Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ジオウロス、感じるんでしたよね?
ジオウロス通り越して平成ライダーロスなんだよなぁ…
悲しいなぁ…あっ、そうだ(唐突)
平成を滅ぼして平成をやり直せば、もう一度平成ライダーを楽しめるんじゃないか?(過激派)
 


皇帝が選ぶ道は“どこ”へ向かうのか0060

 

 

 

魔力が漲る。

ゆるりと下げた手の中に炎を滾らせながら、彼は歩みを開始した。

アナザードライブが展開する重加速空間。

それを相殺するための空間の重力制御に、彼の魔法能力は大きく割かれている。

他の魔法の出力は、前のようにはいかないだろう。

 

目前に迫る、自身への脅威。

それを理解してアナザードライブは、ネロから視線を切った。

ジオウへと向き直ったその体に、新たなタイヤが出現する。

 

〈ミッドナイトシャドー…!〉

 

現れると同時に宙へと舞う、紫色の手裏剣の如き車輪。

一つだけ射出されたはずのそれは、二つ、三つと増殖しながらジオウに向け殺到する。

 

ジオウの右手が虚空に伸びる。

ジクウドライバーが輝いて、その手の中に剣を出現させた。

同時に、左手の手元に魔方陣が展開され、そこから同じように剣が現れる。

 

〈ジカンギレード!〉

 

オリジナルと複製された二刀を構え、ジオウは飛び交う車輪の中へと踏み込んだ。

 

狙った相手を幻惑するかのように、複雑な軌道を描き迫りくる手裏剣の車輪。

それを両手の剣を用い、切り払いながらアナザードライブへと突撃する。

 

両サイドから迫る二つの車輪。

それを受け止める両の剣。

同時に、がら空きの背中から三つ目のミッドナイトシャドーが迫る。

ウィザードアーマーの背に魔方陣が浮かび、そこに風の力が結集した。

 

二つの車輪を受け止めている、ギレードを構える両の手首を翻す。

それと同時、風を纏いながら大地を蹴って大きく飛び上がる。

瞬間、ジオウが立っていた場所で三つのミッドナイトシャドー同士が激突した。

同士討ちに弾け飛ぶ車輪。

 

それを上から見下ろしながら、ジオウの体はアナザードライブを目掛けて飛んだ。

白光を曳きながらその姿を追うアナザードライブの視線。

 

〈ジャスティスハンター…!〉

 

空を舞うジオウを目掛け、新たに射出される車輪。

それが二つに分割し、彼を挟み込むように位置どった。

同時、それから無数に吐き出される柵となる大量の鉄棒。

 

「――――閉じ込められた?」

 

車輪は一瞬のうちに牢獄に変貌し、ジオウを空中で閉じ込める。

その柵を跳ね除けようと、剣を持つ腕を振るうジオウ。

ギレードの刀身が牢の柵に触れた瞬間、電流が奔り弾き飛ばされた。

 

その様子を見ながら、腰のベルトらしき部分に手を当てるアナザードライブ。

ジオウを拘束するタイヤをそのままに、新たなタイヤを胴に換装していた。

 

〈ファイヤーブレイバー…!〉

 

装着された赤いホイール。

それに巻かれていた梯子のようなアームが、牢屋を目掛けて一気に伸ばされた。

先端のアームが牢屋の柵を掴みとる。一瞬だけアームが撓む。

邪魔者を排除するため、その牢屋を彼方へ投げ捨てるための投擲準備。

 

次の瞬間には、アームが最大まで延長されて牢屋を放り投げていた。

機械腕の生み出す強大なパワーでの投擲は止まらない。

止まることなく彼方へと飛んでいくジャスティスハンター。

 

そうして、敵の排除に成功したと確信するアナザードライブ。

その頭上から、今抱いた確信を打ち砕く声がする。

 

「脱出マジック成功、かな? 脱獄マジック?」

 

