Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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青春スイッチ、オン!
 


第三特異点:封鎖終局四海 オケアノス1573
星・座・凋・落2015


 

 

 

暗闇の中で時を刻み続ける大時計。

その針の動きを見つめている、一つの人影。

彼はゆっくりとした動きでそれから目を離して振り返る。

その手には、時の王の存在を記した書。“逢魔降臨歴”が開かれていた。

 

「この本によれば普通の高校生、常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者。

 オーマジオウとなる未来が待っていた。

 だが、2015年。人理焼却と呼ばれる時代の崩壊が、彼の進むべき運命に変化を与えた。

 ―――その人理焼却を起こした者、レフ・ライノール・フラウロス。

 ローマの特異点において、一先ず彼との決着をつけた彼らは、正しい歴史を取り戻すため、新たな特異点の攻略に乗り出すのであった」

 

本を手に語る男、ウォズがゆっくりと暗闇の中で歩みを進める。

そこに一筋の光が落ち、ウォズ以外の人影を照らしだした。

白い体。宇宙服とロケットを思わせるデザインの、新たな仮面ライダーの姿。

 

彼は自分の頭を撫でるように手を添わせ、その後に拳を前へと突き出す。

 

「彼らが新たに向かう特異点は1573年。

 未だ航海図の存在しなかった、人類未踏の海域。

 いずれ人類が星の外に飛び出し、そこに新たなフロンティアを探し始めるように―――

 その世界に生きる人間たちは、誰も知らないその大海の先に夢を見る。

 誰も知らぬが故にそこに無限の可能性を秘めた、神秘の世界……

 星の開拓者たちは船に乗り、その扉を開き未来を創る。

 スペース・オン・ユア・ハンド。この宇宙、その全ては我が魔王の手の内に―――」

 

彼が本を持たない方の手を掲げ、その拳を握り込む。

同時に、彼の手にする逢魔降臨歴は閉じられた。

 

パタン、と本の閉じる音がその空間に響いた瞬間。

その空間からウォズの姿は消失していた。

同時に存在していたはずの、白い仮面ライダーの姿もまた。

 

 

 

 

「おー、なんか服が微妙に変わった気がする!」

 

ダ・ヴィンチちゃんの工房の中。

こきこきと首を鳴らすランサーを前に、彼の姿を上から下まで眺めるソウゴ。

細かい意匠が変わったような青い装束を纏い、ランサーは己の調子を確認していた。

 

「実際に動いてみなきゃ分からんが、今んとこ問題はなさそうだな」

 

「そりゃそうだろうとも。この私が組み上げたシステムなんだからね」

 

ヴラド公から渡された霊基を用い、ランサーに施された霊基再臨。

それは間違いなく実行され、彼の破損した霊基を補強した。

その結果、どういうわけか彼の衣装が変わったのは……

 

「まあ絶頂期に回帰する、ということを示すにはいい指標だろう?

 再現度。あるいは発揮されるステータスの上限が上がった、ということさ。

 それにしたって、驚愕するほどのパワーアップは見込めないとは思うけどね」

 

「………それって、私たちも出来るわけ?」

 

ランサーをじいと見ていたオルタが、ダ・ヴィンチちゃんに問い掛ける。

彼女の返答はもちろん、と肯定を示すものであった。

へぇ、と言ってそのまま黙り込むオルタ。

 

イメチェン的な感覚で使いたがっているように見える。

 

「うむ、余も衣装替えは望むところだ。余も欲しい」

 

そしてネロは、正直にそう口にしていた。

先んじて新たな衣装を手に入れたランサーの周りを、ぐるぐると見て回る。

 

ランサーの顔が至極鬱陶しいと辟易している様子を見せた。

パタパタ手を振って小型犬のように走り回るネロを追っ払うクランの猛犬。

 

「ダ・ヴィンチよ! これはあれか、余の考案した衣装に好きに変えられるのか!?」

 

「残念ながら、霊基の上昇による外見の変化は固定さ。

 君たちがより君たち自身に近くなるというものだからね。

 あるいは他の誰かが君たちという英雄に抱く、イメージの具現化になるかもしれないが」

 

「………そうか。余が再臨すれば、つまり余が示してきた絢爛豪華さを再現するようになると」

 

