Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ローマ10話目……
まあ、20話まではかけずに終わるかな?
 


奴らはローマを“どうやって”滅ぼそうというのか0060

 

 

 

立ちはだかるジャンヌに対し、カエサルは剣を振るうでもない。

ただ大理石の覆われたその腕を振り上げて、彼女を大きく弾き飛ばした。

 

「ジャンヌ!」

 

立香の声が飛ぶ。

それと同時、弾き飛ばされながらもジャンヌが旗頭を地面に突き刺していた。

しなる旗棒。それを掴んだまま、体を跳ねさせるジャンヌ・ダルク。

その反動を利用して、吹き飛ばされた以上の速度でカエサルに跳ね返るジャンヌの体。

 

「なんと!」

 

空舞う体を蹴りの姿勢に変え、カエサルに突っ込むジャンヌ。

それを目撃したカエサルの視線は、ジャンヌの美脚やはためくスカートやらに吸い込まれる。

そのまま腹に突き刺さる蹴撃。

次はカエサルの巨体がボールのように吹き飛ぶ番だった。

 

地面を転がるカエサルの玉体。

彼は回転を停止しむくりと起き上がると、満足そうに肯いた。

 

「良い足、いやさ良い蹴りである。うむ」

 

「………はぁ」

 

決めてネロに向かってきたかと思えば、女体に釣られて転がってみせる。

困惑気味のジャンヌは一応溜め息混じりで賛辞を受けとった。

 

「ローマ皇帝ともなれば戦場であっても余裕あるものだ。

 男子たるもの、いついかなる時も美しい女の体に目を奪われる余裕くらい持っていて然るべき。

 というものだ。参考にするといい」

 

まるで悪びれた様子もなく、そう断言してみせる。

 

「貴様も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴様が立っているのはどこだ?

 その先帝どもが築いた時代の頂点であろうが。

 さっさと立ち上がり、貴様は余のローマの下敷きとして役立った、くらいは言ってみせろ」

 

未だ片膝をつくネロに溜め息を落とすカエサル。

弾かれたマシュも復帰して、しかしネロの中には未だに強い迷いがある。

 

「貴様にとって私とは、カリギュラとはなんだ?

 敬愛する事と卑屈になる事を一緒にするな。現皇帝ネロ・クラウディウス。

 お前に問おう―――我らの命は、今のローマの礎となれたのではなかったのか?」

 

そこまで言われて、ネロは唇を強く噛み締めて一気に立ち上がった。

その碧眼には彼女の手にする炎の剣の如き、灼熱の意志が燃え盛っている。

ふむ、と彼女と目を見合わせるカエサル。

 

「―――そうとも。余こそがローマ帝国第五皇帝、ネロ・クラウディウス!

 先帝より否定されようと、余が今代のローマこそを史上、最も輝ける国と成す皇帝である!!

 他の誰が治めたローマより、余のローマこそが最も美しいと謳う者である!!」

 

「別に最初から否定はしていないがな。お前が勝手に落ち込んでいただけだろうに」

 

やれやれ、と肩を竦めるカエサル。

その彼の顔が顔から遊びを消し、ただただ気怠げな表情に変える。

次の瞬間、その体がネロの寸前まで迫っていた。

 

振るわれる黄金の剣。迎え撃つ隕鉄の鞴。

剣同士が打ち合った瞬間、ネロの体は後ろへと大きく吹き飛ばされていた。

 

「ァっ……!?」

 

腕が千切れたか、と思うほどの衝撃。それでも剣は放さず、悲鳴を必死に呑み干した。

吹き飛ばされたネロの背を、マシュの体が抱き留める。

大きく咳き込んで、体を震わせるネロ。

が、すぐさまマシュを振り解いて再び前へと走り出した。

 

「ネロ皇帝……!」

 

「はぁあああああっ――――!!」

 

爆炎を伴いながら振るわれる原初の火(アエストゥス・エストゥス)

それを黄金の剣で受け止め、容易に捌いてみせながら笑うカエサル。

 

「足らんな、まったく足らん。

 このカエサルに吼えた気概と勇気はまあよし。しかし強さがまったく足りぬ。

 これではネロのローマは脆弱だ、という誹りを免れぬ」

 

「ぬぅう……! ええい――――!!」

 

