Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ジオウ最終回ですねぇ。
 


月の女神は“なに”をもたらしたのか0060

 

 

 

エトナ火山。

標高3000mを優に超す、ヨーロッパ最大の活火山。

その山肌を進軍しながら、立香はこれ魔術的な装備とか無かったらすぐ倒れてそう、と溜息を吐いた。

 

この火山には強い霊脈があるという証左か。

今の正統ローマと連合ローマによる戦争の戦没者らしきものたちの悪霊が出没している。

悪霊の巣窟、となればそこは聖人たるジャンヌ・ダルクの独壇場だ。

戦闘と呼べるようなものに発展することもなく、彼女の洗礼詠唱によって悪霊たちは還される。

現状、こちらには何の問題もなかった。

 

「先輩、大丈夫ですか? こちらにきてから歩き詰めになってしまいましたが…」

 

「このくらい平気だよ。所長は大丈夫?」

 

「………貴女と違って私の体は疲労しないの。自分の心配だけしてなさい」

 

「フォウフォウ、フォー」

 

立香の肩でフォウが鳴き声をあげる。

心配してくれるのだろう、肩の上にいる頭を撫でまわしておく。

 

『うんうん。その体を作った私をめいっぱい称賛してくれていいとも。

 また私の有り余る天才性が発揮されてしまった……』

 

「そんなことは言ってないわよ」

 

割り込んでくるダ・ヴィンチちゃんの声を押し返す。

確かに、彼女に与えられた新たな体はやたらと調子がいいのは確かなのだが。

心情さえ無視すれば、生身の肉体よりも性能は向上している。

だからと言って喜ぶ気など毛頭ないのだが。

 

「そうだな。そろそろ機嫌直したらどうだ、嬢ちゃん。

 歩き詰めな上に息も詰まるってんじゃ、ここじゃそのうち酸欠で倒れるぞ」

 

けらけら笑いながら、周囲の警戒を担当しているランサーがそう言ってくる。

死霊系の化物ばかりなので、彼が前に出る必要がないのだ。

 

「息も詰まる、とはつまり私が空気を悪くしてるとでも言いたいわけ?」

 

「マスターの心配なら要らねえよ、って言ってんのさ。

 俺の見立てじゃアイツは“勝つ”か“負ける”かなら、最終的に必ず“勝つ”タイプだからな。

 アンタもアイツの上に立って使うなら、そこんとこは自分なりに理解しておいた方がいいぜ」

 

別に心配しているわけじゃない、と顔を逸らしてしまうオルガマリー。

そんな彼女の横から、立香がランサーに問い掛けた。

 

「そのランサーの言う“勝つ”ために、私はソウゴが何でも擲っちゃいそうで怖いかなって思う。

 そこに関して、ランサーはどう思う?」

 

「どう思うも何もないさ。“俺たち”はそういうもんだろ。

 どういう結末になるかは俺には分からんがね、根本的な部分でアイツはこっち側だ。

 俺はマスターに協力はするが、止める気はねえよ」

 

彼は何の事もなく、ソウゴは自分たちと同じようなものだと語る。

クー・フーリン。戦いの人生を駆け抜け、そして戦場で命の幕を下ろした英傑。

 

その彼がそう見立てている。

彼は、命を燃やして戦い抜くことに忌避感はない。その果てが戦死であってもだ。

だからこそ、クー・フーリンは英雄と呼ばれた。

ならば常磐ソウゴも―――

 

「でも、私たちの邪魔もしないんだよね」

 

だが、そんな犠牲とともに名を上げる結末など看過できない。

彼一人ではその結末に辿り着くというのなら、自分が力を尽くしてそれ以外の道を示してみせる。

その覚悟をもって、立香はランサーを見上げた。

 

「邪魔ねぇ……まあ、マスターが何を選ぼうと俺はサーヴァントとして助力するだけだがね。

 しかしどうだかな、うちのマスターは……」

 

立香の言葉に半眼になるクー・フーリン。

その視線が立香とオルガマリーを軽く往復して、悩むように唸る。

そしてポツリと一言。

 

