Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「それで結局コレ、どういう状況だったの?」
歌っている最中にステージが崩れだし、彼女の歌は中断された。
そんなことで微妙に不機嫌さを醸し出すエリザが首を傾げる。
彼女はとりあえずネロを援護し、ついでに歌っただけで状況を何一つ把握していなかった。
「それも愛。これも愛。猫缶の半分には愛が詰まっていたのだ……」
キャットは遠い目で青空を見上げ、アルテラだった黄金の光を見送る。
ちらりと彼女がカルデア方面に目を向ければ死屍累々。
エリザベートのライブによってトドメを刺されたものたちが転がっていた。
これも愛。いわゆるラブライブ。もしくはアイカツ。
アイドルのアイは、愛情のアイだったのだ。
地面に突き立っていた国造りの槍も、その役目を終えて還っていく。
タイムマジーンの胴体が開き、その中からオルガマリーが落ちる。
べちゃりと地面に叩き付けられた彼女の上に、フォウもまた落ちて転がった。
くらくらする頭を抱えながら、彼女が身を起こす。
「どう、どうなった、の……」
「………まあ、何とかなった、みたいだな………」
魔力をギリギリまで充填していた槍を放り、ランサーも倒れ込む。
ソウゴもまた、最後の令呪を使う瞬間を図るために持ち上げていた頭を地面に突っ伏した。
ネロがアルテラの注意を引いてくれたおかげで、ランサーがある程度動けた。
彼はこの状況に至り、既に出し惜しみなどする気もなく、宝具の発動を選択していた。
ランサーが今一度投擲宝具を放てば、自身の霊基が砕ける事と引き換えになるだろう。
しかしそれを放ち終わるまでの一瞬を、力任せに押切ることで撃ち放つ―――
それさえ叶えば、彼自身が消失しても確実にアルテラを穿つのが魔槍ゲイ・ボルク。
令呪を備えたソウゴもまた、令呪のブーストでそれを突破させるために後押ししようとしていた。
マルスと接続する一瞬の隙に彼女の霊核を撃ち抜くために。
霊核を失ってしまえば、マルスへの接続や光剣の誘導は不可能となる。
それによる逆転以外に、彼らに選択肢はなかった―――
が、結果的にそうはならず、ネロがアルテラの撃破に漕ぎ着けたのだ。
それは良かったのだが、突然襲ってきた怪音波攻撃によってまた全員が深い傷を負った。
「体が痛いのか頭が痛いのか耳が痛いのか、よく分からなくなってきた……」
「あのドラ娘……」
清姫も地面に転がったまま、前特異点で組んでいた彼女を睨む。
しかし体力も魔力も何もかも足りず、睨むだけしか出来ない。
「……先輩、ご無事ですか……?」
「多分……マシュの声は聞こえてる、よ?」
へたりこんでいるマシュの背中に寄りかかる立香。
そのまま滑って地面に転がりそうな彼女を、ジャンヌの手が支える。
自分とマスターの体重を支えているジャンヌ。
その様子を見て、マジーンに寄りかかったオルタが胡乱げな視線を送った。
「何でまだアンタが立てるのよ……要塞か何かか、アンタは」
「これだけが取り柄ですので。オルタは立てないのですか?」
「……………立てるけど立たないだけよ。疲れたから」
白い方から目を逸らし、黙り込む黒い方。
そんな彼女に苦笑したジャンヌが、立香たちを抱えてタイムマジーンまで運ぶ。
背中をマジーンに預けられるようにその近くに彼女たちを座らせるジャンヌ。
ジャンヌは立香たちをそちらに置くと、そのまま倒れたネロの方へと近づいていった。
『………え……! 聞………るか…! 返事を……くれ! 誰か応答を!』
「あ、通信……」
軍神の剣に引き裂かれた空間で、完全に途絶した通信。
世界の状況が落ち着いてきたのか、その通信が復調しつつあった。
通信機をオルガマリーがオープンにする。
そうすると、ロマニの姿が空中に投影され始めた。
『通じた! 無事……ではなさそうだけど、勝った……んだよね?』
「見ての通りよ……」
少なくともあの攻撃以後、欠けているメンバーはいない。
今にも消えそうになりながら、最後に酒飲みたいなーとぼやいてる荊軻は危ういが。
ジャンヌがネロに肩を貸しながらこちらに歩いてくる。
それと一緒に、いつの間にか増えたエリザとキャットもついてきていた。
「なに、え? そんなに大ピンチだったの?