大上段から振るわれる炎の剣。

今度のカエサルは、それに対して剣を向ける事すらしなかった。

大理石の左腕が、その刀身を力任せに掴みとる。

 

「ぐっ………!」

 

そのまま思い切り投げ捨てられるネロの体。

今度はそれを、ジャンヌが受け止めてみせた。

先程のようにまた即座に走り出そうとして、しかし体が上げる悲鳴に膝を落とす。

 

「さあ、私をどうやって打ち倒す。お前がただ剣を振るうだけでは倒せないぞ?」

 

「――――だが、それでも余が自ら刃を届かせられねば意味がない……!」

 

落とした膝を再び上げて、彼女は走り出した。

そうして、再び剣が交差する。

―――その一瞬だけ、カエサルの腕が押し込まれる。

 

「――――ふむ」

 

「はぁあああああっ――――!!」

 

振り抜く刃。それを剣を回し、受け流してみせるカエサル。

ネロの返す刃。大理石の腕がそれを受け止める。

―――僅か、砕けた大理石の欠片が空に舞う。

 

「―――ネロ帝の攻撃が、通じて……?」

 

彼女が皇帝として見せる気迫に、割り込むべきでないと感じさせられる。

だが、もしもの時はすぐさま守りに入れる距離。

そんな場所から見守るマシュが、カエサルに通用し始めたネロの攻撃に困惑する。

 

いや、攻撃だけではない。

足運びも何もかも、先程までの人間としての動きから逸脱し始めている。

 

大理石の巨腕が横薙ぎに振るわれた。

それを潜り抜けた赤い影が、炎の剣を切り上げる。

黄金の剣が走り、赤い剣閃は弾かれ後ろに流されていく。

 

後ろに押し返される体。

地を足で滑りながら、ネロはただカエサルだけを睨んでいる。

カエサルの方は、自身に肉薄し始めたネロを見て少しだけ表情を緩めていた。

 

「ははは、ローマ皇帝らしくなってきた。と()()()()()、というところか」

 

「なにを……!」

 

「――――はじめに七つの丘(セプテム・モンテス)ありし。

 かつてこの地にローマを築いた建国の父は、生きながら神の席に祀られた。

 ローマとは人が築いた人の都市と文明であるが、同時に建国の人は神でもあった」

 

カエサルが斬り込む。黄金の剣に込められた覇気は、衰えない。

だが、それをネロは受け止めてみせた。

大きく後ろに押し込まれながらも、しかし吹き飛ばされずに鍔迫り合いを保っている。

 

「それが、一体なんだと……!」

 

「つまり、特定の条件下においてローマは神の国になるという話だ。

 ローマ帝国が神の国、というのならそれを治める皇帝が神秘を帯びるのは必然である。

 認められた、というのはそういう話だ。

 サーヴァントには抗しえぬ人の身、ネロ・クラウディウス。

 そなたは今、正しくローマの加護を受けてそこに立っているというわけだ!」

 

赤と黄金の剣が火花を散らす。

振るわれる大理石の握り拳。それを剣の腹で受け止め、ネロの姿が後ろに跳んだ。

 

「誰に認められた、などとはあえて口には出さぬ。

 気になるというならいい加減さっさとこの私を斬り伏せ、貴様の皇帝としての務めを果たせ!」

 

「―――――ッ!!」

 

両の手で剣を握り込む。彼女の生命力を燃やし、赤の剣が炎を上げる。

彼の言うローマの加護があっても、それでもなお彼女にカエサルの相手はまだ遠い。

余計なことに心を割いて、届くような相手ではないのだ。

ネロの瞳が炎を宿し、今はただカエサルだけを見据え―――

 

「ふははははははは! さあ、圧制者よ! 貴様らが潰える時がやってきた!

 強者の驕りはこの地に砕け、叛逆者たちはこの地で勝鬨を挙げるだろう!」

 

横合いから、満面の笑みを浮かべて筋肉機関車が現れた。

呆れたように表情から緊張感を落とすカエサル。

 

「いや貴様。私がせっかく美女に囲まれながらそれなりに楽しんでいるというのに貴様。

 そこに筋肉の塊が乱入とはどうかと思うぞ、私は」

 

「おお! 貴様こそが圧制の象徴! 体についた大量の贅肉こそがその証左!