「………ッ!?」

 

しかしてアナザードライブの頭上にジオウはいた。

投げ捨てられた牢獄には、床となるジャスティスハンターのホイールに穴が開いていたのだ。

脱出不可能な空間から脱出。それこそまさしく魔法使いの独壇場。

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フォールの魔法はジャスティスハンターの拘束に綻びを生み出した。

それを潜り抜けたジオウの姿は、アナザードライブの頭上を取ったままだ。

右手に持った剣を逆手に返し、ドライバーと装填されたウォッチを連続で押し込む。

 

〈フィニッシュタイム! ウィザード!〉

 

そのままの勢いでジクウドライバーを回転させる。

ドライバーが、鐘の音とともに必殺を告げる声を轟かせる。

 

〈ストライク! タイムブレーク!〉

 

逆手に持っていた剣を順手に戻す。

ウォッチから放出されるエネルギーで、大きく燃え上がる二振りのジカンギレード。

炎の剣撃が、アナザードライブを頭上から強襲した。

 

〈ロードウィンター…!〉

 

アームの伸びきった車輪を捨て、新たな車輪を呼びだす。

召喚した車輪は回転しながらアナザードライブの前方に展開し、吹雪を吐き出した。

迫りくる炎の太刀を迎え撃つ、吹き荒れる氷雪の渦。

 

ジオウを後押しする風のエレメントが加速する。

炎に燃える剣は氷雪の中に斬り込んで、それを蒸発させながら標的に向かってただ奔る。

吹雪を発生させる車輪を斬り捨てながら、二振りの剣がアナザードライブへと叩き込まれた。

 

ダメージの深刻さを物語るかのように、大量の火花を撒き散らしながら吹き飛ばされる車体。

その姿が黒い煙を吐き出しながら、丘の端へと盛大に転がっていく。

けして無視できないダメージは与えた。けれど、致命傷にはならないのだ。

あれがアナザードライブである限り。

 

「ドライブの力……」

 

アナザードライブを撃破するための、ドライブの力。

それは一体どういうものなのか。想像してみる。

だが、ウィザードの時と比べると、それが酷く曖昧なものに感じる。

何も知らないから? いや、それはきっとウィザードの時もそうだったはずだ。

なのにこの浮かび上がってこない感じ……

 

―――ウォズの姿はもう消えている。

重加速現象という、必要な情報を渡したらすぐに消えてしまった。

 

「だとしたら……まだ早い? いや、多分……」

 

ソウゴの顔が、オルタとネロを追う。

答えはまだ分からないが、少なくともここで出せるものではないのだと思う。

 

「オ、オォオオオオッ――――!」

 

無言を通していたアナザードライブが、クラクションの音とともに吼えた。

それに連動するかのように駆動を開始する赤い車両、アナザートライドロン。

その車体が吹き飛ばされたアナザードライブの元まで駆けつける。

扉が開き、即座にその中へと飛び込んでしまうアナザーライダーの姿。

 

アナザードライブを搭乗させたその車は、一息に最高速度にまで加速する。

時速560キロに及ぶスピードで、赤い車体はローマ首都方面へと走り去っていった。

 

「………やっぱり」

 

ジオウの視界センサーによる情報集積、それによる判断。

あの車両の進行方向はローマ首都方面であっても、ローマ首都が目的地ではないことが分かる。

やはり標的は、ローマ皇帝ネロ・クラウディウス個人なのだ。

 

すぐにジオウのセンサーから範囲外へと消えるアナザートライドロン。

それを見届けてから、彼はネロとオルタの方へと振り返る。

ネロは、今なお立ち上がろうとするカリギュラに視線を向けていた。

 

「伯父上……」

 

「―――我が、愛しき、妹の、子……ネロ……」

 