………ごめんなさい、アタシがもう少し早く駆けつけていれば応援の歌をもっと早く……!」
ぶぉう、と炎の息吹がエリザを襲った。
今の弱々しいブレスに殺傷力などないが、エリザはそれをぱたぱた払いながら跳び上がった。
火を噴きかけ終えた清姫が、死んだ目をしながら扇子で口を覆い隠す。
「あついっ、あつっ……! ちょ、何するのよアンタ!?」
「別に……」
すい、と目を逸らしてしまう清姫。
焼かれるドラゴン娘を前にして、キャットが深々と肯いた。
「うむ。ドラゴンを調理するならしっかり火を通すべし。生焼けでは腹を壊すゆえな。
バッチリウェルダンで提供するのがシェフの心意気。
キャット驚くドラゴンステーキを作ってみせよう、しかし食材的には犬の餌……?
だがアタシは妥協しない。好奇心は猫を殺すが、克己心こそ狐を活かす。
たとえ犬猫の餌になろうとも、料理の手を抜くようなことはナッシング。
地獄のお宿の閻魔様に、魂を
「なんでアタシに爪を向けてるの、アンタ……?」
シャキーン、と自前の包丁を立てるキャットに、一歩後退るエリザ。
背景で発生する謎のやり取りをスルーしつつ、ネロもこちらへ合流する。
満身創痍は誰も同じだ。
新たに合流したエリザとキャットは、まだ戯れる余裕を持っているようだが。
「勝利の勝鬨―――と言いたいが、この有様でそれは叶うまいな」
「勝鬨もいいけど、勝利の美酒が欲しいところだなぁ」
ほぅ、と大きな溜め息。いい加減に体を保つのも億劫になってきたのか。
荊軻がぼんやりと空を見上げながら、そうのたまった。
苦笑したネロが、それに言葉を返す。
「―――せっかくならば、余もそなたたちに溺れるほどの酒を浴びせてやりたいが、な」
「いいなぁ、溺れるほどの酒。まあ、その気持ちだけ受け取っとくか」
ははは、と荊軻はしょうがないので笑い飛ばす。
そうしてふと、ネロがその表情を曇らせた。
カルデアの面々を見渡して、困ったように笑おうとするネロ。
「―――――そうだ。
今思い出したぞ、余はそなたたちにとびっきりの褒賞を約束していたではないか。
だというのに、何も渡せずでは……あまりに、皇帝として情けない、な」
「貰ってるよ、みんな。助けた分以上に、ネロは俺たちを助けてくれたじゃん」
ソウゴの言葉にやはり困ったようにするネロ。
彼女は少し無理をしていると感じるくらいに、ぎこちなく微笑んだ。
「そう、か……そう、であるか……そうであったなら、余も嬉しい」
「それよか、聖杯はどこ行ったんだ?
あのフラウロスとか名乗ってた奴が持ってたんじゃねぇのか?
それともあっちのアルテラか?」
軽い口調で話題を変えるランサー。
その視線が周囲を見渡すが、瓦礫の山しか見当たらない。
「そうね……ロマニ、周囲に聖杯らしき反応は?」
『うーん……通信は回復したけれど……
こちらから観測する限り、周辺は依然として闇鍋状態にしか……
そちらの神威が薄れるまで、もう少し時間が……』
通信先で慌ただしく動いている様子が伝わってくる。
ダ・ヴィンチちゃんの姿はないようだが、一体この修羅場で何をやっていたのだろうか。
はぁ、と溜め息一つ。
オルガマリーが立ち上がる。言うまでもなく、彼女の疲労はこの中では一番マシだろう。
「仕方ないわ、自分の足で探しましょう……貴女たちは休んでいなさい。
――――そちらのサーヴァントたちも手伝ってくれる、のかしら?」
じゃれあっていたエリザとキャットに声をかける。
そのうち本当に殺し合いに発展しそうな二人の取っ組み合いが止まった。
「うむ、よかろう。
キャットとてこのままエリザベートと同類と思われたままでは、狩猟犬の名折れ。
探し物ならアタシの鼻に任せるがいい」
「はぁ!? アンタと一緒にされて名前が折れるのはアタシの方でしょ!?