 貴様こそが我らが打ち倒さんと命を懸ける、贅肉圧制皇帝に他ならない!」

 

「変な呼び名を付けてくれるな。後これは私のふくよかさの象徴である」

 

ネロと対峙しているにも関わらず、カエサルは仕方なしにスパルタクスに顔を向ける。

無視するような真似をすれば、彼であっても蹂躙されかねない相手だ。

――――とはいえ、長々と相手をしている暇もない。

これがこちらに流れてきた、ということはキマイラも落とされたのだろう。

 

ならば、選択肢は多くない。

ふぅと一度彼は小さな溜め息を落とし、気の進まないというような顔で剣を構えた。

 

「“黄の死(クロケア・モース)”――――ああ、まったく気が進まないが。

 だがやはり、先達として見せねばならぬ光景か」

 

「ふははははははははははははは――――!!!」

 

ネロを差し置いて駆け抜けるスパルタクス。

彼を迎え撃つために、カエサルは剣を構える。

そのまま視線も向けず、背後で待機している女神に彼は言った。

 

「女神ステンノ、勝者を讃えに行くがいい。この場にいれば巻き込まれるぞ」

 

「――――ええ。では、そのように。敗者、カエサル」

 

彼女の姿が霊体化し、そのままカルデアのマスターたちの元へ移動し始める。

 

それを察しながら、カエサルは迫りくる筋肉の壁に黄金の剣を走らせた。

彼が手にするのは、幸運が攻撃の成功を約束する限り無数の連撃を行う宝剣。

尋常とは思えぬ速さの剣閃が、スパルタクスの全身を切り刻んでいく。

 

――――腕、足、胴、頭。

体のあらゆる場所を切り刻まれても、しかしスパルタクスは止まらない。

それどころか、彼の宝具の効果により魔力を高めながら走り込んでくる。

しかしカエサルはなお、速度を上げて黄金の剣を奔らせ続ける。

それが――――

 

「―――まあ、先程のは出来過ぎていたな。こんなものだ」

 

スパルタクスは既に全身が切創だらけ。

それにより向上させた魔力で再生しながら、既に人のカタチを捨てた形状に変わっていた。

正しく筋肉の塊。

 

魔力と筋力の塊である肉塊と化したスパルタクス。

その彼に突き刺さった黄金の剣が、カエサルには引き抜けないような力で抑え込まれた。

彼の剣は()()にも、そんなかたちで停止することとなっていた。

 

スパルタクスの頭らしき部分で、眼であろう部分が爛々と輝いた。

 

「ふはははははは! 我が愛による抱擁で、圧制者を打ち砕かん――――!!

 “疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)”――――!!!」

 

スパルタクスの肉が、魔力が、膨張する。

余りにも分かり易い、()()の前兆。

 

既にジャンヌがネロの前に出て、その旗を掲げている。

宝具を一度解放した直後のマシュは、すぐさま立香を抱えてそちらに続いた。

 

「失礼。私もいれて頂けるかしら?」

 

ネロの近くで藤色の髪の少女がそう問いかけてくる。

立香の手が有無を言わさず彼女を引っ掴み、ジャンヌの背後へと引きずり込んだ。

守るべき相手が全員集まった、と判断したジャンヌが祈りを捧げる。

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ―――“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”!!」

 

ジャンヌが展開する光の結界。

彼女の有する守護を防御結界に転換する旗の宝具。

神の御業の再現がここになされる。

 

直後。

スパルタクスを中心に魔力の暴走が、光と熱となって周囲を舐め尽くした。

 

 

 

 

「っ、やはり何か彼とは相性が悪かったような……」

 

ジャンヌがぼんやりとした何かを呟いて、爆心地を見やる。

 

スパルタクスの受けたダメージを魔力に変え、破壊力に転じる彼の宝具。

カエサルの剣は対人宝具であり、高威力の対軍・対城宝具ではなかった。

だからあの宝具の威力は天井までは届かなかったはずなのに、この破壊力だ。

 

彼女たちの戦いと他の皆が離れた位置で助かった。

 

爆炎とともに立ち上っていく黄金の魔力の残滓。

それはサーヴァントの退去の光に相違なく――――

 

しかし、その炎の中でカエサルは気怠げな表情を浮かべて立っていた。

 

