Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
ローマと言えば風呂。風呂と言えばスーパー風呂タイム。
スーパー風呂タイムと言えばキバ。キバといえば皇帝。
皇帝と言えばローマ。つまり仮面ライダーはローマ。
びっくらたまごが足りなくてスキル上げが出来ないですけどー。
「うーん……!」
久しぶりの寝床での起床。大きく背を伸ばし、藤丸立香は立ち上がった。
自分にしがみ付いている清姫もいるが、気にしたら負けである。
「おはようございます、先輩。それと清姫さんはなぜここに……」
「おはよー」
マシュに挨拶を返しながら、外へと出る。天気は快晴。
昨日は久しぶりにバスタイムがあったからか、より良い気分での朝だった。
こんな前線基地にまでお風呂があるとは、ローマは凄い。
「マシュはよく寝れた?」
「はい。やはり、寝具があるのとないのとでは大きく違います。
野営になれているかどうか、というのも大きいのでしょうが」
「なんかここにきて凄い慣れちゃった気がする」
フランスでの経験も含めれば、中々のアウトドア派に成長したのではないか。
そんなことを考えながら、基地の中をうろついてみる。
皇帝直々に招いた客将ということで、彼女たちの立場は高いものとして扱われる。
皇帝であるネロ、指揮官であるブーディカに続く立ち位置。
なんか凄い奴スパルタクスと同レベルの立場をもらっているのだ。
逆に立場が低い気がしてくる、不思議な同僚である。
そんな実情からか兵士たちも、彼女たちには頭を下げる。
立場だけではなく、実際にここで働いていたソウゴとオルタの影響も大きいのかもしれない。
「えっと……ソウゴは?」
「まだ寝ているのではないでしょうか。
オルタさんが言うには、誰かが起こさないとかなり遅くまで寝ているそうです」
まるで学校が休みの学生のようだ。
まあ、実際に彼は今学校が夏休みの中学生なのだが。
ふーん、と。自然とソウゴの寝床として設けられた方向へ足を向ける。
その道中。
「あれ、おはよう。朝は食べたかい?」
ブーディカに遭遇して、彼女たちは足を止めた。
「おはようございます、ブーディカさん」
「おはよう、ブーディカ。朝ご飯?」
「こういう場所だからそんな大層なものはないけどさ。
朝食べないと元気が出ないよ。まだなら、二人ともあたしが何か作ってあげようか?
ローマ料理じゃなくて、ブリタニア料理になるけど」
大昔の料理かぁ、と思いを馳せる立香。
そこでふと、彼女に二人とも、と言われて気付く。
いつでもくっついているはずの清姫が、いつの間にやら姿を消していた。
小さく首を傾げて、しかしまあいいかなと思いなおす。
「じゃあせっかくなら、ソウゴも一緒に三人でいいですか?」
「もちろんいいよ。ソウゴはまだ寝てるのかな?」
「はい。そのようなので、今から先輩と起こしに行こうかと」
マシュのその言葉を聞いて、ブーディカは大変嬉しそうににこにこと笑う。
「ははは、立香やマシュみたいな可愛い子二人に起こしに来てもらえるなんてね。
ソウゴは恵まれてるね、男ならきっと誰でも羨ましがるよ?」
「そ、そうでしょうか。先輩はまだしも、わたしなんて……」
頬を赤らめて落ち着かなくなるマシュ。
立香はそんな彼女の頭に手を載せ、よしよしと撫でてみせる。
マシュは更に顔を赤くして縮こまった。
そんな二人を見て、より笑顔を深くしていくブーディカ。
「あはは、マシュは可愛らしいねぇ。頭も撫で心地がよさそうだ」
「ブーディカも撫でる?」
「せ、先輩?」
マシュの頭に置いていた手をどかし、立香はマシュから一歩離れた。
困惑するマシュを差し置いて、彼女を提供されたブーディカはマシュへと抱き着いてみせた。
「じゃあお言葉に甘えて。ほら、よしよし」
「ブ、ブーディカさん?」
マシュを抱き締めて、そのまま頭を撫でまわすブーディカ。
髪を撫でる優しい手に、何とも言えない表情で羞恥を堪えるマシュ。
その彼女の手が、一瞬だけ静止した。
「………あ、あの。ブーディカさん……?」
「あ、ううん。ごめんね、そっか。マシュの中の英霊は、そういうことなんだ」
そう言って、もう一度だけ大きく彼女を撫でてから解放する。
一歩離れて見たブーディカの顔には、申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。
「その、ブーディカさんはわたしの中の英霊に心当たりが……?」
「………うん、何となくはね。彼は――――いや。あたしの口から告げるのは反則かな。
何より、今のあたしがマシュの中の子にかけていい言葉なんて、何も無いんだ。
あたしなんかには…………何も、ね」
「ブーディカ、さん?」
明らかに目の前の彼女は意気消沈していた。
マシュが立香と目を見合わせる。
仮にマシュの中の英霊の正体を彼女が察知したとして、何故それが落ち込む理由に?
