Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ダブルかな?
 


奴は“なぜ”悪魔と相乗りしたのか0060

 

 

 

ガリアへの遠征は、急遽決定された。

ネロの屋敷にそれぞれ一室ずつ与えられたソウゴとオルタ。

彼は一晩の休息の後、皇帝ネロに呼び出されそういう話をされたのだ。

どうか助力をしてほしい、と。

 

どちらにせよ、ネロが首都を発つというのなら彼らに選択肢はない。

その行軍に参加する以外の道はなかった。

何しろ相手は速攻を可能とする移動手段、アナザートライドロンを有する。

挙句、周囲の物体をどんよりさせる重加速域の展開能力も持っている。

 

ネロから離れる、という選択肢は存在していなかった。

 

 

 

道中での会敵に、ソウゴはウィザードアーマーの能力を発揮する。

周囲の土が突然鎖に変貌し、自身に巻き付いてくる現象を突破できるローマ兵は殆どいない。

鎖に雁字搦めにされた兵士は、ネロの兵士の手でひっ捕らえられ捕虜にされる。

今は連合ローマの兵とはいえ、元々ローマの兵だ。

―――ネロ・クラウディウスが最終的にどういう判断を下すかは、ともかく。

 

「―――しかし優秀な戦士であり、魔術師であるな。ソウゴよ。

 ……どうであろう。客将という立場ではなく、正式に余に仕えぬか?」

 

数の多くない偵察、あるいは強襲部隊が相手とはいえだ。

こうもあっさりと魔術を奔らせ、兵たちも拘束してみせる手腕。

並の魔術師には出来ぬことだとネロはソウゴのことを讃える。

 

「うーん……俺は自分が王様になるからいいや」

 

「……そうか。ではどうであろう?

 連合ローマを打倒した暁には、ガリアの先。ブリテン島、ブリタニアをそなたにやろう。

 実質、一国の王となるということだ。その力で余とローマを支えてみぬか?」

 

食い下がるように破格、という言葉では済まない条件を提示するネロ。

それを後ろで聞いていたオルタが、呆れるように視線を逸らした。

ソウゴはそのまま断ろうとして、しかし言葉を止める。

 

―――誰かに与えられる国なんか要らないよ、と。

 

それは、自分が民が幸せに生きられる世界を作るために必要のものではない。

結果的に自分が最高の王様になった時、付属する要素かもしれない。

けれど、そんなものを他の誰かから貰ったって意味がない。

 

ソウゴはそう断じたが、それはネロに言うべき言葉じゃない。

まして、こうしてここまで追い込まれている彼女には。

 

「オルタは王様になってみたくない?」

 

だからと言って嘘を吐く気にもならず、オルタに話を振ってみた。

会話に巻き込まれることに嫌そうな顔をするオルタ。

 

「冗談。私は王族なんてものにいい記憶ないの」

 

会話を逸らすような言葉。

それを察して、そっと息を吐くネロ。

 

「……悪くない条件と思うが……やはり、余の下にはつけないか?」

 

「―――俺は誰の下にもつかないよ、だって王様だし」

 

別にネロだからつかないのではない。

誰が相手でも、ソウゴは下につこうとは思わない。

彼は自分の信じる、全ての民を幸福にするための道を突き進む。

その道中で誰かに止められ、彼の夢が敗れ去ることがあるのだとしたら―――

それは、自分の道が間違っていたのだと受け入れる。

自分を止めた人がきっと、自分より良い未来を作ってくれるのだ。

そうと受け入れるだけだろう。

 

最善の世界へ辿り着こうとする人の意志は、何にも負けない強さがあると信じてる。

だからこそ自分が倒れる時は、自分より強い“最善を目指す意志”がそこにあることを、ただ祝福すればいい。

そう、信じている。

 

「そうか……そうだな、すまぬ。余は相当に弱っているのだろうな……

 忘れてくれ。いや、忘れずともよい。気が変わったらいつでも言ってくれ。

 そなたらを迎えられるのであれば、どれだけの対価も惜しくはない。

 そればかりは、けして気の迷いでも何でもないのだから」

 

「うん。ありがとう」

 

そう言って皇帝は会話を打ち切った。

 