トップアイドルサーヴァントなら、探し物くらい一発よ!」
何を争っているんだこいつらは、と。オルガマリーが嫌そうな顔をする。
エリザベートはそのまますぐさま翼を広げ、大きく空に羽ばたいていた。
「空から探せばなんだろうとラクショーよ!
見てなさい、ちょちょいと見つけてあげるんだから!」
対するキャットは、普通に起き上がると着物をぱたぱたと肉球で叩く。
その後に懐から呪符を一枚取り出してみせた。
呪符が炎を灯し、勝手にゆらりゆらりと何処かへ向けて飛んでいく。
「………それは」
「? 物探しのための呪いだが。
近場の探し物程度ならオリジナルには程遠いキャット呪術でも、らくらくダウジングなのだな」
ふよふよ漂う呪符を追いかけ始めるキャット。
オルガマリーもそれに追従する。
念の為に、と。ジャンヌが彼女の後ろについてきてくれる。
「その、鼻は……?」
「うむ。つい言ってみたはいいが、探す物の匂いを知らぬゆえに探せぬ。
削り節の薫りしか知らぬキャットの不明を許せ」
「そう……いえ、探し当ててくれるなら普通にありがたいのだけど……」
空を飛びまわるエリザベートを見上げ、どうしたものかとオルガマリーは思考して―――
もうどうでもいいや、と完全に思考を放棄した。
飛行するエリザベート。
そもそも彼女は大前提として何を探しているのかも知らない。
聖杯という名は聞いていても、それがどういうものかはよく分かっていない。
数分たっぷり飛行してから、彼女はやっとその事実を思い出した。
「アタシ、何探してるんだっけ……?」
その疑問に辿り着き、瓦礫の山の上に着地する。
とりあえずそれっぽい何かを探そうと辺りを見回して―――
瓦礫の小山の上、何かがきらりと輝いたのを彼女は目敏く見つけ出した。
「見っけ!」
即座に空飛び駆けつけた。
着地と同時にその輝く何かを拾い上げる。
「あら、綺麗……」
それは輝く黄金の欠片だった。
曲線を描く―――まるで、欠けた杯の一部であるかのような形状。
ほう、とその輝きに感動してそれを見つめていると、それはくにゃりと丸まってしまった。
エリザの手の中で黄金の球体と化してしまう、黄金の欠片。
あれ、と思ったがまあいい。とにかくこれで、先に見つけた自分の勝ち―――
「あったわ!」
オルガマリーの声に、ぎょっとして振り返る。
此処掘れわんわん、タマモキャットの導き。
瓦礫を掘り起こしていたキャットの手の中に、黄金の杯が握られていた。
あっちの方がでかい。本物っぽい。
オルガマリーの手に渡された聖杯は、杯から水晶体に変化する。
彼女はそれを手にしたまま、それを格納する役割を持つマシュへと走っていく。
「うっそ、じゃあこっち偽物……!」
むぐぐ、と自分の手に残された黄金の球体を見る。
騙された、と捨ててしまおうかとして―――
「でも、なんかこう、これ、キャンディーみたいで美味しそうじゃない……?」
黄金の球体をじい、と見つめる。
この上品な輝きを見ていると、何となくこれが甘そうな気がしてくる。
ごくり、と唾をのむ。
偽物で、要らないなら、別にいいわよね。と、彼女はそれを口の中に運び入れ―――
「……別に甘くないわね、がっかり」
ごっくんとあっさりそれを呑み込んだ。
ちぇー、と舌打ち。飴っぽいのは甘くないし、探し物には負けるし散々である。
ばさりと大きく翼を広げ、彼女も皆が集まっている場所に帰還する。
