Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
昨日から元号が令和っていうのに変わって、令和ライダーってのが誕生したらしいですね。
「あらまあ」
カエサルの後ろで、女神が少し驚いたように声をあげた。
キメラが何やら変貌したことに、彼女自身も驚いている様子だ。
だが結果的に空中戦力を落とし、更に多くのサーヴァントを引きつけてくれた。
青いランサー。黒い旗持ち。東洋の竜属性。巨漢のバーサーカー。
ネロのローマを指揮するブリタニアの女王は、それに巻き込まれぬように兵士の引率。
つまりこのカエサルの前にやってくるのは―――
「連合ローマの皇帝と見た―――!」
ネロ・クラウディウスを始めとして、人間であるマスター。盾持ち。白い旗持ち。
まあ十分以上に戦力を裂けただろう。というか期待以上だ。
何より盾持ちも旗持ちも体つきがいい。マスターも水準以上。
これはいい。目の保養としてこれはいい。
彼はクレオパトラを愛しているが、それはそれとしてこれは……
「―――おっと」
背後から感じる女神の視線が呆れに変わったことを察し、愉しむのを一時中断する。
そうして見る。先頭を駆けてきた赤薔薇の皇帝。
今まさにローマを悩ます元凶の一人を目の当たりにし、猛る姿さえも美しき女。
果たしてその顔に浮かぶ憂いは、この状況にある自身の皇帝としての資質への疑問か。
「まあそれはそれとして、美しいのは良い事だ。見目の麗しさとは別としても。
しかしてその美貌、ローマの至宝と讃えるに相応しい。
さて。我らのローマを継ぐものよ、この私を前にその名乗りを上げるがいい」
「――――っ」
我らのローマを継ぐもの、という言葉にネロは苦渋を滲ませる。
ありえない。だが、カリギュラと前例を見届けている。
言葉を詰まらせたネロに、カエサルは呆れるように再び声をかけた。
「沈黙か? 貴様がただの野に咲く花ならそれも良し。
だが戦場の華でありながらその無様は見るに堪えんぞ、ローマの皇帝としてな。
まあ一度くらいは見逃そう。私の心はこの腹を見ての通り、広くてふくよかなのでな。
では、追試と行こう。
――――さあ、語れ。貴様は誰だ。この私に剣を執らせる、貴様の名は」
カエサルは大きく腕を広げ、目前のネロを注視する。
冗談めかしておきながら、しかし二度はないとその気怠げな目が語っていた。
「――――ネロ。
余はローマ帝国第五代皇帝―――ネロ・クラウディウスである。
連合ローマなどと名乗り、皇帝を僭称する貴様たちを討つものである―――!!」
赤の剣を構えて、彼女は腹の底から吼えた。
獅子さえも震わせるであろう皇帝の名乗り上げを聞き、カエサルを満足げに一度肯いた。
「うむ、良い。名乗りとはそうでなくてはな。
そちらの客将よ。遠い異国よりはるばるようこそ、我らがローマへ。
貴様たちも当事者だ。この私の前で、その名を高らかに名乗るがいい」
「――――藤丸立香です」
「マシュ・キリエライト―――マスター・藤丸立香のサーヴァントです」
「同じく、藤丸立香のサーヴァント。ジャンヌ・ダルク」
ネロに続いた三人の少女を見つめ、ついでに堪能しながら。
彼は小さく呟いた。
「ふむ。ローマでは聞きなれぬ響きよな。すべての道はローマに通ず、か。
やはり些か驕りすぎであるな。まあ、それもまたローマと仰られるのであろうが」
「余らに名乗りを上げさせておきながら、自分は名乗らぬか僭称皇帝よ」
彼女の手にした剣に赤い炎が走る。怒りか、しかしそれ以上に恐怖か。
彼女が僭称皇帝と呼ぶ彼の、名前を聞いてしまうのが怖いのか。
それを理解するがゆえに、カエサルは名乗りもせずに言葉を返す。
「うん? ああ、そうであったな。
私が名乗るに値すると判断すれば、そのうち名乗ることとしよう」
ネロの表情が複雑な感情に燃える。
その様子を少しでも落ち着かせようと、マシュがカエサルに言葉を投げる。
同時に、こちらにない情報を少しでも得るために。
「貴方には訊ねたい事があります。連合について、聖杯について―――そして」
「我らとも関わらぬ第三勢力についてもか?
