Fate/GRAND Zi-Order 作:アナザーコゴエンベエ
「くっ、わしはこのようなところで終わるというのか……!」
黒い軍服に赤いマント。
そんな不思議な装束の、自身を“わし”と称する女性。
彼女は息を切らしながら、身を隠すように木の陰にもたれかかる。
「ノッブー!」
「ノブノッブ!」
その近くを、二頭身のちみっちゃい何かが複数体走っていく。
珍生物の姿形、それは今隠れている彼女の姿をデフォルメしたものに見える。
木陰から彼女がそいつらの様子を窺い、様子を見る限り。
ノブー、と鳴くその声で意思疎通も取れているらしい。
どういう鳴き声だ。
「ノッブ」
そいつらの後ろから、悠然ともう一体。その変なのが現れる。
新しい個体は他の奴らとは一線を画す存在であった。
なんと、その頭の上にカボチャを被っているのである。
そいつが集団のリーダー的存在らしく、ノブノブと指示を飛ばしていく。
木陰に隠れた彼女を探しているのは明白だった。
「ぐだぐだハロウィンとかなんと救えぬ話……! 正気の沙汰とは思えぬ……!
この第六天魔王、織田信長になんたる仕打ちか……!
厠かっ、厠に入ったのがあかんかったかっ……!」
彼女の真名こそ、日本にその名を知らぬ者はない。
天下の織田信長その人であった。
彼女は帝都聖杯戦争というものに参加していたのだが、あれがこうしてそうして……
なんかこう、ぐだぐだ感が粒子となって放出されてしまったのだ。
その結果、それがどうしてああして……
彼女のいた世界と異界に存在する特異点と繋がり、そこへ放り出されてしまったのだ。
一緒にきたはずの幕末辻斬りオタクもどこかにいる筈だが……
まあどうでもいい、と彼女は考えるのをやめた。
―――別にあいつがどっかで適当に野垂れ死んでてもわしは困らんし……
「ノッブ!」
「しまった、見つかったか!?」
すぐ傍からチビの声がして、彼女はすぐに立ち上がった。
ノブノブ鳴く連中に既に取り囲まれている。
もはやこれまでか……!
イケてる辞世の句を今考えるからちょっと待ってくれんか? と言おうとした信長。
そんな彼女を差し置いて、チビたちがカボチャチビも含めて敬礼をしている。
わし? わしに平伏しとる?
などと考えるが、明らかに向いている方向が違う。
チビたちの視線を追う信長。
そこには―――
「あら、貴女サーヴァント? ―――っていうかその顔、こいつらの大元ね?」
ボンテージに身を包み、顔を仮面で隠したグンバツ(死語)の美女が立っていた。
横倒しになったままに引き摺られるアイアンメイデンが、何故か哀愁を漂わせている。
どうやらあの仮面は、ストレスからくる小皺を隠すための用途らしい。
「おのれ! わしのなんか分身? いや、これ分身扱いはあれじゃな……
おのれ! なんか変な小さいわしを使い、悪行を尽くすものよ!
その行いはいずれ、何かこう、あれじゃ。きっとよくないものを招く……」
「引き取りなさい」
グンバツ美人は、信長の言葉を遮って一言。
その鬼気迫る声に、首をこてんと横に倒して信長は疑問の声をあげた。
「……え?」
「引き取りなさい、この変なの」
敬礼を終えて、わいわいがやがや騒ぎ出すチビたち。
引き取れ言われても、そもそもこれなんじゃ。
「私は今こいつらや貴女に構っている暇ないの。分かる?
