Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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その愛は一体“なに”を築くのか0064

 

 

 

「フォウ! フォーウ!」

 

「あっ、づッ……!」

 

頭を叩く小動物の足。

それに気付いて、気絶していた頭を起こす。

気絶か、あるいは機能停止か。彼女の体の都合上、それはよく分からないが。

とにかく意識を再起動させる。

 

目を開けて、思い出す。

ここはタイムマジーンの中で、圧倒的な攻撃に晒された直後だと。

すぐにマジーンに頭を振らせ、周囲の状況を把握しようとし―――

 

「何よ、これ……!?」

 

周囲には、何かだったものの残骸以外の何もかもが存在しなかった。

城の中にいた筈にも関わらず、既にそこには何も無かった。

連合ローマ首都であった場所は、瓦礫の散乱する一面の荒野と化していた。

 

「嘘、こんな……! こんなもの、もう英霊の領域ですら……!」

 

「それも、文明の生み出したものか」

 

タイムマジーンの中にさえ、その玲瓏な声が静かに響く。

ぎくりと体を竦ませながらマジーンをそちらへ振り向かせる。

 

銀色の髪、褐色の肌、白い装束。

そして三つの光で構成された神威の剣。

―――破壊の大王、アルテラがそこにいた。

 

「っ――――!」

 

咄嗟にマジーンの腕を持ち上げる。両腕に取り付けられたレーザー砲。

その攻撃を行使しようとして、

マジーンの内部に、盛大にエラー音が鳴り響き、赤い照明が明滅した。

 

「なにっ!?」

 

「フォッ!?」

 

()()()()()()()だ。

ライドウォッチから供給されるエネルギーがない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

機体内部に表示されたそれに、大きく顔を引き攣らせるオルガマリー。

いつの間にか頭部がブランクウォッチに変わっていたことに、気づいていなかった。

 

「その文明もまた、ローマ同様に粉砕する」

 

彼女の手の中で、光の剣が唸りを上げた。

まるで鞭のように撓り、光の刀身がマジーンに向かって殺到した。

マジーンの装甲を削り、そのまま後ろに吹き飛ばす一撃。

 

「っあ……!」

 

轟沈するタイムマジーン。

その内部のあらゆる計器がエラーを吐いて、機能が落ちていく。

赤い照明が明滅するその中で、オルガマリーもまた膝を落とした。

 

―――続けて、三色の光が大きく瞬いた。

赤、青、緑。その閃光とともに破壊の衝撃がマジーンを襲う。

 

「っ……!」

 

ギギギ、と鋼の呻きを上げながら、マジーンが腕で胴体を守ろうとする。

が、その緩慢な動作ではまるで間に合わない。

 

光の刀身がマジーンを直撃する、寸前。

その前に黒い灼熱が噴き上がった。

当然のように黒炎を突き破る光の刀身を、黒い旗と剣で受け止める姿。

その姿を認識したアルテラが、僅かに目端を持ち上げた。

 

マジーンの中でオルガマリーも顔を上げ、その姿に声を漏らす。

 

「ア、ヴェンジャー……」

 

「ちっ、ここにきてこれなんて……! どうしろってんだか……!!」

 

灼かれた黒い鎧から煙を噴きながら、オルタがそう吐き捨てる。

ロムルス、フラウロスとの戦いからアルテラの宝具の解放で、実質全員リタイアみたいなものだ。

余波とはいえ神の権能の盾になったジオウは変身解除され、既に一時的に戦闘不能。

更にその後の盾になったマシュももう立てまい。

それに再び限界まで魔力を注いだ立香も、彼女の魔力に支えられているジャンヌも清姫も。

彼女たちを後方からルーン魔術で更に援護していたクー・フーリンまでもだ。

荊軻とて限界だろう。

 

オルガマリーが無事で、比較的魔力に余裕があったオルタ。

実際に戦闘が可能なのは、もはや彼女くらいしか残っていない。

そして彼女では――――

 

「お前たちはここで滅びるのみ。選択の余地はない」

 

光の刀身が加速する。

鞭の如く撓り周囲一帯を削り取る、荒ぶるような攻勢。

それを必死に受け流しながら、オルタは舌打ちする。

 

彼女では、アルテラを倒せない。

 

 

 

 

