Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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普通に仮面ライダージオウにするかジオウ・ザ・カメンライダーにするか微妙に悩みどっちでもいいやという結論に辿り着く。
 


彼女は“なに”を遺していくのか2015

 

 

 

真紅のボディ。

ドライブを模したアーマーに覆われたジオウが、疾走の前に軽く腰を落とす。

そうして急発進をする直前。

 

「祝え!!」

 

その目前にウォズの姿が現れ、腕を掲げて声を張り上げていた。

アクセル全開のつもりが、一気にブレーキをベタ踏みするジオウ。

一歩目で足元から火花を散らして停止する。

 

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来をしろしめす時の王者!

 その名も、ジオウ・ザ・カメンライダー! ドライブアーマー!

 また一つ、ライダーの力を継承した瞬間である!!」

 

「……ウォズ。いきなり出てきたら危ないよ、車は急に止まれないんだから」

 

自分の目の前に立っているウォズを避ける。

それに随って頭を下げ、後ろへと下がっていくウォズ。

 

「ええ、では我が魔王よ―――

 スタート・ユア・エンジン! その御心のまま、どうか存分に走られよ!」

 

ギュルル、とジオウの踵から車輪の回転する音が轟いた。

目指す相手はただ一人。目の前にいる、アナザードライブだけだ。

地面の土を巻き上げながら、赤の車体を纏ったジオウが加速した。

 

「ッ、ソウゴ……!」

 

「マシュの代わりに、俺があんたを止めるよ。ブーディカ」

 

加速してきたジオウの拳を、アナザードライブが迎え撃つ。

正面から突き合わせた互いの拳が火花を噴いた。

弾け合う拳を引き戻すと同時に、二人が共に身を捻り脚を振り上げた。

衝突する互いのハイキック。

 

「俺たちがあんたを止めようとするのは、あんたが間違ってるからじゃない―――

 あんたに、止まって欲しいからだ―――!」

 

「それでも、止まれないからあたしはぁッ!!!」

 

〈マックスフレアァ…!〉

〈ファンキースパイクゥ…!〉

〈ミッドナイトシャドォー…!〉

 

アナザードライブがその車体から三つの車輪を放つ。

炎を思わせる赤い車輪。棘に覆われた緑の車輪。手裏剣のような紫の車輪。

それが脚をぶつけ合う姿勢のまま放たれ、ジオウに向かって殺到した。

 

脚を振り上げた姿勢のまま、地に着いた足の踵が唸る。

片足のまま車輪で走行を開始することで、アナザードライブから距離を取る。

バック走行するジオウの目の前を通り過ぎていく三つの車輪。

 

躱した直後、ブレーキをかけて上げていた足を地面に下ろす。

と、同時。肩アーマーにあるタイヤが大きく光った。

アナザードライブが放ったのと同じ車輪が、ドライブアーマーからも射出される。

 

炎に燃える車輪同士。無数の棘を飛ばす車輪同士。分裂して舞う車輪同士。

それらが空中でぶつかり合い相殺する。

 

「くっ……! なっ……!?」

 

次なる車輪を射出しようと、胴に力を込めるアナザードライブ。

その体を、小さな赤い車両が吹き飛ばしていた。

ドライブアーマーの腕から射出されたシフトカーを模した武装、シフトスピードスピード。

それがアナザードライブの胴体にクリーンヒットしていた。

 

撃ち出したシフトスピードスピードを腕に戻しながら、ドライブアーマーが立ち誇る。

 

「この力は、民を守るためにどこまでも走り抜くための力だ。

 復讐のために、心のブレーキを壊すために使うものじゃない。

 だから、あんたが自分で止まれないって言うなら―――」

 

ドライブアーマーからエンジン音が轟いた。

ジオウが右腕の肘が膝につくほどに体勢を低くする。

加速のための予兆。

それを前に、ダメージから立ち直ったアナザードライブが体を震わせる。

 

「俺があんたにドライビングで勝って、正面から止めてやる!」

 

ジオウの体が、一瞬にしてトップスピードへと達する。

その真紅の突撃を前にしたアナザードライブが、先程以上に車輪を放つ。

とにかくとばら撒かれた幾つもの車輪が、無軌道に暴れ回る。

 

