Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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二話同時投稿
 


ローマの皇帝は一体“だれ”なのか0060

 

 

 

雷撃とともにアレキサンダーとブケファラスが進撃を開始する。

その背後で軽く手を翳す諸葛孔明。

 

騎馬と共に攻め寄る相手を前に、しかしネロは止まらない。

剣に炎を湛えながら、彼女は正面かた立ち向かってみせた。

 

「さあ、戦おうか。ネロ・クラウディウス!」

 

「余は――――勝利する、し続けねばならぬ! 余は、皇帝なのだ!」

 

踏み切り、宙へと舞うネロの体。

それが炎の流星となって自身に迫りくる光景を見上げるアレキサンダー。

彼は手綱を引いて、ブケファラスを嘶かせる。

 

「傲慢だね。皇帝であることは、勝利し続けることと謳うのかい?」

 

「っ………!?」

 

同時に、彼らから雷光が天へと向かって立ち昇る。

上から斬り込んでいたネロが、その雷に迎撃されたネロが弾き飛ばされた。

吹き飛ばされるネロ。

彼女の体を、回り込んでいたジオウの腕が受け止める。

 

「では女王ブーディカは? 敗者である彼女は王ではないと?

 勝利をするために死に果てたレオニダス王は王に相応しくなかったと?」

 

「なにを………!」

 

ジオウの腕を振り解き、ネロは立ち上がる。

雷撃に打たれたというのに、彼女は即座に復帰してみせた。

ブケファラスの脚が地面を踏み砕く。

それを宥めるように彼の鬣を撫でながら、アレキサンダーはネロに問う。

 

「勝敗なんて王……じゃないか。皇帝の資質に関係あるかい?

 そんなどうでもいいものを見たくて、僕はこの戦場を整えてもらったわけじゃないんだ。

 正しく皇帝たる資質を見せてくれ、ネロ・クラウディウス」

 

「何を馬鹿な、勝敗など関係ないなどと――――

 貴様、古代の征服王の名を称しながら言う事が、それか!!」

 

再びネロが飛び出した。

アレキサンダーの体がブケファラスを足場に跳ぶ。

今度は逆にネロの頭上を取ってみせた彼の姿を、ネロが目を見上げ―――

彼を発生地点とする落雷が発生する。

 

「かっ……!?」

 

直後。落雷に打たれて麻痺した彼女に、ブケファラスが単独で突撃を仕掛けてくる。

回避しようともがくネロの体は、しかし動かない。

彼女の前に、ジオウの体が割り込んだ。

 

ブケファラスの巨体がジオウへと激突する。

巨大な馬身を抑え込むように受け止めるジオウ。

それがネロへと達する前に静止させ、彼はブケファラスから手を放した。

 

「……君は攻めてこないのかい?

 君を止めようと準備してる我が軍師が手持無沙汰になってしまってる」

 

「……バラしてくれるな」

 

嫌そうに顔を顰める後方の孔明。

彼の力の大半は現状、宝具の維持に回している。

ジオウのパワーを見る限り、余力だけで止めるのは難しいのだ。

挙句に仕掛けることをバラされては、難しいどころの話じゃない。

 

「―――負けても、王様は王様だよね」

 

アレキサンダーに向けてか、あるいはネロに向けてか。

彼はそう切り出した。

その言葉に対し、ネロではなくアレキサンダーが反応する。

 

「そうだね、勝敗程度で王の資質は測れない」

 

「じゃあ、答えは出てるじゃん」

 

その手の中に、彼はジカンギレードを呼びだした。

もう片方の手にはライドストライカーのウォッチが握られている。

 

「勝ったか負けたか、じゃなくて。

 国や民のために勝たなくちゃいけない、って気持ちがネロの皇帝の資質でしょ。

 皇帝は―――俺とも、アンタとも違う。でも、民を想う王様だ」

 

「へえ……」

 

戦場の中で、アレキサンダーがまた微笑む。

しかしその微笑みはすぐに消し、雷光でその身を包む。

彼の微笑みが、再び凄絶な侵略者の笑みに変わった。

 

「なら、それだけじゃ足りないことは君だって分かるだろう?