ガリアへの道中。

小さな会敵はあっても、サーヴァントもアナザーライダーも出現はしなかった。

 

 

 

 

「本当に強行軍、って感じだったわね」

 

疲労知らず、という意味ではサーヴァントと同様の状態なオルガマリー。

彼女は焚火に枝を投げ込みながら、この集団の中で唯一の真っ当な人間―――

既に就寝している藤丸立香の姿を見やる。

 

マシュ・キリエライトもまた木に寄りかかって眠っている。

彼女もデミ・サーヴァント化したとはいえベースは人間だ。

完全に人間を辞めてるオルガマリーより、余程休ませるべき人間だ。

 

カルデアの装備が優れているとはいえ、登山、下山、一国の領土を横断。

一応、マシュとジャンヌが時折彼女を背負いながらの移動に切り替えていた。

とはいえ、立香の疲労が溜まりすぎている。

 

召喚サークルから物資を送ってもらい、食料等で不自由はさせていないが……

休息のための環境はどうにもならない。

 

「せめてそこらに魔獣でも湧けばな。そいつの皮を剥ぎ取って寝袋にでも出来るんだが」

 

ランサーはそう言って肩を竦める。

アウトドアに適した寝具など、カルデアには用意されていない。

材料があればダ・ヴィンチちゃんがどうにかできるとは言うが。

そもそも材料だってカルデアにあるわけがない。

 

現状ここは一世紀という神話に近しい時代な割に、人の世界として成立している。

ローマという都市・文明は、神祖ロムルスの手により明確に人の栄える都市として作られたからだろう。

悪霊は見かけたが、魔獣の類はまるで見当たらないのが今は逆にもどかしい。

 

清姫すらも、今立香に纏わりつくのは彼女の体力上危険と判断しているのか。

ごくごく常識的な接触しかしていない。

せいぜいが今もしている膝枕とか、純粋に彼女を休める為の行動だ。

常にそうでいてくれればいいのに。

 

「そのようなものがなくても、こうしてわたくしを使って休んでいただけますのに」

 

立香の髪に手櫛を通しながら、楽しそうに笑う清姫。

多分大丈夫なはず、と思いながらも目を離せないのが彼女の怖い所だ。

 

『もうすぐガリアに着く。

 着いたらとりあえず、彼女は一度完全に休息を取ってもらおう』

 

「……一足先に到着しているソウゴくんとオルタはどんな様子でしょう?」

 

ジャンヌが通信に向かって問いかける。

移動という点ではこちらに負荷がかかっている。

だが、戦闘という点ではほぼ向こうに負荷がかかっている状態なのだ。

―――まして前線となればそれは、ローマ兵との戦いに否応なく巻き込まれることになる。

 

『……休息環境、という意味では当然こちらより断然いい状態だ。

 もちろん。現代と比べれば天地の差だし、ソウゴくんもストレスは感じてしまうだろうけど』

 

「はい。それで……」

 

『戦闘、という意味では彼はそこまで意識していないように感じる。

 散発的な戦闘においても、彼は敵ローマ兵を拘束するだけして軍に引き渡している。

 ジャンヌ・オルタくんもそれに従っているようだ』

 

「オルタもですか? そうですか、それは良かった……」

 

彼女は敵対した現地人を焼き払うことに戸惑いはないだろう。

そう考えていたジャンヌが、小さく安堵の吐息を漏らした。

人類同士の戦争に巻き込まれて、それでも大丈夫そうだというソウゴのことも。

 

「……常磐ソウゴの精神状態、という意味では問題ないのね?」

 

ジャンヌの問いを引き継ぐように、オルガマリーがロマニに問う。

若干不安が混じる声色だったが、ロマニの返答はすぐにきた。

 

『ええ、まあ……恐らくは。何度かボクがカウンセリングしていますが、大丈夫かと』

 

「ならいいけど……」

 

「坊主なら戦う事を選んだ人間を相手に、なら問題ないだろ。

 ああいう気質の人間は、それが相手の選択である以上そこに迷いは挟まねえ。

 ついでに言うなら、迷いがあっても必要な戦いなら相手を問わずに完遂する」

 

