Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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ソウゴのマジーンはツクヨミの乗ってきた奴でしたので、多分このSSに出てくるマジーンくんはテレビシリーズとは違う子なんでしょう。量産品っぽいから別にええやろ(適当)
オーズウォッチもディエンドウォッチもついてないし中古品かもしれないですね。
 


この戦いの最後に“なに”が訪れるのか0060

 

 

 

『満身創痍、だね……』

 

通信先のロマニがこちらの現状を見て唸る。

それをなんとなしに聞いていたのだろう、ステンノが辺りを見渡しながら同意した。

 

「みたいね」

 

連合首都防衛軍との戦いには勝利した。

敵司令官のアレキサンダー、軍師孔明、レオニダスを撃破。

ブーディカ……所属としては味方軍だったが、実質的にネロを狙う第三勢力だった。

状況は一気にこちら側に引き込んだと言っていいだろう。

 

だが、その代償は大きいものだった。

マシュ、ジャンヌ、清姫……というか、立香だ。

彼女はジャンヌの宝具維持に、大きく魔力と生命力を削っていた。

令呪も使い果たし、彼女自身の体力・魔力の回復には数日を要するだろう。

 

首都を覆うネロ軍の展開に合わせ多少の休息はあるが……

彼女のサーヴァントは今後、この特異点で宝具は使えないだろう。

―――仮に使えるとしても、デミ・サーヴァントであるがゆえに立香に掛ける負担が少ないマシュが一度きり、程度か。

現状ではその彼女にも魔力が足りないが。

 

ソウゴのサーヴァント。ランサー、クー・フーリンもまた酷い。

二度の連続宝具行使。あれは全身全霊で、文字通り全てを懸けて放つ一撃なのだ。

それを令呪という無茶で連続させた結果、彼は霊基自体に異常な負担をかけた。

ソウゴの令呪もう一角を消費し、彼の体力は補填した―――が。

このレイシフト中、彼が投擲宝具を使用することはできない。

やろうとしても、途中で霊基が崩壊するだろう。

 

オルガマリーのジャンヌ・オルタは、比較的マシか。

オルガマリーの魔術師としての才能が前者二人とは比較にならない。

令呪はなく、概念礼装を経由する必要があるため、戦闘中必要な急速魔力補充はできない。

が、継続的な魔力補給という点で見れば、ジャンヌ・オルタが魔力について心配する必要はまるでないだろう。

 

協力者である呂布・荊軻だが―――

何故か呂布は自爆したにも関わらず頑丈で、さしたるダメージはないらしい。

魔力の消費は激しいが、それ以外はそうでもないようだ。

本人が何を言ってるのかはよく分からないが、慣れてるような様子を見せている。

 

荊軻も消費は激しいがダメージ自体はそうでもない、という様子だ。

 

「んー、まあ、どうにかするっていうなら呂布だろ。

 君、令呪一個残ってるんでしょ? じゃあ、一番いいのは呂布と契約することだ。

 ……でもなー、相性悪そうなんだよなー」

 

けして良いとは言えない状態で酒を呷りながら、荊軻はそう言ってソウゴを小突いた。

彼も食事をしながらそれに答える。

 

「そう?」

 

「どっからどう見ても。だって君、裏切りを容認するでしょ?」

 

別に容認する、という話ではないと思うが。

とりあえず裏切られたら裏切られたものとして対処する、というのは容認と言えるのだろうか。

 

「まあ、本人に裏切る理由があるならしょうがないんじゃないかな?」

 

「ほらぁ……だったらあいつ、裏切って覇を競う~とかし始める奴だもん。

 そうなったらどうするのさ」

 

「そりゃ、必要なら戦うんじゃないかな?」

 

言うと思った、と溜息を落とす荊軻。

呆れるように彼女は一気に杯に注がれたものを飲み干した。

呂布とソウゴは多分、致命的に相性が悪い。呂布は裏切るし、ソウゴはそれを気にしない。

呂布がソウゴの下に就けば、呂布は自然と独立するという動きを見せるだろう。

彼は根本的に王の下にはつけないタイプなのだ。

そしてよりよい道を探すための独立という方向の裏切りなら、ソウゴはそれを認めてしまう。

結果的にジオウと呂布が戦うことになるだろう。

そんな無駄な戦いをしてる余裕はいまこの陣営にない。

 