〈ジャスティスハンタァー…!〉〈マッドドクタァー…!〉

〈ファイアーブレイバァー…!〉〈ランブルダンプゥ…!〉

〈スピンミキサァー…!〉〈ローリングラビティ…!〉

 

タイヤから放たれる様々な物体や、振り回されるアーム。

その合間を通り抜け、ジオウはアナザードライブへと接近する。

嵐のような攻撃を潜り抜けた先、彼はアナザードライブの目前へと辿り着き―――

 

割れたようなクラクションの音が轟く。

横合いから、事故車のような悲惨な外見のスポーツカー。

アナザートライドロンの姿が、ジオウとアナザードライブの間に割り込んだ。

その上には、ランスロットの姿がある。

彼が車体に置いた手からは、黒い魔力がアナザートライドロンに広がっていた。

 

「ランスロット……!」

 

自身を守るために立ちはだかる狂気の騎士。

それに僅かに目を伏せて、しかしブーディカもその車体に飛び乗った。

 

「“約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)”ァッ!!」

 

そうして、そのアナザートライドロンの目の前に舞い降りる彼女自身の宝具。

ケルトの神々から飛行能力の加護を与えられた、二頭の白馬が牽く彼女の戦車。

それを召喚した彼女が、更に自身の胴体に新たな車輪を装填する。

その車輪はすぐさま外れ、アナザートライドロンへと装着された。

 

〈フッキングレッカァー…!〉

 

レッカーのアームがアナザートライドロンから放たれ、空舞う戦車を捕まえる。

アームを巻き上げれば、戦車に引き摺られて飛行を開始するアナザートライドロン。

更に、射出されていたローリングラビティの車輪が輝いた。

空に引き摺られていたアナザートライドロンの下に、強引に車道を生成してみせる。

 

そして無理矢理空中を走る環境を整えた車体の上。

マシンの制御をブーディカに返還したランスロットが身を起こし、空飛ぶ車輪を掴みとる。

ジャスティスハンター、そしてスピンミキサー。

 

二つの車輪をランスロットが漆黒に染め、己の武装と変える。

彼がそれらを振るうと同時に放たれる、鉄柵とコンクリートの弾丸。

相手の動きを止めるための弾幕が、空より無数に降り注いだ。

 

それを回避するために、足から盛大にタイヤの唸る音を立てながら動くジオウ。

空へと逃れた相手に、シフトスピードスピードを射出する。

だが、それはコンクリート弾に迎撃され、コンクリートの塊にされて落とされる。

 

「届かない……! だったら、こっちも飛ぶしかないけど……!」

 

ジャスティスハンターより射出された鉄柵を纏めて弾く。

止まないコンクリート弾の雨を潜り抜け、空を行く赤い車体を見上げる。

 

()()()()()()()……!」

 

そう言って空を睨むソウゴ。

それを見て、後ろでマシュやネロと共に控えるウォズが小さく笑った。

 

 

 

 

ドライブウォッチを完成させられた。

以上、既にここにいる必要はない。

スウォルツが目前で行われている戦いを見ながら、面倒そうに顔を顰めた。

ドライブから連鎖させるのでない以上、またジオウの時空のサルベージを待つ必要がある。

 

「まあいい。ならば、次の特異点は……」

 

そこまで口にしたスウォルツが、何かに気付いたように頭上を見上げる。

直後に発生する、バキバキと空間が罅割れていく異様な光景。

まるで硝子が割れるように砕け落ちて、大穴を空ける空。

それを見たスウォルツが、妙なものを見たと表情を歪めた。

 

「ジェネレーションズウェイだと? この状況で、タイムマジーン……?