それどころじゃないのよ。南瓜は生えるわ歌は下手だわ料理は地獄だわ。
あれが私であるという現実と戦っているのよ、私は。
ほんと、邪魔しないでくださらないかしら。切実に」
切実に、ほんとに切実に彼女はそう訴えかけてきた。
そう。今この世界は特異点と化し、一つの地獄として再誕していたのだ。
彼女は消失した筈の存在。
だというのに、意識が保ち熱を帯びていた。
歌いたい、食べたい、つまり楽しみたい。
そんな感情が、身の内から自身を食い破りそうなほど膨れ上がる。
ダメ、ダメ、それ以上はダメ。
そう言って抑え付けようとしても、むしろ爆発するようにあふれ出す。
結局、それは元から自分の感情なのだから、止めたいという気持ちだって知れたものだ。
まあ、ちょっとくらいなら……いいかナ? なんて。
そんな風に甘えた途端、一切抑えは効かなくなる。
そうして、この地が誕生したのだ。
「いや、すみません。まったく話が分かりませんでした……」
浅葱色の羽織を纏った女性。
彼女は、ポップでキュートでパンプキンな格好をした魔法少女が説明する事情にそう言った。
説明を受けたがまるで分からなかった。
とりあえずここが異常な状態の世界、だということは分かったのだが。
「何よ、アタシがだいぶ分かり易く説明してあげたと思ったんだけど。
分からなかったのはどの辺り?」
「えーと、全てですね」
「えー?」
困ったように頬を掻く、浅葱の羽織の彼女こそ。
織田信長とともにこの世界に迷い込んでしまった存在。
幕末にその名を轟かせた人斬り。
新選組一番隊組長、沖田総司その人なのである。
彼女は帝都聖杯戦争という戦いに参戦していたのだ。
が、途中で帝都の聖杯がなんかあれなことになり、何故かこの世界に飛ばされてしまったのだ。
同時に彼女と一緒にバカ殿様もこちらに来ているはずだが……
―――まあ、ノッブがその辺で拾い食いしてお腹を壊して、厠に閉じこもってそのまま奇襲されて死んでても私には関係ないですし……
「とにかく! カーミラの奴がうるさいのよ!
執政だの政務だの! こうなったからにはまず! ハロウィンでしょ!?
そりゃまあ……そっちもやらなきゃいけないことではあるけれど。
ただほら、優先順位ってあるじゃない? まずは、楽しませることからでしょ!」
そう言いながらぶちぶちと愚痴るカボチャの魔女。
沖田はそれを聞きながら、何となく頷いた。
「あー、それは少しわかります。
めんどくさいですよね、書類仕事。私はただ人だけ斬れればいいのに……
そういうのどうでもいいな、って思いながらやってましたもん」
「そう! そうなのよ、そう! ……うん? そうなのかしら……?
でも同意が得られて良かったわ! アタシ、アナタに協力してほしいのよ!」
はい? と首を傾げる沖田。
「アナタ、警察みたいなもんなんでしょ?
だからアタシの街で、皆がハロウィンを楽しめるように警備をしてほしいのよ。
カーミラの奴がいつ襲ってくるとも分からないし!」
「はぁ……まあ、倒れてたところを拾われ美味しいカボチャ料理まで頂いたんです。
一宿一飯の恩義を働いて返せ、と言うならそれで構いませんが」
彼女に提供されたカボチャの膳は、それはもう食べた事のないような美味しさだった。
凄いものだ、と思って完食してしまった。
拾い食いとかしてるだろうノッブとは大違いである。ざまぁ。
別に見たわけではないが、彼女の中で信長はもうカボチャの拾い食いをしたことになっていた。
「あら? ウチのメイドの料理が気に入ったの?
なら、ええ。仕事が終わった暁には、メイドではなくアタシ自身の料理を御馳走するわ!
アタシの料理だってアイツに負けないくらい……いえ、一歩くらいは負けるかもしれないわ。
とにかく、アタシの料理もなかなかのものだから、是非味わっていきなさい」
「おお、それは楽しみにしておきます。それでは―――」
愉快そうに動くカボチャを跳ねさせる彼女。
それを聞いて、食事の楽しみに沖田もまた心を躍らせた。
「はぁー……自治体の運営放棄なんぞ、わしの知ったことじゃないわー。
自分の領地どころか日本ですらない、こんな土地のことなんぞ知らんがな」
「だったらそれはそれでいいから、早くこのチビたち消しなさい」
「ノッブー」
カーミラの腕がチビノブを一匹掴み、ぐにぐにといじる。
ノブノッブと擽ったそうな声をあげるチビ。
周りのチビたちもそれを羨ましそうに眺めている。
そんな光景を見た信長は難しい顔でチビを睨む。
「………思ったんじゃが、このチビノブども………」
「なにかしら?」
一気に顔が引き締まった信長に、カーミラもまた態度を正す。
そんな真面目くさった顔が吐き出した言葉は―――
「声が可愛すぎないかの。これわしと声同じじゃろ?