「そもそも坊主、女に興味あんのかね」

 

「そういう話はしてないけど……」

 

「ちょっと待ちなさい、何でいま私まで見たのよ」

 

呆れるような立香。唖然とするオルガマリー。

そして、にゅるりと場に入ってくる清姫の姿。

 

「今わたくしの伴侶に不倫を持ちかけられました? ふふ、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「先輩は清姫さんと婚姻関係にあるわけではないですので……

 この場合、伴侶というのは誤った呼び方かと。

 それにどちらかというと先輩とソウゴさんは姉弟的というかなんというかその」

 

「あ、いま姉妹の話をしました? はい、私も姉初心者として是非参加します!

 突然できた妹と距離を縮めるためには、どうすればいいのでしょうか?」

 

「フォー……」

 

最前で悪霊を払っていたジャンヌまでもが参戦する事態に。

進軍速度は落とさぬまま、彼女たちは火山霊脈の中心を目指していく。

 

 

 

 

荒野を歩きつつ、ジャンヌ・オルタは強く顔を顰めていた。

基本的に彼らの進軍はネロ・クラウディウスに合わせて行うことになる。

身体能力、という点では変身していない常磐ソウゴの方が低いだろう。

だが彼にはバイクがある。バイクを持っている。

 

重要なことだ、もう一度言おう。彼はバイクを持っている。

前の特異点では自分が爆砕したバイクであるが、そこはそれ。

デザインは自分好みではないが、最高速度にして約時速300キロは中々自分好みだ。

荒野を走るならもうちょっと欲しいかな、と思うが市街地であればこれでもいいか、とも思う。

動かしてみたい。いや、動かし方とか全然知らないけど。多分いける。いける気する。

 

もしこれがネロを送る旅路でなければ、自分が思う存分乗り回せたのに……!

とさえ考える。乗れない時のことは考えない。

彼女の今の表情は、ぐぬぬ、バイク乗りたい、乗ってみたい……! という感じ一色だった。

 

「……よいか? なぜあの黒い妹はあんなへんてこな表情をしているのだ?」

 

「うーん……俺にはちょっとわかんないかな」

 

一番後ろでへんてこ百面相になっているジャンヌ・オルタ。

それをちらちらと振り返りながら、皇帝とソウゴが小さく言葉を交わす。

そのヒソヒソ話を終えて、幾分か更に声を潜めたネロが、ソウゴに問い掛ける。

 

「そなた。……もしやどこかローマの外の国の貴き血を引いておるのか?」

 

「ないよ? なんで?」

 

あっさりと否定されたネロが、慄く。

 

「そ、そなたは先程、自身が王になる時の事を語っていたではないか。

 生国で王になる前に諸国を旅し見聞を広めている……みたいな、そういうアレではないのか?」

 

「俺の言う王様って言うのは、そういうんじゃなくて……うん。

 世界中の人間を全部幸せにできる人、ってことかな。だから、王様」

 

「世界中ときたか……それは、並大抵の王では不可能だろうな……

 しかしローマと言えば世界、世界と言えばローマ!

 そなたの言う王に近いのは世界中枢たるローマの皇帝たる余―――

 と、言えれば良かったのだがな」

 

途中まで声を高くしかけたネロ。しかし最後にはその声は尻すぼみになって消える。

 

「真なるローマ皇帝こそ、そなたの語る王にもっとも近きものだろう。

 いや、そのものと言うべきか……だが今の余は、余の愛する国にも民にも……

 そしてかつてこの国を治めた皇帝にも……」

 

「さっき言ってた連合の皇帝、って相手?」

 

ソウゴの問いかけに、ネロは顔を逸らして押し黙った。

彼女をそうまで落ち込ませるのは、果たして一体誰だと言うのか。

無理に訊き出すつもりもなく、ソウゴもまた黙る。

 

