Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「おまえはローマで、俺はローマだ! そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!」
「違うのだ!!」
「皇帝陛下っ……! 連合首都正面に人が……! あれは……」
「―――――」
伝令の兵士が駆け込んでくる様子を見て、ネロが目を細めた。
その彼の狼狽ぶりを見て、彼女はそこで誰が待っているかを理解する。
この時代を生きる誰もが彼の顔など知らないだろう。
だが、ローマの民であればきっと一目で分かるはずだ。彼が、誰であるのかなど。
「ソウゴ、立香。余は一度前に出る。この場は―――余に任せておいてくれ」
返事を待つことなく、歩み始めるネロ。
彼女が前衛の兵士を掻き分けて前に出た先、連合首都の門は大きく開かれていた。
そしてそこに、一人の男が立っている。
灼けた肌に、筋骨隆々の体躯。
金の冠と、巨躯を覆う赤いマントを纏った最後のサーヴァント。
―――連合ローマ、最後の皇帝。
至高の相手との対峙に震える体を抑え込み、ネロは敵対者として相手を睨む。
「建国の父、神祖ロムルス――――」
「そう。
大地に抱き締められるような、強く優しく偉大な声。
連合ローマが何故こうも簡単に成立してしまったか、理解できてしまうその威容。
ぎゅ、と唇を噛み締めて彼女はその手の剣を彼へと向けた。
「我が目で直接見れば、よく分かる。
絢爛たるローマの象徴。美しく燃える赤き薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウス。
そうか、なるほど。お前もまたローマである――――さあ、こちらにくるといい。
お前の愛は、ローマに届いている。ローマはお前を愛している。
お前もまたローマに連なり、過去も現在も未来も、全てのローマを愛すが良い」
剣を向けられたことに何の感情も見せず、彼はネロへと手を差し出す。
叫び返そうとした声に詰まる。
―――それでも、彼女は精一杯に声を荒げて言葉を返した。
「――――――それは、出来ぬ……! 余が愛するのは余の民! 余が愛するのは余のローマ!
余はローマ帝国第五皇帝、ネロ・クラウディウス!
余がもっとも愛するものは……余とともに
過去のローマには深い敬意を抱こう、未来のローマには輝ける希望を願おう―――!
だが余の愛は、
余が―――皇帝であるがゆえに!!」
その言葉を噛み締めるように、神祖がゆっくりと目を閉じる。
そうして、彼は差し出していた手を降ろした。
次に彼が目を開いた時、彼の表情からは何も読み取れなかった。
「では来るがいい、ネロよ。
それだけを言い残し、ロムルスが姿を消した。
彼の気配は連合首都の中心にある城へと向かっていく。
着いて来いと言わんばかりに。
ネロは一度振り向いて、兵士たちに下がるように手を振った。
此処から先は、ネロが皇帝として戦うための場面なのだから。
もう躊躇いはどこにもないと。ネロがロムルスを追うために歩き出し―――
首都に踏み入った瞬間、周囲から武装したローマ市民が襲いかかってきた。
「僭称皇帝ネロ! 奴を真実の皇帝に近づかせるな―――!」
民衆間で飛ぶ怒号は、彼女の全てを否定するように空に響く。
だが、ネロは歩みを止めない。武器を構える事すらしない。
誰に止められるまでもなく、成功するはずの襲撃。
しかし、その攻撃は叶わない。
辺り一帯の連合ローマ市民は、突如頭上から降ってきた鉄柵に皆閉じ込められていた。
地面に突き立った鉄柵は、市民が押しても引いてもびくともしない。
直後、その柵に触れているものたちに電撃が奔った。
その電気ショックでひっくり返る市民たち。
鉄柵の雨を降らせた車輪が、ぐるりと一度宙で円を描く。
その下には、赤いアーマーを纏った新たなジオウの姿があった。
「じゃあ、行こうか」
「――――うむ。礼を言う」