天から光の柱が聳え立ち、そして全てが呑み込まれた。

そこで彼女の意識は途切れていた。

 

聞こえてくる、激化していく戦闘の音で彼女はぼんやりと目を覚ます。

ネロは開いた目が大きく空を映したことで、自分が仰向けに横たわっていることを知る。

 

「ここ、は………?」

 

全身が軋む。いっそ体が砕けているのではないか、と疑うような激痛。

彼女はようやっと体を起こして、そこに広がる光景を見た。

一面の瓦礫の山と化した連合ローマの姿。

―――神祖に与し、しかし彼女が愛するべきこの時代のもう一つのローマの残骸。

 

その中で戦う、アルテラとジャンヌ・オルタの姿。

いや、あれは戦いなどとは呼べまい。

アルテラが攻め立て、オルタが何とか逃げ回る蹂躙以外の何ものでもない。

 

オルタが大きく吹き飛ばされ、タイムマジーンに激突する。

その背後には、既に戦闘行動などできないだろうカルデアのメンバーが揃っていた。

 

「――――ッ! 行か、ねば……!

 ……そうとも。ローマを守るために余に力を貸してくれた友たち……!

 それもまた、余のローマ……! 守らずして、どうして皇帝が名乗れようか……!」

 

彼女はそうして再び剣を手にし、立ち上がる。

何度だって立ち上がる。

そうすると決め、皇帝となったのは彼女自身なのだから。

 

アルテラが光の剣を構え、それを突き出した瞬間に走り出す。

まだ彼女の体には、神祖から与えられた力が残っている。

否、今まで以上にその力が満ちている。

過去最速の疾走で、彼女はアルテラの元へと辿り着いた。

 

「はぁああああッ――――!!」

 

小さな反応を示したアルテラがしかし、その炎の斬撃を容易に受け止めた。

受け止めた後に彼女が、僅かに驚くように目を少し開く。

 

「英霊―――いや、人間か。神性を帯びているのは……マルス由来、か。

 どうあれ、人間に私は止められない。

 私は破壊。私は殺戮。私は蹂躙。我が身こそが文明の滅び、アルテラである限り」

 

「破壊、滅び……! それを貴様がローマにもたらそうと言うのなら、余は止める!

 止められぬなどと言われようが、絶対に止めてみせる!」

 

「不可能だ」

 

アルテラが片腕で構えた剣で、両腕に全力で握るネロの剣を弾き返す。

次いで、光の剣が返す刃で大きく撓り、鞭となってネロへと殺到した。

炎の剣で何とか受け止めるも、簡単に吹き飛ばされる。

瓦礫の山に突っ込んで止まるネロの体。

 

「ぐ、あっ……!」

 

「この場を破壊した後、ローマの文明を全て無に還す。

 貴様たちは先んじてこの場で滅び去るがいい」

 

そう言って、彼女が光の刀身を回転させ始めた。

三つの光が入り混じり、無数の色になって周囲に放出されていく。

それは先の放たれた衛星軌道上からの一撃には及ばない。

だがそれでも、この一帯を滅ぼすには十分な一撃に違いなかった。

 

「“軍神の(フォトン)―――」

 

一秒先に放たれる、文明を破壊する光の剣。

それを唇を噛み締めて見るしかないネロの前。

そこに、朱色の影がひょいと飛び出てきた。

 

「は―――?」

 

獣の手足で四足歩行するその何かが、見ての通り獣の俊敏さでもってアルテラに迫る。

和装の何かが自身に迫る様子に、アルテラが気づき―――

 

「しかしもう遅い。玉藻地獄、ワンだふるな動物園がお前を裁く!

 いざ、“燦々日光午睡宮酒池肉林(さんさんにっこうひるやすみしゅちにくりん)”―――!!

 うーん、散歩はお昼寝の後にしてもらおう。グッモーニン!」

 

迫る何かからもう何かとしか言えない動物のエネルギー的な何かが溢れ、アルテラを襲撃する。

ぎにゃー、と叫ぶ多分猫とかなんかそんな動物のヴィジョン。

唐突なよく分からない物体のエントリーに、アルテラが困惑しながらそれに呑まれた。

そのまま路上で丸まって眠り始める何か。

 

困惑しているのはネロもまた同じ。

その頭上、彼女の側の瓦礫の上から、彼女に向かって少女の声が大きく響き渡る。

 

「ライバルのピンチに颯爽登場! ええ、これぞライバルって感じじゃない!?