 “王”の種類も千差万別……いくらでも好きに信念を抱けばいいとは思う。

 ただ民を愛するのはいいけれど、彼女はそれだけじゃないだろう」

 

アレキサンダーの元へ、ブケファラスが駆けつける。

彼は悠々とその馬身に乗り、ジオウに対峙しながら雷鳴を呼んだ。

 

「知ってるよ。でも、それが悪いと俺は思わない」

 

「奇遇だね、僕もだ。けれど、誤魔化していたままじゃ楽しい事にはならない。

 そう思っているってだけさ」

 

「そうなっちゃった原因はさ。アンタたちだと思うんだけど?」

 

呆れるようにアレキサンダーを見返すジオウ。

彼はその不思議な顔に見つめられ、ははは、と悪びれずに笑う。

 

「そうだよ? だから、こうして僕がここにいるわけじゃないか」

 

ブケファラスの突進が始まると同時、ジオウはライドストライカーを展開する。

巨大馬の嘶きに負けじとエンジンを轟かせる鉄騎。

地を駆ける二騎。その騎乗者が、高速で交差しながら手にした剣を打ち合わせた。

 

互いに斬り抜け、車体と馬首を返しながら再び向き合う。

アレキサンダーが相手を見て、楽しそうに笑った。

 

「うわ、それが二輪自動車……バイクってやつか!

 凄いね、それ。確か現代には空を飛ぶ乗り物とかもあるんだろう?

 僕も欲しいなぁ、それ!」

 

「集中しろ、ライダー」

 

「ああ、してるとも」

 

ブケファラスの脚力で地面を粉砕する。

その勢いで空に舞う人馬一体。

 

迎え撃つためにジオウがエンジンを吹かし、加速しようとしたその瞬間。

ライドストライカーの後ろに、ネロが飛び乗ってきた。

 

「あれ、皇帝? 乗るの?」

 

「ここは、余が戦わねばならぬ――――!

 だが相手は彼の征服王。余の身一つでは、騎馬戦にすら持ち込めぬ……!

 頼む………此度の戦い、余の騎馬になってくれ………!」

 

必死の形相。その表情に一瞬悩むが、しかし。

彼はその手のジカンギレードを放り投げて、両手でハンドルを握りしめた。

ブォンと嘶く鉄の騎馬。

 

「行くよ、振り落とされないでね!」

 

「ああ………うむ!」

 

空中に舞うアレキサンダーたちに向け加速しながら、車体をバウンドさせる。

地面から離れたタイヤを空転させながら、彼らもまた空を舞った。

空舞う二騎が。炎と雷が。王と皇帝が。

空中でその剣を交差させた。

 

 

 

 

「ッ………ジャンヌ! 宝具を展開し続けてっ!」

 

立香の手から一角目の令呪が消し飛ぶ。

その魔力の充填により彼女は、結界を維持し続けるだけの魔力を得た。

満タンまで回復させておきながら、しかしすぐさまガリガリと削れていく魔力。

 

「っ、これではあと二度の令呪があっても……せいぜい数分で……!」

 

余りにも手が足りない。

どれだけカルデアのサーヴァントが努力を尽くそうと、三百いる不倒の兵士は止め切れない。

その手の武器でジャンヌの結界を破らんとするものたちは出てくる。

 

そいつらの頭を、マシュが盾の一撃で張り倒す。

しかし倒れたものは踏み潰してでも、次の兵士が攻め入ってくる。

 

「せめて、宝具が使えれば……!」

 

旗を振るい相手の槍と打ち合わせた状況で、オルタがそう口にする。

相手の槍を旗で封じながら、もう片方の手で敵の足を斬り付ける。

ザクリ、と上手い具合に刃が入り、そいつの足が片方飛んだ。

 