そう言って一番前を歩きだすネロ。
市民はことごとく手に武器を持ち、ネロへと襲い掛かってくる。
それをジャスティスハンターで確保しながら、ジオウが続く。
更にその後ろから続くカルデアのメンバーが、この光景に息を吐いた。
無数に空から放たれ、大地に突き立つ鉄の柵。
それは群がってくる民衆をいとも簡単に塞き止めてくれた。
柵に触れた人間に電流が走り、その意識を刈り取って弾き飛ばす。
「……あのロムルスがさせてることってわけじゃ……ないよね」
次々と迫ってきては閉じ込められ、気絶に追い込まれる市民たち。
そんな光景を目にしながら、立香が視線を巡らせる。
どう見ても彼ら民衆は、誰かに指示されてやっているわけではない。
「自発的に動いてるようにしか見えない、ですね」
マシュもそれに同意する。
魔術的に見ても、洗脳の類が行われている様子はない。
つまり、彼自身のカリスマ。これはただ、それだけで発生している現象だ。
「…………扇動者、って意味では白いのやデブいのも大概だと思ってたけど」
ちらりと折り重なって倒れる市民たちを見て、黒いのが呟く。
カエサルと同列に扱われた事にどう反応すればいいのか。
白い方がむむむ、と唸りながら珍妙な表情で黒い方を見返した。
「―――まあ、それも道理なんだろうさ。
あれはローマがローマである所以、ローマの人間なら誰でも思うんだろう。
自分たちは、彼と言う大地の上で生きているものなのだと。
民衆が鉄柵で隔離されるのを横目にしながら、荊軻がそう呟く。
その言葉を拾って返したのは、一番前を行くネロであった。
「ああ、そうとも。
あの方こそは国の基礎であり、時の皇帝が築くローマ全ての礎となるもの。
ローマを存続させるものではなく、ローマをそこより始めるもの。
彼の後に続くものあれど、彼より前に立つものなし。
――――だが、そうであっても、だ……!」
足早に通り抜けた連合ローマ首都。その中央に座す城門に辿り着く。
市民たちは、ここまでは踏み込んでこない。
ここが人は踏み込むことを許されぬ、神の座であるとでもいうかのように。
ネロの手にある炎剣により、城門が切り裂かれる。
崩れ落ちる扉を蹴破って、彼女は真っ先にその中へと踏み込んでいた。
目の前に広かれる大広間。
その中心には、泰然と待ち構えているロムルスの姿があった。
彼の前で、ネロが叫ぶ。
「礎でありながら、何故動かれた……!
貴方という礎に載せる都市として、余のローマはそれほどに醜いと思われたか!!」
「無論。
ロムルスの態度は微塵たりとも揺るがない。
その大樹の如き様相に、ネロが小さく唇を噛み締める。
「では、なぜ!」
「所詮はサーヴァント。神祖などと呼ばれようが、マスターには逆らえないものさ」
なおも問い詰めようとするネロを遮る声。
ロムルスの背後から、モスグリーンのコートをきた男がゆったりとした足取りで姿を現した。
彼は周りを見回すと、僅かに眉を顰めた。
「おや。オルガマリーの思念体がまだうろついている、と聞いていたのだがね。
彼女はどうしたんだい? 戦いについていけずに、亀にでもなったか?」
『レフ・ライノール……!』
その顔を前に、映像を捉えたロマニが彼の名を呼ぶ。
声をかけられてから気付いたように、朗らかにさえ聞こえる声での返答。
「やあ、ロマニ。随分と仕事に励んでいるようだね、忌々しい。
その勤勉さをAチームのレイシフトの時に発揮してくれていれば……
君はとっくに爆発で死んで、私の仕事も減っていたのに」
「――――神祖ロムルスを、貴様が操っている、とでも……」
ネロの震える声。
それを聞き、レフはどうでもよさげな顔で自分が召喚したサーヴァントを思い起こした。
「うん? ああ……ロムルスも、カエサルも、カリギュラも、アレキサンダーも。
どいつもこいつも大して役に立たなかったな。
まあ、所詮は今の人理に刻まれた英霊ども。元より何も期待していないさ」
「そうか―――つまりこの連合ローマも、貴様の企てか――――!」