 まーたいきなり呼ばれて、どうしたものかと変なネコイヌと行動をともにしてた甲斐があったってものでしょう?

 そういえばここにきて思い出したような思い出してないような……あのネコイヌって性悪狐にそっくりじゃない!?

 それはそうと……ビビット&ブラッド! 鮮血魔譲、エリザベート=バートリー参上!!

 さあ、立ちなさいネロ! ライバルの前でこれ以上無様な姿を見せないでよね!!」

 

ビビットピンクの髪、その頭部から伸びる竜の角。

その手にはマイクスタンド代わりに手にした監獄城チェイテ。

アイドルとしてキめた衣装に身を包み、そのふわりと揺れるスカートの下から控えめに、同時にエロティックに竜の尾をちらつかせる。

 

音楽、アイドル、ついでに女優。

芸能界の人気を総なめにする予定のサーヴァント界の超新星トップアイドル。

エリザベート=バートリーがそこに降臨していた。

 

そんな彼女に、ネロが盛大に困惑する。

 

「ライ、バル……? その、どちらさまだ……?」

 

「え?」

 

「エリザベートよ。その赤いのは生前ゆえ、サーヴァントとしての記録など持ってなかろう。

 アタシも別にその赤いのと知り合いではないが。

 だがオリジナルの知り合いな気がする……ならば血祭りにあげるべきか……?

 いや、ならばまずはエリザベートから……?」

 

むにゃむにゃとエリザベートに問いに答えるための寝言を吐き始める。

きょとんとしたエリザがそちらを見ると、猫だか犬だかの手でくしくしと顔を撫でている。

直後、驚くように彼女が声を上げた。

 

「生ネロ!? デジマ!?」

 

「な、生……?」

 

長々と言葉を交わしていた彼女たちに、轟音が届く。

 

―――何かあれ、猫? っぽいエナジーがアルテラの光に引き裂かれていた。

吹き散らされる宝具の魔力に、ねむねむと顔を擦りながら何か猫っぽいのも立ち上がる。

とりあえず加勢なのだろうか、と。ネロも彼女たちに声をかけた。

 

「そ、そなたたちも加勢してくれる、という事でよいのか?」

 

「まあ、それでいいわよ。未来のライバルを奪われてたまるもんですか。

 っていうか、あっちの美味しそうな剣持ってるやつも見覚えあるようなないような」

 

「うむ。キャットの力が欲しいか……ならば報酬に活きの良いニンジンを頂こう。

 食材は活きが良ければ良いほど捌き甲斐があるというのがアタシの考えでな。

 しかしまあ、これは不味い。ニボシを忘れた」

 

キャットの表情が苦しげに歪む。

彼女の宝具を凌駕したアルテラは既に臨戦態勢であり、その剣を逆さに持っている。

つまりは――――神の剣の誘導を行うための姿勢というわけだ。

あれを防げるものなど、サーヴァントにはまずいないだろう。

元より、サーヴァントとしての枠を外れるようなルール違反の成果だ。

 

「――――火神現象(フレアエフェクト)。マルスとの接続を再開」

 

「また、あの光の柱を放つというのか……!?」

 

連合首都を消し飛ばすほどの一撃。

先程のものからは、神祖ロムルスが彼女を庇ってくれたのだろう。

次弾を防ぐ方法など、今この時代には何一つ存在しない。

 

ネロが瓦礫の中から何とか身を起こす。

背後で崩れ始めるその瓦礫の山。

山はガラガラと音を立てながら崩れ落ち、同時にネロの前にそれが落ちてきた。

 

ズドン、と重々しい音を立てて地面に突き立つそれ。

朱色の樹で出来た大槍。それは紛れもなく、

 

「―――神祖ロムルスの槍、なぜここに……」

 

キャットの表情が渋くなる。

既に消えた筈のサーヴァントの宝具が、通常は残るはずもない。

だが―――同時にこの槍はローマそのものを象徴する大樹。国造りの槍だ。

彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あるいは。

 

彼女の手が自然にその槍に伸びる。

触れた途端、彼女の背を誰かが押してくれるような気がした。

 

ますますキャットの目が細められる。

普通に考えれば、神性を託された程度の人間では保たない。

確かにアルテラを止めるならばそれくらいしか方法はないが……と。

 

「――――ああ、そうか。そうなのだな。余は……」

 

それを握ったネロの表情が一度だけ、大きく陰りを帯びる。

だがその次の瞬間、彼女は両の手でその槍を握りしめていた。

 

「ならば見よ、ローマを。文明を破壊すると言い放つ侵略者よ!