倒れ込む敵兵。そいつを踏み越えて、次の兵士が現れる。

片足を失った兵士もまた、踏まれてもなお這いつくばりながらオルタを目掛けて進撃する。

 

「っ……! 止まんない……!」

 

「下がりなさい――――!」

 

反射的に一歩下がったオルタ。

その足元に、炎の波が絨毯のように広がっていく。

進撃してくる兵士は足が焼けようと止まらない。

 

だが、這いつくばりながら進む兵士にとってそれは、突然の全身を覆う炎。

顔も目も、呼吸をすれば肺も。生きるための機能が焼き払われる。

それでも止まらない。スパルタが止まる時は死んだときだけだ。

死ぬその時までは、何があろうが前へ、前へ、前へ、前へ――――!

 

「くっ………! まだ動くのですか……!」

 

走り寄ってくる兵士の剣を、オルタが旗で対応する。

ならば這い寄ってくる兵士を止める方法がない。

あの兵士は武器を失っている。だが、それで脅威でなくなるなどあるはずもない。

 

スパルタの兵士だ。

武器がなくても、足が無くても、相手の足に縋り付き、首まで這い上がり折ってでも敵を殺す。

 

「こん、のっ……!」

 

歯を食い縛るオルタの寸前まで、それが迫る。

今止めている兵士を弾き飛ばそうとしても、それが容易に出来るのなら苦労はしない。

最悪。彼女の炎への耐性に賭け、清姫が纏めて焼き払おうとする―――

 

その瞬間。頭上から赤い巨体が落ちてきた。

這い回る兵士をその上から叩き潰すように降ってきたそれ。

両腕を覆う巨大な手甲を装着したその身こそ。

 

「呂布……!?」

 

「■■■■■■――――――ッ!!!」

 

踏み潰した兵士は胴体が潰れ、ようやく止まっていた。

その魔力に還る死骸の上で、一騎当千は咆哮する。

可変宝具“軍神五兵(ゴッドフォース)”を打撃の手甲に変形させた彼は、一気に周囲の兵士を殴り抜いた。

 

一騎当千の敵将軍を前に、スパルタの兵士たちもまた猛る。

殴り飛ばして距離を開けた呂布の武装が、打撃の型より切斬のそれへと変わる。

身の丈に及ぶ巨大な大刀。“軍神五兵”の更なる形態。

それを振るいながら、彼はスパルタ兵を押し込み始める。

 

「アイツが()()()()()。それに呂布の奴――――

 陣を食い破るには、君たちと協力が必要だって分かってるみたいだ。

 これでもうちょい楽になるかもしれないな。

 そっちの竜の子、さっきみたいに下に広がる火を吐き続けてくれ。私が転がすから」

 

不意に彼女たちの側を横切った荊軻が、そう言って兵士たちに向かっていく。

殆ど組み合うことはせず、足元を刈り取る動き。

清姫が即座に火を吹いてそれらを地獄絵図に変えていく。

 

無双とは言えないが、しかし少しずつ確実に兵士は減らせている。

僅かに、光明が見えてきたのだろうか―――

小さく息を吐いた彼女の耳に、立香の声が届いた。

 

「ジャンヌ、宝具をっ……!」

 

令呪の二画目が消し飛んだ。

まだ、二百五十人以上の兵士がひしめいている地獄の戦場の中で。

非力なマスターたちを守護する唯一の守り。

ジャンヌ・ダルクの宝具はもう、数分と保たない。

 

「―――アヴェンジャー!?」

 

「―――間に合うわけ、ないでしょ……!」

 

同じく、結界の中にいるマスターの悲鳴。

そう言って歯を食い縛る彼女は、すぐさま荊軻と同じように兵士たちを狩りに行った。

 

 

 

 

「そろそろ我が陣の中で、君たちの仲間が詰むぞ」

 

孔明からの声を受け、ジオウがネロを振り返る。

彼女の表情に迷いが浮かぶ。

こうなれば、狙うべきは最早あの陣を張っている魔術師。軍師の方だ。

だがだからと言って、正面を切って互角以上に持ち込めないアレキサンダーは放置できない。

 