さぁねぇ、とぼかすダ・ヴィンチちゃん。

自分が変わった時に赤と金がどのような比率になるか推測し始めるネロ。

 

そんな彼女と同じように、オルタが腕を組んで自分ならば、を考えている。

それを傍から見ていたジャンヌが、困ったようにオルタへ口出しした。

 

「仮に出来るとして……素材となる霊基を回収するためのルーラーやアヴェンジャーは、そうそう見つからないのでは?」

 

オルタが自分の新たな姿を想像しているところに水を差すジャンヌ。

そんな注意にぴくり、と肩を一度震わせてから、オルタは小さく、そうね、と返す。

がっかりしているような感じだ。

ルーラーもだが、アヴェンジャーの霊基など滅多にお目にかかれないだろう。

 

「まあ、特異点の戦闘で敵サーヴァントを撃破した時。

 基本的にそのタイミングで霊基の残滓を集積し、自動的にカルデア側で回収するようにしておこう。もちろん、その場にソウゴくんか立香ちゃんがいなきゃ出来ないけどね」

 

ダ・ヴィンチちゃんは、そう言って話を畳んだ。

 

ふと、ソウゴが壁に寄りかかっているエルメロイ二世に視線を送る。

エルメロイ二世はなぜか嫌そうな顔をしながら、騒ぐ彼女たちを見ていた。

話に巻き込まれたくなくて、距離をとっているようにも見える。

 

「どうしたの?」

 

「いや……絶頂期に回帰する、と言う謳い文句に少しな。

 ……………少なくとも私は、その霊基再臨とやらは絶対に御免だと思っただけだ。

 我が人生の絶頂期は、自身が未熟極まりないときにやってきた。

 そんなわけで、私は絶頂期よりも現時点の方が人間としてまともだというわけだ」

 

絶頂期と比較して今の方がいい、という不思議な物言いにソウゴが首を傾げる。

未熟なころに人生の絶頂期を通り過ぎてしまった、とはどういうことだろう。

首を傾げるソウゴから、エルメロイ二世は視線を外してしまった。

 

「ふーん………?」

 

がやがやと騒ぎ立てている皆。

そんな中、ダ・ヴィンチちゃんの工房に備え付けられた通信機器が作動した。

管制室にいるはずのロマニから声が送られてくる。

 

『レオナルド、第三特異点の特定がおおよそ完了した。

 今、シバによる特異点内部の観測を開始している。こちらにこれるかい?』

 

「はいはい、今いくよ。………というわけだ、新たな旅の幕開けだね」

 

そう言ってダ・ヴィンチちゃんが周りを見回した。

当然のように彼らは竦むようなことなどなく、新たな戦いを覚悟する戦士としての顔を見せた。

 

 

 

 

山積みになった食料を仕分けしながら、ブーディカは一息ついた。

 

チェイテ城の特異点を攻略した際。

城に蓄えられた大量の食料を、持ってけドロボー! とタマモキャットに押し付けられたのだ。

地脈に召喚サークルも設置していないのに、転送できるはずもない―――

はずだったのだが、何故かこうして転送できてしまった。

 

エルメロイ二世は、「あのサーヴァントの呪力ゆえだろうさ」などと語っていた。

彼本人もだろうがそれ以上に孔明の霊基が反応するらしい。

かなり渋い顔をして彼女に関する事を語っていたが、要するに。

あの手合いは真面目に考えても無駄だ、と言いたいらしかった。

 

「手伝おうか、ブーディカ」

 

「あれ、アレキサンダー? レイシフトにはついていかないのかい?」

 

そんな彼女に声をかけてきたのは、アレキサンダー。

てっきりソウゴとともにレイシフトするのかと思っていたが。

ランサーとネロの方を連れて行くのか。

 

彼の後ろには、不満しかないと言った表情の清姫もいる。

立香はジャンヌと孔明を連れて行くことにしたのだろう。

 

「呼ばれてすぐ休みで何だけどね、次の特異点が海だと聞いてさ。

 僕は最果ての海(オケアノス)に辿り着けずに果てた存在。海とはあまり相性が良くないんだ。

 大人の方の僕なら、それにさえも縛られないだろうけども。

 というか、大人の方の僕の方針ゆえについた制約と言うべきなのかな?

