Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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台風こわ
 


“だれ”が彼のエンジンに火を入れたのか2014

 

 

 

ネロ・クラウディウスが足早にブーディカのいる天幕へと向かっていく。

彼女がそこへと手をかけた瞬間―――

 

まるで世界の全ての時間が止まったかのような、そんな状況が発生した。

全てが止まった世界の中で動く、ただ一人の例外。

彼は“逢魔降臨歴”を手にしながら、皇帝ネロの背を見ていた。

 

「この本によれば、普通の高校生―――常磐ソウゴは、魔王にして時の王者。

 平成ライダーの王、オーマジオウとなる未来が待っていた。

 だが、2015年にレフ・ライノールという男の手により決行された人理焼却。

 その影響により、仮面ライダーたちの歴史もまた、歴史の闇に葬られた」

 

ネロへ向けていた視線を外し、踵を返してその場から離れ始める青年。

彼の視線が改めて向けられるのは、開かれた逢魔降臨歴の頁。

 

「フランス特異点を攻略した常磐ソウゴたちは、ウィザードの歴史を取り戻した。

 そして、次なる特異点。ローマの中で、彼らはドライブの歴史に確実に近づいている。

 アナザーライダーをこの時代に生み出したスウォルツの目的とは。

 そして、アナザードライブの正体とは。この特異点における戦いの行方は如何に。

 その答えに辿り着くまで、皆様方にはもうひとっ走り―――付き合っていただきましょう」

 

彼が歩きながら、手にしていた本を閉じる。

その瞬間、全てが静止していた世界が時間の流れを取り戻す。

しかしその場からウォズの姿は完全に消え失せていた。

 

 

 

 

ネロの手が天幕の布を跳ね上げる。

その奥では、寝台にブーディカが一人腰かけていた。

 

「……助けに来たぞ、ブーディカよ」

 

彼女らしからぬ、と思わせる平静な声。

その声を聞いたブーディカは、困ったように乾いた笑い声で応えた。

 

「……はは、そんな事。―――言いに来たんじゃないだろ、ネロ」

 

ブーディカがゆらりと立ち上がる。

彼女の手には、既に武装が展開されている。

座っていた時には持っていなかった、剣と盾。それがいつの間にか。

ネロが、表情を変えずにそれを見る。

 

「……サーヴァント、というのが未だどういうものか原理は分からぬ。

 しかし、過去の偉大な者を生き返らせる魔術のようなもの、というのは分かっているつもりだ」

 

「そうだね。大体、それでいいと思うよ」

 

ブーディカの声は、とても静かだ。

それが、もう答えなのだろう。分かっていてもしかし、彼女は問う。

言葉にせず、何かを伝えられるほど器用ではないし―――

……言葉にせず伝えたつもりの愛は、誰にも返してもらえないから。

 

「……そなたは余に、自分はあの戦いを惨めにも生き延びてしまったと語ったな」

 

「言ったね」

 

彼女は微笑んですらいる。

この彼女の姿こそが、ローマが踏み躙った女王の姿なのだろう。

 

「嘘、なのであろう」

 

「嘘だよ。あたしは死んでる、今ここにいるのはローマに殺された亡霊さ。

 英霊、なんて笑っちゃうよね。

 ローマから何も守れず、挙句にロンディニウムではただの市民さえ虐殺した女王がさ」

 

自嘲するように乾いた笑い声をあげるブーディカ。

彼女は本当に自分の過分な評価を疎んでいる。

それが、よく伝わってくる。

 

「誰が……笑うものか」

 

「ローマが嗤ったんだろ?」

 

ネロの言葉に、即座に返すブーディカ。

ぎゅ、と唇を引き結んだネロが、一度だけ目を瞑る。

だがすぐにその双眸を見開いて、ブーディカを正面から見つめ返す。

 

「女王に王たる資格はないと、お前たちがあたしたちを蹂躙したんだ。

 あたしも、娘も、国も――――それとも、それさえアンタは否定するのか?」

 