残念ながらそれは知らんな。奴らの動きにはこちらも興味がないからな」
マシュの言葉を遮る、カエサルの返答。
「興味がない……?」
「我ら連合ローマの興味はこの時代のローマのみよ。
他の者が何にどう干渉しようと、我らに動く道理なし。
そちらの答えは、お前たちで勝手に探すがいい。こちらを探ったところで何も出ないぞ。
そして、連合ローマについてであるが……」
ちらり、と。カエサルの視線が背後に向く。
そこには一人の少女。女神ステンノが腰かけていた。
彼に預けられた連合ローマの……人質扱いだろうか。
まあ、彼に預けられている以上負ければ奪われても仕方あるまい。
「この私を打ち倒し、この場で己こそが勇者であるという証を立てるがいい。
さすれば……いや、もしかしたら? くらいか。
貴様たちに、美しき女神からの神託か何かが下るやもしれんぞ」
彼の手が黄金の剣を引き抜いた。
贅肉に覆われているとは思えぬ、力強い動作が開始する。
彼はサーヴァント。そして、その身の放つ威風はカリギュラすら凌駕している。
人間であるネロ一人でどうにかできる相手ではない。
マシュとジャンヌの姿が前に踏み出す。
ネロを庇うような陣形でもって、彼女たちの戦いは始まった。
その突進こそは、胴体のあるバッファローの頭部を活かした一撃だ。
隼の翼と、イルカのヒレ。二枚一対の翼を持ちながらも、キマイラは地上を駆ける。
巨体の下に回れば、バッファローの角があらゆるものを粉砕する。
その身はただ走るだけで圧倒的な兵器であった。
「チィッ――――! “
地面から黒炎の槍が突き上げる。同時に、呪詛の炎が巻き起こる。
湧き上がる憎悪の炎に呑まれながらしかし、キマイラの突進は止まらなかった。
左肩のイルカの顔が鳴けば、噴き上がる癒しの水。
呪詛の炎はその水流へと呑み込まれ、消し尽くされ流されていく。
その光景を目の当たりにしたオルタが、ひくりと口の端を震わせた。
「何なのよあのイルカは―――! ってか、普通キメラにイルカが混じる!?
翼とか片方イルカのヒレじゃない! イルカが飛ぶわけないでしょ!?」
呪いすらも癒すイルカの水に、苛立ちをそのまま口にする。
がなり立てているオルタにちらりと視線を送る清姫。
彼女は淑やかに扇子で口を隠しながら、炎を撒いていた。
「幻獣の生態にいちいち文句をつけても始まらないと思いますけれど」
隼の翼が起こす風と、イルカの巻き上げる水。
キマイラが張る障壁は、彼女の火力単体では突破は難しい。
宝具の解放は選択肢の一つだが、相手が幻獣ともなればそう易々と攻略はできないだろう。
何よりブーディカが兵を整え下げさせるまでは、決戦ではなく時間稼ぎだ。
彼女の対人宝具の解放であればまあ、兵士を巻き込みかねないという問題はないが……
だからと言って、いきなり宝具を解放した黒いのは何がしたいのだろうか。
イルカが嫌いなのだろうか。
「アヴェンジャー! 下がって、こちらのバーサーカーと一緒に支援に徹しなさい!」
オルガマリーの指示が飛ぶ。
あの巨体の突撃に耐えられるのは、純粋に防御力が段違いのジオウだけだ。
もしくは既にネロとともに別の戦場に向かったが、マシュと白い方か。
ああ、あとついでに――――
「はははははは! 圧制者の走狗よ、叛逆者たる我々を圧殺しにきたか!
ならば我らは今こそ、立ち上がるべき時を迎えたのだ!