「………余のローマと連合の戦い、その最前線で暴れ回る連合の皇帝。その者こそ余の伯父。

 ローマ帝国第三代皇帝、ガイウス・ユリウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス。

 既に死したはずの者……カリギュラなのだ」

 

「死んだ伯父さん……?」

 

「………幼き頃に余を抱き上げた、伯父上の優しき腕を覚えている。

 先々帝、カリギュラの最期は月の女神に魅入られ、狂気に染まったものであったが……

 それでも余の中では、心優しき愛すべき伯父であったことに違いはない。

 何故、死者がこうして余のローマと敵対するかたちで現れたのかは分からぬ。だが―――」

 

「ああ。そういえば貴女、母殺しでしたっけ? 貴女の母と言えば、同時にカリギュラの妹。

 貴女の伯父からしてみれば、貴女は愛しい妹の仇でもあるわけね」

 

トリップしていたはずの黒いのがいつの間にか復帰していた。

そんな、ネロを煽るような口調で彼女を突いてみせるジャンヌ・オルタ。

いきなりそういうこと言う? と言いたげな視線を向けるソウゴ。

彼の視線を無視して、にやにやと笑ってみせる。

 

「………そうなるな。余が国のために切り捨てた母、アグリッピナ。

 その復讐のために甦った、と言われれば……それも道理の一つなのやもしれぬ。

 ―――だが、余に後悔はない。余はローマとその民のために……

 今度は、カリギュラですらも斬り伏せてみせようとも」

 

彼女は国を守るため、今までの彼女を作ってきた背景さえも敵に回している。

心労など積み重なるに決まっている。

敵と戦うつもりで、自分の心を切り崩しているようなものなのだから。

 

こうしてほんの少しの短い時間。彼女と関わっただけで、伝わってくる。

この戦いを続ければ、そう遠くない未来に彼女は自壊するだろう。

その結論に辿り着いたソウゴが、目を閉じた。

 

「だから、なのかな?」

 

小さく呟くような声。

それを拾ったネロが、ソウゴの顔を覗き込んでくる。

 

「む? どうした、何か気になることでもあったか?」

 

「ううん、大丈夫。あ、街が見えてきた?」

 

まだ遠いが、首都ローマの遠景が見えてきた。

あそこに辿り着き、立香たちが戻ってくるまでネロの護衛をする。

それが彼の今の仕事だ。

 

「―――何よ、特に荒事もなかったじゃない。こんなんだったら……

 いや、やっぱこっちで良かったわ。こっちには変な白いのいないし……

 ―――――来るわよ、元マスター。準備しなさい」

 

あるいは元ルーラーとしての残り香として、か。

彼女はこちらに接近してくるサーヴァントを検知した。

その手の中に旗を呼び出し、腰に佩いた剣に手を掛ける。

 

「元マスターって」

 

彼女の忠告に反応してドライバーを装着したソウゴ。

自分の呼び名について、何それと言わんばかりにジャンヌ・オルタへ視線を送る。

 

「あら。呼ぶや否や私をマスターに上納したのは貴方でしょう?」

 

「そうだけどさ。まあいいか」

 

「……敵か?」

 

サーヴァントを察知できるジャンヌ・オルタの知覚頼りの察知だ。

人間の……ネロの有する他の五感では、その相手は捉えられない。

 

だが疑う気もないのか、赤い剣を構えて周囲に目を巡らせるネロ。

彼女がそうして剣を構え前に出た瞬間に、空気が変わった。

溢れんばかりの殺気、愛憎。

そうとしか言い表せないような、感情の渦がこちらを巻き込んできた。

 

「噂をすれば、じゃないかしら?」

 

オルタの言葉に、ネロの柳眉が大きく歪んだ。

目前の丘の上、風景の上に染み出してくるように一人の男の姿が現れる。

 

霊体からの実体化。

そうして現れたサーヴァントの格好は、黄金の鎧と赤いマント。

短く切り整えられた藍色の髪は風に揺らしながら、ネロを見つめる暗く沈んだ瞳。

その色は既に彼の理性は駆逐され、狂気こそが彼の精神を占めているのだと知らしめる色合い。

 

「――――我が、愛しき、妹の、子よ――――」

 

「伯父上……!」

 

ローマ帝国第三代皇帝、カリギュラ。

その姿が、彼らの前に立ちはだかっていた。

 

「いや……いいや、もはや親愛でその名を呼ぶまい……!