今回の呂布がやけに大人しいのは、マシュ辺りと相性がいいからだと荊軻は見ている。

恐らく現状維持をしている限り、裏切りはしないだろう。

こうなったら適当に戦わせて適当に爆発させるのが最適なのだろうが……

 

「今はそのための戦力すら足りないって話でしょー」

 

「それもそっか」

 

敵戦力は少なくとも残り一騎―――連合ローマの首魁。

まあ、別格なのだろう。おおよそ神霊に匹敵するだろう怪物が待っている。

誰より分かっているだろうネロがその名を口にしないから、皆もあえて黙っているが。

 

「そういえばあの、あれどうしたの、あれ」

 

「あれって、タイムマジーン? 所長に渡したけど」

 

荊軻の腕がぶんぶん振られて人型を描いた。

それを突然出現したタイムマジーンの事だと理解し、その行先を口にする。

 

こんなの出てきた、と彼女に渡した時の顔は中々どうして。

もう自分驚き慣れてますよ? と澄ましていた所長が一瞬で表情を凍らせたくらい。

今は彼女が中に入って、ダ・ヴィンチちゃんとの通信を繋ぎながら様子を見ているようだ。

 

「未来にはあんなのあるんだねぇ」

 

「みたいだね」

 

2015年にはないけど20XX年だかにはあるらしいので未来にある、とは言えるだろう。

よくは分からないが―――多分あれも、ウォズのなのだろうか。

ジクウドライバーなどのように、“自分のものだ”という感覚は無い。

 

 

 

 

「……それで、何か分かる?」

 

『うーん。どうだろうね、分かることと言ったら……

 未来からきた人型ロボに変形するタイムマシンだってことくらいだ。

 とはいえ、少なくともこのマシンは今現状を変えてくれる魔法にはなってくれなそうだ。

 時空転移システムという分かり易い名前のシステムがある。

 が、完全にエラーで動作しない。時空を観測できていないようだ。

 これは人理焼却の影響、ということなのだろうね。

 あと一応武装もあるようだよ。レーザー砲とミサイルがついているようだ。

 分かるかい? レーザーとミサイル』

 

「……そのくらい分かるわよ。

 問題にしているのは、何でそんなものがついた兵器がここにあるのかよ」

 

ダ・ヴィンチちゃんの声に大きく溜め息を吐くオルガマリー。

言ってしまえばジオウも恐らく、テクノロジーが生み出した兵器だ。

タイムマジーンと呼ばれるこれも、恐らくそうなのだろう。

明らかにライドウォッチとの連動機能も設けられているし。

 

『おや。タイムマシンであることは議題にしないのかい?』

 

「………しても意味がないでしょう。

 何年後の未来かは知らないけれど、科学がそこまで辿り着いたってだけなんだから。

 あまり見たことはないけれど、そういう映画も多いんでしょう?

 つまりそれは、多くの人類が共通で見ている夢物語……ということでしょう。

 実現する事自体に、ある種の納得が出来る方向性でもある」

 

『映画の話ね。ふーん、あれかい? 学生の頃に映画デートとか』

 

ダ・ヴィンチちゃんの声にからかいが入り混じる。

一気に顔を顰めたオルガマリーが、額を指で叩き始めた。

 

「そんな一般人みたいな事になる前に、私はアニムスフィアを運営しているわ。

 仮に学生のままだったとして、そんな魔術師らしからぬことをする身分でもない。

 私が次代のアニムスフィアであることには変わりが―――ないのだもの」

 

『………まあそうだね。

 ただ、芸術家として言わせてもらうならば、そういうものも嗜んでいた方がいい。

 それこそ、いつ映画監督のサーヴァントと出会うともしれないからね』

 

一瞬詰まったオルガマリーの声。

それに気づかないふりをして、和やかに話を進める。

 

「無事に戻れたらライブラリにあるものを見させてもらうわよ。

 娯楽作品から学べるものがあるとも思わないけど」

 