 俺やオーマジオウの力ならともかく、タイムマジーン程度の貧弱な時空転移システムでは……」

 

人理焼却は免れないはず。と続けようとして、しかし口を閉じる。

そして視線を空の大穴から地上で戦うジオウに向ける。

 

「―――なるほど。2035年のドライブの歴史を経由したせいか……

 2035年に常磐ソウゴが存在しているならば、それはもはやオーマジオウだ。

 今の奴にその力を引き出すことはできないだろうが……

 この程度はやってみせるということか」

 

そう言って、何かを確かめるようにジオウを見続けるスウォルツ。

だが、不意に視線を外して踵を返して歩き始める。

 

「だが、所詮は片鱗か。これではまるで足りない、この俺が目的を果たすためにはな」

 

そう言いながら歩き去る彼の体は、次の瞬間にはこの時代から完全に消えていた。

 

 

 

 

〈タイムマジーン!〉

 

それは急に空に大穴を空けて、ジオウの前に降ってきた。

ランスロットの降らす鉄柵やコンクリート弾を弾きながら現れる車体。

エアバイクを思わせるようなその形状。

それが乗り物らしいというのは見て分かるが……

 

「なにこれ?」

 

「それはタイムマジーン。我が魔王、君の思うが儘に使うと良い!」

 

ウォズがそう言うと、タイムマジーンの下でハッチが開く。

そこから乗れということだろうか。

 

「思うが儘って言ってもなぁ…」

 

そう言っている間にも、それは砲台となっているランスロットからの攻撃を受け続けている。

とりあえず考えるのは後にして、タイムマジーンとやらに駆け込む。

それっぽいハンドルとかディスプレイがあるけど、何が何やらである。

 

「どこ動かせばいいんだろ」

 

こうしている間にも外は攻撃されている。

とりあえずハンドルを動かせばいいのだろうか、とそこに手を掛けようとして―――

 

「うむ。余に任せよ!」

 

「あれ、ネロ?」

 

いつの間にか乗っていたネロが、そのハンドルを掴んでいた。

ぐいん、と彼女がそれを引けばぐいん、と機首を上げるタイムマジーン。

どこにも掴まっていなかったジオウが車内を転がる。

 

「ソウゴはマシュに代わって、と言っていたな。

 というのであればやはり、余は余の役目を果たさなくてな―――

 悪いが騎馬の役割、まだ果たしてもらうぞ。ソウゴ」

 

言いながら操縦桿をガチャガチャ動かしてみせるネロ。

 

「いや、それはいいんだけどさ……」

 

ぐわんぐわん揺れるタイムマジーンの中。

壁に縋りつくジオウが、壁のタッチパネルっぽい場所を触ってみる。

時空転移システムだの何だのの表示がエラーを吐きまくっていた。

さっぱり分からん状態である。

 

「なので余にこれの動かし方を教えてくれ!」

 

「さあ……? 俺も分かんないや」

 

一瞬、沈黙。

だがしかしすぐにネロは再起動した。

 

「ならばやってみせるだけだ! 行くぞ、ソウゴよ!」

 

「うーん。まあ……何か、行ける気がしてきたような、そうでもないような?」

 

ネロとジオウ、二人が左右の操縦桿を片方ずつ握る。

ガクガクと揺れていたマジーンがくるくる回りながら、何とか一応動き始めた。

 

その何とか動くタイムマジーンでもって、決戦を仕掛けに行く。

目標は当然、ブーディカの戦車に牽かれているアナザートライドロン。

そいつを目掛けて、全力で加速する。

 

空中で二台のマシンが激突した。衝撃で弾け合う二台のマシン。

振動でアナザートライドロンの上に立っていたランスロットが転倒する。

その際に彼が手放した二つの車輪が、空中に投げ出されて消えていく。

 

「くっ……! こっちが先に撃ち落とす、だけだッ―――!!」

 

アナザードライブは前を牽く戦車に乗り込み、馬の手綱を引いていた。

即座に進行方向を切り返す戦車。レッカーに牽かれ、それに連動するアナザートライドロン。

そのタイヤから、迎撃のため無数の車輪が射出された。

色とりどり、様々な形状のタイヤが飛来する。

 

「こちらにも何か矢のようなものはないのかっ!?」

 

ネロが叫ぶ。あれを全て避けながらの突撃は無理だ。

撃ち落とさなければ、こっちが先に撃ち落とされる。

 

「えーと……? うん。無理、分かんない! 避けよう!」

 

「ええい、正直なやつめ! よし、回避だ!」

 

相手の遠距離攻撃を前に、端末を流し見してみるソウゴ。

レーザーとかミサイルとかあるようなないような気もするがよく分からない。

せめて落ち着いてからじゃないと。

 

速攻で諦めて、二人揃って操縦桿を後ろに引く。

前進を取り止めた代わり、空飛ぶタイヤが車体を掠める程度。

何とか回避は成功して―――ガッチャン、と何かが大きく切り替わるような音がした。

 