彼女の前に立ちはだかってくれた英傑たち。
その彼らに、呆れたような顔でそんなことを口にする男。
ネロがその男に向けて、一気に踏み込んだ。
「やれやれ、人がまだ話をしていると言うのに……ランサー、やれ」
レフの声。それに反応したロムルスが、朱色の樹で出来た槍を手に現した。
突撃してくるネロの前に立ち塞がるロムルスの姿。
咄嗟に止まろうとしたネロに、横薙ぎで襲ってくる樹槍の一撃。
「っ………!?」
「どいてなッ!」
その一撃を、同じく朱色の魔槍が迎え撃っていた。
ネロを後ろに弾き飛ばしながら前に出るクー・フーリン。
二人のランサーの槍が、空中で交差して―――容易に、クー・フーリンが吹き飛ばされた。
空中で回転し、綺麗に床に着地しながら彼は表情を歪める。
「チッ、ここまで力が入らねぇか……!」
即座に今の彼では張り合えない、と判断する。
この時点でランサーの仕事は攪乱以外にないだろう。
投擲宝具は使えないが、槍の一刺しであれば宝具は使える。
細かく動きつつ、目を離せば心臓必中宝具を使用してくる攪乱だ。
並の相手ならばこれの前に呂布を立てるだけで余裕のある決着がつくだろうが―――
「■■■■■―――――!!」
クー・フーリンに続くように呂布が走る。
彼の手にある“
目の前の障害を根こそぎ払う、大鎌のスイング。
それがロムルスの足元を目掛けて降り抜かれ、しかし彼が片手で持つ槍に防がれた。
一瞬静止する呂布の顔面に、ロムルスの振り上げた拳が突き刺さった。
スタミナ、タフネスの怪物である筈の呂布が、その衝撃に蹈鞴を踏んで一歩下がる。
次の瞬間。呂布は振り抜かれた樹槍に殴打され、城の壁に衝突して止まっていた。
「―――神祖ロムルス、なぜそのような魔術師に……!」
「ローマ皇帝よ、今お前が―――成すべきことを成すがいい。
樹槍が足を止めたネロに向けて振り抜かれた。
対抗するように、炎を纏った彼女の剣が振り上げられる。
衝突により押し返されるのは、当然のようにネロの姿だった。
「っ……!」
「させるかっての―――!」
体勢を崩す彼女を庇うように、黒い姿が前躍り出る。
同時にロムルスの足元から黒炎が大きく噴き上がった。
更に連続で放たれるその黒い炎で出来た剣。
ロムルスはその炎を躱すでもなく、炎の中へと身をさらした。
「憎悪か。それもまた、ローマである」
「はぁッ……!?」
飛来する剣群を槍すら用いず裏拳で弾き返す。
ロムルスは黒い炎に包まれながら、ネロへとその顔を向けた。
「憎しみが炎であるなら、お前の愛もまた炎である。
共に自分も相手も焼き尽くす感情の業火。
―――ローマ皇帝、ネロよ。
憎しみの炎に身を焦がしたブリタニアの女王と、愛の炎に身を焦がすお前の何処に差がある」
「―――それ、は……」
「ネロよ。お前は憎しみの炎を受け止めた。それは、苦難であったろう。
その憎しみは、マシュという娘の愛が包んだ。それは、苦心の末の答えだったろう。
ローマ皇帝ネロ。お前の愛を受け止めるのは、
それを理解し、それでもなお。お前はその愛でローマを燃やすか?
今のローマにお前の炎を留めることはできまい。それでもその道を選ぶというならば、お前の結末は決まるだろう」
今更問答など、と切って捨てなければいけないのに。
それでもネロの動きが止まる。
黒い炎に包まれたロムルスに、清姫が追加するように炎の息吹を放つ。
彼はその手の槍を大きく振り回し、黒と青の炎を全て吹き散らしてみせた。
「
我が愛はお前の愛さえも覆うだろう。お前の炎でさえ、温もりとして抱き締めよう。
最後に問いかけよう、ローマ皇帝。
――――それでもお前は、そこにそうして在り続けるか?」
決まっている。
今までここにくるまでに、何度だって同じ事を叫んできた。
彼がくれた最後通牒だ。
両の手で握り締めた剣に炎を灯しながら、彼女はロムルスを見返した。
「―――無論、である。ローマ皇帝がローマの頂きに立たずして何とする。
ローマ皇帝がローマを愛する事に怯えて何とする―――!