そのまま踵を返し、戻ろうとしたブーディカの腕を咄嗟に掴む。
「……マシュ?」
「そ、その……ブーディカさんが何に落ち込んでいるのかは、わたしには分かりません。
何故そんなに辛そうな顔をするのかも……
けど、わたしはブーディカさんがそんなに苦しむ必要はないと思います……!
……もしお辛いのでしたら、ブーディカさんがローマのために戦う必要だって……
その、わたしがその分頑張ります。
ブーディカさんがわたしの霊基に何かを感じてくれたように、わたしの霊基もブーディカさんのために最善を尽くせと言ってくれている気がします!」
言われたブーディカが今にも壊れそうな、辛そうな顔をする。
そんな顔をさせたかったわけではない、とマシュは自分の心が軋む感覚を覚えた。
ブーディカはマシュを見て。立香を見て。
隠しきれない哀しみの上に、小さな笑顔を張り付けて笑って見せた。
「本当に……あたしなんかには勿体無い子たち。
きっと―――いつかの時代、本物の勝利の王を戴いたブリタニアはあるんだと……
そんな未来が待ってると教えてくれるために………」
小さな声でそこまで呟いたブーディカが目を伏せる。
誰も何を言えばいいか分からない。
そんな空気になってしまったその場に、空気を読まない声がかけられた。
「どしたの?」
自分に与えられた寝床から出てきていたのか。
まだ眠そうにぼんやりとしているソウゴが、そこにいた。
ブーディカがゆっくりとマシュの腕を外し、彼に向かって笑う。
「朝ご飯、食べるでしょ。
あたしが準備してあげるから、あとからおいで」
「え、ブーディカのご飯? やった、食べる食べる」
ソウゴの返答に一度笑うと、ブーディカはそのまま食事の準備に向かってしまった。
その背中を口惜し気に見送るマシュ。
ちらりとソウゴの目が立香を見る。彼女は小さく、首を横に振るしかできなかった。
食事の場においては、ブーディカはいつも通りの態度を崩さなかった。
それが何かを隠しているようで、マシュの心に軋みをあげさせる。
何故自分はここまで彼女のことで苦しむのか。
マシュには、その原因さえも分からない。
サーヴァントとして本来避けるべきだが、彼女は今一人で基地の外に出ていた。
頭を冷やすために、丘の上へと上がってきたのだ。
その間のマスターの護衛は、ジャンヌならば何の問題もないだろう。
清姫は――――まあそれはそれとして。
「……わたしの中の、サーヴァントに関わることなのでしょうか」
彼女の反応からしても、関わりのある人物の可能性が高い。
はふぅ、と大きく溜息を吐きながら、丘の先の光景を眺める。
そんな彼女の背中に―――
「あるいは君が、彼女に母性というものを感じているのではないかい?」
一気に振り向く。いつでも武装を召喚できる体勢。
そんな戦闘態勢のデミ・サーヴァントを前に、彼はいつも通り静かに微笑んでいた。
片手に本を手にした、コートの男性。
「ウォズ、さん……」
「君の来歴はおおよそ把握している。
だからこそ言えるが、君の薄弱な人間性では判断できない感情は多々あるだろうとも」
物言いにむっとするが、しかしそれは事実と認めざるを得ない。
「……仮にそうだとして、ウォズさんがわたしにそれを伝えにくる理由はなんですか?」
「言うまでもないだろう? 私の行動は全て、我が魔王のためのもの。
君に干渉する理由もまた当然、我が魔王のために他ならないとも。
真偽の確認にまた、バーサーカー・清姫を呼んでくるかい?」
おどけるようにそう言う彼の言葉に、嘘は感じられない。
本当に清姫が聞いていても何の問題もない、と考えているように見える。
「ソウゴさんの、ため?」
「そうとも。君が我が魔王の覇道に貢献する人材であるならば、私は協力を惜しまない。
何故ならそれが私の使命なのだからね」
大仰に両腕を広げて、天を見上げるウォズの姿。
信じ切れるはずもなく、油断なく彼を見据えながら距離を取る。
そんな彼女の様子に苦笑したウォズが、近くの木に背を預けた。
「さて、君がブーディカに抱く感情の話だが……」
「……はぁ」
少しだけ話を聞く気を見せたマシュに、彼は笑いながら言う。
「そもそもそんなに重要かい? その感情の源泉というものは」
自分から口を挟みにきてその言葉。
マシュでさえも、その眉が吊り上がった。
「それは……!」
彼女が口を開いた瞬間、それを制するように手を前に出すウォズ。
まずは聞け、ということか。
マシュは仕方なし、口を閉じて彼の言葉を待つ。
「マシュくん。君はただ、女王ブーディカを心配しているのだろう?