 “すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)”―――――!!!」

 

ネロの口から、ロムルスの宝具。その名が告げられた。

膨大な魔力がその地から解き放たれる。

最初にローマを造成した神域の宝具、国造りの大樹の槍が起動する。

 

彼女の前に突き立った樹槍。

その周囲に膨大な樹木が周囲を覆うように展開していく。

ネロたちを、カルデアの面々を、アルテラも、その中に取り込んでいく樹木の結界。

 

攻撃でなく、周囲を取り囲んでいくその樹木にアルテラも顔を顰める。

ほぼ一瞬のうちにドーム状に展開されるその樹に囲まれた空間。

 

「―――軍神よ、我を呪え。(ソラ)穿つ涙の星―――

 “涙の星、軍神の剣(ティアードロップ・フォトン・レイ)”――――!!」

 

そのドームごと焼き払う意志でもって、彼女はその剣を天に翳した。

だが、直後に気付く。

 

「マルスが――――こちらを見ていない……? いや、見えていない?」

 

剣を下ろし、ドームの天井を見上げる。

樹木で出来たただの天井。そんなものでマルスの視界を塞げるわけが……

いや、出来る。あれならば、出来る。

 

「――――ロムルスの槍。

 人を神代より卒業させ、人のための都市を築いた男の宝具。

 なるほど。その宝具で展開された()()であれば、神の視界さえ遮るのは道理か」

 

アルテラが顔を下に向ける。

ロムルスの槍を手にしたネロへ、その視線が向けられる。

人と神に線を引く宝具で乱舞する魔力に体を震わせる、弱々しい人間。

 

それでも彼女は立っていた。

槍から手を放し、彼女自身の燃える剣を手にしてアルテラの前に立ちはだかる。

 

「………ローマは、破壊させぬ。たとえそれが、貴様の望みであってもだ」

 

「望み? そんなものではない。ただ、文明の破壊こそが私の機能であるだけだ。

 私にとって破壊とは、貴様たちにとっての呼吸と同じものだ」

 

マルスに通信していた剣を下ろし、順手に持ち変える。

光の刀身が魔力に輝き、戦闘のための状態へ。

 

「――――そうか。ならば、余が止めよう。

 そしてアルテラ。お前に教えてやろう―――余のローマは、文明とは……

 決して、破壊できないものであると」

 

「破壊できないだと?」

 

ネロを睨みながら、しかし彼女は躍りかかってくるキャットに意識を割いた。

光の刀身が撓り、伸長しながら彼女を目指す。

人型でありながら軽やかに四足歩行をこなす彼女が、その攻撃を掻い潜り接近する。

 

「手加減している余裕なし。アルテラよ、頭脳戦でなくて命拾いしたワン!」

 

「なんだこいつは……」

 

獣の爪が奔る。それを軍神の剣で払い、軽く下がる。

その場に今度は、横合いから竜の尾が大上段から振り下ろされてきた。

弧を描く光の刀身でそれもまた切り払う。

盛大に焼ける音がして、エリザが尾を抑えながら跳んだ。

 

「あっつ!? あつっ!? 尻尾痛いぃ――――!?

 何よその剣、グミか何かなのそれ!? どうしてそんな曲がるのよ―――!?」

 

「この空気の読めなさ、キャットすらも開いた口が塞がらない案件である。

 やはり、適当にその辺で血祭りにあげておくべきだったのでは?」

 

外野の空気すらも切り裂いて、流星の如くネロが駆ける。

光の刀身を引き戻し、アルテラがそれを迎え撃つ。

光と炎が鬩ぎ合い、周囲に大熱量が放出されていく。

 

「――――どこまで神性に近づくか。とはいえ、その程度で私は止められない」

 

「……確かに、この力はローマの神より借り受けたもの。

 だが、そればかりではない」

 

「なに?」

 

互いの刀身が弾け合い、互いが一歩後ろに下がる。

待ち受けるアルテラ。二歩分加速して、その勢いで斬りかかるネロ。

再び光と炎の刀身が激突した。

 

「今の余を支えるのは―――お前の言う、人の文明だ!」

 

「……今の貴様が、人の文明などと語るか。

 もはやロムルスとマルスの神性に引きずられ、半歩以上踏み込んだ貴様が」

 

「そうとも―――!