木に背中を預け、オルガマリーとロマニの会話に口を挟むランサー。

その物言いに、オルガマリーは顔を顰めた。ロマニの声がランサーへと向けられる。

 

『迷いがあっても、と言うと……?』

 

「戦いに迷いは挟まない。戦いの前提に迷いがあっても、戦いは結果を出す。

 仮に自分が戦いたくなくても、相手から戦いを求められればそれに応じ、勝利する。

 そういうことだ。英雄としての華々しさに引き換え、ロクでもない人生が待ってるタイプだな」

 

肩を竦めるランサー。それに、ロマニは顔を引き攣らせた。

 

『それは……全然問題なくないんじゃ?』

 

「そこで崩れるタマじゃねえだろう、ってことだ。

 それに、過去を生きる人間の生き様だ。坊主に見せておくに越したことはないだろ」

 

「生き様、ですか?」

 

話に入るジャンヌの声。

それに小さく肯いてから、ランサーは片目を閉じて小さく溜息を落とす。

 

「―――まあ。坊主にとっての判断材料の一つなれ、程度の話だがな」

 

 

 

 

「俺は、それはそれでしょうがないことだと思うけど」

 

散発的な敵軍の侵攻。

それを防いで、多くの連合ローマの兵を捕らえてきたジオウ。

彼はそれらを全て引き渡し、変身を解除しながらそう言った。

 

ジオウは極力相手を無力化するように動いても、それでも戦場全ては止められない。

どうあっても両軍に死者は出る。

意地悪くそれをどう思っている、と問い掛けたオルタへの返答だった。

 

「こっちの兵士も、向こうの兵士も、それぞれが自分の思う正しい未来になって欲しい。

 そういう想いで戦って、ぶつかりあったんでしょ。

 だから結果がこの多くの人が亡くなった今の光景でも、俺はそれは否定できない」

 

「へぇ、意外とドライなのね」

 

内心、イラっとしたところもある。

正直に言えば涙一つでも流してくれる方が可愛げもある、と思っていたこともある。

ただソウゴは困ったように首を傾げて、オルタに言う。

 

「そうかな。ただ……だから、全ての民が目指す最善の未来を繋げられるように。

 俺は、この世界の王様を目指したんだと思う」

 

変身解除して、手にしていたジクウドライバーを持ち上げる。

 

「…………」

 

「全員が全員同じ最善の未来を見てるわけなんてなくて、戦いがない最善の世界を夢見てる人もいれば、戦っていることが楽しくてそこが最善だと思う人だっている。

 この世界には、誰もが望む同じ最善の未来なんて何一つないのかもしれない。

 でも、そこに辿り着けたらきっと皆が幸せな世界なんだろうなぁ、って思うじゃん」

 

「――――そ。何せ私の最善の未来を阻んだんだものね、アンタたちは」

 

煽るようなジャンヌ・オルタの笑み。

フランス特異点。フランスを滅亡させる、という彼女の願いの事であろう。

えぇ…と呆れるような顔をするソウゴ。

 

「そりゃ止めるでしょ。

 でも、ジャンヌだってオルタのこと別に否定はしなかったんでしょ?」

 

「………何でいきなりアイツの話が出てくるのよ」

 

「止めることと否定することって多分違うからさ。

 俺はこの時代に生きてる人たちが戦うことを選んだことを否定したくないけど……

 でも、狂った歴史の中で戦って死んでいく人がいることは止めたい。

 だから、オルタも手伝ってくれない? オルタずっとここから出ないじゃん」

 

まるで引き籠っているかのような物言いに、彼女の頬が引き攣る。

彼女はあくまでも総大将がここで指揮を執っているから、念の為に護衛に徹しているだけだ。

人間ごときが相手とか面倒とかそういう話ではない。

ないったらない。

 

「……皇帝サマの護衛してるだけでしょ」

 

「オルタが護衛しててもアナザードライブがきたら意味ないじゃん」

 

思い切りアイアンクローをかます。

変身解除したのが運の尽き。それから逃げる術など、ソウゴは持っていない。

うぐぐ~という悲鳴を聞きながらそのままシェイクする。

たっぷり一分。アイアンクローを解除して、ソウゴを解放するジャンヌ・オルタ。

 