それとも君は、彼女が君にとって何か特別な存在ではないから心配してはいけないと?」
心配、という心情とは。
特別な関係でなければ抱けない情動ではない、と彼は語る。
「それ、は……いえ、ただそういうことではなくて。
ブーディカさんが辛そうにしていると、わたしも引き裂かれるくらい悲しくなる、というか。
言ってしまえば、わたしだけならそれほどの感傷があるはずがないのです。
ウォズさんの言う通り、わたしの感情はけして豊かとは言えないはずなのですから。
ブーディカさんはとても優しい方だとわかっています。
ですが……今のわたしは、自分でもおかしいと思うほどに彼女の態度に心が痛む。
だとすれば、もうわたしの中にいるサーヴァントの霊基が原因としか……」
「ホントにそう思ってる?」
ウォズと向き合って、自分の心情を吐露するマシュ。
そんな彼女の横合いから、聞きなれたマスターの声がした。
「先輩……」
ジャンヌを後ろに引き攣れた、立香の姿がそこにある。
その彼女の登場に肩を竦めるウォズ。
「マシュってさ。多分、純粋すぎるところがあるから。
誰かに向けられた感情をそのまま受け取っちゃうっていうか。
――――そのまま、返しちゃうって言うか?」
「わたしに向けられた感情、ですか」
言っていることが呑み込めず、マスターへと問い返す。
彼女はうん、と一度大きく頷いて困ったように微笑んだ。
「だから、本当に多分それだけ。
ブーディカは、本当にマシュへと愛情を向けてくれてる。
だからマシュも、ブーディカの事を好きになった。だから、向けられただけ愛情を返したい。
ブーディカは何かをマシュに隠して、本気で辛いと思っている。
だからマシュも、隠されていることより隠すことで苦しむブーディカを見て辛くなる。
きっとただ、それだけなんだよ」
「………隠し事。それは、やはり……」
そう言いながら、マシュへと歩み寄ってくる立香。
そんな彼女に小さな声で問いかける。
ローマへの復讐者、ブーディカ。
今はローマに加担しているように見えるが、彼女の本性は―――
「そこはどうでもいいの」
「えっ」
立香が腕でそれは置いといて、というようなジェスチャーをしてみせる。
思わぬ回答に困惑したマシュを見据える、立香の瞳。
「マシュは優しいブーディカが好き。マシュにとって大事なのはそこだけ。
だから――――どうしたいの? マシュ。貴女は信じたいの? 疑いたいの?」
「それは、………信じ、たいのだと、思います」
「―――だよね!」
歯切れの悪い物言いだったかもしれない。しかし確固とした答えがある。
その事に立香は、花が咲くように微笑んだ。
「じゃあそれでおしまい! マシュはブーディカを信じる。あの人の優しさを。
だから、何かに苦しむ必要なんてないじゃない」
そう言ってぱんと両の掌を打ち合わせる立香。
「でも……それで、もし、ブーディカさんが……」
それでも俯くマシュを、立香の両腕が抱き寄せる。
ブーディカにしてもらったような抱擁。
その体勢のまま聞かされる、優し気な彼女の言葉が頭に響く。
「その時は、マシュが止めてあげればいいだけだよ。
ブーディカならきっと立ち直ってくれる。元の優しさを取り戻してくれるって。
間違ったことを絶対にしない人だって、信じられなくてもいい。
ただ間違った道を進んでしまっても、いつか正して優しく笑ってくれる人だって。
その強さを持ってる人だって信じよう?」
「先輩………」
「もしもブーディカを止めなきゃいけない時には、私がマシュを支えるから」
片目を瞑りながら、マシュをあやしている立香を見ているウォズ。
そんなウォズから視線を逸らさないジャンヌ。
ジャンヌの視線を感じながら、しかしウォズは小さく笑って口を開いた。
「人間、過った方向に進むこともあるだろう。とりわけ、感情的になった時ならなおさらだ。