初めて他人の声として聴いたが、わしの声可愛すぎじゃろ。戦国最強では?」
カーミラがこめかみを抑えるように、ゆっくりと指を仮面に這わせる。
するとガリガリと地面を削りながら自走してくるアイアンメイデン。
チビノブたちが恐怖に散開しだした。
凶器の侵略に飛び上がった信長もまた、すぐに話題を変えた。
「言ってものー。なんでこんなのがいるのか、わしにもさーっぱり分からんし。
……しゃあなしか。よし、その領主業務放棄事件、わしも改善に協力してやろう。
そうしてれば何かしらの答えも見つかるじゃろ」
「臨時ですが―――チェイテ新選組一番隊組長、沖田総司。
ハロウィンの間、エリザベートさんの領地の防衛を承りました」
「この第六天魔王、織田信長が領主見習いにちょいと灸を据えてやろう。
あ、その前にハロウィンとやらで遊んでからにするか!
この時代のビッグウェーブ、楽しんどかなきゃ損じゃし、是非も無いよネ!
というかこのくらいの時代だと日本でわし生きてる? あ、もうとっくに死んでる?」
その日ついに、第二特異点の聖杯の欠片が特定された。
消えた筈の古代ローマからとは程遠い、16世紀から17世紀ごろのハンガリー王国。
―――エリザベート=バートリ―を収監した監獄城、チェイテ。
「ということは、あの時エリザベートが回収してた、ということね……」
頭を抱える所長。目を逸らすべきではなかった、と反省しているらしい。
そんな彼女を見ながら、マシュが首を傾げた。
「ですが、サーヴァントであるエリザベートさんが回収しただけであれば……
生前の彼女の城に影響する、というわけではないのでは?」
「恐らく、時代改変といった類のものではあるまい。
彼女の生きたその時代をベースに、特異点として独立した時空を形成しているのだろう。
放っておいても人理焼却の楔にはならない微小な特異点、と言ってもいい。
特異点の規模だけ見れば放置しても問題ないように思えるが……
まあ、発生原因がこちらが回収し損ねた聖杯の欠片だろう。
不安定な聖杯を抱えたくもないところだ、回収は行っておくべきだろう」
管制室の画面に表示された情報を見ながら、エルメロイ二世はそう言った。
立香がその説明を聞いて小さく首を傾げる。
「放置してもいい特異点、っていうのがあるの?」
「ああ、君たちが修正を行ってきたのは、
普通は特異点が生じてもそれだけのエネルギーはどう足掻いても発生しない。
通常は泡沫の夢が如し。放置したところで、何も影響を残さずに勝手に消えるものだ。
まあ、平時であればそもそも普通に生まれるものではないがね、特異点など」
「へぇ」
つまり一応はでかい奴だけ見逃さなければいい、と言う事だと納得する。
とりあえず、現状では七つのうち二つの攻略を完了した。
あとは五つ、ということになる。
そこにあの消滅したレフの仲間のような存在もいるのだろうか。
立ち直ったオルガマリーが、管制室に集まったメンバーを見回す。
「それで、今回の目的は聖杯の欠片の回収。出来て間もないはずだし、そもそも微小特異点。
それほど大きな戦いがあるわけでもないでしょう。
今回、私はカルデアの方の業務に残るため、レイシフトは行いません。
参加メンバーは藤丸立香。そのサーヴァントであるマシュ、清姫、ロード・エルメロイ。
そして常磐ソウゴと、そのサーヴァントであるアレキサンダー、ネロ。
以上になります。何か質問はあるかしら」
小さく、二世をだな……と呟くロード・エルメロイ二世。
その言葉に見向きもしないオルガマリーの目の前でマシュが手を上げる。
「レイシフト後の行動なのですが。
まずはいつも通りに霊脈に召喚サークルの設置、でいいのでしょうか」
「レイシフトしてもらわないと分からないけれど……恐らくこの規模の特異点ならば、召喚サークルがなくても通信は安定するでしょう。
それに、現状からは物資の転送が必要になるほど長丁場の攻略にもならない。そう判断を下しています。もちろん状況を見て変更する可能性はあります。
ですが以上の理由から、今の所はサークルの設置が必須ではないと考えています」
「了解しました」
手を降ろすマシュ。それをふーむと見ていたネロが、自分もと大きく手を上げた。
そちらへと視線を移すオルガマリー。
「うむ! 余の質問はあれだ! あのでかい人型は持って行かぬのか?