いざ征かん
だが、示そう! 我らこそが圧制者の傲慢を食い破る叛逆の獣、スパルタクスであるのだと!」
その鋼のような筋肉が躍動し、キマイラの突撃を正面から受け止めた。
獅子の牙や爪、バッファローの角が彼の肉体を損傷させるが、彼がそれを気にかける様子はない。
純粋な大質量。獅子の体躯が生む高速移動。そして鋭いバッファローの角。
それら全てが突撃の破壊力として発揮されるあれに、真正面から受け止めるという選択はない。
普通は。普通は。
ランサーですらもそういった対応は不可能だろう。
オルタや清姫であれば、言うまでもない。
イラ立ちながらオルタは視線をランサーに送る。
紅の魔槍が隼の顔を横薙ぎに払う。
火花を散らし、悲鳴染みた雄叫びをあげる隼の顔。
伸縮自在のカメレオンの舌。キマイラの尾が、ランサーを目掛けて伸ばされた。
一直線に向かってくるそれを横っ跳びに躱し、更に槍を一振り。
切断には至らぬものの、カメレオンの舌が火花を散らして大きく震えた。
「悪くねえ。獣狩り、ときたら若い頃の方が得意だったもんだが……
狩り甲斐のある相手とやるのはいつだって歓迎だって話だ―――!」
たわむ伸び切った舌を潜り抜け、青の槍兵がキマイラの元まで駆け抜ける。
同時に奔る槍の穂先が赤い閃光を描き、キマイラの体に傷を入れていく。
「ははははは! さあ、友よ。今こそ圧制者を打ち倒す時!」
怯んだキマイラを、スパルタクスが強引に捻じ伏せる。
叛逆の疵獣と青い豹に囲われ、キマイラは押し込まれていた。
なるほど。
あれだけの立ち回りを演じる前衛が居れば、彼女や清姫は炎を飛ばしていれば決着だ。
―――なんて、納得できるはずがあるものか。
「アヴェンジャー! 聞いてるの!?」
「はいはい、分かってるわよマスター。後方火力支援でしょ」
「火力を出せなんて言ってないわよ!」
とにかく、意識を逸らすのが仕事だ。
ランサーたちの立ち回りを邪魔しないような動きで。
しかしキマイラの突進方向が、兵士たちの密集地に向くこともないように。
更に掴みかかってくるスパルタクスの足をカメレオンの舌が縛る。
それを力尽くで引きずり倒し、体勢を復帰させるキマイラ。
ランサーの離れない動きを鬱陶しく感じたか、立ち上がった体を大きく揺する。
その動作に応えるように水が、風が、吹き荒れて周囲に襲いかかり―――
その瞬間。水と風の壁をぶち抜いて、獅子の頭に一台のバイクが突っ込んだ。
顔面に突き刺さる圧倒的な速度の弾丸。ライダーブレイク。
喉から小さな鳴き声を漏らしながら、キマイラの体は後ろへと転がっていく。
もう兵士たちからは十分に距離も空いた。
あとは、あの巨体を仕留め得るだけの大火力で決めるだけだ。
「よし! ランサー、今……!」
「今ね! 行くわよ、清姫!」
ランサーの宝具で決めにいく、という心算だったのだろう。
投げ槍の方の彼の宝具であれば十分に仕留められると、戦闘中に推察はできている。
だがその彼らを追い越すように、オルタはいつの間にか清姫の手を引いて前に出ていた。
「はい?」
「え?」
扇子で口を覆って仕事は終えた、と考えていた清姫も驚きに目を見開く。
宝具を構えようとしていたランサーも手を止め、それを見届ける姿勢を見せる。
「アンタの宝具に私の宝具を上乗せする――――!
ええ、出来るはずよ。私はファヴニールさえも従えた竜の魔女―――!