肉親を奪った相手を目の前にして復讐心が先走ることは、別におかしいことではない。
だがその復讐心とは、深い愛情や正義感の裏返しでもある」
さながら、ロイミュード001の存在を知った時の仮面ライダードライブ。
泊進之介のように。とまでは、ウォズは言わなかった。
彼女たちに話しても、それを理解はできないだろうから。
だからこそ、人を知らないが故に純粋に人を敬う命。
マシュ・キリエライトが鍵になる。
人を守る人の正義を信じる、人造の命という要素が活かせる―――
「……だからこそ、バレてはいけないのだが……」
小さく呟き、その手の中にブランクウォッチを取り出す。
マシュ・キリエライトに今この場で渡しておくためだ。
仮面ライダープロトドライブ、あるいは仮面ライダーチェイサー。
ロイミュード
マシュ・キリエライトならば条件はおおよそ満たせる。
彼は―――
あとはそこから、ジオウによってドライブの歴史を回収してもらえばいい。
マシュの正義感が結実した時、その経路は間違いなく確立されるだろう。
遠くに感じる背後の気配を探る。
そちらから一瞬だけ漏れだした、小さな殺気。はたしてそれは誰に向けたものか。
それに気づかないふりをしながら、ウォズはいつものように微笑んだ。
その丘の見える木々の隙間の中。
アナザードライブの姿が、完全に時間を停止させられていた。
「貴様が今、奴らの前にでれば正体が割れる。
他の奴らにばれたところで問題はないが、ウォズにその姿を見られるのは些か困る」
更にそのアナザードライブの背後。
大男が時間の止まったその背中に、呆れるような声でそう言った。
ザザ、とノイズが走るようにぶれるアナザードライブの体。
「ウォズめ。マシュ・キリエライト……魔進チェイサーを経由した干渉では一つ遅い。
それよりも先に、俺が作り上げる貴様が新たなドライブとして完成する」
そう言ってスウォルツは、停止したアナザードライブの肩を一度叩いた。
この状況は彼にとってさえ、まさかの誤算だった。
最初はブーディカこそがアナザードライブと決め打っていた。
だが、それ以上に相応しい存在が見つかった。
いや―――この特異点に彼が干渉した結果現れた、というのが正しいか。
だが、あとはこれを完成まで丁寧に導いてやれば、それだけでいい。
既にゴールが見えているコースに、スウォルツは小さく口の端を歪ませた。
「おかえりー。どうだった?」
「その……すみません、ご心配をおかけしました」
特に変わった様子もなく、迎えてくれるソウゴ。
マシュもある程度は落ち着いたか、彼にも大きく頭を下げた。
後ろの立香は小さく苦笑している。
「別にいいけど。大丈夫?」
「はい………まだ自分にとって正しい答えが出せたわけではありません。
―――けど、わたしはブーディカさんを信じたいと思っている。
それだけは分かりました。……だから、信じます」
「そっか。……あれ、それは?」
ソウゴがマシュが下げている、先程までなかった巾着袋を見つける。
彼女は困ったような顔をして、その中身を取り出して見せた。
それは、何も描かれていないブランクのライドウォッチだった。
「その、ウォズさんがお守り代わりに持っているといい、と」
「ウォズが? ふーん……」
「ソウゴには何で渡されたか、心当たりはない?」
立香からの問いに首を傾げる。
まあ、ウォズがすることに理由をつけられるほど、彼のことを知らないのだが。
だが恐らく、ブランクウォッチを彼女に渡したとなれば……
アナザードライブの攻略に必須のはずの、ドライブウォッチに関与するということなのだろう。
――――だとするなら。
「うーん。ウォズのすることだからなー」
ライドウォッチへと歴史を引き出すには、恐らく強い感情が必要になる。
そのライダーの歴史を彷彿とさせる、特別に強い感情だ。
それをわざわざ今、マシュに渡した。マシュが今、強い感情を抱いてる相手って?