「せぬ。余のローマがしたことだ。即ち、それは余のしたことだ。

 そなたの抱いた苦しみ、憎しみは余が与えたもの。

 なればこそ、晴らしたいと言うならば余に向けるがよい」

 

その言葉を聞いて、ブーディカの表情が崩れる。

泣きそうなほどに追い詰められた顔。

 

「そうしたいよ。でもね、アンタに協力してる連中の目的は世界を守ることだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あたしだって世界には救われてほしい。いつかに栄える子供たちを喜びたい。

 あたしの憎悪で、世界は滅ぼせない。滅ぼしちゃいけない。分かるだろう?」

 

「―――だから、余はあれだけの先人たちに導かれてきたのだ」

 

ネロの手が剣を執り、その切っ先をブーディカに向ける。

炎に燃える剣が天幕の内部を照らす。

 

「余はローマ。余は皇帝。余こそがネロ・クラウディウス。

 この世界に生きる皇帝として、僅かばかりローマを守りし神の加護を賜った。

 だから、今のそなたでさえも受け止めてみせる。

 そなたの憎悪を斬り裂いて、余はこのローマを未来に繋いでみせよう。

 遠慮などする必要はない。余は、ローマなのだから」

 

その憎悪をぶつけろ、斬り捨ててみせる。

そんな遠慮のない言葉を受け取って、ブーディカは小さく苦笑した。

 

「あはは、ネロ、らしい……でもね、分かるでしょ?

 あたしだけじゃないんだ。今のあたしの意志は。

 ローマを滅ぼしたいというあたしの意志に偽りはない。けど、これでも自分だけなら抑え切れないほど理性がないわけでも、ないと思ってる」

 

次の瞬間、天幕の上を突き破り、新たな影がその場に乱入してきた。

崩れ落ちる天幕は、ネロの剣から引火して一気に燃え上がる。

 

――――煌々たる炎に照らされた、赤い鎧。

ネロだけを狙う、アナザーライダー。

アナザードライブの姿が、その場に参上した。

 

ネロが視線をきつく絞り、その姿を検める。

彼女をローマ首都郊外で襲った、アナザードライブの異形の姿。

 

「――――それで、その者はなんだ」

 

「見れば、分かるだろう?」

 

「偽物であろう?」

 

ピクリ、とアナザードライブの姿が動く。

ブーディカも困ったように、ネロの事を見返していた。

 

「余のことを襲った者からは、明確に余への憎悪を感じた。だがそやつはどうだ。

 ブーディカ、お前を守ることだけしか考えていないのだろう?

 化け物の振りをした、ただの忠義の存在なのであろう?」

 

「………やっぱり、分かるもんだよね。

 そう、()はあたしのためにこうしてくれてるだけ。

 ―――――本当に、あたしはどれだけ無様なんだか。

 マシュに申し訳が立たなすぎる。こんな、彼ほどの誇りをこんな事に巻き込んで……!」

 

バリバリと、アナザードライブの姿が剥がれていく。

その赤い鎧の下からは、漆黒の鎧が現れてくる。

()()が解けてなお、全身鎧の姿である彼は小さく息を吐いた。

 

―――“己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)

彼が生前、友の名誉のために変装したことから発生した逸話宝具。

自身の正体の隠蔽。そして、他人の姿への変装を可能とする彼の宝具。

これがあるゆえに、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ほんと……! なんであたしなんかのために……って、何度も思う……!

 ごめんね、ランスロット……! ごめんね、マシュ……!

 狂化してるっていうのに、あたしを守るためにそれさえ超えて尽くしてくれる……!

 それなのに、それほどの未来(キャメロット)があるのに、あたしは世界と復讐を天秤に掛けてる……!」

 

〈ドライブゥ…!〉

 

そうして、彼女の姿が変貌する。

彼女に仕込まれたアナザードライブウォッチが起動して、全身を怪物の姿が覆いつくす。

クラクションめいた奇音を何度か鳴らし、彼女はネロへと向き直った。

 

「それでもあたしはあたしが止められないんだ!!