 現世に彷徨い出て、余の治めるローマを脅かさんとする連合ローマの手の者。

 叛逆者カリギュラよ! 申し開きがあるならば口にするがよい!

 第五代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウスとして余はそれに裁きを下そう―――!!」

 

「余の―――振る舞い、は、運命、で、ある――――!

 捧げよ、その、命。―――捧げよ、その、体!」

 

前に立ち剣を構えるネロ。

その彼女しか目に入らぬと言わんばかりに、彼は彼女だけを見つめている。

歯を砕かんばかりに噛み締めた彼が、一度大きく息を吸う。

一拍置いて、その呼気とともに彼は大音量を吐き出した。

 

「す べ て を 捧 げ よ――――!!!」

 

瞬間。大地を踏み砕いて、黄金の鎧の皇帝が奔った。

人智を超える筋力から生み出される、圧倒的なパワーの疾駆。

それはまるで砲弾めいてネロへと向かって撃ち出され―――

 

間に分け入ったオルタの旗によって受け止められた。

 

「ッ……!」

 

「ネェ……ロォオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

彼の持つ元来の強靭さを、更に狂気が押し上げる。

それは最早、サーヴァントですらも止め切れぬ暴力の化身。

狂気で自身の霊核すら軋ませながら、その暴虐はただネロだけを目指す。

 

耐え切れぬ、と判断したオルタは舌打ちしながらそのまま吹き飛ばされる。

背後に庇ったネロを巻き込みながら、彼女たちは大きく後ろに飛ばされた。

 

〈仮面ライダー! ジオウ!〉

 

追撃をしかけようと再び構えるカリギュラ。

その前に飛び込むのは、変身を完了したジオウの姿。

それをネロに至るまでの障害だと認識したカリギュラが、吼えながら突撃する。

 

「ネロォオオオオオオオオッ!!!」

 

突き出される正拳。それをジオウは腕を交差させて受け止める。

直撃。まるで何かを爆砕するかのような大音響。

生身の拳が発生させたとは思えぬエネルギーが、ジオウの装甲すら震わせる。

 

衝撃に麻痺しかけた腕でしかし、ジオウはカリギュラの腕を捕まえた。

そのまま彼の顔を、自分の方へと思い切り引き寄せる。

 

「あんた、皇帝の伯父さんなんでしょ? なんでそんなことするのさ」

 

「―――――我が愛しき妹の子、奪いたい、貪りたい、引き裂きたい……!

 女神が如きおまえの清らかさ美しさその全て……!

 余の、全身で、無茶苦茶に蹂躙してやりたいッ――――!!」

 

ジオウの言葉が届いているのか、いないのか。

カリギュラの意識は全てがネロに向いている。

 

オルタに巻き込まれて吹き飛ばされたネロ。

彼女は起き上がりながら、その言葉に何かを堪えるように表情を歪めた。

 

カリギュラのボルテージは上がり続けている。

何が彼の奥から湧いてきているのかは分からない。

だが、ネロを前にしていることで、彼からブレーキは存在しなくなっている。

取っていた腕を離し、同時に膝蹴りで彼の胴を打ち抜くジオウの一撃。

 

大きく後ろに打ち飛ばされるカリギュラ。

しかし痛みを感じる、などという機能は働いていないのか。

彼は当然のようにすぐに復帰して再び加速を開始する。

 

「クゥ―――オォオオオオオオッ!!!」

 

「チッ……!」

 

止まる気のない皇帝の進撃。

それを前に、オルタが展開した黒炎の剣を射出する。

殺到する剣群を気に留めることすらせず、ただただ彼はネロだけを見ていた。

 

「――――そうか。それほどまでに、我が母を……貴方の妹を殺した余を憎むか」

 