竜とあれば、その属性を有効活用できないわけがない!」
「ファヴニール有効活用できてましたか? 貴女」
清姫の突っ込みを無視して、彼女は宝具解放の姿勢に入る。
どちらにせよキマイラに近くにまで引きずり出されてしまった。
通常状態の清姫では、あれだけの幻獣の相手など務まらない。
ランサーも邪魔をする気はなさそうで、清姫には彼女と一緒に宝具を使う道しかなかった。
「………仕方ありませんか。では、どうぞ御照覧あれ。
火竜となりて、焼き討ちです。“
「これぞ我が憎悪、我が裡より生ずる黒い炎! “
その場において清姫の姿が、青き炎の竜に変生する。
彼女は宝具の解放をもって、幻想種の頂点といってもいい、竜種の域に一時的に踏み込む。
そしてそんな竜となった彼女の鼻先に、黒い炎が爆発的に燃え上がった。
剣とともに竜の魔女の紋章が描かれた旗を揮い、魔力を解き放つジャンヌ・オルタ。
竜と化した清姫が大きく口を開き、その喉の奥から青い炎を溢れさせる。
次の瞬間、吐き出されるドラゴンブレス。
青と黒の炎が混じり合い、大地に沈むキマイラへと殺到した。
立ちはだかるのは炎を消化する水と、吹き散らす風の二重障壁。
先程易々と防がれたその壁に直撃した炎はしかし、此度の衝突で拮抗した。
事実として清姫の変生だけが原因でなく、魔女の力が竜の力を向上させている。
「――――さあ、燃え尽きなさい!」
じりじりと防御を食い破られ、追い詰められていくキマイラ。
数秒の後、その巨体は青と黒の炎の螺旋に呑み込まれていた。
爆熱が周囲を焦がすほどの熱量。
それに完全に包まれたキマイラは、炎が晴れた後に横倒しになって転がっていた。
楽しそうにそれを見下ろすオルタ。
何やら暴れるのが楽しくなっていそうな彼女を見つめ、ジオウは小さく呟いた。
「……ウォッチに燃え尽きられたら困るんだけどなぁ」
清姫がその姿を人の身に戻す。
竜への変生は魔力の消費も、霊基への負担も大きい。
攻撃が必要ない状態になった、と判断したらすぐに解除する。
「はッ、どうよマスター! これが私の力よ!」
自信満々にオルガマリーに向けて胸を張るオルタ。
彼女は額に手を当てて、険しい表情で眉をひくつかせていた。
オルガマリー・アニムスフィアはいい。
彼女が支えているジャンヌ・オルタは、ある程度の魔力の浪費は許容される。
だが、藤丸立香のサーヴァントである清姫に浪費させてどうするのだ。
そう言ってやりたいのをぐっと堪え、オルタに問いかける。
「それで、わざわざ割り込んで前に出た理由は?」
「理由? そんなの決まってるでしょう。
どんだけ私がここで兵士をただ転がすだけの仕事してたと思ってるのよ。
いい加減に我慢の限界。溜まりに溜まっていたんだもの、しょうがないでしょ?」
あとあのイルカ見てたら腹が立った。などと供述するジャンヌ・オルタ。
……そもアヴェンジャーとは、我が身を顧みず自身が崩壊する事も構わず復讐に邁進する霊基だ。
破壊衝動を抑える、という行為自体がそもそも彼女の傷となる。
そう考えれば、仕方ないということもできる……
「おお、アッセイ!」
「ひゃっ……!?」
などと考えていたオルガマリーの目の前で、スパルタクスが復帰する。
咄嗟にジオウの後ろに飛び込むオルガマリー。
だが彼は、そのまま次の圧制者―――ジオウやオルガマリーでなく、連合の皇帝へと走り出した。
―――そうだ。とりあえず考えるのは後にして、あちらの皇帝をどうにかしないと……
「……ところでアンタ。ちなみに竜の首を増やせたりしないの?」
悩んでいるオルガマリーの前で、オルタは清姫に問いかける。
何言ってるんだこいつ、と言いたげな目で見返す清姫。
「増えるわけないでしょう。わたくしの首が二つあるように見えますか?」
「アンタが追いかけてる相手が二人に分身したらどうするのよ」
「――――なるほど、確かに。安珍さまが増えた場合わたくしも頭を増やす必要が……?」
謎の切り返しに対して、真面目に考え始める清姫。