『はは、私からすれば作った人間の性癖を眺めるものだけどね。

 ただまあ、自分たちが守ろうとしている文明、文化を知るのはいいことだ。

 マシュなんかと一緒に見るといいさ。女子会って奴だ』

 

「…………………考えておくわ」

 

だいぶ渋い顔つきになった彼女に、ダ・ヴィンチちゃんがそろそろ本題に戻す。

 

『タイムマジーンの装備は両腕にあるレーザー砲二門、以上。

 エネルギーに関してはライドウォッチのものを使用しているようだ』

 

「ちょっと待ちなさい。ミサイルがあるって言ってたでしょ」

 

『あるらしいんだけどね。ただ、機体のどこにも見当たらない。

 恐らくは時空転移システムとやらの応用で、弾薬を直接転移か何かで機内に補充するシステムだったんじゃないかな?

 その機能が失われている今、弾薬が補充できずに使えないと』

 

「もういちいち突っ込むのも馬鹿らしいわね」

 

冷静にタイムマシンなんて未知のマシンを考察しても意味がない、と更に溜息一つ。

というか冷静に考えたら常磐ソウゴの装備は大体おかしいから考えない方がいい。

役にたつ。今はそれだけで十分なのだ。

 

「………戦力としては?」

 

『ソウゴくん、ジオウが付近にいればそれなりに。

 ライドウォッチを動力源としているということは、サーヴァントにも通用するだろうし。

 ただ、離れた位置にいるならあまりパワーは期待できないだろうね。

 ソウゴくん以外がライドウォッチを持ってれば解決するかどうか、試してみないと』

 

「これからこの特異点は城攻めです。なら、距離に関しては問題ないでしょう。

 あとは相手に残されたサーヴァント………そして、レフ・ライノール」

 

『それはまあ、ここでする話でもないだろう。

 激戦を終えたばかりなんだ。今日はゆっくり休みたまえ。

 その上で、明日にでも全員で話し合うこととしようじゃないか。

 ではこちらも情報の精査に入る。君も休みなさい。

 ………君だって疲れていない気がしているだけさ。

 そんな環境で疲れない人間なんていないよ。以上、通信終わり』

 

「そう、ね」

 

大きく息を吐いて、通信を終えるオルガマリー。

ソウゴはそうでもないようだが、立香とマシュは既に就寝している。

………オルガマリーはそもそも、就寝は必要ない。

その上、この戦いの中でもさほど消耗していないのだ。

それを思うだけで体が重くなったような気がする。

 

「もし……いえ……駄目ね、何を言おうとしてるのかしら」

 

彼女はタイムマジーンの中で小さく独り言を呟くと、そのまま外へと歩み出した。

 

 

 

 

「所長の様子はどうだった?」

 

「んー、ちょっと失敗かな?」

 

てへ、ととぼけるダ・ヴィンチちゃんに顔を引き攣らせるロマニ。

自身の席を立ち、彼女が通信に使っていた場所に向かう。

そちらに行くと、ダ・ヴィンチちゃんは会話ログを見せてくれた。

 

「……そうか。マスター適正の低さからの問題、か。

 そして、その後の会話でそれを強く考え込ませてしまった……」

 

「私だって避けなきゃいけないな、と日常の話を振ったつもりだったさ。

 なのに所長。完全にこれは自分とキリシュタリアを比較してるよねぇ」

 

キリシュタリア・ヴォーダイム。カルデアにおける最優秀者。

前アニムスフィア当主、マリスビリーを継ぐに最も相応しいと言われる男。

実子であるオルガマリーをも差し置いて。

 

「………まあ、やってしまったものは仕方ない。

 それでもオルガマリーの精神状態は前より随分安定しているように思う。

 変に話題を避けなくても、彼女はだいぶ安心できる状態だろう」

 

ログに一通り目を通してから、ロマニは頭を上げた。

そんな彼に肩を竦め、ダ・ヴィンチちゃんが彼を見上げる。

 

「君もそろそろ限界だろう、ロマニ。休んだらどうだい?」

 

「もうこの特異点の最終決戦が迫ってる。それが終わったらゆっくり休むさ」

 

話聞かないな、こいつ。と溜息。

これが終わったらどうせ、休むのはマスターたちの健康診断のあとだ。

それが終わったら、次の特異点の特定が終われば。

しみじみと呆れる声が、自然と彼女の口から湧いて出た。

 

