Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

57 / 245
1-4 信長の最期! ハロウィンチェイテ本能寺城炎上!1604

 

 

 

「来てしまったか……ならばアタシも出迎えるしかあるまい。

 よくぞ来た、ご主人共。ご飯にするか、お風呂にするか、煮干しにするか。

 最後の晩餐を選ぶがいい。残念ながら猫缶はない」

 

悲痛な顔でそう出迎えたタマモキャット。

彼女の衣装は前に見た和装ではなく、何やらメイド服に変わっていた。

チェイテ城に入るや否や、すぐさま登場した彼女に目を細めるエルメロイ二世。

 

「ああ、すみませんメイドさん。敗戦です」

 

しゅんとした沖田が、メイドの前で頭を下げる。

だが彼女は気にした風も見せず、彼女を労うように肩を肉球で叩いた。

 

「うむ、見れば分かる。

 しかし敗戦の将に報いるために、ご主人手ずからの料理が用意してある。

 いつも通り守衛室で堪能するがいい」

 

わーい、と守衛室とやらに走り去っていく沖田。

いつもはとても美味しい料理が提供される場なのだろう。いつもは。

それを見送るキャットの顔は、とても悲痛なものだった。

 

「許せ、多くの食材たちよ。

 ご主人にも悪気があって、あんなものに変えてしまったわけではないのだ」

 

「あ、これあれじゃろ。沖田が死ぬやつじゃろ。ざまぁ」

 

悲しげな表情のキャットを見て、察する信長。

カーミラが嫌そうな顔をしながら、過去の自分の料理が生み出す悲劇を想う。

そんな悲劇の発生を前に、立香がキャットへ話しかけた。

 

「この前はありがとうね。えっと……キャット、でいいのかな」

 

「うむ。玉藻属猫科のサーヴァントと言えば分かろう。

 俗にいうタマモキャットという奴だワン」

 

「ご主人、っていうのはエリザベートのことでいいんだよね?」

 

「ガフゥ――――ッ!?」

 

その立香の確認の質問を遮って、守衛室とやらから断末魔が轟いた。

相当量の吐血をしてそうな声だった。

キャットはその結末を想い、静かに涙を流した。

 

「フォックス、血の掟。敗者には死を。というやつなのだな……」

 

「毒でも入っていたのかい?」

 

アレキサンダーの問い。

それにキャットは当然そんなことはない、と首を横に振る。

 

「純粋に致命的に不味いだけで、そんなことはないのだ。

 ご主人は本気であやつを労うつもりで、ただ料理をしただけなのだ。

 それがただの食材をゴミに変える所業なら、アタシだって止めている。

 そんなことを見過ごせば、アタシこそ舌切り雀に舌を落とされるというものだ。

 一応アタシの持つカツオ節を、せめて味を調えようと山盛りにしておいたのだが」

 

舌切り雀、などと言った瞬間に清姫が視線を逸らす。

そのまま立香の背中にくっつくように体を寄せた。

 

「それでは見た目の隠蔽工作にしかならんのではないか……?」

 

悲鳴の先を見ていたネロがそう呟くと、キャットは確かに! と同意した。

ついうっかり、という話であったようだ。

 

「なんじゃ、不味すぎて血を吐いただけか。じゃあ、別に放っておいてもよいか」

 

「うむ、別によかろう。作った料理はきっちりスタッフが処理するゆえ」

 

スタッフ? と首を傾げる皆を差し置き、キャットは城の奥へと向かっていった。

よくわからないが、とりあえず皆で彼女の後ろについていく。

 

少し歩くと、反対側から歩いてくる男性に会う。

貴族然とした黒い衣装、白髪の彼のその姿。

その姿は、フランスで出会ったバーサーク・ランサー。

ヴラド三世に相違なかった。

 

「うん? 客人―――カルデアの者たちか。久しい、と言うほどでもないな」

 

「あっ、ヴラドもいるってカーミラが言ってたね」

 

立香がカーミラに振り返る。彼女はヴラドを見て嫌そうな顔をしていた。

美人なのに彼女は顔を顰めてばっかりだなー、と何となく思う。

顔を顰めてなくても、仮面で目元は見えないのだが。

 

ヴラドは歩いてきたメンバーに軽く視線を巡らせ、唸る。

 

「ふむ……クー・フーリンのマスターよ、彼は来ていないのか?」

 

「え? うん。今ちょっとランサーは霊基? っていうのにダメージがあってさ。休憩中」

 

話しかけられたソウゴは、正直に彼が来ていない理由を語る。

まあ、アレキサンダーとネロのレイシフト体験、というのもあるが。

今回ランサーが選択肢に入らなかったのは、それが理由としては一番大きいだろう。

 