下手したら、そのうち本当に増やしかねない。
悩んでいる清姫から視線を外したオルタは、自分もまた考え始める。
「ドラゴン型の黒炎……もしやるなら首は八本、は流石に無理か。
でも首、三本は欲しいわね……出来るかしら……?」
何考えてるんだこいつ、と言いたげな目で彼女を見るオルガマリー。
あれ、本当にアヴェンジャーの破壊衝動関係あったのだろうか。
その体の表面が割れていき、中からぐったりしているキメラが出てきた。
バラバラに崩れていくキマイラの中から、ころりと落ちるウォッチが一つ。
それを拾い上げたジオウが、首を傾げた。
「あれ、色変わった?」
黒と銀だったウィザードウォッチ。
それが何故か、黒と金のウォッチになってしまっていた。
「顔も違う。誰?」
そのウォッチの表面に描かれているのは、魔方陣のクレストと2012の数字ではない。
もちろん、宝石の魔術師の顔でもなかった。
獅子を思わせる風貌。金の鬣と緑の目を持つ、初めて見る顔だった。
「おい、マスター。こっちがそうじゃねえのか?」
そう言ってランサーが拾い上げ、投げ渡してくるウォッチ。
それこそ正にウィザードウォッチ。
じゃあこれなに。
「こういうときには……」
辺りを見回す。ウォズは……出てこない。
こういうときこそ出てきてほしいのに。
「これがドライブウォッチ、ってわけじゃないよねぇ」
ブランクウォッチを持っていたわけでもないのに、出てきた新たなウォッチ。
ウォズがマシュにブランクを渡していた、ということはドライブは恐らくそっちになるのだろう。
今回はブランクウォッチもなく、いきなり湧いて出たウォッチだ。
「ブランクがなくても作れる?
あとは……ウィザードの歴史から、これだけが分離したとか?」
考えていても仕方ない。とりあえず、次にウォズがきたら聞けばいい。
それをとりあえずホルダーに収め、ランサーに振り返る。
彼はくい、と首を立香達の戦場へと向けて振った。
―――そちらもまた、戦いの終わりに差し掛かっていた。
果たして彼の動きは、その外見から察する事など不可能な域にあった。
そのふくよかな腹に似合わぬ俊敏さで迫るカエサルが、ジャンヌの旗と剣を打ち合わせる。
「っ……!」
そのまま打ち負け、背後に押し返されるジャンヌ・ダルク。
更に追撃を仕掛けようとする彼の前に、マシュの盾が割り込んだ。
それを認識すると、嫌そうな顔をして彼は退く。
「また……!」
「剣が刺さるような盾でもなかろうが……やれやれ、盾に斬りかかるのは余り気が進まん。
まして、その盾の持ち主が黄金の剣に近そうなブリタニアの縁者となれば、なおさらな」
呆れるように溜息を吐くカエサル。
彼の攻勢はマシュの防衛が入ると、途端に意識が逸れる。
あるいはその剣の由来に、その理由が秘められているのか。
攻撃を弱めたカエサルに対し、灼熱の剣を構えたネロが走り出す。
「僭称、連合皇帝よ! 覚悟せよ!」
「無論、覚悟なら戦地に来る前にしているとも。私も兵士も誰もがな」
突撃してくるネロから小さく目を逸らし、キマイラの戦いを見る。
キマイラはほぼ抑え込まれている。
兵士たちにも幻獣が無駄な被害を出すことはないだろう。
ただ、無血制圧を担っていたジオウがキマイラに回った以上、兵士たち同士の戦闘は不可避。
「やれやれ、さっさと降伏してしまえばいいものを」
「余が降伏など、するものか――――!」
思わずこぼれた兵士たちへの不満を、ネロが自身に向けられたと感じ激高する。
まあいちいち正す必要もない、とカエサルは言い返すこともしなかった。
カエサルの黄金の剣と、ネロの真紅の剣が衝突する。
ネロの表情が苦渋に歪むのとは対照的に、カエサルには余裕しかない。
「ぐっ、ぬっ……! 化け物めっ……!」
「言ってくれるな。こちらはこの現界に不満ばかりだと言うのに。
大体なんだセイバーとは。剣を振るではなく、指揮を揮わせるべき英霊だろう、私は」
両腕で全霊をこめたネロの一撃。