「やれやれ、だから運任せになどするべきじゃない。

 いくらリターンが大きかろうが、負けた場合はこんな有様では話にならん」

 

大理石の腕は砕け、彼の半身は炭化している。

退去したのはスパルタクスだけだ。

彼は何の事もないように、炎の中からネロへと視線を送る。

 

「さて。お前の配下が与えた傷だ、そのまま勝ち名乗りをする資格もあるが?」

 

彼は半分焼けた腕でしかし、黄金の剣ばかりは手放さなかった。

とはいえ、既に戦いを継続する力が残っていないのは明白だ。

そんな彼を見据え、ネロは再び剣を構えた。

 

「――――――征くぞ、僭称皇帝カエサル!」

 

「そうか。では全霊で迎え撃つとしよう。

 来るがいい、ローマ帝国第五皇帝、ネロ・クラウディウスよ」

 

自身の前にいたジャンヌを追い越し、ネロの体が疾駆した。

相手が半死半生の有様である、などと思い上がりはしない。できない。

ただその一撃に、全身全霊を込めて走り抜ける。

 

彼の剣の冴えは、もはや欠片しか残っていない。

それを死力をもって潜り抜け、炎に燃える剣を彼の胸に突き立てる―――

胸を撃ち抜き、背へと突き抜ける赤い切っ先。

霊核をその一撃で粉砕された彼の血が、そのまま金色の魔力の粒子に還り始める。

 

「うむ、よくぞ成し遂げた」

 

「………余が……成し、遂げた……?」

 

カエサルを貫きながら俯くネロが、その言葉を繰り返す。

納得などどこにもない、というのが明白だった。

 

「お前は立ち上がった。お前は立ち向かった。

 そして今、この決着の場において立っているのは私ではなくお前だ。

 それを勝利と言わず何と言う。そして、かつての皇帝に勝利したのだ。

 それを偉業を成し遂げたと言わず、いったい何を偉業とする」

 

「だが、余は、このような………!」

 

カエサルには片腕しか残っていない。その手は剣を持ち、塞がっている。

彼女を撫でようと思っても、空いている手がなかった。

死に際にこの剣を放るわけにもいくまい、と小さく溜め息を一つ。

 

まあ、彼女を撫でるのは未だ放蕩している彼女の伯父に任せるとするか、と。

 

「まあ、納得がいかないと言うならそれもよし。

 この先、貴様が私が羨むほどにローマを富ませて、誇るがいい。

 己はカエサルを超えるローマの皇帝であるのだぞ、と。

 ではな。ローマの至宝、美しき赤薔薇の皇帝よ。よく生き、よく治め、よく誇るがいい」

 

そう言ってそれなりに満足したと言いたげな彼の姿は、完全に魔力残滓へと還っていった。

貫いた彼の感触が剣から消える。

だというのにネロは、剣を突き出したその体勢のまま、ただ俯いていた。

 

 

 

 

「ガリアは連合ローマなるものたちより、正しき皇帝!

 このネロ・クラウディウスの手に戻った!

 この勝利こそが、余こそが真の皇帝であるという証立てとなるだろう!」

 

彼女は自身の本当の顔を隠し、兵たちにそう叫ぶ。

沸き上がるローマ兵士たち。

敵将こそカエサルと知る、捕縛された連合ローマの兵たちもまたそれに慄いた。

スパルタクスはカエサルと共に消滅したが、それでも圧勝という形だったのは疑いない。

 

そんな彼女の演説の最中、オルガマリーは目の前の女神の話を聞いていた。

カエサルに捕らわれていたという、少女の姿の女神・ステンノ。

 

「連合ローマ、首都?」

 

「ええ。貴女たちの求める聖杯はそこにあるわ」

 

『女神ステンノ、貴女もその聖杯に呼ばれたサーヴァント……なのでしょうか?