 アンタを、ローマを許せなくて止められない!!

 滅びろローマ! 滅びろネロ・クラウディウス! 例えそれで世界が滅びるのだとしても!!」

 

「―――よい。ブーディカ、もう考えることは止めよ。

 そなた自身さえも止められない暴走は、余が受け止めてみせよう―――!」

 

既に人間を超えたネロと、アナザードライブの姿が交差する。

その光景を、ランスロットは静かに見守っていた。

 

 

 

 

皇帝とアナザーライダーと化した女王。

二人が衝突する様を、離れた丘の上から見ている男。

―――スウォルツは、その光景を見て楽しそうに笑っていた。

 

「やけに楽しそうだね、スウォルツ」

 

「ウォズか」

 

背後からかけられる声に、スウォルツが機嫌が良さそうに振り返る。

 

「既に俺のアナザードライブは最終段階だ。

 あとは()()()()()()()()()、アナザードライブの完成だ」

 

「おや? ブーディカをアナザードライブの契約者にしたのは、下準備だと?」

 

わざとらしささえあるウォズの返答。

だが、事ここに至っては既に逆転は不可能だ。

ドライブウォッチより先にアナザードライブウォッチが完成すれば、あとは聖杯だけだ。

 

「そうとも。最終的にはランスロットを使う。

 重要なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という立ち位置だ」

 

「……なるほど。ブーディカは未来に存在する同郷の騎士を、身内に近しい愛し方をする。

 まあ、ランスロットはフランスの人間だが……

 彼女は彼を弟、息子同然の存在として愛することだろう。

 だが、その立ち位置はまるで……」

 

ウォズの疑問の声を遮り、スウォルツは続けた。

 

「その上、ランスロットには二つの宝具がある。

 自身を偽装する“己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)

 そして触れたものを自身の宝具と化す“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 ピッタリだと思わないか? 未来のドライブ、泊エイジを葬りドライブに成り代わったロイミュード108、ダークドライブの役を割り振るには?」

 

ロイミュード108。ロイミュードのラストナンバー。

2035年の近未来。

仮面ライダードライブ、泊進ノ介の息子。泊エイジを殺害して、ドライブの力の強奪に成功。

時空を越える能力を持つネクストライドロンにより、2015年にタイムワープしてきた存在。

 

「―――つまり君は、ドライブの本来の歴史ではなくドライブが敗北した未来。

 ロイミュードの勝利した未来の方を引き出そうとしていると?」

 

「はははは! 本来の歴史? それを決めるのは誰だ?

 俺はただ、あるものを使うだけのことだ。

 いわば過去のアナザードライブというべき存在となったブーディカ。

 そして未来のアナザードライブとして準備したランスロット。

 その力を統合し、かつて過去と未来のロイミュード108が融合し、パラドックスロイミュードとなったように、アナザードライブを完成させる。

 その暁には、アナザードライブの力はダークドライブいや! タイプスペシャルに匹敵する!」

 

己の計画を語りながら、力強く笑みを浮かべるスウォルツ。

ウォズの視線が、手元の逢魔降臨歴に走る。

 

「仮面ライダードライブ・タイプスペシャル。時空を超越する戦士。

 なるほど。だからランスロットの宝具も必要だったわけか」

 

「ほう?」

 

ウォズの言葉に面白い、と言った風な表情を浮かべるスウォルツ。

それは本心からの表情か、あるいはそれを隠すための仮面か。

 