 まあ、こう見えて制約が多くて結構困ってるよ」

 

「ああ……まあ、じゃあしょうがないね。

 ……あ、何かとにかくやたら人参が大量に入ってたんだけど、馬用にいる?」

 

「うーん……せっかくだし貰おうかな?

 たまには戦場じゃなく労うためにも呼んであげないとね」

 

後でブケファラスを呼ぼう、と心に決める。

そんな心持ちになりながら彼は、食材の詰まった段ボールへと手を伸ばした。

 

 

 

 

「―――というわけで、今回の特異点は1573年。海上のいずこかと思われます。

 正確な位置は特定不能。そこにあるはずなのに、大西洋、太平洋、インド洋……

 いずれのどこかとも言えない、とても曖昧な観測になっているわ」

 

「どこでもない、というよりはその全てである、と言った方が適当だろうね。

 恐らくそこは大航海時代。人類が海へと漕ぎ出して、あらゆる“未知”を浚った時代。

 人類の版図を広げ、星に残されていた“未踏の領域”を塗り潰した時代の特異点。

 それこそがこれから君たちが赴く、第三の特異点だ」

 

オルガマリーの言葉を継いだダ・ヴィンチちゃんが言い切る。

 

管制室にいる、今回のレイシフトメンバー。

立香とマシュ、ジャンヌ、エルメロイ二世。ソウゴとランサー、ネロ。そしてオルガマリーとジャンヌ・オルタ。総員が揃っており、他は締め出されていた。

 

具体的には、清姫が完全に締め出されていた。

彼女であれば隙を見て、レイシフトに無理矢理にでも同道しかねない。

 

「海ばっかり、ってことはレイシフトしたらいきなり海の中とか……」

 

「その点は安心してくれていい。

 きっちり条件付けして、ちゃんと足場があるところにレイシフトするようにしてある。

 前回のように、ローマ首都近郊から外れたような位置にレイシフトするようなことはないさ!」

 

ロマニの説明に、ネロが表情を微妙に変えた。

 

「それはそれで、それに助けられた余には何とも言えぬ話だな。

 ………うん? 何から助けられたのだったか。確か……伯父上から、だったか?」

 

うーん、と首を傾げるネロ。教えるべきか、教えざるべきか。

皆で揃って顔を見合わせてみる。

そういえば結局この件に関する話を、ウォズに訊けていない。

 

まあ、とにかくレイシフトの位置の話だ。

ダ・ヴィンチちゃんがその手に、大きめのゴムチューブのような何かを取り出した。

 

「はい、これ。レイシフトに耐える特別ゴム製浮き輪。緊急時にぜひ使ってくれ。

 もしもの時用に、全員に配布しまーす」

 

「サーヴァントにはいらねぇだろ。そういう時は霊体化するだけだ」

 

大量に渡された浮き輪を見て、ランサーが呆れたようにそう言った。

そんなことも構わず、全員に押し付けていくダ・ヴィンチちゃん。

その内の一つを取り上げて、手でぶら下げながらソウゴが何となく呟く。

 

「俺、変身してからレイシフトする方がいいのかなー」

 

浮き輪を受けとりながら、ぽつりと呟くソウゴ。

かもねー、と。立香は諦めたように、浮き輪を自分の息で膨らまし始めた。

 

 

 

 

「あー、つっかえて入れないや」

 

コフィンの中に入ろうとするドライブアーマー。

その肩のタイヤが盛大に引っかかり、コフィンに入れなくなっていた。

膨らませた浮き輪は軟いゴムなので何とか突っ込めるが、肩のタイヤは無理だ。

 

「フォウフォ、フォー」

 

ドライブアーマーの頭の上に乗るフォウくん。

フォウは、引っかかった彼を押し込もうとするように、何度もジオウの頭を前脚で叩く。

 

完全に引っかかってしまった彼を見て、オルガマリーが盛大に溜め息を吐いた。

額に手を当てながら、彼に対する指示をさっさと飛ばす。

 

「……変身する準備だけして、普通にレイシフトしなさい。まったく……」

 

「はーい」

 