余が誰より先に愛を与えなくては、愛が返されぬ事に嘆くことすら許されぬ―――!
誰より大きく、誰より尊く、誰より優しき愛を持つ神祖よ。
たとえ貴方の愛があっても、余がローマを愛することは止められぬ!」
「そうか。では、
ネロから視線を外し、復帰して自身に向かってくる呂布に視線を向ける。
その手にあるのは方天画戟。
彼の武装の基本形にして、破壊力の優れた形態。
「■■■■■■ッ――――!!!」
唸りを上げながら振るわれる方天画戟。
迎え撃つロムルスの樹槍。
盛大な破裂音を轟かせながら、宙で衝突する二人の武装。
その衝突と同時に、ロムルスを挟み込むように左右から影が奔る。
朱槍を構える青い槍兵と、匕首を忍ばせる白い暗殺者。
手にした武器から必殺の魔力を放ちながら、同時に迫る二人のサーヴァント。
「“
「“
瞬間、ロムルスは自分の槍を手放した。
拮抗していた相手を失い、彼にそのまま迫る方天画戟。
その凶器を彼は、空いた手で横合いから力尽くで掴み取った。
突き出された武器を掴む、その勢いのまま自分の体を回転させる。
呂布を引っ張りながら強引に回転するロムルス。
その呂布の巨体が槌となり、迫っていたクー・フーリンと荊軻を巻き込み吹き飛ばす。
「ちぃっ……!」
「■■■■■ッ―――!」
周りを薙ぎ払った後、方天画戟を手放し同時に呂布に蹴りを見舞う。
空中で回転しながら地面に落ち、そのまま滑っていく巨体。
その様子を流し見しながら、どうでもよさそうにレフは眉に皺を寄せていた。
「絞りかすのサーヴァントどもに、一体いつまで時間をかけるつもりなのだか。
まあいい。私は最後の召喚の準備に入るとしよう」
そう言って踵を返し、城の奥へと歩き去ろうとするレフ。
彼の姿がロムルスの背から大きく離れたのを見て、立香が動いた。
後ろを振り返り、手元の通信機を通じて大声で叫ぶ。
「所長、今です!」
その名に僅か、レフが足取りを遅らせて振り返り―――
〈タイムマジーン!〉
次の瞬間、巨大なマシンが天井を突き破って侵入してきていた。
瓦礫をものともせずに進撃する、高速移動する巨大な機械。
一秒先に自分を圧し潰すだろうそれを目撃したレフが、驚いたように顔を崩していた。
「なに……!? ぐっ……!?」
咄嗟の回避行動に移ろうとするレフ。
それを、ジオウの腕から放たれたタイプスピードスピードが防いでいた。
車両型の遠距離武器を腹に受け、くずおれるレフの体。
それを圧し潰すかのように、瞬時に人型に変形したタイムマジーンが彼の上に圧し掛かっていた。
〈ドライブ!〉
「レフ………!」
マジーンの頭部にジオウと同じウォッチ、ドライブウォッチが装填される。
そのタイムマジーンのコックピットの中で、オルガマリーが押さえつけたレフを見据えていた。
「……やあ、オルガ。随分な再会だ。君にしては現場主義がすぎるが……
役立たずの汚名を返上しようとでも頑張っているのかい?」
「……聖杯を渡しなさい、レフ・ライノール!