迷う。迷う。迷う。

迷っている間に彼女に力を貸してくれている恩人たちが死ぬ。

どうする。どうする。どうする。

 

決まっている、彼女が勝てばいい。一人で。アレキサンダーに。

常磐ソウゴに協力してもらわなければ戦えない相手に、彼女一人で勝てばいい。

そして、彼女の騎馬になっているジオウが敵の軍師を討ち取ればいい。

この危機を脱するには、ただそれだけやれば―――

 

「ソウゴよ……!」

 

「皇帝さぁ。もっと、我儘になっていいんじゃない?」

 

彼女の切羽詰まった声に、ソウゴはともすれば気が抜けているようにさえ感じる声で言う。

彼のその様子を、アレキサンダーが片目を瞑りながら黙って見守る。

 

「なにを……!」

 

「いや、あっちの王様に傲慢だって言われてさ。怒ったじゃない?

 でもさ。王様って傲慢じゃないわけないじゃん」

 

彼がライドストライカーを降りる。

それと同時に、バイクはウォッチと化して彼の手に戻った。

強制的に降ろされることになるネロ。

 

「誰より傲慢で、誰より偉そうで―――誰より大きな夢で、全部の民の夢を守る。

 それが王様でしょ? だから、いいじゃん。

 俺は相手がどんな王様だって、俺の方が傲慢で大きな夢を持ってるって言える王様でいたいな」

 

「ソウゴ……」

 

ネロの視線が虚空を彷徨う。

言い返すべき言葉を探しているのか。

だが、彼女から返ってくる言葉は、ただの妥協案でしかなかった。

 

「そうか、そうだな。ではソウゴはあの魔術師めを頼む……

 余は一人でもあの征服王を……!」

 

「そうじゃなくて。無いの? 俺に言うこと。

 俺、今は皇帝の協力者の所長の部下が仕事なんだけど」

 

ライドストライカーをホルダーに戻したジオウが、ウィザードのウォッチを握る。

撃墜されてから数分、まだ力は完全に戻っていないだろうが―――

使えない事はないはずだ。

 

「あの王様を倒すために力を貸せ、そのついでにあっちの軍師も急いで倒せ。

 ネロが俺に言うべきことって、これじゃない?」

 

〈アーマータイム! プリーズ! ウィザード!〉

 

炎の共に巻き上がる魔方陣。

それに包まれたジオウは、赤き宝石の鎧をその身に纏っていた。

彼のその指示の要求を聞いたアレキサンダーが、口を挟む。

 

「できると思うかい?」

 

軽い口調。しかし強い詰問だと感じる声。

それにソウゴは、自分の調子を僅かたりとも崩さずに返してみせる。

 

「やるよ? だって、俺は世界を救う王様になりたいんだから」

 

ウィザードアーマーが手元に魔方陣を展開する。

投げ捨てたジカンギレードが、ジュウモードの状態でその手に戻ってくる。

 

「それにさ。ピンチはチャンス、って言うじゃない?」

 

彼の手がキメラから落ちた新たなウォッチを、ホルダーから取り外した。

そのまま、そのウォッチをジカンギレードへと装填する。

 

〈フィニッシュタイム!〉

 

必殺技待機状態へと移行するジカンギレード。

ジオウはその銃口を天へと向けて、引き金を絞った。

 

〈スレスレシューティング!〉

 

瞬間、ギレードの銃口から巨大なエネルギー体が迸る。

その黄金の光の塊は、力強い四肢と翼を持つ獣のカタチを形成しながら天へと翔け上がった。

風を踏み締めながら空を駆ける、獅子、隼、イルカ、バッファロー、カメレオンを合わせた幻獣。

それが天上に現れたかと思えば、一気に地上に駆け下ってくる光の獣。

 

地面を脚で抉り取りながら着地。

そうして現れたキマイラは、ネロの真横に着地してみせていた。

同時に、ウィザードアーマーが強く発光する。

今残された全ての魔力を使い、()()()()な魔法を起こしてみせる。

 