幼年期だけ傍にいた優しい伯父。

そんな彼は、今は目に底知れぬ狂気だけを湛えて立ちはだかる。

 

黒炎の剣を素手で弾き飛ばしながら、彼の歩みは止まらない。

呪詛を含む炎に身を焼かれながら、彼の咆哮は止まらない。

 

「こいつッ……!」

 

「ネロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ―――――!!!!」

 

自身の攻撃をものともせず、ただただ迫ってくる相手。

それにオルタが仕方なし、ネロを引っ掴んで退避しようとした。

だがネロが手にした剣の柄を強く握りしめる。

 

「……ならば、その憎悪は余自らの手によって断ち切るまで!

 余こそがローマ帝国現皇帝、ネロ・クラウディウスなのだから――――!!」

 

「ちょ、勝手に動くな……!」

 

自身に向かってくる先々帝の前に立ちはだかる。

芸術家としての己で打ち上げた剣を手に、彼女は斬り込む構えを見せた。

 

漸くあと一歩。彼が求める彼女に手の届くところにまできた。

カリギュラが発する熱は臨界に達する。

ネロが構えた剣が焦熱を放ちながら、強襲するカリギュラを待ち構える。

 

「っ……!」

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

ネロに手を伸ばすカリギュラを横合いから弾くべく、ジオウもそれを追う。

そうして――――

 

 

周囲の全てが凍り付いた。

 

今までの高速戦闘が嘘のように、流れる風景がスローになる。

ジオウも、ネロも、オルタも、カリギュラも。

粘度の高いゼリーの中で動いてるように、ふんわりとした動きに変わった。

 

―――なに、これ。体が……()()()()する……!

 

カリギュラさえも含む、全員が驚愕する。

そうして、その場に高らかにエンジンの音が轟いた。

その音がエンジンという機関の音である、と理解できるのはジオウとオルタだけであったが。

 

〈ドライブゥ…!〉

 

砕けた自動車のフロントのような顔で、何度か目らしく部分が明滅する。

ゼリーに溺れるような重さを無視し、それは普通に足を運んでいた。

ジオウを通り過ぎ、カリギュラを通り過ぎ――――

オルタが引き戻そうとしている、ネロの目前で足を止める。

 

―――アナザーライダー……! スウォルツのとは、違う力……!?

 

アナザーライダーはネロがゆっくりと驚愕に目を見開いていく様子を眺め―――

クラクションのような音を鳴らしながら、拳を強く握り込んだ。

数秒の後、その拳が彼女の命を奪うだろうことは想像に難くなかった。

 

どれだけ動こうとしても、その力は振り切れない。

ただただ体がのろまになって、動きから軽さが一切失われているだけ。

 

僅かばかりの、時間の隙間。

皇帝ネロに、アナザーライダーが与える死が届くまでのカウントダウン。

 

―――ジオウの目の前で、狂獣が吼え猛る。

 

「――――“我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)”ァアアアアアッ――――!!!」

 

その瞬間に。

逆に、アナザーライダーにこそ驚愕が訪れた。

 

弾き飛ばされるアナザーライダーの体。

それは、ネロに向き合うことでがら空きだった背中を、カリギュラが強襲したものであった。

ネロを、オルタを飛び越して、アナザーライダーの赤い車体が宙を舞う。

常軌を逸した膂力は、堅固なるアナザーライダーの装甲にすらけして無視できぬダメージを強引に通してみせた。

 

地に落ち、転がりながら車のライトに似たその目を光らせるアナザー。

その目に初めて、皇帝ネロ以外の相手が映る。

同時。初めてカリギュラ帝の目に、ネロ以外の―――ネロを害そうとする“敵”が映った。

月光を全身に帯びた狂気の皇帝が、真昼の月へと咆哮した。

 

ガクリ、とジオウの体が揺れる。

今のカリギュラからの痛打を受けて、アナザーの能力が解除されたのだ。

 

「戻った……! 今のは……!?」

 