 通常、サーヴァントというのは神霊は呼べないものなのですが……』

 

ロマニの疑問。それに同意するように、オルガマリーもステンノの返答を待つ。

彼女は少しだけ悩むような仕草を見せる。

 

「私は今、純粋な神霊ではなくある種の分霊の状態なの。

 本来の神核と別のものを合わせることで、サーヴァントという規格にねじ込めるようになっているのね。私の場合、そのおかげで本来存在しないある程度の戦闘能力まで備わってしまったけど」

 

『戦える、のですか?』

 

困惑するようなロマニの声。

それに、にっこりと天上の笑顔を浮かべて、ステンノは一言。

 

「戦いませんよ? それとも、貴方は私にそんな野蛮なことをしろと仰るの?」

 

『あ、はい。ごめんなさい』

 

通信先で縮こまるロマニ。

その反応を楽しみながら、ステンノは問われたことに答えていく。

 

「それはそれとして、何故呼ばれたかだったかしら。

 何故私が、という理由は分からないけれど……神霊が呼ばれた理由は分かるわ」

 

「それは、一体……?」

 

「戦いの場でカエサルも言っていたでしょう?

 ……ああ、貴女たちは聞いていませんでしたね。

 ローマという都市は、条件を整えれば神の都となりえる土地だと。

 その条件が満たされている。だから、この時代に神が降りてくる。ただ、それだけ。

 連合ローマ首都は、あくまで仮の宿。

 この地に降り立った神が、ローマではない場所に新たに建てた違うローマ。

 だから、降りてくる神もサーヴァント化した私のような神程度だったのでしょう。

 けれどもし、その神が本来のローマ首都に遷都したとしたら――――」

 

ステンノが語る、この時代の状況。

その言葉の中に出てくる、神という呼び名の存在。

あえてその存在の名を出さない理由。

オルガマリーは、小さく首を動かして兵士たちに声をかけるネロを見る。

 

『神代の再現、になると?』

 

「いいえ? 再現、なんてお遊びじゃないわ。

 ―――神代の再来、よ。本来人と神の別れはもっとずっと前だったでしょう?

 けれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 神の遣わした人と神の楔の役目を肩代わりできてしまう。

 もちろん、彼本人にはそんなつもりは一欠片もないのでしょうけどね」

 

そう語るステンノの言葉に、オルガマリーが反応する。

 

「そんなつもりがない? 連合皇帝の……その、トップに?」

 

「ええ。彼はあくまで聖杯に導かれたサーヴァントとして、マスターの指示に従っているだけ。

 マスターの名は……何と言ったかしら?

 ええと、緑色の服に帽子を被った男だったのは覚えているのだけれど」

 

さあ、とオルガマリーの顔から色が引いていく。

そんな恰好をして、この地でマスターなどという位置につく存在など―――

一人しかいないではないか。

 

「レフ……ライノール……」

 

「そんな名前だったかしら? まあ、そうだったかもしれないわ」

 

唇を噛み締めるオルガマリー。

彼女はそんな様子だろう、と予想したロマニがステンノとの会話を繋ぐ。

 

『神代をその時代に再来させられれば、人と神のパワーバランスが決壊する。

 人の時代を開始したにも関わらず、そこで土台を引っ繰り返されるも同然だ。

 文明、文化の温床であるローマが神代に引き戻されれば、人の文明が始まらない。

 つまりは人理焼却の完成だ』

 

「――――でも、なぜ。皇帝ネロの抹殺。この時代のローマの崩壊。

 それだけで十分に人理の崩壊に繋がる行為のはずなのに。

 神代の再来だなんて、そんな大それた……」

 

()()、ではないかしら」

 

レフのことを一度頭から締め出すオルガマリー。

その問いに、ステンノは素直に回答をくれた。

実験? とオルガマリーの口がオウム返しに同じ言葉を呟いた。

 

「必要もないでしょうに、あのレフ? だったかしら。

 あの男がこの特異点に滞在していること。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ―――本命は、ここで実験した上でもっと前の時代での神代の再来なのではなくて?」

 

「――――七つの特異点の中に、本命と呼べるものがある……?」

 

『七つの人理焼却の楔となる特異点……

 なるほど、確かに。こちらがただ一つでも修正できなければ、人理焼却は達成される。

 なら、一つを本命にして別で実験を行うという戦略はありえなくはない、か』

 

二人がステンノから提示されたその結論に顔を渋くする。

特異点攻略中には、シバの観測性能はレイシフト状況の観測に割いている。

新たな特異点の特定に回す余裕はない。

だが恐らく―――その本命とやらは最後の最後、一番巨大な特異点となるだろう。

そのことが容易に推測できた。

 

 

 

 