彼女が元の場所に戻れば、その頃には既にこの時代の異物の強制退去が始まっていた。
「――――そうか、消えるか。だが、うむ、泣いてでも引き留めたいと思っているが……
余も皇帝だ、そこはぐっと我慢して見送りに徹することとしよう。
ああ、余は皇帝なのだからな……」
涙を堪えながら、消えていくカルデアの面々を見渡すネロ。
荊軻にエリザベート、タマモキャットも退去が開始されていた。
「光栄ではありますが、我らには使命があります」
「分かっているとも。あのような魔術師が、世界を滅ぼそうとしているというのだろう。
ならば、余にそなたたちを引き留めるようなことはできぬ。
これより先の
深々と頭を下げるオルガマリー。
そのまま口を引き結び、彼らを見送ることに徹するネロ。
そんな彼女に対し、オルガマリーが再び声をかける。
「聖杯を回収し、この時代の聖杯戦争は決着を見ました。
我らという異物の消失を理解した世界は、そこに残った異常への修正を行うでしょう。
我らが消えて、ある程度時間が経てば……この戦いの痕跡は、記憶も含めて消失することと。
貴女を今悩ませる記憶もまた、知らなかったことに」
「それは………確かに心苦しさは晴れる、と言いたいが。そうか、全てか………
そなたたちのことも、余に託してくれた先帝たちのことも、全て余は失ってしまうのか……
我儘など言えぬがしかし……それは、とても寂しい事だな……」
小さく呟く彼女に、ソウゴは笑う。
「ネロなら大丈夫だよ。ネロは、自分で王様になることを選んだ人だから。
何を忘れても。何を失っても。何度だって、きっと未来で自分の力で同じ答えに辿り着く。
他の皇帝たちだって、それを信じてくれたから、今を託してくれたってことでしょ?」
ソウゴの言葉にネロが、苦笑した。
彼らの退去はもう彼らの体の半分を光に変えていた。
もはやネロが何を言っても止まらない光景に違いがない。
引き留めるように駄々をこねるのは、もう何とか我慢する。
最後に送る言葉は、せめて彼らへの激励であるように。
「――――うむ。……そうだな、余が折れている暇はない。
では、うむ。そなたたちを、ローマ皇帝である余の近衛の任から解こう。
よくやってくれた。そして、よくこの国に尽くしてくれた。
これから先、そなたらの戦いは続くだろう。その戦いもまたローマを守ることに通ず。
余に託した先帝たちの如く、余はそなたたちを信じ、託そう。
そしてまた、いつの日か余とともに――――」
彼女が言葉を終える前に、彼らの姿はこの世界から消失していた。
姿を消した彼らのことをいつ忘れるか分からない。
けれど、世界が続けばいずれまた会えてもおかしくはないだろう。
そう思う事にして、彼女は廃墟の中を歩み始めた。
連合首都近郊に待機させている自軍の被害状況を確認せねばならない。
まさか―――
正しく神威であろう。
昨今、多くの市民がブリタニアに次ぐようにネロに対して叛逆を起こしていた。
だがこの件で、ローマ皇帝ネロに刃向えば、神威によって裁かれると知れ渡るに違いない。
これからのローマは彼女を皇帝として戴き、繁栄の道を――――
「む……?」
何かがおかしい。何かが、おかしい気がする。
今まさに自分が見聞しているはずの街の惨状。自分で見ているものを間違うはずがないのに。
間違えている? 忘れている?