特異点攻略に慣れ、気が抜けてきている部分が出てきたに違いない。

責任者として自分こそしっかりと気を引き締めねば。

決意も新たに、オルガマリーもまたレイシフトの準備を整えていく。

 

「ははは。いつも通りでいられるならそれが一番さ。

 じゃあ、レイシフトを開始しようか」

 

管制室の総員が作業に入る。

誰もが慣れを感じ、心に余裕が生まれてきている。

いい事であるが、同時に失敗が発生する可能性も出てくるところ……

 

だが、この行為にかかるのは世界の命運。

重い使命を背負った彼らは、すぐさまピリピリと緊張を帯び始めた。

その光景を見回しつつ、ロマニがシーケンスを進めていく。

 

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。

 レイシフト開始まで あと3,2,1……全工程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

アナウンスが実行のための工程を告げ、第三特異点の攻略が今開始された―――

 

 

 

 

「その、いい青空ですね」

 

困ったようにそんなことを言い出すジャンヌ。

マシュも同じくらい困ったような表情で、周囲に広がる大海と大空に目を馳せた。

彼女としてもこれほど広大な海の光景を見るのは初めてで、喜びも大きい。

のだが―――

 

「てめぇら、一体どこから出てきやがった!」

 

「俺たちの船に乗り込んで、ただで済むと思ったら大間違いだぜ!」

 

彼女たちは海賊船の甲板で、続々と出てくる海賊の皆さんに囲まれていた。

彼らの手には、既に抜き身のカットラスが握られている。

 

「ドクター・ロマン。何か弁解がありますか?」

 

『いやぁ、その。はは、でもボクだけの失敗じゃないと思うよ?

 だってボクはちゃんと前回の失敗を活かして、ダ・ヴィンチちゃんに精査を任せたし。

 それにGOサイン出したのは所長だし。何より、責任者は所長じゃないか。

 ですよね、マリー所長』

 

「―――この条件付けで工程を完了すれば、間違いなく成功する。

 そう言っていたのは貴方でしょう、ロマニ。

 そうね。それでも責任は私にあるかもね、それはそれとしてはっ倒すわよロマニ」

 

「ごちゃごちゃ何を話してやがる! 野郎ども、やっちまえ!!」

 

ロマニの責任を追及している内に、一気に雪崩れ込んでくる海賊連中。

それを軽く槍に引掛けて、海上に投げ捨て始めるランサー。

悲鳴を上げながらぼちゃぼちゃ落ちていく海賊たち。

 

「おい、マスター。さっそくその浮き輪の出番だぞ、投げ込んどけ」

 

「うん」

 

既に膨らましてある浮き輪を海に落ちた連中に向け投げ込む。

溺れかけていた海賊たちは、すぐさま海上に浮かぶその命綱に縋りつく。

 

それを見たネロも、そちらに向けて海賊を投げ飛ばし始めた。

膨らませてないまま持ってきた浮き輪も、膨らませ始める立香たち。

そんな状況を見ながら、エルメロイ二世が船の様子を見る。

 

(セイル)があるならば、無理矢理に風で前進させることは可能だが……

 とはいえ、どちらにせよこの特異点の状況がどうであるか。情報が欲しいところだ」

 

次々と海に落ちていく海賊。そして浮き輪。

それを見ながら、エルメロイ二世は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

大体全員を投げ捨て終えて、その後全員をウィザードアーマーで回収。

ずぶ濡れになった彼らを甲板で天日干ししながら、情報収集を開始した。

 

「すいませんでした、いや、どうも」

 

海賊の頭目らしき男は自分もずぶ濡れになりながら、ぺこぺこと頭を下げる。

引き攣った笑い顔には、9割ほどの恐怖が混じっていた。

それも仕方なし、と。マシュは割り切って質問を投げる。

 

「皆さんはこの海、この場所の状況をどの程度ご存じですか?