「本当にどうしようもない奴だね、君は……」

 

「それは一体どういう意味で言ってるんだい、レオナルド」

 

「別にー?」

 

まあこっちで管制の仕事をしている分には、最悪殴り倒してベッドに放り込めばいいだけだし。

動けている内は放置してもいいか、とダ・ヴィンチちゃんは投げやりに返した。

 

 

 

 

「うぅん……ねむい………」

 

前日に魔力も何もかも消費し尽くしたからか。

よく眠ったにも関わらず疲労困憊。

というか、手足が全然思うように動かないという地獄の目覚め。

いつものように引っ付いている清姫をぺいっと払う事もできない。

 

「先輩、調子はどうでしょうか」

 

「うぅ、動けない……マシュ、手ぇ貸して……」

 

困惑しながらマシュは立香に歩み寄り、それにくっついている清姫を無理矢理剥がした。

そのまま清姫を天幕の隅に持っていく。

彼女の魔力不足が深刻、というのも事実なのでそのままへたりと潰れた。

 

「ああ、マスターからの魔力供給が弱く……今すぐに肌を密着させねば……」

 

「申し訳ありませんが、その前に先輩の体力回復優先です」

 

しゅんとして潰れる清姫。

そうしていると、天幕の布を上げてジャンヌが中を覗き込んできた。

 

「マスターの様子は……駄目そうですね」

 

「ジャンヌの魔力は大丈夫なの?」

 

寝ころんだままに彼女に問い掛ける立香。

その様子を見たジャンヌが苦笑して、正直に告白する。

清姫がいるから取り繕うのも面倒なのだ。

 

「正直に言えば心もとないですが……そうも言ってられません。

 皇帝ネロは、今日中にも連合ローマ首都を陥落させると宣言してしまいましたし」

 

「えっ……今日中? うぅ、せめてもう一日欲しかった……」

 

軋みを上げる体を動かそうとしながら、溜め息を一つ落とす。

それを見たマシュが立香を止める。

 

「すぐに動くわけではありません。ギリギリまで休んでください」

 

「それに向こうに聖杯がある以上、儀式を執り行う時間は与えたくないのよ。

 相手がただのサーヴァントならまだしも、レフが召喚を行っているのだろうし……

 まして、時間を置けば時代の神代回帰が進んで神霊が顔を出しかねないという事もある」

 

そう言って天幕に入ってくるオルガマリー。

その後ろにはほぼ復調しているらしいジャンヌ・オルタの姿もあった。

オルタがその頭を揺らし、疑問の声をあげてくる。

 

「神霊ねぇ、あのステンノみたいな?

 あの程度のチンチクリンしか降りてこないなら別に問題ないんじゃないの?」

 

「……戦闘能力がない神霊ならそれでいいけれど、そうではなかった場合が問題でしょうに」

 

「つまり、レフは神霊を呼ぶための儀式を準備してるんですか?」

 

立香からの疑問。それにオルガマリーは片目を瞑り、顎に手を当てる。

可能性はなくはないが、必要性がいまいち見えない選択肢。

実験、というのが確かに一番可能性が高そうではあるのだが。

実験だからこそその他を度外視して、聖杯の魔力をそんな風に運用している。

その可能性が、一番現実的な予想だろうか。

 

「……そういう可能性もある、わね。

 前回の戦いも、もう一騎サーヴァントを召喚されてればこちらの全滅が見えたもの」

 

実際には向こうがサーヴァントを呼べば、この人理を賭けた聖杯戦争のルールが働く。

聖杯を使い英霊を召喚すれば、同時に敵対するカウンターの英霊が呼ばれる。

一騎でも増やせばこちらに味方するサーヴァントも増えるはずだから確実とは言えないが……

 

「ああ、そういえば」

 

そこで、いつの間にか現れていたステンノが口を挟む。

全員がそちらを向いて、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「貴女たちと敵対してたあの軍師、本当は貴女たち側だったのよ。

 多分、アレキサンダー大王のカウンターとして野良サーヴァントとして呼ばれたのね。

 何故かあちらについてしまったけど。

 もうどうでもいいことでしょうけど、そういうケースもあると知っておいた方がいいわ?」

 