そんな人、ブーディカ以外にいないだろう。
やっぱり、アナザードライブはブーディカなのか。
悩むようにそう考えながら、ソウゴはそれを口にするのは止めておいた。
「おお、こんなところにいたか!」
そんな彼らに、皇帝の声が届いた。
「あ、はい。皇帝陛下。どうかなさいましたか?」
慌てて頭を下げるマシュ。一応自分も、と立香も頭を下げた。
それは要らぬ、と。手を軽く振って二人の顔を上げさせるネロ。
「うむ。ソウゴたちの尽力もあり、ガリアを制圧している敵軍は崩れかけている。
こちらへの攻撃は無くなり、完全に守勢に徹するような動きになった。
敗北続きであちらの兵たちの士気も大きく減じているのだろう」
ただの敗北ならず、大多数の兵士は捕獲されるという戦場だ。
あまりに力の差を感じさせる光景に、連合軍の士気が維持できるはずもない。
むしろ、ソウゴたちが到着してから今までの期間。
それが維持できていたことこそ、驚嘆に値する扇動力と言えるだろう。
「だからこそ、今一気に仕掛けてしまいたい。
そなたたちの協力があれば、少数精鋭で連合ローマ軍の中枢まで一直線に突破し、僭称皇帝の元にまで余を送り届けることも可能であろう」
「皇帝が自分で行く気なの?」
「無論」
ソウゴと立香が目を見合わせる。
ただソウゴが前線に出ている間に、ネロがアナザードライブに襲われる可能性を考えれば、逆にそちらが安全と言えなくもないだろうが。
――――ただ当然、その場合ネロとブーディカが同道することにもなるのだが。
まあ、彼らが止まるように言ったところで止まる皇帝ではない。
ソウゴと立香は肯き合い、その方針に同意した。
「分かりました」
荒野の中で展開する連合ローマ軍を指揮する立場にいる男は、呆れるように溜息を吐いた。
余りにも突飛な光景を見たがためだ。
「うん? なんだあれは、やりたい放題だな?」
両軍の兵士がぶつかり合う場所から吹き荒れる緑の風。
それに呑み込まれた兵士は、風の鎖に雁字搦めにされてから投げ出される。
地面に次々と転がされていく連合側の兵士たち。
男は顔を顰める。
別に、無駄に兵に死なれるよりそちらの方がよほどいいのだが。
この調子だと、少数精鋭どころかネロのローマ全軍で彼の所に流れ込んできそうだ。
まあ、それでも仕方ないとは思っていたが。
「さて。それではネロという皇帝を見定めることが出来なくなるが……」
ちらり、と彼は後ろに備えられた豪奢な神輿を見る。
そこには、
地中海の浮かぶ島に何故か生息していた謎の女神。
その島を訪れたものに、勇者の試練という名の無理難題を仕掛けるハニートラップの権化。
そんな彼女が、何故かこうしてガリアを押さえた連合ローマに捕らわれているのか。
「あら、どうかなさって。ガイウス・ユリウス・カエサル様。
こうして追い詰められた今、私はどうかされてしまうのでしょうか」
そうやってにこりと笑う女神。
自分に押し付けた―――いや、預けて下さったのだ。
神域の祖に不敬な思考であった。
とにかく自分に彼女を預けた方に、愚痴でも言いたい気分になる。
「間に合っている。というか私の好むのは出るとこが出ている女性なのだ。
女神ステンノ。その美貌は確かだが、私の趣味ではない。母性が足らんよ母性が」
「まあ、流石は出ているところしかないカエサル様。
その意志の強さはまさしく勇者の勲、と言うに相応しい」
「ふくよかさは男にとっての器の大きさ、といったところだな」
やれやれと、でっぷりとした腹を揺らしてカエサルは正面に目を戻した。
まあ兵士はいいとしよう。どっちにしても、いてもいなくてもよい。
いないにこした事はないが。
だがどちらにせよ、あの空を飛んでいるのは抑えておきたい。
ネロとの問答に混ぜるには余りにも強すぎる。
あれのお陰で自分に勝てても、ネロにとっての実にはなるまい。
「さて、女神ステンノ。