「彼がアナザードライブとなり、アナザートライドロンに接触した場合……

 彼の宝具が連動して、アナザートライドロンの宝具化が発生する。

 ドライブ・タイプスペシャルに匹敵する力を手に入れた彼の能力。

 それはアナザートライドロンを、いわばアナザーネクストライドロンに進化させるだけの力だ。

 そして本来エネルギーの問題で使用できないだろう、時空を越えるタイムロード。

 それを解決するためのエネルギーとして、この時代の聖杯を利用すれば……」

 

「―――自由に時空を走行するアナザードライブの完成、というわけだ。

 ドライブを経由すれば、他のライダーの力の回収も容易になる。

 そして既に、その計画はあと一手。ブーディカの――――」

 

そこまで聞いたウォズが、小さく笑いを漏らす。

ピクリと眉を動かして言葉を切るスウォルツ。

 

「何がおかしい?」

 

「いや、おかしくはないさ。

 事実、マシュ・キリエライトとロイミュード000を繋げての回収では追いつけない。

 けれどスウォルツ。君は一つ見逃している」

 

ウォズの視線が、ネロとアナザードライブの戦場に向く。

スウォルツの視線もそれを追った。

目前に広がる戦いの光景を見渡しながら、ウォズは手にした本を握る力を強くした。

既に確定したと言って差し支えないだろう、王の継承の儀に向けて。

 

 

 

 

アナザードライブが、踵から火花を散らしながら迫りくる。

それをネロは、正面から受け止めて見せる。

もう彼女は、何もできずに吹き飛ばされていた時とは違う。

 

相手の突撃をいなし、そのままアナザードライブの車体に剣を放つ。

直撃してもなお、火花を散らして一歩下がるだけ。

何とか力負けは避けられるようになったが、しかし攻撃があまりに通らない。

 

「………っ!」

 

「止める? アンタがあたしを? あたしはもう止まらない……!

 止められない――――!!!」

 

〈マッシブモンスタァー…!〉

 

彼女の両手の中に、タイヤを二つに割ったような武器が現れる。

相手を挟み潰すためのような形状。それが、即座にネロに向けて振るわれる。

 

剣を引き戻し構え直し、それを剣の腹で受け止めるネロ。

その衝撃で彼女の体は大きく後ろに吹っ飛んだ。

苦悶の声を漏らしつつも、何とか着地して向き直ればまたもその武器による一撃。

 

「ぐっ……!」

 

再び受ける。

身体能力が計り知れぬほど向上しているはずなのに、腕が壊れそうなほどの衝撃。

痺れて遅れる次の攻撃への反応。

その一瞬を見て、アナザードライブは両腕を一気に両側から振り抜いた。

 

怪物の大口であるかのように、挟み潰しにくるマッシブモンスター。

受けきれぬだろうその攻撃を前に、ネロは必死に後ろへと跳んだ。

ネロの体は何とか避けたが、剣だけはその大口に挟み食われる。

 

「しまっ……!」

 

力尽くでそのまま剣を彼女からもぎ取る。

アナザードライブは奪い取った剣とともに、マッシブモンスターを放り捨てた。

 

〈ランブルダンプゥ…!〉

 

そして、再装填される彼女の車輪。

今度はその腕にドリルが装着されていた。

ギャリギャリと金属同士が擦れる音を撒き散らしながら回るドリル。

その殺傷力の高さなど、見れば予感するには十分だ。

 

体勢を崩した彼女へ向けて、アナザードライブはそのドリルを突き出した。

 

そうして、

 

「ネロォオオオオオオオオッ―――――!!」

 

突如、彼女の前に実体化する霊体。

黄金の鎧と赤いマントを纏う、狂気の王の姿がそこに現れていた。

 

突き出されたドリルは止まることはない。

ネロの前に立ちはだかったそれ―――カリギュラの胴体を、確実に撃ち貫いた。

巨大なドリルに貫通され、誰がどう見ても明らかな致命傷。

その光景に、目を見開くネロ。

 

「伯父上……!」

 