「霊基の破損? それは治療しようがないと思うが……」

 

「―――レオナルド・ダ・ヴィンチの手腕により、修復の方法はある程度目途がついています。

 霊基とはつまり、聖杯が形成するサーヴァントの器。

 ランサークラスのサーヴァントの霊基を貰い、外殻として利用し補強するつもりです」

 

エルメロイ二世が言葉を継ぐ。

その言葉になるほど、とヴラドは軽く頷いた。

 

「余には流石に詳細が分からぬが、彼の万能の天才の考案であれば上手くいくのだろう。

 ふむ。そのランサークラスのサーヴァントの霊基、というのは確保できているのか?」

 

「まだだよ」

 

「そうか。では、余の霊基を使うがいい。どうせこの特異点が消えれば退去する身だ。

 此度は狂化の無い純粋なランサークラスでの召喚だ。特に問題はないだろう。

 このままエリザベートの聖杯を回収しに行くのだろう?

 ならば、先に余の霊基を回収しておくといい。聖杯を回収すれば、強制退去が始まる故な」

 

さほど気にする風でもなく、彼は己が身を差し出すという。

狂気の吸血鬼と化した自分を止めた謝礼、という意味もあるのだろう。

 

『―――申し訳ない、ヴラド公。

 その申し出は嬉しいのだけど、まだレオナルドがそのシステムを……』

 

だが、通信先でロマニがその好意に申し訳なさそうに頭を下げる。

そもそもそのシステムが、まだ完成していないのだ。

助力を求める求めない以前の……

 

『いやいや、丁度できたところさ!』

 

と、突然通信画面に割り込んでくるダ・ヴィンチちゃんの顔。

ロマニが隣でひっくり返る。

 

『私にはかかればほらこの通り。

 相手の霊核の残滓からでも霊基の補強材を回収できる優れものだとも!

 ただ、協力してもらって霊基を剥離すれば、ヴラド公は消滅することになるけれど……』

 

「構わぬとも。どういったわけか、エリザベートがあんな事になっているが……

 そなたたちが向かうならば、悪い事にはなるまい。

 カーミラとは違い、あれはまだ子供。ああいった存在が相手では、余の言葉では意味がない」

 

ヴラドがそうして信長に一瞥をくれる。

 

「ああいったものこそがいいのだろう。あれは少し余の手にあまる」

 

「うん? わし(悪)を知っとるのか?」

 

信長(悪)を知るような口振りに、信長は首を傾げてみせた。

どうにも言葉にし難い、というような表情で彼は語る。

 

「知らぬはずがあるまい。

 だが、余もそこなメイドも奴を放置しているということは、つまりそういうことだ」

 

ヴラドの物言いにんー、と唸りながら頭を掻く信長。

まるで信長(悪)を想定していたというのに、(悪)ではないような物言い。

もしやこちらの信長が信長(悪)なのかもしれない。

風雲急を告げる事態。本当の真実はどこにあるのか。

 

それはどうでもいいとして。

 

「まあ、貴公らが自分で見て判断するがよい。余はこれ以上関知せぬ」

 

『では失礼して。始めるよ?』

 

「うむ」

 

さっさと会話を打ち切って、ヴラド公は通信に応える。

すると程無く彼の体は光に包まれ、その体を崩壊させていく。

 

崩壊した彼の体、その黄金の光の霧がその場で収束し始める。

それはまるでチェスの駒のような、槍兵を模った物体へと変化していた。

宙に浮くそれを手にするソウゴ。

 

「これで、ランサーを治せるの?」

 

『ああ、それを持って帰ってきてくれれば十分に可能だ』

 

へえ、と感心しながらそれを仕舞うソウゴ。

それを見届けたキャットが、再び客人を主人の元に連れていくべく歩みを再開させた。

 

 

 

 

「あれぇ? 子イヌに子ジカ? どうしてここにいるのよ?」

 

辿り着いた先には、ハロウィンらしい仮装をしたエリザの姿があった。

カボチャをモチーフにした魔女の格好。

彼女は紙の書類の束を持って、執務机に向かっている。

 

「その上ネロに清姫に……げ、カーミラまでいるじゃない。

 沖田のやつ、何してるのよ。せっかくアタシが御馳走まで用意してあげたのに」

 

うぇ、と表情を崩した彼女。

しかしその様子を見た他の面々は、呆けたように顎を落とした。

 

「先輩……エリザベートさん、お仕事をされています」

 

「清姫、普通に仕事してるよ?」

 

マシュの報告に、立香は清姫を振り返ってみた。

彼女も衝撃を受けたように呆けている。

 

