Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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光と闇の果てしないEndless Battle。
加熱したボックスガチャは、ついに危険な領域へと突入する。
世界征服を企むショッカーの魔の手は、ボックスガチャにまで伸ばされた。
次回、仮面ライダーバールクス。
『ボックスガチャからスキル石が消えた!? 代わりに入れられたモニュとピース!!』
ぶっちぎるぜぇ。
 


interlude
1-1 ローマより来るもの2015


 

 

 

ローマの特異点での戦いを終え、カルデアに帰還したわたしたち。

長かった戦いの疲れを癒すため、すぐに皆さんお休みになられました。

もちろん、わたしも。

 

その間にも交代しながら、途絶えることなく動き続けるカルデアスタッフの皆さん。

第三特異点の特定、及び第二特異点で回収した聖杯の欠片の探索作業。

未だ特異点捕捉の連絡はありません。

ですが、遠くないうちにきっと新たな戦いが始まることと思います。

 

ダ・ヴィンチちゃんは「これは仕事ではなく趣味側の話」と公言して憚らない、ソウゴさんのタイムマジーンの解析。その作業の片手間ながら、特異点から回収したリソースを結晶化して、聖晶石にする事は忘れていませんでした。

下手したら忘れてしまっているのでは、と疑ってしまった自分に反省です。

 

そして先日、その聖晶石を用いた先輩とソウゴさんによるサーヴァント召喚を行いました。

今回行った召喚は四回。前回より大きく増えたのは、特異点からのリソース回収に関してノウハウが増えた事による効率化、が原因だったそうで。

まだ三度目だというのに、流石はダ・ヴィンチちゃんです。

 

それで、召喚はそれぞれ二回ずつ……という事になりました。

そこで所長がダ・ヴィンチちゃんに訊いたのです。どうにかして、所長の魔術師としての性能を活かせる方向性の契約方法はないか、と。

ダ・ヴィンチちゃんは「ないよそんなの」と、一瞬で切り捨ててしまいましたが……あの時の所長の顔は、筆舌にし難いものでした。

ですが、そんな方法があれば最初からやっている、というダ・ヴィンチちゃんの意見はまさしくその通りで、所長も黙り込んでしまいました。

 

先輩もソウゴさんも基本方針や特異点の関わり方を所長に丸投げ、

もとい。全て任せるほどに信頼されているので、そこまで思い詰める必要はないと思うのですが。

ドクターやダ・ヴィンチちゃんに所長に関することを相談しても、わたしから言われても多分意固地になるのでとりあえず経過を見守るように、と言われてしまいました。

少なくとも所長のサーヴァントであるオルタさんとは関係良好のようだし、時間が解決してくれるだろうとも。

 

ええと、そうでした。

それで新たなサーヴァントを召喚した、という話です。

基本的にわたしを除き、レイシフトできるサーヴァントは最大五名。

なので、四騎増えても全員を戦力とすることは不可能。

という話で、カルデアの運営に携われるダ・ヴィンチちゃんのようなサーヴァントもできれば召喚したい、と。なんと所長の方から提案をされたのでした。

技術者。あるいは優れた魔術師。正直、今までの特異点でのそのような条件を満たせるサーヴァントと出会った記憶もなかったのですが……

 

とにかくまずは先輩が、そのような方針で召喚を行ったのです。

 

 

 

 

イライラとした足取りで、オルガマリーはカルデア内を巡る。

彼女の後ろからついてくる、新たにカルデアに召喚されたサーヴァントの案内だ。

キャスターのサーヴァント。かつ現代魔術の使い手。

そんな求めていた条件にそれなりに当てはまる、驚愕のサーヴァントだった。

 

「………それで、ここが管制室よ。貴方たちは、ここからレイシフトすることになる」

 

「なるほど。これはまた……アニムスフィアがこれほどのものを計画していたとは、な。

 まあ、私の知る時間で行われていたという記憶はないし、まして私の知る限りマリスビリーは存命だったが」

 

「そう」

 

オルガマリーの声が一段低くなったのを聞き、失言だったと詫びる男。

ローマの特異点において、アレキサンダーの軍師を務めていたサーヴァント。

諸葛孔明。それこそが彼の霊基の銘である。

 

「無論、極力は協力するとも。

 元よりこの神仙が如き霊基も、そういった契約で貸し与えられたものだ」

 

「………その割には、前回の特異点では人理焼却側についていたようだけど。

 野良のサーヴァントとして呼ばれていた、と。女神ステンノは言っていたわよ」

 