「え?」

 

〈ドライブ!〉

 

「なに!?」

 

次の瞬間、タイムマジーンが飛行するのを勝手に止めていた。

地上に落ちていくタイムマジーン。

乗っている二人を一瞬だけ浮遊感が襲う。

 

驚いている暇もなく、大地を砕きながら着地するその巨体。

それはバイクを思わせるビークルから、完全に人型の巨大ロボに変形していた。

頭部には今ジオウが使用しているドライブウォッチが装填されている。

 

「何だ、なにがどうなったのだソウゴ!?」

 

「えーと。あ、そっか。なるほど……なんか、いける気がしてきたかも!」

 

着地の衝撃であたふたしているネロを差し置いて。

ジオウが、外を移すディスプレイを見て何かに思い至っていた。

外ではまた車輪を飛ばす攻撃が、地上に降り立ったタイムマジーンを狙っている。

 

「今度はちゃんと飛べると思うよ、多分!」

 

言って、ホルダーから一つウォッチを外すジオウ。

かなり曖昧な言葉にしかし、即座にネロは再び操縦桿を動かしていた。

 

「多分か! よし、信じた! 任せるぞ!」

 

タイムマジーンに迫りくる無数の車輪。

そんな状況の中で、タイムマジーンの胴体から巨大なウォッチが浮かび上がった。

それはそのまま今頭に付いているドライブウォッチを弾き飛ばし装着される。

 

〈ビースト!〉

 

黄金の獣の顔が、タイムマジーンの頭部に装着されていた。

獣の咆哮を放ちながら再起動されるタイムマジーン。

ライドウォッチが上げただろう音声に、おお、とジオウが関心を示す。

 

「ビースト……ビーストって言うんだって!」

 

「そうか! ビーストか! ……それは一体、何の話なのだ?」

 

何やらソウゴがテンションを上げたので追随するネロ。

何のことやらさっぱりだが、冷静に考えて今の状況で分かっている事の方が少ない。

とりあえず、分からないことが一つ増えた程度は些末事と割り切る。

 

「この力のこと!」

 

言いながら、ジオウが操縦桿を大きく動かした。

連動して、タイムマジーンが右腕を大きく横に上げてみせる。

するとその右肩に、隼の頭部が現れていた。続いてそこから展開される橙色のマント。

 

そのマントを現したタイムマジーンが、一気に飛翔を開始する。

風を切り空を舞うファルコンの如き様相。

隼の力を得たマジーンが飛来するタイヤを次々と回避しながら前進し、アナザートライドロンへと一気に迫っていく。

 

「速い……!」

 

戦車上のアナザードライブが息を呑む。

時速700Kmを超える飛行速度を持つタイムマジーンが、更に隼の飛行能力をもって飛来する。

風を掴み飛行する相手に、射出した車輪の攻撃はその姿を捉えきれずに消えていく。

 

そうして、アナザートライドロンの目前まで迫った時。

 

「ネロ、あとこっちはお願い」

 

そう言ってジオウは、操縦桿から手を放す。

ぴくりと小さく眉を揺らしたネロが強く頷き、二つの操縦桿を一人で握った。

 

「―――うむ! 任せるがいい! 何となく、できるはずだ! 皇帝だからな!」

 

そういう彼女に一度頷き返し、ジオウはタイムマジーンからその身を外へと投げ出した。

同時に、アナザートライドロンにタイムマジーンの腕が掴みかかる。

金属が盛大に拉げ、潰し合う音。

 

ジオウが飛び降りてすぐ。

タイムマジーンの頭部からビーストウォッチが弾け飛び、ブランクウォッチが装着される。

だが次の瞬間、アナザードライブ上に着地したジオウの頭部、ドライブの文字が輝いた。

またもタイムマジーンの頭部が弾け飛ぶ。

続けて改めて装着されるのは、ドライブウォッチの頭部。

 

〈ドライブ!〉

 

ドライブマジーンになり、地上走破能力と引き換えに飛行能力は低下した、が。

既にここで掴みかかっている以上どうとでもなる。

そうと言わんばかりに、アナザートライドロンを殴打し始めるタイムマジーン。

ドライブウォッチの力で、アナザートライドロンが損傷を負い始めた。

 