ブーディカは、その登場に何の驚きもないといったよう。

致命傷を負ったカリギュラに対し、アナザードライブが蹴りを放つ。

胴体を貫通するドリルから抜けて吹き飛び、地面を転がるカリギュラの姿。

魔力に還り始めた彼の体は、ネロの足元で止まった。

 

咄嗟に膝を落とし、彼へと手を伸ばすネロ。

伸ばされたその腕を掴み、カリギュラは彼女の体を引き寄せた。

瀕死の状態にありながら伸ばした彼の掌が、ネロの頬を優しく撫でる。

 

「ネロ……我が、美しき、姪……我が、愛しき、アグリッピナの、子………

 我が、ローマの、至宝……そなただけは、ただ、ただ、うつくしく、あるだけで……

 お前はせめて……ただ、幸福で、あってくれ………」

 

最後に彼は一度微笑んで、金色の霧へと変わっていった。

ネロを愛し、優しかった伯父。

最後の最期に、ただ()()()()()()()()()()()()()()。逃げてもいい、と。

彼はそう言いたかったのだろう。

 

けれど、と。

彼の最期が放つ光の中で、ブーディカへ向け顔を上げる。

砕けたような兜ごしに、彼女と視線を突き合わせる。

 

「見逃したのだろう。いまこうしている余も、そしてここに駆け付ける伯父上も。

 肉親を目の前で失う苦しみか? それを味わう余を見たかったか?

 だが言おう。娘とともに凌辱されたお前の苦しみは、余には味わえぬ。

 こんな事をしても、余はお前の苦しみを分かち合えぬ。

 余には、お前の苦しみを一部たりとも感じることさえ出来ないだろう。

 その上で問おう。お前の抱く憎悪が、今の光景でほんの一欠片でも晴れたか?

 余とローマを滅ぼした先に、少しでもお前の心は安らぎを得られると思えたか?」

 

「――――それを聞いて、どうするっての?」

 

ブーディカが僅かに声を詰まらせた。

それだけでよかった。

ネロが立ち上がる。剣も奪われた彼女には、既に相手と渡り合う手段もない。

 

「―――いや、よい。答えられぬ、というのならそれが答えだ。

 ただ、余がお前を止めねばならぬ理由が増えただけのこと。

 ブーディカ。余にできることは、お前の苦しみをこれ以上増やさせはしないことだ」

 

彼女が向ける視線に、アナザードライブが震える。

止めてみせる。これ以上苦しませない。

彼女の言葉全てが血液を沸騰させるほどに怒りを生み出す。

アナザードライブの車体から幾度もクラクションの音が吐き出される。

 

「………ッ、そうやって! また奪うのか!!

 ローマこそが正しいと!! あたしの復讐さえも、あたしの過ちだと切り捨てるのか!!!

 お前たちローマはぁッ!!!」

 

ドリルを今度こそネロに叩き付ける。

彼女の手に剣はない。それを防ぐ手段はない。

回避しようとしたところで、そもそもこっちの方が足回りだって早い。

止めようと思えば重加速だってある。

 

そうして、彼女が突き出したドリルの一撃は――――

 

「わたしにそれが正しいか、間違っているかは分かりません……!

 わたしに分かることは一つだけ……!

 今のブーディカさんを見ているのは、とても哀しいということだけです―――!」

 

「マ、シュ………っ!?」

 

マシュ・キリエライトの盾に防がれていた。

マシュは満身創痍。そのまま押し切ろうと思えば、十分できただろう。

しかし彼女の登場に、アナザードライブが後ろによろけた。

 

直後、黙って停止していたランスロットが始動する。

 

「Gaaaaaaaaaaaalahaaaaaaaaaaaaaa――――――!!!」

 

「ランスロットっ!?」

 

マシュを狙おうとするその騎士の動きに、ブーディカから悲鳴が上がる。

 

彼は召喚されてから一度も戦闘行為などは行っていないほぼ完全な状態。

今のマシュにも、当然ネロにも彼の動きは止められない。

足元に落ちていた燃え残った木の棒を手にし、彼はマシュへ向けて加速し―――

 