「今のは重加速現象。

 仮面ライダードライブの動力源、コアドライビアが発生させる超重力空間だ」

 

ウォズの出現はまあいいや、と流す。

そんなことより知ってることを聞かねばならない。

 

「つまりあいつはアナザードライブ? 皇帝の伯父さんはどうやってあれを?」

 

「ガイウス帝、カリギュラ。彼は月の女神の寵愛と加護により狂気に染まった皇帝。

 つまり、月の女神の眷属というわけだ。

 彼の宝具は本来、月の魔力が帯びる狂気を伝播させる精神干渉宝具のようだが……

 今回あの宝具の効果によって、自分と月の結びつきを強化したようだ」

 

「………つまりどういうこと?」

 

小さく笑ったウォズが、晴天を見上げる。

今は見えない月こそ、カリギュラがこの現象を突破するための切り札だった。

 

「狂化を更に進行させる代わりに、彼は月の女神の加護を強化した。

 月の魔力によって彼は重加速を跳ね除けたのさ。

 月の重力は地球のおおよそ六分の一。つまり、彼にかかる重加速の効果も六分の一だ」

 

「重加速で、重力……」

 

体が動くようになったオルタが、即座にネロを抱えて横に跳ぶ。

その腕の中、呆然としたネロがカリギュラを見ていた。

 

「――――伯父上?」

 

「クァアアアアアアアアアアアアアアアアッ――――――!!!」

 

黄金の鎧が疾駆する。

くすんだ赤色の鎧は、それを迎え撃つようでもなくただ立っている。

ただ、その腰に巻かれたベルトらしきものが言葉を吐いた。

 

〈スピンミキサー…!〉

 

アナザードライブの胴体に灰色の車輪が出現する。

それが外れて宙を舞い、回転しながら灰色の弾丸を吐き出し始める。

自身を目掛けてくるその弾丸を、しかしカリギュラは避けもしない。

 

黄金の鎧に直撃し、弾け飛ぶ灰色の塊。

何度当たっても足を止めぬカリギュラが、アナザードライブに辿り着く―――

一歩手前。

 

「グ、ガ、グゥウウッ………!!」

 

彼の体は全身隅々まで塗りたくられたコンクリートで固まっていた。

足と地面も完全に固まり、一歩たりとも動けない状況。

それを内側から破らんともがくカリギュラ。

 

―――その彼に、横合いから巨大な質量の塊が激突した。

 

「グガァッ…………!?」

 

コンクリートを粉微塵に粉砕する衝撃。

その勢いのまま激突されたカリギュラが、凄まじい勢いで空を飛んだ。

地面に落ちれば、草原をはぎ取りながら転がっていく彼の体。

 

「お、伯父上……!」

 

役目を果たした、と言わんばかりのクラクション音。

どこかしこも壊れているようにしか見えない赤い車両が、アナザードライブに並んでいた。

壊れる前はスポーツカーだったのだろうか、と見えるフォルム。

それを一度見て、アナザードライブは再びカリギュラを見る。

 

立ち上がろうとはしている。

が、狂気でさえも無視できぬダメージになったか。

ガクガクと震えながら、何とか立ち上がろうとしてみせているだけだ。

 

――――つまりもう、重加速は防げない。

 

アナザードライブの動力が加速し、再び重加速を始動する。

そうしてゆっくりと再びネロを目掛けて動こうとして―――

 

〈プリーズ!〉

 

周囲に黄色い魔方陣が奔る。重加速特有の空気感が失せていく。

重力操作の能力を持つ魔力の迸りが、周囲一帯の重力を平定させる。

アナザードライブが、その下手人へと振り返る。

 

ルビーの魔石。竜の頭部に、魔方陣。

希望の魔法使いの力をその身に纏った時の王者が、そこにはいた。

 

「手品の種は教えてもらったから―――こっからは、魔法の時間だよ」

 

〈ウィザード!〉

 

 

 




 
宇宙は無重力なので無効。
月は重力六分の一なので効果六分の一。
かんぺきなりろんだ。
 
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