長髪の大男である彼を睨み据えるオルガマリーの視線。

バツが悪そうに視線を逸らした彼は、言い訳がましく口を動かす。

 

「………それはまあ、なんだ。

 あの特異点という戦場を俯瞰した結果、最善の手を打ったまでの話でだな……」

 

「なぜ目を逸らすのですか、ロード・エルメロイ?」

 

どんどん吊り上っていく彼女の目。

それに睨まれながら彼は、ぼそりと小さくその言葉に補足をつけた。

 

「……二世をつけてくれ、レディ・アニムスフィア」

 

苦し紛れにそう言って、ロード・エルメロイ二世は彼女から顔を背けた。

 

 

 

 

召喚に応じて下さったのはサーヴァント・キャスター、諸葛孔明さんでした。

ですがご本人、というわけではないらしいのです。

諸葛孔明はこの問題に対し、現代という環境に即した人間に霊基を譲渡し、その人間を疑似サーヴァント化することで参戦した、とのことでした。

選ばれた人間は、ロード・エルメロイ二世さん。なんと、所長のお知り合いだったのです。

 

もっとも、所長が知っているのはそのロード・エルメロイ二世さんとは別の、ロード・エルメロイ二世さんなのだそうですが。

彼はローマの特異点でも参戦していたそうで、なんとあのレオニダス王の戦場を整える采配は彼の仕業だったそうです。

味方となってくれるなら心強いですが、所長にはとても睨まれていました。

 

続けて新たなサーヴァントを召喚したのは、ソウゴさんです。

ランサーさんが前特異点での戦闘で不調らしく、再召喚も考えている。

そんな話が所長の方からもありましたが、ソウゴさんもランサーさんも特に気にしていないようでした。あの二人の……なんというのでしょうか、ウマが合っている、とか?

口に出さずとも互いに了解しあっているような様子は、サーヴァントとして是非見習いたいところです。

 

そんなソウゴさんが召喚したのは――――

 

 

 

 

「あれ、意外だね。こういう場所にくるタイプだとは思ってなかった」

 

煽りを受けて、入室してきた奴に対して睨みを利かす。

そのついでに目の前のノートを閉じて、その上に本を置く。

彼はそれを気にもせずにそのまま部屋に踏み込み、本棚へと向かっていった。

書庫にくるのだから当然それが目的だったんだろうが。

 

「……なに? 詩でも探しにきたの?」

 

「いや? 書庫がある、と聞いたから色々見て回ろうと思ってね。

 けど、想像以上だな。知識としては知っているけど、この蔵書量を見るとやっぱり驚きだ。

 文字を学ばなくても読めるだけの知識が与えられるサーヴァントの身に感謝だ」

 

そう言って赤毛の少年王。アレキサンダーは瞳を輝かせた。

とりあえず特に理由はないが舌打ちするオルタ。

 

「………ここの蔵書の内容は大分偏ってるけどね」

 

「つまり、ここに書庫を開いた人間の嗜好が感じられるということだろう。

 基本はあのオルガマリーという人の父親のものなのかな?

 それもまた楽しみだね、僕は。君も偏りを感じるくらいには目を通したのかい?」

 

「そんなもの目録で分かるでしょ。

 っていうか私だってカルデアにいる時間はアンタたちと大した差はないわよ。

 前回は召喚されてそう時間をおかずに、ローマにレイシフトしたんだもの」

 

なるほど、と言って彼は本来司書がいるべき場所へと目をやる。

当然、この場所の管理に割く人員などは存在しない。

軽く顎に手を当てながら悩むアレキサンダーが、小さく呟いた。

 

「いずれは、書庫の管理をするサーヴァントも欲しいな」

 

「…………アンタ、何言ってんの?」

 

「せっかくの資料を死蔵しておくのはもったいないからね」

 

彼はそのまま目録を確認することはせず、自分の足で本の品揃えを確認し始めた。

その後ろ姿を見ながら、オルタが問う。

 

「そういやアンタ、ずっとくっついてたあのキャスターはどうしたのよ」

 

「先生なら君のマスターと作戦会議だよ」

 

適当な一冊を抜き出して、その場で捲り始めるアレキサンダー。

あっそ、と返したオルタも自分が持つ本を広げ、そちらへと視線を向けた。

下のノートは開かない。

そんな様子を見もせずに、アレキサンダーは振り向きもせずに問いを投げてきた。

 

「字の練習をするのに僕は邪魔かい?