そんなトライドロンの上にいるランスロットが、それに対応しようと動きだし―――

しかし、即座に目の前に現れたジオウに動きを止められた。

彼が手にしたジカンギレードが閃いて、ランスロットを一閃する。

 

鎧を斬り裂く一撃。それに一瞬呻き、しかし彼は止まらない。

自身の胴体を斬った刃に手を伸ばし、その剣を握る腕を絡め捕る。

ギレードを漆黒に染めながら蹴りを見舞い、ジオウからジカンギレードを奪い取ってみせる。

 

奪った剣でのジオウへ即座の反撃。

赤いドライブアーマーの表面を削り、盛大に火花を散らす。

構え直すランスロットの前で、ジオウが拳を握り彼に叫ぶ―――

 

「あんただって、もう止まる時だ。ブーディカは俺たちが止める……!

 だからあんたもこれ以上、止めることから逃げるなよ―――!!」

 

僅か一瞬、その言葉にランスロットの動きが静止する。

その瞬間にジオウのボディから白煙が噴き出した。

踵からホイールの回る音と火花を散らし、アナザートライドロン上を走るジオウ。

 

赤のボディが盛大にエンジン音を撒き散らしながら、極限までスピードを発揮する。

その速度を全て載せた拳が奔る。奔る、奔る、奔る――――

ランスロットに対して拳撃を連続して叩き込んでいくジオウ。

赤い光を帯び始めた拳が、ランスロットを逃がす暇なく打ち据える。

 

それに対応するための暇も与えず、ランスロットの鎧をやがて粉砕するジオウの拳。

数え切れぬほどに放った連撃の拳は、霊核までも突き抜ける衝撃。

その攻撃から解放された時点で、彼は完全に撃破されていた。

 

それでも、立ちはだからねばと。ランスロットは立ち続けようとする。

が、高速で空を舞うスポーツカーの車上。

ふらりふらりと揺られるランスロットの体は、留まる事も出来ずに空中へ投げ出された。

 

「Arrrr―――――thurrrrr―――――……」

 

小さく、弱々しく、嘆くような叫びを漏らし、虚空に光と消えていく黒騎士。

 

それと同時。遂にアナザートライドロンが火を噴いた。

タイムマジーンの攻撃にメキメキと悲鳴を上げ続ける車体。

そこから爆発が巻き起こる。

 

爆発の衝撃に、空中でアナザートライドロン用の車道を敷いていたローリングラビティが消える。

そうなればだらりとブーディカの戦車にぶら下がるしかないアナザートライドロン。

更にその車体に組み付いているタイムマジーン。

その重量が、ブーディカが直接騎乗する戦車ごと地上に引き摺り落としていく。

 

「ランスロット……ごめんっ……! ぐっ……!?」

 

ブーディカの戦車の飛行能力を、引きずり落とそうとする力が上回る。

その結果、当然のように彼女たちは全員で落ち始めた。

 

真っ先にアナザートライドロンが。それを押し潰すようにタイムマジーンが。

レッカーの切り離しも間に合わず、戦車とアナザードライブも。

もちろん、ジオウも。

 

地上に落ちて、爆発炎上するアナザートライドロン。

タイムマジーンが転がるようにその上から退避して、爆炎から逃れる。

レッカーから切り離されていないブーディカの戦車は引きずられ、その炎の中に共に包まれた。

落下の衝撃で御者台から投げ出されたアナザードライブが、ゆっくりと立ち上がる。

 

「あたしは……まだ……!」

 

ドライブアーマーが彼女の前に着地する。

止まれない彼女の代わりに、彼女を無理に走らせるあんなものは壊してしまおう。

彼女を信じ抜いたマシュの代わりに。

彼女の車輪は途中で止まっても、その先へと走っていく彼女を継ぐものはあるのだと。

――――伝えてあげるために。

 

「これで、終わりにする―――!」

 

〈フィニッシュタイム! ドライブ!〉

 

ジオウの指が、ジクウドライバーにセットされた二つのライドウォッチを押し込む。

そのままドライバーのロックを解除し、必殺待機状態へと移行する。

彼の後ろで、頭のウォッチが弾け飛びタイムマジーンがビークルモードへ変形した。

 

「――――うむ。よく分からんが、この通りに動かせばよいのだな!?