「――――そんなはずは……いえ、これが真の人理焼却……?」

 

「なによ、アンタたち。ありえないモノ見たみたいな顔して」

 

そんな様子を見ていたアレキサンダーがちらりと信長を見る。

様子を伺われる事を察している彼女は、完全にすっとぼけた顔をしていた。

信長から視線を逸らした彼は、次に自身の軍師に視線を送る。

顎に手を添えたエルメロイ二世が、辺りを見回した。

 

ふと、この執務室にある窓に目をつける。

 

「サーヴァントの本質、本性というのは変わるものじゃない。

 聖杯の影響ならば分からないが……

 それでも、エリザベート=バートリーがどういうサーヴァントかも、そうそう変わらない」

 

窓際に歩み寄りながら、彼は小さくそう呟いた。

その窓に辿り着き、そこから見える光景に目を細める。

 

そこには、再びハロウィンで幸福に騒ぎ始めた城下の街の光景があった。

 

「変わらないからこそ、やはりここはエリザベート=バートリーの世界なのだろう」

 

「なるほど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この特異点の根本はそこか」

 

アレキサンダーが、エリザベートの来歴からそう呟く。

政務をしないのではなく、政務と外に幸福を振りまく行事を合体させた結果。

それこそがハロウィンチェイテ。

 

ただのエリザベート=バートリ―の望んだ事ではない。

監禁された地獄の中で、それでもせめてと彼女が望んだこと。

 

歪ながらもしかし、彼女が必死に望んだ世界の具現。

ネロもまた窓辺に行き、それを見渡す。

 

「――――今のエリザベートは歌わないのではない。

 外に幸福をもたらすこの書類仕事こそが、今の奴にとっての歌。

 そういうわけであったか。……うむ、余もちょっと驚いたぞ」

 

「…………あんたたち、いきなり押しかけてきておいて……

 人のことを、感心したぞーぅ……みたいな目で見てきて、一体全体何なの?」

 

書類の山を崩しながら、エリザが何だこいつら、という表情で辺りを見回す。

ソウゴがそんな彼女に対して、何と無しに問いかける。

 

「エリザってずっとここで仕事してるの?」

 

「そりゃ、必要な仕事があればね。オフタイムには普通に外に遊びに行くわよ?

 アタシ専用のライブステージだって郊外にあるし」

 

当たり前でしょ、と終わった書類を纏めて机の端に寄せた。

うん? と首を傾げた皆の心の声を、清姫が代弁する。

 

「…………遊びに、出れるのですか?」

 

「なんで出れないと思ったの……?」

 

不思議そうに、エリザベートの方こそ首を傾げる。

ソウゴがぽん、と手と手を打って声を上げた。

 

「ここで信長が何か関係してくるのか」

 

「信長? ああ、普段は引っ込んでるけど、奥にいるんじゃない?

 っていうか、なによ。ここにいるじゃない」

 

信長(善)を見て、エリザがそう言った瞬間―――

 

カツン、と床を叩く軍靴の踵の音が響き渡った。

奥からどんどん近づいてくるその音が一際大きく部屋に響き―――

黒い軍服に赤マントのサーヴァントが、その姿を現した。

 

「そう。この事件の黒幕こそ――――わしじゃっ!!」

 

「知っとる」

 

奥から出てきた二人目の信長(悪)を見て、信長(善)がそう返す。

 

「わびさびの無い返しじゃの。それでもわしか、嘆かわしい」

 

「それで、どういう計画だったの?」

 

はっはーん、と嫌味に笑う彼女の声を遮り、立香が問う。

彼女は胸の前で腕を組み、たいそう邪悪に微笑みながら作戦をバラし始める。

バラす必要はないが、ここで悪さたっぷりにバラさねばわびさびが無いという話だ。

 

「くっくっく、わしは何か帝都聖杯戦争のあれやこれやをどうしたこうしたしてこの世界に…」

 

「そこはもう省略でいいじゃろ」

 

「くっくっく、この世界にやってきたわしはまず、周囲の状況を探った。

 そうしたらどうじゃ、なんとも言えぬ限界集落が如き街! ないわー、正直そう思ったネ!