 もし邪魔なら、適当に本を見繕って自分の部屋に戻るけれど」

 

「してませんけど!? 何で私がそんなことする必要があるのよ!?

 これはっ……そう、ちょっとした、あれよ! ただの落書きよ! 見たら殺すわよ!?」

 

咄嗟に本でノートを抑え付けながら、オルタが叫ぶ。

それを気にもせず、アレキサンダーは本から顔を上げもしなかった。

 

「そう。邪魔じゃないのなら、居座らせてもらうよ」

 

 

 

 

アレキサンダーさん。

前の特異点では皇帝ネロと対峙した、偉大な征服王……その少年期と言うべき方です。

先輩が召喚した孔明……エルメロイ二世さんとはとても仲が良いようです。

お二人の距離感は、ローマで会った縁だけとは思えないくらいのものですが……

 

現代人であるエルメロイ二世さんと、アレキサンダーさんの共通点とは何なのでしょうか?

それほど性格が合うような方たちにも見えなかったのですが。

やはり傍から見るだけで分かるようなことはないですね。わたしも精進しなくては。

 

あっ、ええと。それであとの二騎のサーヴァントですが……

また順番通りに先輩とソウゴさんが召喚を執り行い―――

 

コンコン、と。

 

自室へのノックがありました。

書いていた報告書―――という体の、日記帳。

ドクター・ロマンからの課題の一つで、これを一定周期で書いているのです。

 

とにかくそれを閉じて来客に対応します。

扉を開くと、目の前には朗らかに微笑む―――

 

「あ、マシュ。ちょっといい、かな?」

 

「―――ブーディカさん」

 

そう。ブーディカさんが、先輩が召喚した二騎目のサーヴァントだったのです。

呼ばれた当初はとても、その、どういったことから話せばいいのか。とても悩んでいたのです。

けれど、先輩もソウゴさんも気にした風でもなく、普通に会話を進めるので……

特にソウゴさんがオルタとおんなじようなもんでしょ、という言葉が大きかったような。

ソウゴさんは直後に、オルタさんからとても睨まれていましたが……

 

わたしもそれに倣うように、と。

こうして、笑いながら会話が出来るほどに打ち解けることができました。

 

「はい、どうかされましたか?」

 

「うん、どうかしたってわけじゃないんだけど……

 君たちと違って、あたしは呼ばれてもまだ何もやれてないからさ。

 せっかくだしスタッフの人たちに料理でも、と思ったんだけど。

 もし時間があるなら、マシュも一緒にどうかな、と思ってさ」

 

照れるように頬を掻きながら、言われた言葉。

わたしも出来るなら協力したい、と思うのですが……

 

「えっと、ですがわたしは料理の経験などはまったく……」

 

「誰だって初めはそうだよ。だから、最初は経験者と一緒にどうかな?」

 

一緒に料理を、と言われて。思わずこちらも頬が緩んでしまいました。

迷惑になってしまうかもしれないが、そう問われればこちらも答えは決まっています。

ブーディカさんと調理をご一緒出来るなら、とても嬉しいのですから。

 

「――――はい。マシュ・キリエライト、ご一緒します」

 

「―――そっか、よかった。じゃあ、一緒に行こうか?」

 

「はい!」

 

すぐに準備をして、食堂に向かって出発する。

ブーディカさんとはあの特異点で大きなすれ違いがありました。

けれど、今こうしていられる事。

それが、自分たちが間違っていなかったのだという、大きな安心に繋がります。

ちょっとしたことを会話しながら歩くこの道も、とても嬉しい。

そう長い道でもなかったので、すぐに食堂には到着してしまいましたが……

 

扉に近づけば、すぐにそこが自動で開いてわたしたちを迎え入れてくれます。

いつも通りに踏み込んだそこには―――

なぜか、見たことのない光景が広がっていました。

 

「え……?」

 

「これは……」

 

カルデアの食堂とは似ても似つかない、黄金と赤に彩られた巨大キッチン。

さながらヴェスビィオス火山の如き、灼熱の厨房。

 

もうこの時点で犯人は一人しかいないのですが……

ソウゴさんが呼び出した、今回召喚された最後のサーヴァント。

 

「余の記憶が確かならば―――」

 

キッチンより一段上。

何故か設けられている、審査員席のようなスペースで彼女は歩き出しました。

更に食材の置かれているテーブルから、パプリカを取り上げます。

そして一口。かっと大きく目を見開き、何か宣誓し始めました。

 

「この厨房は、ローマの提供である! というか余の提供、正しく灼熱厨房である!」

 

「その厨房を提供するための魔力はマスター、ソウゴのだろ?