あれば絶対に便利であろう!」
彼女がでかい人型、と称するのはタイムマジーンのことだろう。
アナザードライブのことは忘れてる癖にそっちは覚えているのか、なんて。
むしろ忘れててくれていいのに、とオルガマリーは心の中で溜め息を吐いた。
「………あれは、現時点では使用予定はありません。
少なくとも使用する場合は、こちらから特異点に転送するため、現地での召喚サークル設置が必須となります。大規模特異点の攻略には使用を前提として考えますが、微小特異点に持ち込む必要はないでしょう」
「むぅ……せっかく乗り回せると思ったのだが」
すごすごと手を下げるネロ。残念極まりない、とその顔に書いてあった。
「――――では、作戦を開始します。
参加する人員は速やかにクラインコフィンへの搭乗を。
全員の搭乗が確認されしだい、微小特異点チェイテ城へのレイシフト実証を開始します」
司令官、オルガマリーの指示が下る。
そうして彼らは、大口を開けた地獄の中へと飛び込んでいくことになる。
そう。ぐだぐだ粒子とエリザ粒子が描く、二重螺旋の世界の中に……
レイシフトが完了し、まずアレキサンダーがやったこと。
それは、困惑の声をあげることだった。
「さて、そうしてレイシフトを完了したわけだけど。
これは一体どういうことなんだろうね」
『ええ、と。今確認はしているけど……』
通信先でロマニもまた困惑しているようだ。
アレキサンダーが周囲を見回すと、もうどうすればいいのかよく分からない世界が広がっていた。
カボチャを被った骸骨が歩き回り、魔女の帽子を被った幽霊が飛び回る。
ついでに二頭身のノブノブ鳴く何かも走り回っていた。
その上人間がいないというわけではなく、街では人間と骸骨と幽霊とチビノブが談笑している。
街は至る所にカボチャやらなんやら、ハロウィンの飾りがされていた。
街の様子を一望して、ソウゴは一言。
「平和じゃん」
「平和だけども……」
立香も平和すぎて困惑する。
街の人と骸骨が一緒にカボチャを調理して、ノブノブ鳴くのがその料理を食べている。
幽霊は飛び回りながら、まるでミュージカルのように明るい歌を歌っていた。
平和は平和だけど、どういう状況だ。
「おや、お客さんですかな。
いらっしゃい、エリザベート様の治めるハロウィンチェイテに」
一人の老爺が街の入り口で屯している彼らに目を付けてか、挨拶してくれた。
それにこんばんわー、と返すソウゴと立香。マシュも慌てて追従する。
「………ええ、こんばんわ。
申し訳ありませんが、一つお聞きしてよろしいでしょうか?」
エルメロイ二世もまた彼に挨拶し、そしてそう問いかけていた。
老爺は朗らかに微笑むともちろん、と首を縦に振る。
「ええ、もちろん。私に答えられることならばよいのですが」
「ありがとうございます。その、ハロウィンチェイテ、とはどういった……」
エルメロイ二世がその老爺と会話を始めたその瞬間。
街の中の騒がしさが、別のものへと切り替わった。
明るい声ではなく、困惑と悲鳴混じりの声。
全員が即座にそちらへ反応した。
老爺もまた、その雰囲気を察して悲鳴のような声をあげる。
「ああ、奴がくる……! 奴だ……!」
「奴……?」
「上だね」
アレキサンダーが頭上を見上げる。
そこには……無数の火縄銃を宙に浮かせた、黒い軍服の女が空を舞っていた。
風に赤いマントをはためかせ、彼女はその面に凄絶な笑みを浮かべる。
「
「ハロ?」
「ウィン……?」
「天……」
「魔王信長って、あの織田信長? 何か、イメージと違う気がするー……」
呆けたように声を漏らすカルデアの面々。
そんな彼らに顔を向けることもなく空の魔王は行動を開始する。
空の上、彼女の腕が大きく振るわれた。
一斉に銃口が光を灯す。千を超える怒涛の火線が、今この地に放たれた―――!