「……狂った歴史だからこそ、止める必要ないとは思わないの?」

 

解放されたソウゴは顔を軽く抑えながら、しかしオルタを強く見返した。

 

「歴史が狂ってるからって目を背けてたら、いつか本当の歴史のことさえも間違ってるって言って逃げ出しちゃうよ。

 俺たちはいつだって、生きてる時間が“現在(いま)”なんだから。

 それは他の誰が時間を変えてしまっても、書き換わらない、変えられない現実でしょ」

 

「………あっ、そ」

 

「だから俺は俺が信じる王様になる夢に向かって進むよ。

 そこだけで言うなら、それが正しいと信じてフランスを滅ぼそうとしたオルタと同じだよ」

 

むすっとした表情のまま、引き合いに出すな、とソウゴを睨む。

彼にはまるで堪える様子はなかった。

ただ彼女が初めて見るような、何か切羽詰っているようにすら見える表情になる。

 

「………?」

 

「だから………もし俺が目指す未来が間違ってたら……

 ウォズが俺を魔王と呼んで、スウォルツが俺に何かをさせようとしてる未来……

 それが、良くないものなら。

 ―――きっと、オルタみたいに俺は誰かに負けて、王様になる夢は叶わなくなるってだけだよ」

 

誰もが最善の世界を目指して生きている、と信じている。

だからこそ、もし自分が悪いものになってしまった時。

きっと誰かがそんな自分を打ち倒し、善い世界を目指してくれることを疑わない。

 

そう言って、彼はしかし気合を入れなおすように微笑んだ。

言っても、自分が最高の王様になってみせるという意志は揺るがない。

誰もが幸せな世界を、という夢は変わらない。

 

だから、常磐ソウゴは王になる運命を全うする。

たとえ何が立ち塞がろうとも、ソウゴは王になるべき命運を進み続ける。

その先で、どんな結末が待っているのだとしても。

 

じゃあお休み。

そう言って、ソウゴは自分に割り振られた寝床に向かっていった。

 

オルタは寝床の提供を断っている。サーヴァントに睡眠は必要ない。

カルデアに私室は貰ったが。こっちの寝床は全く欲しくない。

 

見張りも兼ねて、前線基地のすぐそばにある丘で、地平線に沈んでいく太陽を見る。

 

「ジャンヌ・オルタだっけ、大丈夫?」

 

そうしていると、背後から声をかけられた。

振り向くとそこにいるのは、このガリア遠征の将軍。

ライダーのサーヴァント。

 

「そういうアンタはブーディカだっけ? 何が訊きたいのかさっぱりね」

 

ハッ、と彼女の問い掛けを鼻で笑う。

赤い髪の女性、ブーディカはその反応に困ったような苦笑を浮かべた。

 

「あはは、そんな顔で夕日を眺めながらそうくるか。

 うーん。口では素直じゃないのに、態度は素直で可愛い子だなぁって」

 

「ブッ飛ばすわよ?」

 

「気にしてた? ゴメンゴメン。でも、素直なのはいい事だよ。

 素直に見せても変に捻くれてると、今のネロみたいなことになる。

 あたしだって人のことを言える人間……サーヴァントではないけどね」

 

そう言いながらオルタの隣まで歩いてくるブーディカ。

聞いたところによれば、恐らく彼女は聖杯が呼びだしたサーヴァント。

連合ローマに召喚されたサーヴァントへのカウンターだと思われる、そうだ。

 

「………随分と皇帝サマの心配もしてるのね。宿敵でしょ?」

 

「――――そうだね。あたしは皇帝ネロも、ローマも許さない。

 正直、召喚されて状況を知った直後は喜びさえもしたよ。

 だって、憎らしいローマもネロも、どうしようもないほど追いつめられてたんだから。

 今度こそ復讐を成し遂げられる、ってさ」

 

それこそ、オルタ以上に彼女はローマへのアヴェンジャーとして資質があるのだろう。

彼女から感じ取れる復讐心は本物だ。

憎悪の炎から生まれたジャンヌ・オルタには、彼女のその感情に心地良さすら感じる。

 

「でも、それはどうなんだろうなってさ。復讐とは別に―――

 本来平和だったらしいこの時代で、ブリタニアも巻き込んでまた戦争が起きてる。

 どうすればいいんだろう、って今もずっと思ってるくらいだ」

 