そうでなければ、貴方はこのまま……!」
オルガマリーが内部でレバーを動作させれば、タイムマジーンの腕が動く。
組み伏せたレフの体に力がかかる。
ミシリ、と軋みをあげる体を感知しながら、レフの表情が怒り一色に染め上げられた。
「
ゴボリ、とまるで何かが溢れるように彼の体が膨らんだ。
タイムマジーンの指の隙間を潜り、黒い何かが彼を突き破り溢れていく。
「えっ……!?」
「所長、下がって!!」
動きを止めたままのタイムマジーンを薙ぎ倒し、黒い柱が屹立する。
醜悪極まる腐肉の柱が聳え立ち、それに無数の赤い眼が開かれた。
その眼が一つ光を灯し、大きく輝いた。
同時にタイムマジーンの表面が爆発し、その巨体を地面に転がす。
揺れ動くマジーンの中で、オルガマリーが悲鳴をあげた。
「きゃああああっ!?」
白煙を上げながら沈んだタイムマジーンから何十もの瞳が視線を外す。
彼は無数の眼球をぎょろぎょろと蠢かせ、その視線は立香やジオウたちに向けられた。
そして彼は改めて、人であった時と同じ声で呼びかけてきてみせた。
「―――この姿を晒した以上、改めて自己紹介しておこう。
私は、レフ・ライノール・フラウロス!
七十二柱の魔神が一柱、魔神フラウロス―――これが、王の寵愛賜りし我が姿である!」
『……フラウロス。七十二柱の魔神。なら、それは……
彼の言う、王というのは……まさか、そんな……』
通信越しでロマンが困惑している様子が伝わってくる。
その中でドライブアーマーが疾走を開始した。
倒れ伏したマジーンへ向け、加速していくジオウの姿。
それを追ってぎょろりと動く無数の眼球。
赤い瞳が連続して輝き、ジオウの現在地に爆発を連続させる。
何度も進行方向を切り返し、爆心地から外れながら走行を続けるジオウ。
その肩から幾つか車輪が射出された。
フラウロスを向けて飛ぶタイヤ。
「フンッ――――!」
無数の瞳が同時に煌めき、周囲一帯を丸ごと爆炎に呑み込む。
纏めて弾き飛ばされるジオウの車輪攻撃。
タイヤを呑み込んだ爆風がそのままジオウごと吹き飛ばさんと迫り―――
「ソウゴくん、後ろに―――!」
前に出たジャンヌが、その旗の一振りで強引に爆風を軽減した。
ジャンヌの旗の強度は無限ではない。
宝具に酷使された今の彼女の旗では、防げる攻撃はあまりにも少ない。
次に宝具を解放すれば、旗が崩壊しかねない。
軋む旗を感じながら、ジャンヌはしかし盾としての役割を務めてみせる。
「ごめん、ありがと!」
〈フィニッシュタイム!〉
ジオウがドライバーからドライブウォッチを外し、ジカンギレードに装填する。
ギレードが必殺待機状態に移行し、同時にドライブアーマーの脚部が全力で駆動した。
まるで独楽のように横回転を開始するジオウ。
〈ドライブ! ギリギリスラッシュ!〉
そのジオウ独楽が、回転を維持したままフラウロスに向けて加速した。
肉の柱に回転しながらぶつかり、弾かれ、またぶつかり。
何度も何度もその回転刃を衝突させる。
肉が、眼が、斬られて舞う。肉片と体液を飛散させる、悍ましい光景。
「チィ、常磐ソウゴ―――――!!」
回転するジオウが一際迫り、強く肉の柱に衝突した瞬間。
柱の上の方に並ぶ眼が一斉に輝いて、至近距離でジオウに爆撃を叩き込んだ。
連続して輝きに瞬くジオウの周囲。
直後の爆発に、その体が宙に投げ出された。
「ぐぅ……!」
ドライブアーマーから黒煙を噴きながら、床の上を転がるジオウ。
一気に許容量を超えたダメージを受けた赤いアーマーが、その存在を保てず消えていく。
通常形態に戻ったジオウが、小さく呻き声を漏らす。
牽き潰された半身を震わせながら、フラウロスが再び眼に魔力を凝縮していく。
「フン! 貴様たちがどれだけ足掻こうが、既に人理は終了している。
今更どう足掻こうと、人理の修復は不可能なのだ。
だと言うのに何故足掻く? 既に迎えた終焉、目を閉じ待ち受ける方がまだ幸福だろうに」
魔力を溜めた瞳が、倒れるジオウを一斉に睨む。
その瞬間に、彼の姿が爆破された。
爆炎に塗れたその場所から、しかしフラウロスに向け声が放たれる。
「終わってなんて、いません……!