「アンタは俺!」

 

その間に割り込んだ、ジオウがそれを迎撃する。

宝具化した木の棒を、ジカンギレードで斬り払う。

即座に木の棒を放したランスロットが、ジカンギレードに手を伸ばしてくる。

刀身に手を触れると、黒い魔力がギレードを染めていく。

 

「それ、前に見たやつ!」

 

彼の手が、別のウォッチを握る。

それを至近距離からランスロットに投げつけると、同時にそのウォッチが展開した。

突然頭上にバイクが出てきて、ランスロットの頭を殴りつける。

 

ガクガクと頭を揺らすランスロットの隙をついて、その腹に蹴りを叩き込む。

甲冑を盛大にガチャガチャと鳴らしながら彼の体は、大きく後ろに転がっていった。

バイクをウォッチに戻し、ジオウが振り返ってマシュに目を向ける。

 

マシュが、彼に頷いて返す。

 

「ブーディカさん。貴女を止めに来ました」

 

「マシュ……」

 

アナザードライブが更に一歩下がる。

彼女を倒そうとすれば、今のブーディカには簡単なことだ。

マシュには魔力もほとんど残っていない。

とても簡単に……

 

「―――わたしの知ることで、わたしの生きてきた経験で……

 貴女を止めるための言葉は思い浮かびません。

 わたしでは、今のブーディカさんの想いだって否定していいのか分からない。

 だから、わたしが、わたしにとって一番正しいと思うことを選びます。

 ブーディカさんの復讐は否定できない。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言って彼女は、残り少ない力でしかし力強く盾を構えた。

それを見て、自分がどれだけ無様なことをしているか思い知らされる。

この力を植え付けられ、復讐という選択肢に偏ったことは確かだ。

けれど、この感情は全てブーディカの裡から生じた真実の想い。

 

それが、ランスロットにさえマシュを襲わせている。

分かっている。止まれ、止まらなきゃいけない。

そう思っても、でももう止まれないのだ。

 

「あた、しは………! もう……! なんで……!!

 それでももう、こうするしかないんだッ……!!!」

 

限界まで精神が張り詰めた彼女が、重加速域を展開する。

一気に周囲に広がっていく重加速現象。

マシュも、ネロも、ジオウも、ランスロットも、全ての動きが鈍くなる。

その全てが止まっているような空間の中で、アナザードライブはネロに向かって歩み出した。

 

 

 

 

スウォルツがすい、と腕を振るう。

その瞬間、アナザードライブを中心にこちらまで広がってきた重加速域が静止した。

この場への重加速の展開現象の時間だけが止まっていた。

 

「さて、そろそろ終わりだ。

 ブーディカに殺させるのはネロ・クラウディウスでも良かったが……

 ちょうどいい。常磐ソウゴの仲間の女、奴にかかる重加速だけ止めるか」

 

スウォルツがマシュへと向かって手を伸ばす。

彼女への重加速を止めれば、マシュは必ずブーディカを止めようとするだろう。

もし、ネロを守った結果自分が死ぬことになったとしても。

 

ネロでもマシュでも殺した時点で、限界まで張り詰めたブーディカの精神は崩壊する。

肉体に依らぬ魂、サーヴァントである以上、精神の過負荷で彼女の霊基は崩壊。

その場には、完成されたアナザードライブウォッチだけが残るだろう。

 

「……マシュくんではなく皇帝ネロが死ねば、人理焼却が止まらない。

 君の目的にとって、我が魔王の覇道が必要なのではなかったのかい?」

 

「そんなものはどうとでもなる。

 それよりどうした? この俺が見逃しているものがあるのではなかったか?」

 

「これから先、すぐにその光景を見ることになる。説明する必要もないさ。

 そして、わざわざ君がマシュくんの重加速を解消する必要もない」

 