「あら? 貴女の復讐の炎はその程度なの?」

 

オルタの挑発する言葉。

それをまるで、子供のイタズラを見るような表情で受け流すブーディカ。

 

「復讐者としてなら、あたしは絶対にネロもローマも許せない。けど―――

 ブリタニアの元女王としてなら、彼女を許せないまでも許容しなくちゃいけないのかなって。

 ……あたしがいた国は、これから2000年かけて色んなことがあるらしいね」

 

「………貴女の国に限らないけどね」

 

「そうだね。だからこそ―――これから先にあるあたしの国、だった……

 未来に生きる、あたしの国の子たちを守るために戦わなきゃいけないのかなってさ」

 

ブーディカもまた、地平線に沈む太陽に視線を送った。

多くの感情をない交ぜにしているであろう、笑顔とは言えない彼女の横顔。

それを横目に見ながら、オルタが呆れるように鼻を鳴らした。

 

「ふーん……」

 

「そんなことを考えてたらさ、オルタとソウゴの話を聞いちゃってね。

 まだ子供なのに凄いね、あの子。あたしよりよっぽど王様かもしれないよ?」

 

ローマへの感情を浮かべた表情を消し、小さく笑いながら彼女は言う。

オルタはあれを褒めるのは癪なので、それを即座に否定することにした。

 

「そう? 私にはただの子供に見えるけどね」

 

「あっはっはっは!」

 

笑うブーディカ。ひくり、と吊り上がるオルタの口端。

 

「……なによ」

 

「いや、ううん、ごめんね。ふふっ……

 子供のユメを聞いただけにしては、むすっとしながら夕日とにらめっこしてるオルタがさ……」

 

頬を赤くするほどに笑っているブーディカに、オルタの目がどんどん吊り上がっていく。

笑いを止めようとして口を隠す彼女を前に、武装を展開するオルタ。

流石にそこまでされて、焦りながら一歩下がる。

 

「ちょっと、ごめんって。でもそういうの、言ってあげないとダメだと思うよ?」

 

「はあ? 何を?」

 

「貴方たちの事情は詳しくは知らないけど……

 オルタは感謝してて、力になってあげたいと思ってるんでしょ?

 ソウゴだけじゃなくて、今ここにいない仲間たちにもさ。

 だったらそういうとこ、伝えてあげないと」

 

目の鋭さは凶器じみて。

視線が攻撃になるのならば、もはや彼女はブーディカに攻撃を仕掛けていた。

それを微笑んで受け流し、にこにこと彼女を見返すブーディカ。

 

「思ってないわよ、そんなこと」

 

「そう? そっか、じゃああたしの勘違いかな。ごめんね?」

 

ふい、と顔を逸らしたオルタはそのまま霊体化してこの場を離れていく。

苦笑しながら頭を掻いたブーディカが、地平線に沈み切る太陽を見る。

先程までの笑顔が消え、再びローマへの複雑な感情が浮かぶ鎮痛な面持ち。

 

「………………あたしが、守る? ローマを? ネロを?」

 

掌が裂けるほどに握りしめた拳。

陽光が失せ、暗闇に沈んだ世界の地面に血が滴り落ちる。

彼女の体から離れた血液は、魔力に還り金色の光となって立ち上っていく。

 

「……………違う。あたしが守るのは、あたしの国……ブリタニア……!

 あたしの子供…………! でも…………!」

 

ローマ帝国、ローマ皇帝ネロ。それはこの時代の楔。

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立ち上る金色の光が照らす彼女の顔には、怒りと憎しみと、哀しみに満ちていた。

 

近くの木が揺れ、その木陰から赤い車体が姿を現す。

砕けた自動車をモチーフにしたような人影。アナザードライブ。

割れたライトのようなその目が、ブーディカだけを見据えている。

 

その姿を見たブーディカが、自重するような表情を浮かべる。

 

「ごめんね………あたしが、こんな、何もできない女王で……」

 

それを否定するように、アナザードライブは小さく唸り声をあげた。

 

 

 




 
ネタバレ。
犯人はヤスウォルツ。
 
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