わたしたちは、終わってないから、未来を守るために立っている……!
守る未来を愛して、けど憎んで、苦しんだ人を越えてきた―――!
わたしたちは、絶対にこんなところで終わらない……終われない―――!!」
ジオウの前に立ちはだかる、マシュの盾。
それが爆炎を弾き、背後のジオウを守り抜いてみせた。
その姿に、フラウロスのぎょろぎょろと動いていた瞳が僅かに揺れる。
「―――所詮は悪足掻き。何をしようと、もう遅い―――!」
そう言い、再度眼球に魔力を集約し始めるフラウロス。
何かに動揺しているのか、先程より遅い動作での魔力充填―――
そんな肉の柱に、巨大な鋼の拳が突き刺さった。
復帰してきたタイムマジーンの放った拳が。
頭部のライドウォッチがドライブからジオウに変わった、オルガマリーの駆るマジーンの一撃。
体に大穴を開けたその拳を感じながら、フラウロスが怒気に満ちた声をあげる。
「ヌぅ、オルガァッ……!」
「―――本当に遅いというのなら、なぜ貴方は神代の回帰なんて実験をしているの……!
それが
もう遅いなら、貴方がここでこうしている意味がない……!」
「フォーウ! ドフォーウ!」
フォウがオルガマリーの頭から跳び、操縦桿に体当たりする。
それで動いたレバーに連動し、マジーンが腕を振り抜く。
またもフラウロスの体に突き刺さる鋼の拳。
貫かれながらフラウロスが、渋く歪んだ声でオルガマリーに問う。
「―――神代の回帰を本命の実験、ときたか。
なるほど、甘く見すぎていた――――いや、あの女神か? 女神の入れ知恵ならば頷ける。
だとするのなら、
「え?」
「所詮、君はそこまでだよ。オルガ」
フラウロスの内部、そこから黄金の光が漏れだす。
聖杯の放つ、黄金の魔力の輝き。
それが急速にフラウロスの肉体を修復していく。
突き刺さったマジーンの腕をも押し返し、強引に肉体を再構成。
「なぜ神代を再来させたか。なぜ楔が神祖ロムルスだったのか。
いいとも、今から君たちの前で、その答え合わせをしてあげよう―――!
最期に、何を見落としていたか知って消え失せるがいい―――!
さあ、神代である今―――ロムルスの父神、
フラウロスの直上に魔方陣が浮かぶ。
それはサーヴァント召喚のための召喚陣に相違ない。
彼が聖杯から汲み上げた魔力が、一気にその中に注がれていく。
「■■■■■■ッ―――――!!!」
呂布の手に握られた“
既に彼の魔力は限界だ。放てばそれが原因で彼は消える。
そして、放ったところで全力の一撃とは程遠い。
そんな攻撃でロムルスに通用するかどうか、放つまでもなく理解できる。
王を戴かぬ彼の此度の戦いは、ただ戦いのための戦いだった。
ネロの陣営に加勢しているのはさほど大きな理由はない。
ただ最初にそちら側にいたから、程度の理由だ。
多分、最初に連合側が近ければそちらで戦っていただろう。
勝利を目指す理由もなく、敗死するくらいなら敗走する。
その程度の心持ちでずっといたと言ってもいい。
だが、ここで敗走できるか? 相手が誰か、などどうでもいい。
今この戦場で呂布をあしらっている相手は、呂布を見てもいない。
見てもいないのに、彼は呂布を圧倒してみせている。
彼が見ているのはずっと娘のような存在らしい女だ。
その余裕を有しながら、ロムルスはこの包囲網を悠然と歩んでいる。
許せるか? いや、許せない。誰が? もちろん奴も、そして己も。
地団太を踏むように足を上げ、思い切り床に叩き付ける。
床を粉砕して大きく埋没する足。
そして彼は、弓に自身の魔力を全て懸けた矢を番えた。
なるほど、このまま撃てば直撃したところで威力が足りまい。
その上、射った途端に体を維持できず彼自身も消滅するだろう。
よしよし、なら仕方ない。
――――じゃあ、体など最初からくれてやる。
番えた矢は、口で咥えて弓を引く。地面に埋めた片足だけで衝撃は堪えてみせよう。
これで片腕と片足が要らなくなった。
それらに回す電力と魔力をカットして、消滅させる。
それでも足りない。なら胴体も三分の一はくれてやる。
カット。カット、カット、カットカットカットカットカット―――!