エネルギー体であったキマイラの体が、ミラクルにより実体化する。

黄金の光は物質化して、その身に正しい色を取り戻していく。

キマイラが一度、大きく咆哮した。

 

これで、ネロの騎馬は用意できただろう。

魔力の限界を迎えたウィザードアーマーが消失していく。

 

「これであとは、それぞれ勝つだけじゃない?」

 

アーマーが消えたジオウが、後ろに控える孔明に視線を送る。

自身の横に突如現れたモンスターを見たネロが、小さく顔を伏せた。

 

「だが、余は………いや―――!」

 

彼女の体がひらりと舞って、ビーストキマイラの背に騎乗した。

 

「すまぬ。そちらは頼んだ」

 

ネロがキマイラの上からアレキサンダーを睨む。

彼は新たな騎馬を得たネロを正面から見返して、自身の騎馬の手綱を引く。

ブケファラスが疾走を開始した。

 

キマイラの背で立つネロが、両の手で構えた剣に力を込める。

刀身から立ち上る炎。それが一気に噴き上がる。

迫りくる雷の侵攻を前に、彼女は足でキマイラの背を大きく一度叩いた。

その指示に応え、走り出すキマイラ。

 

ブケファラスが一気に踏み切り、弾丸となって跳び上がった。

キマイラが迎撃せんと走りながらも前脚を振り抜く。

それを跳び越えるカタチで交差する、ネロとアレキサンダー。

交差する瞬間、互いの剣が打ち合って火花を散らした。

 

その交差の直後に着地したブケファラスに揺られながら、アレキサンダーが声にする。

 

「うーん。まあ、そういうことだよ。傲慢というか、王なら強欲たれってね。

 欲望の方向性はどうあれ、王なんてものになる時点で人としては強欲にすぎる。

 けれど、無欲な王なんて人の王ではなく、国という機構の運営……

 いわば舞台装置にすぎないものさ。君は国という舞台の中心にいたいんだろう?

 なら、取るべき方針。叫ぶべき言葉は決まっている」

 

キマイラの背後からカメレオンの尾が伸びる。

着地後、即座に馬首を翻していたアレキサンダーの剣が雷とともにそれを打ち払う。

 

「余の叫ぶべき、言葉だと―――!」

 

「そうだよ。でも、怖いんだろう?

 連合ローマという存在が現れ、実に民の半数近くが取り込まれ……

 そりゃあ、王……皇帝として怖くもなるだろう?

 余の愛は届いていなかったのか、余は愛しているのに愛してはくれていないのか。ってさ」

 

淡々と彼女の心情を語るアレキサンダー。

その言葉を聞いたネロの表情が、一気に怒りで燃え上がる。

 

「―――――ッ、黙れ!!」

 

「それは出来ない相談だね。

 もう時間も無さそうだし、ちょっとスパルタで行くとしようか」

 

ちらりと、彼は一瞬だけ軍師を振り返る。

陣地内とはいえ、白兵戦に持ち込まれれば彼がジオウに勝てる見込みはまずない。

そもそもカルデアに全滅されても困るので、陣の解除を達成できるのならそれでいいが。

最初から勝利するつもりは別にないし。

 

軍師もスパルタ王も張り切りすぎて、ネロのための時間の猶予がなさすぎる。

スパルタ王はいつも全力なだけだろうが、先生はもうちょっと手を抜いてくれていいのに。

なんて、王からの勅命に全力で応えた彼に失礼か。

 

どっちにしろ、長々とやっていれば次のブーディカにも差し障るだろう。

彼女の方だって、もう耐えきれる限度まで追い詰められている。

心を整理する時間を設けてあげられなくて恐縮だが……

そろそろ、決着をつけないと。

 

「君は民に、国に、愛を捧げる対価として自身に愛を返せと叫ぶ。

 いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 けど残念ながら、君は思っていたほどには愛されていなかった」

 