ポコポコ鳴る空気の音。火縄銃からは無数のコルク栓が飛ぶ。
それが誰にも彼にも当り散らし、街の広場には絹を引き裂くような悲鳴が木霊した。
キャーキャー叫びながら逃げ惑う人々。
「ふははははは――――! トリック・オア・トリート!
お菓子をくれなきゃいたずらするぞー! 大人しくわしにお菓子を献上するがいいー!
でも正直、もうカボチャ食い飽きてるんじゃよネ!
たまには他のもの食べたいのじゃが、じゃが……」
そう言いながら無数のコルク栓という名の弾丸を吐き続ける火縄銃。
これは、ビームが出る火縄銃なんじゃからコルク栓くらい頑張れば出るじゃろ、という非常に論理的思考の元に彼女が会得した新しい攻撃方法なのだ。
「そこまでです!」
「む、何奴!?」
悲鳴を上げ逃げ惑う人々を救うべく、今ここに登場する浅葱色の羽織。
羽織を翻し、その手の中にある白刃を月光に煌めかせる新たな存在。
その名も――――
「チェイテ城ではメイドさんが毎日色んな料理を作ってくれます。
今日は鯛の煮付けがとても美味でした!
チェイテ見廻組こと新選組一番隊組長、沖田総司推参!!」
「おのれ田舎侍! 毎度毎度美味そうなもん食ってきおってからに!
わしなんて毎日こうして献上させたカボチャ菓子が主食だとゆーに!!
いつか美味しそうだと思って口にしたら、地獄みたいな料理で死ぬ呪いにかかれ!」
「あー、嫉妬が心地良いですねー。
メイドさんだけじゃなくて、普段は刺繍してるおじさんの肉料理も最高なんですよねー。
ついつい食べ過ぎてしまうので、こうしてノッブ退治のお仕事頑張ってカロリー消費しないと」
颯爽と登場した剣士は、そのまま信長を煽り出す。
彼女の口ぶりを信じるならば、彼女は新選組の沖田総司なのだろう。
マシュはくらくらし始めた頭を抱えながら、どうしたものかと首を傾げた。
「その、この状況はどうするべきでしょう。
何やら明らかにおかしいのですが、一度撤退するべきでしょうか……?」
「もうネロが行っちゃったけど……」
ソウゴが指差した先、既にネロは渦中の二騎のサーヴァントの間に割り込んでいた。
隕鉄の鞴。セイバーのサーヴァントとして、彼女が持ち込んだ赤き剣。
炎の剣を構えながら、彼女はサーヴァントたちの前に立ちはだかった。
「む、貴様は何者!」
「余の名を知らぬか――――ならば名乗ろう!
余こそローマ帝国第五皇帝にして、今はカルデアのマスター・常磐ソウゴの剣!