「うん。あたしはガリアの総督として纏めなきゃいけないからね。

 ほら、スパルタクスも脱落しちゃったし……

 まあ、あいつの場合いても戦い以外の仕事はできないんだけどさ。

 とはいえ相手の首魁に痛打を叩き込んだんだ、笑ってよくやったって送ってあげなきゃね」

 

消えてしまった同僚のことを、わざとらしく茶化すブーディカ。

彼女はガリアの防衛に残るということらしい。

これから正統ローマ軍は、ステンノからもたらされた連合首都の攻略に入る。

そのために一時ローマ首都に帰還し、軍備を整えて、今度は連合首都への行軍だ。

 

最終的に連合首都に攻め込む際はまた合流する事になるだろう。

だが、一時ここでお別れということになる。

 

「―――その……また、会える時を楽しみにしています、ブーディカさん」

 

「あはは、軍の再編が済んだらまたすぐに会うことになるからね。

 ――――うん。でも、あたしも楽しみにしてるよマシュ」

 

ブーディカの腕が、マシュを抱きしめる。

かぁ、と頬を赤くしながら彼女もまたブーディカの体に腕を回す。

 

マシュ・キリエライトは強くそう願い、まるで自分には無い人間の関係性。

母親、のように感じる彼女の抱擁を愛して願う。

この優しい抱擁を、この特異点から去る最後にまた交わせるように、と。

 

 

 

 

「それで、どう思う?」

 

「どうもこうもないだろう。勝つ必要もない。

 彼のカエサルさえもそうやって、自身の望みすら放棄して撃破された。

 マスターには逆らえんが、だからといって指示以上の何かを要求はされない。

 適当に戦い、適当に散ればいい」

 

連合ローマ首都防衛軍。

その指揮を任されている二人のサーヴァントが、歩みながら言葉を交わす。

 

長髪に眼鏡、着衣はスーツ。

などという、戦場において目を疑うような恰好の男は、呆れるように言葉を吐いていた。

やる気などというものはどこにもない。

何せ彼らの目標は人理の崩壊。彼らの望みとは程遠い。

 

赤髪の少年王が彼を見上げ、彼もまた呆れるように言葉を口に出す。

 

「まあ最終的にはそうなるだろうとして。

 そっちじゃなくて、もう一つの方。分かってるくせに」

 

「第三勢力のこと、というなら情報が足りなすぎる。

 まあ、あの怪物の存在については、おおよそ検討はついている。

 どういうギミックかは分かる。ただ、何故そんなことをしているかがまるで分からん。

 仮面ライダー、だったか。その概要が分かれば、そちらも解けるかもしれんがな」

 

赤髪の少年は目をぱちくりと瞬かせ、驚いたような表情を浮かべた。

その直後、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「凄いじゃないか、先生。僕にはまるで見当もつかないのに」

 

純粋な憧れの視線。それにバツが悪そうな表情で顔を逸らす男。

 

「あんな手品は用意されている道具を知っているか、いないかだけの問題だ。

 私とて私の知識を補足する軍師の霊基がなければ、あれの原因すら理解できなかった。

 君だって……いや、何でもない。これはどうでもいい話だった。

 どちらにせよ、あれを引きずり出すために狙うべき相手なら、君にも分かるだろう」

 

「おっと。テストかい? なら僕は、女王ブーディカ、と考える。

 彼女ならついでに皇帝ネロも引きずりだせるだろうしね」

 

楽し気に答える少年。それに、表情を変えずに男は答える。

 

「まあ、正解だな。それで、怪物と皇帝ネロ。どっちを狙うつもりだ?」

 

「もちろん、どっちもだ。欲張りにいかないとね?

 両方が戦場に揃ったら――――そうだな、僕の臣下にならないか訊いてみる、とか。

 楽しいかもしれないね」

 

くすくすと笑いを漏らす少年に、男は呆れ混じりにただ一言。

 

「―――やめてくれ」

 

そう言う彼の呆れた声は、少しだけ嬉しそうな表情から紡がれていた。

 

 

 




 
スパPが死んだ!
(そもそもセプテムはバーサーカー多すぎだし一人くらい……消してもバレへんか)
孔明は何故そんなことを? という理由は分かっていませんが、アナザードライブ周りのこと全部理解していますし正解です。
はわわの力だけでなく、はわわとエルメロイⅡ世がベストマッチした結果です。
 

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