度も頷いてその響きを味わう皇帝陛下。

それを馬鹿にするような冷笑を浮かべ、黒いのも続けて赤いのに言葉を送る。

 

「私もお似合いだと思いますわ、赤バカの皇帝サマ。あと姉じゃないって言ってるでしょ」

 

「そうであろう、そうであろう! ……む? 今何か違わなかったか、妹よ」

 

「妹でも姉でもないって言ってるでしょ、この赤バカ!」

 

自分から仕掛けておいて、天然が返してきた言葉にキレる。

そのままぎゃーぎゃーと騒ぎ立てている隣。

 

「じゃあそういうことでいい? 所長」

 

「……………ええ。いいわよ」

 

やたら低い声での返答。拗ねてしまった。

ソウゴはこれから行動を共にすることになる立香を見た。

立香はこの状態になる原因となったランサーを見た。

ランサーはほっときゃその内戻るだろ、という顔をしている。

 

立香が今度はソウゴを見返して、一度溜息。

 

「所長。私たちは所長の言うことを聞くのが仕事、なんですよね」

 

「―――――」

 

「だったらどんな無茶ぶりでも、まずはしてくれないと。

 私たちはそれを達成するために頑張りますから」

 

「……確実に出来るかどうか分からないような案件を、考えもせず気楽に振れと?

 そんな指揮官がいるはずもないでしょう。いるとしたら酷い無能ね」

 

立香がまたソウゴを見る。ソウゴは少しだけ困ったように曖昧に笑う。

 

「―――だって所長。

 たった何十人っていう私たちに、世界を救ってくれって言ってくれたじゃないですか。

 あんなに堂々と宣言してくれたのに、もう忘れちゃったんですか?

 私たち全員、所長が言い出した出来そうにもない事のために戦ってるのにな」

 

拗ねるような言い回し。

少し意地の悪そうに、立香はそうやって彼女に笑いかける。

言われたオルガマリーが目を見開いて、ド級のアホを見る目で立香とソウゴを見た。

 

「……アンタたち。それで、自分が犠牲になったらどうするつもりよ」

 

「ならないよ」

 

オルガマリーを尊重するつもりだったのだろうか、黙っていたソウゴがここで口を開く。

無茶を通そうとして犠牲になる、など無能な指揮であればいくらでも考えられることだ。

それをありえないと断ずるソウゴを、オルガマリーは小さく睨んだ。

 

「なにを……」

 

「だって、立香も所長も、ロマニも、ダ・ヴィンチちゃんも、ランサーも。

 他の皆もここで戦って最善の未来を手に入れようとしてるんだから。

 その皆が最善の未来に辿り着けるように道を切り拓くのが―――

 俺が目指してる、最高の王様でしょ?」

 

拳を作り、目前に持ち上げるソウゴ。

彼は盛大に不敵な笑みを浮かべながら、けして大きくない……

しかし響くような声で宣言する。

 

「俺は俺の民を裏切らない。だから、絶対に世界も救ってみせる。

 所長が心配することなんてないよ。所長だって俺が救うべき民なんだから」

 

果たして、彼の自信に満ちたこの宣言に覚える不安は何なのか。

ただ一つ感じることは、彼の自信の源は余人には知りえぬ底知れぬ何かだということだった。

 

 

 




 
親殺し属性持ちのネロ。斧持たせる?
 

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