 あんまり無駄使いするもんじゃないよ、あんた」

 

そんなことを言いながら、厨房をバンバンと叩くネロさん。

呆れたように周りを見回しながら、ブーディカさんが注意しました。

 

ソウゴさん自身の魔力は大きくありませんが、彼はウィザードウォッチという後付けの魔力タンクのようなものを持っているので、魔力切れはそうそうありません。

もちろん、ウィザードウォッチの魔力をサーヴァントに回してしまえば、ジオウの状態で魔術……ウィザードの魔法が使えなくなってしまうのですが。

 

「うむ、何やらブーディカが食事を作ると聞いてな。

 ならばとこうして余の厨房を貸出しようかと思ったのだが……」

 

すう、と消えていく灼熱厨房。

ネロさんの宝具、黄金劇場(ドムス・アウレア)は劇場のみならず、芸術工房や厨房の機能を兼ね備える、とは確かに聞いていたのですが……

 

灼熱厨房の姿は消失し、通常通りのカルデアキッチンが戻ってきました。

そこを見回して、ネロさんは楽しげに笑います。

 

「なんと。使い方もよく分からぬ機材が並ぶキッチンが、こうしてあるではないか。

 これは余もそれらの機材が使われ、料理を生み出すさまを見学しなくてはと思ってな」

 

「言っとくけど、あたしも難しそうな道具は触らないよ。

 そういうのはせめて、ここのスタッフに聞いてからじゃないと触れないよ」

 

言いながら、ブーディカさんは食材倉庫に向かいます。

遅れないようにわたしもそれを追うと、更にネロさんもついてこられました。

 

「それで何を作るのだ? パイでも焼くのか?」

 

「そうだね。わあ、これは……見たことない食材ばっかりだね……

 あたしが知ってるような気がしてるのも品種改良、みたいな事をされてるんだろうね」

 

様々な食材が並ぶ倉庫の中を見て、ブーディカさんが感嘆したらしい息を吐きます。

生鮮食品は保存の関係上、積極的に使いたいところなのですが……

それを調理する余裕のあるスタッフが少ないのです。

 

一応、保存のための魔術も合わせて使っている倉庫らしいので、もう少しは保つでしょうか。

 

「とりあえずは、皆に行き渡る分だけ、シチューとパイ。

 メニューを相談して、ダ・ヴィンチに選んでもらった食材があるから。

 マシュ、このメモの食材を探してもらえる?」

 

「あ、はい!」

 

「うむ、余にも任せよ!」

 

そう言ってふらふらしだすネロさん。

食材を探す事より、未知の食材の方に引きつけられてしまうようです。

 

それにしても、ネロさんとブーディカさんは、こうして普通に会話できるとは思っていませんでした。

ブーディカさんがいるなか、ネロさんが召喚された時はどうなることかと思いましたが。

彼女は呼ばれてすぐ、ブーディカさんにも親しげに声をかけていたものでした。

 

「それにしても、ブーディカの作る食事か。

 うむ、余もあの時のローマで一度だったか、食べた記憶がある」

 

ぴくり、と何やらブーディカさんが食材を探しながら肩を揺らします。

どうなさったのでしょうか。

やはり、あの時の話を改めてするのは、ブーディカさんも辛いのでしょうか…?

 

「―――あれ、そういえば……修正された特異点でお会いした、生前のネロさん。

 その時の記憶が……あるのですか?」

 

本来、すぐに世界は修正されてしまい、その記憶は残らないはず。

その疑問に、ネロさんは自分も分からぬと言わんばかりに笑われました。

 

「うむ。生きていた頃はとんと忘れていたのだが……

 呼ばれた瞬間に、何やら思い出したような気がしてな。といっても、かなり曖昧な記憶だ。

 確か最後は……余とエリザベートとやらのデュエットで、宇宙からの侵略者アルテラに愛の心が芽生え、解決したのだったか?」

 

「いえ、そんなスペースファンタジーではありませんでしたが……」

 

冗談、というわけではないようです。

そうだったか? と首を傾げているネロさんは、本当に詳細までは覚えて無さそうです。

エリザベートさんとアルテラの事を覚えているということは、大筋は覚えているのでしょうが……

 

「うむ。マシュにもブーディカにも世話をかけたな。

 そなたらの助力がなければ余はあの時死んでいただろう」

 

「―――――?」

 

まるで、ブーディカさんとも共に最後まで戦った、とでも言うような。

咄嗟にブーディカさんへと顔を向けると、彼女もまた困ったような顔をしていました。

―――ネロさんは、アナザードライブの存在を忘れている……?