ついさっきまであったはずの何かが、丸ごと消え失せたような感覚だった。
「余は―――何を、忘れたのだ?」
ふと、空を見上げる。
彼女の知る空には無いはずの、光の帯が空を横断しているさまが見えた。
レイシフトから帰還し、身を起こしてコフィンから出てくるメンバー。
そんな彼らを迎えたのは、背中にでかい箱を背負ったダ・ヴィンチちゃんであった。
その箱からは機械のアームが四本飛び出ていた。
「はーい、おかえりー」
ぐいんぐいんと、レイシフトから帰還した彼らをロボットハンドが捕まえる。
そのままぽいぽいと後ろのマットの上に投げ込まれていく皆。
ダ・ヴィンチちゃんが背負ったでかい箱から伸びるそれは、絶好調で稼働していた。
メンバーをどかしたかと思えば、次はコフィンまでも移動させていくロボットハンド。
あっという間に端に追いやられていくクラインコフィン。
「いきなりなに?」
「ちょっと、ダ・ヴィンチ。勝手な真似は……」
「まあまあ。あと5秒、3、2、はーい総員ショック態勢」
疑問の声をスルーして、そのまま作業を続けるダ・ヴィンチちゃん。
きょとんとしている彼らの前で、彼女を身を屈めてショック態勢とやらに入る。
直後、凄まじい轟音がカルデア管制室に響き渡った。
とんでもない音ではあったが、エリザの歌より大したことはない。
びっくりするだけのレイシフト帰還組。
ダ・ヴィンチちゃんが強制的に皆をどかしたスペースに、巨大なロボットが転がっていた。
タイムマジーンである。
「あ、これもきたんだ」
「置く場所に困るね」
立香が周囲を見回してから、改めて管制室のど真ん中に転がるマジーンを見る。
下敷きのマットの上でそれを眺め、立香とソウゴは目を見合わせた。
カルデア内部にあれを置けるスペースあるんだろうか。
「置き場所が無い事はないけど、そこに運びこめるサイズじゃない。
通路や入口のドアには限りがあるからね。と、言うわけで」
ひょい、としゃがんだダ・ヴィンチちゃんがソウゴからライドウォッチを掠め取る。
彼女の手の中には、ウィザードのウォッチが握られていた。
そのままにこりと笑った彼女は、ソウゴの襟首を捕まえて彼を引きずっていく。
「あのマシン用のガレージを用意していたとも。じゃあ、すぐにでも転移させてもらおうかな?
そして色々、直接私の手で触らせてもらおうか」
「いいけどー」
ずるずると引き摺られていくソウゴ。
呆れるようにそれを見送ったロマニが、他のメンバーを見る。
ロムルスやレフとの決戦直後だ。
まずは休息を与えるべく、彼は皆を見回してから朗らかに顔を緩めた。
「おかえり、そしてお疲れ様。第二特異点、聖杯の回収はこれで完了だ。
あっと、レオナルド! 工房に行くなら聖杯も持って行ってくれ!」
「おっと。そうだね」
ぱっとソウゴを手放すダ・ヴィンチちゃん。
解放されたソウゴも立ち上がり、やれやれと首を振った。
一度戻ってきた彼女に、盾を差し出してみせるマシュ。
彼女の盾には、物質を超越した存在である聖杯を収納するためのスペースがある。
ダ・ヴィンチちゃんが取り付けたものだ。
彼女はそこから聖杯を排出すると、ダ・ヴィンチちゃんへと差し出した。
そうしてそれを受け取ったダ・ヴィンチちゃんの表情が変わる。
目を前でその表情を見て、マシュが困惑して声をあげた。
「? ダ・ヴィンチちゃん、どうかしましたか……?」
自身の作った手甲の宝具で水晶体に触れるダ・ヴィンチちゃん。
その顔が見る見るうちに渋くなっていく。
「………不安定だね、この聖杯。
聖杯はその性質的に危険物ではあるが、本来、高次元で安定した存在だ。
聖杯に影響されて周囲が不安定になることはあっても、聖杯自体が不安定になるなんて……
まず有り得ない事だと思うけれど……マシュ、これは一度盾に戻して」
聖杯の回収、という点においてマシュの盾に勝るものはない。
たとえ不安定な聖杯だったとして、ほぼ完璧な封印処理が可能だろう。
言われた通りに盾の中に聖杯を戻すマシュ。
「ローマの特異点を形成した実績から、聖杯としてのその性能に疑いはない。
となれば、特異点で途中から不安定になったと考えるのが妥当だろう。
まあ、これを所持していたレフが、神の権能に裁かれた影響と見るのが一番それらしいかな」
それを聞いていたロマニが、カルデアスを見上げる。
修正が開始されたローマ特異点は、まだ正しい状態が観測できていない。
難しい顔でマシュの盾へと視線を送るロマニ。
「つまり、アルテラの宝具によって……聖杯が