彼は宝具の代償に更に狂気を引き上げた。

それでも彼はただ、ネロだけを見ている。

自身を殺そうとしている。自身のローマを壊そうとしている。だが、同時に自分の命を守った。

そんな彼にどのような顔を見せればいいのか、ネロの表情は歪んだまま。

 

「な、ぜ……捧げぬ……何故、捧げられぬ……美しき―――我が、我が……我、が………」

 

狂気一色に染まった筈の瞳。

だが、そこに何故か混じって見える彼の哀しみ。

そんな彼と目を合わせているネロの目の前で、カリギュラの姿がゆっくりと消えていく。

 

「伯父上……!?」

 

悲痛に声をあげるネロ。その後ろで、オルタが顔を顰めた。

退去ではなく霊体化だ。

 

ただでさえ霊基に圧倒的な負荷をかけていた戦闘行動の上。

更にコンクリートに拘束されながら、時速500キロを超える大質量の直撃。

あれほどのダメージを受けてなお、彼は存命しているのだ。

そう簡単に回復できる状態ではないだろう。

むしろ放っておけば、その内勝手に限界がきて退去する可能性の方が高い。

 

「死ぬんじゃないわ。逃げる気よ」

 

だがむざむざ逃がしてやる理由もないだろう。

こっちの防衛目標を狙ってやってくる相手だ、さっさと処理した方が楽に違いない。

オルタがネロより前に踏み出せば、ネロは体をびくりと揺らした。

それを気にもせず、剣を握る手に力を籠めて―――

 

「オルタ」

 

ジオウが、彼女の隣にまできていた。

彼女の肩に手を置いて、首をゆっくりと横に振るジオウ。

はあ? と。彼女は理解できないといった風に、顔を大きく顰める。

 

「―――私が言えることか、というのは置いといて。正気?

 アイツ逃がせば、アンタの言う民が犠牲になるんじゃないの?」

 

「それを決めるのは、今のこの国の王様でしょ」

 

ジオウはそう言ってネロを見る。

カリギュラを逃がす理由として、彼は既に戦闘不能という言い訳は立つだろう。

だがそんな言い訳とは別のところで、彼女にはカリギュラを殺したくないという意志がある。

 

ローマ皇帝として、自分はどこまで奪えばいい。

生母を処してまで繁栄させようとした国は、半分は自分ではないローマを選んだ。

それでもローマ皇帝としての意を示さんと立ち誇っている。

その意志を示すために、次はネロ・クラウディウスが皇帝ではない、童女だった時の幸福な記憶まで斬り捨てなければならないのか。

 

分かっている。やらねばならない。だって、ネロ・クラウディウスはローマ皇帝だ。

己のことを()と呼び顕すようになった以上、絶対に成し遂げると決めたことだ。

 

灼熱の剣を握り締める。

隕鉄より打ち出した彼女の剣は、霊体であるサーヴァントにも傷を負わせられるだろう。

カリギュラが完全に消える前にこの剣を投擲し、彼の頭を貫けばいい。

それで、ローマの前から脅威は一つ消えるのだ。

 

「っ……!」

 

「……俺はさ。それはしょうがないと思うよ。

 最後は止めるにしても、伯父さんが何でこうなっちゃったのか。知りたいもんね。

 ただ知らないまま、こんな風に終わらせたって納得なんかできっこないでしょ」

 

ネロは行動を起こせぬまま。カリギュラの姿は消え失せた。

迫ってきた時のような高速移動は見る影もない。

ゆっくりと離れていく彼の存在。

 

今からでも追えば、呪力の炎ならば彼にトドメを刺せるだろう。

だが、ジオウはそれを許しそうにない。

呆れるように溜息を落とし、肩を竦めて武装を解除するオルタ。

 

ネロはただ、投げられなかった剣を握り締めながら俯いていた。

 

 

 

 

「うむ! 此処こそが余のローマ! 護衛の任、大儀であったぞ!」

 

「おぉ」

 