ネロ・クラウディウスであーる!!」
いきなり割り込んだ彼女が、その名を叫ぶ。
既にエルメロイ二世の顔には、もう帰りたいという痛切な表情が浮かんでいた。
アレキサンダーがその様子に苦笑する。
「かるであ? またよー分からん連中が増えたようじゃな……!
まあよい、このままとことんまでやってやるまでじゃ!」
「かるであかなにか知りませんが、ここは領主エリザベートの土地。
その彼女から治安維持を委託業務として引き受けた出張新選組としては、貴方達も治安を乱すようなことをすれば悪・即・斬です。大人しくハロウィンを楽しみなさい!」
「わし、大人しくハロウィン盛り上げてるのに襲われてない?」
ポンポンと音を立てて飛び交うコルク栓。
キャーキャー喚きながらあちらこちらに逃げ惑う人々。
信長のもとには、住民からの菓子の上納が次々と成されている。
ほとんどショーである。
そんな状況に愉し気に笑うネロ。
「よく分からぬが楽しそうな催しと見た、ええい余も混ぜよ!!」
ネロの後ろ姿を見ている清姫が、何とも言えない顔で周囲も見回す。
「なるほど、まるでエリザベートの頭の中。これはまた、どうしようもない地獄ですね……」
文明レベルがエリザベート。なんという地獄か。
同レベルの連中は楽しそうに騒いでいるが。
破滅に向かう世界を憂うような顔をした清姫の背に、他の誰かの声がかかる。
「まったくよ。どうしてこんなことになってしまったんだか」
そこにいたのは、第一特異点フランスで邂逅したカーミラその人だった。
一度アイアンメイデンに食われたことのある清姫は顔を顰める。
そんな彼女を一度食べたアイアンメイデンは、物哀しさを漂わせながら地面に転がっていた。
「あれ、カーミラ……だよね?」
「ええ、そうよ。カルデアのマスター」
接近してきた彼女に顔を向ける立香。
やれやれと疲れているような様子を見せた彼女が、横倒しのアイアンメイデンの上に腰を下ろす。
そんな彼女の様子を見て、立香がむぅと唸った。
「カーミラがいるならオルタと所長も連れてくれば良かったかも?」
「……誰のことよ」
警戒するような声色。
別に警戒されるような事でもないはずなので、正直に言う。
「黒ジャンヌ」
「ああ……あの子、貴女たちと一緒にいるの。
そうね、ここには私と……何でかヴラド公まで呼ばれているから、いたら話は出来たかもね」
大して気にした風でもないカーミラ。
そんな彼女に対して、マシュが不思議そうに声をかけた。
「……カーミラさんはその、オルタさんに利用されて何らかの感情をもったりは……」
「別に? 民に命を献上させるのなんて、私にとっては日常茶飯事。
元からそういう反英霊だもの。狂化なんておまけみたいなものよ、私の場合はね。
まあ、ヴラド公の方は知らないけれど」
カーミラの主張を聞いていたソウゴが周囲を見回す。
エリザベートの世界と言ってもいい、謎のハロウィン世界。
エリザベートの世界ということはつまり、それはカーミラの世界であるわけで。
自然に口から漏れる、小さな呟き。
「狂化かぁ……」
「………一緒にしないでくれるかしら?」
彼女は心底嫌そうにそう言った。
そうして喧々囂々となっている街の広場に視線を向ける。
そこでの言い争いは、今にも戦闘にまで発展しそうなほどヒートアップしていた。
ソウゴはちらりと信長を一瞥してから、アレキサンダーを見る。
彼は構わないとばかりに首肯してくれた。なら彼は沖田の方を止めることにしよう。
ドライバーを取り出し、この戦いを止めるべく、彼は変身する―――
―――ローマで発見された聖杯が引き起こした人理焼却から数日。
チェイテはエリザ幕府、戦国カーミラ、カルデアの三つに分かれ、混沌を極めていた。
果たしてこの戦いの行方や如何に。
レイシフトするサーヴァントの構成は所長がキューレットを回して決めました(大嘘)
ハロウィンは息抜きみたいなもんです、俺の。
多分三話か四話で終わるでしょう。