 なんでとりあえず行政の中心っぽいこの城にきたわけじゃ。

 すると自治体をどうして動かせばいいか知らぬ小娘一人。途方にくれていた。

 わしは思った。下剋上するにも街がこの有様ではしょうがないし、とりあえず地方再生計画を考案して地域の建て直しを行った暁に、この城をミッチしようと」

 

「光秀を動詞にするな」

 

バサァ、と彼女が大きく赤いマントを翻した。

そうして立ち位置を変えた彼女は天を仰ぎ、少し悲し気になって言葉を続ける。

 

「だが、その小娘と一緒にハロウィンチェイテというよー分からん街を建て直すうちにな―――

 わしは………」

 

まるで心を入れ替えた、とでも語ろうとしているよう見えるが、そんな事はない。

そんな人間なわけがないと信長こそよく知っている。

案の定、彼女はすぐにあっけらかんとした表情に戻っていた。

 

「エリザベートをのせるためにライブを開かせ、わしもいっちょ敦盛してな。

 そこで至近距離でこやつの歌を聞いたせいで霊基が爆発してバラバラになり、チビノブやお主をこの世界にバラまいてしまったのじゃ。いやー、ビビったわ。悪い事はできんの」

 

「わしの方が分身じゃったか……」

 

「なんで、こうして――――この時を待っていたわけじゃ。もう一人のわしよ!

 今こそ我らが一つになり、パーフェクト信長となる時ぞ!

 我らがこの世界の覇権を手にする時がきたのじゃ! さあ、さあ!」

 

バッ、ともう一人の自分に手を差し出す本体信長。

分身信長は差し出された手からささっ、とすぐさま距離を取った。

その顔にははっきり嫌だと書いてあった。

 

「何故じゃ、わしよ!」

 

「今の話だとチビノブ無しじゃパーフェクトにならんじゃろ。

 その状態で合体したら、カルデアの連中にタコ殴りにされるだけじゃもん

 代わりに守衛室で死んでる沖田とでも合体しとれ」

 

「そいつもう設定変わったからの……」

 

ふぅ、と仕方なさげに俯いた信長。

まるで諦めたかの様子に、とりあえず立香はエリザの方へと歩み寄ろうとして―――

 

〈アーマータイム! ドライブ!〉

 

変身したソウゴに、背後から追い抜かれていた。

え、と声を漏らす暇もない。

彼女の腕を引くマシュが、必死に彼女を抱き寄せながら城の窓へと走っていた。

 

ジオウの手がエリザを掴み、それを追う。

全てのサーヴァントが、即座にこの場からの離脱を本能で選択していた。

 

「―――ならまあ、長い事かけたわしの仕掛けを御覧じろ、といったところか」

 

俯いた信長が、その口元を邪悪に歪める。

 

瞬間、チェイテ城の上から寺が生えてくる異常が発生していた。

マシュに抱えられながら空を舞う立香は、それを見た。

チェイテ城の頂上に聳える、燃え盛る本能寺という目を疑う光景。

本能寺を包む炎は、一気にチェイテ城全てに広がっていく。

 

「なに、これ……!」

 

「アタシの城ぉーっ!?」

 

いつの間にか城外、本能寺の方へと移っていた信長が笑う。

 

「ふははははははッ!! 見よ、これぞハロウィンチェイテ本能寺城!!

 最終決戦用に準備しておいた我が渾身、一世一代の決戦宝具である!!」

 

あの高さから飛び降りなんかしたら、そのまま死にそうなくらい弱体化している信長。

彼女を掴んで飛び降りたキャットが、着地と同時に彼女を投げ捨てた。

べちゃりと地面に転がる。

 

炎に巻かれながら、盛大に笑う信長がカルデアにチェイテ。

その面々を見下ろしながら腹の底から声を出す。

 

「かー! ここにきてからどーいつもこいつも辛気臭い顔しておって、つまらんつまらん!

 人生なんぞ五十年、あって百余年。たったそれっぽっちの間も笑い抜けんとは軟弱者どもめ!

 この信長が日の本に語り継がれる存在になったのはな、人生余すことなく楽しんだからよ!

 生き様を良しとし、死に様を良しとして、今ここでサーヴァント生活!

 ハロウィンチェイテ? ……うん、まあ良し! 楽しめ!

 それが人生だろうと、サーヴァント生だろうと、どんな時だって楽しんだもん勝ちよ!

 楽しんでいる人間こそが輝き、その輝きこそが人間にしかない恰好よさだろうに!!

 集え、チビども! そしてさあさあ立ち会えカルデアども!

 貴様らの相手はこの第六天魔王にしてハロウィンの覇者!