それを片腕で構えた黄金剣で、軽く捌いてみせるカエサル。
弾かれるネロを、マシュが庇うように前に出る。
またもカエサルは嫌そうな顔をした。
「……まあ、皇帝として試すなどと言っていながら、私が食わず嫌いしていては示しもつかんか。
では、盾持ちのサーヴァント。よく守れよ」
「え――――」
カエサルの手の中で、黄金の剣が光を帯びる。
その光に、マシュの体が一気に強張った。
即座に自身の魔力を防御に回す。盾に魔力が充填され、展開を開始する。
「――――“
発動する光の防壁。騎士王の聖剣さえ阻む、マシュの持つ最強の盾。
それを前に、カエサルは小さく口の端を上げた。
「私は来た」
彼の体が動き、光の盾の目の前まで踏み込んでくる。
「私は見た」
盾越しに彼は盾を支えるマシュを見据える。
自身の勝利を信じて止まない、絶対者の眼差し。
「ならば次は勝つだけのこと! “
そうして彼は黄金の剣で一度、光の盾に斬り付けた。
一瞬の空白。マシュの意識が、思いの外軽い彼の宝具に困惑し――――
次の瞬間に、二回目、三回目、四回目、五回目―――
十、二十、五十、百――――
ありえない数の追加攻撃の衝撃が、その腕に襲い掛かってきた。
数えきれないほどの回数の負荷が、瞬きのような短い時間でかかってくる。
「ッぁ………!?」
マシュが盾を支えきれず、その身が後ろに吹き飛ばされた。
そのままネロの頭上を飛び越して、地面に叩き付けられる。
駆け寄る立香に、ネロを庇うべく前にでるジャンヌ。
片目を瞑り、黄金の剣を振り切っていたカエサルが一度息を吐く。
「
だが
だから余り好きではないのだ、これは。賭けとは運ではなく術理で攻略するものだろうに」
「その運命さえ切り裂く、黄金の剣………」
「―――誇大広告だな。運命を切るのではなく、斬れるかどうかを天運に任せる剣である。
私の栄光でもあるが、まあ揮うのを躊躇うのはそういうところだ。
この私が剣を振るわねばならぬ時点で、それはどこぞの誰かに不手際があったのだろうよ」
ただ詰まらなそうにそう口にするカエサル。
だが、彼と対峙するネロの体は震えている。
「ガイウス、ユリウス―――カエサル。ローマが、皇帝を戴く以前の統治者――――!」
自身を見上げるネロの碧眼。
そこにある感情を逆なでするように、彼は大仰なまでな手振りで名乗り上げる。
「正解だな。名乗る前にバレてしまっては仕方ない。
そうとも、私こそが貴様たちの名乗る称号。皇帝という名の祖たる男。
ガイウス・ユリウス・カエサルである。
まあ信じても信じなくてもいいが、少なくともお前の伯父すら私には傅くぞ」
冗談めかして彼が放つ言葉。
本物でしかない、と意識しているカリギュラの引き合いにだされ、ネロの顔が歪む。
分かっている。本物なのだ。
どういう理屈かはまるで分からなくても、カリギュラも、カエサルも。
あの黄金の剣の輝きは、正しくカエサルの威光を示した。
それに慄くネロ。
ジャンヌの後ろに庇われた彼女を見つめ、カエサルはその威光を翳しながら言葉を紡ぐ。
「肩の力を抜け。そして笑え。ネロ・クラウディウスよ、貴様は美しい。実にな。
その美しさこそ、ローマが世界に誇る至宝として何より相応しい。
ならば後は―――ローマよ、その勇気を示せ。ローマよ、その強さを示せ。
ローマは美しい。ローマは勇猛である。ならば、ローマは勝者である―――
ローマたる貴様がローマに相応しきそれらを我が前に提示した時、貴様は私を打ち倒すだろう」
彼の全身に魔力が漲る。その左腕を肩まで覆う大理石の巨腕が覆う。
霊基を己が魔力で限界突破させたカエサルが、ここにきて遂に吼えた。
「それが出来なければ、貴様にローマ皇帝たる資格がないということだ――――!!」
未だ立て直していないネロに向け、吼えるカエサルが怒涛の如く押し寄せた。
そもそも二章がネロの曇らせ展開が基本で書いてて辛いゾ
じゃあなんでわざわざブーディカまで曇らせてるんですかね…?
この曇らせは剛要素ですね間違いない。