 

 

 

 

「…………いえ、申し訳ありません。やはり私では不可能ですね」

 

ランサーの霊基の状態を修正できるか。

ルーラーとして、聖女として、それを図っていたジャンヌはそう言った。

だろうな、とランサーは特に感慨もなさそうに納得する。

 

「でも、一応ダ・ヴィンチちゃんは手があるって言ってたんだよね?」

 

立香はそんな二人を見ながら、彼女の言っていた言葉を思い出す。

 

「聖杯に呼ばれるサーヴァント、その聖杯が形成するサーヴァントの霊基。

 霊基を修復したいというなら、割れた霊基に別の霊基を外殻として補強すればいい。

 つまり聖杯が作り上げた“ランサークラス”のサーヴァントの霊基を一部譲り受ければ何とかできる、だっけ」

 

「ええ。英霊をクラスに押し込めることで再現する、というサーヴァントシステム。

 その英霊をランサーというクラスに固定している部分を、修復に利用するというわけですね。

 今、ダ・ヴィンチがそのシステムを構築しているとのことですが。問題は………」

 

「カルデアに他にランサーいないもんね」

 

今カルデアにいるサーヴァントで、ランサーはクー・フーリンだけ。

カルデアにいるのはセイバーのネロ。ライダーのブーディカとアレキサンダー。キャスターの孔明とダ・ヴィンチちゃん。バーサーカーの清姫。ルーラー、アヴェンジャーのジャンヌ二色だ。

バランスはとれているような気がしないでもないが、残念ながらランサーはいない。

 

立香は困ったように溜め息を吐く。

 

「まあ、そのうちどうにかなんだろ」

 

「特異点で協力してくれるサーヴァントを探す、とかしかないのかなー」

 

そう言いながら、歩いて向かう先は食堂だ。

先程、ダ・ヴィンチちゃんが教えてくれたのだ。

ブーディカがパイとシチューを作ろうとしているので、あとで行ってみるといい、と。

 

「あ、私は先に書庫に行ってオルタを見てきますのでお先にどうぞ」

 

ジャンヌが同道から外れ、そのまま食堂ではない書庫へと行ってしまう。

 

「ランサーは一緒に食べに行くよね?」

 

「……まあ、誘われちまったら行くしかねぇわな」

 

やれやれ、と。肩を竦めて答えるランサー。

美味しいものを食べられることを素直に喜べばいいものを。

 

食堂について辺りを見回すと、何やら数人。

カルデアのスタッフが久しぶりの出来立てごはんを拝み、食べている様子だった。

 

「あ、先輩。ようこそいらっしゃいました……

 調理に関してはわたしもお手伝いはしましたが、ブーディカさんがきっちり仕上げて下さっているのでご安心を」

 

「別にマシュのでも心配はしないよ」

 

厨房で手伝っているマシュが、パイとシチューが乗ったトレイを渡してくれる。

すると彼女は小さい声で、更に一つ言葉をつけたした。

 

「……すみません、先輩。あとでソウゴさんと一緒にお話ししたいことがあるので……

 あちらのソウゴさんたちと一緒に食べていて頂いていいでしょうか?」

 

「え? うん、それはいいけど」

 

ソウゴたち、と言われて見てみた先。

そこには、ソウゴと―――何故かウォズが一緒の席に座っていた。

神出鬼没だなぁ、と思いながら立香もそちらに向かう。

 

「で、サーヴァントでも貰えんのか?」

 

「それは勿論。全員に配っても余るくらいには作りましたので」

 

「そりゃありがたい話だ」

 

ランサーはそれを受け取ると、食事中の女性職員を狙い澄まして歩き出す。

……まあ、最低限の節度は保ってくれるだろう、多分。

 

立香がソウゴたちの所まで行くと、ウォズがちらりとこちらを見る。

さほど気にせず、そのままその席に座る。

 

「………さて、我が魔王。

 随分とのんびりしているようだが、次の特異点攻略は進めないのかい?」

 

「俺が進めようと思って進むもんじゃないし。あ、ウォズも食べる?」

 

ソウゴがパイの乗った皿をウォズの方へと動かす。

小さく溜め息一つ。

彼はその皿をソウゴの方へと押し返し、手にした本をテーブルに置いた。

 

「この本によれば、君は次に新たな特異点に向かい更なるレジェンドの力を―――」

 