 人が人のまま、人の身に余る力を行使する。それが可能なのは―――愛ゆえに、だ!」

 

光が弾ける。三色の光を、炎の明かりが染め上げる。

驚愕したアルテラが押し込まれた自分に困惑する。

振り抜いた刃を返し、ネロが再びアルテラに剣を向けた。

即座に立て直したアルテラもまた、光の刀身を再び突き出した。

 

「馬鹿な……! 私が……!?」

 

「人を見よ、アルテラ! 貴様が滅ぼすと言う文明を見渡してみよ!!

 余のローマを見よ―――!

 絵画に心血を注ぐ者がいる! 彫刻に命を吹き込む者がいる! 歌劇に魅せられた者がいる!

 ――――建築に、全てを懸ける者がいる!

 文明とは、人の生なのだ! この地に根付いた民の命の息吹なのだ―――!

 だから余は愛そう! ローマという命が育んだ文明を!

 絵画を愛そう! 絵画を愛する者を愛そう! 彫刻を愛そう! 彫刻を愛する者を愛そう!

 歌劇を愛そう! 歌劇を愛する者を愛そう! そして―――建築を愛そう!」

 

ネロとアルテラが幾度も衝突する。

それがさながら舞台の上での剣舞であるかのように、何度も何度も火花を散らす。

 

彼女たちが刃を交わす、木製のドーム。

この地がそれに呼応するように赤と黄金に色づいていく。

―――まるで、未来のローマ建築。ドムス・アウレアを再現するように。

 

過去・現在・未来。

全てのローマの建築の象徴であるロムルスの国造りの槍。

それに触れた瞬間、彼女には見えた。

未来―――彼女の手によって建築される、彼女の象徴たる黄金の劇場。

 

――――皇帝ネロと、その民の間に横たわる愛の乖離の象徴。

 

「見るがよい! 余の愛、余の傲慢、余の―――それでも、余の願いの象徴!!!

 “招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”――――――!!!」

 

樹木の天蓋が、黄金劇場へと変貌していた。

数え切れぬ薔薇の花びらが舞い、その中を華麗に飾る。

それを見たアルテラが盛大に顔を顰める。

 

「醜悪なまでの華美さ。これを見て、何を讃えろと言う」

 

「人のことをだ―――!! なるほど、貴様は清廉な戦士でもあるのだろう。

 この光景を醜悪と思うなら、それもまた良し!

 だから、余は言うぞ――――その醜悪さと、華麗さを積み上げたものが文明であるのだと!!

 ただ美しいだけの自然を切り拓き、人の文明を積み上げ都市とする―――!

 その中で芽吹いた、人の行為が寄り合って文化となる――――!!」

 

「醜い。そうとしか感じぬ――――!」

 

光を束ね、虹色の光彩を放つ剣がネロを撃つ。

赤剣で受け止めながらも、その衝撃にネロが大きく後退る。

大きく息を切らせながらネロは、アルテラを見つめた。

 

「そうか。でも、()は、そんな人間を愛して皇帝になったのだ。

 では、あとはこの世界(ローマ)を背負いし余と貴様に勝敗をつけるだけだ――――!」

 

彼女が彼女に残された全てを、その剣にくべる。

極大の炎を纏った剣を構え、彼女はアルテラと対峙する。

オルガマリー。立香。ソウゴ。マシュ。姉の方のジャンヌ。清姫。妹の方のジャンヌ。青いの。

彼女がここまで辿り着くため、尽力してくれた協力者たち。

スパルタクス。呂布。荊軻。彼女の軍に合流してくれた、サーヴァントたち。

カリギュラ。カエサル。アレキサンダー。ロムルス。彼女を導いてくれた、過去の為政者たち。

そして、ブーディカ。―――今また、アルテラ。

 

全て、全て、全て―――!

最後のこの一撃に、全てをくべる―――!