だとするなら、その欠片はまだローマにあるということに……」
「消滅するとは考えにくいし、そういった反応も観測出来ていない。
そう見るべきだろうね。まあ、どちらにせよ第二特異点の変動が落ち着いてからだ。
第三特異点の前に、もう一度ローマにレイシフトしてもらうことになるかもしれないね。
仮にローマに聖杯の欠片が残っているなら、またローマが特異点になってしまうから」
肩を竦めながら、そういうダ・ヴィンチちゃん。
「―――また、ローマが特異点に?」
難しい顔でその言葉を鸚鵡返しする立香。
それに一度肯いて、しかしダ・ヴィンチちゃんは軽い口調で補足する。
「聖杯の一部とはいえ、欠片ではそれほど大きな特異点にはならないさ。多分。
まあどっちにしろ、考えるのはカルデアスの安定後。
シバによる観測が可能になってからでいいさ。さて、では行こうかソウゴくん。
あ、不安定な聖杯がいれられるようなケージも作っておくから、マシュは明日……いや明後日の昼過ぎごろに私の工房に武装したままきてね。
今回分の聖晶石もその頃にはある程度結晶化が終わってるだろうし」
いっそ鼻歌でも歌いそうな勢いで、彼女はソウゴを引き摺りながら行ってしまった。
歩き去っていくその背中をじっとりと見つめるオルガマリーのことも気にしない。
はぁ、と大きく溜め息を落とすロマニ。
「随分と機嫌がいいわね、あいつ」
やたら嫌そうにオルタがダ・ヴィンチちゃんが歩き去った通路を見る。
ジャンヌから見ると、未知である興味を引く物体を前にした反応というだけだ。
似たような表情を見たことある、ということで。
そんなオルタに、ジャンヌは親切心から彼女に教えてみせた。
「オルタがソウゴくんのバイクを見ている時も、ああいう物欲しそうな顔をしていましたよ?」
などと、言われたオルタが酷く表情を引き攣らせる。
即座に彼女は首を横に振った。
「してないわよ」
「してましたよ? オルタはロボット、というのには興味ないんですか?」
「ないわよ。バイクにもない。あんな顔したことない」
事実をそうとして語るジャンヌに、それをむきになって否定するオルタ。
「あの………それ以上はその、ここでは………」
申し訳なさそうに、そんなジャンヌ同士の会話に割り込むマシュ。
彼女の横では、立香がフシューと唸る清姫を抑え込んでいた。
今にでもオルタに飛び掛かり燃やしてやる、という信念を感じる。
どうどう、と暴れ牛のような扱いを受ける清姫が、立香に何とか鎮められていく。
やっぱり嘘なんじゃないですか、とむくれてみせるジャンヌ。
うざいと思ってオルタは舌打ちした。
そんな彼女たちを横目にしながら、ランサーがロマニに歩み寄る。
潜めるというほどに声を絞っているわけではないが、それでも小さい声で。
「んで、ドクターよ。ちと相談があるんだが」
「………霊基のこと、だね。流石に罅割れた霊基の修復、となると……
まあ、レオナルドに頼るしかない。
悪化することはあっても、自然回復するようなものでもないから早く対処したいが」
「今の状況なら再召喚もありだと思うがな」
軽く肩を竦めながらそんなことをいうランサー。
つまり一度今の霊基を放棄するという、サーヴァントの自殺みたいな話だが……
それに対して、ロマニは神妙に肯いた。
「……まあ、最悪そうせざるを得ないだろうね。
フェイトには君の霊基グラフは登録され、前召喚時から記憶は連続すると証明されてる。
魔力資源にさえ目を瞑れば、一番早い復帰手段はそれだと思う。
もっとも、今はその魔力資源が有限かつ枯渇している状況だ。
それを避けて復帰が叶うのなら、それに越したことはないだろうさ。
申し訳ないけれど、一度保留にしておいてほしい」
「どうせ別に戦闘以外に支障はねぇ。
まあ、次のレイシフトまでにどうにかする方法に目処がついてりゃいいさ。
最悪再召喚でも構わねぇことだしな」
さほど気にした風でもなく、ランサーは肩を竦める。
そんな彼の様子を見て、ロマニは芽生えた疑問を口にした。
「……ところで、アルテラの宝具が解放され、君たちが実質的に壊滅した時――――
もしもの時は、自身と引き換えに君が宝具を使用してアルテラを倒そうとしていたんだよね?
因果を歪める君の宝具は、放ちさえすれば君が消滅しても結果を出す。
いや、発動した以上は結果を出した、という答えを成立させるから。
その結果、君が消滅するだろうことは分かっていたんだろうけど、ソウゴくんは……」
「俺が消滅しても再召喚できることを知ってたかって?