振り返るスウォルツ。その顔がウォズへと向けられる。

 

「ほう? まるで奴がこれから自力で解除するとでも言いたげだな」

 

「自力とは言い難いがね。だがとりあえず、一応言っておこうか。

 君はランスロットをアナザードライブの未来の息子、という位置に据えた。

 ただ我が魔王の近くにはね、もう一人。まったく同じ条件を満たせる人間がいるんだ」

 

ウォズの言葉に、目を見開くスウォルツ。

その視線が、再びアナザードライブの戦場に向けられる。

 

 

 

 

止まった時間の中で、彼女が皇帝ネロに向かう姿をただ見送る。

体は亀の歩みより遅く、ゆっくりとしか動かない。

何もできない。自分の力では。この重さは、彼女に泣くことすら許してくれない。

 

ブーディカを止めたいと願った。止めると決めた。

なのに現実は、その力を前にして何もできないでいるしかない。

 

………それでも。それでも、それでも!

わたしは彼女を止めたい、手を伸ばしたい、引き戻してあげたい。

だって……そんな事を言っていいのか分からない。

彼女にとってはただの迷惑かもしれない。

でも―――彼女は母、のような優しさで抱きしめてくれたから。

助けたい、助けたい、助けたい―――――!!

 

そう願う彼女が腰から下げた袋の中で、何かが熱を帯びる。

いつの日か、パラドックスロイミュードに追い詰められた仮面ライダードライブ。

その彼に、本物の未来の息子からのエールが届いたように。

その熱は彼女に叫べ、と言っている気がした。

 

重加速域の中にいるはずの、彼女の体が動く。

ウォズから渡されたその袋の中から、ブランクウォッチを取り出す。

―――既にそれは、赤と黒の二色のウォッチへと変貌していた。

 

「ソウゴさん――――!!!」

 

マシュは、その力でブーディカを必ず止めてくれる人にそれを投げ放つ。

重加速の中で動いた彼女に、アナザードライブが困惑する。

その中で放物線を描いて飛ぶ、ウォッチの存在にも。

 

果たしてそれは、彼の手の中に届いた。

 

「うん、分かった。止めるよ、絶対に」

 

〈ドライブ!〉

 

ウォッチのエネルギーが、ジオウを重加速から解き放つ。

そのままドライブウォッチを、ジクウドライバーへと装填。

流れるように、ジクウドライバーを回転させる。

 

〈ライダータイム! 仮面ライダージオウ!〉

〈アーマータイム! ドライブ!〉

 

赤いボディ、そして肩アーマーには巨大な車輪。

ジオウに隣り合う位置に、ウォッチがドライブアーマーを形成される。

アーマーのパーツが分割し、ジオウに重なり装着されていく。

 

〈ドライブ!〉

 

ジオウの頭部のインジケーションアイが、新たなアーマーの状態を示す。

即ち、その顔に“ドライブ”という文字を。

新たなアーマーへの換装を完了したジオウが、ドライブが。

マシュの願いに応え、アナザードライブを止める為に降臨した。

 

「―――ひとっ走り、一緒にどう?」

 

重加速域をドライブアーマーのエネルギーが捻じ伏せる。

止まった時間が、再び未来へ進むために動き出す。

きっといつか、最善の未来に辿り着くため―――

正義の魂という名のエンジンに今、彼女を守りたいという想いの火が入れられた。

 

 

 




 
はわわがアナザードライブ周りの現象を理解できていたのは、ウェイバーがランスロット(アーサー王にやたらと絡む正体隠匿+宝具化能力を持つ奴)を知っていたから。
ブーディカを庇う理由があり、必要な条件を完全に満たせてしまう奴だったのではわわがはわわご主人様こいつを犯人です!となりました。
ついでにイスカンダルの戦車を青いのがバイクで追いかけてきてエクスカリバったのはあいつの偽装能力にはめられたせいでは?となってファック!ってなりました。
 

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