ネロの復帰を待ち、再び帰還の途についたソウゴたち。

終始無言であった彼女とともに首都についた途端、彼女はそう言って二人を労った。

なにこいついきなり、と胡乱げな表情になるオルタ。

ソウゴは周囲に見える見慣れない光景に、ふらふらとうろつき始めようとする。

 

「勝手に動くな!」

 

ソウゴの襟首を捕まえるオルタ。

ソウゴとオルタには一応レイラインがあるが、細くて辿るのが難しい。

この広い都市で離れた場合、本気で大捜索になる可能性が高いのだ。

 

「なんかこれ、今までで一番タイムスリップ感ある気がする!」

 

「うむ? うむ、よく分からんが余のローマに魅了されたというなら良し!

 そなたたちの仲間が合流するまで、とりあえずは余の館に部屋を……む、しまったな。

 彼女らがローマに着いた時にどうやって知らせてくれるかを決めていなかった」

 

「必要ないわよ、そんなもの。

 あっちのレイポイント設置が終わった後なら、必要ならこっちに通信が入れられるもの」

 

「ふむ、あの時の声だけの魔術師か。ならば、余の館で待っていればその時は知れよう。

 未だ火山の踏破に精を出しているだろう彼女たちには悪いが……

 一足先に休息を取らせてもらおうではないか」

 

誰より休息を必要としているだろう、ネロからのその言葉。

その言葉を聞いたオルタは、小さく笑った。

 

「ま。休息が必要だってのはアンタの方なんでしょうけどね?」

 

「――――そうだな。そうやもしれぬ」

 

一気にネロの声のトーンが下がり、そのまま街の中へ踏み込んでいく。

そのような反応を返されたオルタが、むすっとしながらその後に続いた。

彼女に襟首を掴まれたまま引っ張られるソウゴが、小さく呟く。

 

「ショック受けられて困るくらいなら最初から言わなきゃいいのに」

 

「は? 困ってる? 私が? アンタ、目が腐ってるんじゃないの?」

 

ソウゴに目を向けず、そう言いながらオルタはネロの後を追う。

なんだかなぁ、と思いつつソウゴもそれに引き摺られていった。

 

 

 

 

「では、ターミナルポイントを設置します」

 

レイポイントへ辿り着いた立香ら。

そこでマシュが盾を設置し、召喚サークルを確立していく。

これでこの時代の観測精度、通信精度も向上するはずだ。

 

『………うん、ポイント設置を確認した。

 これでこっちから離れたソウゴくんたちとも連絡が……』

 

マシュが設置していた盾を取り上げる。

山道にはほぼ敵対する生物の姿はなく、漂う悪霊ばかりであった。

目についたものはほぼジャンヌ・ダルクの手によって浄化されたが、それでも時勢から考えてこの場から悪霊が尽きることはないだろう。

ここに漂うものたちは、ローマ同士の戦争による戦没者の嘆きなのだから。

 

「…………」

 

「マシュ? 大丈夫」

 

「あ、はい。大丈夫です、先輩」

 

取り繕うように微笑んで、マスターへと顔を向ける。

ここに集約する悪霊は、つまるところ人間同士の戦争の爪痕だ。

フランスの時も人間の闘争を見た。が、それは異形の侵略者に挑む戦いだった。

人間同士の戦いではなかった。

 

「……見るのがつらい?」

 

「いえ、そんなこと……ですが、これも人間なのだと……

 ―――分かっていたつもりでした。

 その、まだ戦時中の方たちを直接見たわけでもないのに、こんな言い分はおかしいのですけど。

 ただ、その、アマデウスさんから言われた言葉は、想像以上に重いものだったのだと。

 そう……気を引き締めて、いました」

 

小さく笑った立香は彼女を抱き寄せ、その頭を撫でるようにした。

 

「せ、先輩?」

 

「大丈夫大丈夫、マシュには私がいるから」

 

彼女は照れるように一度目を逸らし、しかしゆっくりと頷いた。

 