 

目前でアルテラがその光の刀身から圧倒的な輝光を放つ。

視界も、この黄金劇場の中をも満たす光の奔流。

前に突き出すように構えられた光の剣。

 

「貴様が文明の象徴だというのなら、貴様ごとその文明を粉砕する―――!」

 

「余が文明の象徴であるからこそ、貴様に余は砕けぬ―――!

 何故ならば―――――」

 

光が翼の如く、アルテラを中心に広がった。

爆発的な光の侵略。

その剣の名を、アルテラが吼えた。

 

「“軍神の剣(フォトン・レイ)”――――!!!」

 

全てを押し流し、無に帰す破壊の大王の侵略がネロを襲う。

炎の剣がそれを受け止める。

瞬く間に吹き散らされていく彼女の炎。

そのまま剣ごと圧し折られ、消し飛ばされそうな衝撃。

 

彼女という存在は、マルスとの接続がなくても圧倒的な破壊者として成立している。

ネロが神の加護を受けてなお、正面から打ち克てぬほど。

あるいは、神の加護だからこそ勝てぬのか。

 

「―――――っぐ!?」

 

「―――そんなとこで負けてんじゃないわよ!

 アンタ、将来のこのアタシのライバルだって自覚を持ちなさい―――!

 さあ、()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()!!」

 

いつの間にか、よりにもよって彼女が黄金劇場のステージの上に立っていた。

突然の巨大劇場に興奮しているのか、エリザは既に臨戦態勢だ。

スピーカー代わりのチェイテ城を背にしながら、彼女は()()()

 

アルテラが突然の衝撃に顔を歪める。

 

「なん、だ……音波かッ……!? くっ……!」

 

軋む頭。意識を直接揺らす、ソニックブレスの衝撃。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

揺らぐ破滅の光の突進を受けながら、ネロが少し呆れるように笑う。

 

「余より先に、奴めに文明の美しさを届けてしまったな……!

 うむ。流石は余の将来のライバル……! それもまた――――ローマである!!」

 

揺れ、薄くなった虹色の光を炎の剣が断ち切って、彼女の懐にネロの姿が飛び込む。

噴き上がる炎の剣を前に、体勢を立て直すべくアルテラが身をよじり―――

しかし、それより早くネロの刃がアルテラに届いていた。

 

「“童女謳う(ラウス・セント)―――――!!」

 

アルテラの胴を横に払う、炎の斬撃。

驚愕に染まるアルテラの顔。

そのまま虹色の光ごと斬り裂いて、炎の剣が下から切り上げるように縦に奔る。

 

華の帝政(クラウディウス)”ッ――――――!!!」

 

十字の剣撃に討たれたアルテラが、呆然としながら自身を見る。

霊核を切り裂かれた彼女の時間はそう長くない。

 

「なぜ……? 私、が……?」

 

彼女を前に、剣を地面に突き刺したネロが振り返る。

そのまま崩れ出した黄金の劇場の中で、大きく両腕を振り上げた。

 

「貴様に余が砕けぬ理由―――何故ならば。

 余は―――この世界(ローマ)が大好きだからだ――――!!!」

 

黄金劇場の消失、その外に広がる世界。

それを見れるか見れないか、というタイミングでアルテラの姿は消失した。

彼女の消滅を見送ったネロもまた、そのまま倒れ込む。

限界を超えた肉体が軋みを上げている。

そのまま意識を手放してしまいたい衝動に駆られながら、しかし何としても耐えてみせる。

この戦いの最後に、別れが待っているとは分かっていたのだから。

 

―――ロムルスの槍に触れ、ローマの歴史の中にある未来の自分の結末を見た。

それでも、彼女はこのまま愛するために生きるだろう。

 

それが、皇帝ネロ・クラウディウスなのだから。

 

 

 




 
愛は負けない。はっきり分かんだね。
実質エクステラ。あの中心にアルキメデスを投げ込め。

エリちゃん登場を一話分のオチにして次話に続く!
っていうのをやりたかったですけど、文量的な問題がね。
エリちゃんのオチ担当としての能力を十全に発揮させられなかった、構成の悪さを反省してます。
まるごしシンジくんが何でもするので許してください。

そして結局終わらない。ま、もう終わったようなもんだし多少はね。
 

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