 任せよ、ソウゴ! ――――そしてブーディカよ。

 ……余も止まれぬ、止まるわけにはいかぬ。

 そなたが女王であったように、余が皇帝である故に――――!!」

 

ドライブアーマーの踵が唸りを上げ、ジオウの体を一気に加速させる。

地面の土を跳ね上げながら迫るジオウが、体を大きく下に逸らした。

握り締めた拳を、大きく下側へと振りかぶる。

 

そしてアナザードライブに接近した直後。

振り下ろした時の数倍の速度でもって、ジオウは拳を跳ね上げた。

アナザードライブの胴体を撃ち抜く、全力のアッパー。

直撃した彼女の体が、空へと向かって大きく打ち上げられた。

 

同時に、ネロの乗るタイムマジーンが空へと飛ばされたアナザードライブを追う。

そして空中で、アナザードライブを覆うように大きな円の軌道を描き始めた。

タイムマジーンが展開する、青い光で描かれた球状の特殊フィールド。

そこに捕らわれ、空中で固定されるアナザードライブの体。

 

「ぐっ、あぁっ……!?」

 

逃れようともがこうと、その拘束からは逃れらない。

一度だけ小さく顔を伏せたジオウが、しかし空にあるアナザードライブへと顔を向けた。

この戦いの最後に、ジオウがそのドライバーを回転させる。

 

〈ヒッサツ! タイムブレーク!!〉

 

天空に現れた青い結界を目掛け、ジオウが地上から跳び上がった。

ライドウォッチから迸るエネルギーを、全て足裏に集中させた一撃。

彼の体が、空へと立ち昇る一条の赤い光と化す。

 

「はぁああッ―――――! だぁあああああッ―――――!!!」

 

「あぁ、ああああああっ……!」

 

その蹴撃がアナザードライブにまで辿り着き、衝突した瞬間。

全てのエネルギーが解放され、アナザードライブの全身が悉く打ち砕かれた。

アナザーウォッチもまた、その衝撃で粉砕され消えていく。

タイムマジーンの展開した特殊フィールドが、内部からの衝撃で破裂し光を撒き散らす。

 

舞い散る光の中、天空からジオウの姿が地上に帰還する。

その腕の中に、アナザーライダーの契約者であったブーディカを抱きながら。

 

 

 

 

「ブーディカさん……」

 

彼女が目を覚ますと、彼女の体はマシュに抱き留められていた。

自分に埋め込まれていた異物の存在はもう感じない。

同時に、自分の霊核の存在もまた、もう感じない。

あと、数秒で彼女は消え失せてしまうだろう。

ああ良かった、と安堵するには、自分を抱くマシュの顔が余りにも悲しそうで……

 

―――本当に、酷い事をしたと思う。

ランスロットの事など、彼女が知らないからこそなおさら酷かったと思う。

彼女に謝らないといけない、と思って。

ほんの最後の数秒。言い残せる最後の一言がごめんね、でいいのか迷う。

 

彼女を信じて、最後まで信じ抜いてくれたマシュに。

それでいいのか、と。

………だったら、もう一つしかないだろう。

 

最後はせめて笑って、ありがとう、と。

 

それだけしか遺せないまま、ブーディカは金色の光となって消えていった。

 

 

「マシュ、大丈夫?」

 

ソウゴの声に涙を拭い、振り返る。

まだ戦いは終わっていない。

どこまでも、遥かな遠い場所までこの戦いは続いていく。

だったら、こんなところで躓いてはいられない。

 

彼女が最後に遺してくれた笑顔と、言葉―――

それが、自分の心が間違ってなかったからこそのものだと信じたい。

だから彼女の旅はまだ、足を休める時ではない。

 

「はい―――マシュ・キリエライト。まだ、戦えます」

 

再び、守るための戦いのための盾を手にする。

彼女が守りたいと思った尊いものを守るために戦う武器を。

いつまでも、それを守り抜けるように。

 

 

 




 
ドライブの力とかいう大天空寺の庭に落ちてそうな力の回収はこれにて完了。
あとは神祖、レ/フ、アルテラですぞ。
 

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