「はい……そうですね。わたしが抱えているものの中で、何より重いもの……

 それはきっと、誰かの言葉より、誰かの想いより、マスターの命ですから」

 

強く立香を見返すマシュの瞳。

一秒、二秒。マシュに面と向かって重いと言われた立香が、俯いた。

震える声の反論がマシュに向けられる。

 

「言うほど……重くはないと思うよ。私の、体重は」

 

「あ、いえ。そういう話では……」

 

といやっ、とマシュに抱き着く立香。

困惑しながら受け止めるマシュ。サーヴァント基準の腕力からすればまあ、軽いものだ。

その事実に苦笑しながら、彼女はただマスターを持ち上げる。

 

「重い?」

 

「――――はい。とても」

 

立香の笑顔が凍る。立香の体重:とてもおもい。

自分が何としても守ると誓った命の重さを感じながら、マシュはここで抱いた気持ちを整理する。

 

人と人が争う特異点。

彼女が尊さを信じる人の命を、奪わなければならないかもしれない戦場。

―――たとえそうなったとしても、守らなければならないものがここにある。

震えそうな体を叱咤する。何としても、守るのだと。

 

それを傍目に見ていたジャンヌが、小さく息を落とす。

その景色は、けして良い兆候ではない。

立香だってどうにかしなければならない、と分かっているからああしている。

けれど、前に立たない彼女だからこそ何も言えない。

何も言わないことで、マシュが守るべき尊いものであり続けることでしか彼女の心を守れない。

 

今のジャンヌに出来ることは、彼女たちに突撃しようとしている清姫を腕力で押さえつけることだけだった。

人心を導き、そして祈りで竜さえも調伏した聖女マルタの信心の深さに恐れ入る。

今のジャンヌ・ダルクでは、このドラゴン清姫を力尽くで抑えるしかないのだから。

 

それを何やってんだこいつら、という目でランサーが眺めていた。

 

「………ローマの防衛。いえ、どう考えても聖杯は連合ローマの手の中。

 だとしたら……連合ローマへの侵攻?」

 

ぶつぶつと呟きながら、今の状況を確認していくオルガマリー。

最終目標としては、恐らく連合ローマが有する聖杯の奪取となる。

それとこの時代への出現も確定しているアナザーライダーの排除か。

 

『いいかな、オルガマリー。ソウゴくんとの通信がとれた』

 

「―――ええ。向こうはもうとっくにローマに到着しているのでしょう?

 こちらもすぐにそちらへ向かって……」

 

あぁー…、と。歯切れの悪いロマニの声。

また何かやったのか、と納得してしまった自分が憎らしい。

言うことを聞け。何かするなら指示を仰げ。

 

「……今度は何?」

 

『いや。ローマ道中でアナザーライダー……

 今回はアナザードライブと呼ばれる存在のようだ。それと交戦したらしい。

 更に、連合ローマ帝国所属のサーヴァント。

 ローマ帝国第三代皇帝、カリギュラの襲撃も受けたらしい。

 どちらの狙いも現皇帝、ネロ・クラウディウスだったようだ』

 

「……こちらに襲撃はなかった。

 どちらの敵の狙いも、ネロ・クラウディウスと見て間違いないようね。

 ランサーを呼び戻さなかった、ということは相手の戦力は問題ないのね?」

 

小さく言葉に詰まるロマニ。オルガマリーは大体学んでいる。

どうせまた魔術的に見ると有り得ない規模の能力が出てくる流れだ。

自分の精神が変な目玉みたいな丸いのの中に入れられ、レオナルド・ダ・ヴィンチの作ったボディで動いてる以上の驚きがあるものか。

 

『カリギュラ帝は恐らくバーサーカー、月の女神の寵愛による狂気に狂ったサーヴァントだ。

 純粋な肉体性能が脅威となるサーヴァントだったが……

 アナザーライダーとの交戦によって大ダメージを負っていたそうだ。

 逃げられはしたが、戦線復帰はよほどのことがなければ難しそう、という見立てだ』

 

「そう。そっちの……アナザードライブ、だったかしら。それは?