頭部も半分まで消して、漸く奴に届く一矢に足りる。
真実、彼の全てを賭した最期の一撃。その魔力の昂ぶりに、ロムルスが視線を送る。
馬鹿め、もう遅い。
「■■■■■■■■■■■■ッ―――――――!!!」
全ての魔力を載せた矢が、咆哮とともに―――否、解き放った直後に彼は咆哮した。
反動で砕け散る残り少ないボディが、あっという間に消えていく。
だが彼の残った頭部が見届ける。
放った呂布の一撃が、ロムルスの片腕と腹を食い破ってみせる様を。
それ見たことか。その傷こそ、貴様が一騎当千にして三国無双。
飛将軍呂奉先を甘く見た報いである、と。
その思考を最期に、呂布は完全に消失した。
半身に近いほど肉体を抉られて、ロムルスの動きが一瞬止まる。
その隙を見逃せるほど、彼を囲んでいたサーヴァントたちは甘くない。
「これで、“
荊軻の匕首がロムルスの首に深く突き立てられる。
その彼女が攻撃を終えて飛び退く瞬間、
「“
ロムルスの足元から無数の槍が突き立ち、彼を串刺しにする。
そして立ち上る憎悪の炎。
僅かに揺れた彼の横を朱色の魔槍が一閃する。
クー・フーリンの一撃が、残っていたロムルスのもう片腕を肩口から断ち切った。
樹槍を持ったままに落ちる彼の腕。
「…………」
彼は致命傷になりえる連続攻撃にさえ、意識を揺らさない。
彼の意識はただ、ネロ一人に向いている。
ネロは走る。彼を目掛けて。その手に剣を携えて。
そうして彼女は、燃える炎の剣を、彼の胸へと突き立てた。
「―――多く。多くのものが、お前の愛を否定するだろう」
「………はい」
「それでもなお、お前はお前の愛を燃やすがよい。
人は、神に愛されるためだけの存在ではない。人は、人を、愛するのだ。
皇帝とは、神から解き放たれた人の世の象徴。
なればこそ、その愛が万民に届けと燃やすお前こそ、ローマ皇帝に相応しい。
人を愛せよ、国を愛せよ、国に根付いた人の営みを愛せよ―――
国に人が住まい、文明を築き文化と成す。それこそ、
そこまで語ったロムルスが、小さく顔を歪めて天井を見上げた。
そして、自身のマスターであるフラウロスを振り返る。
彼の周囲には聖杯の魔力が集い、今にも新たなサーヴァントが召喚される寸前だった。
「さあ、ネロよ。
「なにを……」
「お前の望むように、守るための戦いをするがいい」
そう言って彼は、致命傷をものともせずに歩き出す。
まるで今から降る破滅から、ネロを守るための位置を取るように。
そうして、困惑するネロを差し置いて。
この地に―――侵略者が降り立った。
白い装束に褐色の肌。
頭を覆う白のヴェールで銀髪を飾る、一人の女性がそこにはいた。
魔力の残滓をバチバチと放電させながら、彼女は気の抜けたような顔でそこに立っている。
その英霊の降臨に、フラウロスが肉柱が強く蠢いた。
「フ、ハハハハハハハハッ――――!!
さあ、破壊の大英雄アルテラよ! 殺せ、破壊しろ、焼却せよ―――!