 戦国最強、天下無双の織田信長ぞ――――!!」

 

炎の中で凄絶に輝き、笑う織田信長。

 

そんな彼女を見上げるカルデアの面々が困惑する。

周囲に集まっているチビノブたちが、困っているのだ。

 

「のー! もう一人のわしよーい!」

 

「ふはははは! なんじゃー!」

 

「お前がチェイテ城を火の海にしたせいで、チビノブどもが上れず困っとるぞー」

 

ピタリ、と彼女の呵々大笑が止まった。

チビノブ軍団は本能寺にいる信長の元に戻ろうとしている。

が、その道中が完全に火に沈んでしまっていたのだ。

 

「考えてなかったわ」

 

「号令かけたら全部のチビノブが飛んで戻ってくるみたいな、そういうあれもないのか?」

 

「ないのう……」

 

「じゃあもうそこで本能寺するしかないの」

 

是非も無し、と地上に逃れた信長は肩を竦めた。

チビノブとももう一人の信長とも合体できなければ、あの信長もレベル1だ。

自分で出した炎から逃げることもできないだろう、弱体化状態のはず。

 

はーやれやれ、と茶の湯でもしばきに街へ行こうとした信長の肩をがしりと掴む腕。

振り向くと、それはカーミラのものであった。

 

「消しなさい。さっさと火を!」

 

「わしに言われても……」

 

「消せ!!!」

 

響くチェイテ城所有者の怒号。

炎の中に沈む自身の居城に、はわはわと慌てふためくエリザベート。

 

「子イヌー! 子イヌー!? あれ消して、早くあの吹雪とかでー!!」

 

「あ、うん」

 

〈アーマータイム! ウィザード!〉

 

魔方陣を頭上に浮かべ、ジオウがアーマーを換装した。

青い魔方陣を展開して周囲に水流を放出し始める。

それを見たエルメロイ二世もまた、溜め息をついてから腕を動かした。

水流を効果的な軌道に誘導する計略を示すと、水はその経路を辿って散水されていく。

 

そんな動きを見ていたアレキサンダーも、楽し気に笑って動き出す。

彼が魔力を解放すると、その宝具たるブケファラスが出現した。

 

「ネロ、あの城の上の寺。君の宝具をぶつけてみようか」

 

黄金劇場(ドムス・アウレア)をか?

 あれの効果範囲の中で開場する、という意味なら出来なくもなかろうが……」

 

「君というサーヴァントは、()()()には特別有効だろうからね。

 ブケファラスであそこまで送ろう、後ろに乗って」

 

まあやってみる価値はあるか、と。

ネロがアレキサンダーとともにブケファラスに騎乗する。

そのまま英霊馬は大地を踏み砕かん勢いで、城の上を目掛けて駆け出し、跳躍した。

 

そんな光景を見ながら、信長は優し気な目で呟いた。

 

「全ての民が力を合わせ、一つの事を成さんと力を尽くしている……

 これが、人の生が放つ輝きというものなのじゃな……」

 

「ところで、あの炎に包まれた城の中で放置された沖田何某はどうするのだ?

 燻製にしても丸焼きにしても食いでがなさそうではあるが」

 

背後のキャットの問いかけに、信長は静かに天を仰いだ。

 

「………人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり。

 これもまた人の世の必定よ。是非もないよネ!」

 

 

 

 

懸命な消火活動は実を結び、ハロウィンチェイテ本能寺城の火災は未明に鎮火した。

重軽傷者二名(織田信長(本体)、沖田総司)。死者は無し。

事件後に織田信長(本体)と織田信長(分身)とチビノブ軍団は合体。

 

合体したと同時、「今こそパーフェクトわしがこの世界の覇者となる時!」などと供述。

武力行使しようとした瞬間、死にかけていた沖田総司が彼女に襲い掛かり取っ組み合いに。

なんやかんやの末、彼女たちは帝都聖杯戦争、というものに帰っていった。

 

最後にエリザベートから聖杯の欠片を回収し、この特異点の攻略は終わりを告げた。

 

「凄い特異点だったね……エリザもだけど日本に歴史あり、って感じだった」

 

カルデアに帰還して、通路を歩きながら立香はそういう。

日本の英霊二人が想像を超えた存在だったような。

冷静に考えると、清姫も大概だしこういうものなのかな、と彼女は唸る。

 

「その……わたしも日本に詳しいわけではないのですが、あのお二方を基準にすると、その」

 

言い辛そうに言葉を濁すマシュに、ソウゴが笑いながら言った。

 

「そうかな? 俺、これが俺の憧れてた信長だったんだー、って感じて嬉しかったけど」

 

「え?」

 

きょとん、と。立香とマシュが足を止めて呆ける。

機嫌良さそうに歩いていくソウゴの後ろで、彼女たちはその顔を見合わせた。

 

 

 




 
さくっと終わって次からランサーを霊基再臨させて三章です。
ランサーは第一から第三にワープ進化します。別に衣装以外変わりませんが。
ノッブはマコト兄ちゃんが出番作ってくれるんじゃないですかね。
沖田さんは分からん。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。