縦横無尽に足を運ぶ馬の速度に、キマイラの足回りが置いていかれる。

雷鳴が、周囲一帯から絶え間なく轟き続ける。

 

ブケファラスが嘶いて、キマイラの横合いから激突してきた。

揺れる巨体の上で、ネロが顔を苦渋に歪める。

ぽつり、とその雷鳴に混じるアレキサンダーの呟きが彼女に届く。

 

「どうだろうね。それは、哀しい事なのかな」

 

「―――哀しいとも。余の愛が受け入れられておらぬと言うことは……

 余の愛で築くこの国さえも、彼らにとっては過ちと感じるということなのだから」

 

ネロが片膝を落とし、その掌をキマイラの背に着ける。

今一度と立ち上がった彼女の顔には、しかし哀しみは浮かんでいなかった。

 

「………余の皇帝としての資質を見せよ、と言ったな征服王。

 なるほど。どうやら見せる前に既に暴かれていたらしい。

 ――――余に……皇帝たる資質など、どこにも備わっていなかった」

 

苦しみながらもそれを言葉にするネロ。

彼女を見据えながら、アレキサンダーは最後に問い掛ける。

彼女の答えを。

 

「ふうん。ではどうするんだい? 皇帝を辞するかい?」

 

「――――どうもせぬ!!!」

 

ネロが叫ぶ。

 

「資質がなんだ! 愛が通じぬからなんだ!

 余はそのような、言葉で言い表せるだけの想いで、皇帝の座についたわけではない!!

 資質が無くても富ませてみせよう! 愛が返らなくても愛してみせよう!

 余はこの国が、ローマが好きだ!! だから今この場に立っている!

 カリギュラがなんだ! カエサルがなんだ! レオニダスがなんだ!

 ―――アレキサンダーがなんだ!

 どんな名高き為政者よりなお、余はこの国を愛し抜いてみせよう!!

 余こそ―――ローマ帝国第五皇帝、ネロ・クラウディウスだ!!!」

 

「一途だね。きっと――――その道で、君は死ぬほど苦しむことになる」

 

「それでも、だ!!!」

 

ネロの啖呵を浴びせられ、アレキサンダーの顔が完全に変わった。

彼女を取り巻いていた神祖の力が、安定を取り戻していくのを見たから。

今彼女は、この神域に回帰し始めているローマにおいてなお―――

完全に皇帝になった。

 

まずいな、と思いつつ口の端を吊り上げるアレキサンダー。

ここまできたら負けてしまうのが計画通りなんだけど。

 

「いやぁ、でも。あれを()()しようとしないのは名折れだよね?」

 

キマイラの背に立ち炎の剣を構えるネロ・クラウディウス。

彼女が騎乗するのは、バッファローの属性も相持つ大幻獣だ。

ブケファラスの突撃力であっても、正面からの勝負はあまり宜しくないが――――

 

「でもこういう場面では正面突破しかないでしょ。悪いね、ブケファラス」

 

小さく鼻を鳴らして返答する相棒。

その反応に苦笑してから、天高く剣を掲げる。

雷光が奔り、その刀身へと集まっていく。

 

「さあ、行こうか―――

 ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス! 今、世界の中心たるローマの皇帝よ!!

 この身は世界を征服せんとする征服王、イスカンダル!!

 なれば、世界の中心にて皇帝である君を制覇する事こそが、我が王道に則すると見た!!」

 

アレキサンダーの言葉。

それに一瞬面食らったネロがしかし、即座に叫び返した。

 

「絶対にさせぬ! そうとも、今この時この瞬間、余こそが世界の中心である!

 許すぞ、征服王! 余に挑戦する権利をやろう!

 だが挑戦させるだけだ、これ以上は何一つ、貴様たちにはくれてはやらん!!