その力で以て、この特異点の底に穴を開けろ!!
人類全ての墓穴だ――――盛大に、貴様が掠奪した神の力を以て滅亡を――――!!」
三色の光で構成された剣の柄を、彼女はゆるりと天井に翳した。
瞬間、世界が鳴動する。
『な、なんだ今の反応……!? 神霊―――まさか!?』
「なんか……上から来る―――!!」
ロマニの反応に、ソウゴが何とか立ち上がる。
その手にはウィザードウォッチが既に握られていた。
「立香! 全員で下がって、マシュを前にして……宝具を……!
所長も早くそれから降りて! いや、壁になるように横にしてから―――!」
〈アーマータイム! ウィザード!〉
炎とともにウィザードアーマーを装着し、前に出るソウゴ。
その健気な抵抗にフラウロスが激しく蠢動した。
ビッグの魔法で大きくした腕で、タイムマジーンを無理矢理引き戻して押し倒す。
「あんたいきなり……!」
周囲の床を突き破り、土を圧し固めた壁が一気に展開されていく。
ロムルスとの戦場へと視線を送り、他の全員もコネクトを駆使して回収。
ネロも――――そこでロムルスと目を合わせる。
偉大なる建国王の目は、ただ静かに彼を見つめ返していた。
………彼女は、あそこで大丈夫だろう。こっちよりも、ずっと安全かもしれない。
残るすべての魔力をディフェンドに回す。
「っ……全ての魔力を……!」
それを見たフラウロスが賤しくも嘲笑う。
「無駄な足掻きだ!
ロムルスを楔にした神代回帰により、今のローマの頭上には
奴がいる故に、アルテラの宝具である軍神の剣が最大の力を発揮する―――!
つまり、
戦を司る軍神の権能に匹敵する最大最強の一撃だッ!!
サーヴァントや貴様如きに対抗できるような存在ではない―――――!!!」
叫ぶフラウロスの背後にいるアルテラ。
彼女が手にした剣を、ゆっくりと振り下ろす。
そこまでくればこの場の全て、誰もが理解した。
頭上から迫りくる絶対の破壊。地上を灼き払う神の光。
それが―――――
「なにッ、なにをしているアルテラ! 貴様、何故……!?」
「
「キ、サッ……!?」
「“
彼女の静かな声とともに、城を上から光の剣が貫いた。
絶望的な熱量の塊、光の渦。
サーヴァントの宝具、という規格に納まるはずのない、神威の具現。
軍神の揮う剣が、地上の一点に向かって振り抜かれた。
「アァルテラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ―――――!!!
ギィ、ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
その熱量に呑まれたフラウロスが断末魔をあげ、瞬く間に蒸発していく。
直接その光の剣に斬りつけられたわけでもないのに、周囲の光景もまた塵へと変わっていく。
ディフェンドの防壁もまた、容易に蒸発した。
火、水、風、土。全ての防壁があっさりと抜かれ、ジオウが光に呑まれ―――
「“
そのジオウの前にマシュの構える盾が現れた。
立香が背を支え、触れることでせめても魔力の供給力を高めようとする。
ステンノが託してくれた魔力を全て、彼女の中に注ぎこむ。
あるいは神性の魔力に盾の威力を増す力があるのか、そうしてくれたのか。
マシュは何とか神の剣の余波を受け止める。
光の中から弾き飛ばされたジオウが、その後ろに転がって変身が解除される。
アーマーも、ジオウ素体も。
軍神の放った光の余波は広がり続ける。
フラウロスを消し飛ばしてもなお収まらず、周囲一帯を消し飛ばすほどに。
――――城も、連合首都も、一瞬のうちに廃墟へと変わった。
開けた空間に変わったその場所で、アルテラがゆっくりと天を見上げる。
マルスの怒りを確認し―――そして、彼女は歩みを開始した。
首都ローマへ。
「私はただ、この文明を破壊する」
全宇宙753億人のレ/フファンの皆さん。
レフをレ/フに出来なくて申し訳ありませんでした。
多分次で終わるかな。