 知っているのならば、説明をしていただきたいのです」

 

海賊たちが目を見合わせる。

そんなもんはこっちこそ訊きたいことだ、と言いたげだ。

 

「俺たちもそれはさっぱりで。気付いたら、このどこともしれねぇ海を漂流してたんですよ。

 地図を見てもどこともかみ合わねぇ、羅針盤だってまるで役に立たねぇ。

 こりゃもうどうしようもねぇ、ってことでね」

 

「つまりお前らは完全にアテも無しに漂流し続けてたってわけか?」

 

槍を消し、腕を組んでいたランサーが呆れたように問う。

いやいや、と。彼らはそれを否定するように首を横に振った。

 

「いやぁ、流石にそこまでは。何でかこの辺りは小島が点々と存在してますから。

 そこに上陸して食いもんや水を食い繋いでる時、同業者に会いまして。

 この辺りに何だ、海賊の楽園。海賊島って場所があるって言うじゃないですか。

 俺たちゃそれを目指してここまできてたんでさぁ」

 

『海賊の楽園、って。それ何があるんだい……?』

 

そんなよく分からない動機で海に繰り出していた彼らに、ロマニが困惑する。

問われた海賊はそんなもん大して候補がないだろうと言わんばかり答えた。

 

「そりゃやっぱ食いもんと酒と女じゃないですかねぇ」

 

『………言いたい事は色々あるけど、それ海賊じゃなくてもただの楽園なんじゃないかなぁ』

 

「どっかの浮島にそれがある、ってことが重要なんでさぁ」

 

『そういうものなのかな……?』

 

さっきまで大きく恐怖に染まっていた割に、話している内に慣れたのか。

どんどんと饒舌かつ軽口になっていく海賊たち。

小さく息を吐いたエルメロイ二世が、さっさと話を纏めにかかった。

 

「ここにいても仕方ないだろう。

 どちらにせよ、この船でそこへ向かうつもりだったのだろう?

 まずそこへ向かうということで問題あるまい」

 

「へぇ。そりゃ構いませんがね」

 

大分フランクになってきた返事を返し、彼らはすぐに操舵の準備を始めた。

この図太さがなければやっていけない世界なのだろうな、と。

さっき海に放り捨てられたことも忘れてそうな海賊たちを見て、立香は感心するのであった。

 

 

 

 

水平線を見渡す景色を、船上にいる金髪の男が微笑みながら眺めていた。

どこまでも広がる青い海原。悠然とそこを奔る、巨大な帆船。

 

船長である彼の傍らには巌の如き鋼の巨漢と、青い髪の魔術師の少女が控えている。

 

その船に乗る者としては異物、という自覚を持つが故。

同乗している槍を手にした男は、少し離れた場所からその三人を眺めていた。

そんな槍の男の視線が、別のものに移る。

彼が次に視界に納めたのは、金髪の男に跪く一人の男の姿であった。

 

海原に馳せていた視線を戻し、金髪の男が跪く男に顔を向けた。

そのまま軽い口調で自身に対して跪く男へと問いかける。

 

「それで? この私に君が何を提供できると?」

 

軽い声でかけた問いに、男は逆に重々しく答えてみせた。

 

「無論、貴方が腰かけるべき玉座を」

 

ほう、と。金髪の彼は玉座を捧げると口にした男に笑みを見せる。

跪いていた男は顔を上げ、笑みを浮かべながら自身を見下ろす彼を見つめ返した。

 

「王となるべき御方には、それ相応の格式を持つ椅子というものがあります。

 私が見る限り、崩壊が差し迫ったこの星は……貴方という王に相応しい椅子とは言えない」

 

「ああ……人理焼却と言ったか? まったく、酷いことを考える奴もいたもんだ。

 この私が治めるべき国さえも、この現象のせいで灰と化したというのだから」

 

彼は金の髪を指で掻き揚げながら、再び海の方へと視線を飛ばした。

この光景も特異点として形成されたもの。

本来の地球は既に地獄の再現と化している、という事実を彼は知っていた。

 

彼の言葉に、背後で男は小さく失笑を漏らした。

金髪の男の眉が吊り上がる。

すぐさま振り返り、男を睨みつけてみせる彼。

 

「なんだい……? 何を嗤っている―――」

 

「いえ、失礼。世界の王に相応しき御方が、随分と小さな事を気にするのだと」

 

まるで礼を失した、などと思っていなそうな返答。

むしろ更に煽るように言葉を続ける男に、彼はまた眉を吊り上げた。

 