 ローマとは我が愛、我が命、我が誇り――――否、余こそローマである!!!」

 

ブケファラスが加速する。

巨体に見合った太い馬脚が、地面を砕きながら速度を生む。

遅れながら始動するキマイラの巨体。

バッファローの突撃力を発揮した、何者であろうと粉砕する突撃。

 

その二つの影が、衝突した。

速度も何も勝っていたのはブケファラスだ。

しかしキマイラの純粋なパワーが、ブケファラスさえも凌駕する。

バッファローの頭に激突させた頭が裂け、どんどんと押し返されていく。

 

彼の手綱を握るアレキサンダーが叫ぶ。

 

「AAAALaLaLaLaLaie―――――!!!」

 

自身の背で猛る王の声。

それに反応したブケファラスが、そのまま砕けそうな頭を押し返しながら嘶いた。

 

「ブルルルルァ―――――!!!」

 

死力を発揮する。全ての魔力と生命力を絞り出す。

征服王の愛馬、ブケファラス。その名に懸けて、キマイラと拮抗する。

どちらの巨体も前には進まない、後ろに下がらない。

その状況が出来上がった瞬間に、皇帝と王は互いに騎馬の背から跳んでいた。

 

空中で交錯するそれぞれ炎と雷を纏った剣閃。

もう言葉は要らない。ただただ視線と剣閃だけを交差させる。

彼女がローマ皇帝であり、彼がローマへの侵略者である限り、もう止まる必要がない。

 

互いに弾け飛び、地面に落ちる。

その目の前で、ブケファラスと競り合うキマイラの体が砕け始めた。

バラバラと崩れていくキマイラの巨体。

 

ブケファラスが空いた、と表情を歪めるネロの前で、しかしその巨体馬も沈む。

全力を尽くして相手の騎馬を粉砕した彼もまた、限界を超え消えていく。

 

消え行く友に、しかしアレキサンダーは目を向けなかった。

雷鳴とともに彼はネロを侵略せんと押し寄せる。

ネロもそれに倣い、炎とともに彼を迎撃せんと立ち向かう。

 

――――そうして、最後の交差。

 

すれ違いながら刃を交わした二人。

ネロが大きく息を切らしながら、アレキサンダーを振り返る。

彼女の方の傷は、ローマの守護が余程強いのか、そう深くない。

 

彼の体は、魔力の霧に変わり始めていた。

ネロの振り抜いた剣は、確実に彼の胸を斬り裂いていた。

その傷口を軽く撫でながら、アレキサンダーはそれなりに満足そうに笑う。

 

「負けてしまったね。僕の覇道を止められた、とあっては認めざるを得ない。

 薔薇の皇帝ネロ・クラウディウス。君の治めるローマの華々しさ、とくと味わった。

 最期までその道を貫く、というならそれも好し。僕は嫌いじゃない」

 

アレキサンダーもまた、ネロに対して振り返った。

彼の視線を真っ向から見返しながら、彼女は剣を地に突き立てて宣言する。

 

「――――無論。余にもはや迷いはない。

 ただ……余は余のやりたい事を尽くす。そうして、ローマへの愛を捧げるだけだ」

 

「ははは―――では、このローマを襲う異変の最後の関門。

 連合ローマの大皇帝に挑む前に、君の答えを彼女に示しにいくといい。

 君の中でももう、既に答えは出ているんだろう?」

 

半身以上が消え失せたアレキサンダー。

その挑戦するような言葉に、ネロは胸を張って言葉を返した。

 

「………うむ。余が受け止めねばならぬ。余こそがローマなれば。

 ローマの栄華が余の輝きなら、ローマが踏み躙ったものこそが余の憂いだ」

 

「―――うん。まあ気負いすぎもどうかという話だが、まあそこは他に任せよう。

 彼女は一番奥の天幕の中で待たせてる。どう声をかけるかは任せるよ。

 じゃあね、薔薇の皇帝ネロ。新しい出会いに溢れてて、思いのほか楽しい現界だったよ」

 

そう言って、アレキサンダーの姿は完全に消失した。

彼女の視線が、彼の言っていた天幕の方へと向く。

………ローマである彼女が、立ち向かわねばならない問題に会いに行こう。

 

 

 

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