彼らの会話、というよりウォズの語りをBGMに、立香も食事を始める。

なんだか、久しぶりに普通に温かいご飯を食べた気分だ。

もちろん今までもカルデアにいる時は、誰か職員の人が作ってくれたものを食べていたんだけど。

 

私も少しはマシュみたいにブーディカを手伝おうかなー、なんて。

そんなことを考えながら食べ進める。

すると、さっき言っていた通りにマシュがこちらにきた。

 

「すみません。先輩、ソウゴさん。

 異常事態、なのかどうかは分かりかねるのですが……ネロさんの、記憶のことで」

 

「ネロの記憶?」

 

マシュもまた椅子に座り、声を潜めながら語り出す。

ちらりと厨房を覗けば、件のネロはブーディカの手伝いをしている様子だった。

ここにいるのは、ローマを救うのに協力したレイシフト組をバックアップしていた人間。

というわけで、彼女なりの恩返しらしい。

 

「はい。ネロさんはどうやら、生前に特異点と化したローマの記憶が混濁しているようなのです。

 おおよそは分かっているようなのですが、詳細はかなり支離滅裂と言いますか」

 

「ふーん……ウォズは何でか分かる?」

 

ソウゴに話を向けられ、ウォズは首を傾げる。

 

「何故私に訊くんだい、我が魔王。そういう話はレオナルド・ダ・ヴィンチにすればいい」

 

「まあまあ、分かるんなら教えてくれていいじゃん」

 

ウォズの言葉をスルーして、じいと彼を見つめるソウゴ。

それに根負けしたかのように、ウォズは仕方なさげに口を開いた。

 

「……まあ、ローマ特異点は良くも悪くもネロ・クラウディウスが中心だったからね。

 ローマは神の時代と袂を分かち、人の文明を立ち上げた楔の都市だからこそ特異点になった。

 だというのに、その象徴であるネロが戦いを通じて神に近くなり過ぎた。

 人の築いた人の都市、だからこそ意味があるというのに、皇帝が神になっては意味がない。

 だからいわゆる歴史の修正力というのも苦労したんじゃないかい?

 その辻褄を合わせる為ならば、本人の記憶が多少曖昧になる程度は必要経費さ」

 

「それで………ネロさんは、ブーディカさんがアナザードライブだったということまで。

 いえ、でもそれどころかアナザードライブの存在すら覚えていないようなのですが……」

 

マシュの言葉に、ウォズが固まった。

アナザードライブの存在が彼女の記憶から消えた、という話に。

彼には珍しく、とても衝撃を受けたような表情だ。

 

「…………なんだって?」

 

驚愕のままに言葉を絞り出すウォズ。

その様子に困惑しながら、マシュは状況を説明する。

 

「ええと、ネロさんはブーディカさんは自分たちと最後まで一緒に戦ってくれた。

 そう記憶しているようなのです……

 それに彼女は、他の皇帝やアルテラと戦ったことは覚えていても、アナザードライブとも戦ったことは、まったく覚えていないんです」

 

それを聞いたウォズが、一際表情を難しくする。

彼の手がテーブルに置いた本を取り上げた。

 

「……そうか、なるほど。すまないね我が魔王。

 どうやら私には、緊急の用事が出来てしまったようだ」

 

そんな事を言いながらすぐさま立ち上がり、この場を後にするウォズ。

まるで途轍もない事件だと言わんばかりの態度。

それをシチューを啜りながら見ていたソウゴと立香は、首を傾げながら目を見合わせた。

 

 

 

 

歩きながら彼はマフラーを翻す。

それが彼自身を取り囲むように渦巻き、彼の体をカルデアの中から消失させた。

 

そんな彼が出現するのは、闇に包まれたどこかの空間。

その中に置かれた巨大な時計を背にしながら、彼は逢魔降臨歴を検める。

 

「皇帝ネロに一時的に宿った、時空の挟間にただ消えゆくはずだった神の力。

 ――――それはつまり、アナザードライブと深い関係にあった神性ということ……

 であるならば、もうスウォルツの手には既にそのアナザーウォッチが……?

 ………いや。幾らなんでも、消失に向かうローマの神性だけでは力が足りなすぎるだろう。

 だが、もしかしたらこれは………」

 

小さく呟きながら、紙面を睨むウォズ。

そんな彼の後ろ。時計の針はただ、静かに回り続けているのであった。

 

 

 




 
ハロウィンの導入をしようと思ったらそこまで辿り着かなかった。
宇宙の神様も別にすぐに出るわけじゃないです。
 

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