人理焼却のことを小さい、と断言する男。

その男は跪いていた姿勢から立ち上がり、その腕を大きく上げてみせた。

一面に広がる青空を示して、彼は語りだす。

 

「貴方ほどの王であれば、このような星の中に囚われる必要はない。

 貴方こそ、宇宙(ソラ)に星座を描く神々さえも支配する、王の資質を持つ者。

 ならばなぜ人理焼却などという些事に構う必要がありましょうか。

 この、未来も未知も残っていない星など捨て、今こそ宇宙(ソラ)へ。

 貴方の栄光の象徴たる、アルゴー船とともに飛び立てばいい」

 

己を神々さえも支配する王、と言われた彼が鼻白む。

神々になんて関わった暁には、ろくでもない結果が用意されると知っているから。

だが、己を王の資格あるものと称する辺りは分かっている人間だ。

 

星空(ソラ)、か。だがそれは―――」

 

神々に関わられれば、ろくでもない話である。

だが同時に、空に飾られたこの星図は彼らの冒険譚の頁でもあった。

大抵がろくでもない。ほんとろくでもない様相なのだが……それでも。

 

しかし男は、彼の感傷を振り解くように再び宣言する。

 

「神々の召し上げた星座など、何の価値もない。この宇宙(ソラ)は全て貴方のものだ。

 王の飾りにすらならない、みすぼらしい星座など全て蹴り落としてしまえばいい。

 ソラに輝くべき星座はたった一つ。貴方という星だ」

 

滔々と語る男の言葉に流されて、しかし彼は少し考えるように表情を変えた。

何かがおかしい、だが確かに。とでも言うように彼は思考を回している。

 

「そう。そうだ、それに関しては一理ある。

 一番に輝くべきは私の星であるということには、間違いない。だが、私は王だ。

 そして私が王である以上、その世界を焼き払うなどという暴挙が看過されていいのか?

 世界にはその星を見上げ、私こそが至上の王であると讃え、祈りを捧げる愚民がいなければならないのだぞ?」

 

そんな彼に、感銘を受けたかのように大きく腕を横に広げ、驚いてみせる男。

 

「なんと。救う価値などない世界に、御自ら救いの手を差し伸べられるというのですか。

 ―――なるほど。それでは貴方こそが世界の王であり……そして、世界を救う英雄だ」

 

男に言われて、彼は稲妻に打たれたかのように身を震わせた。

彼の口元が緩み、楽しそうに言葉を吐き出し始める。

 

「―――そう、それだ。それだよ。世界を救う。英雄らしく。

 ああ……こんな場所に呼ばれて私も少々自分を見失っていたようだね。

 こればかりは私のミスと認めざるを得ない。

 アタランテの奴も、私が自分を見失っていたことで失望させてしまったのだろう。

 彼女には悪い事をした。栄光あるアルゴー船から自発的に降りる。そんな不名誉を背負わせた。

 さあ。彼女を再び迎え入れ、そして世界を救おう。

 そしてこのオレこそが、この世界(ソラ)に星で描かれるべき唯一の英雄であり王である、と。

 正しい歴史を世界に刻んであげようじゃないか」

 

陶然と、彼の顔が微笑みを浮かべる。

物言わずにただそこに佇む巨人と、美しい笑みを絶やさぬ姫君。

彼らはただ、自分に酔う彼の傍らにただただ控えているだけだった。

 

彼を唆した男は再び跪き、俯いた顔に小さな笑みを浮かべる。

未だブランクのままのアナザーウォッチを、その手の中に持ちながら。

 

 

 




 
俺はいて座なので星座カーストではだいたい勝ち組です。

今更思い出される衝撃の真実。二章にダレイオスを出し忘れている。
あれ、バーサーカー何か足りないな…? ままええわ、という気はしてた。
ダレイオスのこと忘れてたくせに、二章はネロ以外に使える敵が少ないとかほざいたカスがいるそうですね……人間の屑がこの野郎……
軍団宝具持ちとか幾らでも敵出せるじゃないか。なんだこれはたまげたなぁ……
ストーリー構成が甘すぎる、はっきり分かんだね。
どっかで出します、多分。三章は海戦、四章は市街地戦なので出せるとしたら五章ですかね……もしくはファラオ枠で六章か。多分六章かなぁ……
 

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