お前らが説明してねえなら知らねえだろ。ただ分かってるだけさ、サーヴァントの使い方を。
俺がそんな事程度で怖気づくような奴なら、最初から英霊になんぞになってねぇってな」
肩を竦めて歩き出すランサー。
困ったようにその背を見つめるロマニが、ふとオルガマリーに視線を移した。
ジャンヌがまだ管制室で横倒しになっているマジーンを指さしている。
そのまま、興味津々といった様子でオルガマリーに尋ねた。
「オルガマリー、あのロボットを動かす感じはどうでしたか?」
「どうと訊かれてもね……そんなに難しい、とは思わなかったけれど。
操縦者の思考で、ある程度の操作誘導も出来るみたいだし……」
「フォ、フォウ!」
あんなオーバーテクノロジーに触れろと言われても困る、と。
困惑しながら説明しようとするオルガマリー。
フォウもまたあれはなかなかだったな、と言わんばかりに頭を揺する。
「へぇ、ダ・ヴィンチちゃんの調査が終わったら私も乗せてもらおっかな。
マシュも一緒にどう?」
「まあ、マスター! わたくしもご一緒させて戴きます!
ええ、密室に二人きり! 密室に二人きりで!」
「え、あ、はい……清姫さんからの護衛は、はい。わたしがきっちり果たします」
マジーンの周囲でがやがや騒ぎ始めたメンバー。
それを微妙に遠巻きからオルタがぐぬぬと見つめる。
そんな光景を前に、小さく微笑んでロマニは踵を返した。
手元の資料を確認しながら、彼は管制室の人員に指示を飛ばすべく頭を働かせる。
「さて。まずはオルガマリーも含めて健康チェックのスケジュールを詰めて……
ええと、管制室の人員のシフトを調整して……
優先なのは第二特異点の確認。聖杯の欠片の存在の特定、と……
第三特異点の観測・特定はその後に回して……
ああ、今回サルベージできるリソースの目算もレオナルドに出してもらわないと。
使用した令呪は五画だから……あ、と」
様々考えながら歩いていると、階段に蹴躓いて手元の紙資料をぶちまけてしまった。
拾い集めるのを手伝ってくれようとする職員たちを止める。
そのまま自分で拾い集めようと、しゃがみ下に手を伸ばして―――
―――手袋に包まれた自分の手が目に映る。
「――――フラウロス………
まさか、いや………たとえ、そうだとしても、きっと――――」
彼の手が、今を戦う人間のために纏めた資料を掴む。
今はこれこそが、彼の戦いなのだから。
そんな彼を、カルデア管制室の入り口に背を預けた男が見ていた。
軽く微笑んだ彼は、その手の中にある一冊の本を開く。
その本の名は“逢魔降臨歴”
時の王者オーマジオウを記した、歴史への祝福の書。
本の頁をいくつか捲り、彼は―――ウォズは、語り始める。
「かくして、我が魔王はドライブの力を得て第二の特異点、ローマでの戦いを終えた。
だが次なる特異点、次なるレジェンドの力との邂逅は、またすぐに訪れるだろう。
仮面ライダージオウ、常磐ソウゴ―――
彼の戦いはまだ、始まったばかりなのだから」
バタリ、と。彼の手の中で逢魔降臨歴が閉じられた。
その瞬間、カルデアの中からウォズの姿は完全に消失していた。
聖杯の欠片にキャンディー美味しそう食べたいと願ってチェイテをハロウィン三部作にする女。
聖杯で飯? うどん? 素人め、聖杯もレガリアも拾ったものを生で食え。
それはそれとして二章セプテム、ドライブ編完結です。
セプテムは1から10までネロの話だったので、その点で難しかったような気がします。
敵サーヴァントも基本ネロのためなので、レオニダスくらいしかフリーな奴いなかったですし。
これからFGO一部原作沿いを書いてやるぜー!という人がいて、ネロ以外を活躍させたいぜー!と思ってるなら、最初から敵サーヴァントを増やした方が楽かもしれませんね。
レフのせいにすれば幾らでも増やせると思います。おのれレフ。
自分で読み直すと行き当たりばったりばかりで笑えますが、まあ何とか走り切れたのでよしとしましょう。
オツカーレ。
最後に、一つだけ伝えないと。シロウ―――――この章のテーマは愛です。