 前に見たときのように、車輪型の何かを操る能力を発揮しただけ?」

 

『――――いや。周囲の空間にソウゴくん……

 ジオウや、サーヴァントさえ動きが大きく鈍る重力場の展開を見せたらしい。

 それ自体はジオウ・ウィザードアーマーの重力操作能力で突破できたようだ』

 

「重力場ね。まあ、重力操作程度なら規模はともかく普通の魔術師なら出来ることよ。

 実際は比較にならない脅威的な出力なんでしょうけど、むしろ脅威として分かりやすいわ」

 

まっとうな魔術師ならば、自身にかかる重力の軽減などは最低限の常識だ。

たとえば20メートル級の建物の上から飛び降りることになったとしよう。

その場合、少しでも魔術を齧ったものならば誰だって、重力軽減の魔術を使って体をゆっくりと地面まで降ろすことだろう。

 

魔力を足裏に集めるだけで飛び降りる、なんてことをするようなアホな魔術師はまずいない。

 

つまりは、常識の範疇だ。

 

『あと車を出したらしい』

 

「……車?」

 

戦車だろうか。

 

『自動車。スポーツカーみたいなカタチだった、って』

 

「……スポーツカー、スポーツカーね。まあ、魔眼を乗せて走る列車がいるのだもの。

 スポーツカーを召喚する奴がいたって別に驚くことじゃないわ」

 

そもそもジオウだってバイクを持っている。

何ら驚く要素はない。

スポーツカーである意味は? と思うが、速さを追求した結果だろう。

そうかなぁ、と言わんばかりのロマニの小さな溜息。細かい奴め。

 

『確認された速度は時速500キロ以上。この速度で敵に激突し、相手を粉砕する。

 というのがそのスポーツカーの運用法だったようだね』

 

「そっちも壊れるでしょ!?」

 

思わず出た言葉に咳払い。

そんな風に使うなら最初から重機にすればいいのに。

車の使い方の話をしてる気がしない。

 

「……つまり相手はこの大地を常に時速500キロで移動する手段を持っている。

 そういうことになるわけね」

 

『そうだね。徒歩、かつソウゴくんや立香ちゃん。

 それに所長の移動速度を考えると、どうあっても後手に回らざるを得ない敵だ。

 仮にボクたちが追跡観測しても、間違いなく振り切られるだろう』

 

「しかも、その足である自動車を破壊しようとしても宝具級に頑丈である、と」

 

先手は確実に取られる。

だが、相手の目的はネロ・クラウディウス一点だ。現状、そこ以外に目は向けていない。

だとすれば、皇帝ネロの護衛をすることこそがやはり大前提になる。

こちらも一刻も早くローマ首都に向かい、作戦を決める必要が――――

 

『それでだけど……ネロ帝が最前線であるガリアに向け出陣してしまった。

 その護衛のために、ソウゴくんとジャンヌ・オルタも。

 所長たちも早く向かわないと、追いつけなく……』

 

「ガリア……ガリア!?」

 

ネロの護衛に回るのは仕方ない。だが、行先が最前線。

しかもここからだと更に遠い。

むしろ彼らに求められているのは、皇帝ネロを動かさないことだというのに。

くらり、と眩暈に震える頭。いや、震えている場合じゃない

 

「―――こちらも一刻も早く、彼らに合流します。

 ロマニ、向こうに何かがあったらすぐにこちらに伝えて。

 そちらからの観測は、基本的に向こうを優先して構わないわ」

 

『了解しました、所長』

 

そうして、彼らは即座に下山を目指す。

彼女は心底、500キロで走る自動車を羨ましく思った。

 

 

 


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