くすくすと笑いながらそう言ってくれるステンノ。

逆にオルガマリーは酷く渋い顔をした。

 

「野良として呼ばれたのに、人理焼却側に……

 相当捻じ曲がったサーヴァントだった、ということかしら」

 

「どうでしょうね?」

 

これ以上を教える気が無い、と。

ステンノは微笑むだけで続きを語ろうとはしなかった。

まあ、今となっては退場した敵サーヴァントの人格は確かにどうでもいいのだが。

 

「……逆に、人理焼却側に呼ばれても、精神状態がまともならばこちらにつく可能性もある。

 そう考えてもいいのでしょうか」

 

ジャンヌがジャンヌ・オルタの方を見ながらそう口にする。

バーサーカー大量召喚の実績がある彼女が、ぐぬぬと顔を歪めた。

彼女はルーラーの特性を有しつつ、自身に逆らえないようにサーヴァントに狂化を付与した。

それにより同時に多くのサーヴァント、そしてファヴニールを従えることをやってのけた。

 

「………………何でそこで私を見るのよ」

 

本人にも多少なりとも思う所があったのか、声は小さい。

ぼそりと小さく反論しつつ、視線を逸らすオルタ。

 

「そうね。普通はそうやって何らかの()()を設けないと清純な英霊は従えられない。

 けれど連合皇帝の位置にいる彼の場合、逆らう気もないのでしょう」

 

「それは……皇帝ネロのために?」

 

「それもあるでしょうけど……

 結局のところ、自分の存在は貴女たちが越えるべき障害だと認識しているのでしょう。

 だってそうでしょう? 彼はローマであり、ローマとは人理が築く文明の源流。

 だからこそ彼は、人理の守護者に対しては己を礎にさせることを選ぶ。

 別に私から送るべき言葉ではないけれど―――

 踏み越えてあげなさい、貴女たちが人であるために」

 

そこまで言ったステンノが、一度言葉を切る。

そうして未だに寝ている立香に近づいていき、その頭を持ち上げた。

持ち上げた頭を膝の上に。そして、彼女の腕を引きよせて―――

 

「え? あの……」

 

かぷり、と彼女の小さな口が立香の腕に噛み付いていた。

ぎょっとしながら見ている一同。

清姫が部屋の隅で即座に再起動し、とりあえず反射的に動いたジャンヌに叩き伏せられた。

 

「あっ、つい……」

 

「きゅぅ……」

 

完全にノックアウトされる清姫。

そんな中で、数秒後には彼女の口は立香の腕から離れていた。

面食らっている立香に向けて、小さく微笑むステンノ。

 

「私の魔力を血を介して分けただけよ。どうせ使わないもの。

 神霊である私の魔力は普通はあげ過ぎれば毒になるけれど……思ったより大丈夫そうね?」

 

ステンノの視線がちらりとマシュを見て、しかしすぐに立香に戻る。

立香が確かめるように体を軽く動かした。

 

「わ、凄い。一気に楽になった」

 

「そう、それはよかった。なら、行きなさい勇者たち。

 この世界を救うために、ね」

 

そう言って彼女はカルデアの勇者たちを送り出す。

ネロが指揮する最後の決戦に。

 

そうして、天幕の中から全員が出て行った後。

彼女は誰に言うでもなく、最後に呟いた。

 

「ああ、一つ。言ってなかったことがあったの。

 恐らく、あの魔術師が神代への回帰をこの時代に行ったもう一つの理由―――

 でも教える必要もないでしょう。私から魔力を託したのだもの。

 さあ、最後の戦いよ。勇者に相応しい最後の戦いを、どうか見せてね」

 

ステンノが天幕の外に出て、空を見上げる。

神代の回帰。既にそれは相手が必要とする段階を迎えていた。

もうロムルスを倒しても、その目的は果たされているだろう。

 

「ええ。こんな策、正面から食い破ってもらわなければ。

 これから先の戦いなんて、やっていけるはずがないのだもの」

 

彼女はそう言いながら、小さく、怪しく、しかし美しく微笑んだ。

 

 

 




 
ジュリエットちゃんが好きです。
 

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