今この戦場において、私に協力することは勇者の試練となると思うのだが、どうか。
ローマ皇帝ネロ、そしてカルデアのマスターたち。
正しく見定めるには手が足りない私だが、試練に共同出資してみる気はないかね」
問いかけると、女神は大変楽しそうに喜悦の笑みを浮かべた。
やはりカエサルの趣味には遠い美女神だ。
彼にとっては―――クレオパトラの微笑みこそが何にも勝る。
「―――ええ、よろしくてよ。
では私が準備していた子は、彼らを止めるために頑張ってもらうこととしましょうか」
しばし考えた彼女はしかし、その言葉に同意を示した。
同時に彼女の背後に、獣の巨体が現れる。
獅子の上半身、山羊の下半身。そして獅子と山羊、両方の頭。
更に蛇の尾を持つ、古代ギリシャに伝承される伝説の幻獣であるキメラの姿。
自身に従うキメラに、ステンノは上空を舞うジオウ・ウィザードアーマーの姿を示した。
それに従い、幻獣が獲物を目掛けて飛び掛かるのと同時。
「――――“
彼女は、その笑顔を解放した。
空を飛ぶ彼の眼下に突然現れた、巨躯の幻獣。
自然とそちらに意識を向けたソウゴは、その傍にいた一人の少女が微笑むのを見た。
輝く藤色の髪をツインテールに纏め、白いドレスに飾られた美しい少女。
「あれ?」
美しい笑顔、所作。それを目撃した途端。
自然と、何故自分が今ここで戦っているのかを見失う。
ぼうっとした頭のまま、戦うことを止めようとする。
空中で静止したまま変身を解除しようと、ジクウドライバーに手をかける。
「――――あ、俺いま、何を……」
変身解除動作に入る直前に、理性の欠片を取り戻す。
それでもまだ頭はぼうっと湯だったままだ。
自分を取り戻すべく、頭を振っていると――――
「グォオオオオッ!!」
「おわっ!?」
直下から、幻獣の巨躯がジオウへと襲い掛かってきた。
大口を開けて、ジオウの胴体に食らいつくキメラ。
ミシリミシリと、ジオウのボディが大きく軋みをあげる音。
キメラに銜えられたまま、地上へ向かって落ちていくジオウ。
獅子と山羊の脚が大地を踏み砕きながら着地し、そのままジオウを振り回す。
数秒後。ジオウの体は解放され、大きく投げ出されていた。
吹き飛ばされた勢いのまま、地面を転がるジオウの体。
「くっ……! このっ」
転がっているうちに頭をほどよくシェイクできたか。
ようやく理性を取り戻し、反撃しようと立ち上がる――――と。
前に突き出した自分の腕を見て、気付いた。
「あれ? ウィザードのアーマー……」
自分の体を見回す。
ジオウの鎧の上に更に纏う、ウィザードのアーマーが消失していた。
バッ、とドライバーを確かめると、ウィザードウォッチがない。
思わず、自分を口に入れたキメラの方を見る。
その獣は、牙に何かが引っかかったかのように獅子の顔を歪めて―――
ごくり、と何かを嚥下した。
「あ、マジで?」
ドクン、とキメラの体が震えた。
まるで新しい心臓を得たかのように、その獣の体が脈動する。
獣の纏う魔力が、明確なカタチをもって凝固していく。
元から獅子の頭には黄金の獅子。右肩には隼の頭。左肩にはイルカの頭。
胴体からはバッファローの頭が突き出してくる。
背に現れたカメレオンの頭が、尻尾のように舌を長々と伸ばしてみせた。
現れた野獣の集合体。
それは、獲物を捉えた獅子の眼光でジオウを睨む。
「えぇ……マジか……」
ウィザードウォッチがキメラをベースに形成した異形。
―――ビーストキマイラファントム。
その巨体が、女神からの指令を果たすために戦場に咆哮を轟かせ、ジオウに殺到する。
「マジだよね……!」
出現させたジカンギレードを両手で構え、ジオウはその野獣を迎え撃つ――――
わざわざ離島までステンノに会いにいく必要ないやろの精神。
じゃあカリギュラどこで処理すんの……?(自問)
ピンチはチャンス、未来の自分を信じろよ!(思考放棄)
なんかキメラがでてたからキマイラを出しました(無軌道)